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2026/06/04

ミュンヘン会合の成果が公表されていた(続き)

 4部構成になっているといったが、特集全体の相互関係は、次のように読み取ることができる。

  • Part 1 は「国際課税の一般原理」を問う
  • Part 2 は「どの国が事業所得に課税すべきか」を問う
  • Part 3 は「所得課税以外の代替的財源は何か」を問う
  • Part 4 は「どの形式で協力を実現するか」を問う

すなわち、Part 1 は「国際課税秩序を正当化する原理は何か」を扱う。Riedel は、各国の法人税政策が国境を越える外部性を生むため、国内厚生と国際厚生は一致しないという経済学的出発点を与える。これに対し、Risse and Meyer は、国民所得は各国が自由に処分できる純粋な国内的産物ではなく、国際的な所有権秩序・市場秩序の相互承認に依存するという哲学的基礎を与える。この二つを軸に、Hebous and KlemmがAI課税を論じ、HeyがSTPが国際課税秩序の一般原理になりうるかを批判的に検討し、Bakerが人権・納税者権利という制約条件を加える。

Part 2 は、事業所得課税の課税権配分に関する2論文。Masui 論文が「居住地課税の後退」を論じ、Titus 論文が「市場国・途上国課税権の要求」を論じる。なお、研究会合にはもう一本、生産地課税に関する論文ドラフトが提出されていたが、ここには収録されていない。

Part 3 は、「法人所得課税だけで国際課税秩序を構成できるのか」という問題に進む。Schön の関税論文は、関税を単なる通商政策ではなく、国際課税秩序の一部として再配置する。Xu のVAT・間接税論文は、国際課税論の中心が法人税に偏っていることを批判し、VAT、デジタル取引税、気候関連賦課金を統合的に考えるべきだとする。Báez Moreno の純資産税論文は、富裕税復活論を検討するが、制度設計と執行上の構造的困難を強調する。

Part 4 は「どの形式で国際課税秩序を維持するのか」を扱う。Kofler 論文は、外国企業・外国人・外国産品に対する無差別原則を、租税条約、通商法、投資法、EU法の交錯点で検討する。van Weeghel 論文は、租税条約の役割を正面から再検討する。最後の Philip Baker の多国間協力論文は、OECD、UN、地域的枠組みの将来を見渡し、2025年以後の国際協力の不確実性を総括する。

*****

複数の異なる論者がそれぞれの主張を投げかけているだけに、特集全体から一義的な政策の方向性を読み取ることは困難だ。それでも、全体を通覧して、次のようなメッセージを感じ取ることができた。
  • 効率性と正義の対立あるいは補完
  • 包括的多国間主義と控えめな制度部品論の対立
  • 先進国中心秩序とGlobal South要求の対立
もっと読み込めば、building blocksをどう組み立てるかについては、さらにいろんな読みが可能だろう。

ぼくの継続的問題関心からは、tax mixにおけるVATの役割が大事だと思う。この点については、2つの論文が同じ方向を向いている。Masui論文は「居住地ベース法人課税が弱まるなら、次に何が中心になるか」という問いから、VAT・仕向地ベース消費課税の比重上昇のシナリオを描く。Xu論文は「国際課税論が法人所得税に偏りすぎている」という問いから、VAT・間接税を中心に据えるべきだとする。出発点は違うが、到達点はかなり近い。つまり、両者は「法人所得税中心、居住地vs.源泉地の国際課税」から、「VATを中核とする仕向地ベースのtax mix」への重心移動を示唆する。

これに対し、Riedel論文とTitus論文は、法人所得税またはDSTを通じて、市場国・利用者所在地国にヨリ多くの課税権を配分する方向だ。また、Schön論文とKofler論文は、関税、DBCFT、国境調整、VATとの関係を通じて、仕向地ベース課税の法的・制度的限界を検討する。もし出席できていれば、こういったあたりの相互関係を突っ込んで議論できたかもしれない。

2025/10/07

Graetz (2016) Follow the Moneyを演習会読風にしてみた

Graetz (2016) Follow the Moneyは、国際課税に関するGraetz教授の論文集だ。歴史、事業所得、ポートフォリオ所得、ヨーロッパ、の4部構成で、20年にわたって公表されてきた9つの著名な論文を収録している。私も、これらの論文が公表されてきたそのおりおりに、おおいに刺激を受けてきた。

この論文集は、全体がopen accessになっていて、学習用教材としても使いやすい。そこで、日本で国際課税をともに学ぶ学生さんたちを念頭に、さらに一歩、身近なものにしてみたい、と考えた。

そのためのひとつのやり方として、この本の序文を演習で会読する、という仮想の設定のもとで、ChatGPTに会話台本を作成させてみた。

私のプロンプト:大学の演習で、この文書を会読して議論する、という設定で、会話台本をつくれ

以下が、ChatGPTの作成した結果をもとに、すこし手を加えたものだ。読んでみて、もし興味を覚えた方がいらっしゃったら、今度は、この本そのものをご覧いただければうれしい。

🎓大学演習会話台本:「Graetz『Follow the Money』序文を読む」

登場人物

  • A教授(女性)…租税法・国際課税論の専門家。指導的かつ穏やかな語り口。

  • Bさん(男性学生)…素朴な疑問を率直に投げかけるタイプ。

  • Cさん(女性学生)…国際政治の視点から制度を考えるタイプ。

  • Dさん(男性学生)…理論分析を重視し、批判的に読むタイプ。


【場面】大学ゼミ室。

テーマは「国際課税の制度構造とその政治経済的意味」。
学生たちはGraetzの『Follow the Money』序文を読み終えたところ。


【導入:金の流れを追う】

A教授
さて、今日はGraetzの『Follow the Money』の序文を読みましたね。まず、この本のタイトル——「金の流れを追う」とは何を意味していると思いますか?

Bさん
単に「税金の流れ」ってことですか?つまり、どの国でどれだけ取ってるか、みたいな?

A教授
それも一部です。でもGraetzはもっと広い意味で使っています。お金の流れを追うとは、「資本や利益が国境を越えてどう動き、それに対して国家がどう課税権を主張するか」という制度の構造を解き明かす、ということなんです。

Cさん
なるほど、税制の技術的な話ではなく、国家と市場の関係全体を見るということですね。

A教授
その通り。彼は国際課税を“国家の政治経済的構造を映す鏡”と捉えています。租税を通じて、国家がどのように富を制度化しているかが見えるんですね。


【第1幕:源泉地と居住地】

Dさん
序文の中盤では、1920年代の国際連盟がつくった「源泉地」と「居住地」の二原理が国際課税の基礎だと説明されていました。でも、もう100年も前の仕組みが、今も続いているのは驚きです。

A教授
ええ。国際課税の骨格は100年前にできた枠組みなんです。つまり、どの国がどの所得を課税できるかを「源泉地」と「居住地」で分ける構造。けれど、Graetzが指摘するように、この枠組みはいまや揺らいでいます。なぜだと思いますか?

