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2026/07/12

欧州委員会の2026年税制報告書に、納税協力の社会的経済的側面に関する章

欧州委員会租税・関税同盟総局(DG TAXUD)が、Annual Report on Taxation 2026, Directorate-General for Taxation and Customs Union, European Commission, Publications Office of the European Union, Luxembourg, 2026を公表した。

特徴的なのがその第4章で、納税協力の社会的経済的側面を論ずる。

  • 納税者の観点からアプローチ
  • 昨年の2025年版では、タックス・ギャップの測定方法(第4章)と税務行政の役割(第5章)を論じていた
  • 既存研究で明らかにされてきた知見を総合
  • 納税コンプライアンスは、摘発確率と罰則だけでなく、制度の簡素さ、法的安定性、申告支援、源泉徴収・第三者情報、行政能力、公平感、政府への信頼、納税モラルの相互作用による
第4章冒頭の2つの段落(101頁)は、次のように述べている。
課税当局によるコンプライアンス確保の取組みを促進または制約する社会的・行動的要因を理解するためには、納税者の視点を考慮することが有益である。高水準の納税コンプライアンスは、さまざまな制度的・社会的・経済的要因の所産であり、税務行政と納税者との相互作用の結果として生じる。欧州委員会の『Mind the Gap報告書』(2025a)は、各国のコンプライアンス執行の枠組みおよび能力、ならびにその基礎にある決定要因について、包括的かつ詳細な分析を行った。同報告書を補完するものとして、本章は、納税者の視点から納税コンプライアンスを論じる。本章の前提は、納税コンプライアンス確保の取組みが社会構造の中に埋め込まれていること、および、納税コンプライアンスを構成する相互補完的な諸要素を認識することがタックス・ギャップを縮小する取組みに資すること、である。

本章は次のように構成される。4.1で、「租税に対する市民の意識」に関するフラッシュ・ユーロバロメーターのデータから、EUがコンプライアンス執行に取り組むことに対する市民の支持が確認される。また、この節では、租税逋脱と納税コンプライアンスに関する基礎的な合理的選択モデルも紹介する。4.2で、納税コンプライアンスの測定を論じ、租税制度の健全性を示す戦略的指標としてのタックス・ギャップの役割を強調する。4.3で、租税制度のさまざまな側面が、納税者のコンプライアンス行動にどのような影響を及ぼすかを分析的に整理する。4.4で、『Mind the Gap報告書』の国別概要票における分析を参照しつつ、税務行政が有するコンプライアンス執行能力(compliance enforcement capacity)の重要性を強調する。4.5で、自発的納税意欲(tax morale)を論じ、4.6で、本章を通じて取り上げられるフラッシュ・ユーロバロメーターの各変数に対する回答を左右する社会経済的属性を分析する。

この最後の4.6の分析は、次のような結果を示している(114頁以下)。

  • 自営業所得を主たる所得源泉とする者は、租税回避・脱税対策をEUの優先事項と考える確率が10.6ポイント低い。資本所得者では16.1ポイント低い。
  • 自営業者は、申告を容易と考える確率が6.0ポイント低く、専門家を利用する確率が3.6ポイント高い。ところが、税制を公平と評価し、課税当局の支援を十分と考える確率は、むしろ給与所得者より高い。
  • 所得額そのものよりも、所得をどのように稼得しているか、すなわち給与、自営業、年金、社会給付、資本所得という所得源泉の違いの方が、多くの認識を強く説明する。

2026/07/02

ATAD改正案ー欧州委員会はCFCルールをどう改正しようとしているか

[昨日ポストした欧州委員会の提案の続き]

1.現行ATADの構造

現行ATADは、CFC所得の取り込み方法について加盟国に選択肢を与えている(7条2項を参照)。

  • Model A  利子、ロイヤルティ、配当、株式譲渡益、金融リース、保険・銀行・金融所得、低付加価値の請求会社所得など、特定カテゴリーの非分配受動所得を対象にする
  • Model B  税務上の便益を得るために仕組まれた「非真正な取決め」から生じる非分配所得を対象とする(資産・リスク・重要人的機能で識別)。その計算は独立企業原則による(8条2項)
Impact Assessment (5.1.2.1)によれば、17加盟国がModel Aを採用、8加盟国がModel Bを採用、2加盟国が両モデルを組み合わせた変形を採用。このことが、EU域内の断片化、法的不確実性、クロスボーダー企業の追加的コンプライアンス費用を生んでいる、とする。

2.Pillar 2との重複計算

Explanatory Memorandum (13-14頁)は、ATAD上のCFCルールとPillar 2の所得合算ルール(IIR)が低課税所得を親会社側またはグループ側で捕捉するという点で重複する、とする。また、Impact Assessment (5.1.2.2)は、(あ)低課税CFC所在地国のQDMTTと株主所在地国のCFC課税による経済的二重課税という問題と、(い)CFC計算・申告とGloBE計算・報告の重複によるコンプライアンス負担という問題、を指摘する。もっとも、Pillar 2とCFC課税の実際の重複については、Pillar 2施行後の実証データがいまだ乏しいのであって、今回の提案は企業側の意見、ATAD評価及び理論的分析に相当程度依拠している点に注意が必要。

3.改正提案

そこで、主に次の4つの改正を提案している。

  • Model Aの義務化。Model Aは、特定カテゴリーの受動所得を対象とする比較的機械的な方式であり、欧州委員会はこれを、より効果的で、執行しやすく、法的確実性が高い方式と評価している。これに対し、Model Bは、移転価格税制と大きく重なり、各国の移転価格実務に依存するため不統一を生みやすいと評価。
  • Pillar 2対象企業のCFC適用除外。Pillar 2の対象となるMNEグループ又は大規模国内グループに属するEU加盟国の納税者について、原則としてATAD 7条1項から3項のCFCルールを適用しない。なお、改正案7条8項は、5項から7項の定義や適用除外と異なる国内規定を加盟国が維持又は導入することを禁じる(加盟国の上乗せ的な課税を制限)。
  • Side-by-Side制度国に親会社がある場合の特則。Side-by-Side制度国(現時点では米国のみ)にUPEが所在する場合、IIR・UTPRが通常どおり働かないため、単に「Pillar 2対象だからCFC除外」とするとATADの濫用防止水準が低下する。そこで、CFC課税の対象から外すにあたり一定の条件を付す。
  • SME carve-out。小規模・中規模グループおよび国外恒久的施設を有する単体のmicro/small/medium-sized undertaking (これはEU会計指令の用語)について、CFCルールを適用しない。

