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2026/02/21

LEARNING RESOURCES, INC., ET AL. v. TRUMP, PRESIDENT OF THE UNITED STATES, ET AL.

トランプ相互関税を違法とする米国連邦最高裁判決がでた.

そこでさっそく,「この最高裁判決に関する専門誌の論評を調査せよ」とChatGPTに命じた.

すると,2026年2月20日前後に出た「専門的な論評」(法務・通商実務・判例分析・政策分析寄り)を横断して,次のテクストが生成された.以下,青字がChatGPTの生成したテクスト.

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結論から言うと、専門誌・実務家向け論評の主要論点は、(1) 判決理由の精密な読み分け(とくに major questions doctrine の位置づけ)、(2) 還付実務(refunds)の設計と権利保全、(3) 代替法源(Section 122/301/232等)による再構築可能性、(4) 実効面では「不確実性の継続」に収斂しています。(最高裁判所)

まず、最高裁判決そのものの最低限の確認です。連邦最高裁は Learning Resources, Inc. v. Trump で「IEEPAは大統領に関税賦課権限を与えていない」と判示し、V.O.S. Selections 側の判決を是認しました(6-3)。判決文シラバスでもその点が明示されています。(最高裁判所)

そのうえで、他の専門的論評をみると、ポイントがいくつかあります。

  1. 判決理由の「多数意見」と「プルーラリティ」を区別する論評(SCOTUSblog)
    SCOTUSblog の詳細分析は、Roberts意見のうち「IEEPAの文理解釈+憲法的背景による結論」(IEEPAは関税法ではない)が6名の法廷意見である一方、major questions doctrine を前面に出す部分は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、法廷意見(majority holding)ではなくプルーラリティにとどまる、と明確に整理しています。これは実務・学説上かなり重要な読み分けです。(SCOTUSblog)
    同じSCOTUSblogの速報でも、Kavanaugh反対意見が「今後の大統領の関税権限を大きく制約しない可能性(他の制定法がある)」と述べている点が強調されています。(SCOTUSblog)

  2. 実務家向け通商・税務論評は「還付(refund)実務」を中心に据える
    Thomson Reuters Tax & Accounting は、企業税務・通商コンプライアンスの観点から、この判決を「大規模還付機会(最大1750億ドル規模)」として位置づけ、判決理由そのものよりも、どの輸入申告が対象か、どう計算・請求するか、期限管理をどうするかという実務課題を前面に出しています。特に、対象エントリーの特定、金額算定、抗議(protests)や post-summary corrections の検討、時効・期限管理の重要性を整理している点が実務色の強い特徴です。(tax.thomsonreuters.com)

Holland & Knight も同様に、最高裁は還付の要否・手続を具体的に指示していないため、権利保全のために記録整理と行政手続(PSC、protest、liquidation延長等)を早期に進めるべきだと整理しています。加えて、判決理由の内部構造(major questions を使ったのは3名、Kaganらは通常の文理解釈中心)まで比較的丁寧に要約しており、判例解説+実務対応のハイブリッド型です。(ホランド・アンド・ナイト)

Norton Rose Fulbright は、還付論点をさらに細かく扱い、(a) CIT(国際貿易裁判所)の全国的差止めの射程、(b) 不法徴収(illegal exaction)的整理、(c) reliquidation の可能性、(d) Customs の今後のガイダンス、(e) 「輸入者記録上の importer of record」にしか政府還付が直接行かないため、私法上の契約紛争(だれが最終的に返金を受けるか)が増える可能性、まで踏み込んでいます。これは The Economist の「refundsはmessになり得る」という指摘を、実務的に具体化した論評と言えます。(nortonrosefulbright.com)

