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2020/12/26

最判平成元年9月14日 租税負担に関する錯誤

最判平成元年9月14日判例時報1336号93頁は、租税負担に関する錯誤の有名な事件だ。法科大学院の「租税法」の授業でも、毎年取り上げてきた(金子宏ほか・ケースブック租税法第5版の§163.01)。授業全体のイントロダクションでこの事件を紹介することで、私的取引の構築にあたっていかに租税法が重要であるかを力説する先生もいらつしやる。

この事件で問題とされたのは、改正前の民法95条だった。では改正後の規定でどうなるか。改正前の判例や学説が現行民法95条の改正にどう反映しているのか。腑におちる説明がほしいなあと思っていたところ、山下純司ほか・法解釈入門第2版でぴったりの説明を見つけた。

同95頁以下の山下教授の説明によると、現行法の下では民法95条1項の2号錯誤(「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」)にあたるか、また、同条2項にいう「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」にあたるか、の問題になる。そして、同様の事件を現行95条の下で解決するためには、改正前の民法95条でどのような議論があって現行95条の条文につながったかを確認する必要がある、という(98頁)。こうして、判例の展開とともに、富井説、我妻説、相手方の認識可能性を統一的な要件と考える一元説、動機が法律行為の内容に含まれているかを重視する法律行為内容化説といつた学説の発展が説明される。

民法95条2項の基礎事情の表示をめぐる今後の展望として、山下教授は、法律行為内容化説の基準が見た目ほど明快なものではなく、契約交渉過程のさまざまな事情を柔軟に考慮しなければならないことを指摘する。そして、上記の事件との関係では、「夫婦間で離婚に向け財産分与契約を締結する際に、税金まで考慮に入れた話し合いが行われている以上は、この点に重大な事実誤認があれば財産分与契約をやり直すことが暗黙の前提になっていたと理解することはできるだろう」(107頁)と述べる。

租税負担に関する錯誤無効(現行民法では取消し)を認めるかどうかについて、裁判例は、事実関係に応じて異なる結論を出してきた(前掲ケースブック租税法第5版125頁、東亜由美・租税判例百選第4版35頁、中里実・租税判例百選第5版35頁)。今後も、事案に立ち入った詳細な検討を要するということだ。

2015/04/08

今年の重要判例解説

ジュリスト1479号「平成26年度重要判例解説」が出ていた。租税法判例の動きを佐藤英明教授が網羅的に解説。とくに取り上げられた6件は、固定資産税2件のほか、ライブドア損害賠償課税事件や、IBM事件、日産自動車事件、Yahoo事件で、いずれも注目の事件。それぞれに、読みごたえがある。


平成26年度重要判例解説

2014/04/02

租税法判例六法に、追補

有斐閣のこのサイト
※『租税法判例六法』の追補をアップしました。 この度,初版(2013年7月)刊行以降の法令改正および重要な判例に関する追補を作成いたしました。
とアナウンスがあり、ここからダウンロードできるようになっていた(K様ありがとうございます)。

帰属主義への見直しに関する法人税法の新規定は47頁あたりから、それに対応する法人税法施行令の新規定は78頁あたりから、みることができる。

2026/01/29

(続き、これでおしまい)文献バイアスのチェック

 【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

【今回】

この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。

4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ

すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。


以下引用++++++++++++++++++++++++++++

以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。


1. いま法学が面白い理由(総論)

対象が「国家×市場×技術×地球」に拡張した

  • AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)

  • 気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)

方法が「ドグマ」一辺倒から“混成(ハイブリッド)”へ

  • 実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)

  • 生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)


2. フロンティア①:AI・データ・アルゴリズム統治(Digital/AI Governance)

何が面白いか(争点)

  • 規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)

  • “法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)

  • 法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)

言語別「入口」文献(例)

  • 日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)

  • 英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)

  • 仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)

  • 独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)

  • 西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)

  • 中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)


3. フロンティア②:プラットフォーム規制・ダークパターン・情報環境

何が面白いか(争点)

  • 表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。

  • 研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)

  • 日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)


4. フロンティア③:気候訴訟・将来世代・サステナビリティ(公法×私法の合流)

何が面白いか(争点)

  • 訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)

  • グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)

  • 会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)


5. フロンティア④:法秩序の分断と接続(地政学・経済安全保障・越境規制)

何が面白いか(争点)

  • データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。

  • “一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)


6. フロンティア⑤:研究手法としての「データ化された法学」

何が面白いか(争点)

  • 判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。

  • ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)


7. 6言語で読むための、最小限の“棚”の作り方(実務的提案)

  • 共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。

  • 各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする

    • 日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)

    • 仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)

    • 独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)

    • 西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)

    • 中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)

    • 英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)



【とりあえず、これでおしまい】

2012/02/18

京都地判平成23・4・14(学校法人学院長の退職金)

退職所得か給与所得か。

専修学校の学院長および校長を退職し,3億2000万円の退職金支給決議。その後,経営移譲とともに,再定義後の学院長職務とセンター長の職務のみを行うようになった。京都地裁は,勤務関係の性質,内容,労働条件等に重大な変動があったと述べ,退職と同視しうる特別の事実関係があったなどとして,所得税法30条1項「これらの性質を有する給与」にあたる(=退職所得にあたる)と判断した。