2026/07/01

欧州委員会が税制簡素化パッケージを提案

1. 提案の概要

欧州委員会は2026年6月24日、EU税制の簡素化パッケージを提案した。

  • 直接税分野の複数指令をまとめて改正する「直接税オムニバス」
  • 税務行政協力指令(DAC)を再編・統合する「DAC Recast」

その目的は、EU税制のコンプライアンス負担を軽減して単一市場の競争力を高めつつ、租税逋脱・租税回避・脱税への防御水準を維持すること。年間約79億ユーロのコンプライアンス・コスト削減を見込む。今後、欧州議会への諮問と理事会での採択手続に付される見込み。

2.直接税オムニバスの骨子

  • EU域内の会社間の配当・利子・ロイヤルティ支払について、源泉税を大幅に除去
  • R&D関連の有形資産について、EU共通の最低限の即時償却・加速償却ルールを導入
  • ATAD関係では、CFC税制とPillar Twoの重複を整理
  • 合併指令、税務紛争解決指令、FASTER指令の改正など
3.DAC Recastの骨子

  • DAC6(MDR)→Pillar Two対象企業について一定のDAC6報告義務から除外
  • DAC7(デジタル・プラットフォーム報告)→オンライン上の商品販売につき小規模・低リスクの売主を報告対象から除外
  • DAC4(国別報告)とDAC9(トップアップ税情報申告)→単一の通知手続を導入
  • TIN(納税者識別番号)についてEUレベルの確認ツールを導入
  • DAC1(基本指令)→生命保険商品を対象除外、残る所得・資本カテゴリーについて交換を義務化
4.各種文書へのリンク

Direct taxation omnibus proposal

2026/02/21

LEARNING RESOURCES, INC., ET AL. v. TRUMP, PRESIDENT OF THE UNITED STATES, ET AL.

トランプ相互関税を違法とする米国連邦最高裁判決がでた

そこでさっそく,「この最高裁判決に関する専門誌の論評を調査せよ」とChatGPTに命じた.

すると,2026年2月20日前後に出た「専門的な論評」(法務・通商実務・判例分析・政策分析寄り)を横断して,次のテクストが生成された.以下,青字がChatGPTの生成したテクスト.

************

結論から言うと、専門誌・実務家向け論評の主要論点は、(1) 判決理由の精密な読み分け(とくに major questions doctrine の位置づけ)、(2) 還付実務(refunds)の設計と権利保全、(3) 代替法源(Section 122/301/232等)による再構築可能性、(4) 実効面では「不確実性の継続」に収斂しています。(最高裁判所)

まず、最高裁判決そのものの最低限の確認です。連邦最高裁は Learning Resources, Inc. v. Trump で「IEEPAは大統領に関税賦課権限を与えていない」と判示し、V.O.S. Selections 側の判決を是認しました(6-3)。判決文シラバスでもその点が明示されています。(最高裁判所)

そのうえで、他の専門的論評をみると、ポイントがいくつかあります。

  1. 判決理由の「多数意見」と「プルーラリティ」を区別する論評(SCOTUSblog)
    SCOTUSblog の詳細分析は、Roberts意見のうち「IEEPAの文理解釈+憲法的背景による結論」(IEEPAは関税法ではない)が6名の法廷意見である一方、major questions doctrine を前面に出す部分は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、法廷意見(majority holding)ではなくプルーラリティにとどまる、と明確に整理しています。これは実務・学説上かなり重要な読み分けです。(SCOTUSblog)
    同じSCOTUSblogの速報でも、Kavanaugh反対意見が「今後の大統領の関税権限を大きく制約しない可能性(他の制定法がある)」と述べている点が強調されています。(SCOTUSblog)

  2. 実務家向け通商・税務論評は「還付(refund)実務」を中心に据える
    Thomson Reuters Tax & Accounting は、企業税務・通商コンプライアンスの観点から、この判決を「大規模還付機会(最大1750億ドル規模)」として位置づけ、判決理由そのものよりも、どの輸入申告が対象か、どう計算・請求するか、期限管理をどうするかという実務課題を前面に出しています。特に、対象エントリーの特定、金額算定、抗議(protests)や post-summary corrections の検討、時効・期限管理の重要性を整理している点が実務色の強い特徴です。(tax.thomsonreuters.com)

Holland & Knight も同様に、最高裁は還付の要否・手続を具体的に指示していないため、権利保全のために記録整理と行政手続(PSC、protest、liquidation延長等)を早期に進めるべきだと整理しています。加えて、判決理由の内部構造(major questions を使ったのは3名、Kaganらは通常の文理解釈中心)まで比較的丁寧に要約しており、判例解説+実務対応のハイブリッド型です。(ホランド・アンド・ナイト)

Norton Rose Fulbright は、還付論点をさらに細かく扱い、(a) CIT(国際貿易裁判所)の全国的差止めの射程、(b) 不法徴収(illegal exaction)的整理、(c) reliquidation の可能性、(d) Customs の今後のガイダンス、(e) 「輸入者記録上の importer of record」にしか政府還付が直接行かないため、私法上の契約紛争(だれが最終的に返金を受けるか)が増える可能性、まで踏み込んでいます。これは The Economist の「refundsはmessになり得る」という指摘を、実務的に具体化した論評と言えます。(nortonrosefulbright.com)

  1. 代替法源(Section 122/301/232等)に関する評価は、概ね「再構築可能だが、機動性は落ちる」で一致
    Holland & Knight は、Section 122(上限15%、150日)、Section 301、Section 232、Section 201、Section 338 などの代替法源を列挙し、それぞれの法的要件や調査手続の必要性を示したうえで、政権がIEEPAの代替として組み合わせるシナリオを解説しています。特に Section 122 の時間制限と、150日の間に301調査を走らせる構図は、The Economist の分析と整合的です。(ホランド・アンド・ナイト)
    Thomson Reuters も同様に、今後は Section 232/301/122、AD/CVD、立法対応などへ政策手段がシフトすると整理しています。(tax.thomsonreuters.com)

  2. 政策分析・国際関係系の専門論評は「不確実性の持続」と対外交渉への影響を強調
    Chatham House の専門家コメントは、法理そのものよりも、北米(USMCA)や各国との交渉実務に与える影響を重視しています。Heather Hurlburt は、判決が IEEPA 系の包括関税を大きく削ったとしても、232/301ベースの関税は残り、還付も命じていないため、実効面での変化は限定されうると指摘しています。(チャタムハウス)
    また Julián Ventura は、Section 122 による新たな10%関税の示唆と、対象・適用・実施の細目が未確定であることから、「uncertainty will continue to be the name of the game」と評価し、貿易相手国側の対応困難性を強調しています。(チャタムハウス)

  3. データ分析系(Global Trade Alert)は「法理」ではなく「関税水準の量的インパクト」を提示
    Global Trade Alert の分析は、IEEPA関税が剥落すると米国の輸入加重平均関税率が 15.4% から 8.3% に低下し、7.1ポイント下がると定量化しています。また、何が落ちて何が残るか(IEEPAのベース関税・上乗せ・緊急EOは無効、232/301/MFNは残る)を明示しており、政策効果の即時測定として有用です。(globaltradealert.org)
    これは The Economist の「実効関税率が約半分に」という記述と整合的ですが、GTAの方が「どの法源ベースの関税が残存するか」をより構造的に示しています。(globaltradealert.org)

************

(増井のコメントに戻る)

なるほど.上記で引用されたリンクは実在し,確認できた.

