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2026/08/11

Musgraveは韓国で何を助言したのか

1.二度の邂逅と最近の発見

Richard A. Musgrave教授(1910–2007)には、二度、お目にかかったことがある。

一度目は1992年、私が米国ハーバード大学のInternational Tax Programにいたときだった。Musgrave教授がゲストとしてクラスにお越しになり、その場には金子宏先生も出席されていた。二度目は1997年、京都で開催された第53回国際財政学会(IIPF)大会だ。たまたまMusgrave教授がお一人で歩いていらっしゃるところに出会い、「ハーバードで先生のお話をうかがいました」とご挨拶したところ、にこやかに応対してくださった。

2026/07/12

欧州委員会の2026年税制報告書に、納税協力の社会的経済的側面に関する章

欧州委員会租税・関税同盟総局(DG TAXUD)が、Annual Report on Taxation 2026, Directorate-General for Taxation and Customs Union, European Commission, Publications Office of the European Union, Luxembourg, 2026を公表した。

特徴的なのがその第4章で、納税協力の社会的経済的側面を論ずる。

  • 納税者の観点からアプローチ
  • 昨年の2025年版では、タックス・ギャップの測定方法(第4章)と税務行政の役割(第5章)を論じていた
  • 既存研究で明らかにされてきた知見を総合
  • 納税コンプライアンスは、摘発確率と罰則だけでなく、制度の簡素さ、法的安定性、申告支援、源泉徴収・第三者情報、行政能力、公平感、政府への信頼、納税モラルの相互作用による
第4章冒頭の2つの段落(101頁)は、次のように述べている。
課税当局によるコンプライアンス確保の取組みを促進または制約する社会的・行動的要因を理解するためには、納税者の視点を考慮することが有益である。高水準の納税コンプライアンスは、さまざまな制度的・社会的・経済的要因の所産であり、税務行政と納税者との相互作用の結果として生じる。欧州委員会の『Mind the Gap報告書』(2025a)は、各国のコンプライアンス執行の枠組みおよび能力、ならびにその基礎にある決定要因について、包括的かつ詳細な分析を行った。同報告書を補完するものとして、本章は、納税者の視点から納税コンプライアンスを論じる。本章の前提は、納税コンプライアンス確保の取組みが社会構造の中に埋め込まれていること、および、納税コンプライアンスを構成する相互補完的な諸要素を認識することがタックス・ギャップを縮小する取組みに資すること、である。

本章は次のように構成される。4.1で、「租税に対する市民の意識」に関するフラッシュ・ユーロバロメーターのデータから、EUがコンプライアンス執行に取り組むことに対する市民の支持が確認される。また、この節では、租税逋脱と納税コンプライアンスに関する基礎的な合理的選択モデルも紹介する。4.2で、納税コンプライアンスの測定を論じ、租税制度の健全性を示す戦略的指標としてのタックス・ギャップの役割を強調する。4.3で、租税制度のさまざまな側面が、納税者のコンプライアンス行動にどのような影響を及ぼすかを分析的に整理する。4.4で、『Mind the Gap報告書』の国別概要票における分析を参照しつつ、税務行政が有するコンプライアンス執行能力(compliance enforcement capacity)の重要性を強調する。4.5で、自発的納税意欲(tax morale)を論じ、4.6で、本章を通じて取り上げられるフラッシュ・ユーロバロメーターの各変数に対する回答を左右する社会経済的属性を分析する。

この最後の4.6の分析は、次のような結果を示している(114頁以下)。

  • 自営業所得を主たる所得源泉とする者は、租税回避・脱税対策をEUの優先事項と考える確率が10.6ポイント低い。資本所得者では16.1ポイント低い。
  • 自営業者は、申告を容易と考える確率が6.0ポイント低く、専門家を利用する確率が3.6ポイント高い。ところが、税制を公平と評価し、課税当局の支援を十分と考える確率は、むしろ給与所得者より高い。
  • 所得額そのものよりも、所得をどのように稼得しているか、すなわち給与、自営業、年金、社会給付、資本所得という所得源泉の違いの方が、多くの認識を強く説明する。

2026/07/01

欧州委員会が税制簡素化パッケージを提案

1. 提案の概要

欧州委員会は2026年6月24日、EU税制の簡素化パッケージを提案した。

  • 直接税分野の複数指令をまとめて改正する「直接税オムニバス」
  • 税務行政協力指令(DAC)を再編・統合する「DAC Recast」

その目的は、EU税制のコンプライアンス負担を軽減して単一市場の競争力を高めつつ、租税逋脱・租税回避・脱税への防御水準を維持すること。年間約79億ユーロのコンプライアンス・コスト削減を見込む。今後、欧州議会への諮問と理事会での採択手続に付される見込み。

2.直接税オムニバスの骨子

  • EU域内の会社間の配当・利子・ロイヤルティ支払について、源泉税を大幅に除去
  • R&D関連の有形資産について、EU共通の最低限の即時償却・加速償却ルールを導入
  • ATAD関係では、CFC税制とPillar Twoの重複を整理
  • 合併指令、税務紛争解決指令、FASTER指令の改正など
3.DAC Recastの骨子

  • DAC6(MDR)→Pillar Two対象企業について一定のDAC6報告義務から除外
  • DAC7(デジタル・プラットフォーム報告)→オンライン上の商品販売につき小規模・低リスクの売主を報告対象から除外
  • DAC4(国別報告)とDAC9(トップアップ税情報申告)→単一の通知手続を導入
  • TIN(納税者識別番号)についてEUレベルの確認ツールを導入
  • DAC1(基本指令)→生命保険商品を対象除外、残る所得・資本カテゴリーについて交換を義務化
4.各種文書へのリンク

Direct taxation omnibus proposal

2026/02/21

LEARNING RESOURCES, INC., ET AL. v. TRUMP, PRESIDENT OF THE UNITED STATES, ET AL.

トランプ相互関税を違法とする米国連邦最高裁判決がでた

そこでさっそく,「この最高裁判決に関する専門誌の論評を調査せよ」とChatGPTに命じた.

すると,2026年2月20日前後に出た「専門的な論評」(法務・通商実務・判例分析・政策分析寄り)を横断して,次のテクストが生成された.以下,青字がChatGPTの生成したテクスト.

************

結論から言うと、専門誌・実務家向け論評の主要論点は、(1) 判決理由の精密な読み分け(とくに major questions doctrine の位置づけ)、(2) 還付実務(refunds)の設計と権利保全、(3) 代替法源(Section 122/301/232等)による再構築可能性、(4) 実効面では「不確実性の継続」に収斂しています。(最高裁判所)

まず、最高裁判決そのものの最低限の確認です。連邦最高裁は Learning Resources, Inc. v. Trump で「IEEPAは大統領に関税賦課権限を与えていない」と判示し、V.O.S. Selections 側の判決を是認しました(6-3)。判決文シラバスでもその点が明示されています。(最高裁判所)

そのうえで、他の専門的論評をみると、ポイントがいくつかあります。

  1. 判決理由の「多数意見」と「プルーラリティ」を区別する論評(SCOTUSblog)
    SCOTUSblog の詳細分析は、Roberts意見のうち「IEEPAの文理解釈+憲法的背景による結論」(IEEPAは関税法ではない)が6名の法廷意見である一方、major questions doctrine を前面に出す部分は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、法廷意見(majority holding)ではなくプルーラリティにとどまる、と明確に整理しています。これは実務・学説上かなり重要な読み分けです。(SCOTUSblog)
    同じSCOTUSblogの速報でも、Kavanaugh反対意見が「今後の大統領の関税権限を大きく制約しない可能性(他の制定法がある)」と述べている点が強調されています。(SCOTUSblog)