最近の先例として,大阪地判平成20・2・29判例タイムズ1268・164(学校法人太陽学園事件)も,退職所得にあたるとしている。学校法人の理事長および同法人の設置する高校・中学の校長の職にあった人が,校長をやめて同法人の設置する大学の学長になり,4802万円余の退職金の支払を受けた。大阪地裁は,勤務関係の性質,内容,処遇等に重大な変動があったと認定した(確定)。

なお, 執行役員(使用人)をやめて執行役になった場合について,大阪地判平成20・2・29判例タイムズ1267号196頁(シャディ株式会社事件)は,いわゆる打切り支給(所得税基本通達30-2の柱書にいう条件)ではない場合について,退職所得にあたるとした例。

2016/01/30

最判平成27・7・17(固定資産税,納税義務者の特定困難)

堺市西区日置荘(ひきしょう)あたりは池が多い。都市化が進んでこれらが埋め立てられ,登記簿では所有者が「大字西」などと記載されていた。西区だけでなく,南区・東区・北区でも同じように,所有者の帰属を確定することが難しい土地が複数あった。「原審の確定した事実関係等の概要」によると,これらの土地は,
地区の住民の総有に係る財産として,その異動状況の把握のために堺市が作成する財産台帳に登録されている(中略)。そして・・財産台帳に登録されている財産・・・の管理及び処分については,堺市の定める要綱等において,その決定につき当該地区の住民により組織されている自治会又は町会の総会の決議によることが基本とされている。
という状態だった。そして,納税義務者を特定できないとして,固定資産税の賦課徴収が行われていなかった。これに対し,固定資産税の賦課徴収を堺市長が違法に怠ったとして,住民訴訟が提起された。第1審大阪平成25年4月26日判例地方自治400号44頁は一部却下,一部棄却,一部認容。

控訴審大阪高判平成26年2月6日判例地方自治400号71頁は,一部取消。結論に至る判断の過程で,関係自治会等が納税義務者だとした。すなわち,登記簿の表題部の所有者欄に記載されている「大字西」等の名義によって表章される旧来の地縁団体は消滅しているものと同視し,地方税法343条2項後段を類推適用して,関係自治会等が同項後段にいう「現に所有している者」としてその土地の固定資産税の納税義務者に当たるとみるべきである,とした。

最高裁第2小法廷は原審のこの判断を是認できないとした。「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」という一般論が固定資産税の納税義務者の確定についても同様にあてはまると述べたうえで,次のように判示。
原審は,本件各土地につき,本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく、前記2(2)イの要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして,地方税法343条2項後段の規定を類推適用することにより,関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に該当する旨の判断をしたものであり,このような原審の判断には,同項後段の解釈適用を誤った違法がある
というのである。結論は破棄差戻しであり,
本件各土地につき原審において判断されていない地方税法343条4項の適用の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す
こととされた。

単なる「執行の不足」というストーリーにおしこめてしまうのは惜しい事実関係。事実関係の概要に出てくる「総有」という性格付けからして不思議にあやしい。そもそも全国津々浦々の土地がもれなく課税権の対象になるのか。課税権からの「飛び地」というか一種の「すきま」は存在しうるのか。近代国家成立以前の「誰のものでもないけど,でもまあみんなの土地」という構成の現代における位置付けが問われるはず。

2015/03/13

東京地判平成25年5月30日判例時報2208号6頁 非永住者にあたるとした例

川口市と米国東部をいったりきたりしていた個人につき、日本に住所がある(=居住者である)とし、さらに、非永住者であると認定した事例。

本件の当時、非永住者の定義は、
居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。
とされていた(所得税法2条1項4号、下線は引用者による)。東京地裁は、本人の滞在日数や、家族の居住状況、米国永住権の取得、父の墓の米国への移築など、本件にあらわれた事実を総合考慮して、納税者が日本国内に永住する意思を有していなかったと認定した。

平成18年度税制改正で、非永住者の定義は次のように変わり、永住意思が要件でなくなった。
居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。
したがって、現在では、上の争点は問題にならない。また、本件の納税者は日本国籍を有していたから、現在のルールでは、非永住者にあたる余地がない。こうして、本判決の意義に現在における意義としては、「もっぱら内心の意思が問題となる場合において、それを多数の外形的事実から推認することによって認定するという一般的な判定手法を示した事例」 (宮崎裕子・判批・税研178号175頁、177頁)ということになろう。

なお、本判決は、他の争点についても判示している。たとえば、住所認定の手法として、従来の判例を踏襲している。また、オルゴールの譲渡から生ずる所得が「国内にある資産の譲渡により生ずる所得」として国内源泉所得にあたるか、といった点も争われ、国の立証が足りないとしてこれにあたらないしている。判決へのリンク

2026/02/21

LEARNING RESOURCES, INC., ET AL. v. TRUMP, PRESIDENT OF THE UNITED STATES, ET AL.

トランプ相互関税を違法とする米国連邦最高裁判決がでた

そこでさっそく,「この最高裁判決に関する専門誌の論評を調査せよ」とChatGPTに命じた.