Bさん
デジタル企業のせいですよね。どこで利益が生まれてるのか、わかりにくいから。

A教授
そうですね。所得の「源泉地」を地理的に特定するのが難しくなっている。企業の「居住地」も、登記を動すなどして簡単に変えられる。つまり、国家の国境と課税の範囲が一致しなくなっているんです。


【第2幕:国際課税と国家主権】

Cさん
このあたりで、Graetzが「国際課税は国家の主権の問題でもある」と言っていたのが印象的です。税って経済だけの話かと思っていたけれど、主権と深く結びついてるんですね。

A教授
ええ。近代国家は、徴税を通じて国民を統合してきました。租税は国家の正統性の基盤なんです。
ところがグローバル化によって、国境を越える資本や企業が国家の課税権を相対化してしまった。だからこそGraetzは「国家がどのように財政的主権を再構築できるか」を問うているわけです。

Dさん
つまり、税制改革は単なる技術ではなく、「国家の再設計」でもある、と。

A教授
ええ。だから彼は税制を「社会契約」の一部として見るんです。


【第3幕:租税競争と協調】

Bさん
最後の節で、租税競争と協調の話が出てきましたよね。僕は「競争」と「協調」って正反対のことだと思ってたんですが、Graetzは「同じ制度の二つの面」だと書いていました。どういう意味なんですか?

A教授
いい質問です。国家は、資本を呼び込むために税率を下げたり優遇措置を作ったりします。これが租税競争。でもその結果、みんなが税収を失う「囚人のジレンマ」に陥る。だから、その弊害を抑えるために協調の仕組みが必要になる。つまり、競争があるから協調が生まれる、というのです。

Cさん
OECDやG20のBEPSプロジェクトもその流れの一部ですね。でも、Graetzは「協調も政治的妥協の産物だ」とも言っていました。先進国が主導している構造は変わらないのでは?

A教授
その通り。制度は常に力関係の上に立っています。だからこそ、租税協調は“政治的プロセス”なんです。単なる経済的効率化ではなく、誰がルールをつくるのか、という問題なんです。


【終幕:租税と社会契約】

Dさん
Graetzは最後に「租税は社会契約の表現である」と締めくくっていますね。これは、租税を単なる財政手段としてでなく、正義や民主主義の制度的基盤と見るという立場なんでしょうか。

A教授
ええ。国際課税を考えることは、「グローバルな正義」をどう制度化するかを考えることでもある。国家と企業、そして市民社会がどんなルールで富を分け合うか——それがこの本の主題です。

Bさん
なるほど。国際課税って、すごく“政治哲学的”なテーマなんですね。

A教授
そうなんです。数字よりも、「制度の背後にある理念」を読むことが、この本を理解する鍵といえるかもしれません。


【ゼミ討論のまとめ】

  • 「金の流れを追う」とは、制度の構造を解き明かすことを通じて資源配分の力学を分析すること。

  • 国際課税の構造(源泉地課税と居住地課税の二分法)は、もはや現実に適合しない。

  • 租税競争と協調は、単純な二項対立ではなく、国際制度の生成過程の両側面。

  • 租税は社会契約の表現だ。

2020/05/09

Ruth Mason, The Transformation of International Tax (forthcoming)

COVID-19拡大までの国際租税の動きについて,有益な見取り図を与えてくれる論文。著者はバージニア大学教授。

The Transformation of International Tax

American Journal of International Law, forthcoming July 2020

Ruth Mason

University of Virginia School of Law
【概要】この論文は,BEPSプロジェクトにより国際課税が変容したと論ずる。3章から成る。
  • 「Ⅰ 危機の時代の租税政策」では,各国が租税競争を余儀なくされる中で多国籍企業のアグレッシブな租税回避が横行したこと,2008年世界金融危機ののち20世紀型の増分主義的な改革が終焉してBEPSプロジェクトがはじまったこと,を示す。
  • 「Ⅱ 国際課税の変容」では,BEPSプロジェクトにより,国際課税における参加者,アジェンダ,規範,法形式が変容したと論ずる。規範の面では伝統的な二重課税の除去という規範に加え,筆者のいう「full taxation」という規範を各国が受容したとする。また,法形式の面では,ある国が課税しないなら別の国が課税するということで課税の真空を埋めるいわゆる「fiscal fail-safes」が設けられたとする。
  • 「Ⅲ 国際課税の将来」では,税収への影響,途上国を含めた包摂の度合い,説明責任,国際協定が固着して政策への制約になること,「full taxation」の概念としての不確定性,課税権の再配分について論ずる。この論文は,「full taxation」の概念が不確定であることを指摘し,そのために課税の真空を埋めても二重課税のリスクが高まると指摘する。そしていまや各国は,BEPSプロジェクトが避けてきた課税権の配分という課題に直面しているとする。これがBEPS2.0として経済のデジタル化をめぐって検討されていることであり,今後に影響する要素として,BRICs,米欧対立,租税単独主義,米国自体の変化があるとする。

  • 【コメント】国際課税の世界はこの十年で様変わりした。この論文は,何が変わったかを大きな構えで描く。国際課税の技術的な側面を知らない人にも理解しやすい。この間の動きを追いかけてきた専門家にとっても読みごたえがある。とくに,BEPSプロジェクトについていくつもの学説が冷淡な態度をとっている(脚注2の文献)のに対し,このプロジェクトが成し遂げたことをあたたかい眼で見つめている。他方で,Ⅲの部分の行論は,先行する批判を集大成している感があり,将来の見通しについては慎重である。その意味でもバランスがとれていると思う。

    2021/02/12

    Devereux et al., Taxing Profit in a Global Economy (2021)

    Michael P. Devereux et al., Taxing Profit in a Global Economy (2021) は、BEPSやデジタル課税に関する現下の政治論議から一歩退いて、事業利益の課税について原則と実際の根本問題を検討する骨太の書物である。RPAI(所得による残余利益の配分)とDBCFT(仕向地ベースキャッシュフロー税)を提案する部分は、既出である。しかし、こうしてまとまった一書になってみると、類書にない迫力を感じる。それは、本書が、《なぜ/どこで事業利益に課税するのか》という根本から順を追って説き起こしているからである。

    本文333頁、7章構成。第1章「導入」は、租税回避や租税競争といった問題を提示し、原則に基づいた包括的なアプローチによってこれらに接近することを宣言する。第2章「利益課税の主論点」は、経済効率性、公正さ、租税回避への耐性、執行の容易性、インセンティブ適合性(個別の国が国際合意から抜け駆けする誘因をもたないこと)という5つの判断基準を示す。第3章「現在の国際課税レジーム」は、この判断基準を現在の国際課税ルールにあてはめる。その診断結果は悲惨なものであり、既存システムは経済的に非効率で、租税回避に弱く、極端に複雑であるだけでなく、実効税率の引き下げ圧力によりその長期的存続可能性が脅かされていると断ずる。

