1.Nikkei Asiaの記事で、「シンガポール、富裕層マネー獲得に逆風 中国が資産移転を規制」が出ていた。2026年10月18日付け、署名はシンガポール=ディラン・ロー。中国が富裕層の資産を海外に移す行為への監督を強化し、2026年7月にオフショア信託に対する個人所得税の新たな課税ルールを導入したことの影響を論じている。
2.記事の概要は次のようなものだ。
- 中国政府が海外への資産移転規制を強め、富裕層の資金を集めてきたシンガポールのファミリーオフィス(家族資産管理組織)に逆風が吹いている。
- 中国は2026年5月に違法な越境証券取引の取り締まりを強化し、7月にはオフショア信託に関する税制を見直した。
- シンガポールでも2023年の大規模資金洗浄事件を契機に、銀行による富裕層の顧客審査が厳格化した。中国人富裕層の間では信託設立を見合わせる動きがみられるが、影響は限定的とする関係者もいる。
- 香港はファミリーオフィス誘致を積極化している。香港の組織数は2025年末に3384となり、2年間で681増加した。租税優遇の拡充や専門人材の誘致を進め、シンガポールとの競争を強めている。
- 両都市には制度環境や資産管理上の特色に違いがあり、中国富裕層の資産移転先をめぐる動向はなお不透明だ。
3.ここで顔を出すのが、中国の「21号公告」だ。すなわち、中国財政部・国家税務総局の「オフショア信託に係る個人所得税に関する公告」(2026年第21号、7月24日公布)は、海外信託を利用した資産管理・承継に対する課税について、大要、次のように定めた。
- 中国居住者が株式等の財産を海外信託に拠出する際、時価と取得原価等との差額を財産譲渡所得として20%課税する。
- 信託およびその支配下にある海外法人の所得は、受益者への分配の有無にかかわらず、拠出者に帰属させて毎年20%課税する。課税済み所得の分配時には重複課税しない。
- 信託終了時や拠出者が非居住者になる際にも、財産の値上がり益等に課税する。
- 既存信託についても、原則として2023年以降の財産拠出や2025年以前の未申告所得に遡って課税し、90日以内の申告納税を求める。
4.参考文献
- KPMGのチャイナ・タックス・アラート
- Deloitte Tax Issue P420
- Mayer Brown Asia Tax Bulletin Autumn 2026
- DLA Piper
- Albert Tan, After the Offshore Trust Turn: How China's 2026 Legal Changes Will Affect Insurance-Backed Offshore Liquidity (August 1, 2026)