すると,2026年2月20日前後に出た「専門的な論評」(法務・通商実務・判例分析・政策分析寄り)を横断して,次のテクストが生成された.以下,青字がChatGPTの生成したテクスト.

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結論から言うと、専門誌・実務家向け論評の主要論点は、(1) 判決理由の精密な読み分け(とくに major questions doctrine の位置づけ)、(2) 還付実務(refunds)の設計と権利保全、(3) 代替法源(Section 122/301/232等)による再構築可能性、(4) 実効面では「不確実性の継続」に収斂しています。(最高裁判所)

まず、最高裁判決そのものの最低限の確認です。連邦最高裁は Learning Resources, Inc. v. Trump で「IEEPAは大統領に関税賦課権限を与えていない」と判示し、V.O.S. Selections 側の判決を是認しました(6-3)。判決文シラバスでもその点が明示されています。(最高裁判所)

そのうえで、他の専門的論評をみると、ポイントがいくつかあります。

  1. 判決理由の「多数意見」と「プルーラリティ」を区別する論評(SCOTUSblog)
    SCOTUSblog の詳細分析は、Roberts意見のうち「IEEPAの文理解釈+憲法的背景による結論」(IEEPAは関税法ではない)が6名の法廷意見である一方、major questions doctrine を前面に出す部分は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、法廷意見(majority holding)ではなくプルーラリティにとどまる、と明確に整理しています。これは実務・学説上かなり重要な読み分けです。(SCOTUSblog)
    同じSCOTUSblogの速報でも、Kavanaugh反対意見が「今後の大統領の関税権限を大きく制約しない可能性(他の制定法がある)」と述べている点が強調されています。(SCOTUSblog)

  2. 実務家向け通商・税務論評は「還付(refund)実務」を中心に据える
    Thomson Reuters Tax & Accounting は、企業税務・通商コンプライアンスの観点から、この判決を「大規模還付機会(最大1750億ドル規模)」として位置づけ、判決理由そのものよりも、どの輸入申告が対象か、どう計算・請求するか、期限管理をどうするかという実務課題を前面に出しています。特に、対象エントリーの特定、金額算定、抗議(protests)や post-summary corrections の検討、時効・期限管理の重要性を整理している点が実務色の強い特徴です。(tax.thomsonreuters.com)

Holland & Knight も同様に、最高裁は還付の要否・手続を具体的に指示していないため、権利保全のために記録整理と行政手続(PSC、protest、liquidation延長等)を早期に進めるべきだと整理しています。加えて、判決理由の内部構造(major questions を使ったのは3名、Kaganらは通常の文理解釈中心)まで比較的丁寧に要約しており、判例解説+実務対応のハイブリッド型です。(ホランド・アンド・ナイト)

Norton Rose Fulbright は、還付論点をさらに細かく扱い、(a) CIT(国際貿易裁判所)の全国的差止めの射程、(b) 不法徴収(illegal exaction)的整理、(c) reliquidation の可能性、(d) Customs の今後のガイダンス、(e) 「輸入者記録上の importer of record」にしか政府還付が直接行かないため、私法上の契約紛争(だれが最終的に返金を受けるか)が増える可能性、まで踏み込んでいます。これは The Economist の「refundsはmessになり得る」という指摘を、実務的に具体化した論評と言えます。(nortonrosefulbright.com)

  1. 代替法源(Section 122/301/232等)に関する評価は、概ね「再構築可能だが、機動性は落ちる」で一致
    Holland & Knight は、Section 122(上限15%、150日)、Section 301、Section 232、Section 201、Section 338 などの代替法源を列挙し、それぞれの法的要件や調査手続の必要性を示したうえで、政権がIEEPAの代替として組み合わせるシナリオを解説しています。特に Section 122 の時間制限と、150日の間に301調査を走らせる構図は、The Economist の分析と整合的です。(ホランド・アンド・ナイト)
    Thomson Reuters も同様に、今後は Section 232/301/122、AD/CVD、立法対応などへ政策手段がシフトすると整理しています。(tax.thomsonreuters.com)

  2. 政策分析・国際関係系の専門論評は「不確実性の持続」と対外交渉への影響を強調
    Chatham House の専門家コメントは、法理そのものよりも、北米(USMCA)や各国との交渉実務に与える影響を重視しています。Heather Hurlburt は、判決が IEEPA 系の包括関税を大きく削ったとしても、232/301ベースの関税は残り、還付も命じていないため、実効面での変化は限定されうると指摘しています。(チャタムハウス)
    また Julián Ventura は、Section 122 による新たな10%関税の示唆と、対象・適用・実施の細目が未確定であることから、「uncertainty will continue to be the name of the game」と評価し、貿易相手国側の対応困難性を強調しています。(チャタムハウス)

  3. データ分析系(Global Trade Alert)は「法理」ではなく「関税水準の量的インパクト」を提示
    Global Trade Alert の分析は、IEEPA関税が剥落すると米国の輸入加重平均関税率が 15.4% から 8.3% に低下し、7.1ポイント下がると定量化しています。また、何が落ちて何が残るか(IEEPAのベース関税・上乗せ・緊急EOは無効、232/301/MFNは残る)を明示しており、政策効果の即時測定として有用です。(globaltradealert.org)
    これは The Economist の「実効関税率が約半分に」という記述と整合的ですが、GTAの方が「どの法源ベースの関税が残存するか」をより構造的に示しています。(globaltradealert.org)

************

(増井のコメントに戻る)

なるほど.上記で引用されたリンクは実在し,確認できた.