    転じて第4章「抜本改革の選択肢」は、課税権分配基準の候補として、原産地国(origin country)、親会社居住地国または事業本部国、究極的な株主など事業所有者の居住地国、仕向地国の4つを挙げ、それぞれについて上述の判断基準に照らし評価する。とりわけ消費者の可動性が低いことから、最後の仕向地国(destination country)、すなわち第三者への売上がなされる地である市場国(market country)が有望であるという。そして、第5章「改革案検討における基本的選択」で具体化にあたっての論点を提示した上で、第6章「RPAI」および第7章「DBCFT」において改革案を展開する。

    前書きによると2013年12月から検討をはじめたという。まさにBEPSプロジェクト以降の国際課税の激動を眺めながら、時間をかけて練り上げられた書物ということになる。説明は丁寧であり、一流の経済学者と法律家が協働していることも魅力である。共著者の一人であるMichael Keen氏が東京で講演したとき、ぼくは、仕向地に着目する場合、VATがあるのにどうしてDBCFTが必要かを質問した(租税研究838号29頁)。本書の第2章はレントに対する事業レベルの課税が望ましいものである可能性を示すことで、この問いに応答してくれている。

    仕向地ベース課税の根拠として、価値創造など原産地ベースのロジックによるのではなく、仕向地ベースで課税することが5つの判断基準に照らして望ましいからとしている(168頁以下)。明快だ。Mirrlees Reviewではsourceと呼ばれ法的定義とのズレが気になった点も、originという呼称に統一されてすっきりした。日本では周知のように浅妻章如教授が顧客所在地で課税する議論を展開してきた。本書の議論の仕方は方法論的にさらに洗練されている。

    国際課税ルールをめぐる外交交渉から一歩退いた見取り図を得たい人におすすめ。世界中の授業やゼミで読まれていくだろう。これがぼくの第一読後感。もちろん建設的批判はこれからだ。



    2025/10/17

    G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2025.10)の議長総括のうち、国際課税に関する部分

     財務省のこのサイトに、第 4 回 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議議長総括(仮訳)(2025 年 10 月 15-16 日 於:米国・ワシントン D.C.) が出ていた。このうち、国際課税に関する部分は、6つのパラグラフから成る。引用者が段落番号と着色を施し、言及されている文書等へのリンクを張りつつ、直下に日本語仮訳を引用しておく。

    以下引用*********

    国際課税(International Taxation)

    ①メンバーは、全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡ある、かつ実用的な解決策を可能な限り早期に見出すという共有された目標をもって、「第2の柱」のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対処することへの建設的な関与を継続することにコミットした。解決策の実現は、実質ベースの税制上の優遇措置の公平な取扱いに関する議論を含む、公平な競争環境の観点から特定され得る重大なリスク、及び、税源浸食と利益移転のリスクへの対処へのコミットメントを含む必要があるとともに、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に関する建設的な対話を含む、国際課税システムを安定させるための更なる進展を促す。これらの取組みは、全ての国の課税主権を保持しつつ、OECD/G20「包摂的枠組み」(IF)のメンバー間の緊密な協力によって進められる。

    ②メンバーは、「国際租税協力に関する G20 リオデジャネイロ閣僚宣言」を想起しつつ、グローバルな移動について研究し、税制、格差、及び成長の相互作用を理解するために、段階的かつ証拠に基づいたアプローチを採用するという IF の決定を引き続き歓迎する。

    ③メンバーは、国際租税協力に関する国連枠組条約を策定するための進行中の交渉に留意するとともに、参加している G20 メンバーは、不要な努力の重複を避けるよう努めつつ、幅広いコンセンサスを得る、並びに、既存の成果、プロセス、及び他の国際機関において現在進行中の作業を基礎とするという目的を再確認した。

    ④メンバーは、国際機関からの5つの重要なレポート及びケープタウンで開催された国内資金動員に関する G20 税サイドイベントからの1つのレポートを歓迎した。IFによるレポート「BEPS イニシアティブの 10 年:G20 財務大臣・中央銀行総裁への包摂的枠組みによる実績評価に係るレポート」は、BEPS プロジェクトが達成しようとした、国際課税システムにおける、更なる一貫性、実質性、透明性及び安定性をもたらすことに対する進展と影響を評価する。また、協力することの有益性も示している。これまでの成果に基づいて途上国が十分に参加し恩恵を受けられるようにするためには、包摂的な参加及びニーズに応じた税に関する能力の向上を支援することが必要である。

    ⑤OECD 及びグローバル・フォーラムによるレポート「透明性と税務目的の情報交換に関する進捗の実績評価」は、G20 主導の国際租税協力が、税務当局の情報共有能力を強化し、結果として税収を増加させる、重要な進展をもたらすことができることを示す。OECD によるレポート「不動産に関する即時利用可能な情報の自動交換の枠組み:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」は、関心を持つ法域間における不動産に関する国際的な税の透明性を強化するための任意の共通アプローチを示す。南アフリカ財務大臣による、各法域にこのイニシアティブへの参加を求めるレターを受け、G20 議長国南アフリカは、これまでに示された法域による関心を歓迎するとともに、他の法域にも参加を奨励する。

    ⑥メンバーは、国内資金動員(DRM)が共通の重要課題であることに合意した。IMF による「歳入行政の強化を通じた国内資金動員の強化に関する G20 背景ノート」は、歳入管理を税制の重要な柱として強調する。「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」によるレポート「税に関する能力構築枠組みの強化に関する進展」は、能力構築提供者間における協調及び連携の重要性を示すとともに、各国主体で、各国が主導し、納税者との社会契約を果たす改革への構造的なアプローチの価値を認識する。地域機関が果たす重要な役割は、両レポートで強調されている。2025 年2月に開催され幅広い支持を得た DRM に関する税サイドイベントに基づくモデレーターのレポートは、DRM を最も効果的な資金源として優先付けること、現代的で強靭な歳入管理へ投資すること、そして国際協力を深化させることを奨励する。メンバーは、来年東京で開催予定の DRM に焦点を当てた PCT の「税と開発カンファレンス」、及び OECD によるレポート「税の安定性と成長を促進するための簡素化の強化:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」を受け取ることを期待する。

    2026/05/20

    G7財務大臣・中央銀行総裁共同声明のパラ13

    2026年5月18-19日に、パリで、G7財務大臣・中央銀行総裁合同会議。共同声明のパラ13が、国際課税について以下のように述べた(財務省のこのサイトの仮訳による)。