  2. 実務家向け通商・税務論評は「還付(refund)実務」を中心に据える
    Thomson Reuters Tax & Accounting は、企業税務・通商コンプライアンスの観点から、この判決を「大規模還付機会(最大1750億ドル規模)」として位置づけ、判決理由そのものよりも、どの輸入申告が対象か、どう計算・請求するか、期限管理をどうするかという実務課題を前面に出しています。特に、対象エントリーの特定、金額算定、抗議(protests)や post-summary corrections の検討、時効・期限管理の重要性を整理している点が実務色の強い特徴です。(tax.thomsonreuters.com)

Holland & Knight も同様に、最高裁は還付の要否・手続を具体的に指示していないため、権利保全のために記録整理と行政手続(PSC、protest、liquidation延長等)を早期に進めるべきだと整理しています。加えて、判決理由の内部構造(major questions を使ったのは3名、Kaganらは通常の文理解釈中心)まで比較的丁寧に要約しており、判例解説+実務対応のハイブリッド型です。(ホランド・アンド・ナイト)

Norton Rose Fulbright は、還付論点をさらに細かく扱い、(a) CIT(国際貿易裁判所)の全国的差止めの射程、(b) 不法徴収(illegal exaction)的整理、(c) reliquidation の可能性、(d) Customs の今後のガイダンス、(e) 「輸入者記録上の importer of record」にしか政府還付が直接行かないため、私法上の契約紛争(だれが最終的に返金を受けるか)が増える可能性、まで踏み込んでいます。これは The Economist の「refundsはmessになり得る」という指摘を、実務的に具体化した論評と言えます。(nortonrosefulbright.com)

  1. 代替法源(Section 122/301/232等)に関する評価は、概ね「再構築可能だが、機動性は落ちる」で一致
    Holland & Knight は、Section 122(上限15%、150日)、Section 301、Section 232、Section 201、Section 338 などの代替法源を列挙し、それぞれの法的要件や調査手続の必要性を示したうえで、政権がIEEPAの代替として組み合わせるシナリオを解説しています。特に Section 122 の時間制限と、150日の間に301調査を走らせる構図は、The Economist の分析と整合的です。(ホランド・アンド・ナイト)
    Thomson Reuters も同様に、今後は Section 232/301/122、AD/CVD、立法対応などへ政策手段がシフトすると整理しています。(tax.thomsonreuters.com)

  2. 政策分析・国際関係系の専門論評は「不確実性の持続」と対外交渉への影響を強調
    Chatham House の専門家コメントは、法理そのものよりも、北米(USMCA)や各国との交渉実務に与える影響を重視しています。Heather Hurlburt は、判決が IEEPA 系の包括関税を大きく削ったとしても、232/301ベースの関税は残り、還付も命じていないため、実効面での変化は限定されうると指摘しています。(チャタムハウス)
    また Julián Ventura は、Section 122 による新たな10%関税の示唆と、対象・適用・実施の細目が未確定であることから、「uncertainty will continue to be the name of the game」と評価し、貿易相手国側の対応困難性を強調しています。(チャタムハウス)

  3. データ分析系(Global Trade Alert)は「法理」ではなく「関税水準の量的インパクト」を提示
    Global Trade Alert の分析は、IEEPA関税が剥落すると米国の輸入加重平均関税率が 15.4% から 8.3% に低下し、7.1ポイント下がると定量化しています。また、何が落ちて何が残るか(IEEPAのベース関税・上乗せ・緊急EOは無効、232/301/MFNは残る)を明示しており、政策効果の即時測定として有用です。(globaltradealert.org)
    これは The Economist の「実効関税率が約半分に」という記述と整合的ですが、GTAの方が「どの法源ベースの関税が残存するか」をより構造的に示しています。(globaltradealert.org)

************

(増井のコメントに戻る)

なるほど.上記で引用されたリンクは実在し,確認できた.

そこで次に,ChatGPTのプロンプトをそのままフォローして,上のまとめを租税法・通商法の視点から,①判決法理,②救済実務,③比較法の順に整理させた.①②③の3項目は,ChatGPTのおすすめをそのまま(=無反省に)フォローしただけのもの.

すると,次のテクストが生成された.

************

本件の出発点は明確です。最高裁は Learning Resources v. Trump で、「IEEPA(International Emergency Economic Powers Act)は大統領に関税賦課権限を与えない」と判示しました。シラバス上も、争点はまさに「IEEPAが関税を許容するか」であり、結論は否定です。

  1. Delegation / Major Questions / Nondelegation の論点整理

この判決で最も重要なのは、「何が法廷意見(majority holding)で、何がそうでないか」を切り分けることです。SCOTUSblog の整理が有用で、6名が参加した法廷意見部分(Parts I, II-A-1, II-B)は、IEEPAの文言・構造・憲法的背景を用いて、IEEPAは関税を授権していないと解しています。他方、major questions doctrine を用いた部分(Parts II-A-2, III)は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、プルーラリティにとどまります。つまり、「major questions で勝った事件」ではあるが、同時に「文理解釈で6名が一致した事件」でもある、という二層構造です。

法廷意見(6名)レベルのコアは、かなり古典的かつ租税法的です。最高裁シラバスは、(a) 憲法上、関税は Article I の taxing power(Congress)に属すること、(b) IEEPAの列挙権限には tariffs/duties の明示がないこと、(c) “regulate . . . importation” を「課税権限」まで含むと読むのは不自然であること、(d) 政府も「regulate」が「tax」を意味した他の制定法例を示せなかったこと、を並べています。さらに “regulate exportation” まで課税を含む読みになりかねず、輸出税禁止との緊張も指摘しています。これは、授権立法の解釈として「税・関税は明示的授権を要する」という強いシグナルです。

そのうえで、Roberts/Gorsuch/Barrett の3名は major questions doctrine を前面に出し、「非常に大きな経済・政治的重要性を持つ権限主張には clear congressional authorization が必要」「緊急事態法制だからといって例外はない」「外交・通商文脈だからといって例外はない」と述べます。ここは今後の行政法・通商法訴訟への波及可能性が大きい。ただし、Kaganら3名は結論には賛成しつつ、「通常の法解釈で足りる。major questions の“thumb on the scale”は不要」と距離を置いています。したがって、本判決の将来射程を読む際は、「IEEPAの解釈に関する先例価値」と「major questions 拡張の先例価値」を分けて扱う必要があります。

Kavanaugh反対意見(Thomas, Alito joined)は、別の意味で重要です。Reutersが要約する通り、反対意見は「今回の判決は大統領の関税権限全般を大きく制約するとは限らない。単に IEEPA という“間違った statutory box”を使っただけだ」と見る。これは、判決の制度的意味を「大統領通商政策の全面否定」ではなく「IEEPAの否定」に限定する読みです。実務上は、この反対意見の評価がそのまま次の争点(122/232/301等)に接続します。

  1. 関税還付の法的性質と実務(illegal exaction / reliquidation / protest)

The Economist の「refundはmessになりうる」という指摘は正確ですが、専門実務論評を読むと、その“mess”の中身はかなり具体的です。SCOTUSblog は、最高裁の判断が解決したのは「授権の有無」であり、refund mechanism(還付の仕組み)や restitution(返還命令)、行政上の回収手続には触れていない点を強調しています。しかも返金の明示的議論は主として Kavanaugh の反対意見側に現れる。つまり、救済は「次段階の訴訟・行政実務」に委ねられている、という構造です。

Norton Rose Fulbright の論評は、この救済論点を最も実務的に分解しています。そこでは、CIT(Court of International Trade)の全国的差止めと、違法関税の徴収金を政府が保持できないという違法徴収(illegal exaction)的な整理を前提に、還付は原則として視野に入るが、具体的な経路は CIT と Customs(CBP)の運用次第だとされます。さらに、reliquidation(再清算)命令の可能性、CBPガイダンス(Federal Register やCSMS)による実務設計、そして未清算 entry と既清算 entry の手続分岐(PSC / protest)が指摘されています。これは、救済法の問題が、行政手続・税関実務・時間管理の問題へ直ちに変換されることを示しています。