そこで次に,ChatGPTのプロンプトをそのままフォローして,上のまとめを租税法・通商法の視点から,①判決法理,②救済実務,③比較法の順に整理させた.①②③の3項目は,ChatGPTのおすすめをそのまま(=無反省に)フォローしただけのもの.

すると,次のテクストが生成された.

************

本件の出発点は明確です。最高裁は Learning Resources v. Trump で、「IEEPA(International Emergency Economic Powers Act)は大統領に関税賦課権限を与えない」と判示しました。シラバス上も、争点はまさに「IEEPAが関税を許容するか」であり、結論は否定です。

  1. Delegation / Major Questions / Nondelegation の論点整理

この判決で最も重要なのは、「何が法廷意見(majority holding)で、何がそうでないか」を切り分けることです。SCOTUSblog の整理が有用で、6名が参加した法廷意見部分(Parts I, II-A-1, II-B)は、IEEPAの文言・構造・憲法的背景を用いて、IEEPAは関税を授権していないと解しています。他方、major questions doctrine を用いた部分(Parts II-A-2, III)は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、プルーラリティにとどまります。つまり、「major questions で勝った事件」ではあるが、同時に「文理解釈で6名が一致した事件」でもある、という二層構造です。

法廷意見(6名)レベルのコアは、かなり古典的かつ租税法的です。最高裁シラバスは、(a) 憲法上、関税は Article I の taxing power(Congress)に属すること、(b) IEEPAの列挙権限には tariffs/duties の明示がないこと、(c) “regulate . . . importation” を「課税権限」まで含むと読むのは不自然であること、(d) 政府も「regulate」が「tax」を意味した他の制定法例を示せなかったこと、を並べています。さらに “regulate exportation” まで課税を含む読みになりかねず、輸出税禁止との緊張も指摘しています。これは、授権立法の解釈として「税・関税は明示的授権を要する」という強いシグナルです。

そのうえで、Roberts/Gorsuch/Barrett の3名は major questions doctrine を前面に出し、「非常に大きな経済・政治的重要性を持つ権限主張には clear congressional authorization が必要」「緊急事態法制だからといって例外はない」「外交・通商文脈だからといって例外はない」と述べます。ここは今後の行政法・通商法訴訟への波及可能性が大きい。ただし、Kaganら3名は結論には賛成しつつ、「通常の法解釈で足りる。major questions の“thumb on the scale”は不要」と距離を置いています。したがって、本判決の将来射程を読む際は、「IEEPAの解釈に関する先例価値」と「major questions 拡張の先例価値」を分けて扱う必要があります。

Kavanaugh反対意見(Thomas, Alito joined)は、別の意味で重要です。Reutersが要約する通り、反対意見は「今回の判決は大統領の関税権限全般を大きく制約するとは限らない。単に IEEPA という“間違った statutory box”を使っただけだ」と見る。これは、判決の制度的意味を「大統領通商政策の全面否定」ではなく「IEEPAの否定」に限定する読みです。実務上は、この反対意見の評価がそのまま次の争点(122/232/301等)に接続します。

  1. 関税還付の法的性質と実務(illegal exaction / reliquidation / protest)

The Economist の「refundはmessになりうる」という指摘は正確ですが、専門実務論評を読むと、その“mess”の中身はかなり具体的です。SCOTUSblog は、最高裁の判断が解決したのは「授権の有無」であり、refund mechanism(還付の仕組み)や restitution(返還命令)、行政上の回収手続には触れていない点を強調しています。しかも返金の明示的議論は主として Kavanaugh の反対意見側に現れる。つまり、救済は「次段階の訴訟・行政実務」に委ねられている、という構造です。

Norton Rose Fulbright の論評は、この救済論点を最も実務的に分解しています。そこでは、CIT(Court of International Trade)の全国的差止めと、違法関税の徴収金を政府が保持できないという違法徴収(illegal exaction)的な整理を前提に、還付は原則として視野に入るが、具体的な経路は CIT と Customs(CBP)の運用次第だとされます。さらに、reliquidation(再清算)命令の可能性、CBPガイダンス(Federal Register やCSMS)による実務設計、そして未清算 entry と既清算 entry の手続分岐(PSC / protest)が指摘されています。これは、救済法の問題が、行政手続・税関実務・時間管理の問題へ直ちに変換されることを示しています。

この点は、租税法研究者の目で見ると興味深いです。違法課税の返還という一見単純な命題が、通商実務では「誰に返すのか(法的納税者/importer of record)」「どう請求するのか(PSC / protest / CIT complaint)」「いつまでに請求するのか(liquidation 状態・時効・不服申立期間)」「誰が最終的に経済的利益を受けるのか(価格転嫁・契約条項)」という複数の層に分かれます。Norton Rose Fulbright は、政府還付の名宛人は importer of record に限られ、輸入者に償還した第三者には政府から直接還付されないため、契約解釈・私法紛争が増えると警告しています。

