4部構成になっているといったが、特集全体の相互関係は、次のように読み取ることができる。
- Part 1 は「国際課税の一般原理」を問う
- Part 2 は「どの国が事業所得に課税すべきか」を問う
- Part 3 は「所得課税以外の代替的財源は何か」を問う
- Part 4 は「どの形式で協力を実現するか」を問う
- 効率性と正義の対立あるいは補完
- 包括的多国間主義と控えめな制度部品論の対立
- 先進国中心秩序とGlobal South要求の対立
J-TaxNotes は、租税法の展開をその時々に記録する研究ノートです。日本の租税判例、国際課税、税務行政・コンプライアンス、消費税・VAT、AI、租税史などを扱っています。2010年からの継続的定点観測。
4部構成になっているといったが、特集全体の相互関係は、次のように読み取ることができる。
2025年12月、ミュンヘンで「Building Blocks of an International Tax Order」という研究会合が開かれた。二日間にわたって、12本の論文がプレゼンされ、それに対するコメントが展開された。ぼくは体調不良で行けなかったのだが、提出していた論文を公刊物に加えてもらった。それが、Bulletin for International Taxation Vol.80, Number 4/5, 2026の特集。
特集の趣旨を一言でいえば、断片化した世界において、新しい税制選択がなされる際においても有効に機能しうる国際課税設計の個別要素を検討してみよう、ということだ。会合の招待状には、こう書いてあった。
If a decade ago we wondered about how to further integrate tax international tax rules, today we wonder whether such cooperation can continue even on a bilateral level. In a spirit of some humility, therefore, this conference seeks not to suggest an alternative multilateral path forward. Rather, as we wait upon events, the intent is to explore discrete pieces of international tax architecture that might prove effective as new tax policy choices are made in a more fragmented world.
この文章を引用して序文が特集の趣旨を説明している。それに続く本体は4部構成。以下、149-151頁のabstractをもとに、各論文を概観しておこう。
Part 1: General Principles of International Taxation
Nadine Riedel, “National versus International Welfare”法人税政策は、根本的に国際的な環境の中で作用しており、各国政府がほとんど内部化しないクロスボーダー外部性を生み出す。本稿は、国際法人課税の経済学的基礎を概観し、近年のOECD/G20改革を評価したうえで、実証的不確実性と地政学的制約の下では、広範な構造的再設計を追求するよりも、既存制度を統合・強化することを主張する。
Shafik Hebous and Alexander Klemm, “Can Siri and Alexa Pay Taxes?”AIが経済を変容させるにつれて、AIに課税すべきだという主張が勢いを増している。しかし、AIそれ自体を標的とする課税は非効率をもたらすおそれがあり、その負担は最終的には人々に帰着する。本稿は、AI固有の税は適切ではないと論じ、むしろ、イノベーションを阻害することなく、デジタル時代のレントを捕捉し、国境を越える課題に対応し、衡平を保護する税制を重視する。
Mathias Risse and Marco Meyer, “International Tax Justice: The Independence Fallacy and the Myth of Freely Disposable National Income”各国はしばしば、国民所得を自由に処分できるものとして扱う。著者らはこの前提を “Independence Fallacy” と呼ぶ。相互に結びついた経済においては、所得は、国境を越えて財産制度が承認されることに依存しており、そこからグローバルな分配的正義の義務が生じる。これらの義務は、財政主権を制約し、国際租税協調を支持する。
Johanna Hey, “The Single Tax Principle”Single tax principle(STP)は、国際租税法において最も議論の多い考え方の一つであり続けている。本稿は、その内容、確立した諸原則との関係、および実務上の含意を検討し、STPから導かれる解決策、とりわけグローバル・ミニマム課税が、分断化した国際租税環境の中で存続可能であり続けるかを、EUの経験からの示唆も踏まえて探究する。
Daniel Shaviro, “Once for Good Measure? Comment on Johanna Hey’s ‘The Single Tax Principle’”本コメントは、Johanna HeyによるSTP批判に応答する。
Philip Baker, “The Missing Building Block: The Promotion of Human Rights and Taxpayers’ Rights”本稿は、人権および納税者権利の尊重と促進が、正統性ある国際租税秩序にとって不可欠な構成要素であると主張する。本稿は、この二つの権利枠組みを区別し、それらの法的および実際上の重要性を説明し、国際課税設計の中にこれらを組み込むことが、tax morale、適法性および制度的安定性を維持するうえで重要であることを示す。