この点は、租税法研究者の目で見ると興味深いです。違法課税の返還という一見単純な命題が、通商実務では「誰に返すのか(法的納税者/importer of record)」「どう請求するのか(PSC / protest / CIT complaint)」「いつまでに請求するのか(liquidation 状態・時効・不服申立期間)」「誰が最終的に経済的利益を受けるのか(価格転嫁・契約条項)」という複数の層に分かれます。Norton Rose Fulbright は、政府還付の名宛人は importer of record に限られ、輸入者に償還した第三者には政府から直接還付されないため、契約解釈・私法紛争が増えると警告しています。

Holland & Knight も同様に、判決は refund の要否・運用を決着しておらず、企業側は権利保全(preservation steps)を先行させるべきだと位置づけます。実務家論評の共通トーンは、「勝訴=即自動還付」ではなく、「勝訴+別途の救済・事務プロセス」が必要、という点にあります。

  1. 日本法・WTO法との比較可能な視点

比較法的に見ると、本判決の第一の含意は、「通商政策でも、課税(関税)である以上、授権の明確性が要求される」という統治構造の再確認です。最高裁は関税を Article I の taxing power に明確に接続し、IEEPAの一般的な “regulate importation” から関税権限を引き出す解釈を拒否しました。これは、行政裁量の広い通商・安全保障領域であっても、課税授権には明示性が必要だというメッセージです。日本法の観点からいえば、租税法律主義・課税要件法定主義の議論と比較可能な構造を持ちます(もちろん米国では憲法構造・delegation doctrine の文脈で語られる点が異なる)。

第二に、WTO法との関係では、本判決は直ちに「関税政策の国際法適合化」を意味しません。Reuters も示すように、政権側は他の法源(Section 232/301 等)への切替を明確に示唆しており、実際に判決直後に別法源による10%関税を公表しています。Holland & Knight や Norton Rose Fulbright の整理でも、Section 122(短期・上限付き)、232、301、201、338 など複数の代替経路が列挙され、IEEPA喪失後も高関税政策の再構築は可能と見られています。したがって、本判決の主効果は「関税水準の恒久的低下」よりも、「法源の付け替え・手続の増加・時間差の発生」にあるとみるのが妥当です。

第三に、比較租税法的に面白いのは、「違法な徴収の返還」が財政・政治・私法・行政手続を横断して問題化している点です。Norton Rose Fulbright は、還付額規模ゆえに議会が timing や制約を立法的に設ける可能性にも触れています。これは、租税法でいう不当利得返還・過誤納還付の問題に似て見えつつ、通商法では制度設計がより多元的(CIT、CBP、契約実務、連邦議会)であることを示します。研究上は、「違法課税の救済」を租税手続法だけでなく通商救済法・行政救済法の交点として捉える素材になります。

***********

(増井のコメントに戻る)

ふーん.3つの整理のうち,①法廷意見の2層構造の指摘や,②反対意見の評価がそのまま今後の還付実務につながってくる,というあたりが参考になる.③比較法のところは,要検討.ChatGPTが「比較租税法的に面白い」というテクストを生成するとき,どんな学習経路でそうなるんだろうか.

以上,後半の3つの整理についてはともかく,前半の論評調査からは,今回の敗訴を受け,政権は別の狭いやり方で相互関税を維持しようと試みるだろう,という見通しが得られる.日本企業の目からすると,投資約束への影響が目下の関心事.

2026/02/09

EUの行政協力指令(DAC)について,簡単な入口

〇DACとは?(メインページによる)

  • The Directive on Administrative Cooperationのこと
  • 課税分野における相互援助および各国の国税当局間の安全な行政協力について,EU加盟国のニーズに対応する調和された枠組み
  • EU域内における課税目的の情報交換に関する規則・手続および協力の在り方を規律
  • 目的は,税の公正を確保するために,脱税および租税回避と闘うこと

〇その構成と,指令の英語テクストへのリンク

  • DAC1:Council Directive 2011/16/EU(基本指令)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC2:Council Directive 2014/107/EU(金融口座情報=CRSの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC3:Council Directive (EU) 2015/2376(タックスルーリング・APAの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC4:Council Directive (EU) 2016/881(CbCRの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC5:Council Directive (EU) 2016/2258(AML情報=実質的支配者情報等への税務当局アクセス)— EUR-Lex(EN)

  • DAC6:Council Directive (EU) 2018/822(クロスボーダーアレンジメントの開示義務=MDR)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC7:Council Directive (EU) 2021/514(デジタル・プラットフォーム報告)— EUR-Lex(EN)

  • DAC8:Council Directive (EU) 2023/2226(暗号資産情報の自動交換=CARF)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC9:Council Directive (EU) 2025/872(Pillar 2トップアップ税情報申告の情報交換)— EUR-Lex(EN) 


〇日本語で読める参考文献

2026/01/29

(続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

【その続きがこのページ】

続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。

以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

すると即座に、以下のテクストが生成された。


以下引用*********************

法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。


1. 法学全体の大潮流:規範中心から「統治・実装・データ」へ

近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。

(1) “規範の正当化”だけでなく、“統治(governance)”の設計論へ

  • 何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。

  • 行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)

→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。

(2) 国内法の閉域から「トランスナショナル化」へ

  • 条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。

  • 法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。

→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。

(3) 実証・経験科学との接続(Empirical/Socio-legal turn)

  • 立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。

  • これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。

→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。

(4) デジタル・データ化と法:手続保障の再設計

  • AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。

  • 行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。

→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。


2. 租税法研究動向は、法学的には「規制・行政・国際秩序」の結節点

上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。

(A) 国際秩序形成(国際法/国際経済法/グローバル行政法)

  • BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。

  • 典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。

(B) 行政法・規制法(執行、プロセス、裁量統制)

  • 情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。

  • 典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。

(C) 企業法・金融法・会計(ガバナンス/開示/リスク管理)

  • 税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。

  • 典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。

(D) 刑事法・制裁論(抑止+規範)

  • 脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。


(続く)


ChatGPT、租税法の研究動向を語る

 窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

(1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

  • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

  • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
    → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

(2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

  • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

(3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

  • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
    → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

  • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

  • 研究の焦点は、

    1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

    2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

    3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
      へ広がっています。
      → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

  • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

  • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

(1) 実証(Empirics)の標準化

  • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

  • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

(2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

  • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

(3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

  • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

    • アルゴリズムの透明性・説明可能性

    • 差別・偏り(バイアス)と救済

    • 自動化された不利益処分の適正手続
      へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

  • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

  • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


研究動向を一言でまとめると

  1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

  2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

  3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


(続く)

2025/12/05

OECD (2025) Public trust in tax 2025で、アジア諸国のインタビュー調査

今回のPublic Trust in Tax 2025: Asia and Beyondは、継続してやってきたシリーズの第7版だ。今年は対象国が拡大し、過去最多となる29か国。2024年のラテンアメリカに焦点を当てた分析に続き、本年版ではアジアを深く掘り下げている。

【概要】
  • OECD、ACCA(英国勅許公認会計士)、CA ANZIFAC (国際会計士連盟)の共同調査
  • オンライン・インタビューの対象は、29か国、12,467名
  • 今回はとりわけアジア19か国を中心とし、税に対する認識(perceptions)、経験(experiences)、情報源への信頼(trust)をきいた
【Key Findings】
  • アジアでは「財政契約(fiscal contract)」の認識が比較的強い (The fiscal contract appears to be in better health in much of Asia and the Anglophone Pacific than in Western Europe and Latin America.)
  • アジア内でも国による差が大きい (Views on tax do however vary, sometimes significantly, within Asia.) →東南アジアは肯定的評価が強いのに対し、日韓は欧州型の厳しい評価に近いという結果
  • アジアの約8割の国で「税は能力に応じて公平に徴収されている」と回答した割合が多数派 (In 80% of the countries surveyed in Asia, but only in 20% of those outside Asia, more respondents agreed than disagreed that the tax system collects tax in an equitable way.)
  • ほぼ全ての国で、オンライン申告・情報提供の利便性が最も高い評価 (In all countries, respondents viewed the provision of online/digital tax services as the most positive experience of the tax administration.) →しかし情報の「理解しやすさ」は多くの国で課題→日独伊などでは税務行政全般の経験が相対的にネガティブ
【コメント】
  • 公表に必要な資金は日本政府が提供した、との追記が4頁にある
  • データセットはここ
  • "Accountants are the most trusted source of information on tax in almost all countries surveyed."という調査結果は、専門家への信頼という意味では自然かもしれないが、もしかしたらサンプルなどのバイアスがかかっている可能性も排除できない。ちなみにこの結果は、会計士以外の比較対象は、「税務当局・政治家・SNS・メディア・NGO・ビジネスリーダー」等で、それらとの比較で相対的にヨリ信頼できるか、を質問した結果だ