Holland & Knight も同様に、判決は refund の要否・運用を決着しておらず、企業側は権利保全(preservation steps)を先行させるべきだと位置づけます。実務家論評の共通トーンは、「勝訴=即自動還付」ではなく、「勝訴+別途の救済・事務プロセス」が必要、という点にあります。

  1. 日本法・WTO法との比較可能な視点

比較法的に見ると、本判決の第一の含意は、「通商政策でも、課税(関税)である以上、授権の明確性が要求される」という統治構造の再確認です。最高裁は関税を Article I の taxing power に明確に接続し、IEEPAの一般的な “regulate importation” から関税権限を引き出す解釈を拒否しました。これは、行政裁量の広い通商・安全保障領域であっても、課税授権には明示性が必要だというメッセージです。日本法の観点からいえば、租税法律主義・課税要件法定主義の議論と比較可能な構造を持ちます(もちろん米国では憲法構造・delegation doctrine の文脈で語られる点が異なる)。

第二に、WTO法との関係では、本判決は直ちに「関税政策の国際法適合化」を意味しません。Reuters も示すように、政権側は他の法源(Section 232/301 等)への切替を明確に示唆しており、実際に判決直後に別法源による10%関税を公表しています。Holland & Knight や Norton Rose Fulbright の整理でも、Section 122(短期・上限付き)、232、301、201、338 など複数の代替経路が列挙され、IEEPA喪失後も高関税政策の再構築は可能と見られています。したがって、本判決の主効果は「関税水準の恒久的低下」よりも、「法源の付け替え・手続の増加・時間差の発生」にあるとみるのが妥当です。

第三に、比較租税法的に面白いのは、「違法な徴収の返還」が財政・政治・私法・行政手続を横断して問題化している点です。Norton Rose Fulbright は、還付額規模ゆえに議会が timing や制約を立法的に設ける可能性にも触れています。これは、租税法でいう不当利得返還・過誤納還付の問題に似て見えつつ、通商法では制度設計がより多元的(CIT、CBP、契約実務、連邦議会)であることを示します。研究上は、「違法課税の救済」を租税手続法だけでなく通商救済法・行政救済法の交点として捉える素材になります。

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(増井のコメントに戻る)

ふーん.3つの整理のうち,①法廷意見の2層構造の指摘や,②反対意見の評価がそのまま今後の還付実務につながってくる,というあたりが参考になる.③比較法のところは,要検討.ChatGPTが「比較租税法的に面白い」というテクストを生成するとき,どんな学習経路でそうなるんだろうか.

以上,後半の3つの整理についてはともかく,前半の論評調査からは,今回の敗訴を受け,政権は別の狭いやり方で相互関税を維持しようと試みるだろう,という見通しが得られる.日本企業の目からすると,投資約束への影響が目下の関心事.

2016/12/04

東京高判平成28年4月21日、法人税法22条の受贈益について判示

東京高等裁判所平成27年(行コ)第157号平成28年4月21日判決D1-Law.com判例体系判例ID28241540である。原審の東京地裁平成27年3月27日判決を見ると、ビール会社の事件だとわかる。

東京高裁は、法人税法22条2項について、次のように述べる(着色は引用者による)。
同項にいう「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け」は資本等取引以外の取引の例示であり、それゆえに同項は、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」に関わる収益の額を益金の額に算入すべきことを規定しているのである。もとより、適正な額より低い対価をもってする資産の譲受け(低額譲受け)の場合であっても、譲受けの時点において、資産の適正な価額相当額の経済的価値の実現が認められることは無償譲受けの場合と同様であるから、この価値を収益としてその額を益金の額に算入すべきである。また、たまたまその一部のみを対価として現実に支払ったからといって、無償譲受けの場合と異なり、時価相当額との差額部分の収益が認識され得ないものとすることは、公平を欠くこととなる。
隠れた重要な問題として、譲り受けた資産の取得価額は、どうなるのか?たとえば、時価100万円の株を30万円で買ったとする。この例で、「資産の適正な価額相当額」は、100万円である。ゆえに、この判示部分からは、「その額」である100万円を益金算入するといっていることになる。しかしトクをしているのはあくまで「差額部分の収益」たる70万円だから、100万円を益金計上してしまうと、何らかの形で30万円を同時に損金算入しないとつじつまがあわない。つまり30万円は株の取得価額とするわけではないようである。明示されていないのであるが、この判決はどうやら、実際に取得に要した30万円を株の取得価額とするのではなく、100万円をもって取得価額とすると考えているように読める(以下A説という)。

A説は、時価100万円の株を無償で取得した場合についても、株の取得価額を100万円とすることにつながるだろう。入ってきたものに対する課税に着目するロジックである。所得税で資産を時効取得した場合、一時所得課税がされ、その資産の取得費を一時所得課税の対象となった資産の時価とする東京地判平成4年3月10日と、親和的である。しかし、株のキャピタルゲイン(ロス)につき前所有者の手元で課税されたかどうかに着目する考え方とは、そりがあわない。

