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2024/09/16

Tax administration is tax policy.

税務行政は租税政策そのものである、という趣旨で、

Tax administration is tax policy.

といわれることがある。この印象的なフレーズの原典は、世銀のこの本だ。すなわち、(シャウプ勧告で有名なあの)シャウプ博士を含む編者が、『途上国における付加価値税(Value Added Taxation in Developing Countries)』と題する書物を1990年に公表し、その中で、IMFのMilka Casanegra de Jantscherさんが、「付加価値税を執行する(Administering the VAT)」という論文を寄せた。その179頁右の箇所に、このフレーズが出てくる。引用する(イタリックは原文のまま、ボールド体は引用者による)。

My sole purpose is to point out that the broad-based and neutral tax discussed in public finance treatises is very different from the VAT that prevails in most developing countries and that administrative constraints are the main cause of this difference. Experience with the VAT shows, once more, that in developing countries tax administration is tax policy.

(仮訳)私の唯一の目的は、財政学の論文で議論されている課税ベースが広くかつ中立的な租税は、ほとんどの発展途上国で普及している付加価値税とは非常に異なっており、この違いの主な原因は行政上の制約であることを指摘することだ。付加価値税の経験は、発展途上国では税務行政租税政策そのものであることを改めて示しているのである。

この引用から明らかなように、もともとの文脈としては、途上国のVATの経験に照らし「途上国においては」そうだ、という意味であった。これがのちに限定を付さない形で、広く引用されるようになったのだろう。1992年のこの論文では、Milka Casanegra de Jantscher自身が、VATに限定せず「途上国においては」真の意味で税務行政は租税政策そのものであると述べていた。その後、Rihard M. Bird教授は、2004年の Administrative dimensions of tax reform, Asia-Pacific Tax Bulletin, Vol.10, No.3でも、その脚注5で上記1990年の論文を引用しつつ、より一般的に次のように述べている。

In a very real sense, “tax administration is tax policy”. Maximizing revenue for a given administrative outlay is only one dimension of the task of tax administration. Revenue outcomes may not always be the most appropriate basis for assessing administrative performance. How revenue is raised, i.e. the effect of revenue generation effort on equity, the political fortunes of the government, and the level of economic welfare, may be equally (or more) important as how much revenue is raised.

(仮訳) 真の意味で「税務行政は租税政策そのものである」。与えられた行政支出に対する歳入の最大化は、税務行政の任務の一側面にすぎない。歳入アウトカムは、行政業績を評価するための最適基準であるわけでは必ずしもない。歳入がどのように得られるか、すなわち、歳入創出努力が公平性、政府の政治的運命、経済厚生水準に与える影響は、どれだけの歳入が得られるかと同じくらい (あるいはそれ以上に) 重要である。

つまり、Bird教授によると、途上国のVATという元々の文脈を超えて、より普遍的な意味において、税務行政が租税政策そのものだ、というのである。そして、その内容として、歳入に劣らず公平・政治・経済厚生を考えなければならない、という点が敷衍される。なお、Bird教授には同タイトルでこの論文が2014年にあり、そのままリンク先で読めるが、引用してあるフレーズではisがイタリックになっていない(編集の都合だろうか)。

ところで、この"Tax administration is tax policy."というフレーズには、ぼく自身にも個人的な記憶がある。1990年代あたまに米国留学したころ、Milkaさんが大学のクラスにいらっしゃったのだったか、Washington DCへの見学旅行でお目にかかったのだったか、いずれだったかは忘れてしまったが、直に接する彼女の肉声がその大人風の物腰とともに、きわめて迫力に満ちていた。そのときの正確な発言が"tax administration is tax policy"だったか、はたまた"tax policy is tax administration"だったかは、いまとなってはぼくの記憶があいまいだ。文章に残っているところからすると、おそらく彼女の「決め文句」は前者だったのだろう。

2017/06/23

国税庁,「税務行政の将来像~ スマート化を目指して ~」を公表

このサイトである。下に引用しておこう。

ホーム活動報告・発表・統計報道発表資料(プレスリリース)目次>税務行政の将来像 ~ スマート化を目指して ~
平成29年6月
国税庁

税務行政の将来像 ~ スマート化を目指して ~

財務省設置法第19条には、国税庁の任務として、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現が定められており、申告納税制度の下で、納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現することが、国税庁の使命(ミッション)とされています。
そのため、国税庁では、納税者サービスの充実に努めるとともに、適正な申告を行った納税者の皆様が不公平感を抱かないよう、適正・公平な課税・徴収に努めているところです。
今後とも、納税者の皆様の理解と信頼を得て、国税庁のミッションを十分に果たしていくためには、その時々における課税・徴収上の個々の課題に的確に対応していくことはもとより、税の執行上の課題を中心に税務行政の透明性の観点から、中長期的に目指すべき将来像について国税当局として考えていることを明らかにし、着実に取り組んでいくことが重要と考えています。そこで、以下のように「税務行政の将来像」として取りまとめ、公表することとしました。

2020/12/12

租税行政3.0

OECD (2020), Tax Administration 3.0: The Digital Transformation of Tax Administration

これは,2020年12月の税務長官会議(FTA)でリリースされた文書である。経済社会のデジタル化が進む中で,税務執行のDXを構想する。

Tax Administration 3.0という表現は,次の3段階を意識している(7頁)。

  • 租税行政1.0 紙ベース,手作業,タコツボのプロセス
  • 租税行政2.0 デジタルデータ,デジタル分析ツール,政府の他部局・民間部門・外国との協働
  • 租税行政3.0 納税者の用いるシステムの中に課税プロセスを組み込む

→つまり,現在到達しつつある2.0から一歩進んで,3.0にバージョンアップし,次のような段階を構想するのである(12頁)。

  • 納税が人々の生活や事業活動に統合されたシームレスな経験となる
  • デジタル・プラットフォームが租税行政のエージェントとなる
  • 税務執行がリアルタイム化する
  • 透明なプロセスの下で納税者は賦課徴収をチェックする
  • 政府一体のアプローチをとる
  • ハイテクに適応する人材・組織にする
→そして,こういう段階に至るために何が必要であるか,その構成要素を示している。章立ては次のとおり。