    以下引用************

    金融安定を維持する均衡の取れた強固で幅広い成長の支援

    国際課税

    13. 我々は、OECD/G20 包摂的枠組み(IF)におけるグローバル・ミニマム課税との共存に係るパッケージを歓迎し、確実性と安定性の確保、成長の促進、公平な競争条件の確保、課税主権の保持、及び税源浸食と利益移転(BEPS)からの課税ベースの保護という我々の共通のコミットメントを強化する観点から、その実施の重要性に留意する。この成功に立脚し、我々はデジタル経済への課税に関する建設的な対話に取り組んでいる。これらの原則を考慮に入れつつ、我々は、この対話が、デジタル経済が既存の国際課税システムにもたらす課題についての共通理解を醸成するとともに、そのような課題にどのように効果的に対処し得るかを検討することを期待する。我々は国際協力を重視し、IF が、これまでの作業から得られた教訓を活用しつつ、デジタル経済への課税に関する深度ある作業を進めることを奨励し、支持する。我々は、デジタル経済が既存の国際課税システムにもたらす課題について、IF メンバーがその有効かつ持続可能な解決策を評価できるよう、2026 年末までに、それらの課題への共通理解を特定する IF の作業の進捗に関し、OECDの報告を期待する。

    ***********引用終わり

    これを要するに、G7からIFに対して、

    • Globalミニマム課税のSide-by-Side packageを歓迎する
    • デジタル経済への課税の作業を支持し、2026年末までの報告を期待する
    というメッセージだ。

    なお、国内資金動員(DRM)に係るG7開発大臣・財務大臣共同宣言も出されており、そこでは、2026年3月2日と3日に東京で開催されたPCT Tax and Development Conferenceに言及している。

    2023/09/11

    New Delhiで、G20首脳宣言

    G20首脳宣言の日本語仮訳が外務省サイトに出ていた。国際課税はパラグラフ62。原文では改行なしに文章が続くが、ここでは見えやすいよう、勝手に分解して引用する。下線は今後の作業日程に関する言及であり、引用者が勝手に下線を付けた。サミットに先立ち、OECD事務総長からG20首脳への報告書が出ているので、それを参照して、これも引用者が勝手に、首脳宣言の言及する報告書などにリンクを張っておいた。

    • 我々は、21世紀のニーズに応じて、グローバルに公正で、持続可能かつ現代的な国際課税システムに向けた協力を継続していくことに対する我々のコミットメントを再確認する。
    • 我々は、2本の柱の国際課税パッケージの迅速な実施に対して引き続きコミットしている。多数国間条約(MLC)の条文の取りまとめ、利益B(国内の基礎的マーケティング及び流通活動に係る独立企業原則適用の簡素化及び合理化のための枠組み)に関する作業を含む第一の柱において、また、第二の柱における租税条約上の最低課税ルール(STTR)に関する作業の完了において、大幅な進展があった。我々は、包摂的枠組みに対して、2023年後半にMLCを署名できるよう準備するため、MLCに関するいくつかの懸案事項を速やかに解決することを求め、2023年末までに利益Bに係る作業を完了させることを求める。我々は、各国が共通アプローチとしてのグローバルな税源浸食対抗(GloBE)ルールの実施のために講じた措置を歓迎する。
    • 我々は、2本の柱の国際課税パッケージを効果的に実施するための能力構築に向けた協調した取組の必要性を認識するとともに、特に途上国に対する追加的な支援及び技術支援の計画を歓迎する。我々は、途上国及び国際課税に係るG20/OECDロードマップに関する2023年のアップデートに留意する。
    • 我々は、暗号資産等報告枠組(CARF)及びCRSの改訂の迅速な実施を求める。我々は、著しく多くのこれらの法域が2027年までにCARFによる情報交換を開始するという強い願望を踏まえ、税の透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラム(「グローバル・フォーラム」)に対して、関連する法域による情報交換を開始する適切かつ調整されたタイムラインを明らかにし、その作業の進展について我々の将来の会合に報告することを要請する。我々は、不動産に関する国際課税の透明性の向上についてのOECD報告書及び租税条約に基づき交換された税務情報の税以外での目的での使用の促進に関するグローバル・フォーラムによる報告書に留意する。

    2022/04/02

    渡辺教授らしい冷静な分析

    日本機械輸出組合国際税務研究会の研究論文として、渡辺智之教授の「いわゆるBEPS 2.0をどう捉えるか?」が公表された。2022年2月のpublic consultation documentsまでをカバーしており、渡辺教授らしい冷静な分析。

    その大意は以下のとおり。

    • 10月合意は歴史的合意なのか。世界中のほとんどの国・地域が合意に至ったことは画期的で、国際課税ルールに関して方向性を示した実質的内容のある文書。ゆえに10月合意の成立を「歴史的」なものとして評価することは「大げさではない」(3頁)。
    • Pillar 1 のAmount Aは、「デジタルサービス税の蔓延を防ぐ観点からは大きな役割を果たし得る」(7頁)。他方で、Amount Aのレベニュー・ソーシングは、仕向地課税の導入というよりは、源泉地課税の拡張と捉えたほうが適切(13頁)。従来の国際課税ルールそのものの抜本的変更というよりは、一定の多国籍企業の超過利潤から生じる税収の一部を市場国に配分するための財源調整の仕組みとして、「従来の国際課税ルールの外側に付け加えられたもの」(14頁)。
    • Pillar 2 のGloBEルールは、まず、SBIE(Substance-based Income Exclusion)により、最低税率が導入されるのはあくまで超過利潤となり、「低課税国としては、有形資産と支払賃金の一定割合であるSBIE相当分については15%の下限を気にせずより低い税率を設定できる」(12頁、租税競争の存続)。次に、QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)を認めたことにより、低課税国としては「QDMTTを適用して超過利潤に15%の課税をしておけば、親会社所在国による上乗せ税の適用を免れることができる」(9頁、ここでDevereux et al. (2022)のモデルを紹介)。

    以上のように論じたうえで、渡辺教授は、令和4年度与党税制大綱がAmount Aについて「100年来続いてきた国際課税原則を見直し、市場国に新たな課税権を配分するもの」と評価していることは「疑問である」とする(17頁)。これに対し、GloBEルールについては、超過利潤に関する国家間の税率引き下げ競争を直接抑制するという意味でこれまでにない強力な仕組みを導入したという意味でAmount Aの導入よりも「さらに大きな変革なのかもしれない」(18頁)と述べる。

    この論文は、ジュリスト2022年2月号の特集にも応接しており、注目される。GloBEが果たすであろう機能は、モデルルールの公表などによってだんだん見えてきているところ、その最前線をわかりやすく伝えてくれる。Amount Aの位置づけについては、現時点でのsoberな判断と読める。私自身は、今後の展開につながる可能性をもうすこし高く見積もる可能性もあるかもしれないと思う。まだまだ現実の法形成の動きが読めないところがあるので、議論の継続を期待したい。

    2026/06/04

    ミュンヘン会合の成果が公表されていた

    2025年12月、ミュンヘンで「Building Blocks of an International Tax Order」という研究会合が開かれた。二日間にわたって、12本の論文がプレゼンされ、それに対するコメントが展開された。ぼくは体調不良で行けなかったのだが、提出していた論文を公刊物に加えてもらった。それが、Bulletin for International Taxation Vol.80, Number 4/5, 2026の特集。

    特集の趣旨を一言でいえば、断片化した世界において、新しい税制選択がなされる際においても有効に機能しうる国際課税設計の個別要素を検討してみよう、ということだ。会合の招待状には、こう書いてあった。

    If a decade ago we wondered about how to further integrate tax international tax rules, today we wonder whether such cooperation can continue even on a bilateral level. In a spirit of some humility, therefore, this conference seeks not to suggest an alternative multilateral path forward. Rather, as we wait upon events, the intent is to explore discrete pieces of international tax architecture that might prove effective as new tax policy choices are made in a more fragmented world.

