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2025/12/27

令和8年度税制改正の大綱、閣議決定

2025年12月26日、政府が「令和8年度税制改正の大綱」を閣議決定。冒頭の文章を箇条書きに直して、そのまま引用する。

  • 物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設するほか、就業調整に対応するとともに、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178 万円まで特例的に先取りして引き上げる。
  • 「強い経済」の実現に向けた対応として、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置を創設するほか、租税特別措置等の適正化の観点から、賃上げ促進税制の見直しや研究開発税制の強化等を行う。
  • 税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し等を行う。
  • このほか、自動車関係諸税について、自動車税等の環境性能割の廃止や軽油引取税の当分の間税率の廃止等を行う。
  • また、国際観光旅客税の税率の引上げや防衛特別所得税(仮称)の創設等を行う。
【財務省サイト】
      • 令和8年度税制改正要望 HTML ※令和7年8月29日時点での税制改正要望となります。
      • 税制改正の大綱 PDF
      • 税制改正の大綱の概要 PDF
【総務省サイト】

上記引用の冒頭の文章と対比させる趣旨で、自由民主党と日本維新の会による与党税制改正大綱の「基本的考え方」を引用しておく。

  • まず、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設した。また、長年にわたって据え置かれてきた税制上の基準額について、網羅的な点検を行い、マイカー通勤に係る通勤手当や従業員への食事の支給に関して所得税が非課税となる限度額など、暮らしに関わる分野を中心に見直しを行い、物価高への対応を行った。また、物価高を超える賃上げの実現に向けて、賃上げ促進税制については、措置期間中ではあるが、臨機応変に対応する考えの下、防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形に見直す。
  • 「強い経済」を実現するために、大胆な設備投資促進税制を創設し、高付加価値化型の設備投資を強力に後押しする。他方、設備投資時のキャッシュフローを支援するとともに、設備投資後の収益で財政を支える償却制度を積極的に活用することで複数年の財政均衡に配慮した制度とした。さらに、貯蓄から投資への流れを後押しするNISAについては、つみたてNISAの拡充の一環として、国内市場を対象とした一定の株式指数を新たに追加する。結果として、個人の現預金が国内経済に投資され、経済成長を後押しする流れが加速化されることも期待される。
  • 「強い経済」とともに「世界で輝く日本」の実現に向けて、AI・量子・バイオ等の戦略技術分野の研究開発を促進する観点から、研究開発税制について「戦略技術領域型」を創設するとともに、国内の研究人材や研究開発拠点を強化する観点から必要な見直しを行う。また、国際的な租税回避を防止し、企業間の公平な競争環境を整備する観点から、わが国が主導してきた国際課税のBEPSプロジェクトについても積極的に進めていかなければならない。
  • 租税特別措置等については、的を絞り、メリハリを明確にすることでインセンティブを大胆に強化する。また、賃上げや設備投資に積極的ではない企業については租税特別措置の適用除外とする制度の強化・拡充を断行し、積極的に挑戦する企業を集中的に支援する制度に変えていく。今後更なる適用拡大についても検討を行う。
  • 他方で、累次の法人税率引下げによって、企業の利益が設備投資・研究開発そして賃上げの原資として適切に投資されてきたのか、不断の検証と改革も求められる。
  • 税制の公平性の確保に向けては、現行制度を躊躇なく見直す。まず、国内外での公平性の確保については「国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化」等の見直しを行うほか、外国人旅行者向け免税制度や、国外居住親族に係る扶養控除等の適用についてもあり方を検討していく。また、不当廉売関税に係る迂回防止制度を創設し、不公正な貿易に対する措置の実効性と抑止力を高める体制の構築を行う。財政の再分配機能を高める一環として「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」の見直しを行う。さらに、税制への信頼感を著しく棄損する租税回避への対応として「貸付用不動産の評価方法」「インボイス制度導入に係る経過措置」を利用した租税回避について厳格に対応していくとともに、時代の変化にこれからも対応していく。また、「ふるさと納税」について、健全な運用に向けた見直しを行い、制度導入時の崇高な理念の実現に向けた改正を行う。
  • 住民生活に密着した行政サービスを支える地方公共団体の税収をしっかり確保するとともに、経済社会の構造変化に対応し、都市と地方もお互いに支え合うという基本的考えに立ち、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けた具体的な取組みについて検討を行っていく。
  • また、デジタル化の進展に伴い、納税手続のデジタル化への対応を国税・地方税とも行うとともに「道府県民税利子割の清算制度」を導入する。今後も、デジタル化の進展による社会経済活動への変化に機敏に対応していく。
  • さらに、消費者が支払った消費税相当分が、全て納税されることなく、事業者の手元に一部残る要因となっている「インボイス制度導入に係る経過措置」については、これまでに決定した各種経過措置を含めて最終的に終了することを堅持しつつ、個人・中小事業者の対応状況等も踏まえた更なる配慮を行うために、見直しを行う。
  • 「基幹産業」としてわが国経済を牽引する自動車産業は、技術面や国際環境など、大きな変化を迎えている。こうした中、自動車関係諸税の見直しについて、わが国の技術的優位性を踏まえた「マルチパスウェイ」等の自動車戦略や国・地方の安定的な財源確保、カーボンニュートラル目標等を踏まえ、今後、車体課税・燃料課税を含めた総合的な検討を行う。
  • 恒久政策には安定財源が必要との考えの下、揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保、防衛力強化に係る財源確保について税制上の対応を行う。また、高校生年代の扶養控除の見直しについては、先行して住宅ローン控除や生命保険料控除が拡充されていることも念頭に、今後も真摯な議論を行っていかなければならない。
  • 最後に、財政健全化と積極財政の二項対立ではなく、両者の思想を包含する「責任ある積極財政」の方針の下、「温故知新」の言葉を噛み締めつつ、税制改正に終わりはなく、連綿不断の改革と検証を行っていく決意をもって、以下、令和8年度税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。

2023/05/14

OECD 2023 Progress Report for G7 Niigata

新潟でのG7 財務大臣・中央銀行総裁会議が終了した。そこに向けてOECDから報告されたのが、2023 Progress Report on Tax Co-operation for the 21st Century, OECD Report for the G7 Finance Ministers and Central Bank Governorsである。この報告書は、昨年のReportを更新しつつ、税務執行の新しい取り組みについて報告している。

  • 法人税 GloBE Information Return(GloBE情報申告)のone stop shop、やりとりの完全なデジタル化、Lead Tax Administration主導の協調的アプローチ(各国当局がバラバラに執行するコストを避ける)、共通かつ同時のリスク評価、発見されたリスクへの協調的対応、早期かつ拘束的な解決、重複要件の排除
  • 法人税以外 CARF、Platform Operators
  • 途上国 柱2が租税誘因措置にどう影響するかのパイロットプログラム、2つの柱の実施に向けての能力開発、デジタル貿易とVAT、税務行政のデジタル化、情報セキュリティ管理
2つの柱の実施が各国当局間の高度の協調を必要としており、その中で多国籍企業の事務負担をどう調整していくか、いろいろな対応を試みている。日本の国税庁がCRS情報をきっかけに個別的情報交換を要請し、オフショア相続財産を捕捉した例も紹介されている(パラ49)。