  • 第1章「租税行政3.0への旅」は,租税行政の現況をみて,その構造的限界を指摘し,DXにより何が可能になるかを示す(9頁以下)。
  • 第2章「燃えるプラットフォーム」は,いまなぜDXを検討すべきかを述べる(17頁以下)。理由として指摘するのは,仕事の変化,新しいビジネスモデル,グローバル化,技術の変化,社会の期待である。
  • 第3章「租税行政3.0の実際」は,租税行政の未来像を物語タッチで描く(25頁以下)。
  • 第4章「租税行政3.0の構成要素」は,6つの構成要素を提示する(34頁以下)。それらは,1. Digital identity(37頁),2. Taxpayer touchpoints(41頁),3. Data management and standards(44頁),4. Tax rule management and application(48頁),5. New skill sets(52頁),6. Governance frameworks(57頁)である。

この文書自体は特定の方向を打ち出すものではない。ロードマップの作成などはあくまで次のステップとされている。しかし,税務執行が今後どういう方向になっていくのかを,「租税行政3.0」という言葉で大胆に提示している。国税庁の「税務行政の将来像~ スマート化を目指して ~」とも方向が一致し,税務職員にとっては必読の文献が出たといえよう。のみならず,税理士業務や企業税務に携わるプロにとって,今後はどういうスキルセットが重要になるかを示す道標になる。研修の教材にも使える。税務のプロでなくとも,第3章の仮想未来の物語などは,個人納税者のMaryや,法人を設立するKim,多国籍企業のSmart Falconといった設例になっていて,読んでいて楽しい。DXとかリアルタイムとかいうといかにも新規そうな感じがするが,じつは,多国籍企業の移転価格に関する課税庁のモニタリングなどはそのような動きを先取りしているのかもしれない。

個人情報保護をはじめいろいろ検討すべき点があると思う。ここでは1点だけ。この文書にはノルウェーやオーストラリア,シンガポールなどからのインプットが記されている。これに対し,日本の実務の中にも,各国の参考になるものが多々あるはずである。日本の国税庁がそれらを対外発信して国際的な対話を行っていくことも,今後の租税行政3.0にふさわしい仕事ではあるまいか。

2026/02/09

EUの行政協力指令(DAC)について,簡単な入口

〇DACとは?(メインページによる)

  • The Directive on Administrative Cooperationのこと
  • 課税分野における相互援助および各国の国税当局間の安全な行政協力について,EU加盟国のニーズに対応する調和された枠組み
  • EU域内における課税目的の情報交換に関する規則・手続および協力の在り方を規律
  • 目的は,税の公正を確保するために,脱税および租税回避と闘うこと

〇その構成と,指令の英語テクストへのリンク

  • DAC1:Council Directive 2011/16/EU(基本指令)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC2:Council Directive 2014/107/EU(金融口座情報=CRSの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC3:Council Directive (EU) 2015/2376(タックスルーリング・APAの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC4:Council Directive (EU) 2016/881(CbCRの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC5:Council Directive (EU) 2016/2258(AML情報=実質的支配者情報等への税務当局アクセス)— EUR-Lex(EN)

  • DAC6:Council Directive (EU) 2018/822(クロスボーダーアレンジメントの開示義務=MDR)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC7:Council Directive (EU) 2021/514(デジタル・プラットフォーム報告)— EUR-Lex(EN)

  • DAC8:Council Directive (EU) 2023/2226(暗号資産情報の自動交換=CARF)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC9:Council Directive (EU) 2025/872(Pillar 2トップアップ税情報申告の情報交換)— EUR-Lex(EN) 


〇日本語で読める参考文献

2017/03/09

イノベーション:税務の破壊者たち,を読んでみた

EY Tax insightsのこのサイトで3回連載だった。
「世界市場のスピード」
「税務当局による税のデジタル化」
「スマート税務」
というキーワードでもって,企業の税務部門が直面する大きなうねりを指し示している。

はじめのふたつはすぐにわかる。「スマート税務」は,人工知能などを利用してリアルタイムで将来を見通したもの。連載2回目には
一部の国の税務当局は、データ分析や機械学習テクノロジーにおける最近の急速な進歩を利用して、リスクプロファイルの作成、トレンド分析、潜在的な税務調査上の問題点の把握、より詳細な調査を行うための相対的にリスクの高い問題特定などを行っています。例えば、アイルランド、マレーシア、オランダ、ニュージーランド、シンガポールなどの国の行政機関は、ソーシャルネットワークの分析を行い、ネットワークに接続された個人を集めて簡単に可視化されたネットワークを構築し、彼らのリスクを採点しています。
とあり,連載3回目では
OECDの税務行政フォーラムによれば、各国の税務当局のデジタル技術は進化しているとされています。概括的な監視モデルは、より精緻な監視モデルや、過去のデータから学習してパターンを特定する監視のない機械学習技術に取って代わられつつあります。また、各国の税務行政機関は、不正確な納税申告や納税遅延などの問題を予想するための方法を統合するとともに、納税者の行動様式に影響を与えるための規範的な方法も統合しています。
といっている。税務職員が事後的に臨場調査するというモデルと,だいぶ違う。また,企業用のお話だけに,3月の個人用確定申告の年中行事とは,かなり距離がある。

でも,こういう環境になっていることの認識が,納税者の利便性向上とか,適正公平な課税の実現とかを考えるうえで,大事だろう。

2026/01/29

(続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

【その続きがこのページ】

続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。

以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

すると即座に、以下のテクストが生成された。


以下引用*********************

法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。


1. 法学全体の大潮流:規範中心から「統治・実装・データ」へ

近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。

(1) “規範の正当化”だけでなく、“統治(governance)”の設計論へ

  • 何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。

  • 行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)