    この文章を引用して序文が特集の趣旨を説明している。それに続く本体は4部構成。以下、149-151頁のabstractをもとに、各論文を概観しておこう。

    Part 1: General Principles of International Taxation

    Nadine Riedel, “National versus International Welfare”

    法人税政策は、根本的に国際的な環境の中で作用しており、各国政府がほとんど内部化しないクロスボーダー外部性を生み出す。本稿は、国際法人課税の経済学的基礎を概観し、近年のOECD/G20改革を評価したうえで、実証的不確実性と地政学的制約の下では、広範な構造的再設計を追求するよりも、既存制度を統合・強化することを主張する。

    Shafik Hebous and Alexander Klemm, “Can Siri and Alexa Pay Taxes?”

    AIが経済を変容させるにつれて、AIに課税すべきだという主張が勢いを増している。しかし、AIそれ自体を標的とする課税は非効率をもたらすおそれがあり、その負担は最終的には人々に帰着する。本稿は、AI固有の税は適切ではないと論じ、むしろ、イノベーションを阻害することなく、デジタル時代のレントを捕捉し、国境を越える課題に対応し、衡平を保護する税制を重視する。

    Mathias Risse and Marco Meyer, “International Tax Justice: The Independence Fallacy and the Myth of Freely Disposable National Income”

    各国はしばしば、国民所得を自由に処分できるものとして扱う。著者らはこの前提を “Independence Fallacy” と呼ぶ。相互に結びついた経済においては、所得は、国境を越えて財産制度が承認されることに依存しており、そこからグローバルな分配的正義の義務が生じる。これらの義務は、財政主権を制約し、国際租税協調を支持する。

    Johanna Hey, “The Single Tax Principle”

    Single tax principle(STP)は、国際租税法において最も議論の多い考え方の一つであり続けている。本稿は、その内容、確立した諸原則との関係、および実務上の含意を検討し、STPから導かれる解決策、とりわけグローバル・ミニマム課税が、分断化した国際租税環境の中で存続可能であり続けるかを、EUの経験からの示唆も踏まえて探究する。

    Daniel Shaviro, “Once for Good Measure? Comment on Johanna Hey’s ‘The Single Tax Principle’”

    本コメントは、Johanna HeyによるSTP批判に応答する。

    Philip Baker, “The Missing Building Block: The Promotion of Human Rights and Taxpayers’ Rights”

    本稿は、人権および納税者権利の尊重と促進が、正統性ある国際租税秩序にとって不可欠な構成要素であると主張する。本稿は、この二つの権利枠組みを区別し、それらの法的および実際上の重要性を説明し、国際課税設計の中にこれらを組み込むことが、tax morale、適法性および制度的安定性を維持するうえで重要であることを示す。

    Part 2: Taxation of Business Income

    Yoshihiro Masui, “The Role of Residence-Based Taxation in Business Income Taxation”

    本稿は、事業所得課税における居住地ベース課税の役割を評価する。その重要性は、法人居住地の多義性、居住地の選択可能性の増大、および個人株主所得を正確に課税することの困難性により、低下していると論じる。本稿は、居住地ベース課税の役割が縮小した将来について、三つのシナリオを示す。

    Afton Titus, “Digital Services in Africa: Rebalancing Business Income Taxation through Inter-Nation Equity”

    本稿は、アフリカにおけるOECDのPillar Oneと国内デジタルサービス税(DST)を比較し、公平性、中立性、簡素性および執行可能性の観点から評価する。アフリカのDSTは、国家間衡平その他の政策原則に照らして良好に機能する一方、Pillar Oneの評価は低い。本稿は、開発途上国の生存にかかわる財政不足が解消されるまでは、先進国はDSTを制約することを避けるべきであると結論づける。

    Part 3: Other Sources of Public Revenue 

    Wolfgang Schön, “Tariffs and the International Tax Order”

    関税は、2025年に、現米国政権が多様な目的のために広範な関税を用いたことにより、国際課税の世界において顕著な特徴となった。本稿の主眼は、関税の役割を、間接税と直接税という二つの異なる文脈において定義することにある。消費課税の観点から見ると、関税は輸入品に対する差別的な税であり、無差別という概念そのものとその帰結に根本的な挑戦を突きつける。所得課税の観点から見ると、関税は、国境を越える物品販売から生じる利益に対する源泉徴収税の代替物として概念化できる。この出発点から、原産地国および仕向地国の政策選択肢が説明される。

    Yan Xu, “VAT and Indirect Taxes: Rethinking International Taxation”

    本稿は、VAT、デジタル取引税および気候関連賦課金を検討し、断片化したルールの下でデジタル化と脱炭素化により形づくられる経済における、それらの相互作用を明らかにする。本稿は、これらの間接税を国際租税論議の中心へもってくるべきであり、UN主導でOECDの知見を取り入れた多国間枠組みの中で、別個の縦割り領域として扱うのではなく、体系的に調整すべきであると論じる。

    Andrés Báez Moreno, “Can Failed Taxes Be Revived through Modest Innovation? On the New Proposals for Net Wealth Taxes”

    本稿は、純資産税に関する近時の提案が、伝統的な富裕税についてよく知られた失敗を真に克服しているのかを批判的に検討する。経済状況および透明性をめぐる条件の変化を認めつつも、「今回は違う」という楽観的主張に疑問を呈し、多くの制度設計上および執行上の問題は構造的なものであり、新たな実務上および法的な課題を生じさせうると論じる。

    Part 4: Modes of Cooperation

    Georg Kofler, “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”

    “Building Blocks of an International Tax Order” という会議テーマの文脈において、本稿は、直接税における国際的な無差別基準の弱点と、なお残る存続可能性を検討する。租税条約、通商法および投資法を素材として、主として欧州の観点から、体系的な概観と現代的論点の選択的検討を通じて、保護の浸食を跡づける。

    Robert J. Danon, “The Rise of Tax Treaty Supremacy: The Case of Non-Discrimination”

    本コメントは、Georg Kofler教授の “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”に応答する。

    Stef van Weeghel, “The Role of Tax Treaties”

    主としてOECDモデルおよびUNモデルによって形づくられてきた二国間および多国間租税条約の拡大は、国際的な制度調整、貿易および投資を促進してきた。しかし、特に開発途上国にとっての公平性をめぐる懸念は残っている。本稿は、租税条約の影響、その批判、および、衡平性と効率性を改善するための、脱政治化され柔軟なモデル条約の可能性を検討する。