Part 2: Taxation of Business Income本稿は、事業所得課税における居住地ベース課税の役割を評価する。その重要性は、法人居住地の多義性、居住地の選択可能性の増大、および個人株主所得を正確に課税することの困難性により、低下していると論じる。本稿は、居住地ベース課税の役割が縮小した将来について、三つのシナリオを示す。
Afton Titus, “Digital Services in Africa: Rebalancing Business Income Taxation through Inter-Nation Equity”本稿は、アフリカにおけるOECDのPillar Oneと国内デジタルサービス税(DST)を比較し、公平性、中立性、簡素性および執行可能性の観点から評価する。アフリカのDSTは、国家間衡平その他の政策原則に照らして良好に機能する一方、Pillar Oneの評価は低い。本稿は、開発途上国の生存にかかわる財政不足が解消されるまでは、先進国はDSTを制約することを避けるべきであると結論づける。
Part 3: Other Sources of Public Revenue関税は、2025年に、現米国政権が多様な目的のために広範な関税を用いたことにより、国際課税の世界において顕著な特徴となった。本稿の主眼は、関税の役割を、間接税と直接税という二つの異なる文脈において定義することにある。消費課税の観点から見ると、関税は輸入品に対する差別的な税であり、無差別という概念そのものとその帰結に根本的な挑戦を突きつける。所得課税の観点から見ると、関税は、国境を越える物品販売から生じる利益に対する源泉徴収税の代替物として概念化できる。この出発点から、原産地国および仕向地国の政策選択肢が説明される。
Yan Xu, “VAT and Indirect Taxes: Rethinking International Taxation”本稿は、VAT、デジタル取引税および気候関連賦課金を検討し、断片化したルールの下でデジタル化と脱炭素化により形づくられる経済における、それらの相互作用を明らかにする。本稿は、これらの間接税を国際租税論議の中心へもってくるべきであり、UN主導でOECDの知見を取り入れた多国間枠組みの中で、別個の縦割り領域として扱うのではなく、体系的に調整すべきであると論じる。
Andrés Báez Moreno, “Can Failed Taxes Be Revived through Modest Innovation? On the New Proposals for Net Wealth Taxes”本稿は、純資産税に関する近時の提案が、伝統的な富裕税についてよく知られた失敗を真に克服しているのかを批判的に検討する。経済状況および透明性をめぐる条件の変化を認めつつも、「今回は違う」という楽観的主張に疑問を呈し、多くの制度設計上および執行上の問題は構造的なものであり、新たな実務上および法的な課題を生じさせうると論じる。
Part 4: Modes of Cooperation“Building Blocks of an International Tax Order” という会議テーマの文脈において、本稿は、直接税における国際的な無差別基準の弱点と、なお残る存続可能性を検討する。租税条約、通商法および投資法を素材として、主として欧州の観点から、体系的な概観と現代的論点の選択的検討を通じて、保護の浸食を跡づける。
Robert J. Danon, “The Rise of Tax Treaty Supremacy: The Case of Non-Discrimination”本コメントは、Georg Kofler教授の “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”に応答する。
Stef van Weeghel, “The Role of Tax Treaties”主としてOECDモデルおよびUNモデルによって形づくられてきた二国間および多国間租税条約の拡大は、国際的な制度調整、貿易および投資を促進してきた。しかし、特に開発途上国にとっての公平性をめぐる懸念は残っている。本稿は、租税条約の影響、その批判、および、衡平性と効率性を改善するための、脱政治化され柔軟なモデル条約の可能性を検討する。
Will Morris, “The ‘Modest’ Tax Treaty: A Comment on Stef van Weeghel’s ‘The Role of Tax Treaties’”本コメントは、租税条約を壮大な制度ではなく契約として位置づけ、その設計における控えめさと現実主義を強調する。
Philip Baker, “Building Blocks of an International Tax Order: Perspectives for Multilateral Cooperation”本稿は、OECD、UNおよび地域的イニシアティブにおける展開を概観し、改革を主導する見通しを評価する。
2026年4月7日 6:04付け日経の記事で,「OpenAIが政策提言,AIで業務自動化なら課税 週4日勤務も推奨」とあった.もとの文書は,"Industrial Policy for the Intelligence Age: Ideas to Keep People First"と題するもの.
さっそくに,ChatGPTに「整理せよ」と指示したら,いくつかテクストを生成してきた.その中には,次のテクストが含まれていた.
租税法の観点から読むと、核心は三つあります。第一に、AIで税源構成が「労働」から「資本・企業利潤」へずれるという認識。第二に、それに対応して課税ベースを資本側へ組み替える必要があるという提案。第三に、税だけではなく、公的富裕基金によってAI利得の分配参加を制度化しようとする点です。つまり、これは単なる「ロボット税」論ではなく、AI時代の再分配国家をどう再設計するかという問題提起として読むのが正確です。
主張自体はさほど新しいわけではないが,この時期にOpen AI が提示した,というところにインパクトがあるのだろう.