→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。

(2) 国内法の閉域から「トランスナショナル化」へ

  • 条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。

  • 法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。

→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。

(3) 実証・経験科学との接続(Empirical/Socio-legal turn)

  • 立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。

  • これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。

→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。

(4) デジタル・データ化と法:手続保障の再設計

  • AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。

  • 行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。

→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。


2. 租税法研究動向は、法学的には「規制・行政・国際秩序」の結節点

上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。

(A) 国際秩序形成(国際法/国際経済法/グローバル行政法)

  • BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。

  • 典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。

(B) 行政法・規制法(執行、プロセス、裁量統制)

  • 情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。

  • 典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。

(C) 企業法・金融法・会計(ガバナンス/開示/リスク管理)

  • 税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。

  • 典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。

(D) 刑事法・制裁論(抑止+規範)

  • 脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。


(続く)


ChatGPT、租税法の研究動向を語る

 窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

(1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

  • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

  • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
    → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

(2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

  • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

(3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

  • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
    → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

  • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

  • 研究の焦点は、

    1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

    2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

    3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
      へ広がっています。
      → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

  • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

  • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

(1) 実証(Empirics)の標準化

  • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

  • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

(2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

  • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

(3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

  • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

    • アルゴリズムの透明性・説明可能性

    • 差別・偏り(バイアス)と救済

    • 自動化された不利益処分の適正手続
      へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

  • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

  • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


研究動向を一言でまとめると

  1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

  2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

  3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


(続く)

2026/07/12

欧州委員会の2026年税制報告書に、納税協力の社会的経済的側面に関する章

欧州委員会租税・関税同盟総局(DG TAXUD)が、Annual Report on Taxation 2026, Directorate-General for Taxation and Customs Union, European Commission, Publications Office of the European Union, Luxembourg, 2026を公表した。

特徴的なのがその第4章で、納税協力の社会的経済的側面を論ずる。

  • 納税者の観点からアプローチ
  • 昨年の2025年版では、タックス・ギャップの測定方法(第4章)と税務行政の役割(第5章)を論じていた
  • 既存研究で明らかにされてきた知見を総合
  • 納税コンプライアンスは、摘発確率と罰則だけでなく、制度の簡素さ、法的安定性、申告支援、源泉徴収・第三者情報、行政能力、公平感、政府への信頼、納税モラルの相互作用による
第4章冒頭の2つの段落(101頁)は、次のように述べている。
課税当局によるコンプライアンス確保の取組みを促進または制約する社会的・行動的要因を理解するためには、納税者の視点を考慮することが有益である。高水準の納税コンプライアンスは、さまざまな制度的・社会的・経済的要因の所産であり、税務行政と納税者との相互作用の結果として生じる。欧州委員会の『Mind the Gap報告書』(2025a)は、各国のコンプライアンス執行の枠組みおよび能力、ならびにその基礎にある決定要因について、包括的かつ詳細な分析を行った。同報告書を補完するものとして、本章は、納税者の視点から納税コンプライアンスを論じる。本章の前提は、納税コンプライアンス確保の取組みが社会構造の中に埋め込まれていること、および、納税コンプライアンスを構成する相互補完的な諸要素を認識することがタックス・ギャップを縮小する取組みに資すること、である。

本章は次のように構成される。4.1で、「租税に対する市民の意識」に関するフラッシュ・ユーロバロメーターのデータから、EUがコンプライアンス執行に取り組むことに対する市民の支持が確認される。また、この節では、租税逋脱と納税コンプライアンスに関する基礎的な合理的選択モデルも紹介する。4.2で、納税コンプライアンスの測定を論じ、租税制度の健全性を示す戦略的指標としてのタックス・ギャップの役割を強調する。4.3で、租税制度のさまざまな側面が、納税者のコンプライアンス行動にどのような影響を及ぼすかを分析的に整理する。4.4で、『Mind the Gap報告書』の国別概要票における分析を参照しつつ、税務行政が有するコンプライアンス執行能力(compliance enforcement capacity)の重要性を強調する。4.5で、自発的納税意欲(tax morale)を論じ、4.6で、本章を通じて取り上げられるフラッシュ・ユーロバロメーターの各変数に対する回答を左右する社会経済的属性を分析する。

この最後の4.6の分析は、次のような結果を示している(114頁以下)。

  • 自営業所得を主たる所得源泉とする者は、租税回避・脱税対策をEUの優先事項と考える確率が10.6ポイント低い。資本所得者では16.1ポイント低い。
  • 自営業者は、申告を容易と考える確率が6.0ポイント低く、専門家を利用する確率が3.6ポイント高い。ところが、税制を公平と評価し、課税当局の支援を十分と考える確率は、むしろ給与所得者より高い。
  • 所得額そのものよりも、所得をどのように稼得しているか、すなわち給与、自営業、年金、社会給付、資本所得という所得源泉の違いの方が、多くの認識を強く説明する。

2024/06/06

世銀が税務行政ハンドブックを公表

世銀がRevenue Administration Handbookを公表していた。税務行政(関税行政を含む)の構造と運営について包括的かつ体系的な叙述を行うもので、税務行政に関するまとまった教科書になっている。全体で214頁。7章構成、6つの付録がある。著者は世銀のRaúl Félix Junquera-VarelaとCristian Óliver Lucas-Masである。

このハンドブックの第5章が、租税制裁(Tax Sanction)の枠組みに関するガイドラインである。中でも111頁以下に、tax penaltiesについて、その設計に関するベストプラクティスのガイドラインがある。ここにtax penaltiesとは、禁止された行為に対して、または、無申告や過少申告など義務の不履行に対して、租税法が科す(課す)制裁措置のことである。日本法に引き付けていえば、罰則や重加算税がこれに相当するであろう。ハンドブックは、tax penaltiesには懲罰機能(punitive function)と抑止目的(deterring aim)があると述べている(111頁)。なお、この章はこれとは別にsurchargeとinterestについて論じており、こちらは日本法上の過少申告加算税や延滞税に相当する。