この報告を受けて、G7財務大臣・中央銀行総裁声明は、次のように歓迎の意を表明した(日本語仮訳のパラ24を引用する)。

24. 我々は、OECD/G20 包摂的枠組みによる経済のグローバル化及びデジタル化に伴う課税上の課題に対応し、より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた我々の強い政治的コミットメントを再び強調する。我々は、第 1 の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内に MLC の署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、第 2 の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎し、包摂的枠組みに対し、グローバルに一貫性のある実施のために、更なる執行ガイダンスについて作業することを求める。我々は、途上国に対して、二つの柱の解決策の実施に係る支援の重要性を強調しつつ、持続可能な税収源を築くための税に関する能力強化に対する支援を更に提供する。我々は、OECD の「21 世紀の税務協力に関する 2023 年進捗報告書」を歓迎する。

2026/07/18

利益Aの次を構想する―IMFのワーキングペーパー

 IMFのスタッフが、越境サービスの課税手段を総ざらえするワーキングペーパーを出していた。Shafik Hebous, Brendan Crowley, Rasmi Das, Tibor Hanappi, Cory Hillier, Adam Jakubik, Eric Robert, and Christophe J Waerzeggers. "Taxing Cross-Border Services", IMF Working Papers 2026, 152 (2026), accessed 2026/7/18, https://doi.org/10.5089/9798229055048.001

この論文は、越境サービス(とりわけデジタル化されたサービス)に対する各種の課税手段を、消費課税、所得課税、租税条約、租税回避防止措置を横断して整理する。利益Aがつまづいた後、越境サービス課税の全体像を整理し直して、次の多国間合意のための設計原理を提示する論文と位置付けることができよう。

2026/01/29

(続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

【その続きがこのページ】

続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。

以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

すると即座に、以下のテクストが生成された。


以下引用*********************

法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。


1. 法学全体の大潮流:規範中心から「統治・実装・データ」へ

近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。

(1) “規範の正当化”だけでなく、“統治(governance)”の設計論へ

  • 何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。

  • 行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)。

→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。

(2) 国内法の閉域から「トランスナショナル化」へ

  • 条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。

  • 法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。

→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。

(3) 実証・経験科学との接続(Empirical/Socio-legal turn)

  • 立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)や社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。

  • これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。

→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。

(4) デジタル・データ化と法:手続保障の再設計

  • AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。

  • 行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。

→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。


2. 租税法研究動向は、法学的には「規制・行政・国際秩序」の結節点

上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。

(A) 国際秩序形成(国際法/国際経済法/グローバル行政法)

  • BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。

  • 典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。

(B) 行政法・規制法(執行、プロセス、裁量統制)

  • 情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。

  • 典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。

(C) 企業法・金融法・会計(ガバナンス/開示/リスク管理)

  • 税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。

  • 典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。

(D) 刑事法・制裁論(抑止+規範)

  • 脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。


(続く)


2024/10/12

諸富・宮本・篠田編著『デジタル時代の税制改革』

諸富・宮本・篠田編著『デジタル時代の税制改革』は、「100年ぶりの国際課税改革の分析」という副題のとおり、2つの柱を中心として近年の改革の意義と限界を論ずる論文集。

財政学者と租税法学者の共同研究の成果。序章と第8章が全体像、第1章から第3章が2つの柱に関する検討、第4章と第5章が米国との関係、第6章がEUとの関係、第7章がGloBE情報申告書。一読して、次の点がとくに印象に残る。

  • Pillar One多国間条約が発効しなくても新ルールが今後つねに参照されることになるという認識
  • GloBEが課税ベースに会計の数値を利用するものであるため会計基準ショッピングや会計基準間の競争が生ずること
  • 2017年米国GILTI創設が国際交渉におけるフォーカルポイントを作り出して合意を成立しやすくしたこと
  • ドイツのGloBE受容がCFC税制の相当の改変を伴っていること
  • GloBE情報申告書をCbCRとの比較でみていくという視点
  • 途上国の視点
さらに時間をかけて読んでみたい。この論文やこの紹介とも密接に関連する。

以下に目次をコピペしておこう。

序 章 新しい国際課税ルールの内容,その意義,直面する課題,そして税収効果(諸富 徹)

第1章 経済のデジタル化と「市場国」への課税権配分を巡る論理の変遷(篠田 剛)

第2章 利益Aに係るデジタル課税の意義と課題──移転価格税制の経験を踏まえて(江波戸順史)

第3章 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルール(IIR)──税法と会計の関係(中嶋美樹子)

第4章 TCJA2017におけるアメリカ法人税の国際課税方式の変更に関する議論とその影響(吉弘憲介)

第5章 グローバルタックスガバナンスへのアメリカのパワーの影響──「BEPS2.0」第2の柱を素材として(松田有加)

第6章 EUにおけるGloBEルールの受容──ドイツでの国内法制化を中心に(辻 美枝)

第7章 BEPS2.0第2の柱におけるGloBE情報申告書の意義と手続保障(金山知明)

第8章 経済のデジタル化に伴う国際課税の動向と課題(宮本十至子)



2026/01/29

(続き、これでおしまい)文献バイアスのチェック

 【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

【今回】

この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。

4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ

すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。


以下引用++++++++++++++++++++++++++++

以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)と方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。


1. いま法学が面白い理由(総論)

対象が「国家×市場×技術×地球」に拡張した

  • AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)

  • 気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)

方法が「ドグマ」一辺倒から“混成(ハイブリッド)”へ

  • 実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)

  • 生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)


2. フロンティア①:AI・データ・アルゴリズム統治(Digital/AI Governance)

何が面白いか(争点)

  • 規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)

  • “法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)

  • 法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)

言語別「入口」文献(例)

  • 日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)

  • 英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)

  • 仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)

  • 独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)

  • 西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)

  • 中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)


3. フロンティア②:プラットフォーム規制・ダークパターン・情報環境

何が面白いか(争点)

  • 表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。

  • 研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)

  • 日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)


4. フロンティア③:気候訴訟・将来世代・サステナビリティ(公法×私法の合流)

何が面白いか(争点)

  • 訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)

  • グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)

  • 会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)


5. フロンティア④:法秩序の分断と接続(地政学・経済安全保障・越境規制)

何が面白いか(争点)

  • データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。

  • “一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)


6. フロンティア⑤:研究手法としての「データ化された法学」

何が面白いか(争点)

  • 判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。

  • ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)


7. 6言語で読むための、最小限の“棚”の作り方(実務的提案)

  • 共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。

  • 各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする:

    • 日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)

    • 仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)

    • 独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)

    • 西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)

    • 中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)

    • 英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)



【とりあえず、これでおしまい】

ChatGPT、租税法の研究動向を語る

 窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)と学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