現物にざっと目を通してみると,なかなか興味深い文書で,いろいろ突っ込みどころがある.国際課税の観点からは,文書の5頁に
They also focus on the United States as a starting point, but the conversation—and the solutions—must ultimately be global.
と書いてあるところが気になる.文字通り,米国を出発点としつつ,グローバルな対話と解決を考える,という方向だ.たしかに,AI利用は国境を越えるので,グローバルな議論は不可欠だ.
そうすると,次のような論点が大事だろう.
【これまで】
3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?
【今回】
この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。
4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ
すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。
以下引用++++++++++++++++++++++++++++
以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)と方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。
AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)
気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)
実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)
生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)
規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)
“法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)
法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)
日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)
英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)
仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)
独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)
西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)
中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)
表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。
研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)
日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)
訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)
グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)
会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)
データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。
“一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)
判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。
ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)
共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。
各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする:
日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)
仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)
独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)
西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)
中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)
英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)
【とりあえず、これでおしまい】
【これまで】
【今回】
ちょっと大風呂敷を広げている感じがしたので、ハルシネーションではないかどうか、確認してみた。
Q 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?
これに対する応答は、以下の通り。所要時間52秒。
以下引用***********
上記の「法学全体の研究潮流」は、特定の1冊に依拠した叙述ではなく、(少なくとも英語圏を中心とする)法学の“プログラム論文/概念史的整理/方法論宣言”として広く参照される文献群を、いくつかの軸で**総合(triangulation)**して描いたものです。依拠したソースの「類型」と「代表文献」を、私が使った対応関係が分かるように整理します。
ここは、行政法・規制研究・公共政策の交点で形成された“regulatory state / governance”系の古典と、法学内部の “New Governance” 論が柱です。
**Regulatory state(規制国家)**の概念化:Majone「From the Positive to the Regulatory State」など(規制による統治へのシフトを説明)(Cambridge University Press & Assessment)
**Governance(governing without government)**の整理:Rhodes「The New Governance」(SAGE Journals)
法学内部での“New Governance”宣言:Lobel「Setting the Agenda for New Governance Research」(規制領域横断の研究潮流として提示)(scholarship.law.umn.edu)
私の叙述で言う「正当化だけでなく、誰が・どの手続で・どう運用するかへ」という部分は、この系譜(規制国家+新ガバナンス論)に依拠しています。(Cambridge University Press & Assessment)
ここは、国際法/国際関係法の側の“トランスナショナル法過程”と、国際機関・私的主体を含む規制の「行政法化」を論じる潮流が柱です。