2025/11/15

第18回税務長官会議

ケープタウンで開かれる第18回税務長官会議(FTA PLENARY 2025)のアジェンダが発表されていました。びっしり2日半にわたって、以下の論題を扱うとのこと。開始前日の11月17日に、Tax Administration 2025が公開されるそうです。→FTAの報告書のこれまでの流れについてはこれ、税務行政3.0についてはこれ、さらに最近、おとといの税調専門家会合資料でもFTAの議論が紹介されています。

DAY 1: 18 November

SESSION I – INTRODUCTION

SESSION II – TAX GAPS AND COMPLIANCE BURDENS

SESSION III – TACKLING TAX DEBT

SESSION IV – TAX MORALE →日本から江島一彦国税庁長官が登壇

DAY 2: 19 November

SESSION V – NEXT STEPS ON TAX ADMINISTRATION 3.0

SESSION VI – ACCELERATING TRANSFORMATION JOURNEYS

SESSION VII – SUPPORTING VOLUNTARY COMPLIANCE

1. Effective taxpayer services (Main Plenary room)

2. Outreach and communication (Breakout room 1)

3. Influencing taxpayer behaviours (Breakout room 2)

SESSION VIII – TAX CRIME THREATS →武田一彦国税庁調査査察部長がChair of the Task Force on Tax Crimeとして司会

DAY 3: 20 November

SESSION IX – INTERNATIONAL TAX POLICY AND TAX CERTAINTY

The International Tax Policy Agenda →OECD CPAのManal Corwin局長とAchim Pross次長

SESSION X – CLOSING SESSION

Agreement of the Statement of Outcomes



2025/10/17

G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2025.10)の議長総括のうち、国際課税に関する部分

 財務省のこのサイトに、第 4 回 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議議長総括(仮訳)(2025 年 10 月 15-16 日 於:米国・ワシントン D.C.) が出ていた。このうち、国際課税に関する部分は、6つのパラグラフから成る。引用者が段落番号と着色を施し、言及されている文書等へのリンクを張りつつ、直下に日本語仮訳を引用しておく。

以下引用*********

国際課税(International Taxation)

①メンバーは、全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡ある、かつ実用的な解決策を可能な限り早期に見出すという共有された目標をもって、「第2の柱」のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対処することへの建設的な関与を継続することにコミットした。解決策の実現は、実質ベースの税制上の優遇措置の公平な取扱いに関する議論を含む、公平な競争環境の観点から特定され得る重大なリスク、及び、税源浸食と利益移転のリスクへの対処へのコミットメントを含む必要があるとともに、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に関する建設的な対話を含む、国際課税システムを安定させるための更なる進展を促す。これらの取組みは、全ての国の課税主権を保持しつつ、OECD/G20「包摂的枠組み」(IF)のメンバー間の緊密な協力によって進められる。

②メンバーは、「国際租税協力に関する G20 リオデジャネイロ閣僚宣言」を想起しつつ、グローバルな移動について研究し、税制、格差、及び成長の相互作用を理解するために、段階的かつ証拠に基づいたアプローチを採用するという IF の決定を引き続き歓迎する。

③メンバーは、国際租税協力に関する国連枠組条約を策定するための進行中の交渉に留意するとともに、参加している G20 メンバーは、不要な努力の重複を避けるよう努めつつ、幅広いコンセンサスを得る、並びに、既存の成果、プロセス、及び他の国際機関において現在進行中の作業を基礎とするという目的を再確認した。

④メンバーは、国際機関からの5つの重要なレポート及びケープタウンで開催された国内資金動員に関する G20 税サイドイベントからの1つのレポートを歓迎した。IFによるレポート「BEPS イニシアティブの 10 年:G20 財務大臣・中央銀行総裁への包摂的枠組みによる実績評価に係るレポート」は、BEPS プロジェクトが達成しようとした、国際課税システムにおける、更なる一貫性、実質性、透明性及び安定性をもたらすことに対する進展と影響を評価する。また、協力することの有益性も示している。これまでの成果に基づいて途上国が十分に参加し恩恵を受けられるようにするためには、包摂的な参加及びニーズに応じた税に関する能力の向上を支援することが必要である。

⑤OECD 及びグローバル・フォーラムによるレポート「透明性と税務目的の情報交換に関する進捗の実績評価」は、G20 主導の国際租税協力が、税務当局の情報共有能力を強化し、結果として税収を増加させる、重要な進展をもたらすことができることを示す。OECD によるレポート「不動産に関する即時利用可能な情報の自動交換の枠組み:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」は、関心を持つ法域間における不動産に関する国際的な税の透明性を強化するための任意の共通アプローチを示す。南アフリカ財務大臣による、各法域にこのイニシアティブへの参加を求めるレターを受け、G20 議長国南アフリカは、これまでに示された法域による関心を歓迎するとともに、他の法域にも参加を奨励する。

⑥メンバーは、国内資金動員(DRM)が共通の重要課題であることに合意した。IMF による「歳入行政の強化を通じた国内資金動員の強化に関する G20 背景ノート」は、歳入管理を税制の重要な柱として強調する。「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」によるレポート「税に関する能力構築枠組みの強化に関する進展」は、能力構築提供者間における協調及び連携の重要性を示すとともに、各国主体で、各国が主導し、納税者との社会契約を果たす改革への構造的なアプローチの価値を認識する。地域機関が果たす重要な役割は、両レポートで強調されている。2025 年2月に開催され幅広い支持を得た DRM に関する税サイドイベントに基づくモデレーターのレポートは、DRM を最も効果的な資金源として優先付けること、現代的で強靭な歳入管理へ投資すること、そして国際協力を深化させることを奨励する。メンバーは、来年東京で開催予定の DRM に焦点を当てた PCT の「税と開発カンファレンス」、及び OECD によるレポート「税の安定性と成長を促進するための簡素化の強化:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」を受け取ることを期待する。

2025/08/01

租税法学会第54回総会の案内がでていた

租税法学会このページだ。例年よりやや早く、2025年9月27日(土)。今回は東京開催で、中央大学茗荷谷キャンパス。新たな試みとして、若手研究者の研究奨励と、会員との研究交流を目的として、ポスタープログラムも試行される。

プログラムをコピペしておこう。

「人口構造の変化と租税原則の再検討」

①   研究報告

憲法上の「租税」の意義

   報告:渕圭吾(神戸大学)    コメント:谷口勢津夫(大阪学院大学)

「公平」と多様な生 ― 費用控除と消費の関係を中心に

   報告:山田麻未(九州大学)  コメント:岩崎政明(明治大学)

キャリア形成・資産形成と所得税制

   報告:辻美枝(関西大学)    コメント:神山弘行(東京大学)

移民社会における課税の「公平」

   報告:長戸貴之(学習院大学)  コメント:岡直樹(東京財団)

税務行政におけるDX・AIの進展と簡素原則

   報告:泉絢也(東洋大学)    コメント:巽智彦(東京大学)

②   質疑討論(シンポジウム)

2025/07/22

租税法研究53号が公刊されていた

租税法学会の年報である租税法研究53号が、公刊されていた。今回のテーマは、「経済社会の構造変化と租税手続の変容」。2024年10月に広島修道大学で開催された第53回総会での報告・コメント・シンポジウムが基礎となっている。末尾184頁掲載の第53回総会・企画趣旨によると、経済社会の構造変化が租税手続法に与える影響が大きく、それがさらに租税実体法の選択肢にも影響を及ぼす。そこで、「学会として理論的基礎を固め直す機会を持つ」ことに意義がある、という。