(1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

  • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

  • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
    → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

(2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

  • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

(3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

  • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
    → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

  • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

  • 研究の焦点は、

    1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

    2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

    3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
      へ広がっています。
      → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

  • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

  • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

(1) 実証(Empirics)の標準化

  • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

  • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

(2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

  • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

(3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

  • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

    • アルゴリズムの透明性・説明可能性

    • 差別・偏り(バイアス)と救済

    • 自動化された不利益処分の適正手続
      へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

  • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

  • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


研究動向を一言でまとめると

  1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

  2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

  3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


(続く)

2020/12/12

租税行政3.0

OECD (2020), Tax Administration 3.0: The Digital Transformation of Tax Administration

これは,2020年12月の税務長官会議(FTA)でリリースされた文書である。経済社会のデジタル化が進む中で,税務執行のDXを構想する。

Tax Administration 3.0という表現は,次の3段階を意識している(7頁)。

  • 租税行政1.0 紙ベース,手作業,タコツボのプロセス
  • 租税行政2.0 デジタルデータ,デジタル分析ツール,政府の他部局・民間部門・外国との協働
  • 租税行政3.0 納税者の用いるシステムの中に課税プロセスを組み込む

→つまり,現在到達しつつある2.0から一歩進んで,3.0にバージョンアップし,次のような段階を構想するのである(12頁)。

  • 納税が人々の生活や事業活動に統合されたシームレスな経験となる
  • デジタル・プラットフォームが租税行政のエージェントとなる
  • 税務執行がリアルタイム化する
  • 透明なプロセスの下で納税者は賦課徴収をチェックする
  • 政府一体のアプローチをとる
  • ハイテクに適応する人材・組織にする
→そして,こういう段階に至るために何が必要であるか,その構成要素を示している。章立ては次のとおり。

  • 第1章「租税行政3.0への旅」は,租税行政の現況をみて,その構造的限界を指摘し,DXにより何が可能になるかを示す(9頁以下)。
  • 第2章「燃えるプラットフォーム」は,いまなぜDXを検討すべきかを述べる(17頁以下)。理由として指摘するのは,仕事の変化,新しいビジネスモデル,グローバル化,技術の変化,社会の期待である。
  • 第3章「租税行政3.0の実際」は,租税行政の未来像を物語タッチで描く(25頁以下)。
  • 第4章「租税行政3.0の構成要素」は,6つの構成要素を提示する(34頁以下)。それらは,1. Digital identity(37頁),2. Taxpayer touchpoints(41頁),3. Data management and standards(44頁),4. Tax rule management and application(48頁),5. New skill sets(52頁),6. Governance frameworks(57頁)である。

この文書自体は特定の方向を打ち出すものではない。ロードマップの作成などはあくまで次のステップとされている。しかし,税務執行が今後どういう方向になっていくのかを,「租税行政3.0」という言葉で大胆に提示している。国税庁の「税務行政の将来像~ スマート化を目指して ~」とも方向が一致し,税務職員にとっては必読の文献が出たといえよう。のみならず,税理士業務や企業税務に携わるプロにとって,今後はどういうスキルセットが重要になるかを示す道標になる。研修の教材にも使える。税務のプロでなくとも,第3章の仮想未来の物語などは,個人納税者のMaryや,法人を設立するKim,多国籍企業のSmart Falconといった設例になっていて,読んでいて楽しい。DXとかリアルタイムとかいうといかにも新規そうな感じがするが,じつは,多国籍企業の移転価格に関する課税庁のモニタリングなどはそのような動きを先取りしているのかもしれない。

個人情報保護をはじめいろいろ検討すべき点があると思う。ここでは1点だけ。この文書にはノルウェーやオーストラリア,シンガポールなどからのインプットが記されている。これに対し,日本の実務の中にも,各国の参考になるものが多々あるはずである。日本の国税庁がそれらを対外発信して国際的な対話を行っていくことも,今後の租税行政3.0にふさわしい仕事ではあるまいか。

2020/10/20

消費課税と個人情報

今年の租税法学会第49回研究総会は、統一テーマが「消費課税の将来構想」だった。5本の報告・コメントがあり、シンポジウムで質疑応答があった。それぞれに有益で、勉強になった。ここでは、第一報告がその末尾で提出した「個人情報保護」の観点について、メモを残しておきたい。この観点が、当日に議論された種々の論点に共通する横糸として重要であるように私には感じられたからである。

まず出発点として,事業者を納税義務者とする消費型付加価値税は、その執行に要する個人情報がそれほど広範なものにならなくて済む。免税事業者でいられる金額が高い場合には、とりわけそうであろう。これと比較すると、個人所得税の執行には、納税義務者本人の所得稼得状況に加えて、配偶者控除や扶養控除など家族構成員の状況について、かなり広範な属人的情報を必要とする。このような情報提供が原則として不要なのが、付加価値税の重要な特性である。一般論としては、このようにいえる。

もっとも、第二報告に対するコメントで示唆されたことをきいて思ったのだが、電子インボイスとマイナンバー制度を連携させるような「将来構想」までを視野に入れると、必ずしもそうはいえない場合が出てくるかもしれない。取引情報がリアルタイムで官民で共有されていくような未来像である。今後の展開によっては、付加価値税の執行においても個人情報保護について検討すべき点が出てくる可能性がある。
→このような可能性は、第四報告で取り上げられた「経済のデジタル化」にも関係する。政府部門もデジタル化し、社会全体がDXの波に洗われる中で、取引情報の集積から個人の行動をプロファイリングできるような状況も、あながち夢想的なSF物語にとどまらないだろう。
→他方で、課税情報の収集・利用・保管のプロセスがデジタル化によってどれだけ効率化したとしても、第三報告で言及された金地金の密輸入の事案のように、一定のhard-to-tax sectorと課税当局との間の執行面でのせめぎあいは継続するはず。越境取引における国外事業者なども、広い意味でhard-to-taxの部類に入るかもしれない。

付加価値税の話として一般的に個人情報を国家が収集しなくてもいいということであったとしても、政府作用を全体的にみた場合はどうか。
→再分配の要求により人々が国家から給付を求める局面では、やはり個人情報が必要になるはずだ。この疑問に対する応答は、その場合は給付を求める人があくまで自発的に情報提供しているというもの。それはそうなのかもしれない。
→再分配機能を個人所得税で分担するために高額所得者に追加的な情報提供を求めると、それはそれで個人情報保護の観点から問題にならないか。これに対する応答は、豊かな人にはnoblesse obligeがあるというものだ。たしかに再分配の理屈からはそうなるだろう。現行法でもHNWIは国外財産調書を提出しなければならない。シンポジウムでこの議論をきいて、議論のつながりに気づかされた。再分配に反対する人には説得的でないかもしれないけれど。