    Will Morris, “The ‘Modest’ Tax Treaty: A Comment on Stef van Weeghel’s ‘The Role of Tax Treaties’”

    本コメントは、租税条約を壮大な制度ではなく契約として位置づけ、その設計における控えめさと現実主義を強調する。

    Philip Baker, “Building Blocks of an International Tax Order: Perspectives for Multilateral Cooperation”

    本稿は、OECD、UNおよび地域的イニシアティブにおける展開を概観し、改革を主導する見通しを評価する。

    2024/10/12

    諸富・宮本・篠田編著『デジタル時代の税制改革』

    諸富・宮本・篠田編著『デジタル時代の税制改革』は、「100年ぶりの国際課税改革の分析」という副題のとおり、2つの柱を中心として近年の改革の意義と限界を論ずる論文集。

    財政学者と租税法学者の共同研究の成果。序章と第8章が全体像、第1章から第3章が2つの柱に関する検討、第4章と第5章が米国との関係、第6章がEUとの関係、第7章がGloBE情報申告書。一読して、次の点がとくに印象に残る。

    • Pillar One多国間条約が発効しなくても新ルールが今後つねに参照されることになるという認識
    • GloBEが課税ベースに会計の数値を利用するものであるため会計基準ショッピングや会計基準間の競争が生ずること
    • 2017年米国GILTI創設が国際交渉におけるフォーカルポイントを作り出して合意を成立しやすくしたこと
    • ドイツのGloBE受容がCFC税制の相当の改変を伴っていること
    • GloBE情報申告書をCbCRとの比較でみていくという視点
    • 途上国の視点
    さらに時間をかけて読んでみたい。この論文この紹介とも密接に関連する。

    以下に目次をコピペしておこう。

    序 章 新しい国際課税ルールの内容,その意義,直面する課題,そして税収効果(諸富 徹)

    第1章 経済のデジタル化と「市場国」への課税権配分を巡る論理の変遷(篠田 剛)

    第2章 利益Aに係るデジタル課税の意義と課題──移転価格税制の経験を踏まえて(江波戸順史)

    第3章 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルール(IIR)──税法と会計の関係(中嶋美樹子)

    第4章 TCJA2017におけるアメリカ法人税の国際課税方式の変更に関する議論とその影響(吉弘憲介)

    第5章 グローバルタックスガバナンスへのアメリカのパワーの影響──「BEPS2.0」第2の柱を素材として(松田有加)

    第6章 EUにおけるGloBEルールの受容──ドイツでの国内法制化を中心に(辻 美枝)

    第7章 BEPS2.0第2の柱におけるGloBE情報申告書の意義と手続保障(金山知明)

    第8章 経済のデジタル化に伴う国際課税の動向と課題(宮本十至子)



    2025/08/16

    「グローバル・ミニマム課税の法制化について」を読む

    1.法制上の整理の到達点

    財務省が発行する月刊の政策広報誌「ファイナンス」2025年7月号に、大隅怜・水野雅・高倉俊明・松田泰尚「グローバル・ミニマム課税の法制化について」が公表されていた(pdf版はこれ)。この論説は、(1)日本でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯に触れた上で、(2)関連する国内法令の内容を概説し、(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解を述べるものだ。著者らは主税局参事官室参事官補佐(当時の肩書)であるが、「制度の解釈や評価に係る部分については、筆者らの個人的意見に基づくものであり、所属する組織や部局の公式な見解ではないことに留意されたい」との注意書きが付されている。

    日本法でIIRを創設したのが令和5年度改正。令和6年度改正ではUTPRとQDMTTの導入が持ち越され、令和7年度改正で創設された。上記の論説(以下「本論説」という。)は、(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点について、まとまった見解を述べている点が注目される。法制上の整理の到達点を示しており、じっくり読むに値する。

    2.問題の所在

    本論説は、問題の所在を次のようにまとめる(57頁右下)。

    ある構成会社等の所得に係る課税が不十分であること(構成会社等の所在地国に係る実効税率が最低税率に満たないこと)を理由に、なぜ別人格である他の構成会社等に対して課税を行うことが許容されるのか

    3.帰責性という観点 

    本論説は、以下に引用するように、(あ)企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があるとしたうえで、(い)グループ全体で負担すべき納税義務の帰属先は現実には個々の法人格を持った構成会社等とせざるを得ないとし、(う)その構成会社等について課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるかという観点が重要であるとする(58頁左)。以下の引用にあたり、(あ)(い)(う)の見出しと下線は、増井による。

    (あ)この点を検討する前提として、グローバル・ミニマム課税の政策的な必要性については、一般に肯定できるものと考えられる。すなわち、経済のグローバル化やデジタル化の進展により、国境を越えた企業グループ内での軽課税国への利益移転は極めて容易になっており、こうした企業活動について従来の国際課税ルールの枠組みのみで対応することには限界がある。この点に、個々の企業の取引に着目するのではなく、企業グループを一体的な経済活動主体と捉えてグローバル・ミニマム課税の対象とすることには政策的な必要性があり、冒頭で述べた2021年10月のIFでの国際合意は、各国のこうした現状認識が前提にあるものと理解できる。

    (い)このようにグローバル・ミニマム課税が企業グループのグループとしての活動に着目した仕組みであることを突き詰めていけば、究極的には、その納税義務もグループ全体で負担することが望ましいとも考えられるが、現実の執行に当たっての納税義務の帰属先は、法的に責任財産の属する個々の法人格を持った構成会社等を基礎とせざるを得ない

    (う)こうした前提の下で、なぜ実際に軽課税国に所在する構成会社等(より端的には実効税率が基準税率を下回ることによりグローバル・ミニマム課税による課税の原因を作り出した構成会社等)ではなく、他の構成会社等が課税を受けることが許容されるのかを検討するに当たっては、その構成会社等について、課税を基礎付けるだけの帰責性が認められるのかという観点が重要と考えられる。

    上記引用からわかるように、問題に対する鍵として本論説が提示するのが、帰責性という観点である。 

    4.UTPRへのあてはめ

    この観点を踏まえ、本論説は、IIR, UTPR, QDMTTのそれぞれについて帰責性を肯定する(58-59頁)。とりわけ重要なのが、UTPRについて次のように論じる箇所である(59頁右)。以下の引用にあたり、再び下線は増井による。

    UTPRにおいて納税義務者となる構成会社等は、必ずしもグループ内の親会社等に限られないから、IIRのようにグループ内で支配的な地位にあることをもって、UTPR課税に係る帰責性を直接に基礎付けることは難しい。とはいえ、IIRのみではインバージョンを通じて容易に課税の潜脱を許すこととなりかねず[注32を省略]、グローバル・ミニマム課税の目的を達する上では、IIRとは異なる仕組みによって、資本関係の下流側からも課税を確保する仕組み自体は必要というほかない。また、グループが全体として稼得した所得についてその一部が軽課税国に移転されている場合においては、本来はその稼得された国・地域で応分の課税が行われるべきである一方、現に軽課税国の構成会社等において認識されている所得について、その移転が行われた所得がもともと稼得された国・地域を特定することは、現実的には困難が伴う