そこで次に,ChatGPTのプロンプトをそのままフォローして,上のまとめを租税法・通商法の視点から,①判決法理,②救済実務,③比較法の順に整理させた.①②③の3項目は,ChatGPTのおすすめをそのまま(=無反省に)フォローしただけのもの.

すると,次のテクストが生成された.

************

本件の出発点は明確です。最高裁は Learning Resources v. Trump で、「IEEPA(International Emergency Economic Powers Act)は大統領に関税賦課権限を与えない」と判示しました。シラバス上も、争点はまさに「IEEPAが関税を許容するか」であり、結論は否定です。

  1. Delegation / Major Questions / Nondelegation の論点整理

この判決で最も重要なのは、「何が法廷意見(majority holding)で、何がそうでないか」を切り分けることです。SCOTUSblog の整理が有用で、6名が参加した法廷意見部分(Parts I, II-A-1, II-B)は、IEEPAの文言・構造・憲法的背景を用いて、IEEPAは関税を授権していないと解しています。他方、major questions doctrine を用いた部分(Parts II-A-2, III)は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、プルーラリティにとどまります。つまり、「major questions で勝った事件」ではあるが、同時に「文理解釈で6名が一致した事件」でもある、という二層構造です。

法廷意見(6名)レベルのコアは、かなり古典的かつ租税法的です。最高裁シラバスは、(a) 憲法上、関税は Article I の taxing power(Congress)に属すること、(b) IEEPAの列挙権限には tariffs/duties の明示がないこと、(c) “regulate . . . importation” を「課税権限」まで含むと読むのは不自然であること、(d) 政府も「regulate」が「tax」を意味した他の制定法例を示せなかったこと、を並べています。さらに “regulate exportation” まで課税を含む読みになりかねず、輸出税禁止との緊張も指摘しています。これは、授権立法の解釈として「税・関税は明示的授権を要する」という強いシグナルです。

そのうえで、Roberts/Gorsuch/Barrett の3名は major questions doctrine を前面に出し、「非常に大きな経済・政治的重要性を持つ権限主張には clear congressional authorization が必要」「緊急事態法制だからといって例外はない」「外交・通商文脈だからといって例外はない」と述べます。ここは今後の行政法・通商法訴訟への波及可能性が大きい。ただし、Kaganら3名は結論には賛成しつつ、「通常の法解釈で足りる。major questions の“thumb on the scale”は不要」と距離を置いています。したがって、本判決の将来射程を読む際は、「IEEPAの解釈に関する先例価値」と「major questions 拡張の先例価値」を分けて扱う必要があります。

Kavanaugh反対意見(Thomas, Alito joined)は、別の意味で重要です。Reutersが要約する通り、反対意見は「今回の判決は大統領の関税権限全般を大きく制約するとは限らない。単に IEEPA という“間違った statutory box”を使っただけだ」と見る。これは、判決の制度的意味を「大統領通商政策の全面否定」ではなく「IEEPAの否定」に限定する読みです。実務上は、この反対意見の評価がそのまま次の争点(122/232/301等)に接続します。

  1. 関税還付の法的性質と実務(illegal exaction / reliquidation / protest)

The Economist の「refundはmessになりうる」という指摘は正確ですが、専門実務論評を読むと、その“mess”の中身はかなり具体的です。SCOTUSblog は、最高裁の判断が解決したのは「授権の有無」であり、refund mechanism(還付の仕組み)や restitution(返還命令)、行政上の回収手続には触れていない点を強調しています。しかも返金の明示的議論は主として Kavanaugh の反対意見側に現れる。つまり、救済は「次段階の訴訟・行政実務」に委ねられている、という構造です。

Norton Rose Fulbright の論評は、この救済論点を最も実務的に分解しています。そこでは、CIT(Court of International Trade)の全国的差止めと、違法関税の徴収金を政府が保持できないという違法徴収(illegal exaction)的な整理を前提に、還付は原則として視野に入るが、具体的な経路は CIT と Customs(CBP)の運用次第だとされます。さらに、reliquidation(再清算)命令の可能性、CBPガイダンス(Federal Register やCSMS)による実務設計、そして未清算 entry と既清算 entry の手続分岐(PSC / protest)が指摘されています。これは、救済法の問題が、行政手続・税関実務・時間管理の問題へ直ちに変換されることを示しています。

この点は、租税法研究者の目で見ると興味深いです。違法課税の返還という一見単純な命題が、通商実務では「誰に返すのか(法的納税者/importer of record)」「どう請求するのか(PSC / protest / CIT complaint)」「いつまでに請求するのか(liquidation 状態・時効・不服申立期間)」「誰が最終的に経済的利益を受けるのか(価格転嫁・契約条項)」という複数の層に分かれます。Norton Rose Fulbright は、政府還付の名宛人は importer of record に限られ、輸入者に償還した第三者には政府から直接還付されないため、契約解釈・私法紛争が増えると警告しています。

Holland & Knight も同様に、判決は refund の要否・運用を決着しておらず、企業側は権利保全(preservation steps)を先行させるべきだと位置づけます。実務家論評の共通トーンは、「勝訴=即自動還付」ではなく、「勝訴+別途の救済・事務プロセス」が必要、という点にあります。

  1. 日本法・WTO法との比較可能な視点

比較法的に見ると、本判決の第一の含意は、「通商政策でも、課税(関税)である以上、授権の明確性が要求される」という統治構造の再確認です。最高裁は関税を Article I の taxing power に明確に接続し、IEEPAの一般的な “regulate importation” から関税権限を引き出す解釈を拒否しました。これは、行政裁量の広い通商・安全保障領域であっても、課税授権には明示性が必要だというメッセージです。日本法の観点からいえば、租税法律主義・課税要件法定主義の議論と比較可能な構造を持ちます(もちろん米国では憲法構造・delegation doctrine の文脈で語られる点が異なる)。