やや意外なところで個人情報とのかかわりに気づいたのが、走行距離に応じた課税によって環境負荷を抑える提案についてのやりとりである。個別消費税の存在意義としては、外部性に対処することがある。この観点からみたとき、既存の車体課税が効果的な政策手段か。むしろ走行距離に応じて課税することでCO2削減に資するのではないか。この疑問に対する応答の過程で、車のメーターから走行情報を一元的に取得する仕組みと個人情報保護の関係が指摘された。いわれてみれば当然のことだが、政策をスマートに実施するには情報が要る。このことが現れるいい例だ。もっとも、自動運転が日常的になれば、常時Googleに走行情報を把握されていてもほとんどの人が気にしないようになるのかもしれない。プライバシーに関する私たちの認識も可変である。

以上は、学会のやりとりをきいて、私が勝手に思ったこと。個々の指摘を正確に再現してはいない。どなたの指摘かも明示していない。オーサーシップを含めきちんとした記録は、来年夏刊行の租税法研究49号。

2026/06/04

ミュンヘン会合の成果が公表されていた

2025年12月、ミュンヘンで「Building Blocks of an International Tax Order」という研究会合が開かれた。二日間にわたって、12本の論文がプレゼンされ、それに対するコメントが展開された。ぼくは体調不良で行けなかったのだが、提出していた論文を公刊物に加えてもらった。それが、Bulletin for International Taxation Vol.80, Number 4/5, 2026の特集。

特集の趣旨を一言でいえば、断片化した世界において、新しい税制選択がなされる際においても有効に機能しうる国際課税設計の個別要素を検討してみよう、ということだ。会合の招待状には、こう書いてあった。

If a decade ago we wondered about how to further integrate tax international tax rules, today we wonder whether such cooperation can continue even on a bilateral level. In a spirit of some humility, therefore, this conference seeks not to suggest an alternative multilateral path forward. Rather, as we wait upon events, the intent is to explore discrete pieces of international tax architecture that might prove effective as new tax policy choices are made in a more fragmented world.

この文章を引用して序文が特集の趣旨を説明している。それに続く本体は4部構成。以下、149-151頁のabstractをもとに、各論文を概観しておこう。

Part 1: General Principles of International Taxation

Nadine Riedel, “National versus International Welfare”

法人税政策は、根本的に国際的な環境の中で作用しており、各国政府がほとんど内部化しないクロスボーダー外部性を生み出す。本稿は、国際法人課税の経済学的基礎を概観し、近年のOECD/G20改革を評価したうえで、実証的不確実性と地政学的制約の下では、広範な構造的再設計を追求するよりも、既存制度を統合・強化することを主張する。

Shafik Hebous and Alexander Klemm, “Can Siri and Alexa Pay Taxes?”

AIが経済を変容させるにつれて、AIに課税すべきだという主張が勢いを増している。しかし、AIそれ自体を標的とする課税は非効率をもたらすおそれがあり、その負担は最終的には人々に帰着する。本稿は、AI固有の税は適切ではないと論じ、むしろ、イノベーションを阻害することなく、デジタル時代のレントを捕捉し、国境を越える課題に対応し、衡平を保護する税制を重視する。

Mathias Risse and Marco Meyer, “International Tax Justice: The Independence Fallacy and the Myth of Freely Disposable National Income”

各国はしばしば、国民所得を自由に処分できるものとして扱う。著者らはこの前提を “Independence Fallacy” と呼ぶ。相互に結びついた経済においては、所得は、国境を越えて財産制度が承認されることに依存しており、そこからグローバルな分配的正義の義務が生じる。これらの義務は、財政主権を制約し、国際租税協調を支持する。

Johanna Hey, “The Single Tax Principle”

Single tax principle(STP)は、国際租税法において最も議論の多い考え方の一つであり続けている。本稿は、その内容、確立した諸原則との関係、および実務上の含意を検討し、STPから導かれる解決策、とりわけグローバル・ミニマム課税が、分断化した国際租税環境の中で存続可能であり続けるかを、EUの経験からの示唆も踏まえて探究する。

Daniel Shaviro, “Once for Good Measure? Comment on Johanna Hey’s ‘The Single Tax Principle’”

本コメントは、Johanna HeyによるSTP批判に応答する。

Philip Baker, “The Missing Building Block: The Promotion of Human Rights and Taxpayers’ Rights”

本稿は、人権および納税者権利の尊重と促進が、正統性ある国際租税秩序にとって不可欠な構成要素であると主張する。本稿は、この二つの権利枠組みを区別し、それらの法的および実際上の重要性を説明し、国際課税設計の中にこれらを組み込むことが、tax morale、適法性および制度的安定性を維持するうえで重要であることを示す。

Part 2: Taxation of Business Income

Yoshihiro Masui, “The Role of Residence-Based Taxation in Business Income Taxation”

本稿は、事業所得課税における居住地ベース課税の役割を評価する。その重要性は、法人居住地の多義性、居住地の選択可能性の増大、および個人株主所得を正確に課税することの困難性により、低下していると論じる。本稿は、居住地ベース課税の役割が縮小した将来について、三つのシナリオを示す。

Afton Titus, “Digital Services in Africa: Rebalancing Business Income Taxation through Inter-Nation Equity”

本稿は、アフリカにおけるOECDのPillar Oneと国内デジタルサービス税(DST)を比較し、公平性、中立性、簡素性および執行可能性の観点から評価する。アフリカのDSTは、国家間衡平その他の政策原則に照らして良好に機能する一方、Pillar Oneの評価は低い。本稿は、開発途上国の生存にかかわる財政不足が解消されるまでは、先進国はDSTを制約することを避けるべきであると結論づける。

Part 3: Other Sources of Public Revenue 

Wolfgang Schön, “Tariffs and the International Tax Order”

関税は、2025年に、現米国政権が多様な目的のために広範な関税を用いたことにより、国際課税の世界において顕著な特徴となった。本稿の主眼は、関税の役割を、間接税と直接税という二つの異なる文脈において定義することにある。消費課税の観点から見ると、関税は輸入品に対する差別的な税であり、無差別という概念そのものとその帰結に根本的な挑戦を突きつける。所得課税の観点から見ると、関税は、国境を越える物品販売から生じる利益に対する源泉徴収税の代替物として概念化できる。この出発点から、原産地国および仕向地国の政策選択肢が説明される。

Yan Xu, “VAT and Indirect Taxes: Rethinking International Taxation”

本稿は、VAT、デジタル取引税および気候関連賦課金を検討し、断片化したルールの下でデジタル化と脱炭素化により形づくられる経済における、それらの相互作用を明らかにする。本稿は、これらの間接税を国際租税論議の中心へもってくるべきであり、UN主導でOECDの知見を取り入れた多国間枠組みの中で、別個の縦割り領域として扱うのではなく、体系的に調整すべきであると論じる。

Andrés Báez Moreno, “Can Failed Taxes Be Revived through Modest Innovation? On the New Proposals for Net Wealth Taxes”