さて、この意味におけるtax penaltiesに関する望ましい設計ガイドラインを示すための前提として、ハンドブックは、以下の認識を示している。それ自体として興味深いものであるので、中心的な4つの段落を抜き出して、その部分を全訳しておこう(111-112頁)。

  • いくつかの研究の知見によると、納税者は、摘発される確率が 4%以下と非常に低い場合には、摘発される確率よりも刑罰の大きさにヨリ敏感である(Jackson and Jones 1985)。他の研究者たち(Schwartz and Orleans 1967)は、刑事制裁の厳しさと高所得自営業者のコンプライアンスとの間に有意な関係があることを観察している。これはまた、制裁に関する類似研究により支持されており、その研究によると、法的制裁は高階層と高学歴層に最も効果的であることを示している。これらの研究はまた、うしろめたい感情という脅威の方が、法的制裁の威嚇やスティグマよりも、脱税に対する抑止力になることを発見している。
  • しかしながら、研究(Allingham and Sandmo 1972)は、摘発される確率が閾値に達すれば軽罰も厳罰と同程度に抑止効果があることを示す証拠を提供している。罰則の厳しさは、必ずしも納税コンプライアンスに直線的な効果をもたらすとは限らない。Jackson and Milliron (1986)は、制裁の社会的コストが利益を上回る可能性があるとしている。制裁が厳しすぎると認識されると納税者は集団として疎外され、結果として、一般的な反感や法律軽視を生む可能性がある。他方で、制裁水準の引き上げが納税者のコンプライアンスに及ぼすプラスの効果は、比較的低く現実的な罰則水準が用いられる場合にも維持されることがわかっている(Carnes and Eglebrecht 1995)。
  • Keinan (2006)とAlm (2013)を含むほとんどの研究では、未納付税額に対するペナルティー率が上昇しても、コンプライアンスはわずかにしか上昇しないことが分かっている。推定申告所得-ペナルティー率の弾力性は、通常0.1未満である。また、罰則は金銭的なものに限る必要はない。ここでのポイントは、自己のコンプライアンス行動が公開されるという脅威は、自己の情報が他者に見られるかもしれないという懸念からコンプライアンスに影響を与える可能性があり、他者のコンプライアンス遵守(またはその欠如)の観察が自己の申告行動にも影響を与える可能性があるということである。実験的証拠(Alm 2013)は、コンプライアンス違反の公表がコンプライアンスを高めることを示唆している。他の研究(Oladipupo and Obazee 2016)は、税務知識は税務罰則よりも税務コンプライアンスを促進する傾向が高いことを示している。したがって、政府は税務に関する国民の知識を高めるためにあらゆる手段を講じるべきであり、租税教育を高校レベルのカリキュラムに常に含めるべきである。中小企業経営者も、政府と納税者の相互利益のために、税務知識と意識の向上を図るべきである。
  • 新しい制裁制度を設計する際には、納税者の動機を考慮することが適切である。納税者が法的インセンティブなしに常に善良に行動するのであれば、不正行為を抑止するための罰則は余計なものである。多くの場合、罰則の設計は、経済的な考慮が行動の唯一の決定要因であるという逆の仮定から出発する。しかし、納税者の行動に影響を与える規範的要因など、他の要因が介在する場合もある。

なお、上記で引用されている文献については、下記のBibliographyを参照。以下、ハンドブック127頁(第5章末尾)をコピペした。
-Allingham, Michael, and Agnar Sandmo. 1972. “Income Tax Evasion: A Theoretical Analysis.” Journal of Public Economics 1 (3–4): 323–338. https://doi.org/10.1016/0047-2727(72)90010-2.
-Alm, James. 2013. “Designing Responsible Regulatory Policies to Encourage Tax Compliance.” Conference on “Reflections on Responsible Regulation,” Tulane University, New Orleans, March 2013. http://murphy.tulane.edu/files/events/Alm-DesigningResponsibleRegulatoryPolicies-MurphyInstitute-021113.pdf.
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2023/05/30

税務訴訟資料のデジタル化

「税務訴訟資料」のデジタル化は、次の経過をたどった。

1.紙の冊子体の時代
昭和25(1950)年5月(1号)から平成16(2004)年3月(249号)まで。
各号につき「〇頁」として引用。
第1号は、新憲法の下で税法事件が司法裁判所に係属することになったことを受けて、昭和23年4月から昭和24年11月までに言渡しのあった判決を収録。当時の国税庁直税部所得税課によるもの。「税務訴訟資料(税務行政事件訴訟判決集)」と題されており、課税事件と徴収事件が混在。判決以外の執務参考資料も掲載していた。
紙の冊子体の最終は第249号で、平成12年12月までに言渡しのあった判決を収録。
なお、全体としては、「租税関係行政・ 民事事件判決集」及び「租税関係刑事事件判決集」の2部編に分かれ、刑事事件を別建てで収録する号もあった。

2.CD-ROMの時代
平成17(2005)年3月(250号)から平成23(2011)年3月(258号)まで。
各号につき「順号〇〇〇」として引用。
第250号は、平成13年1月言渡し判決(250号順号8813)からを収録。
第258号は、平成20年12月言渡し判決(258号順号11113)までを収録。
CD-ROMの収納ケースには、「租税関係行政・民事事件判例集」と印字。

課税関係判決は、平成20年判決分(税務訴訟資料第258号「順号10859~11113」)から。各号につき「順号〇〇〇」として特定。
徴収関係事件は、租税関係行政・民事事件判決集(徴収関係判決)として、平成21年1月~平成21年12月判決分から。順号表記のやり方は課税関係判決と異なり、たとえば平成21年1月のものは「21-1」などと表記。
事件番号を黒塗り加工し、確認できないようにしてある。

[典拠]