     こうした点を踏まえて、UTPRにおいては、各国の構成会社等が、その有する従業員等の数・有形資産の額に応じてIIR課税後の税額を比例的に負担する仕組みを採用しているものと理解できる。これらは、各構成会社等の人的・物的資本であって、その構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そうすると、UTPR課税を受ける構成会社等は、グループ内の親会社等の支配の下、グループの一部として事業上の利益を生み出す基盤を有し、その結果、そのグループが進出先の国・地域において軽課税の状態を生じているといえ、この点に、UTPR課税を基礎付ける帰責性を認めることができると考えられる。

    これを要するに、IIRのバック・ストップとしてUTPRは必要であるし、所得の移転元の特定は現実的には困難である。だから、人的・物的資本をもとに比例的に負担する仕組みにした。これらの人的・物的資産は構成会社等がグループの一員として生み出す事業上の利益の基盤と評価できる。そのような基盤を有している結果、グループが進出先で軽課税状態になっている。ここに帰責性を認めることができる、というのである。

    このロジックをもうすこし簡略化すると・・・

    • 定式分配の要素(従業員の数・有形資産の額)が事業上の利益の基盤である。
    • そのような基盤を有している「その結果」として進出先での軽課税状態を生じさせた。
    • そこに帰責性がある。
    という論旨と読むことができる。グループ全体の義務を個別会社の義務に割り振っていく過程を、このロジックによって説明している。

    5.少数株主の負担

    本論説は、以上に続けて、構成会社等の少数株主の負担について、許容すべき投資リスクの範疇の問題であるとする(58-59頁)。そのまま引用しておこう。

    このように考えるとしても、納税義務者となる構成会社等にグループ外の株主等(少数株主等)がいる場合には、当該少数株主等にとって予期しない形で投資先である構成会社等にUTPR課税が生じる可能性がある。

    もっとも、これらの少数株主等にとっても、支配株主等を始めとした他の株主等が存在すること自体は関知し得るのであって、また、投資先がUTPRを始めとした各種の税制の適用を受けることについても、同様に知り得るところである。そうだとすれば、少数株主等に関して、その投資先がUTPRの適用による課税を受ける可能性があることを一般的な投資リスクと切り離して論じる意義は乏しく、許容すべき投資リスクの範疇の問題と考えられる。また、少数株主等にとっては、従前から投資していた会社等が、UTPR施行後、買収等により新たにUTPR課税の対象となるグループに属することとなる場合も考えられるものの、こうした場合であっても、グループに属することとなって以降、具体的なUTPRに係る納税義務が成立するまでの間において、持分の譲渡等を通じた投下資本の回収自体は一般に可能であることを踏まえれば、少数株主等に許容し得ないほどの負担を強いるものではないと考えられる。

    6.おわりに

    以上、本論説における(3)既存の法人税体系との関係で生じ得る法的な論点についての見解に注目して、該当箇所を読んでみた。

    ここでは触れないが、本論説は、これ以外についても、(1)日本でグローバル・ミニマム課税を法制化するに至った国際的な議論の経緯がわかりやすいし、(2)関連する国内法令の内容を概説する箇所がIIR/UTPR/QDMTTの全体像を要領よく示している。改正税法のすべて令和7年版の解説とともに、しっかり読んでおきたい。なお、IIR創設時の令和5年版の解説と、その改正に係る令和6年版の解説も参照。

    2026/01/29

    ChatGPT、租税法の研究動向を語る

     窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

    Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

    すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++

    以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


    1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

    (1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

    • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

    • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
      → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

    (2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

    • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

    (3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

    • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
      → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


    2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

    • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

    • 研究の焦点は、

      1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

      2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

      3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
        へ広がっています。
        → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


    3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

    • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

    • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


    4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

    (1) 実証(Empirics)の標準化

    • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

    • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

    (2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

    • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

    (3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

    • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

      • アルゴリズムの透明性・説明可能性

      • 差別・偏り(バイアス)と救済

      • 自動化された不利益処分の適正手続
        へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


    5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

    • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

    • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


    研究動向を一言でまとめると

    1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

    2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

    3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


    (続く)

    2024/07/06

    CFC税制とIIRの併存、立法趣旨

    税制調査会「わが国税制の現状と課題 -令和時代の構造変化と税制のあり方ー」(令和5年6月30日)の国際課税に関する章の末尾には、注目すべき段落がある。授業のために答申を再読していて、重要な基本線を明らかにしていることに改めて気づいた。立法趣旨を検討する上で、有力な資料として利用できる。

    1.この段落は、少なくとも次の5点を、はっきりと述べている。

    • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後も、引き続き、全世界所得課税を原則としていること→以下引用の②
    • 外国子会社配当益金不算入制度の下で、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制による対応が必要であること→以下引用の④
    • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後、CFC税制は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったこと→以下引用の⑤
    • CFC税制とIIRの併存→以下引用の⑦
    • IIRが親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであること→以下引用の⑧

    2.以上の読み取りを裏付けるため、以下に、この段落を引用する。答申の通し頁だと、236頁から237頁にかけて。引用にあたって、各文に冒頭番号を追加し、ポイントとなる箇所を青字や赤字に修正した。

    ①また、先述のとおり、平成 21 年度税制改正において、外国子会社の所得に係る二重課税を排除する方式として、従来の間接外国税額控除方式に代えて外国子会社配当益金不算入制度が導入されています。②他方、我が国の制度は、居住者・内国法人について国外所得を免除し国内源泉所得のみに課税する国外所得免除方式に移行したのではなく、引き続き、全世界所得課税を原則としています。③国外所得免除方式をとる場合、国外所得に対しては、源泉地国において課税関係が終了することとなるため、源泉地が軽課税国である場合は、二重非課税が生じるリスクが高いという問題があります。④同様に、外国子会社配当益金不算入制度は、子会社所在地国における課税のみで基本的に課税関係が終了することとなるため、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制等による対応が必要です。⑤CFC税制については、かつて間接外国税額控除方式をとっていた時期においては、配当時まで課税が繰り延べられることを租税回避と捉えて、それに対応するという意義を有しているという理解も可能でしたが、外国子会社配当益金不算入制度の導入後は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったと評価できます。⑥平成 29 年度税制改正においては、BEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、CFC税制の見直しが行われました。⑦CFC税制に加え、「第2の柱」(特にIIR)が導入されると、租税回避か否かにかかわらず、外国子会社の所在地国における課税が極端に軽課税である場合には、親会社居住地国で最低税率15%に至るまでトップアップ課税がなされることとなります。⑧こうした動きは、子会社所在地国のみで課税を終了させるのではなく、親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであると評価できます。