  1. 代替法源(Section 122/301/232等)に関する評価は、概ね「再構築可能だが、機動性は落ちる」で一致
    Holland & Knight は、Section 122(上限15%、150日)、Section 301、Section 232、Section 201、Section 338 などの代替法源を列挙し、それぞれの法的要件や調査手続の必要性を示したうえで、政権がIEEPAの代替として組み合わせるシナリオを解説しています。特に Section 122 の時間制限と、150日の間に301調査を走らせる構図は、The Economist の分析と整合的です。(ホランド・アンド・ナイト)
    Thomson Reuters も同様に、今後は Section 232/301/122、AD/CVD、立法対応などへ政策手段がシフトすると整理しています。(tax.thomsonreuters.com)

  2. 政策分析・国際関係系の専門論評は「不確実性の持続」と対外交渉への影響を強調
    Chatham House の専門家コメントは、法理そのものよりも、北米(USMCA)や各国との交渉実務に与える影響を重視しています。Heather Hurlburt は、判決が IEEPA 系の包括関税を大きく削ったとしても、232/301ベースの関税は残り、還付も命じていないため、実効面での変化は限定されうると指摘しています。(チャタムハウス)
    また Julián Ventura は、Section 122 による新たな10%関税の示唆と、対象・適用・実施の細目が未確定であることから、「uncertainty will continue to be the name of the game」と評価し、貿易相手国側の対応困難性を強調しています。(チャタムハウス)

  3. データ分析系(Global Trade Alert)は「法理」ではなく「関税水準の量的インパクト」を提示
    Global Trade Alert の分析は、IEEPA関税が剥落すると米国の輸入加重平均関税率が 15.4% から 8.3% に低下し、7.1ポイント下がると定量化しています。また、何が落ちて何が残るか(IEEPAのベース関税・上乗せ・緊急EOは無効、232/301/MFNは残る)を明示しており、政策効果の即時測定として有用です。(globaltradealert.org)
    これは The Economist の「実効関税率が約半分に」という記述と整合的ですが、GTAの方が「どの法源ベースの関税が残存するか」をより構造的に示しています。(globaltradealert.org)

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(増井のコメントに戻る)

なるほど.上記で引用されたリンクは実在し,確認できた.

そこで次に,ChatGPTのプロンプトをそのままフォローして,上のまとめを租税法・通商法の視点から,①判決法理,②救済実務,③比較法の順に整理させた.①②③の3項目は,ChatGPTのおすすめをそのまま(=無反省に)フォローしただけのもの.

すると,次のテクストが生成された.

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本件の出発点は明確です。最高裁は Learning Resources v. Trump で、「IEEPA(International Emergency Economic Powers Act)は大統領に関税賦課権限を与えない」と判示しました。シラバス上も、争点はまさに「IEEPAが関税を許容するか」であり、結論は否定です。

  1. Delegation / Major Questions / Nondelegation の論点整理

この判決で最も重要なのは、「何が法廷意見(majority holding)で、何がそうでないか」を切り分けることです。SCOTUSblog の整理が有用で、6名が参加した法廷意見部分(Parts I, II-A-1, II-B)は、IEEPAの文言・構造・憲法的背景を用いて、IEEPAは関税を授権していないと解しています。他方、major questions doctrine を用いた部分(Parts II-A-2, III)は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、プルーラリティにとどまります。つまり、「major questions で勝った事件」ではあるが、同時に「文理解釈で6名が一致した事件」でもある、という二層構造です。

法廷意見(6名)レベルのコアは、かなり古典的かつ租税法的です。最高裁シラバスは、(a) 憲法上、関税は Article I の taxing power(Congress)に属すること、(b) IEEPAの列挙権限には tariffs/duties の明示がないこと、(c) “regulate . . . importation” を「課税権限」まで含むと読むのは不自然であること、(d) 政府も「regulate」が「tax」を意味した他の制定法例を示せなかったこと、を並べています。さらに “regulate exportation” まで課税を含む読みになりかねず、輸出税禁止との緊張も指摘しています。これは、授権立法の解釈として「税・関税は明示的授権を要する」という強いシグナルです。