第二に、WTO法との関係では、本判決は直ちに「関税政策の国際法適合化」を意味しません。Reuters も示すように、政権側は他の法源(Section 232/301 等)への切替を明確に示唆しており、実際に判決直後に別法源による10%関税を公表しています。Holland & Knight や Norton Rose Fulbright の整理でも、Section 122(短期・上限付き)、232、301、201、338 など複数の代替経路が列挙され、IEEPA喪失後も高関税政策の再構築は可能と見られています。したがって、本判決の主効果は「関税水準の恒久的低下」よりも、「法源の付け替え・手続の増加・時間差の発生」にあるとみるのが妥当です。

第三に、比較租税法的に面白いのは、「違法な徴収の返還」が財政・政治・私法・行政手続を横断して問題化している点です。Norton Rose Fulbright は、還付額規模ゆえに議会が timing や制約を立法的に設ける可能性にも触れています。これは、租税法でいう不当利得返還・過誤納還付の問題に似て見えつつ、通商法では制度設計がより多元的(CIT、CBP、契約実務、連邦議会)であることを示します。研究上は、「違法課税の救済」を租税手続法だけでなく通商救済法・行政救済法の交点として捉える素材になります。

***********

(増井のコメントに戻る)

ふーん.3つの整理のうち,①法廷意見の2層構造の指摘や,②反対意見の評価がそのまま今後の還付実務につながってくる,というあたりが参考になる.③比較法のところは,要検討.ChatGPTが「比較租税法的に面白い」というテクストを生成するとき,どんな学習経路でそうなるんだろうか.

以上,後半の3つの整理についてはともかく,前半の論評調査からは,今回の敗訴を受け,政権は別の狭いやり方で相互関税を維持しようと試みるだろう,という見通しが得られる.日本企業の目からすると,投資約束への影響が目下の関心事.

2026/01/29

(さらに続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

【今回】

ちょっと大風呂敷を広げている感じがしたので、ハルシネーションではないかどうか、確認してみた。

Q 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

これに対する応答は、以下の通り。所要時間52秒。


以下引用***********

上記の「法学全体の研究潮流」は、特定の1冊に依拠した叙述ではなく、(少なくとも英語圏を中心とする)法学の“プログラム論文/概念史的整理/方法論宣言”として広く参照される文献群を、いくつかの軸で**総合(triangulation)**して描いたものです。依拠したソースの「類型」と「代表文献」を、私が使った対応関係が分かるように整理します。


1) 「ガバナンス転回(規範中心→統治・実装中心)」の根拠

ここは、行政法・規制研究・公共政策の交点で形成された“regulatory state / governance”系の古典と、法学内部の “New Governance” 論が柱です。

  • **Regulatory state(規制国家)**の概念化:Majone「From the Positive to the Regulatory State」など(規制による統治へのシフトを説明)(Cambridge University Press & Assessment)

  • **Governance(governing without government)**の整理:Rhodes「The New Governance」(SAGE Journals)

  • 法学内部での“New Governance”宣言:Lobel「Setting the Agenda for New Governance Research」(規制領域横断の研究潮流として提示)(scholarship.law.umn.edu)

私の叙述で言う「正当化だけでなく、誰が・どの手続で・どう運用するかへ」という部分は、この系譜(規制国家+新ガバナンス論)に依拠しています。(Cambridge University Press & Assessment)


2) 「トランスナショナル化(国内法の閉域→国際的ルール形成・ソフトロー・相互運用)」の根拠

ここは、国際法/国際関係法の側の“トランスナショナル法過程”と、国際機関・私的主体を含む規制の「行政法化」を論じる潮流が柱です。

  • Transnational Legal Process:Koh「Transnational Legal Process」(国家・非国家アクターが複数フォーラムで規範を“作り・解釈し・執行し・内面化する”という枠組み)(UNL Institutional Repository)

  • Global Administrative Law(グローバル行政法):Kingsbury/Krisch/Stewart「The Emergence of Global Administrative Law」(国際機関等の意思決定に、手続・理由提示・審査など行政法的コントロールが立ち上がるという整理)(Duke Law Scholarship Repository)

私の叙述で「条約だけでなくモデルルール・ソフトローが実質拘束」「法源・正統性が前景化」としたのは、この2つ(TLP+GAL)の議論枠組みを下敷きにしています。(UNL Institutional Repository)


3) 「実証・社会科学化(Empirical/Socio-legal turn)」の根拠

ここは、**Empirical Legal Studies(ELS)**の制度化を示す編集序文・ハンドブック類と、法と社会(socio-legal studies)の系譜です。

  • JELS創刊と方法論宣言(ELSの自己定義・制度化の指標):Eisenbergら「Editor’s Introduction」(Journal of Empirical Legal Studies, 2004)(Wiley Online Library)

  • ELSの概説・位置づけ:Eisenberg「The Origins, Nature, and Promise of Empirical Legal Studies」(2011)や、Oxford Handbookの導入部(ELSの国際的拡がりにも言及)(scholarship.law.cornell.edu)

  • 規制研究と“応答的規制”(法執行のデザインを社会科学と結ぶ代表作):Ayres & Braithwaite『Responsive Regulation』(1992)(John Braithwaite)

私の叙述で「解釈学だけでなく制度効果の検証が標準化」「コンプライアンス研究が方法論的に拡張」とした部分は、ELSの制度化(JELS等)+応答的規制の流れに依拠しています。(Wiley Online Library)


4) 「データ化・AI化(アルゴリズム行政/手続保障の再設計)」の根拠

ここは比較的新しい領域なので、行政法原理(適正手続・説明責任・裁量統制)を、アルゴリズム意思決定にどう移植するかを論じる研究が中心ソースです。

  • 公共部門におけるアルゴリズム意思決定と行政法原理:Oswaldら「Algorithm-assisted decision-making in the public sector…」(2018)(royalsocietypublishing.org)

  • アルゴリズムが「ルール」か「ガイダンス」か(手続法=APA等との接続):Henderson & Krass「Algorithmic Rulemaking vs. Algorithmic Guidance」(2023)(jolt.law.harvard.edu)

  • 「手続的正義」や“voice(聴聞・参加)”の欠落を論じる近時研究:Kinchin「Voiceless: the procedural gap in algorithmic justice」(2024)や、due process by design(2025)(OUP Academic)

私の叙述で「説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点」とした部分は、こうした“algorithmic governance × administrative law/procedural justice”文献群に依拠しています。(royalsocietypublishing.org)


5) 要するに、何に依拠して“潮流”と言っているのか

私が「潮流」と言うときの根拠は、だいたい次の4種類です。

  1. 分野を定義した古典(概念装置の提示):Majone(規制国家)、Rhodes(ガバナンス)、Koh(TLP)、Kingsburyら(GAL)(Cambridge University Press & Assessment)

  2. 法学内部での方法論・運動の制度化:JELS創刊序文、ELS概説・ハンドブック(Wiley Online Library)

  3. 実装・執行設計を軸にした学際の定番:Responsive Regulation(John Braithwaite)