有斐閣の上記ウェブサイトから、目次をコピペしておこう。

【論説・コメント】
租税手続における納税者の地位──所得税を中心として(佐藤英明)
佐藤報告に対するコメント(田中晶国)
税務行政のデジタル化における納税協力の変容と諸課題──納税者の識別および税務専門家のあり方に関する米国の議論を比較対象として(藤間大順)
藤間報告に対するコメント(髙橋祐介)
徴収手続における納税者以外の私人の役割──源泉徴収制度に焦点を当てて(一高龍司)
一高報告に対するコメント(西山由美)
徴収の制度設計についての理論的検討(藤岡祐治)
藤岡報告に対するコメント(渡辺智之)
【シンポジウム】経済社会の構造変化と租税手続の変容
【学界展望】租税法学界の動向(漆さき・倉見智亮)
【その他】租税法学会賞について/学会記事



2025/07/15

駒場「現代と法」オムニバス講義最終回

白石忠志先生の肝煎りで、本年度も駒場「現代と法」オムニバス講義が開かれた。その最終回に呼んでいただいた。断続的な雨の中、朝から多くの学生さんが出席してくれた。

1.私のプレゼン

昨年に続き、《人はなぜ納税するか》について手短にお話しした。私の主要なメッセージは、納税行動が単純な損得勘定だけでは説明できず、知的に興味深いパズルを提供している、ということだ。公共財提供に関するフリーライド問題からはじめ、租税債権の自力執行権や脱税に対する加算税や罰則などの制度的背景を概観したのち、今回はとくに、Steinmoらの歴史的制度論と実験室実験に焦点を絞って、「ある国で脱税が多く別の国で脱税が少ないのはなぜか」という問いを扱った。しかるのち、より実践的な課題に視点を切り替えて、応答的規制の税務行政への応用としてのValerie Braithwaite (2003)の「執行ピラミッド」を紹介し、tax gap推計の有用性や、Tax Administration 3.0言及しようとしたあたりで、制限時間になった。

2.白石先生の助け舟

私のプレゼンの途中で、いくつか枢要な点について白石先生から「助け舟質問」があった。それらは、私のプレゼンでロジックが飛んでいる点や、比喩的・印象論的な言葉使いをしている点についての的確な指摘だった。ありがとうございます。

  • (指摘)単純なTAG(Taxpayer as Gambler)モデルだと「ばれてもともと」ということになるというが、どういうことか?→(増井応答)事前(ex ante)の見地からみた期待値ベースで、実調率を織り込んで「合理的(これはとても限定的な意味におけるそれ)」に損得計算するとそうだ、という意味。本税に加えて制裁としての加算税を納付する場合であっても、摘発確率との関係でそうなる、というロジックだ。
  • (指摘)「執行ピラミッド」にいう協力的態度と非協力的態度を、課税庁はどうやって見分けるのか?→(増井応答)応答的規制の考え方では、ピラミッドの下から上へと、規制を徐々に強めていくことで判別する。まず全員に対して広報や教育、サービスによって助力する対応をとる。それでうまくいかない場合には記帳指導などかかわりを強めていく。抵抗があればサンクションを伴う税務調査へと、さらには刑事告訴にまで至る。
  • (指摘)リアルタイムでシームレスに情報が共有され、「ガラス張り」になる、というとき、カネの出入りが分かるようになるのは誰か?→(増井応答)国だけでなく、取引相手全体で情報を共有するイメージ。その利点はコンプライアンス費用削減だが、いいことばかりといえるかが考えどころ。国と事業者の間の情報共有に抵抗が少なくなるのは、国への信頼が確立している場合であろう。→(再指摘)事業者間の文脈では、強い業者が弱い業者に事業情報の開示を強要することが問題となる例がある。
3.ゼミ有志の檀上意見開陳

今回の授業では、本セメスターのゼミ有志が檀上意見開陳をしてくれた。その場で応答できなかったので、ここに感想を書いておこう。
  • (意見開陳)Steinmoらは、自己利益・規範・価値がどのように納税コンプライアンスに影響するかを実験室実験で調べている。そこで想定されているのは、制度(institutions)がインセンティブを通じて自己利益に働きかけ、徐々にその集団の暗黙のルールとして固定化されて規範となる、というループ。しかし、規範が先行し、あとから政府が制度を導入する、という例もあるのではないか?→(増井感想)規範から制度へというループもあるかもしれない。Steinmo & D'Attoma (2021)59頁の下の方の段落でも、Bergman (2009, 42)を引用して、the institutionalization of normsを語っている。うまい具体例をおもいつけていないのだが、たとえば、「Aについては皆が納税していない」「それをうけて法律でAを非課税とする」といったような場合だろうか(?)。
  • (意見開陳)Steinmo (2018)は、スウェーデンのルター派教会とイタリアのローマ・カトリック教会の果たした役割を対比する。そこで、宗教は文化か制度か、という問いを提起したい。→(増井感想)この意見開陳において、宗教の内容でなく宗教の組織について話します、と慎重に補足された点が大事だと思う。「教会が制度だ」というときには、教区人口の世帯構成や不動産所有状況などを把握し、その情報を管理する能力に着目している。それは世俗組織の営むmonitoring機能と変わらない。なお、重要な補足として、スウェーデンとイタリアの現況を歴史的制度論でもって説明するこの話を相対化するものとして、Steinmo & D'Attoma (2021)の実験結果は、単純な文化論やステレオタイプを排している。つまり、人々の遵法志向の分布は似通っており、むしろ制度の強弱が実際のtax gapの違いをよりよく説明する、というのである。
4.フロアからの質問もあった。これに対してはその場でごく簡単に応答した。
  • (質問)巨大IT多国籍企業のような場合、Steinmoらの語る自己利益・規範・価値という枠組みは通用するか?→(増井応答)株式会社の場合、株主利益の最大化という意味で自己利益で説明できそうだが、これに対してはESG投資など別の流れもある。日本企業は欧米企業ほどagressive tax planningをしないという話がある。→(指摘)増井応答の後半とかぶるが、日本のJTC(Japanese traditional company)と呼ばれる企業の行動原理は、評判を重視する。
  • (質問)税務調査にかかる人件費などのコストと比べて、税収回復やみせしめ効果などは計量できているのか?→(増井応答)EBPMの課題だ。これの18頁。

5.Braithwaite再訪

今回の準備過程では、Valerie Braithwaiteの仕事の意味がすこしわかってきた。彼女の「執行ピラミッド」は、オーストラリアでのアンケート調査によって納税者の態度(motivational postures)を析出したもので、心理学の手法で仮説を検証していた。一人の個人が複数の態度を併せ持つことがありうること、態度と行動は必ずしも一致しないこと、抵抗を対話の契機ととらえるオープンな姿勢、などは、執行ピラミッドを「独り歩き」させないための重要な留保だと思う。

私が熱烈に知りたいのは、このピラミッドの形状が現在の日本でどうなっていて、これからどのように変化していくかである。

6.おわりに

昨年度の「現代と法」に出ていた学生の方から、「今年のほうがレジュメがわかりやすかった」とのお言葉があった。1年たつと(すこしは)進化する。すなおに誉め言葉ととっておきたい。

2025/05/31

国税庁保有行政記録情報を利用した統計的研究

国税庁のこのサイトに、ディスカッションペーパーが公表されていた。日本の税務申告データを用いた貴重な研究だ。

たとえば、國枝=米田(2023)は、税務データの学術利用の意義につき、高額所得者の所得分布の分析の例を中心に説明する。すなわち、分析ができるようになった背景として、次のように指摘する(同2頁)。