解釈論としては、A説とは異なる考え方も成立しうる。受贈益としては70万円を益金に計上し、株の取得価額は支出した金額をベースに30万円とするのである(以下B説という)。もっとも、B説だと、のちに株を譲渡したときに、A説よりもより大きな金額が課税ベースに含まれることになる。また、株の前所有者の手元で株の含み損益が時価ベースで清算されている場合には、ダブルパンチが重なってしまう。𓀆

なお、東京高裁は、法人税法22条4項を手掛かりにして株式評価のあり方を論じている点でも、注目される(争点3)。この事件は他にも論点が多彩で、地裁の段階では、受取配当益金不算入に係る負債利子控除の計算のやり方(法人税法施行令22条)の選択についても、納税者が申告時に原則法を選択した以上あとで簡便法に変更できないとした(争点7)。

2023/05/30

税務訴訟資料のデジタル化

「税務訴訟資料」のデジタル化は、次の経過をたどった。

1.紙の冊子体の時代
昭和25(1950)年5月(1号)から平成16(2004)年3月(249号)まで。
各号につき「〇頁」として引用。
第1号は、新憲法の下で税法事件が司法裁判所に係属することになったことを受けて、昭和23年4月から昭和24年11月までに言渡しのあった判決を収録。当時の国税庁直税部所得税課によるもの。「税務訴訟資料(税務行政事件訴訟判決集)」と題されており、課税事件と徴収事件が混在。判決以外の執務参考資料も掲載していた。
紙の冊子体の最終は第249号で、平成12年12月までに言渡しのあった判決を収録。
なお、全体としては、「租税関係行政・ 民事事件判決集」及び「租税関係刑事事件判決集」の2部編に分かれ、刑事事件を別建てで収録する号もあった。

2.CD-ROMの時代
平成17(2005)年3月(250号)から平成23(2011)年3月(258号)まで。
各号につき「順号〇〇〇」として引用。
第250号は、平成13年1月言渡し判決(250号順号8813)からを収録。
第258号は、平成20年12月言渡し判決(258号順号11113)までを収録。
CD-ROMの収納ケースには、「租税関係行政・民事事件判例集」と印字。

課税関係判決は、平成20年判決分(税務訴訟資料第258号「順号10859~11113」)から。各号につき「順号〇〇〇」として特定。
徴収関係事件は、租税関係行政・民事事件判決集(徴収関係判決)として、平成21年1月~平成21年12月判決分から。順号表記のやり方は課税関係判決と異なり、たとえば平成21年1月のものは「21-1」などと表記。
事件番号を黒塗り加工し、確認できないようにしてある。

[典拠]

2026/02/11

固定資産税判例,まずはここから

固定資産税は市町村の基幹税であり,最高裁判例が積み重なっている.以下,基本的なものを選りすぐってリストアップしておこう.

  • 固定資産評価を争う上で特に重要なのは,(登録価格が客観的交換価値を上回ると違法)と,11(登録価格が評価基準に従って算定される価格を上回ると違法)が,判断枠組みを示したことだ.
  • この領域で多くの訴訟が提起されている理由として,10が国賠訴訟に途を開いたことも大きい.

1.最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁.固定資産税名義人課税事件.固定資産税は原則として登記簿上の所有者(名義人)に課される.いわゆる台帳課税主義.

2.最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁.名義人が負担した固定資産税と真の所有者への求償.台帳課税により真の所有者でない者が固定資産税を負担した場合,真の所有者に対して原則として不当利得返還請求が認められる.

3.最判昭和49年9月2日民集28巻6号1033頁.財団法人電力研究所事件.「学術の研究を目的とする」法人の意義.

4.最判昭和59年12月7日民集38巻12号1287頁.新築の家屋は,一連の新築工事が完了した時に,固定資産税の課税客体となる.

5.最判平成2年1月18日民集44巻1号253頁.固定資産評価審査委員会の口頭審理手続.

6.最判平成6年12月20日民集48巻8号1676頁.地方税法348条2項但書「有料で借り受けた」の意義.

7.最判平成13年3月28日民集55巻2号611頁.小作地に対する宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額請求をすることはできない.

8.最判平成15年6月26日民集57巻6号723頁.固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる.

9.最判平成17年7月11日民集59巻6号1197頁.固定資産評価審査委員会の決定取消訴訟で,裁判所が「適正な時価」を認定した場合の取消範囲.

10.最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(名古屋市冷凍倉庫事件).公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して固定資産の価格を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,審査の申出及び取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得る.

11.最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁(府中市事件).固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録された価格の決定は違法となる.

12.最判平成26年9月25日民集68巻7号722頁.賦課期日に登記簿に登録されていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う.

13.最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁.固定資産税の税額が過大に賦課されたことによる国賠請求の除斥期間の起算点である「不法行為の時」は,賦課決定がされ納税通知書の交付がされた時点である.

14.最判令和7年2月17日裁判所時報1858号1頁,7頁,12頁.三菱UFJ信託銀行事件.複数の構造により建築されている非木造家屋について家屋課税台帳に登録すべき価格を決定するに当たり,固定資産評価基準別表第13の定める経年減点補正率のうち構造別区分を鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造とするものを適用したことが同基準に反しないとされた事例.