  4. 新領域(AI等)で行政法原理を再定式化する近時研究:Oswald、Henderson & Krass、Kinchin など(royalsocietypublishing.org)


(続く)

(続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

【その続きがこのページ】

続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。

以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

すると即座に、以下のテクストが生成された。


以下引用*********************

法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。


1. 法学全体の大潮流:規範中心から「統治・実装・データ」へ

近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。

(1) “規範の正当化”だけでなく、“統治(governance)”の設計論へ

  • 何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。

  • 行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)

→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。

(2) 国内法の閉域から「トランスナショナル化」へ

  • 条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。

  • 法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。

→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。

(3) 実証・経験科学との接続(Empirical/Socio-legal turn)

  • 立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。

  • これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。

→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。

(4) デジタル・データ化と法:手続保障の再設計

  • AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。

  • 行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。

→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。


2. 租税法研究動向は、法学的には「規制・行政・国際秩序」の結節点

上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。

(A) 国際秩序形成(国際法/国際経済法/グローバル行政法)

  • BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。

  • 典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。

(B) 行政法・規制法(執行、プロセス、裁量統制)

  • 情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。

  • 典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。

(C) 企業法・金融法・会計(ガバナンス/開示/リスク管理)

  • 税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。

  • 典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。

(D) 刑事法・制裁論(抑止+規範)

  • 脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。


(続く)


2026/01/06

昨夜のOECD SbS packageへの各界反応まとめ

昨夜のリリースから丸1日たたないうちに、世界中でいろんなコメントがとびかっている。ChatGPTに調べさせたら、リンク付きで、下記引用のまとめがでてきた。

  • リンク先をたどってみると、かなり裏が取れている印象
  • ただし6)については「実務家がこういっている」というリンクは付いておらず、OECD文書へのリンク
  • 日本の記事については、「今回(2026年1月5〜6日頃の報道)は、国内ではまず通信社(ロイター/共同)電が流れ、それを地方紙サイトやポータルが掲載する構図が強いように見えます」とな

ーー以下引用ーーーーーーーーーーーーーーー

主要な反応の整理(リンク付き)

1) OECD自身の位置づけ(「安定・確実性」「途上国の一次的課税権」)

OECDは、147の包摂的枠組み参加国・地域が「グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)の協調運用の今後(way forward)」に合意したとし、“side-by-side”(既存ミニマム課税との並立)を通じて国際課税アーキテクチャの安定性・確実性を確保する、という語り口です。また「特に途上国の一次的課税権(first taxing rights)の保護」を強調しています。 (OECD)


2) 米国政府(財務省):明確な「非適用」・主権フレーミング

米国財務省は、今回の合意を「米国本社(U.S.-headquartered)の企業はPillar Twoの適用を免れ、米国のグローバル・ミニマム課税(米国ルール)のみが適用される」という成果として説明し、米国の主権R&Dクレジット等のインセンティブ価値の保護を前面に出しています。 (U.S. Department of the Treasury)


3) EU/加盟国(例:アイルランド):確実性を歓迎しつつ「2029年レビュー」で歯止め

アイルランド政府は、SbSパッケージ採択により、制度全体としての**certainty / stability(確実性・安定性)**が高まる点を歓迎しています。他方で、**2029年のstocktake(点検)**を明示し、リスクや競争力上の問題が生じた場合に是正する枠組みも強調しています(欧州委員会の影響評価にも言及)。 (gov.ie)


4) 産業界・ビジネス団体:実務負担の低減、二重課税回避、予見可能性

産業界の反応は概ね「理念」よりも、コンプライアンス/二重課税/予見可能性の観点から肯定的です。

  • **NAM(全米製造業者協会)**は、投資・雇用・競争条件の観点から「大きな勝利」と位置づけ、確実性が増す点を強調しています。 (NAM)

  • **NFTC(全米対外貿易評議会)**は、SbS統合に伴う「意図しない影響」を最小化する観点から、今後のOECDガイダンス精査と関与を表明しています。 (National Foreign Trade Council)

  • **ICI(投資会社協会)**は、セーフハーバーが米国ビジネスを「重複する外国ミニマム課税」から守る点で、議会・政権の方針と整合的だと述べています。 (ici.org)


5) 市民社会・タックスジャスティス系:強い「後退」「骨抜き」批判

タックスジャスティス/透明性を掲げる団体は、SbS合意を「実質的な米国多国籍企業の保護(適用除外)であり、Pillar Twoの趣旨を弱める」と批判しています。

  • Tax Justice Networkは、OECDが“side-by-side system”により米国を免除する形になったと批判的に評価しています。 (Tax Justice Network)

  • FACT Coalitionは、米国企業がPillar Twoの主要要素から引き続き免除されることは、法人税回避との戦いにとって「後退」だと述べています。 (The FACT Coalition)


6) 実務家・テクニカル論点:SbS/UPEセーフハーバーの運用効果が焦点

実務面で最も注目されているのは、SbSおよびUPEセーフハーバーの「効き方」です。Side-by-Side Packageでは、例えば以下が明示されています。

  • SbSセーフハーバー:UPEが「Qualified SbS Regime」所在なら、選択により当該年度のIIR/UTPR上のTop-up Taxをゼロ扱いにするメカニズム。 (OECD)

  • UPEセーフハーバー:2026年1月1日以降開始年度から適用、UTPR上、UPE所在国分のTop-up Taxをゼロ扱いにし、適格要件として少なくとも**名目法人税率20%**などを掲げています(QDMTTの運用には影響しない旨も明記)。 (OECD)


参照リンク(一次資料)


報道ベースの概況(参考:リンク集)

2025/12/25

大企業の税務コンプライアンスを考える

大企業の税務コンプライアンスを考える」と題する講演を、日本租税研究協会の第77回租研大会記録に掲載していただいた。2025年9月17日に東京の日本工業倶楽部で口頭報告した原稿をもとに、当日にフロアからいただいたコメントを織り込んで活字にしたもの。

この講演では、5 つの問いをたてて、考えてみた。

  •  大企業の税務コンプライアンスがなぜ重要か
  • 協力的コンプライアンス(cooperative compliance)の研究状況はどうなっているか
  • 応答的規制(responsive regulation)の理論的基礎はどこまで強靭か
  • 日本の取組みはどうなっているか
  • 租税の確実性(tax certainty)は神話なのか

結果の一部を記すと、第2の点について、協力的コンプライアンスは、OECDの2013年報告書を基本文書として、内外で意欲的に研究されてきた。第3の点について、 応答的規制の理論的基礎は、協力的納税者と非協力的納税者の分布に依存しており、そのため両者をどう判別するかという課題がある。第4の点について、 日本の取組みとして、2011年から税務コーポレートガバナンスの働きかけがはじまり、対象拡大やインセンティブ付与をめぐって議論が続いている。このように、過去10年の議論状況を整理し、意見を述べることができた。