そのうえで、Roberts/Gorsuch/Barrett の3名は major questions doctrine を前面に出し、「非常に大きな経済・政治的重要性を持つ権限主張には clear congressional authorization が必要」「緊急事態法制だからといって例外はない」「外交・通商文脈だからといって例外はない」と述べます。ここは今後の行政法・通商法訴訟への波及可能性が大きい。ただし、Kaganら3名は結論には賛成しつつ、「通常の法解釈で足りる。major questions の“thumb on the scale”は不要」と距離を置いています。したがって、本判決の将来射程を読む際は、「IEEPAの解釈に関する先例価値」と「major questions 拡張の先例価値」を分けて扱う必要があります。

Kavanaugh反対意見(Thomas, Alito joined)は、別の意味で重要です。Reutersが要約する通り、反対意見は「今回の判決は大統領の関税権限全般を大きく制約するとは限らない。単に IEEPA という“間違った statutory box”を使っただけだ」と見る。これは、判決の制度的意味を「大統領通商政策の全面否定」ではなく「IEEPAの否定」に限定する読みです。実務上は、この反対意見の評価がそのまま次の争点(122/232/301等)に接続します。

  1. 関税還付の法的性質と実務(illegal exaction / reliquidation / protest)

The Economist の「refundはmessになりうる」という指摘は正確ですが、専門実務論評を読むと、その“mess”の中身はかなり具体的です。SCOTUSblog は、最高裁の判断が解決したのは「授権の有無」であり、refund mechanism(還付の仕組み)や restitution(返還命令)、行政上の回収手続には触れていない点を強調しています。しかも返金の明示的議論は主として Kavanaugh の反対意見側に現れる。つまり、救済は「次段階の訴訟・行政実務」に委ねられている、という構造です。

Norton Rose Fulbright の論評は、この救済論点を最も実務的に分解しています。そこでは、CIT(Court of International Trade)の全国的差止めと、違法関税の徴収金を政府が保持できないという違法徴収(illegal exaction)的な整理を前提に、還付は原則として視野に入るが、具体的な経路は CIT と Customs(CBP)の運用次第だとされます。さらに、reliquidation(再清算)命令の可能性、CBPガイダンス(Federal Register やCSMS)による実務設計、そして未清算 entry と既清算 entry の手続分岐(PSC / protest)が指摘されています。これは、救済法の問題が、行政手続・税関実務・時間管理の問題へ直ちに変換されることを示しています。

この点は、租税法研究者の目で見ると興味深いです。違法課税の返還という一見単純な命題が、通商実務では「誰に返すのか(法的納税者/importer of record)」「どう請求するのか(PSC / protest / CIT complaint)」「いつまでに請求するのか(liquidation 状態・時効・不服申立期間)」「誰が最終的に経済的利益を受けるのか(価格転嫁・契約条項)」という複数の層に分かれます。Norton Rose Fulbright は、政府還付の名宛人は importer of record に限られ、輸入者に償還した第三者には政府から直接還付されないため、契約解釈・私法紛争が増えると警告しています。

Holland & Knight も同様に、判決は refund の要否・運用を決着しておらず、企業側は権利保全(preservation steps)を先行させるべきだと位置づけます。実務家論評の共通トーンは、「勝訴=即自動還付」ではなく、「勝訴+別途の救済・事務プロセス」が必要、という点にあります。

  1. 日本法・WTO法との比較可能な視点

比較法的に見ると、本判決の第一の含意は、「通商政策でも、課税(関税)である以上、授権の明確性が要求される」という統治構造の再確認です。最高裁は関税を Article I の taxing power に明確に接続し、IEEPAの一般的な “regulate importation” から関税権限を引き出す解釈を拒否しました。これは、行政裁量の広い通商・安全保障領域であっても、課税授権には明示性が必要だというメッセージです。日本法の観点からいえば、租税法律主義・課税要件法定主義の議論と比較可能な構造を持ちます(もちろん米国では憲法構造・delegation doctrine の文脈で語られる点が異なる)。