Transnational Legal Process:Koh「Transnational Legal Process」(国家・非国家アクターが複数フォーラムで規範を“作り・解釈し・執行し・内面化する”という枠組み)(UNL Institutional Repository)
Global Administrative Law(グローバル行政法):Kingsbury/Krisch/Stewart「The Emergence of Global Administrative Law」(国際機関等の意思決定に、手続・理由提示・審査など行政法的コントロールが立ち上がるという整理)(Duke Law Scholarship Repository)
私の叙述で「条約だけでなくモデルルール・ソフトローが実質拘束」「法源・正統性が前景化」としたのは、この2つ(TLP+GAL)の議論枠組みを下敷きにしています。(UNL Institutional Repository)
ここは、**Empirical Legal Studies(ELS)**の制度化を示す編集序文・ハンドブック類と、法と社会(socio-legal studies)の系譜です。
JELS創刊と方法論宣言(ELSの自己定義・制度化の指標):Eisenbergら「Editor’s Introduction」(Journal of Empirical Legal Studies, 2004)(Wiley Online Library)
ELSの概説・位置づけ:Eisenberg「The Origins, Nature, and Promise of Empirical Legal Studies」(2011)や、Oxford Handbookの導入部(ELSの国際的拡がりにも言及)(scholarship.law.cornell.edu)
規制研究と“応答的規制”(法執行のデザインを社会科学と結ぶ代表作):Ayres & Braithwaite『Responsive Regulation』(1992)(John Braithwaite)
私の叙述で「解釈学だけでなく制度効果の検証が標準化」「コンプライアンス研究が方法論的に拡張」とした部分は、ELSの制度化(JELS等)+応答的規制の流れに依拠しています。(Wiley Online Library)
ここは比較的新しい領域なので、行政法原理(適正手続・説明責任・裁量統制)を、アルゴリズム意思決定にどう移植するかを論じる研究が中心ソースです。
公共部門におけるアルゴリズム意思決定と行政法原理:Oswaldら「Algorithm-assisted decision-making in the public sector…」(2018)(royalsocietypublishing.org)
アルゴリズムが「ルール」か「ガイダンス」か(手続法=APA等との接続):Henderson & Krass「Algorithmic Rulemaking vs. Algorithmic Guidance」(2023)(jolt.law.harvard.edu)
「手続的正義」や“voice(聴聞・参加)”の欠落を論じる近時研究:Kinchin「Voiceless: the procedural gap in algorithmic justice」(2024)や、due process by design(2025)(OUP Academic)
私の叙述で「説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点」とした部分は、こうした“algorithmic governance × administrative law/procedural justice”文献群に依拠しています。(royalsocietypublishing.org)
私が「潮流」と言うときの根拠は、だいたい次の4種類です。
分野を定義した古典(概念装置の提示):Majone(規制国家)、Rhodes(ガバナンス)、Koh(TLP)、Kingsburyら(GAL)(Cambridge University Press & Assessment)
法学内部での方法論・運動の制度化:JELS創刊序文、ELS概説・ハンドブック(Wiley Online Library)
実装・執行設計を軸にした学際の定番:Responsive Regulation(John Braithwaite)
新領域(AI等)で行政法原理を再定式化する近時研究:Oswald、Henderson & Krass、Kinchin など(royalsocietypublishing.org)
(続く)
【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ
【その続きがこのページ】
続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。
以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ
すると即座に、以下のテクストが生成された。
以下引用*********************
法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。
近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。
何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。
行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)。
→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。
条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。
法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。
→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。
立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)や社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。
これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。
→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。
AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。
行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。
→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。
上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。
BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。
典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。
情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。
典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。
