2026/10/01

マンション評価事件、通達を離れた場合の時価認定

1.最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁は、マンション評価事件とか総則6項事件とかと呼ばれる。相続財産評価に関する有名判決だ。この判決を夏の集中講義でとりあげたところ、教室で、次の質問があった。

相続税法22条所定の客観的な交換価値としての時価を認定できない以上、同法に反するか否か判断できないはずだ。最高裁の判旨においても、同法の時価を上回るかという点については判断していないように思う。これで仕方ないのか。

2.この事件では、下級審が、課税庁の不動産鑑定額を「客観的な交換価値としての時価」と認定していた。最高裁は、この下級審の事実認定を前提として、判断を下した。すなわち、(ケースブック租税法第6版588頁の判旨4(1)には引用されていないのであるが)次のように述べている(テクストをご自分で確認したい方はここの3頁)。

そうであるところ、本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。

ここで、最高裁が「というのであるから」という箇所が、下級審の事実認定によったことを示している。

最高裁は、原審の認定事実に拘束される(民事訴訟法321条1項)。したがって、最高裁判決の論理に欠落があるわけではない。この点については、山本拓調査官の解説でも確認されている(最高裁判所判例解説民事篇令和4年度186頁、194頁)。

3.もっとも、1の質問が「仕方ないのか」というとき、事実審としての一審判決の時価認定が十分であったかどうかを問題にしているのだとすると、議論の余地が全くないというわけではなかろう。一方で、本件乙不動産については、鑑定額5.19億円に対し相続約9か月後の売却額が5.15億円であり、強い外部的裏付けがある。しかし他方で、本件甲不動産については、鑑定額7.54億円を裏付ける実取引は約3年半前の8.37億円であり、鑑定の収益・費用・還元利回り等の具体的妥当性の検証は判決理由上必ずしも十分に示されていないようにも読めるからだ(第1審のこれの12頁から14頁にかけて)。

このような判断構造になる理由として、訴訟においては、課税庁が必ず唯一の「時価」を証明しなければならないわけではないことが挙げられよう。最高裁のロジックから必要とされるのは、時価が少なくとも7億5400万円以上であると証明することだ。

つまり、本件甲不動産については、

裁判所は7億5400万円という唯一の客観的時価を認定したか

が問題なのではない。そうではなく、

3年半前の8億3700万円という取引価格、本件鑑定の評価手法その他の事情によって、相続開始時の客観的交換価値が少なくとも7億5400万円を下回らなかったと認定できたか

が問題だ。これは結局、証拠評価と証明の問題に帰する。

4.以上を一般化すると、課税庁が通達の評価方式を離れ、通達評価額より高い価額で課税する場合には、次の①②の問題が区別される。

  • ①相続税法22条の問題として、課税庁評価額が客観的交換価値を上回らないこと
  • ②平等原則の問題として、通達評価を離れる「合理的理由」があること

その後の東京高判令和6年8月28日(仙台薬局事件・確定)は、①について課税庁の採用した評価額が時価であるかを判断することなく、②につき通達から離れる合理的理由がないとして納税者を勝たせた。東京高判令和7年6月19日訟務月報72巻2号79頁では、①について、本件各更正処分価額(1株3443円)が、客観的な交換価値としての時価を上回らないと認定した。さらに同判決は、処分の適法性を判断する箇所では、本件株式の時価を純資産価額方式による1株3443円とすることが相当であるとも述べている。

5.要するに、マンション評価事件最判の後に私たちに残された中心問題は、②どのような場合に総則6項によって通達評価から離れられるか、だけではない。通達離脱後の課税価額について、①相続税法22条の上限を誰が、どのような証拠によって証明するのか、という問題がある。

教室で寄せられた質問は、このような問題状況を照らし出すもので、いい質問だと思う。評釈や論文等が数多く公表されている。どんどん調べて読んでみてほしい。