28 August 2015

特集「租税について考えてみる」が、アップロードされていた

日本司法書士会連合会の「月報司法書士」2014年8月号(No.510)である。特集の趣旨は、
単に所得税や相続税の計算方法を知るということでなく、租税法の全体を見渡しそれぞれの制度の内容を理解しつつ、その制度がいかなる根拠により作られているのか、また、そこで生じている問題を解決するために何をどう考慮するべきなのか等を考える
というものである。論文は5本あり、豪華なラインアップ。


日本司法書士会連合会

27 August 2015

欧州におけるFATCA実施につき、3つの問題点が指摘されていた

Leopoldo Parada, Intergovernmental Agreements and the Implementation of FATCA
in Europe, World Tax Journal Volume 7, Issue 2, 201-240 (June 2015)である。

その3つの問題点とは

  • UKにおけるquoted Eurobonds
  • スイスと米国のIGAにおけるgroup requests
  • IGAモデル1Aにおけるcoordination timing条項
である。前途の道のりは、なおbumpyな感じがする。

25 August 2015

平成27年度税制改正の英文解説が、財務省ウェブサイトでアップされていた

FY2015 Japan Tax Reform (March, 2015) である。表紙が「ボクの楽しい夏休み」風の絵で、ほほえましい。中身は、法人税率引き下げとか、国境越えの電子通信利用役務のVATとか、国外転出課税とか、CRSとかで、いつから施行するかも念入りに書いてある。

22 August 2015

再分配的租税政策をめぐるパラドックス

UCLAのStark教授のこの論文が、

The Role of Expressive Versus Instrumental Preferences in U.S. Attitudes Toward Taxation and Redistribution, in Philosophical Explorations of Justice and Taxation 167 (edited by Helmut P. Gaisbauer, Gottfried Schweiger, and Clemens Sedmak, IUS Gentium, 2015).

米国の再分配的租税政策をめぐるパラドックスを論じていた。そのパラドックスとは、米国人が増大する経済的不平等に懸念を有しているという投票結果がある一方で、同じ投票結果によると、不平等を緩和する再分配的租税政策に大衆的反対が示される、というものである。イメージとしてわかりやすいのが、ブッシュ減税を契機にして2003年に出たマンガであって、Homer Simpsonが自分にもたらされた2ドルの減税を祝しており、しかし、実際には彼の裕福なボスはいくつものバッグ分の大きな減税を得ていた、というものである。

Stark教授は、投票者の選好表示が、instrumentalなもの(その政策を実現しようとするもの)でなく、expressiveなもの(政策の実現の有無にかかわりなく表示するためのもの、たとえばひいきの野球チームの試合で喝采しブーイングするがごとし)であるという仮説でもって、このパラドックスに挑んでいる。このexpressive preferenceという考え方は、公共選択論で1990年代からいわれてきたことらしい。へえ!

19 August 2015

平成27年度税制改正で、AOA関係の規定がさらに進化していた

平成26年度税制改正で帰属主義への移行が法制化され、ざっくりいって、法人については平成28年4月1日からスタートし、個人についてはさらに遅く平成29年1月1日から適用されることになっている。そして、平成26年度改正で法人税法や関連する租税特別措置法について大幅な改正がされたことは、周知の事実。

しかし、それで改正がすべて完了したわけではもちろんない。法人税法についても、平成27年度税制改正で、さらに新しい規定が付け加わっている。たとえば、142条の9である。

この規定は、次のAとBのバランスを念頭においている。

A 本店→PE→第三者
外国法人の本店からPEに、国内不動産を内部譲渡したのち、PEが第三者に再譲渡
→この場合、本店とPEの間の内部取引を時価で認識するがゆえに、再譲渡からはPEに帰属すべき譲渡益が出てこない。

B 本店―→第三者
外国法人の本店が、国内不動産を第三者に直接に譲渡
→この場合、「国内にある資産の譲渡から生ずる所得(新法人税法138条1項3号)」として、譲渡益に課税される。

そこで、Aの場合について、その内部取引の直前の帳簿価額に相当する金額で内部取引を行ったものとして、当該外国法人のPE帰属所得に係る所得の金額を計算することにした。これが新法人税法142条の9である、というわけである。

なるほど、芸が細かい。安河内さんや山田さんたち立案担当者による解説が、ここの704頁で読める。解説は、本店所在地国で、譲渡損益を認識しないことを前提としているようである。もしその国が、territorialな税制の下で、課税権離脱時に含み益を清算するような課税ルールを導入した場合には、日本国との間で相互協議案件になるのだろうか。さらに論点がありそうで、興味深い。日本にある不動産なのだから、日本国に優先的課税権が認められてしかるべきではあるのだが。
(特定の内部取引に係る恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算)
第百四十二条の九  外国法人の恒久的施設と第百三十八条第一項第一号(国内源泉所得)に規定する本店等との間で同項第三号又は第五号に掲げる国内源泉所得を生ずべき資産の当該恒久的施設による取得又は譲渡に相当する内部取引(同項第一号に規定する内部取引をいう。以下この項において同じ。)があつた場合には、当該内部取引は当該資産の当該内部取引の直前の帳簿価額に相当するものとして政令で定める金額により行われたものとして、当該外国法人の各事業年度の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額を計算する。
2  前項の規定の適用がある場合の外国法人の恒久的施設における資産の取得価額その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

14 August 2015

米国財務省2016年グリーンブックの国際課税関係の提案につき、紹介と分析が出ていた

一高龍司「米国財務省『2016財政年度歳入提案に係る一般的説明』における国際課税関係の提案―19%ミニマム税を含む―」租税研究790号447頁(2015年8月)である。提案の目玉が19%ミニマム税であることを指摘している。

ここに19%ミニマム税とは、ざっくりいえば、海外に被支配会社(CFC)を置いている米国法人に対して、19%から国別外国実効税率の85%を控除した税率によって、送金の有無を問わず即時課税するものであって、現在のSubpart F税制の補完である。

一高教授は、財務省のこの提案が「米国法人に対する国際課税の基本設計の見直しを図るもの」としたうえで、次の4点を指摘する。いずれも示唆に富む。

  • Shaviro提案との類似性
  • 米国法人を親会社とする多国籍企業グループへの影響
  • ミニマム税を賦課されるCFCの居住地国の反応
  • 租税条約などとの関係
他にも、ミニマム税への移行時に、CFCに蓄積されてきた利益に対して1回限りで14%税率で課税する提案などが、財務省提案の中には含まれている。実現可能性は別として、オバマ政権の考え方を示す文書である。グリーンブックの本体はこれ

11 August 2015

日韓で租税徴収共助の予定事例が報道されていた

2015年4月15日付けの韓国経済新聞/中央日報日本語版のこの記事による。さわりの部分を引用すると・・・
企画財政部と国税庁によると、最近、韓国政府と日本政府は相手国で互いに税金徴収権を保障する協約「徴収共助約定文」を結ぶことにし、細部条項を調整中だ。この約定が締結されれば、韓国政府に税金を納めなかった滞納者の日本国内の財産を国籍に関係なく韓国政府が差し押さえて税金として徴収できる。
ひとまず政府は国内の財産がなく税金を追徴できなかった“船舶王”クォン・ヒョク・シドグループ会長の日本財産を差し押さえ、数千億ウォンの滞納額を徴収する計画だ。 
と述べている。

1999年署名の日韓租税条約27条の徴収共助条項は条約濫用の場合のみをカバーする制限的なものである。したがって、上の引用文にいう協約はおそらく、マルチの「租税に関する相互行政支援に関する条約」の包括的な徴収共助条項に基づくものであろう。