2026/08/11

Musgraveは韓国で何を助言したのか

1.二度の邂逅と最近の発見

Richard A. Musgrave教授(1910–2007)には、二度、お目にかかったことがある。

一度目は1992年、私が米国ハーバード大学のInternational Tax Programにいたときだった。Musgrave教授がゲストとしてクラスにお越しになり、その場には金子宏先生も出席されていた。二度目は1997年、京都で開催された第53回国際財政学会(IIPF)大会だ。たまたまMusgrave教授がお一人で歩いていらっしゃるところに出会い、「ハーバードで先生のお話をうかがいました」とご挨拶したところ、にこやかに応対してくださった。

2017/07/11

フランスの税務行政について,紹介がアップされていた

梅原秀明「フランスの税務行政の概要と最近の取組」税大ジャーナル掲載予定である。
本稿は、フランスの税務行政の概要を説明するとともに、最近の取組のうち、①電子申告の普及、②脱税・国際的租税回避への対策及び③コンプライアンスの向上の三つの分野での取組について紹介するものである。
①によると,電子申告の義務化が進んでいる。2002年から段階的に進んできたところ,法人税で2013年に,付加価値税で2014年に,すべて義務化。所得税も2019年には原則として全世帯につき義務化予定という。

2025/05/31

国税庁保有行政記録情報を利用した統計的研究

国税庁のこのサイトに、ディスカッションペーパーが公表されていた。日本の税務申告データを用いた貴重な研究だ。

たとえば、國枝=米田(2023)は、税務データの学術利用の意義につき、高額所得者の所得分布の分析の例を中心に説明する。すなわち、分析ができるようになった背景として、次のように指摘する(同2頁)。

これまで、我が国においては、国税庁統計年報のような所得階層別の集計データや高額所得者・納税者公示制度が存在したものの、個票を含む税務データの利用がほとんど許されておらず、我が国の財政学者は、国際的に評価される租税政策に関する実証研究を行うことが困難となっていた。・・・しかし、国税庁は、2021 年 6 月に、我が国の税・財政政策の改善・充実等に資する統計的研究を実施する研究者を公募することを公表した。この研究においては、税務大学校職員との共同研究を前提に、国税庁の保有する行政記録情報(税務データ)を利用した分析等を行うことができる。

そして、このような分析の一例として、高額所得者の所得分布のパレート係数の推計を説明し、次のように述べる(同3頁)。

高額所得者のデータを十分含まないサーベイデータでの分析と異なり、税務データを利用することで、我が国においても、超高額所得者への所得集中が進んでいることを明らかにすることができる。高額所得者の所得分布については、さらに分析を進めることとしているが、税務データの学術利用の意義を示す一例と考えられる。

税務データを用いることで、実証研究が進む。実態がわかり、制度改善のヒントになる。引き続き応募がなされ、良い成果が出てくることを期待したい。

法律家の眼からみて興味深いのは、このような研究を可能にしたのが共同研究という枠組みをとるというアイディアだったこと。そうすることで、守秘義務というハードルをクリアしている。

なお、これとは別に、国税庁は、国税庁保有行政記録情報を匿名加工した匿名データを利用して統計的研究を実施する研究に門戸を開いている。

2013/07/02

税務行政執行共助条約の発効

財務省の報道発表によると,次の通り。
  • 6月28日(金)、我が国は、「租税に関する相互行政支援に関する条約」(略称「税務行政執行共助条約」)及び「租税に関する相互行政支援に関する条約を改正する議定書」の受諾書を経済協力開発機構(OECD)の事務総長に寄託しました。
  • これにより、本条約は、我が国について、本年10月1日(受諾書を寄託者に寄託した日の後3か月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日)に発効することとなります。

2020/11/30

首藤重幸教授古稀祝賀退職記念論集がアップされていた

ここと,ここから,ダウンロードできる。目次は,以下のとおり。

江泉芳信教授 加藤哲夫教授 首藤重幸教授 古稀祝賀退職記念論集 早稲田法学第95巻第 3 号(第 2 分冊)
 論 説
要綱行政の再検討   李   斗 領  (189)
審査請求における審査庁の管轄決定の標準時    岡 田 正 則  (225)
イギリスにおける司法審査請求の今日的要件についての一考察─いわゆる「第 2 段階目の上訴に関する基準:Second Appeal Criteria」の司法審査請求への適用の意義と射程─    長 内 祐 樹  (243)
我が国国際租税法における法令遵守確保策─OECD/ICAP プログラムを展望して─ 川 端 康 之  (269)
持続可能な土地市場政策・法への模索(下)─ドイツにおける農業構造の変動と農林地取引法の動揺─ 楜 澤 能 生  (291)
フクシマ後の原発安全規制と司法審査─基本設計論に着目して─  黒 川 哲 志  (337)
事業承継税制の諸問題   小 池 正 明  (355)
ロースクールでの行政法教育とその成果    小 島 延 夫  (385)
許認可又は免許の更新   小 林 博 志  (413)
原子力規制の変化と行政訴訟に関する一考察─川内原発設置変更許可取消訴訟・福岡地裁判決の検討を中心に─ 下 山 憲 治  (441)
行政の裁判的統制におけるコンセイユ・デタモデルの可能性─ヨーロッパ比較行政裁判制度からみたフランス─ 杉 原 丈 史  (465)
制限行為能力者の納税義務履行行為に関する若干の考察─租税法における私人の行為に係る基礎的考察─ 高 野 幸 大  (495)
自衛隊災害派遣法制の一考察  田 村 達 久  (525)
処分性拡大再論と訴訟選択論に関する一試論    趙   元 済  (551)
消費課税における中小事業者─消費税の性質論を基礎として─  西 山 由 美  (583)
市場規制としてのプリンシプルとその実効性確保    坂 東 洋 行  (607)
地方議会による所属議員に対する出席停止の懲罰議決の司法審査について   人 見   剛  (639)
違法な課税処分をめぐる国家賠償訴訟─固定資産税の誤課税に関する公定力克服の「その後」─ 平 川 英 子  (665)
税務行政の ICT 化の現状と当面の課題    藤 曲 武 美  (691)
地方交付税法第 6 条の 3 第 2 項の解釈と運用    森   稔 樹  (717)
防衛の需要を充足するための土地調達をめぐる法的問題について─ドイツにおける防衛目的の土地調達における衡量判断の枠組みを参照して─  山 田 真 一 郎  (741)
イギリスにおける付加価値税制度と税収ギャップ(Tax Gap)    山 元 俊 一  (771)
学術世界の生態系─アメリカ連邦取引委員会 vs. OMICS 事件を契機として─ 山 本 順 一  (797)
株式対価 M&A と課税─株式交付に対応する課税制度のあり方─ 渡 辺 徹 也  (825)