15.最判令和8年1月26日.南御堂事件.山門一体型ホテルの参道部分土地も固定資産税の課税対象.

なお,固定資産税判例に関する研究は数多い.固定資産評価に関する本格的な体系書として,碓井光明『固定資産税評価精義』(信山社2023).また,髙橋祐介「市町村,また負けたってよ」税研211号16頁(2020),髙橋祐介「近時の裁判例からみた固定資産税の諸問題」租税研究895号92頁(2024)は,下級審判決の流れを網羅的にカバーする.

2015/09/18

最判平成37年2月28日刑集16巻2号212頁(株式会社月ヶ瀬事件)の言葉づかい

源泉徴収制度が合憲であるとした大法廷判決である。憲法29条や18条についても争われたが,憲法14条違反にならないとしたくだりで,次の制度理解を示している。すなわち,所得税法が給与の支払者を源泉徴収義務者としたのは
給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る
という点を考慮したからだ,というのである。そして,そのことには合理的理由があり,憲法14条に違反しないとしている。ここにいう「特に密接な関係」がある者を源泉徴収義務者にする,という制度理解は,最高裁の最近の判決でも参照されている(破産管財人が弁護士報酬や破産会社元従業員に対してする支払に関する最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁)。その意味でも,重要な判決である。

もっとも,改めてこの大法廷判決を読んでみると,「担税者」という言葉をつかっているなど,現在の議論からみてやや違和感をおぼえるところがある。たとえば,憲法84条について
担税者の範囲,担税の対象,担税率等を定めるにつき法律によることを必要とした
と述べている。このような言葉づかいについては,橋本公亘・租税判例百選第2版171頁(1983年)が,
この判決は「担税者」という用語を用いているが,これは財政学上の用語であるから,「納税義務者」とした方がよかったと思われる。
と指摘していた。金子宏・租税法第20版868頁(2015年)も,
ただし,この判決の用語や論理には,問題が少なくない。
とコメントしている。用語の点で,その後の議論は,より法律に即した表現をとってきたように感じられる。論理の点では,最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(大嶋訴訟)の大法廷判決が憲法14条の違憲審査基準を定立している。時代の経過とともに,一方で生き続ける用語やロジックがあるとともに,他方で変化(進化?)していくものがあるということだろうか。

2011/04/02

最判平成22・7・16判例時報2097号28頁(医療法人の出資の評価)

ある医療法人につき,基本財産が24億円あり,運用財産が17億円の債務超過のため,法人の財産全体でみた評価は7億円であった。この医療法人の定款により,出資社員(納税者)は,退社時の払戻しも解散時の財産分配も運用財産のみからなされることとされていた。この場合において,最高裁は,法人の財産全体を基礎として類似業種比準方式により評価することは合理性がある,と結論した。

  • 基本財産 +24
  • 運用財産 -17
  • 全体財産  +7

最高裁の理由付けのポイントは,定款を変更することにより,医療法人の財産全体につき(つまり基本財産も含めたところで)払戻しなどを求め得る「潜在的可能性」を有する,というものである。つまり,たまたま運用財産にだけ出資にかかる権利を有するように定めてあるけれど,出資社員は,あとで定款を変更すれば法人財産の全体を丸取りできる,というロジックである。

本件判決は,持分の定めのある医療法人に限った判断と考えたい。だがこのロジックの射程は,潜在的可能性としては,種類株の評価にも及びかねない。平川雄士・ジュリスト1413号58頁が示唆するように,もうすこしきめこまかに展開する必要が高い。判旨のテクストからは,次の点が手がかりになろう。

  • 最高裁は,評価通達の類似業種比準方式で評価することのできる「特別の事情」があれば,異なる評価をする余地を認めている。
  • 医療法人については,定款の定めのいかんによって「当該法人の有する財産全体の評価に評価が生じない」と述べており,定款の定めのいかんによってはこの場合に該当しない。

なお,定款で持分を変更すること自体,出資社員間に権利関係の変動を生じさせることがある。そのような変動に伴う経済的価値の移転や含み損益の実現をどう考えるか。本件の争点からは離れるが,そういった問題もありそうだ。

2015/04/21

今年の租税条約の判例研究会は6月に

なんだか恒例になっているが、ことしはウィーンで6月11日から13日に開かれる。日本の大学はセメスターの中途、授業を休講にすると苦しい時期で、なかなか出ていきにくいのが難点。でも、招待プログラムを見ているだけで、世界各国でいろいろな裁判例が登場していることが感じられる。

2014/06/01

大阪高判平成25・1・18判例時報2203・25 更正理由付記を行動経済学から観る

財団法人東大阪市環境保全公社が受け取ったし尿収集運搬業務などの委託料につき、法人税法上の収益事業性の有無が実体面の争点。更正の理由は、
「貴法人が東大阪市と締結した契約に基づき受ける委託料および・・・受託料並びに・・・補助金は、法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当します。」
というものであった。

大阪高裁(紙浦健二裁判長)は、地裁判決を覆し、この理由付記が不十分であるとして、更正を取り消した。最判昭和60年4月23日の枠組みによりつつ、帳簿上の記載自体を否定することなしにされた更正であって、「請負業」に関する法人税施行令と実費弁償通達(法人税基本通達15-1-28)に関する判断を経る必要があるところ、判断過程についての記載が一切ないとする。高裁段階で確定。