フロアから最も反応を得たのは、第5のtax certaintyに関する点で、"good enough" complianceを求めるべきだ、というPeter Barnes教授の指摘への共感が明らかに存在した。加算税の「正当な理由」や、企業がPillar Twoに対応するためのコンプライアンス・コストなど、まさに具体的な素材が関心事なのだとわかる。




2025/07/15

駒場「現代と法」オムニバス講義最終回

白石忠志先生の肝煎りで、本年度も駒場「現代と法」オムニバス講義が開かれた。その最終回に呼んでいただいた。断続的な雨の中、朝から多くの学生さんが出席してくれた。

1.私のプレゼン

昨年に続き、《人はなぜ納税するか》について手短にお話しした。私の主要なメッセージは、納税行動が単純な損得勘定だけでは説明できず、知的に興味深いパズルを提供している、ということだ。公共財提供に関するフリーライド問題からはじめ、租税債権の自力執行権や脱税に対する加算税や罰則などの制度的背景を概観したのち、今回はとくに、Steinmoらの歴史的制度論と実験室実験に焦点を絞って、「ある国で脱税が多く別の国で脱税が少ないのはなぜか」という問いを扱った。しかるのち、より実践的な課題に視点を切り替えて、応答的規制の税務行政への応用としてのValerie Braithwaite (2003)の「執行ピラミッド」を紹介し、tax gap推計の有用性や、Tax Administration 3.0言及しようとしたあたりで、制限時間になった。

2.白石先生の助け舟

私のプレゼンの途中で、いくつか枢要な点について白石先生から「助け舟質問」があった。それらは、私のプレゼンでロジックが飛んでいる点や、比喩的・印象論的な言葉使いをしている点についての的確な指摘だった。ありがとうございます。

  • (指摘)単純なTAG(Taxpayer as Gambler)モデルだと「ばれてもともと」ということになるというが、どういうことか?→(増井応答)事前(ex ante)の見地からみた期待値ベースで、実調率を織り込んで「合理的(これはとても限定的な意味におけるそれ)」に損得計算するとそうだ、という意味。本税に加えて制裁としての加算税を納付する場合であっても、摘発確率との関係でそうなる、というロジックだ。
  • (指摘)「執行ピラミッド」にいう協力的態度と非協力的態度を、課税庁はどうやって見分けるのか?→(増井応答)応答的規制の考え方では、ピラミッドの下から上へと、規制を徐々に強めていくことで判別する。まず全員に対して広報や教育、サービスによって助力する対応をとる。それでうまくいかない場合には記帳指導などかかわりを強めていく。抵抗があればサンクションを伴う税務調査へと、さらには刑事告訴にまで至る。
  • (指摘)リアルタイムでシームレスに情報が共有され、「ガラス張り」になる、というとき、カネの出入りが分かるようになるのは誰か?→(増井応答)国だけでなく、取引相手全体で情報を共有するイメージ。その利点はコンプライアンス費用削減だが、いいことばかりといえるかが考えどころ。国と事業者の間の情報共有に抵抗が少なくなるのは、国への信頼が確立している場合であろう。→(再指摘)事業者間の文脈では、強い業者が弱い業者に事業情報の開示を強要することが問題となる例がある。
3.ゼミ有志の檀上意見開陳

今回の授業では、本セメスターのゼミ有志が檀上意見開陳をしてくれた。その場で応答できなかったので、ここに感想を書いておこう。
  • (意見開陳)Steinmoらは、自己利益・規範・価値がどのように納税コンプライアンスに影響するかを実験室実験で調べている。そこで想定されているのは、制度(institutions)がインセンティブを通じて自己利益に働きかけ、徐々にその集団の暗黙のルールとして固定化されて規範となる、というループ。しかし、規範が先行し、あとから政府が制度を導入する、という例もあるのではないか?→(増井感想)規範から制度へというループもあるかもしれない。Steinmo & D'Attoma (2021)59頁の下の方の段落でも、Bergman (2009, 42)を引用して、the institutionalization of normsを語っている。うまい具体例をおもいつけていないのだが、たとえば、「Aについては皆が納税していない」「それをうけて法律でAを非課税とする」といったような場合だろうか(?)。
  • (意見開陳)Steinmo (2018)は、スウェーデンのルター派教会とイタリアのローマ・カトリック教会の果たした役割を対比する。そこで、宗教は文化か制度か、という問いを提起したい。→(増井感想)この意見開陳において、宗教の内容でなく宗教の組織について話します、と慎重に補足された点が大事だと思う。「教会が制度だ」というときには、教区人口の世帯構成や不動産所有状況などを把握し、その情報を管理する能力に着目している。それは世俗組織の営むmonitoring機能と変わらない。なお、重要な補足として、スウェーデンとイタリアの現況を歴史的制度論でもって説明するこの話を相対化するものとして、Steinmo & D'Attoma (2021)の実験結果は、単純な文化論やステレオタイプを排している。つまり、人々の遵法志向の分布は似通っており、むしろ制度の強弱が実際のtax gapの違いをよりよく説明する、というのである。
4.フロアからの質問もあった。これに対してはその場でごく簡単に応答した。
  • (質問)巨大IT多国籍企業のような場合、Steinmoらの語る自己利益・規範・価値という枠組みは通用するか?→(増井応答)株式会社の場合、株主利益の最大化という意味で自己利益で説明できそうだが、これに対してはESG投資など別の流れもある。日本企業は欧米企業ほどagressive tax planningをしないという話がある。→(指摘)増井応答の後半とかぶるが、日本のJTC(Japanese traditional company)と呼ばれる企業の行動原理は、評判を重視する。
  • (質問)税務調査にかかる人件費などのコストと比べて、税収回復やみせしめ効果などは計量できているのか?→(増井応答)EBPMの課題だ。これの18頁。

5.Braithwaite再訪

今回の準備過程では、Valerie Braithwaiteの仕事の意味がすこしわかってきた。彼女の「執行ピラミッド」は、オーストラリアでのアンケート調査によって納税者の態度(motivational postures)を析出したもので、心理学の手法で仮説を検証していた。一人の個人が複数の態度を併せ持つことがありうること、態度と行動は必ずしも一致しないこと、抵抗を対話の契機ととらえるオープンな姿勢、などは、執行ピラミッドを「独り歩き」させないための重要な留保だと思う。

私が熱烈に知りたいのは、このピラミッドの形状が現在の日本でどうなっていて、これからどのように変化していくかである。

6.おわりに

昨年度の「現代と法」に出ていた学生の方から、「今年のほうがレジュメがわかりやすかった」とのお言葉があった。1年たつと(すこしは)進化する。すなおに誉め言葉ととっておきたい。