これまで、我が国においては、国税庁統計年報のような所得階層別の集計データや高額所得者・納税者公示制度が存在したものの、個票を含む税務データの利用がほとんど許されておらず、我が国の財政学者は、国際的に評価される租税政策に関する実証研究を行うことが困難となっていた。・・・しかし、国税庁は、2021 年 6 月に、我が国の税・財政政策の改善・充実等に資する統計的研究を実施する研究者を公募することを公表した。この研究においては、税務大学校職員との共同研究を前提に、国税庁の保有する行政記録情報(税務データ)を利用した分析等を行うことができる。

そして、このような分析の一例として、高額所得者の所得分布のパレート係数の推計を説明し、次のように述べる(同3頁)。

高額所得者のデータを十分含まないサーベイデータでの分析と異なり、税務データを利用することで、我が国においても、超高額所得者への所得集中が進んでいることを明らかにすることができる。高額所得者の所得分布については、さらに分析を進めることとしているが、税務データの学術利用の意義を示す一例と考えられる。

税務データを用いることで、実証研究が進む。実態がわかり、制度改善のヒントになる。引き続き応募がなされ、良い成果が出てくることを期待したい。

法律家の眼からみて興味深いのは、このような研究を可能にしたのが共同研究という枠組みをとるというアイディアだったこと。そうすることで、守秘義務というハードルをクリアしている。

なお、これとは別に、国税庁は、国税庁保有行政記録情報を匿名加工した匿名データを利用して統計的研究を実施する研究に門戸を開いている。

2025/05/13

豪州国税庁のAI利用について、AIにきいてみた

税制調査会専門家会合(座長 岡村忠生教授)で、早稲田大学の岩崎尚子教授が、「デジタルガバメントの国際比較と経済社会のデジタル化の進展」と題する報告をされた。それによると、デジタル政府世界ランキングでデンマークのように上昇してきた国もあり、日本のように低下傾向にある国もある(スライド10頁)、とのこと。AI利活用も進んでいて、「世界の税務当局の50%以上がAIをリスク評価や不正検知に活用(OECD調査)」(スライド22頁)という。質疑応答を通じて、AI人材不足や自治体対応など、多くの課題が浮き彫りにされた。

中でも重要な課題がAIガバナンスだ。この点について、オーストラリアでは2025年2月、Australian National Audit Office (ANAO)によるレビューが公表されている。このレビューは、豪国税庁(Australian Taxation Office)を対象として、そのAI導入と管理体制に関して包括的な評価を行った。評価の観点は、1)AI導入のためのガバナンス体制が効果的か、2)AIモデルの設計・開発・導入プロセスが効果的か、3)AI導入後のモニタリング・評価・報告が効果的か、の3つ。7つの勧告が出されている。このあたりは、Perplexityで検索をかけてみると、すぐに(日本語で)要約が手に入る。

今日のお話のようにシンギュラリティが予想外に近いのだとすれば、AIが暴走しないための枠組みづくりは税務行政においても大事な課題だと思う。他方で、納税者への助言サービスのほうも急速にAI利用が進むから、民間利用についても考えるべき点が多いはず。

さらに、今後AIが意思決定の前面にでてくるようになると、従来からの通念にも再考が迫られる。すなわち、「人はなぜ自発的に納税するか」については、合理的効用計算だけでは説明できず、社会規範とか信頼とかの要素が働いていると考えられてきた。しかし、AIが損得勘定だけで走るようになっていたら、AIによるプランニングや申告は、生身の人間によるそれとは異なるものになることが容易に予想される。専門家倫理として議論されてきた問題は、私たちがAIに依存するようになった社会では、どうなっていくのか。

さらに憶測を重ねよう。AI主体の納税環境の下では、税務行政のアプローチにも再考が必要になってくる。「人はなぜ納税するか」も違って見えてくるだろう。国ごとの違いが何に起因するかという問い自体が、あるいはひっくりかえるかもしれない。生成AIはつくづく、game changerだ。

2025/03/29

金子宏先生追悼論文集

日本税務研究センターの日税研論集86号「金子租税法学の回顧と継承―金子宏先生追悼論文集―」が公刊されていた。金子先生は1990年代前半に横浜国立大学で教鞭をとっていらっしゃり、すでに横浜法学32巻1号で追悼特集が組まれている。

横浜国立大学時代の金子先生は、とりわけ国際課税の研究と交流に力を尽くされた。そこで、日税研論集の企画に際し、私はその時期のことを取り上げることとした。先生の法人税制調和論がその後の国際課税ルールの展開の中でどうなったか、30年強が経過した現時点の視点から顧みることができた。また、先生が頻繁に国際会議を催され、私のような若手に対しても参加の機会を与えてくださっていたことが、改めてよくわかった。税研239号の特集でも国際会議の思い出を記される先生方が多く、大変な求心力をもって活動されていたことがなつかしく感じられる。

以下、日税研論集86号の目次をコピペする。

まえがき

金子宏先生の学問業績の概要 中里 実

離婚時の財産分与をめぐる夫婦の課税関係 佐藤英明

横浜国立大学時代の金子宏先生—国際課税を中心として 増井良啓

財産評価に関する金子説とその展開 渋谷雅弘

tax mix:一元的担税力と多元的担税力 浅妻章如

行政機関による情報の取得をめぐる法的理解の変遷 「行政調査」概念を手がかりとして 渕 圭吾

金子租税法学における信義則 藤谷武史

権利確定主義はどこへ―─ 法人税法22 条の2創設は何を変えたのか? 吉村政穂

国際人道税・国際連帯税の構想:地球規模課題と租税法学の空間的拡張 神山弘行

累進的消費課税の執行とプライバシー――中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する議論の参照 長戸貴之

景気安定化の手段としての租税制度の可能性とその限界 藤岡祐治

「租税情報開示禁止原則」について 田中啓之



2025/01/09

2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想

2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想

1.はじめに

今回のゼミは通年開講で、「人はなぜ納税するか」という問いを、文献会読の形式で追求した。まず、Sセメスターの歴史編・比較編では、日本法現状把握のための準備作業を経て、Keen & Slemrod (2021)の概説からはじめ、米独仏における特定時期の歴史や、途上国税制・米国反税運動・タックスギャップ推計・租税犯罪グローバル十原則を取り上げた。

これに続き、Aセメスターでは、現代的問題に関する文献を会読してきた。文献リストの作成にあたって意識したのは、狭義の法解釈学の論文に視野を限定するのではなく、法学との隣接領域にも可能な範囲で目配りすることだった。なぜなら、「人はなぜ納税するか」という問いに対しては、さまざまな学問分野からのアプローチが試みられているからだ。こうして、素材の面でも方法の面でもかなり広範な読書リストができた。このような文献に対して、法学部・法科大学院で学ぶ参加者のみなさんが「好き嫌い」せずに旺盛な「知的食欲」を示されたことを、うれしく思う。これが最大の感想。

以下、Aセメスターで会読した文献を、簡単に振り返ってみよう。

2.AI

AIについては2本を取り上げた。Chand, Kostić & Reis (2020)は、AI重課論を退けたうえで、人的資本蓄積のための教育目的税を提唱する論文で、構えが大きい。Daly (2024)は、税務行政におけるAI利用が法の支配に役立つ可能性を指摘する点が新鮮だった。AIに関しては論文が量産されており、継続的に追いかける必要があろう。

3.暗号資産

Baer, Mooij, Hebous & Keen (2023)は、暗号資産(仮想通貨)の課税に関する要領のよいレビュー。有益な指摘として、Bitcoin課税の根本に「有価証券と通貨の二元的性質」があることや、実態に関するデータが不十分であること、執行面の課題が大きいことがあった。このブログでも記事を書いた。なお今回は、Blockchain関係の文献は取り上げなかった。

4.米国のLaw Review論文

やや古いものとして、思考実験風の論文と、現実的な政策提言を行う論文を、選んだ。Raskolnikov (2009)は、納税者に選好を顕示させる仕組みを論ずる。抑止レジームと遵守レジームのいずれかを納税者に選ばせるという思考実験が興味深い。もっとも、フロアの議論では、納税者の権利を「切り下げる」面があることへの抵抗感もあった。また、変数をいじるに際して税務職員の動機を無視しているのではないか、という問題もある。