本件で、委託料が実費弁償かどうかを中心に税務調査を行っていたのであれば、更正を行うに際してその旨を一言付記することは、現場の税務職員にとってもそれほど難しいことではないのではなかろうか。

一般に、理由付記の機能としては、最高裁のいう①恣意抑制機能と②不服申立便宜機能のほかに、学説が③相手方に対する説得機能と④決定過程公開機能をあげてきた。

この③については、英米における行動経済学の最近の実験結果の中にも、これを支持しそうな材料がある。たとえば、この記事の紹介によると、

  • 滞納者に対するレターに「90%が期日前納付であり滞納は少数である」旨を記すと、5.1%納付率があがった
  • 税金の使い道について意見を述べる機会を設けると、コンプライアンスが15%あがった
といった例があるという。応答的規制(responsive regulation)の考え方からすると、理由付記も、納税者の納得を得るためのようとする行政努力の一環としてとらえるべきであろう。

2022/07/20

玉國文敏先生古希記念論文集(2017)

 機関リポジトリにアップされていた。以下がリンクのコピペ。

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法学新報第123巻 第11・12号
 
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2015/06/14

最判平成27年6月12日(TK航空機リース雑所得区分事件)、「正当な理由」ありと判断

裁判所ウェブサイトのここ。匿名組合(TK)に関する所得税基本通達が、平成17年12月16日付けで改正された。最高裁は、このことをもって
所得区分に関する課税庁の公的見解は変更されたもの
と評価したうえで、平成15年分と16年分につき旧通達に従って不動産所得として申告していたことにつき、
真にA[原告・納税者]の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になる
として、国税通則法65条4項の「正当な理由」ありと結論した。東京高判平成24年7月19日税務訴訟資料262号順号12204のこの点に関する判断を覆したものである。通達改正が経済活動に及ぼすかく乱効果を小さくするために必要な多方面の努力のひとつを、最高裁として果たしたものといえよう(控訴審の判批・税研178号46頁、49頁を参照)。

なお、この最高裁判決は所得区分につき次のように判示しており、TK課税に関する判例として意義がある。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は,当該契約において,匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており,匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し,それ以外の場合には,当該事業の内容にかかわらず,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,雑所得に該当するものと解するのが相当である。前記・・・の取扱いを定める新通達は,その内容に照らし,これと同旨をいうものと解される。

2015/05/01

VAT比較法の教科書、第2版になっていた

もともと定評があった本であるが、第2版はさらにパワーアップした。NZをはじめとする新世界モデルの優位がはっきりとみえてくる。各国の判例も、学習に活き活きとした感じを与える。Wei Cuiさんが著者に加わって、中国の増値税に末尾の一章を割くなど、新工夫。

Value Added Tax

2023/08/23

ジュリスト誌のインボイス特集

ジュリスト1588号で「インボイス制度が始まる」という特集が出た。

特集 インボイス制度が始まる

インボイス制度の実施とその将来像/西山由美

課税仕入れを巡る問題/藤谷武史

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の概要/染谷浩史

登録制度と免税点制度/金井恵美子

インボイス制度と独禁法・下請法・フリーランス法/白石忠志


今年の10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される。このことを念頭においたタイムリーな企画。西山論文はインボイスの保存が仕入税額控除の形式要件であるという解釈を示し、立法論として課税事業者識別番号への移行が不可欠であると主張する。藤谷論文は、インボイス施行後も残る論点を3点指摘し、とくにその第3点につきADワークス事件最高裁判決が課税仕入れに伴う「難しさ」を示す事例であるとする。染谷論文は、インボイス制度の意義と仕組みを記載事項の詳細に立ち入って説明し、その円滑な導入に向けた多層的な取組みを示す。金井論文は、豊富な実務経験に基づき、インボイス制度となっても仕入先が登録している場合は仕入税額控除に大きな変化がないこと、事業者免税点制度との関係で2割特例の終了が新たな壁になること、を論ずる。白石論文は、独禁法・下請法・フリーランス法の適用上のポイントが「濫用行為」に当たるかどうかであるとし、具体的な事例へのあてはめにおける論理を分析する。それぞれが有益な論文であるだけでなく、全体としてシンポジウムのような感じを与える。

この号には、国際合意を踏まえたミニマム課税の法制化(吉村政穂)の新法解説があり、国際課税関係の判例評釈が2件(6号所得への源泉徴収(吉村浩一郎)と来料加工と管理支配基準(長戸貴之))。租税法に関心のある人にとって、手に取って読んでおきたい号となった。

2011/02/04

東京地判平成21・7・29判例時報2055・47(F1事業寄附金事件)

オランダ法人A社の営むF1事業に関し,内国法人Xが①担保提供→②資金提供→③債権放棄をしたところ,②が,租税特別措置法66条の4第3項にいう寄附金にあたるとした事例。②は,「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であったとしても,その実質は,A社に対して金銭を対価なく移転するものであり,かつ,その行為について通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在しない」としている。控訴審で維持,確定。