第二に、WTO法との関係では、本判決は直ちに「関税政策の国際法適合化」を意味しません。Reuters も示すように、政権側は他の法源(Section 232/301 等)への切替を明確に示唆しており、実際に判決直後に別法源による10%関税を公表しています。Holland & Knight や Norton Rose Fulbright の整理でも、Section 122(短期・上限付き)、232、301、201、338 など複数の代替経路が列挙され、IEEPA喪失後も高関税政策の再構築は可能と見られています。したがって、本判決の主効果は「関税水準の恒久的低下」よりも、「法源の付け替え・手続の増加・時間差の発生」にあるとみるのが妥当です。

第三に、比較租税法的に面白いのは、「違法な徴収の返還」が財政・政治・私法・行政手続を横断して問題化している点です。Norton Rose Fulbright は、還付額規模ゆえに議会が timing や制約を立法的に設ける可能性にも触れています。これは、租税法でいう不当利得返還・過誤納還付の問題に似て見えつつ、通商法では制度設計がより多元的(CIT、CBP、契約実務、連邦議会)であることを示します。研究上は、「違法課税の救済」を租税手続法だけでなく通商救済法・行政救済法の交点として捉える素材になります。

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(増井のコメントに戻る)

ふーん.3つの整理のうち,①法廷意見の2層構造の指摘や,②反対意見の評価がそのまま今後の還付実務につながってくる,というあたりが参考になる.③比較法のところは,要検討.ChatGPTが「比較租税法的に面白い」というテクストを生成するとき,どんな学習経路でそうなるんだろうか.

以上,後半の3つの整理についてはともかく,前半の論評調査からは,今回の敗訴を受け,政権は別の狭いやり方で相互関税を維持しようと試みるだろう,という見通しが得られる.日本企業の目からすると,投資約束への影響が目下の関心事.

2026/02/11

固定資産税判例,まずはここから

固定資産税は市町村の基幹税であり,最高裁判例が積み重なっている.以下,基本的なものを選りすぐってリストアップしておこう.

  • 固定資産評価を争う上で特に重要なのは,8(登録価格が客観的交換価値を上回ると違法)と,11(登録価格が評価基準に従って算定される価格を上回ると違法)が,判断枠組みを示したことだ.
  • この領域で多くの訴訟が提起されている理由として,10が国賠訴訟に途を開いたことも大きい.

1.最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁.固定資産税名義人課税事件.固定資産税は原則として登記簿上の所有者(名義人)に課される.いわゆる台帳課税主義.

2.最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁.名義人が負担した固定資産税と真の所有者への求償.台帳課税により真の所有者でない者が固定資産税を負担した場合,真の所有者に対して原則として不当利得返還請求が認められる.

3.最判昭和49年9月2日民集28巻6号1033頁.財団法人電力研究所事件.「学術の研究を目的とする」法人の意義.

4.最判昭和59年12月7日民集38巻12号1287頁.新築の家屋は,一連の新築工事が完了した時に,固定資産税の課税客体となる.

5.最判平成2年1月18日民集44巻1号253頁.固定資産評価審査委員会の口頭審理手続.

6.最判平成6年12月20日民集48巻8号1676頁.地方税法348条2項但書「有料で借り受けた」の意義.

7.最判平成13年3月28日民集55巻2号611頁.小作地に対する宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額請求をすることはできない.

8.最判平成15年6月26日民集57巻6号723頁.固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる.

9.最判平成17年7月11日民集59巻6号1197頁.固定資産評価審査委員会の決定取消訴訟で,裁判所が「適正な時価」を認定した場合の取消範囲.

10.最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(名古屋市冷凍倉庫事件).公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して固定資産の価格を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,審査の申出及び取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得る.

11.最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁(府中市事件).固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録された価格の決定は違法となる.

12.最判平成26年9月25日民集68巻7号722頁.賦課期日に登記簿に登録されていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う.

13.最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁.固定資産税の税額が過大に賦課されたことによる国賠請求の除斥期間の起算点である「不法行為の時」は,賦課決定がされ納税通知書の交付がされた時点である.