より現実的な論文が、Bankman, Nass & Slemrod (2016)のスマート申告の提案である。申告書文言の改善や、会話型エージェントの利用につき、パイロット研究を行うべきだと提案する。この論文から約10年が経過し、いまや各国税務行政のトレンドとなった感がある。日本型記入済申告書の先駆的指摘とみることもできるかもしれない。

5.レビュー論文

多数の文献をレビューする論文を、2本取り上げた。Hahn & Pérez (2020)は、租税専門家に関する合計46本の文献(2013年から2018年の間に公刊)をレビューする論文。納税者・課税当局・税務仲介者の三角関係を軸に、多様な学問領域のジャーナルを探索した点で資料的価値がある。次の課題としては、専門家責任や倫理に力点を置いて、より長い時間的スパンで、各文献への評価を率直に語る、といったものがありそう。

Hoopes, Robinson & Slemrod (2024)は、法人による租税情報の開示に関するまとまった文献レビュー。強制開示・自発的開示・第三者開示という分類軸に、非公開(=課税当局に対してのみ開示)・公開の区別を加える整理がわかりやすい。CbCRやFATCAなど実例の提示も包括的。日本でもタックスシェルターの義務的開示(MDR)が議論されている。何が機能し何が機能しないかに関するこれだけ多くの実証研究を前にすると、議論の更新が必要と感ずる。

6.脱税・腐敗

「人はなぜ納税するか」は、裏をかえせば、「人はなぜ納税しないか」ということでもある。そこで最後に、納税非協力に着目して、2本の論文を取り上げた。de la Feria (2020)は、付加価値税の逋脱(VAT fraud)を素材にして、EUにおいて、逋脱そのものを禁圧するのではなく、逋脱を管理するやり方に転換してきたことを批判する。やり玉にあがるのが、第三者に加重責任を負わせる犯罪コントロールの民間化(responsibilization)である。税収確保のために制度と執行を最適なレベルに調整する発想(たとえばHemelらのBETR)への対抗言説とも読める。

Ring & Grasso (2023)は、シンポジウムの巻頭論文である。その中心的主張は、賄賂よりも広く汚職・腐敗(corruption)を、脱税よりも広く税制濫用(tax abuse)を、問題にすべきだ、というもの。アイルランド政府がアップル社に与えたsweetheart tax dealを素材にするなど、米英EUにおける旬の話題が学べる。制度的腐敗(institutional corruption)に対する問題意識がよくわかるし、広い定義を採用することで隠れた問題を認識できる。もっとも、間口を広げる分だけ、効果的対処は一層困難になるのではないか。

7.文献選択のバイアスについて

Aセメスターで会読した文献は、やや、英米の素材に偏っていたかもしれない。バイアスを中和するために、班別討議やフロア全体討議では、つとめて、日本の状況との比較を話題にした。Sセメスターから参加した方々は、独仏の歴史や途上国の税務執行についても議論した。

昨年度のゼミでは、Levi(1988)Braithwaite(2007)など、理論枠組みに関する文献も取り上げていたが、今回はそうしなかった。その結果、理論的コアの押し出しが弱く、多様な各論が並列している、という印象を与えたかもしれない。安易な「体系化」を阻む奥の深い領域だけに、信頼に関するScholtzの議論などをはじめとして、引き続き検討が必要。

8.おわりに

時間制約の中で、参加者はよくがんばった。もっとも、今回のゼミで会読したのは、各論題に関する多くの文献のうち氷山の一角である。取り上げなかった論題も多い。

継続は力なり。来年度は駒場の「社会科学ゼミナール」に場所を移して、基本的な文献会読を継続したい。

2024/09/16

Tax administration is tax policy.

税務行政は租税政策そのものである、という趣旨で、

Tax administration is tax policy.

といわれることがある。この印象的なフレーズの原典は、世銀のこの本だ。すなわち、(シャウプ勧告で有名なあの)シャウプ博士を含む編者が、『途上国における付加価値税(Value Added Taxation in Developing Countries)』と題する書物を1990年に公表し、その中で、IMFのMilka Casanegra de Jantscherさんが、「付加価値税を執行する(Administering the VAT)」という論文を寄せた。その179頁右の箇所に、このフレーズが出てくる。引用する(イタリックは原文のまま、ボールド体は引用者による)。

My sole purpose is to point out that the broad-based and neutral tax discussed in public finance treatises is very different from the VAT that prevails in most developing countries and that administrative constraints are the main cause of this difference. Experience with the VAT shows, once more, that in developing countries tax administration is tax policy.

(仮訳)私の唯一の目的は、財政学の論文で議論されている課税ベースが広くかつ中立的な租税は、ほとんどの発展途上国で普及している付加価値税とは非常に異なっており、この違いの主な原因は行政上の制約であることを指摘することだ。付加価値税の経験は、発展途上国では税務行政租税政策そのものであることを改めて示しているのである。

この引用から明らかなように、もともとの文脈としては、途上国のVATの経験に照らし「途上国においては」そうだ、という意味であった。これがのちに限定を付さない形で、広く引用されるようになったのだろう。1992年のこの論文では、Milka Casanegra de Jantscher自身が、VATに限定せず「途上国においては」真の意味で税務行政は租税政策そのものであると述べていた。その後、Rihard M. Bird教授は、2004年の Administrative dimensions of tax reform, Asia-Pacific Tax Bulletin, Vol.10, No.3でも、その脚注5で上記1990年の論文を引用しつつ、より一般的に次のように述べている。

In a very real sense, “tax administration is tax policy”. Maximizing revenue for a given administrative outlay is only one dimension of the task of tax administration. Revenue outcomes may not always be the most appropriate basis for assessing administrative performance. How revenue is raised, i.e. the effect of revenue generation effort on equity, the political fortunes of the government, and the level of economic welfare, may be equally (or more) important as how much revenue is raised.

(仮訳) 真の意味で「税務行政は租税政策そのものである」。与えられた行政支出に対する歳入の最大化は、税務行政の任務の一側面にすぎない。歳入アウトカムは、行政業績を評価するための最適基準であるわけでは必ずしもない。歳入がどのように得られるか、すなわち、歳入創出努力が公平性、政府の政治的運命、経済厚生水準に与える影響は、どれだけの歳入が得られるかと同じくらい (あるいはそれ以上に) 重要である。

つまり、Bird教授によると、途上国のVATという元々の文脈を超えて、より普遍的な意味において、税務行政が租税政策そのものだ、というのである。そして、その内容として、歳入に劣らず公平・政治・経済厚生を考えなければならない、という点が敷衍される。なお、Bird教授には同タイトルでこの論文が2014年にあり、そのままリンク先で読めるが、引用してあるフレーズではisがイタリックになっていない(編集の都合だろうか)。

ところで、この"Tax administration is tax policy."というフレーズには、ぼく自身にも個人的な記憶がある。1990年代あたまに米国留学したころ、Milkaさんが大学のクラスにいらっしゃったのだったか、Washington DCへの見学旅行でお目にかかったのだったか、いずれだったかは忘れてしまったが、直に接する彼女の肉声がその大人風の物腰とともに、きわめて迫力に満ちていた。そのときの正確な発言が"tax administration is tax policy"だったか、はたまた"tax policy is tax administration"だったかは、いまとなってはぼくの記憶があいまいだ。文章に残っているところからすると、おそらく彼女の「決め文句」は前者だったのだろう。

2024/08/23

租税法学会第53回総会案内

租税法学会のこのページである。

2024年10月26日(土)広島修道大学、総会幹事は奥谷健教授。

「経済社会の構造変化と租税手続の変容」 
租税手続における納税者の地位~税務行政の「ディストピア」と「ユートピア?」~
 報告:佐藤英明(慶應義塾大学) コメント:田中晶国(京都大学)
税務行政のデジタル化における納税協力の変容と諸課題
 報告:藤間大順(神奈川大学)  コメント:髙橋祐介(名古屋大学)
徴収手続における納税者以外の私人の役割
 報告:一高龍司(関西学院大学)  コメント:西山由美(明治学院大学)
徴収の制度設計についての理論的検討
 報告:藤岡祐治(一橋大学) コメント:渡辺智之(敬愛大学)