本稿は、純資産税に関する近時の提案が、伝統的な富裕税についてよく知られた失敗を真に克服しているのかを批判的に検討する。経済状況および透明性をめぐる条件の変化を認めつつも、「今回は違う」という楽観的主張に疑問を呈し、多くの制度設計上および執行上の問題は構造的なものであり、新たな実務上および法的な課題を生じさせうると論じる。

Part 4: Modes of Cooperation

Georg Kofler, “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”

“Building Blocks of an International Tax Order” という会議テーマの文脈において、本稿は、直接税における国際的な無差別基準の弱点と、なお残る存続可能性を検討する。租税条約、通商法および投資法を素材として、主として欧州の観点から、体系的な概観と現代的論点の選択的検討を通じて、保護の浸食を跡づける。

Robert J. Danon, “The Rise of Tax Treaty Supremacy: The Case of Non-Discrimination”

本コメントは、Georg Kofler教授の “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”に応答する。

Stef van Weeghel, “The Role of Tax Treaties”

主としてOECDモデルおよびUNモデルによって形づくられてきた二国間および多国間租税条約の拡大は、国際的な制度調整、貿易および投資を促進してきた。しかし、特に開発途上国にとっての公平性をめぐる懸念は残っている。本稿は、租税条約の影響、その批判、および、衡平性と効率性を改善するための、脱政治化され柔軟なモデル条約の可能性を検討する。

Will Morris, “The ‘Modest’ Tax Treaty: A Comment on Stef van Weeghel’s ‘The Role of Tax Treaties’”

本コメントは、租税条約を壮大な制度ではなく契約として位置づけ、その設計における控えめさと現実主義を強調する。

Philip Baker, “Building Blocks of an International Tax Order: Perspectives for Multilateral Cooperation”

本稿は、OECD、UNおよび地域的イニシアティブにおける展開を概観し、改革を主導する見通しを評価する。

2020/12/10

与党の令和3年度税制改正大綱

リンクはここから。自民党のサイトには次の記述がある。

以下引用*****************

来年度の税制改正では新型コロナウイルス感染症の影響で経済が落ち込む中、厳しい経営環境を下支えするため、研究開発投資に対する税額控除の上限を引き上げや繰越欠損金制度を拡充するほか、雇用を守り、賃上げを行う中小企業を対象にした所得拡大促進税制の延長などを盛り込みました。

個人所得課税についても住宅ローン減税を延長。固定資産税もコロナ禍前の地価上昇に対応するため、令和3年度に限って固定資産税の上昇分を令和2年度水準に据え置くなど、厳しい状況にある方々への対応を行っています。

また、政府与党が掲げる「デジタル化」「グリーン化」の方針に沿った攻めの視点からの新たな税制も創設。納税環境のデジタル化を進めるため、税務関係書類における押印義務も大幅に見直すなど、幅広い改正を含んでいます。

***********************引用終わり

2020/11/28

ITをめぐる国際政治,米欧の「大取引」を求める論説

The Economist誌2020年11月21日付けBriefingの,次の記事である。
A grand bargain

その論旨はおおきく,3段から成る。
1)ITにおける米国の覇権に中国が挑戦しているとの認識の下で,トランプ政権はHuawei排除などdecouplingに動いたが,今後の米国はEUやインド,日本などと組むべきだ。米欧対立は競争・課税・プライバシーなど多くの局面で存在するが,妥協の余地はある。国が私企業のようにふるまう傾向を放置すると,インターネットの分断(splinternet)によりデジタル保護主義が蔓延してしまう。
2)こういう背景のもとで,いまこそ,大きな取引(a grand bargain)が必要だ。欧州は米IT企業の権益を保障し,その代わり,米国は規制や課税などを受け入れる。問題はそれをどこまで公式のしくみにするか。
3)妥協に至るのは難しい。しかし,二国間協定やゆるい協力よりも,より頑健で(robust)で特化したアプローチが必要だ。たとえばWorld Data OrganizationとかGADD(General Agreement on Data and Digital InfrastructureつまりデジタルインフラにおけるGATT,これなども参照)のようなもの。

この記事が英国の視点から書かれていることに注意は必要である。2)でいう「大取引」の妥協の内容などは,欧州にとって虫のいいことをいっているような気がしなくもない。しかし,なかなかよく取材してある。かつての地政学は地理的領域を基礎にしていたところ,デジタル化の進んだいまや,分析の単位はプラットフォームである,という指摘(第16段落)などは,なかなか秀逸だ。21世紀前半における体制選択が,技術の在り方にかかっている。自由な民主主義を掲げる国々が,どうやって協調路線を組むか。第12段落や第13段落では,Robert Knakeのdigital trade zoneや,それよりもよりゆるやかな提案として,日本のAPIが米のCNASと独のMERICSとともに打ち出したtechnology allianceに言及している。G20で2019年に打ち出されたOsaka Trackや,Global Parthership in AI(これに関する日本の記事)なども,「大取引」にむけての萌芽として言及されている。

問題はもちろん,3)で論じられているように,「本当に現実化するのか?」だ。この記事は,最後の第34段落で,1944年にブレトンウッズ体制ができたことを引き合いに出して,コロナは世界大戦とは異なるものの,コロナ渦を生き延びることが十分な動機付けを与えるかもしれない,と結んでいる。「幸運に恵まれれば(with luck)」という修飾語つきではあるが。

デジタル経済をめぐる国際課税の動きについては,これまで,巨大IT企業のレントの争奪戦という見地から,Joseph Bankman, Mitchell Kane & Alan O. Sykes, Collecting the Rent: The Global Battle to Capture MNE Profits, 72 Tax Law Review 197 (2019)が導きの糸のようにぼくは思っていた。これに対し,今回のこの記事は,技術圏(technosphere)をめぐる地政学的文脈に光を当てている。よくよく考えなければならない。

2022/06/28

まだ、法学を知らない君へ(2022)

1年くらい前、白石忠志教授のおさそいで、東京大学教養学部の1年生2年生を対象に、オムニバス講義の一コマを担当した。そのときの記録を、『まだ,法学を知らない君へ――未来をひらく13講』に掲載していただいた。全体の目次は下記引用の通りで、ぼくの講義は第10講「GAFAの利益をつかまえる――経済のデジタル化と国際課税ルール」。

その後の展開もあり、寄稿のために書き言葉にしていく過程はなかなか楽しかった。ここで種明かしをすれば、もとになった講義は、(もちろんそれなりに準備はしたものの)ノリのいいジャズライブのように即興感あふれるもので、司会の白石教授にいろいろなことを教えていただき、オンライン参加者との対話もはずんで、さらに愉快だった。 

