16 September 2024

Tax administration is tax policy.

税務行政は租税政策そのものである、という趣旨で、

Tax administration is tax policy.

といわれることがある。この印象的なフレーズの原典は、世銀のこの本だ。すなわち、(シャウプ勧告で有名なあの)シャウプ博士を含む編者が、『途上国における付加価値税(Value Added Taxation in Developing Countries)』と題する書物を1990年に公表し、その中で、IMFのMilka Casanegra de Jantscherさんが、「付加価値税を執行する(Administering the VAT)」という論文を寄せた。その179頁右の箇所に、このフレーズが出てくる。引用する(イタリックは原文のまま、ボールド体は引用者による)。

My sole purpose is to point out that the broad-based and neutral tax discussed in public finance treatises is very different from the VAT that prevails in most developing countries and that administrative constraints are the main cause of this difference. Experience with the VAT shows, once more, that in developing countries tax administration is tax policy.

(仮訳)私の唯一の目的は、財政学の論文で議論されている課税ベースが広くかつ中立的な租税は、ほとんどの発展途上国で普及している付加価値税とは非常に異なっており、この違いの主な原因は行政上の制約であることを指摘することだ。付加価値税の経験は、発展途上国では税務行政租税政策そのものであることを改めて示しているのである。

この引用から明らかなように、もともとの文脈としては、途上国のVATの経験に照らし「途上国においては」そうだ、という意味であった。これがのちに限定を付さない形で、広く引用されるようになったのだろう。1992年のこの論文では、Milka Casanegra de Jantscher自身が、VATに限定せず「途上国においては」真の意味で税務行政は租税政策そのものであると述べていた。その後、Rihard M. Bird教授は、2004年の Administrative dimensions of tax reform, Asia-Pacific Tax Bulletin, Vol.10, No.3でも、その脚注5で上記1990年の論文を引用しつつ、より一般的に次のように述べている。

In a very real sense, “tax administration is tax policy”. Maximizing revenue for a given administrative outlay is only one dimension of the task of tax administration. Revenue outcomes may not always be the most appropriate basis for assessing administrative performance. How revenue is raised, i.e. the effect of revenue generation effort on equity, the political fortunes of the government, and the level of economic welfare, may be equally (or more) important as how much revenue is raised.

(仮訳) 真の意味で「税務行政は租税政策そのものである」。与えられた行政支出に対する歳入の最大化は、税務行政の任務の一側面にすぎない。歳入アウトカムは、行政業績を評価するための最適基準であるわけでは必ずしもない。歳入がどのように得られるか、すなわち、歳入創出努力が公平性、政府の政治的運命、経済厚生水準に与える影響は、どれだけの歳入が得られるかと同じくらい (あるいはそれ以上に) 重要である。

つまり、Bird教授によると、途上国のVATという元々の文脈を超えて、より普遍的な意味において、税務行政が租税政策そのものだ、というのである。そして、その内容として、歳入に劣らず公平・政治・経済厚生を考えなければならない、という点が敷衍される。なお、Bird教授には同タイトルでこの論文が2014年にあり、そのままリンク先で読めるが、引用してあるフレーズではisがイタリックになっていない(編集の都合だろうか)。

ところで、この"Tax administration is tax policy."というフレーズには、ぼく自身にも個人的な記憶がある。1990年代あたまに米国留学したころ、Milkaさんが大学のクラスにいらっしゃったのだったか、Washington DCへの見学旅行でお目にかかったのだったか、いずれだったかは忘れてしまったが、直に接する彼女の肉声がその大人風の物腰とともに、きわめて迫力に満ちていた。そのときの正確な発言が"tax administration is tax policy"だったか、はたまた"tax policy is tax administration"だったかは、いまとなってはぼくの記憶があいまいだ。文章に残っているところからすると、おそらく彼女の「決め文句」は前者だったのだろう。

No comments:

Post a Comment

Comments may be moderated for posts older than 7 days.