税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。
典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。
脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。
窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。
Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ
すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)と学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。
GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)
2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
→ 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。
Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)
国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
→ 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。
自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。
研究の焦点は、
データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)
国境を越える執行協力(国際行政法)
刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
へ広がっています。
→ “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。
税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。
ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。
租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。
“租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。
「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。
AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は
アルゴリズムの透明性・説明可能性
差別・偏り(バイアス)と救済
自動化された不利益処分の適正手続
へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。
同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。
とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。
国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、
租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、
「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。
(続く)
2025年12月26日、政府が「令和8年度税制改正の大綱」を閣議決定。冒頭の文章を箇条書きに直して、そのまま引用する。
今年の租税法学会は、この学会としてはじめて、ポスタープログラムを試行していた。2階のこぎれいな休憩室で、ペットボトルお茶も配備された快適な環境。居心地がよかったので、私は別の部屋の会議に遅れそうになった(すみません、すこし遅れたかもしれません)。美しいポスターの前で、展示者と話し込む会員の姿が印象的だった。
よい企画だったと思う。会場の確保や、事前の選考、当日の運営など、関係者の労力は多大なものと想像するが、ぜひとも続けていってもらいたい。プログラム参加者の方々のお名前・所属・研究題目が継続してウェブサイトで公表されると、今後は、「ああ、あのときの方だ」と思い出す機会にもなるだろう。
国際学会の例だと、IFAのポスタープログラムをみると、若手で博士論文を書いている人たちに人気の論題がどのへんにあるかが、すぐにわかる。Mitchell B. Carroll Prizeとか、Maurice Lauré Prizeとかの有名どころと比べると、著者と直に話せるのも気軽でいい。
【追記】浅妻教授の当日記録がここにアップされている。
参考までに、2025年リスボン大会の例はをコピペしておく。リンク先から色彩鮮やかなスライドを見ることができる。2月のIBFDでのこの会議でプレゼンしていた人も、何人かいる。この人たちは、論文を書いている最中に、プレゼンとフィードバックのチャンスが何度もあるわけだ。
At the occasion of the 2025 Congress in Lisbon, the following participants were selected for the Poster Programme:
Paul Caron教授のTaxProf Blogが21年の歴史を閉じるとのこと。2025年9月8日付けのこのブログによると、Typepadの終了を機会に、長く続いたBlogをたたむ、という。
米国租税法の動向を知るうえで、大変便利なものだった。税制改正の最新動向や、そのおりおりの重要判決、それらに関する専門家の反応が、一目でフォローできた。SSRNなどに投稿されたWorking Paperをフィーチャーしたり、各種Workshopのお知らせを集約したりするなど、大学教授の知的活動の結節点でもあった。法教育に関するニュースも早かった。
残念ではあるが、これまでの貢献をたたえたい。
とりあえずの対応措置として、直下に配置していたTax Prof Blogからのfeedページは、整理することにした。これからは、ネット上の公開情報をAIが学習する動きが加速するだろう。情報を収集して整理するという重要な知的作業が変質していく中で、どう対応するかが宿題。
租税法学会のこのページだ。例年よりやや早く、2025年9月27日(土)。今回は東京開催で、中央大学茗荷谷キャンパス。新たな試みとして、若手研究者の研究奨励と、会員との研究交流を目的として、ポスタープログラムも試行される。
プログラムをコピペしておこう。
「人口構造の変化と租税原則の再検討」
① 研究報告
憲法上の「租税」の意義
報告:渕圭吾(神戸大学) コメント:谷口勢津夫(大阪学院大学)
「公平」と多様な生 ― 費用控除と消費の関係を中心に
報告:山田麻未(九州大学) コメント:岩崎政明(明治大学)
キャリア形成・資産形成と所得税制
報告:辻美枝(関西大学) コメント:神山弘行(東京大学)
移民社会における課税の「公平」
報告:長戸貴之(学習院大学) コメント:岡直樹(東京財団)
税務行政におけるDX・AIの進展と簡素原則
報告:泉絢也(東洋大学) コメント:巽智彦(東京大学)
② 質疑討論(シンポジウム)
このあいだperplexityに聞いてみてから 2週間ちょっと。リンク先がごっそり入れ替わり、だいぶ充実した。