14.最判令和7年2月17日裁判所時報1858号1頁,7頁,12頁.三菱UFJ信託銀行事件.複数の構造により建築されている非木造家屋について家屋課税台帳に登録すべき価格を決定するに当たり,固定資産評価基準別表第13の定める経年減点補正率のうち構造別区分を鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造とするものを適用したことが同基準に反しないとされた事例.

15.最判令和8年1月26日.南御堂事件.山門一体型ホテルの参道部分土地も固定資産税の課税対象.

なお,固定資産税判例に関する研究は数多い.固定資産評価に関する本格的な体系書として,碓井光明『固定資産税評価精義』(信山社2023).また,髙橋祐介「市町村,また負けたってよ」税研211号16頁(2020),髙橋祐介「近時の裁判例からみた固定資産税の諸問題」租税研究895号92頁(2024)は,下級審判決の流れを網羅的にカバーする.

2026/01/29

(続き、これでおしまい)文献バイアスのチェック

 【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

【今回】

この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。

4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ

すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。


以下引用++++++++++++++++++++++++++++

以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)と方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。


1. いま法学が面白い理由(総論)

対象が「国家×市場×技術×地球」に拡張した

  • AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)

  • 気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)

方法が「ドグマ」一辺倒から“混成(ハイブリッド)”へ

  • 実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)

  • 生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)


2. フロンティア①:AI・データ・アルゴリズム統治(Digital/AI Governance)

何が面白いか(争点)

  • 規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)

  • “法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)

  • 法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)

言語別「入口」文献(例)

  • 日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)

  • 英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)

  • 仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)

  • 独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)

  • 西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)

  • 中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)


3. フロンティア②:プラットフォーム規制・ダークパターン・情報環境

何が面白いか(争点)

  • 表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。

  • 研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)

  • 日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)


4. フロンティア③:気候訴訟・将来世代・サステナビリティ(公法×私法の合流)

何が面白いか(争点)

  • 訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)

  • グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)

  • 会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)


5. フロンティア④:法秩序の分断と接続(地政学・経済安全保障・越境規制)

何が面白いか(争点)

  • データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。

  • “一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)


6. フロンティア⑤:研究手法としての「データ化された法学」

何が面白いか(争点)

  • 判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。

  • ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)


7. 6言語で読むための、最小限の“棚”の作り方(実務的提案)

  • 共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。

  • 各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする:

    • 日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)

    • 仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)

    • 独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)

    • 西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)

    • 中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)

    • 英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)



【とりあえず、これでおしまい】

ChatGPT、租税法の研究動向を語る

 窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)と学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

(1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

  • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

  • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
    → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

(2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

  • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

(3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

  • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
    → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

  • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

  • 研究の焦点は、

    1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

    2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

    3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
      へ広がっています。
      → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

  • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

  • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

(1) 実証(Empirics)の標準化

  • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

  • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

(2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

  • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

(3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

  • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

    • アルゴリズムの透明性・説明可能性

    • 差別・偏り(バイアス)と救済

    • 自動化された不利益処分の適正手続
      へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

  • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

  • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


研究動向を一言でまとめると

  1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

  2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

  3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


(続く)

2025/12/09

東京地判令和7年1月16日(令和5年(行ウ)488)相続税更正処分等取消請求事件

いつも租税判例研究会の様子は、浅妻教授の「ブログだったもの」に詳しく掲載される。しかし今回はまだのようだ。私の聞き取り精度が低いため浅妻教授の代わりにはならないが、独断と偏見に基づきここにノートしておく。そのような性質のものなので、評釈者や発言者のお名前はあえて記さない。

【事案】親と子の間で借地権設定→親から子に現金贈与→相続時精算課税の選択→相続開始

【争点】本件借地権相当額を相続税の課税価格に加算すべきか?