2025/05/13

豪州国税庁のAI利用について、AIにきいてみた

税制調査会専門家会合(座長 岡村忠生教授)で、早稲田大学の岩崎尚子教授が、「デジタルガバメントの国際比較と経済社会のデジタル化の進展」と題する報告をされた。それによると、デジタル政府世界ランキングでデンマークのように上昇してきた国もあり、日本のように低下傾向にある国もある(スライド10頁)、とのこと。AI利活用も進んでいて、「世界の税務当局の50%以上がAIをリスク評価や不正検知に活用(OECD調査)」(スライド22頁)という。質疑応答を通じて、AI人材不足や自治体対応など、多くの課題が浮き彫りにされた。

中でも重要な課題がAIガバナンスだ。この点について、オーストラリアでは2025年2月、Australian National Audit Office (ANAO)によるレビューが公表されている。このレビューは、豪国税庁(Australian Taxation Office)を対象として、そのAI導入と管理体制に関して包括的な評価を行った。評価の観点は、1)AI導入のためのガバナンス体制が効果的か、2)AIモデルの設計・開発・導入プロセスが効果的か、3)AI導入後のモニタリング・評価・報告が効果的か、の3つ。7つの勧告が出されている。このあたりは、Perplexityで検索をかけてみると、すぐに(日本語で)要約が手に入る。

今日のお話のようにシンギュラリティが予想外に近いのだとすれば、AIが暴走しないための枠組みづくりは税務行政においても大事な課題だと思う。他方で、納税者への助言サービスのほうも急速にAI利用が進むから、民間利用についても考えるべき点が多いはず。

さらに、今後AIが意思決定の前面にでてくるようになると、従来からの通念にも再考が迫られる。すなわち、「人はなぜ自発的に納税するか」については、合理的効用計算だけでは説明できず、社会規範とか信頼とかの要素が働いていると考えられてきた。しかし、AIが損得勘定だけで走るようになっていたら、AIによるプランニングや申告は、生身の人間によるそれとは異なるものになることが容易に予想される。専門家倫理として議論されてきた問題は、私たちがAIに依存するようになった社会では、どうなっていくのか。

さらに憶測を重ねよう。AI主体の納税環境の下では、税務行政のアプローチにも再考が必要になってくる。「人はなぜ納税するか」も違って見えてくるだろう。国ごとの違いが何に起因するかという問い自体が、あるいはひっくりかえるかもしれない。生成AIはつくづく、game changerだ。

2025/01/09

2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想

2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想

1.はじめに

今回のゼミは通年開講で、「人はなぜ納税するか」という問いを、文献会読の形式で追求した。まず、Sセメスターの歴史編・比較編では、日本法現状把握のための準備作業を経て、Keen & Slemrod (2021)の概説からはじめ、米独仏における特定時期の歴史や、途上国税制・米国反税運動・タックスギャップ推計・租税犯罪グローバル十原則を取り上げた。

これに続き、Aセメスターでは、現代的問題に関する文献を会読してきた。文献リストの作成にあたって意識したのは、狭義の法解釈学の論文に視野を限定するのではなく、法学との隣接領域にも可能な範囲で目配りすることだった。なぜなら、「人はなぜ納税するか」という問いに対しては、さまざまな学問分野からのアプローチが試みられているからだ。こうして、素材の面でも方法の面でもかなり広範な読書リストができた。このような文献に対して、法学部・法科大学院で学ぶ参加者のみなさんが「好き嫌い」せずに旺盛な「知的食欲」を示されたことを、うれしく思う。これが最大の感想。

以下、Aセメスターで会読した文献を、簡単に振り返ってみよう。

2.AI

AIについては2本を取り上げた。Chand, Kostić & Reis (2020)は、AI重課論を退けたうえで、人的資本蓄積のための教育目的税を提唱する論文で、構えが大きい。Daly (2024)は、税務行政におけるAI利用が法の支配に役立つ可能性を指摘する点が新鮮だった。AIに関しては論文が量産されており、継続的に追いかける必要があろう。

3.暗号資産

Baer, Mooij, Hebous & Keen (2023)は、暗号資産(仮想通貨)の課税に関する要領のよいレビュー。有益な指摘として、Bitcoin課税の根本に「有価証券と通貨の二元的性質」があることや、実態に関するデータが不十分であること、執行面の課題が大きいことがあった。このブログでも記事を書いた。なお今回は、Blockchain関係の文献は取り上げなかった。

4.米国のLaw Review論文

やや古いものとして、思考実験風の論文と、現実的な政策提言を行う論文を、選んだ。Raskolnikov (2009)は、納税者に選好を顕示させる仕組みを論ずる。抑止レジームと遵守レジームのいずれかを納税者に選ばせるという思考実験が興味深い。もっとも、フロアの議論では、納税者の権利を「切り下げる」面があることへの抵抗感もあった。また、変数をいじるに際して税務職員の動機を無視しているのではないか、という問題もある。

より現実的な論文が、Bankman, Nass & Slemrod (2016)のスマート申告の提案である。申告書文言の改善や、会話型エージェントの利用につき、パイロット研究を行うべきだと提案する。この論文から約10年が経過し、いまや各国税務行政のトレンドとなった感がある。日本型記入済申告書の先駆的指摘とみることもできるかもしれない。