はじめに(白石忠志)
第1講 デジタル社会と憲法(宍戸常寿)
第2講 同性カップルと婚姻(沖野眞已)
第3講 刑法は個人の尊厳を守れるか──性刑法の改正議論を題材に(和田俊憲)
第4講 金融サービス仲介業制度の導入(神作裕之)
第5講 役員報酬と法(飯田秀総)
第6講 非正規格差をなくすには(神吉知郁子)
第7講 著作権法の過去・現在・未来(田村善之)
第8講 プラットフォーム全盛時代に適正な競争を確保する(白石忠志)
第9講 ビッグテックの台頭──競争法は機能しているか?(Simon VANDE WALLE)
第10講 GAFAの利益をつかまえる──経済のデジタル化と国際課税ルール(増井良啓)
第11講 国家間のサイバー攻撃をどう規制するか?──国連におけるICTs規制論議の経緯・現状・課題(森肇志)
第12講 契約とContract──比較法からパンデミック・オリンピックまで(溜箭将之)
第13講 一人一票の原則を疑う(瀧川裕英)



2023/05/30

税務訴訟資料のデジタル化

「税務訴訟資料」のデジタル化は、次の経過をたどった。

1.紙の冊子体の時代
昭和25(1950)年5月(1号)から平成16(2004)年3月(249号)まで。
各号につき「〇頁」として引用。
第1号は、新憲法の下で税法事件が司法裁判所に係属することになったことを受けて、昭和23年4月から昭和24年11月までに言渡しのあった判決を収録。当時の国税庁直税部所得税課によるもの。「税務訴訟資料(税務行政事件訴訟判決集)」と題されており、課税事件と徴収事件が混在。判決以外の執務参考資料も掲載していた。
紙の冊子体の最終は第249号で、平成12年12月までに言渡しのあった判決を収録。
なお、全体としては、「租税関係行政・ 民事事件判決集」及び「租税関係刑事事件判決集」の2部編に分かれ、刑事事件を別建てで収録する号もあった。

2.CD-ROMの時代
平成17(2005)年3月(250号)から平成23(2011)年3月(258号)まで。
各号につき「順号〇〇〇」として引用。
第250号は、平成13年1月言渡し判決(250号順号8813)からを収録。
第258号は、平成20年12月言渡し判決(258号順号11113)までを収録。
CD-ROMの収納ケースには、「租税関係行政・民事事件判例集」と印字。

課税関係判決は、平成20年判決分(税務訴訟資料第258号「順号10859~11113」)から。各号につき「順号〇〇〇」として特定。
徴収関係事件は、租税関係行政・民事事件判決集(徴収関係判決)として、平成21年1月~平成21年12月判決分から。順号表記のやり方は課税関係判決と異なり、たとえば平成21年1月のものは「21-1」などと表記。
事件番号を黒塗り加工し、確認できないようにしてある。

[典拠]

2025/08/10

宇賀古希記念論文集

1.行政法の理論と実務ー宇賀克也先生古稀記念が公刊された。行政法総論、行政救済法、行政組織法と地方自治、行政法各論と租税法、の4部構成。

2.寄稿の機会をいただき、私は「タックス・ギャップ推計の有用性」を論じた。基準時は原稿締切の2024年7月末。その後、現在までの1年でいくつか展開があったが、次の文献が重要と思う。ひとつは森信茂樹・わが国でも「タックス・ギャップ」の本格的な議論をであり、申告書の個票データを利用した学術研究に触れつつ、「条件は整いつつあるので、タックス・ギャップに関する本格的な議論を進めていく必要がある」とする。 

3.いまひとつは、藤岡祐治・徴収の制度設計についての理論的検討(租税法研究53号所収)であり、行動変化に関する税収弾力性(BETR)の枠組みを参照して、tax compliance gap最小化が制度設計の目的とはならないこと、制度設計にあたり徴税費用・納税協力費用の考慮が重要であること、を指摘する。もっともである。私の論文でも「やみくもな執行強化が資源配分や所得分配の上で最適であるわけでもない(1016-1017頁)」と述べた。これに対し、BETRは社会全体の資源に着目して精密なモデルをたてている。

4.なお、私の論文ではある時期の国会における特定のやりとりを念頭において、そこで前提とされていた「推計なければ増税なし」という考え方に大きな問題があると主張した(1016頁)。この主張は、上記3の藤岡論文が租税実体法との連続性を念頭に置いた徴収の制度設計を志向することと、なんら矛盾しない。むしろ、どの程度の徴税費用・納税協力費用をかけてどの程度の「もれ」が生じているかを定量的に測定することは、BETRのような枠組みを活かしていくために必要なステップというべきであろう。

5.ついつい自分の論文のことばかり書いてしまった。この論文集には興味深い論文が並んでおり、手に取るとついつい時間を忘れてしまう。日光太郎杉事件はこんな歴史的文脈で下されたのか、と引き込まれる。行政の実効性確保について、各措置の作用機序を明確にして分類する努力が不足しているという指摘に接すると、この指摘は法道具主義や行動主義との関係でも展開可能性があると思う。宇賀先生の記念論文集だけに国家賠償に力がこもっているのは当然かもしれないが、相互保障主義について歴史をたどって国賠法6条を違憲と断案する論文は特に印象的。

6.以下に目次をコピペしておこう。
第1部 行政法総論
  行政法の基礎理論
 「民間」による社会のデジタル化と行政法理論………………………飯島淳子
 騒音被害に対する行政法と民法の連携………………………………大橋洋一
 さらば行政法……………………………………………………………折橋洋介
 行政上の基本法制の整備と課題……………………………………北島周作
 シャルル・アイゼンマンの国家作用論 ………………………………小島慎司
 法的空間としての海・宇宙・サイバー ………………………………櫻井敬子
 行政法総論体系と「法的仕組み」……………………………………橋本博之
  行政活動の法的仕組みと行為形式
 表現にかかわる自主規制と公法学の新たな役割 …………………板垣勝彦
 複数処分間の適法要件・違法事由・処分庁の判断権限の関係……興津征雄
 「解釈裁量の否定」とは何を意味するか ……………………………角松生史
 原子力発電所の安全性に関する「社会通念」の検討………………桑原勇進
 中国における計画の体系化と都市計画法の変革 ………………………肖軍
 日光太郎杉判決………………………………………………………高橋信行
 行政機関による法解釈における裁量の存否…………………………船渡康平
  行政情報法
 オーストリアにおける情報公開制度の展開……………………………大江裕幸
 通信の秘密・再訪………………………………………………………宍戸常寿
 秘密と記録………………………………………………………………田尾亮介
 我が国におけるデジタルID普及の展望………………………………髙野祥一
 公的部門に対する個人情報保護法の執行……………………………巽 智彦
 行政情報法における法制度設計と立法準則・試論……………………横田明美
  行政の実効性確保
 行政の実効性確保論の再考……………………………………………中川丈久
  行政手続
 電子規則制定(E-Rulemaking)と公衆参加の強化……………………常岡孝好
 子どもの意見表明権と適正手続の保障………………………………横田光平
第2部 行政救済法
  行政上の不服申立て
 行政法学における苦情処理の位置づけ………………………………徳本広孝
 行政庁の調査義務と行政不服審査……………………………………中原茂樹
  行政訴訟
 行政冤罪の基本構造……………………………………………………岩橋健定
 行政契約と行政訴訟 ……………………………………………………王 天華
  国家賠償
 規制権限不行使事案における保護対象論……………………………金﨑剛志
 国家賠償法6条の相互保証主義 ………………………………………斎藤 誠
 熊本水俣病事件における食品衛生法適用問題 ………………………島村 健
 連邦コモンローの不在と権力分立原則 ………………………………玉井克哉
 営造物責任における瑕疵要件と因果関係要件の交錯 ………………土井 翼
 国家賠償法2条に関する覚書 …………………………………………仲野武志
 公権力発動要件欠如説の展開…………………………………………西上 治
第3部 行政組織法と地方自治
  行政組織法
 公共施設法制における営造物概念の歴史的な展開…………………木村琢麿
 国家行政組織に対する憲法上の規律…………………………………兪 珍式
  地方自治
 条例の適法性判断における「合理性」概念の検討 ……………………礒崎初仁
 ベルリン州における「社会化」の試み ……………………………………諸岡慧人
第4部 行政法各論と租税法
  行政法各論
 「国制」と「会計法制」のあいだ…………………………………………石川健治
 1853年2月21日プロイセン高等法院総会決定について………………太田匡彦
 外国銀行の日本支店の制度上の性格…………………………………進藤 功
 消費者法における行政の手続法構造に関する若干の考察 …………山本隆司
  租税法
 租税法とEBPM …………………………………………………………神山弘行
 タックス・ギャップ推計の有用性 ………………………………………増井良啓
宇賀先生の古稀に寄せて
 良心と理性の声 ………………………………マーク・A・レヴィン=福島千会子
宇賀克也先生略歴
宇賀克也先生著作目録