[プロンプト]show several professional website on the contents of OBBBA
以下がこれに対するperplexity.aiの応答だ。法人向けとか、個人向けとか、経済予測とか、関心に応じて読み分けることができるようになってきた。
Several authoritative, professional websites provide in-depth coverage and analysis of the One Big Beautiful Bill Act (OBBBA). Here are some key sources:
Wikipedia: Offers a comprehensive overview of OBBBA, including its legislative history, major provisions (such as the permanent extension of 2017 Trump tax cuts), and policy context1.
Tax Foundation: Delivers a detailed FAQ on the OBBBA’s main tax changes, highlighting the permanence of past tax cuts, new exemptions, and changes to international tax rules2.
McDermott Will & Emery (mwe.com): Provides expert legal commentary focusing on the corporate impact of OBBBA, especially for international and domestic business tax changes3.
H&R Block: Explains how the OBBBA will affect individual taxpayers, including the timeline for new rules and permanent features of the law4.
JD Supra: Presents a legal alert summarizing OBBBA’s key changes affecting individuals, businesses, and nonprofit entities—with attention to 100% bonus depreciation and interest deduction reforms5.
KBKG: Offers a professional tax advisory overview and summary chart of the 2025 tax law changes introduced by OBBBA, tailored for business tax planners6.
Loeb & Loeb: Breaks down major legislative changes under OBBBA, covering individual income tax, estate tax, business deductions, and more7.
National Taxpayers Union Foundation: Reviews the impact of OBBBA’s major tax provisions on the economy, federal revenue, and social spending8.
Moore Colson: Provides a professional summary on how OBBBA affects individual taxes, outlining key changes for taxpayers9.
Eckert Seamans: Details highlights of the tax reform under OBBBA, with attention to new definitions and rules for education expenses10.
These websites are widely recognized legal, tax, or policy authorities and offer reliable explanations of OBBBA’s contents and implications for different audiences.
略してOBBBA。2017年12月TCJA以来の大きな税制改正(見方によっては改悪)。とりあえず現時点で検索して上位に出てくるものにリンクを張る。これからたくさん論説や分析が出てくる。いまこんなことをしなくても、いつでも対象時点を指定してAIにまとめ作成を依頼すればいいのだが・・・
日経新聞 トランプ減税法案が下院通過、成立へ 企業と富裕層に恩恵・EVに逆風
TaxProfBlog Friday, June 27, 2025 Tax Policy In The Trump Administration
TaxProfBlog Friday, June 20, 2025 Tax Policy In The Trump Administration
TaxProfBlog Friday, June 13, 2025 Tax Policy In The Trump Administration
TaxProfBlog Friday, May 30, 2025 Tax Policy In The Trump Administration
TaxProfBlog Friday, May 23, 2025 Tax Policy In The Trump Administration
山田&パートナーズ池田美保氏のレポート 2025年5月23日税制改正草案“One Big Beautiful Bill Act” (米国)(下院通過後上院審議前)
Congress.gov H.R.1 - One Big Beautiful Bill Act, 119th Congress (2025-2026)
The White House The One Big, Beautiful Bill
WSJ House Passes Trump’s Megabill in GOP Triumph
The Washington Post House passes Trump’s bill
Financial Times House of Representatives approves ‘big, beautiful bill’ in victory for Donald Trump
BBC A look at the key items in Trump's sprawling budget bill
マグナカルタの原本がHarvard Law School図書館で発見された。1946年にオリジナルとは知らずに27ドル50セントで購入したものだという。BBCの上記報道によると、
とのこと。HLSのウェブサイト記事はこれ。日本でもたとえばこの報道。
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この話は、所得について考える素材として使える。そこで昨日の租税政策ゼミで、この話を改変して仮想の設例をつくり、所得概念の復習をやってみた。
【設例】Aさん(日本の居住者)が古本屋でマグナカルタを10万円で買った。それが2000年のことで、本物ではないと思っていた。ところが2025年になって、本物だとわかった。時価は30億円だ。