5.レビュー論文

多数の文献をレビューする論文を、2本取り上げた。Hahn & Pérez (2020)は、租税専門家に関する合計46本の文献(2013年から2018年の間に公刊)をレビューする論文。納税者・課税当局・税務仲介者の三角関係を軸に、多様な学問領域のジャーナルを探索した点で資料的価値がある。次の課題としては、専門家責任や倫理に力点を置いて、より長い時間的スパンで、各文献への評価を率直に語る、といったものがありそう。

Hoopes, Robinson & Slemrod (2024)は、法人による租税情報の開示に関するまとまった文献レビュー。強制開示・自発的開示・第三者開示という分類軸に、非公開(=課税当局に対してのみ開示)・公開の区別を加える整理がわかりやすい。CbCRやFATCAなど実例の提示も包括的。日本でもタックスシェルターの義務的開示(MDR)が議論されている。何が機能し何が機能しないかに関するこれだけ多くの実証研究を前にすると、議論の更新が必要と感ずる。

6.脱税・腐敗

「人はなぜ納税するか」は、裏をかえせば、「人はなぜ納税しないか」ということでもある。そこで最後に、納税非協力に着目して、2本の論文を取り上げた。de la Feria (2020)は、付加価値税の逋脱(VAT fraud)を素材にして、EUにおいて、逋脱そのものを禁圧するのではなく、逋脱を管理するやり方に転換してきたことを批判する。やり玉にあがるのが、第三者に加重責任を負わせる犯罪コントロールの民間化(responsibilization)である。税収確保のために制度と執行を最適なレベルに調整する発想(たとえばHemelらのBETR)への対抗言説とも読める。

Ring & Grasso (2023)は、シンポジウムの巻頭論文である。その中心的主張は、賄賂よりも広く汚職・腐敗(corruption)を、脱税よりも広く税制濫用(tax abuse)を、問題にすべきだ、というもの。アイルランド政府がアップル社に与えたsweetheart tax dealを素材にするなど、米英EUにおける旬の話題が学べる。制度的腐敗(institutional corruption)に対する問題意識がよくわかるし、広い定義を採用することで隠れた問題を認識できる。もっとも、間口を広げる分だけ、効果的対処は一層困難になるのではないか。

7.文献選択のバイアスについて

Aセメスターで会読した文献は、やや、英米の素材に偏っていたかもしれない。バイアスを中和するために、班別討議やフロア全体討議では、つとめて、日本の状況との比較を話題にした。Sセメスターから参加した方々は、独仏の歴史や途上国の税務執行についても議論した。

昨年度のゼミでは、Levi(1988)Braithwaite(2007)など、理論枠組みに関する文献も取り上げていたが、今回はそうしなかった。その結果、理論的コアの押し出しが弱く、多様な各論が並列している、という印象を与えたかもしれない。安易な「体系化」を阻む奥の深い領域だけに、信頼に関するScholtzの議論などをはじめとして、引き続き検討が必要。

8.おわりに

時間制約の中で、参加者はよくがんばった。もっとも、今回のゼミで会読したのは、各論題に関する多くの文献のうち氷山の一角である。取り上げなかった論題も多い。

継続は力なり。来年度は駒場の「社会科学ゼミナール」に場所を移して、基本的な文献会読を継続したい。

2024/08/23

租税法学会第53回総会案内

租税法学会のこのページである。

2024年10月26日(土)広島修道大学、総会幹事は奥谷健教授。

「経済社会の構造変化と租税手続の変容」 
租税手続における納税者の地位~税務行政の「ディストピア」と「ユートピア?」~
 報告:佐藤英明(慶應義塾大学) コメント:田中晶国(京都大学)
税務行政のデジタル化における納税協力の変容と諸課題
 報告:藤間大順(神奈川大学)  コメント:髙橋祐介(名古屋大学)
徴収手続における納税者以外の私人の役割
 報告:一高龍司(関西学院大学)  コメント:西山由美(明治学院大学)
徴収の制度設計についての理論的検討
 報告:藤岡祐治(一橋大学) コメント:渡辺智之(敬愛大学)

2011/11/05

多国籍税務執行共助条約に署名

財務省の報道は以下。

11月3日(木)【日本時間11月4日(金)】、フランスのカンヌ(G20サミット)において、我が国は、「租税に関する相互行政支援に関する条約」(略 称「税務行政執行共助条約」)及び「租税に関する相互行政支援に関する条約を改正する議定書」(以下、「改正議定書」といいます。)に署名しました。

これがリンク

2017/09/28

木村弘之亮先生古稀記念がでていた

公法の理論と体系思考 ― 木村弘之亮先生古稀記念
“Wissenschaft ist eine neue Idee” の灯火の下、租税法の本質的・体系的理論に挑む。
著者木村弘之亮先生古稀記念論文集編集委員会 編
ジャンル法律 > 行政法
法律 > 行政法 > 税法
出版年月日2017/08/20
ISBN9784797256925
判型・ページ数A5変・536ページ
定価本体12,000円+税
在庫在庫あり
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目次

『公法の理論と体系思考 - 木村弘之亮先生古稀記念』

  木村弘之亮先生古稀記念論文集編集委員会 編


【目 次】

◆第1部◆ 租税法 ---------------------------------------------

◇Ⅰ 実体法 

1 地方税法と地方税条例との関係の再検討 〔碓井光明〕

1 はじめに
2 地方税法の規定の展開
3 地方税と租税法律主義との関係
4 地方税法の位置づけをめぐる議論
5 地方税条例において定める事項の再検討
6 行政手続法及び行政不服審査法との関係
7 結  語

2 租税法における類推―最判平成19 年1 月23 日の分析 〔吉村典久〕

1 はじめに
2 最高裁平成19年1月23日第三小法廷判決
3 租税法規の解釈
4 特別措置規定・特例規定の解釈
5 措置法69 条の3 の解釈
6 最判平成19 年1 月23 日における類推
7 最判平成19 年1 月23 日の意義と射程
8 おわりに

