1.Kimberly Clausing, The Future of US International Corporate Tax Reform(2026年6月16日)は、Brookings InstitutionのHamilton Projectから公表した政策提言だ。米国法人税を強化し、国際的な最低課税制度との協調を回復すべきだと主張。
この提言は、仕向地主義キャッシュフロー税(DBCFT)や定式配分(formulary apportionment)の理論的な長所を認めながらも、当面は既存の法人税制度の枠内で改革を進める方が現実的だという立場。その点で、同日に公表されたGale=Looney=PatelのDBCFT案と異なる。
2.Clausing提案の骨子は以下。
- 国内法人税率 利益500万ドル超の法人に27%、利益5,000万ドル超の法人には税額の10%の付加税を加えて29.7%
- 中小法人 利益500万ドル以下の法人は現行の21%を維持
- 課税ベース 投資即時償却と支払利子控除制限を組み合わせ、超過利潤課税に接近
- 外国所得最低課税 GILTIを承継したNCTIを改革し、国別最低課税方式に移行、外国所得の税率は約23%または25%
- UTPR 米国も導入
- FDDEI(旧FDII)廃止
- BEAT・CAMT 新たな最低課税の適用法人について原則として適用を停止
- Pillar Two 国際交渉によって制度を簡素化・強化し、最低税率18~20%への引上げも検討 |
この提言は、次の試算にもとづく。27%への税率引上げの対象は黒字法人の約2%にすぎないが、その法人群が法人税の課税ベースの約96%を占める。29.7%の最高税率の対象は黒字法人の0.5%未満であるが、課税ベースの約89%に及ぶ。
3.同提案の理由
- 利益移転はいまだに大規模だ
- Pillar Twoの国別最低課税には重要な意味がある
- 2026年のside-by-side合意は後退だ
4.同提案の税収効果と分配効果
Penn Wharton Budget Modelによる2030~2039年の10年間の推計は以下のとおり(p.17、Table 3)。
- 法人税率の引上げ 2.20兆ドル
- 課税ベースの改革 0.20兆ドル
- 国別最低課税の強化 0.86兆ドル
- FDDEIの廃止 0.71兆ドル
- UTPR等 未推計
- 合計 約4.0兆ドル
分配面では、税負担の多くが資本所得を保有する高所得者に帰着すると推計(p.18、Figure 6)。
5.コメント
租税法の観点から読むと、次の3点が興味深い。
- 法人税の正当化根拠を正常利潤課税から超過利潤課税へと移行させようとしている。即時償却と支払利子控除廃止の組合せが中心となる。ただし、利益の大きい企業ほど超過利潤が多いと考えることと、超過利潤だけを正確に測定して課税することとは別問題のはず。本提案の累進税率が、どこまで超過利潤課税として正当化できるかについては検討の余地がある。
- Pillar Twoを単なる最低税率の確保ではなく、各国の課税主権を回復する制度として評価している。最低課税の国際協調により利益移転に対する課税ベースの弾力性が低下すれば、各国政府は法人税率を独自に設定しやすくなる。
- 国際課税制度の抜本的な転換よりも、漸進的な改革と国際協調を優先している。Clausing教授にとっても、DBCFTや定式配分は理論的に魅力のある選択肢だ。しかし、国際協調を欠いた大規模な制度改革よりも、現在のPillar Twoを基盤とする改善の方が、実効性と政治的実現可能性に優れている、という判断にたっている。
2029年に予定されるPillar Twoの制度検証にむけて、国際交渉の選択肢を示す提案とみることができる。