【問題】Aさんに所得は発生しているか。
【第1説】Aさんは2000年に時価30億円のものを対価10万円でもって低価購入している。だから2000年に29億9990万円分の所得が生じる(実体法レベル)。古本屋が法人だったら一時所得、個人だったら贈与税の課税対象だろう。もっとも現実には5年の除斥期間が満了しているから、いまさら税務署長が決定処分をすることはできない(手続法による課税の制約)。
→この第1説の問題は、2000年の時点で時価が30億円だったといえるか、だ。神の眼からみればそうなのかもしれない。しかし、2025年に本物だとわかるまでは、誰もが本物ではないと信じて、「せいぜい10万円くらいだな」と値付けしていたのではないか。とすれば、2000年の時点で課税すべきだったという立論には弱点がある。
【第2説】Aさんが2025年にこれを30億円で売却したら、取得価額10万円と総収入金額30億円の差額につき、譲渡所得が生ずる。これに対し、譲渡せずに保有し続けていれば、未だ所得は実現しておらず、課税されることはない。
→所得税法は実現原則を採用しているから、この構成は実定法の適用として自然である。購入後に長期間保有していた株式がある時点で大化けして値上がりした場合と同様だとみるわけだ。多くの専門家は、おそらくこの第2説に賛成するであろう。
→なお、実定法以前の所得概念の問題としては、30億円もの値段がつくメカニズムやタイミングについて検討の余地があるかもしれない。それは、美術品の値付けなどと共通する問題として整理できそう。
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昨日のゼミではこのあたりで議論を終えた。やっていけばもっと深く突っ込むことができそう。ただしこれが素材として「受ける」かどうかは、教室で学生さんが「面白い」と思ってくれるかによる。実際、ゼミ後の雑談では、この話ではなく、生成AIの加速的進化がここ数か月で驚くべき状況にあることで、盛り上がった。
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(2025/05/21追記)
上の論述は第1説を退け第2説を推した。これに対し、仮に第1説をとった場合、2000年の受贈益課税に加えて2025年以降の譲渡所得課税が生ずるのではないか、という問題がある。つまり、第1説と第2説は必ずしも択一的関係にある(mutually exclusive)わけではないのかもしれない、というややこしい問題である。
現実問題として、受贈益課税と譲渡所得課税を重ね合わせるのは、(時間差や除斥期間をひとまず脇に置いて考えれば)過大負担を生む危険がある。解釈論上の技術として、第1説の論者は、資産売却時の譲渡所得の算定上、取得費を30億円とすることを志向すべきであろう。参考になる考え方として、渋谷雅弘(2022)「無償取得資産の取得費新規取得費」が、資産の無償取得について新規取得費方式が原則ルールになると論じている。
アムステルダムのIBFDで、国際課税で博士論文を書く人のための会合に顔を出してみた。いわゆるDocMIT、正式名称はDoctoral Meeting of Researchers in International Taxationだ。2日間で15本の博士論文(の卵)について、それぞれ20分で研究計画をプレゼンし、30分で教授陣からコメントを受けていた。
どうしてこういう会合をはじめたか。以下のような考慮があったという。博士論文を書く人は普通、一つの大学で一人の指導教員と向き合って執筆準備をしていく。でも、同じような問題意識を持って論文を書こうとしている人が他の大学にいることもあるし、教員側からみても複数の眼からみることによってより多角的かつより深い指導ができる。だったら、ちょっと規模を広げて研究会の形にし、みなであれこれ論評しあうのが有益ではないか。こういう考え方から始まったという。もう何年も続けているとのこと。
今回の参加者はEU域内の大学だけでなく、英国(ケンブリッジ)や豪州(メルボルン)からの人もいた。EU域内の大学で論文を書いている人で、アンゴラやバングラデシュからの参加者もいた。日本の大学の博士課程からの参加者はいなかった。
トピックはさまざまで、G20各国と低所得国との間の租税条約の機能とか、EU財源のための目的税の提言とか、EU法と国際法が衝突する場合に加盟国のとるべき手段とか、CSRと租税回避に関する実証研究のレビューとか、租税誘因措置がASEAN統合の中でどうなっていくかとか。必ずしも国際課税ではなく、税制とジェンダーに関する報告もあった。研究手法もさまざまで、法律や判例を整理していく伝統的な法学のやり方だけでなく、社会学的なものとか経済学的なものとか、いろいろあった。若い研究者たちがどういうトピックに関心をもっているのかを垣間見ることができた。
議論の中身は日本の大学での研究指導と変わらないところが多かったと思う。必ず質問が出たのが、research questionが適切に定式化されているかどうか。ぼく自身もつねづね、「適切な問いを立てることができればもう8割方できたようなもんですね」と公言しているので、これにはまったく違和感がなかった。
欧州の大学でもやはりそうなっているのか、と感じたのが、ひとまずたてた作業仮説を論証するために用いる方法が適切かについて、かなり自覚的な議論がされていたこと。つまり、research methodに関する反省だ。一例をあげれば、インドネシアの方のある博士論文の立てた問いが、伝統的な法学の手法によって処理できるものなのか、率直な疑問が呈された。あなたの論文で本当にやりたいことは国際関係論の専門家の指導を仰がないと、きちんとした形にならないのではないか、といった指摘だ。こういう指摘は外部からならではのものかもしれない。
セッションのあと、その論文を書いている方とすこし話をする時間があった。ASEANを対象にする場合には、EU法のような法的枠組みにのっけた議論が難しい。だから方法論上の限界はわかっているのだけれど、ちょっと苦労しているのです、と教えてくれた。その方のもともとのresearch questionは、Pillar 2の下でインドネシアの租税誘因措置をどう変えていくべきか、というものだったという。所属先の指導教員の助言により、それだけではひねりがないということで、ASEAN統合との関係に視野を広げてきたとのこと。その状態の論文構想をここに持ってきたら、「それってあなたの手持ちの方法で料理できるのですか」と問われたというわけ。ここからどうするかがまさに大事な課題だ。外部指導教員のsecond opinionのような形をどこまでとることができるかは、もちろん所属大学でのアレンジメントの問題。research questionをうまく工夫して修正してくことで、見えてくるものがあるかもしれない。どういう風に進めるにせよ、この方にとってなかなか得難い機会になったものと思う。
今回のDocMITには豪華なおまけがあった。
なお、上記のDocMITと並行して、ポストドクターの人たちの会合があり、AIを用いる場合の課税庁の説明責任について激論が戦わされるなど、いろいろ面白いことがあった。また、本来、ぼくがこのこれらの会合に顔を出したのは、お世話になった方の退職記念セミナーに出るためだったが、これについてはもう書く時間がない。これからスキポール空港に向かう。
2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想
1.はじめに
今回のゼミは通年開講で、「人はなぜ納税するか」という問いを、文献会読の形式で追求した。まず、Sセメスターの歴史編・比較編では、日本法現状把握のための準備作業を経て、Keen & Slemrod (2021)の概説からはじめ、米独仏における特定時期の歴史や、途上国税制・米国反税運動・タックスギャップ推計・租税犯罪グローバル十原則を取り上げた。