2025/06/29

グローバル・ミニマム課税に関するG7声明

 米国Bessent財務長官の発言が先行していたところ、G7の声明が出て、Pillar 2ルールと米国ルールとの共存(side-by-side)について合意された旨が公になった。財務省サイトに日本語仮訳が出ている。

G7の声明第3パラグラフによると、共有された「理解」の内容は次の4点(上記日本語仮訳を参照)。

  • 共存システム(a side-by-side system)では、米国親会社グループの、米国内利益および米国外利益の双方について、UTPRおよびIIRから完全に免除する。
  • 共存システムでは、その共通の政策目的を保持するため、公平な競争環境の観点から特定される重大なリスク、または税源浸食と利益移転のリスクが対処されることへのコミットメントを含む。
  • 共存システムの実現に向けた作業は、「第2の柱」全般に係る執行とコンプライアンスの枠組みの大幅な簡素化(material simplification)の実現と並行して行われる。
  • 共存システムの実現に向けた作業は、「第2の柱」における実質ベースの還付無税額控除(substance-based non-refundable tax credits)の取扱いが、還付付税額控除の取扱いとより整合的になることを確保する変更を検討することと、並行して進められる。

声明はさらに、包摂的枠組み(IF)での議論を期待すること(第5パラグラフ)、米国の899条報復税の削除が上記の理解にとって極めて重要(crucial)であること(第6パラグラフ)、を述べる。なお、第4パラグラフでは、「デジタル経済の課税に関する建設的な対話及びすべての国の課税主権の保持を含む、国際課税システムの安定化のさらなる進展」として、Pillar 1に言及。

以上を受けて、OECD事務総長が、G7声明を歓迎する旨の声明を公表している。英国HM Treasuryの声明は、899条の削除を歓迎。報道いろいろと。

2024/08/26

中里古希祝賀論文集

市場・国家と法 -- 中里実先生古稀祝賀論文集が公刊された。租税法の基礎理論、租税法の実践的展開、租税法と公法、租税法とビジネスロー、古希をお祝いして、の5部構成。以下に目次をコピペする。

目次

租税法の基礎理論

最小国家における租税と貨幣 ……………………………………………………渡辺智之

所得の発生と通貨…………………………………………………………………藤岡祐治

所得と自由──ベルクソンからフィッシャーへ……………………………………岡村忠生

租税法と経済学と神経科学──Law, Economics and Neuroscience…………神山弘行

準自発的コンプライアンスについて………………………………………………増井良啓

制定法解釈における議会議事録の参照──イギリスのPepper v. Hart判決の分析…吉村典久

経営判断原則と租税法判断──租税回避否認要件に係る経済的合理性基準の研究…谷口勢津夫

租税法が企業の価格決定に介入することの限界について …………………藤原健太郎

Andreas Kallergis『課税管轄権』を読む……………………………………田中啓之

外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)の趣旨とその解釈のあり方…長戸貴之

政府系ファンドへの課税問題──国際法の観点から……………………………………中谷和弘

租税法の実践的展開

信託型ストック・オプションに関する租税法上の解釈問題……………………………渡辺徹也

受益証券発行信託型STO・PTS取引に対する適正な課税方法 ──特に不動産セキュリティ・トークンを素材として……………………………………………岩﨑政明

租税属性の移転可能性をめぐる議論──税額控除の給付・移転の広がりを素材に …吉村政穂

企業ファイナンスへの課税の影響Ⅱ……………………………………………橋本慎一朗

資産評価の文脈──国際課税と消費型所得概念を視野に入れつつ…………浅妻章如

租税法上の行政制裁の現状と展望………………………………………………佐藤英明

租税法における後発的事由………………………………………………………渋谷雅弘

執行可能な税制──構造的執行欠缺理論を手がかりに…………………………巽 智彦

国税犯則調査の性質──犯則調査は法体系上の「夾雑物」あるいは「鵺」か…笹倉宏紀

租税法と公法

ジャン・ボダンの主権論に関する覚書 …………………………………………長谷部恭男

準死について──人に関する研究ノート………………………………………小島慎司

納税の義務…………………………………………………………………………石川健治

スタンリー・サリーと日本における行政法の変容──理由附記法理の「原意」をめぐって

………………………………………………………………………………………渕 圭吾

国立大学法人の組織法──国際卓越研究大学の制度を契機として …………山本隆司

パテント・リンケージをめぐる行政法上の問題点──医薬品承認制度と特許権保護の交錯

………………………………………………………………………………………興津征雄

国家の経済活動関与と租税国家──近代日本からの考察一斑………………齋藤 誠

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による積立金運用と法規定………太田匡彦

租税国家原理とは何か──その来歴とゆくえ……………………………………田尾亮介

財政法学の体系に関する試論──特に租税法との関係を念頭において………藤谷武史

公益法人と信託──実体法と税法の交錯…………………………………………溜箭将之

租税法とビジネスロー

ペイレシオ開示の目的とあり方について …………………………………………松井智予

米国におけるスタートアップ企業の組織形態選択と課税………………………星 明男

不正競争防止法における品質等誤認惹起行為……………………………………白石忠志

2023年企業結合ガイドラインにみるバイデン政権下の反トラスト政策 ………滝澤紗矢子

知的生産活動における「資源管理」と法──学際的な議論に向けた準備作業…小島 立

商標権の譲渡をめぐる問題──知的財産権取引と課税の議論の前提として …渕 麻依子

古稀をお祝いして

J. Mark Ramseyer/真砂 靖/古谷一之


中里実先生略歴/中里実先生著作目録

2024/06/06

世銀が税務行政ハンドブックを公表

世銀がRevenue Administration Handbookを公表していた。税務行政(関税行政を含む)の構造と運営について包括的かつ体系的な叙述を行うもので、税務行政に関するまとまった教科書になっている。全体で214頁。7章構成、6つの付録がある。著者は世銀のRaúl Félix Junquera-VarelaとCristian Óliver Lucas-Masである。

このハンドブックの第5章が、租税制裁(Tax Sanction)の枠組みに関するガイドラインである。中でも111頁以下に、tax penaltiesについて、その設計に関するベストプラクティスのガイドラインがある。ここにtax penaltiesとは、禁止された行為に対して、または、無申告や過少申告など義務の不履行に対して、租税法が科す(課す)制裁措置のことである。日本法に引き付けていえば、罰則や重加算税がこれに相当するであろう。ハンドブックは、tax penaltiesには懲罰機能(punitive function)と抑止目的(deterring aim)があると述べている(111頁)。なお、この章はこれとは別にsurchargeとinterestについて論じており、こちらは日本法上の過少申告加算税や延滞税に相当する。