2025/08/16

「グローバル・ミニマム課税の法制化について」を読む

1.法制上の整理の到達点

財務省が発行する月刊の政策広報誌「ファイナンス」2025年7月号に、大隅怜・水野雅・高倉俊明・松田泰尚「グローバル・ミニマム課税の法制化について」が公表されていた(pdf版はこれ)。この論説は、(1)日本でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯に触れた上で、(2)関連する国内法令の内容を概説し、(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解を述べるものだ。著者らは主税局参事官室参事官補佐(当時の肩書)であるが、「制度の解釈や評価に係る部分については、筆者らの個人的意見に基づくものであり、所属する組織や部局の公式な見解ではないことに留意されたい」との注意書きが付されている。

日本法でIIRを創設したのが令和5年度改正。令和6年度改正ではUTPRとQDMTTの導入が持ち越され、令和7年度改正で創設された。上記の論説(以下「本論説」という。)は、(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点について、まとまった見解を述べている点が注目される。法制上の整理の到達点を示しており、じっくり読むに値する。

2.問題の所在

本論説は、問題の所在を次のようにまとめる(57頁右下)。

ある構成会社等の所得に係る課税が不十分であること(構成会社等の所在地国に係る実効税率が最低税率に満たないこと)を理由に、なぜ別人格である他の構成会社等に対して課税を行うことが許容されるのか

3.帰責性という観点 

本論説は、以下に引用するように、(あ)企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があるとしたうえで、(い)グループ全体で負担すべき納税義務の帰属先は現実には個々の法人格を持った構成会社等とせざるを得ないとし、(う)その構成会社等について課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるかという観点が重要であるとする(58頁左)。以下の引用にあたり、(あ)(い)(う)の見出しと下線は、増井による。

(あ)この点を検討する前提として、グローバル・ミニマム課税の政策的な必要性については、一般に肯定できるものと考えられる。すなわち、経済のグローバル化やデジタル化の進展により、国境を越えた企業グループ内での軽課税国への利益移転は極めて容易になっており、こうした企業活動について従来の国際課税ルールの枠組みのみで対応することには限界がある。この点に、個々の企業の取引に着目するのではなく、企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があり、冒頭で述べた2021年10月のIFでの国際合意は、各国のこうした現状認識が前提にあるものと理解できる。

(い)このようにグローバル・ミニマム課税が企業グループのグループとしての活動に着目した仕組みであることを突き詰めていけば、究極的には、その納税義務もグループ全体で負担することが望ましいとも考えられるが、現実の執行に当たっての納税義務の帰属先は、法的に責任財産の属する個々の法人格を持った構成会社等を基礎とせざるを得ない。

(う)こうした前提の下で、なぜ実際に軽課税国に所在する構成会社等(より端的には実効税率が基準税率を下回ることによりグローバル・ミニマム課税による課税の原因を作り出した構成会社等)ではなく、他の構成会社等が課税を受けることが許容されるのかを検討するに当たっては、その構成会社等について、課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるのかという観点が重要と考えられる。

上記引用からわかるように、問題に対する鍵として本論説が提示するのが、帰責性という観点である。 

4.UTPRへのあてはめ

この観点を踏まえ、本論説は、IIR, UTPR, QDMTTのそれぞれについて帰責性を肯定する(58-59頁)。とりわけ重要なのが、UTPRについて次のように論じる箇所である(59頁右)。以下の引用にあたり、再び下線は増井による。

UTPRにおいて納税義務者となる構成会社等は、必ずしもグループ内の親会社等に限られないから、IIRのようにグループ内で支配的な地位にあることをもって、UTPR課税に係る帰責性を直接に基礎付けることは難しい。とはいえ、IIRのみではインバージョンを通じて容易に課税の潜脱を許すこととなりかねず[注32を省略]、グローバル・ミニマム課税の目的を達する上では、IIRとは異なる仕組みによって、資本関係の下流側からも課税を確保する仕組み自体は必要というほかない。また、グループが全体として稼得した所得についてその一部が軽課税国に移転されている場合においては、本来はその稼得された国・地域で応分の課税が行われるべきである一方、現に軽課税国の構成会社等において認識されている所得について、その移転が行われた所得がもともと稼得された国・地域を特定することは、現実的には困難が伴う。

 こうした点を踏まえて、UTPRにおいては、各国の構成会社等が、その有する従業員等の数・有形資産の額に応じてIIR課税後の税額を比例的に負担する仕組みを採用しているものと理解できる。これらは、各構成会社等の人的・物的資本であって、その構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そうすると、UTPR課税を受ける構成会社等は、グループ内の親会社等の支配の下、グループの一部として事業上の利益を生み出す基盤を有し、その結果、そのグループが進出先の国・地域において軽課税の状態を生じているといえ、この点に、UTPR課税を基礎付ける帰責性を認めることができると考えられる。

これを要するに、IIRのバック・ストップとしてUTPRは必要であるし、所得の移転元の特定は現実的には困難である。だから、人的・物的資本をもとに比例的に負担する仕組みにした。これらの人的・物的資産は構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そのような基盤を有している結果、グループが進出先で軽課税状態になっている。ここに帰責性を認めることができる、というのである。

このロジックをもうすこし簡略化すると・・・

  • 定式分配の要素(従業員の数・有形資産の額)が事業上の利益の基盤である。
  • そのような基盤を有している「その結果」として進出先での軽課税状態を生じさせた。
  • そこに帰責性がある。
という論旨と読むことができる。グループ全体の義務を個別会社の義務に割り振っていく過程を、このロジックによって説明している。