【原告らの主張】原告ら(相続人)は、贈与税の除斥期間が過ぎているから加算すべきでないと主張した。

相続税法21条の15第1項にいう相続税の課税価格に加算すべき相続時精算課税適用財産というためには、特定贈与者からの贈与に係る贈与税について課税当局による課税権限の行使が可能であることが必要となる。そうすると、特定贈与者からの贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間が経過したことにより、課税当局による課税権限の行使が不可能となった場合には、相続時精算課税適用財産として相続税の課税価格に加算することは許されない。

【判旨】 請求棄却

ア 原告らは、平成22年3月9日に提出した相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年以後の年である同年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けたことにより、当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる(相続税法9条)。

 そのため、本件借地権相当額は、特定贈与者である亡Fからの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、原告らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する。これに対し、その該当性を否定する規定は相続税法その他関連法令において見当たらない。

 したがって、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算されるべきものである。

【原告の主張に応答する判示部分(下線は増井による)】 

イ(ア)原告らは、上記第2の5(原告らの主張)(1)及び(2)のとおり、本件借地権相当額の贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、同贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であり、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算することができない旨主張する。

 しかし、相続税法21条の15は、相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の範囲について、相続税精算課税制度の適用を受ける財産のうち「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」と規定するにとどまり、これを超えて、納税者の申告や税務署長の更正決定等により贈与税の課税価格に算入されたものとは規定していない。そのほか、同法の規定や本件全証拠によっても、原告らの主張を裏付ける規定や見解は見当たらない。

 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

【フロアからの指摘】

  • もし相続時精算課税を選択していなかったら、贈与税については除斥期間により課税できない。このこととの対比では、結論のスワリがわるい。しかし21条の15の文言は「算入されるもの」となっており、「算入された」となっていないから、文言上、加算するほうが自然。
  • この判決が定着すると、相続時精算課税を選択せずに贈与税を脱税し、7年過ぎることをじっと待つと除斥期間を利用できることになる。これは相続時精算課税を使いやすくするという方向とは逆。
  • みなし贈与を加算するのは、文言上はそうならざるを得ないとはいえ、そもそも相続時精算課税制度の本来の趣旨に合致しているか?
  • 相続時精算課税の選択をしても、贈与税の除斥期間が進行するのか?
  • これはそもそも贈与税の除斥期間の問題ではない、と判断したからこそ、つれない判決文になっている。相続税の除斥期間だけの問題だ。
  • 相続時精算課税はいったん選択したら一生付きまとう制度だ。「一体化措置」という趣旨を厳格にセットとして理解する。
  • 判決文を読んだ段階では当たり前の判断だと考えたので、いろいろ論点を出してもらってありがたい。別の方向の議論として、贈与税につき課税処分を受けていなくても加算してよいのか。あるいは、仮に贈与税について処分を受けていたらそれと異なる加算は可能か。
  • 相続時精算課税においては、贈与税は仮の課税でしかない。それが誤っていたとして、本来の課税を直さなければならないわけではない。
  • 19条1項(7年加算)にも波及する判断であろう。自分たちの知らないところで贈与が起こっていたら、税理士の先生方が困る。
【増井のコメント】
  • 裁判所は贈与税除斥期間の問題ではないと考えて、21条の15の「算入されるもの」という文言からあっさりと理由を説示するにとどまったのだろう、というフロアの議論が腑に落ちた。
  • ChatGPTが、「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)」という文書を探してきたので、その 10頁の問2-4をみてみた。しかしそれは、「相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について贈与税の除斥期間経過後に評価誤り等が判明した場合の相続税の課税価格に加算される金額」というもので、評価誤りのケースであって本件のようにそもそも加算しなかったケースではなかった。

2025/02/08

国際課税で博士論文を書く人のためのDocMIT

アムステルダムのIBFDで、国際課税で博士論文を書く人のための会合に顔を出してみた。いわゆるDocMIT、正式名称はDoctoral Meeting of Researchers in International Taxationだ。2日間で15本の博士論文(の卵)について、それぞれ20分で研究計画をプレゼンし、30分で教授陣からコメントを受けていた。