3 所得税における対価性 〔伊川正樹〕

1 はじめに
2 各所得の性質
3 対価性のとらえ方
4 むすびにかえて

4 最近の判例から考える所得区分の論理 〔林 仲宣〕

1 問題の所在
2 所得税法における所得区分の論理
3 競馬事件における所得区分の論理
4 航空機リース事業の終了に伴う債務免除益の所得区分

5 相続財産としての貸付金債権等の評価 〔山田和江〕

1 本稿の論点
2 貸付金債権等の評価通達による時価について
3 金銭債権の評価について(非適格現物出資を参考として)
4 まとめとしての提起

6 相続財産の認定における推定課税の要否 〔風岡範哉〕

1 はじめに
2 所得課税における推計課税
3 推計課税の適法要件
4 相続税における財産の認定
5 相続税における推定課税の要否
6 おわりに

7 非居住者に対する不動産の譲渡対価・賃料の支払いと源泉徴収義務 〔岩﨑政明〕

1 問題の所在
2 源泉徴収に関する法律関係の特色
3 受給者の住所地に係る支払者の注意義務と源泉徴収義務との関係
4 非居住者の所得に係る不動産業者の源泉徴収に係る注意義務の程度
5 まとめ

8 登録国外事業者制度の意義と課題―日本と英国との比較を通して 〔野一色直人〕

1 はじめに
2 日本の制度の概要
3 英国における電気通信利用役務の提供に対するVAT に係る制度等の概要
4 日英両国の制度の整理等
5 おわりに

9 消費課税と脱税 〔西山由美〕

1 脱税の現状
2 「脱税」の意義
3 脱税に関する最近の欧州司法裁判所判決
4 EU 域内の脱税への対策
5 ドイツの脱税への対策
6 OECD の対応―各国間の税務協力

◇Ⅱ 手続法

10 源泉徴収義務者と受給者との関係―最高裁昭和45年12月24日で残された課題 〔山本洋一郎〕

1 問題の所在
2 事案の概要
3 争点及びこれに関する当事者の主張(
4 被告の主張の補足(被告準備書面より引用)
5 当裁判所の判断
6 評釈(本判決の意義とその射程距離等)

11 租税訴訟における「客観的立証責任」の帰属に関する一考察 〔脇谷英夫〕

1 本稿の目的
2 租税訴訟における「客観的立証責任」の議論状況
3 租税訴訟と民事訴訟の相違
4 本稿の前提
5 「法律要件分類説」
6 租税訴訟における指針
7 まとめ

12 紛争予防税法学と要件事実論 〔増田英敏〕

1 はじめに
2 紛争予防税法学の構図
3 紛争予防税法学の中核となる租税法における二つの憲法原理―租税公平主義と租税法律主義
4 要件事実論と課税要件明確主義
5 租税訴訟における要件事実の基本的な考え方
6 租税法における評価的要件(規範的要件)と評価根拠事実―注目訴訟を素材に
7 むすび

◇Ⅲ 国際租税法

13 平成27 年度税制改正による国外転出時課税制度―「未実現のキャピタル・ゲイン」に対する国際課税における財産移転課税制度の日米交錯 〔大塚正民〕

1 2 つの設例
2 日本税法における「未実現のキャピタル・ゲイン」の課税
3 米国連邦税法における「未実現のキャピタル・ゲイン」の課税
4 日米財産移転課税制度の交錯
5 今後の課題:設例その1 および設例その2 をどのように取扱うか?

14 特許侵害に対する損害賠償額算定における移転価格の有用性―知的財産を利用した租税回避に対する新たな対抗策の紹介を中心に 〔谷口智紀〕

1 はじめに
2 知的財産訴訟における租税法上の移転価格の証拠としての有用性
3 アメリカ合衆国における特許侵害に対する損害賠償
4 特許侵害に対する損害賠償額と移転価格
5 結  論

15 英国における居住者判定制定法基準(Statutory Residence Test)に関する覚書 〔高野幸大〕

1 はじめに
2 居住者判定制定法基準導入の経緯
3 居住者判定制定法基準の概要
4 若干の検討―日本法の規定への若干の含意ないし示唆
5 おわりに

16 国境を跨ぐ保険取引と米国の連邦消費税 U.S. Federal Excise Tax on Foreign Insurance Transactions 〔辻 美枝〕

1 はじめに
2 外国保険業者による保険引受
3 連邦消費税と所得課税
4 租税条約による免除
5 結びにかえて

17 外国営業所への事業用資産の再投資・移転に関するドイツ出国税の最近の動向 〔宮本十至子〕

1 はじめに
2 ドイツ出国課税と欧州司法裁判所判決
3 2015 年税制改正法と欧州委員会の動向
4 むすびに

◆第2部◆ 行政法 ---------------------------------------------

18 原発民事訴訟排除論の若干の検討 〔首藤重幸〕

1 原発民事訴訟排除論の登場
2 高木意見書の核心部分
3 原発訴訟における民事訴訟排除論
4 さいごに

19 航空事故等調査と若干の国際比較―運輸安全委員会での実務経験から 〔石川敏行〕

1 はじめに
2 航空事故等調査
3 若干の国際比較
4 むすび

20 行政行為の附款論の再構成 〔山本敬生〕

1 本稿の課題
2 附款の定義の再検討
3 附款の概念の再検討
4 附款の類型の再検討
5 附款の機能の再検討
6 附款の許容性の再検討
7 附款の違法と主たる行政行為の効力・附款の争訟手段の再検討
8 結びに代えて

21 行政法総論における政策指向理論の内実と位相―ドイツ行政法学の議論と視点から 〔手塚貴大〕
1 はじめに―行政法総論の法構造―
2 伝統的行政法理論と政策指向の出現
3 行政法と統制科学
4 結  語―行政法総論の視点と本稿の検討からの示唆


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木村弘之亮先生略歴・主要業績(巻末)

あとがき