2024/06/06

世銀が税務行政ハンドブックを公表

世銀がRevenue Administration Handbookを公表していた。税務行政(関税行政を含む)の構造と運営について包括的かつ体系的な叙述を行うもので、税務行政に関するまとまった教科書になっている。全体で214頁。7章構成、6つの付録がある。著者は世銀のRaúl Félix Junquera-VarelaとCristian Óliver Lucas-Masである。

このハンドブックの第5章が、租税制裁(Tax Sanction)の枠組みに関するガイドラインである。中でも111頁以下に、tax penaltiesについて、その設計に関するベストプラクティスのガイドラインがある。ここにtax penaltiesとは、禁止された行為に対して、または、無申告や過少申告など義務の不履行に対して、租税法が科す(課す)制裁措置のことである。日本法に引き付けていえば、罰則や重加算税がこれに相当するであろう。ハンドブックは、tax penaltiesには懲罰機能(punitive function)と抑止目的(deterring aim)があると述べている(111頁)。なお、この章はこれとは別にsurchargeとinterestについて論じており、こちらは日本法上の過少申告加算税や延滞税に相当する。

さて、この意味におけるtax penaltiesに関する望ましい設計ガイドラインを示すための前提として、ハンドブックは、以下の認識を示している。それ自体として興味深いものであるので、中心的な4つの段落を抜き出して、その部分を全訳しておこう(111-112頁)。

  • いくつかの研究の知見によると、納税者は、摘発される確率が 4%以下と非常に低い場合には、摘発される確率よりも刑罰の大きさにヨリ敏感である(Jackson and Jones 1985)。他の研究者たち(Schwartz and Orleans 1967)は、刑事制裁の厳しさと高所得自営業者のコンプライアンスとの間に有意な関係があることを観察している。これはまた、制裁に関する類似研究により支持されており、その研究によると、法的制裁は高階層と高学歴層に最も効果的であることを示している。これらの研究はまた、うしろめたい感情という脅威の方が、法的制裁の威嚇やスティグマよりも、脱税に対する抑止力になることを発見している。
  • しかしながら、研究(Allingham and Sandmo 1972)は、摘発される確率が閾値に達すれば軽罰も厳罰と同程度に抑止効果があることを示す証拠を提供している。罰則の厳しさは、必ずしも納税コンプライアンスに直線的な効果をもたらすとは限らない。Jackson and Milliron (1986)は、制裁の社会的コストが利益を上回る可能性があるとしている。制裁が厳しすぎると認識されると納税者は集団として疎外され、結果として、一般的な反感や法律軽視を生む可能性がある。他方で、制裁水準の引き上げが納税者のコンプライアンスに及ぼすプラスの効果は、比較的低く現実的な罰則水準が用いられる場合にも維持されることがわかっている(Carnes and Eglebrecht 1995)。
  • Keinan (2006)とAlm (2013)を含むほとんどの研究では、未納付税額に対するペナルティー率が上昇しても、コンプライアンスはわずかにしか上昇しないことが分かっている。推定申告所得-ペナルティー率の弾力性は、通常0.1未満である。また、罰則は金銭的なものに限る必要はない。ここでのポイントは、自己のコンプライアンス行動が公開されるという脅威は、自己の情報が他者に見られるかもしれないという懸念からコンプライアンスに影響を与える可能性があり、他者のコンプライアンス遵守(またはその欠如)の観察が自己の申告行動にも影響を与える可能性があるということである。実験的証拠(Alm 2013)は、コンプライアンス違反の公表がコンプライアンスを高めることを示唆している。他の研究(Oladipupo and Obazee 2016)は、税務知識は税務罰則よりも税務コンプライアンスを促進する傾向が高いことを示している。したがって、政府は税務に関する国民の知識を高めるためにあらゆる手段を講じるべきであり、租税教育を高校レベルのカリキュラムに常に含めるべきである。中小企業経営者も、政府と納税者の相互利益のために、税務知識と意識の向上を図るべきである。
  • 新しい制裁制度を設計する際には、納税者の動機を考慮することが適切である。納税者が法的インセンティブなしに常に善良に行動するのであれば、不正行為を抑止するための罰則は余計なものである。多くの場合、罰則の設計は、経済的な考慮が行動の唯一の決定要因であるという逆の仮定から出発する。しかし、納税者の行動に影響を与える規範的要因など、他の要因が介在する場合もある。

なお、上記で引用されている文献については、下記のBibliographyを参照。以下、ハンドブック127頁(第5章末尾)をコピペした。
-Allingham, Michael, and Agnar Sandmo. 1972. “Income Tax Evasion: A Theoretical Analysis.” Journal of Public Economics 1 (3–4): 323–338. https://doi.org/10.1016/0047-2727(72)90010-2.
-Alm, James. 2013. “Designing Responsible Regulatory Policies to Encourage Tax Compliance.” Conference on “Reflections on Responsible Regulation,” Tulane University, New Orleans, March 2013. http://murphy.tulane.edu/files/events/Alm-DesigningResponsibleRegulatoryPolicies-MurphyInstitute-021113.pdf.
-Carnes, G., and T. Eglebrecht. 1995. “An Investigation of the Effect of Detection Risk Perceptions, Penalty Sanctions and Income Visibility on Tax Compliance.” Journal of the American Taxation Association 17 (1): 26–41.
-European Court of Human Rights. 1976. “Engel and Others v. The Netherlands.” Judgment given on 8 June 1976, Strasbourg, France. https://bit.ly/3t1EYbo.
-Gordon, Richard. 1996. “Law of Tax Administration and Procedure.” In Tax Law Design and Drafting, Vol. 1, edited by Victor Thuronyi, Chapter 4. https://www.imf.org/external/pubs/nft/1998/tlaw/eng/ch4.pdf.
-Jackson, Betty, and Sally Jones. 1985. “Salience of Tax Evasion Penalties Versus Detection Risk.” Journal of the American Taxation Association 6 (2): 7–17. https://aaahq.org/ATA/Publications/JATA/Spring-85#jackson.
-Jackson, Betty, and Valerie Milliron. 1986. “Tax Compliance Research: Findings, Problems, and Prospects.” Journal of Accounting Literature 5: 125–65.
-Keinan, Yoram. 2006. “Playing the Audit Lottery: The Role of Penalties in the U.S. Tax Law in the Aftermath of Long Term Capital Holdings v. United States.” Berkeley Business Law Journal 3 (2): 381–436. https://doi.org/10.15779/Z38M86R.
-Lucas-Mas, Cristian Oliver, and Ana Cebreiro Gómez. 2023. “Guidelines for a Framework on Tax Sanctions: Designing the Framework Governing Tax Penalties, Surcharges and Interests.” Unpublished. World Bank, Washington, DC.
-Oladipupo, Adesina Olugoke, and Uyioghosa Obazee. 2016. “Tax Knowledge, Penalties and Tax Compliance in Small and Medium Scale Enterprises in Nigeria.” iBusiness 8 (1): 1–9. https://doi.org/10.4236/ib.2016.81001.
-Sandmo, Agnar. 2004. “The Theory of Tax Evasion: A Retrospective View.” Nordic Workshop on Tax Policy and Public Economics in Helsinki, November 2004. Discussion Paper 31/04. https://dokumen.tips/documents/sandmo-the-theory-of-tax-evasion-vgeorgiousandmopdftax-evasion-is-a-violation.html.
-Schwartz, Richard, and Sonya Orleans. 1967. “On Legal Sanctions.” University of Chicago Law Review 34 (2): 274–300. https://chicagounbound.uchicago.edu/uclrev/vol34/iss2/3.