どうしてこういう会合をはじめたか。以下のような考慮があったという。博士論文を書く人は普通、一つの大学で一人の指導教員と向き合って執筆準備をしていく。でも、同じような問題意識を持って論文を書こうとしている人が他の大学にいることもあるし、教員側からみても複数の眼からみることによってより多角的かつより深い指導ができる。だったら、ちょっと規模を広げて研究会の形にし、みなであれこれ論評しあうのが有益ではないか。こういう考え方から始まったという。もう何年も続けているとのこと。

今回の参加者はEU域内の大学だけでなく、英国(ケンブリッジ)や豪州(メルボルン)からの人もいた。EU域内の大学で論文を書いている人で、アンゴラやバングラデシュからの参加者もいた。日本の大学の博士課程からの参加者はいなかった。

トピックはさまざまで、G20各国と低所得国との間の租税条約の機能とか、EU財源のための目的税の提言とか、EU法と国際法が衝突する場合に加盟国のとるべき手段とか、CSRと租税回避に関する実証研究のレビューとか、租税誘因措置がASEAN統合の中でどうなっていくかとか。必ずしも国際課税ではなく、税制とジェンダーに関する報告もあった。研究手法もさまざまで、法律や判例を整理していく伝統的な法学のやり方だけでなく、社会学的なものとか経済学的なものとか、いろいろあった。若い研究者たちがどういうトピックに関心をもっているのかを垣間見ることができた。

議論の中身は日本の大学での研究指導と変わらないところが多かったと思う。必ず質問が出たのが、research questionが適切に定式化されているかどうか。ぼく自身もつねづね、「適切な問いを立てることができればもう8割方できたようなもんですね」と公言しているので、これにはまったく違和感がなかった。

欧州の大学でもやはりそうなっているのか、と感じたのが、ひとまずたてた作業仮説を論証するために用いる方法が適切かについて、かなり自覚的な議論がされていたこと。つまり、research methodに関する反省だ。一例をあげれば、インドネシアの方のある博士論文の立てた問いが、伝統的な法学の手法によって処理できるものなのか、率直な疑問が呈された。あなたの論文で本当にやりたいことは国際関係論の専門家の指導を仰がないと、きちんとした形にならないのではないか、といった指摘だ。こういう指摘は外部からならではのものかもしれない。

セッションのあと、その論文を書いている方とすこし話をする時間があった。ASEANを対象にする場合には、EU法のような法的枠組みにのっけた議論が難しい。だから方法論上の限界はわかっているのだけれど、ちょっと苦労しているのです、と教えてくれた。その方のもともとのresearch questionは、Pillar 2の下でインドネシアの租税誘因措置をどう変えていくべきか、というものだったという。所属先の指導教員の助言により、それだけではひねりがないということで、ASEAN統合との関係に視野を広げてきたとのこと。その状態の論文構想をここに持ってきたら、「それってあなたの手持ちの方法で料理できるのですか」と問われたというわけ。ここからどうするかがまさに大事な課題だ。外部指導教員のsecond opinionのような形をどこまでとることができるかは、もちろん所属大学でのアレンジメントの問題。research questionをうまく工夫して修正してくことで、見えてくるものがあるかもしれない。どういう風に進めるにせよ、この方にとってなかなか得難い機会になったものと思う。

今回のDocMITには豪華なおまけがあった。

  • 指導教員側の一人として米国から来ていたStephen Shay教授の講演。トランプ政権によるUTPRへの攻撃を予想して、租税条約の無差別条項(具体的には資本無差別24条5項)にUTPRが違反するか、という論点が、再びスポットライトを浴びることが述べられた。増田貴都弁護士のTNI論文が、大きく取り上げられていた。
  • Blueprint for Individual Taxation Reform in a Globalized Worldの成果が本になった。この本には、長戸貴之教授が寄稿しており、ぼくもはやく読みたい。

なお、上記のDocMITと並行して、ポストドクターの人たちの会合があり、AIを用いる場合の課税庁の説明責任について激論が戦わされるなど、いろいろ面白いことがあった。また、本来、ぼくがこのこれらの会合に顔を出したのは、お世話になった方の退職記念セミナーに出るためだったが、これについてはもう書く時間がない。これからスキポール空港に向かう。