これに続き、Aセメスターでは、現代的問題に関する文献を会読してきた。文献リストの作成にあたって意識したのは、狭義の法解釈学の論文に視野を限定するのではなく、法学との隣接領域にも可能な範囲で目配りすることだった。なぜなら、「人はなぜ納税するか」という問いに対しては、さまざまな学問分野からのアプローチが試みられているからだ。こうして、素材の面でも方法の面でもかなり広範な読書リストができた。このような文献に対して、法学部・法科大学院で学ぶ参加者のみなさんが「好き嫌い」せずに旺盛な「知的食欲」を示されたことを、うれしく思う。これが最大の感想。
以下、Aセメスターで会読した文献を、簡単に振り返ってみよう。
2.AI
AIについては2本を取り上げた。Chand, Kostić & Reis (2020)は、AI重課論を退けたうえで、人的資本蓄積のための教育目的税を提唱する論文で、構えが大きい。Daly (2024)は、税務行政におけるAI利用が法の支配に役立つ可能性を指摘する点が新鮮だった。AIに関しては論文が量産されており、継続的に追いかける必要があろう。
3.暗号資産
Baer, Mooij, Hebous & Keen (2023)は、暗号資産(仮想通貨)の課税に関する要領のよいレビュー。有益な指摘として、Bitcoin課税の根本に「有価証券と通貨の二元的性質」があることや、実態に関するデータが不十分であること、執行面の課題が大きいことがあった。このブログでも記事を書いた。なお今回は、Blockchain関係の文献は取り上げなかった。
4.米国のLaw Review論文
やや古いものとして、思考実験風の論文と、現実的な政策提言を行う論文を、選んだ。Raskolnikov (2009)は、納税者に選好を顕示させる仕組みを論ずる。抑止レジームと遵守レジームのいずれかを納税者に選ばせるという思考実験が興味深い。もっとも、フロアの議論では、納税者の権利を「切り下げる」面があることへの抵抗感もあった。また、変数をいじるに際して税務職員の動機を無視しているのではないか、という問題もある。
より現実的な論文が、Bankman, Nass & Slemrod (2016)のスマート申告の提案である。申告書文言の改善や、会話型エージェントの利用につき、パイロット研究を行うべきだと提案する。この論文から約10年が経過し、いまや各国税務行政のトレンドとなった感がある。日本型記入済申告書の先駆的指摘とみることもできるかもしれない。
5.レビュー論文
多数の文献をレビューする論文を、2本取り上げた。Hahn & Pérez (2020)は、租税専門家に関する合計46本の文献(2013年から2018年の間に公刊)をレビューする論文。納税者・課税当局・税務仲介者の三角関係を軸に、多様な学問領域のジャーナルを探索した点で資料的価値がある。次の課題としては、専門家責任や倫理に力点を置いて、より長い時間的スパンで、各文献への評価を率直に語る、といったものがありそう。
Hoopes, Robinson & Slemrod (2024)は、法人による租税情報の開示に関するまとまった文献レビュー。強制開示・自発的開示・第三者開示という分類軸に、非公開(=課税当局に対してのみ開示)・公開の区別を加える整理がわかりやすい。CbCRやFATCAなど実例の提示も包括的。日本でもタックスシェルターの義務的開示(MDR)が議論されている。何が機能し何が機能しないかに関するこれだけ多くの実証研究を前にすると、議論の更新が必要と感ずる。
6.脱税・腐敗
「人はなぜ納税するか」は、裏をかえせば、「人はなぜ納税しないか」ということでもある。そこで最後に、納税非協力に着目して、2本の論文を取り上げた。de la Feria (2020)は、付加価値税の逋脱(VAT fraud)を素材にして、EUにおいて、逋脱そのものを禁圧するのではなく、逋脱を管理するやり方に転換してきたことを批判する。やり玉にあがるのが、第三者に加重責任を負わせる犯罪コントロールの民間化(responsibilization)である。税収確保のために制度と執行を最適なレベルに調整する発想(たとえばHemelらのBETR)への対抗言説とも読める。
Ring & Grasso (2023)は、シンポジウムの巻頭論文である。その中心的主張は、賄賂よりも広く汚職・腐敗(corruption)を、脱税よりも広く税制濫用(tax abuse)を、問題にすべきだ、というもの。アイルランド政府がアップル社に与えたsweetheart tax dealを素材にするなど、米英EUにおける旬の話題が学べる。制度的腐敗(institutional corruption)に対する問題意識がよくわかるし、広い定義を採用することで隠れた問題を認識できる。もっとも、間口を広げる分だけ、効果的対処は一層困難になるのではないか。
7.文献選択のバイアスについて
Aセメスターで会読した文献は、やや、英米の素材に偏っていたかもしれない。バイアスを中和するために、班別討議やフロア全体討議では、つとめて、日本の状況との比較を話題にした。Sセメスターから参加した方々は、独仏の歴史や途上国の税務執行についても議論した。
昨年度のゼミでは、Levi(1988)やBraithwaite(2007)など、理論枠組みに関する文献も取り上げていたが、今回はそうしなかった。その結果、理論的コアの押し出しが弱く、多様な各論が並列している、という印象を与えたかもしれない。安易な「体系化」を阻む奥の深い領域だけに、信頼に関するScholtzの議論などをはじめとして、引き続き検討が必要。
8.おわりに
時間制約の中で、参加者はよくがんばった。もっとも、今回のゼミで会読したのは、各論題に関する多くの文献のうち氷山の一角である。取り上げなかった論題も多い。
継続は力なり。来年度は駒場の「社会科学ゼミナール」に場所を移して、基本的な文献会読を継続したい。
1.BEPS包摂的枠組みの国際課税に関する合意について、昨年末にふたつの短いものを書いた。それらが年明けに公刊された。
sooner or later further changes to the income allocation rules will be necessary(遅かれ早かれ所得配分ルールのさらなる変更が必要になるだろう)
と、さらっと書いてある。彼らによると、
The key issue concerning the income allocation rules of the international tax system is the route to reestablishing stability in that system. Ultimately, we do not think any stability is going to be achieved in the absence of an engagement with the fundamental policy and technical questions we have set out and those that concern the viability of the arm’s-length principle. (国際税制の所得配分ルールに関する重要な問題は、税制の安定性を再び確立するための道筋である。究極的には、私たちが提示した問題および独立企業原則の存続可能性に関する根本的政策と技術的論点に取り組まない限り、安定性は達成されないと我々は考える。)
とのこと。たしかに、彼らのいうとおり、これからはPillar Oneと独立企業原則が併存する世界になる。それだけでも不安定といえそう。