さて、この意味におけるtax penaltiesに関する望ましい設計ガイドラインを示すための前提として、ハンドブックは、以下の認識を示している。それ自体として興味深いものであるので、中心的な4つの段落を抜き出して、その部分を全訳しておこう(111-112頁)。

  • いくつかの研究の知見によると、納税者は、摘発される確率が 4%以下と非常に低い場合には、摘発される確率よりも刑罰の大きさにヨリ敏感である(Jackson and Jones 1985)。他の研究者たち(Schwartz and Orleans 1967)は、刑事制裁の厳しさと高所得自営業者のコンプライアンスとの間に有意な関係があることを観察している。これはまた、制裁に関する類似研究により支持されており、その研究によると、法的制裁は高階層と高学歴層に最も効果的であることを示している。これらの研究はまた、うしろめたい感情という脅威の方が、法的制裁の威嚇やスティグマよりも、脱税に対する抑止力になることを発見している。
  • しかしながら、研究(Allingham and Sandmo 1972)は、摘発される確率が閾値に達すれば軽罰も厳罰と同程度に抑止効果があることを示す証拠を提供している。罰則の厳しさは、必ずしも納税コンプライアンスに直線的な効果をもたらすとは限らない。Jackson and Milliron (1986)は、制裁の社会的コストが利益を上回る可能性があるとしている。制裁が厳しすぎると認識されると納税者は集団として疎外され、結果として、一般的な反感や法律軽視を生む可能性がある。他方で、制裁水準の引き上げが納税者のコンプライアンスに及ぼすプラスの効果は、比較的低く現実的な罰則水準が用いられる場合にも維持されることがわかっている(Carnes and Eglebrecht 1995)。
  • Keinan (2006)とAlm (2013)を含むほとんどの研究では、未納付税額に対するペナルティー率が上昇しても、コンプライアンスはわずかにしか上昇しないことが分かっている。推定申告所得-ペナルティー率の弾力性は、通常0.1未満である。また、罰則は金銭的なものに限る必要はない。ここでのポイントは、自己のコンプライアンス行動が公開されるという脅威は、自己の情報が他者に見られるかもしれないという懸念からコンプライアンスに影響を与える可能性があり、他者のコンプライアンス遵守(またはその欠如)の観察が自己の申告行動にも影響を与える可能性があるということである。実験的証拠(Alm 2013)は、コンプライアンス違反の公表がコンプライアンスを高めることを示唆している。他の研究(Oladipupo and Obazee 2016)は、税務知識は税務罰則よりも税務コンプライアンスを促進する傾向が高いことを示している。したがって、政府は税務に関する国民の知識を高めるためにあらゆる手段を講じるべきであり、租税教育を高校レベルのカリキュラムに常に含めるべきである。中小企業経営者も、政府と納税者の相互利益のために、税務知識と意識の向上を図るべきである。
  • 新しい制裁制度を設計する際には、納税者の動機を考慮することが適切である。納税者が法的インセンティブなしに常に善良に行動するのであれば、不正行為を抑止するための罰則は余計なものである。多くの場合、罰則の設計は、経済的な考慮が行動の唯一の決定要因であるという逆の仮定から出発する。しかし、納税者の行動に影響を与える規範的要因など、他の要因が介在する場合もある。

なお、上記で引用されている文献については、下記のBibliographyを参照。以下、ハンドブック127頁(第5章末尾)をコピペした。
-Allingham, Michael, and Agnar Sandmo. 1972. “Income Tax Evasion: A Theoretical Analysis.” Journal of Public Economics 1 (3–4): 323–338. https://doi.org/10.1016/0047-2727(72)90010-2.
-Alm, James. 2013. “Designing Responsible Regulatory Policies to Encourage Tax Compliance.” Conference on “Reflections on Responsible Regulation,” Tulane University, New Orleans, March 2013. http://murphy.tulane.edu/files/events/Alm-DesigningResponsibleRegulatoryPolicies-MurphyInstitute-021113.pdf.
-Carnes, G., and T. Eglebrecht. 1995. “An Investigation of the Effect of Detection Risk Perceptions, Penalty Sanctions and Income Visibility on Tax Compliance.” Journal of the American Taxation Association 17 (1): 26–41.
-European Court of Human Rights. 1976. “Engel and Others v. The Netherlands.” Judgment given on 8 June 1976, Strasbourg, France. https://bit.ly/3t1EYbo.
-Gordon, Richard. 1996. “Law of Tax Administration and Procedure.” In Tax Law Design and Drafting, Vol. 1, edited by Victor Thuronyi, Chapter 4. https://www.imf.org/external/pubs/nft/1998/tlaw/eng/ch4.pdf.
-Jackson, Betty, and Sally Jones. 1985. “Salience of Tax Evasion Penalties Versus Detection Risk.” Journal of the American Taxation Association 6 (2): 7–17. https://aaahq.org/ATA/Publications/JATA/Spring-85#jackson.
-Jackson, Betty, and Valerie Milliron. 1986. “Tax Compliance Research: Findings, Problems, and Prospects.” Journal of Accounting Literature 5: 125–65.
-Keinan, Yoram. 2006. “Playing the Audit Lottery: The Role of Penalties in the U.S. Tax Law in the Aftermath of Long Term Capital Holdings v. United States.” Berkeley Business Law Journal 3 (2): 381–436. https://doi.org/10.15779/Z38M86R.
-Lucas-Mas, Cristian Oliver, and Ana Cebreiro Gómez. 2023. “Guidelines for a Framework on Tax Sanctions: Designing the Framework Governing Tax Penalties, Surcharges and Interests.” Unpublished. World Bank, Washington, DC.
-Oladipupo, Adesina Olugoke, and Uyioghosa Obazee. 2016. “Tax Knowledge, Penalties and Tax Compliance in Small and Medium Scale Enterprises in Nigeria.” iBusiness 8 (1): 1–9. https://doi.org/10.4236/ib.2016.81001.
-Sandmo, Agnar. 2004. “The Theory of Tax Evasion: A Retrospective View.” Nordic Workshop on Tax Policy and Public Economics in Helsinki, November 2004. Discussion Paper 31/04. https://dokumen.tips/documents/sandmo-the-theory-of-tax-evasion-vgeorgiousandmopdftax-evasion-is-a-violation.html.
-Schwartz, Richard, and Sonya Orleans. 1967. “On Legal Sanctions.” University of Chicago Law Review 34 (2): 274–300. https://chicagounbound.uchicago.edu/uclrev/vol34/iss2/3.

2022/07/20

玉國文敏先生古希記念論文集(2017)

 機関リポジトリにアップされていた。以下がリンクのコピペ。

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法学新報第123巻 第11・12号
 
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