2024/06/28

フィナンシャル・レビュー<特集>21世紀における課税と納税―税務執行を巡る国際的議論を踏まえて―

フィナンシャル・レビュー156号<特集>21世紀における課税と納税―税務執行を巡る国際的議論を踏まえて―が公表されていた。目次をコピペしておこう。

<特集>21世紀における課税と納税―税務執行を巡る国際的議論を踏まえて―

 

 序文:21世紀における課税と納税
―税務執行を巡る国際的議論を踏まえて―(PDF:596KB)
 

  1. ローマ数字1.本特集に至る経緯
  1. ローマ数字2.本特集の概要
  1. ローマ数字3.今後の展望

増井 良啓

(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 租税手続法の規範的意義
―合法性原則の再構成―

本文(PDF:859KB) 

  1. ローマ数字1.はじめに――本稿の目的
  2. ローマ数字2.租税手続法の規範的意義
  3. ローマ数字3.合法性原則の原意
  4. ローマ数字4.合法性原則の手続法上の意義
  5. ローマ数字5.おわりに――納税義務に関する和解・協定の許容性

巽 智彦

(東京大学大学院法学政治学研究科准教授)

 私的主体が発行する「貨幣」の規制に関する覚書
―ステーブルコインに関する規制を中心に

本文(PDF:978KB) 

    1. ローマ数字1.はじめに
    2. ローマ数字2.BOE報告書の概要
    3. ローマ数字3.BOE報告書の規制モデルの検討
    4. ローマ数字4.おわりに

行岡 睦彦

(神戸大学大学院法学研究科教授)

 EUのDAC 8
―暗号資産取引を対象とする税務当局間の自動的情報交換―

本文(PDF:988KB) 

    1. ローマ数字1.はじめに
    2. ローマ数字2.DACの改正経緯
    3. ローマ数字3.DAC 8
    4. ローマ数字4.EUのMiCA
    5. ローマ数字5.OECDのCARF
    6. ローマ数字6.DAC 8によるその他の改正(暗号資産関係以外)
    7. ローマ数字7.DAC 8提案の評価等

大野 雅人

(明治大学グローバル・ビジネス研究科教授)

 EUにおける付加価値税の課税権配分についての覚書
―第六次指令時代の欧州司法裁判所の諸判例からみる研究課題―

本文(PDF:937KB) 

    1. ローマ数字1.プロローグ
    2. ローマ数字2.VATの拡大の系譜
    3. ローマ数字3.理念型としての仕向地課税
    4. ローマ数字4.EU-VATのplace of supplyルールの構造とその具体化
    5. ローマ数字5.結語

藤原 健太郎

(東北大学大学院法学研究科准教授)

 BEPS 2.0の紛争解決
―グローバルな課税の枠組みにおける実効的な紛争予防 / 解決の必要性―

本文(PDF:949KB) 

    1. ローマ数字1.はじめに
    2. ローマ数字2.2つの柱による解決策における税の安定性への取組み
    3. ローマ数字3.既存の国際的な紛争予防 / 紛争解決の枠組み
    4. ローマ数字4.結語

中村 真由子

(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士)

 マネー・ロンダリング対策と税務の交錯
―迷走する議論の整理と将来的課題―

本文(PDF:1809KB) 

    1. ローマ数字1.はじめに
    2. ローマ数字2.マネロン罪の概説
    3. ローマ数字3.リスクの分析・評価(準備段階)
    4. ローマ数字4.情報の共有(実働段階)
    5. ローマ数字5.犯罪収益の剥奪(事後段階)
    6. ローマ数字6.むすび(結語・おわりに)

野田 恒平

(内閣法制局参事官)

 納税協力と納税非協力
―税務長官会議の報告書を中心として

本文(PDF:1175KB) 

    1. ローマ数字1.はじめに
    2. ローマ数字2.報告書の通覧
    3. ローマ数字3.納税協力を確保するための戦略

増井 良啓

(東京大学大学院法学政治学研究科教授)