5.少数株主の負担

本論説は、以上に続けて、構成会社等の少数株主の負担について、許容すべき投資リスクの範疇の問題であるとする(58-59頁)。そのまま引用しておこう。

このように考えるとしても、納税義務者となる構成会社等にグループ外の株主等(少数株主等)がいる場合には、当該少数株主等にとって予期しない形で投資先である構成会社等にUTPR課税が生じる可能性がある。

もっとも、これらの少数株主等にとっても、支配株主等を始めとした他の株主等が存在すること自体は関知し得るのであって、また、投資先がUTPRを始めとした各種の税制の適用を受けることについても、同様に知り得るところである。そうだとすれば、少数株主等に関して、その投資先がUTPRの適用による課税を受ける可能性があることを一般的な投資リスクと切り離して論じる意義は乏しく、許容すべき投資リスクの範疇の問題と考えられる。また、少数株主等にとっては、従前から投資していた会社等が、UTPR施行後、買収等により新たにUTPR課税の対象となるグループに属することとなる場合も考えられるものの、こうした場合であっても、グループに属することとなって以降、具体的なUTPRに係る納税義務が成立するまでの間において、持分の譲渡等を通じた投下資本の回収自体は一般に可能であることを踏まえれば、少数株主等に許容し得ないほどの負担を強いるものではないと考えられる。

6.おわりに

以上、本論説における(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解に注目して、該当箇所を読んでみた。

ここでは触れないが、本論説は、これ以外についても、(1)日本でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯がわかりやすいし、(2)関連する国内法令の内容を概説する箇所がIIR/UTPR/QDMTTの全体像を要領よく示している。改正税法のすべて令和7年版の解説とともに、しっかり読んでおきたい。なお、IIR創設時の令和5年版の解説と、その改正に係る令和6年版の解説も参照。

2021/06/06

G7で柱1と柱2に合意

7か国財務大臣・中央銀行総裁声明(仮訳)(2021年6月5日 於:イギリス・ロンドン)(PDF:163KB)から、パラグラフ16を引用する(下線は引用者による)。

16.我々は、経済のグローバル化とデジタル化に伴う課税上の課題に対応するとともにグローバル・ミニマム課税を導入するために、G20/OECD BEPS 包摂的枠組みを通じて進められている努力を強く支持する。我々は、大規模で高利益の多国籍企業について 10%の利益率を上回る利益のうちの少なくとも 20%に対する課税権を市場国に与える、課税権の配分に関する公平な解決策に至ることにコミットする。我々は、新たな国際課税ルールの適用と、全ての企業に対する全てのデジタルサービス税及びその他の関連する類似の税制措置の廃止の間で、適切な調整を行う。また、我々は、国別での 15%以上のグローバル・ミニマム課税にコミットする。我々は、2 つの柱について並行して合意を進めることの重要性に同意し、7 月の G20 財務大臣・中央銀行総裁会議において合意に至ることを期待する。

このテクストに出てくる「大規模で高利益の」とか、「少なくとも」とか、「適切な調整」とか、「15%以上の」とかについて、これからの動きを待ちたい。日経新聞のこの記事は、数値を書き込めたのが想定外、あいまいな点は各国の思惑の違いだけでなく7月のG20に先行することへの懸念を反映、といった見立て。声明の英語原文はここで読める。



2026/07/13

もりだくさんの令和8年度消費税法改正

令和8年度税制改正の解説が出たので、「消費税法等の改正」を読んでみた。越境EC取引に関する改正を含め、今年の消費税法改正はもりだくさんだ。

2025/05/13

豪州国税庁のAI利用について、AIにきいてみた

税制調査会専門家会合(座長 岡村忠生教授)で、早稲田大学の岩崎尚子教授が、「デジタルガバメントの国際比較と経済社会のデジタル化の進展」と題する報告をされた。それによると、デジタル政府世界ランキングでデンマークのように上昇してきた国もあり、日本のように低下傾向にある国もある(スライド10頁)、とのこと。AI利活用も進んでいて、「世界の税務当局の50%以上がAIをリスク評価や不正検知に活用(OECD調査)」(スライド22頁)という。質疑応答を通じて、AI人材不足や自治体対応など、多くの課題が浮き彫りにされた。

中でも重要な課題がAIガバナンスだ。この点について、オーストラリアでは2025年2月、Australian National Audit Office (ANAO)によるレビューが公表されている。このレビューは、豪国税庁(Australian Taxation Office)を対象として、そのAI導入と管理体制に関して包括的な評価を行った。評価の観点は、1)AI導入のためのガバナンス体制が効果的か、2)AIモデルの設計・開発・導入プロセスが効果的か、3)AI導入後のモニタリング・評価・報告が効果的か、の3つ。7つの勧告が出されている。このあたりは、Perplexityで検索をかけてみると、すぐに(日本語で)要約が手に入る。

今日のお話のようにシンギュラリティが予想外に近いのだとすれば、AIが暴走しないための枠組みづくりは税務行政においても大事な課題だと思う。他方で、納税者への助言サービスのほうも急速にAI利用が進むから、民間利用についても考えるべき点が多いはず。

さらに、今後AIが意思決定の前面にでてくるようになると、従来からの通念にも再考が迫られる。すなわち、「人はなぜ自発的に納税するか」については、合理的効用計算だけでは説明できず、社会規範とか信頼とかの要素が働いていると考えられてきた。しかし、AIが損得勘定だけで走るようになっていたら、AIによるプランニングや申告は、生身の人間によるそれとは異なるものになることが容易に予想される。専門家倫理として議論されてきた問題は、私たちがAIに依存するようになった社会では、どうなっていくのか。

さらに憶測を重ねよう。AI主体の納税環境の下では、税務行政のアプローチにも再考が必要になってくる。「人はなぜ納税するか」も違って見えてくるだろう。国ごとの違いが何に起因するかという問い自体が、あるいはひっくりかえるかもしれない。生成AIはつくづく、game changerだ。

2019/09/01

仏デジタルサービス税vs.米ワイン関税引き上げ

The Economistの8月22日付けのこの記事は,フランスが7月25日に導入したデジタルサービス税(DST)について論評する。

まず,フランスのDSTは,GAFA税と通称されており,米国の大きなIT企業を対象にし,しかも課税対象となるサービスも選択的に設計している。つまりフランスのDSTは一国主義的な措置。

ここから先が,今後起こることへの予測になる。米トランプ政権の対応として,大きくふたつの方向。
1)国際協調の方向でのシナリオーー米のWTOへの提訴,さらに,OECDにおける経済のデジタル化をめぐる国際合意策定プロセスの加速(国際合意ができたらDSTをやめると仏はいっている)
2)一国主義の方向でのシナリオーー米国がフランスから輸入するワインなどを標的に関税を引き上げる

視界に飛び込む次の絵から受ける印象は,明らかに2)の方向である。