    3.上記引用部分の⑦の前提として、これに先立つ答申232頁で、CFC税制とIIRは目的が違うから併存すると整理している。これも引用しておこう。ちなみに、ここにいう「外国子会社合算税制」は「CFC税制」と同義である(答申225頁参照)。

    なお、既存の外国子会社合算税制は、経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とするのに対して、「第2の柱」は、各国共通の最低税率の導入により法人税引下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものであり、両者は目的を異にする別個の仕組みです。国際的なルールにおいても、CFC税制は「第2の柱」と併存するものと整理されており、対象となる企業の事務負担には一定の配慮を行いつつ、引き続きそれぞれの制度の目的を果たすことが重要です。

    2015/12/11

    一橋法学14巻2号が,ウェブ上にアップされていた

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    Issue DateAuthorsTitleOtherTitleSeries
    10-Jul-2015高橋, 滋献辞Dedication-
    10-Jul-2015佐藤, 弥恵一般国際法から見るWTO 法上の義務の性質The Legal Nature of WTO Obligations from the Perspective of General International Law-
    10-Jul-2015宮崎, 綾望租税行政の国際的動向 : 協力的コンプライアンス(Co-operative Compliance)の意義と課題Co-operative Compliance under Japanese Tax Law-
    10-Jul-2015小野, 秀誠オーストリア一般民法典(1811年、ABGB)の200年 : 啓蒙と官房学の結合Rechtspraktiker und die Entstehung des österreichischen BGB(ABGB)-
    10-Jul-2015阿部, 雪子土地信託方式における空中権取引の課税Taxation of Transactions of Air Rights under the Land Trust System-
    10-Jul-2015山田, 洋洪水防御と土地利用計画 : ドイツの「浸水地域」制度をめぐってHochwasserschutz und Raumplanung : Über die Überschwemmungsgebiete in Deutschland-
    10-Jul-2015河野, 真貴子アメリカ化学物質管理法制度におけるリスク評価のコントロール(2)Control of Risk Assessment in the U.S. Chemicals Management System(2)-
    10-Jul-2015濱田, 洋必要経費における「関連性」Relevance of Necessary Expenses in the Income Tax Act 37(1)-
    10-Jul-2015藤木, 貴史アメリカの集団的労使関係法における熟議民主主義 : 被用者自由選択法案を題材としてDeliberative Democracy in American Labor Law : An Analysis of the Debate on the Bill of the Employee Free Choice Act-
    10-Jul-2015加藤, 友佳同性婚と相続税・遺産税 : Burden 判決・Windsor 判決を中心としてSame-Sex Marriage and Inheritance・Estate Taxes : the Burden and Windsor Cases-
    10-Jul-2015赤松, 晃帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 : 半世紀ぶりに改正された外国法人課税を中心にしてThe Significance and Functions of the 2014 Tax Reform in Line with the Authorized OECD Approach( AOA), Focusing on the Taxation of "Permanent Establishments"-

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    Issue DateAuthorsTitleOtherTitleSeries
    10-Jul-2015赤松, 晃帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 : 半世紀ぶりに改正された外国法人課税を中心にしてThe Significance and Functions of the 2014 Tax Reform in Line with the Authorized OECD Approach( AOA), Focusing on the Taxation of "Permanent Establishments"-
    10-Jul-2015-水野忠恒名誉教授 略歴Short Biography of Emeritus Professor Tadatsune MIZUNO-
    10-Jul-2015大林, 一広; 飯田, 連太郎; ジョナサン, ルイス政治的暴力と語り : 内戦、議会、自動内容分析Political Violence and Talk: Civil War, Parliament, and Automated Content Analysis-
    10-Jul-2015リュック, ホイシュリング君主の投票権を通してみた君主政 : 歴史的比較法的分析La monarchie au prisme du droit de vote du monarque : Une analyse historique et comparée-
    10-Jul-2015棟久, 敬信教の自由の保護範囲と国家の宗教的・世界観的中立性(2)Der Schutzbereich der Religionsfreiheit und die religiöse-weltanschauliche Neutralität des Staates(2)-
    10-Jul-2015芳賀, 真一国際取引に対する消費課税の方法が厚生に与える影響についての仮想の市場を用いた模擬実験 : 仕向地原則と原産地原則、そして半額課税を比較する Simulation of International Consumption Taxation : Destination or Origin Principle?-
    10-Jul-2015水野, 惠子「受益者等課税信託」と「受益者等が存しない信託」との関係における検討Taxation on Beneficiaries of Personal Trusts and Trusts without Beneficiaries-
    10-Jul-2015高橋, 滋原子力関連施設をめぐる紛争と行政訴訟の役割 : 補論Judicial Review of Administrative Decisions Regarding Safety Regulations for Nuclear Power Plants in Japan Following the Fukushima Nuclear Disaster-
    10-Jul-2015-水野忠恒名誉教授 著作目録List of Works by Emeritus Professor Tadatsune MIZUNO-
    10-Jul-2015小泉, めぐみ課税繰延とキャピタルゲイン課税 : Law and Finance の視点に基づく分析Tax Deferral and Capital Gains Tax : Analysis Based on Law and Finance-
    10-Jul-2015李, 鈞清末民国期におけるローマ法研究Studies of Roman Law in China : From the Late Years of the Qing Dynasty to the Period of the Republic of China-
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    2022/10/18

    自由と正義、国際税務特集

    自由と正義73巻10号に、「国際課税の変化と紛争処理のあり方」という小論を掲載していただいた。BEPSプロジェクトを契機に実質主義的なルールが増え、不確実性が増す中、国際課税の紛争処理がますます重要になってくる。そこで、①相互協議手続の改善、②仲裁制度の拡大、③消費税法の国際的側面に関する紛争処理手続の構築、といった課題があることを示し、日本の法律家の積極的な関与を訴えた。いずれの課題についても、現実に具体的な一歩を進めるには大変な継続的努力を必要とする。小論を書くことで何かが変わるようなたやすい課題ではないが、関係者のご教示を得てさらに検討を続けたい。

    特集全体の目次をコピペしておこう。

    特集 国際税務の現況と課題

    • 8国際課税の変化と紛争処理のあり方【増井 良啓】
    • 14国際課税ルールの形成過程におけるタックスロイヤーの役割【吉村浩一郎】
    • 20タックス・ヘイブン対策税制―法律家の活動の成果と今後の課題―【河野 良介】
    • 26国際相続と税務【酒井ひとみ】

    2022/10/01

    IFA日本支部セミナーで、岡直樹・GloBEルールと日本のCFC

    1.2022年9月開催IFA日本支部Webセミナーを視聴した。
    *日時:2022年9月30日(金)15時00分~16時30分
    *場所:Zoom
    *内容:GloBEルールと日本のCFC
    *講師:岡直樹会員(東京財団政策研究所)
    コメント:浅妻章如会員(立教大学教授)、山川博樹会員(デロイトトーマツ税理士法人パートナー)

    2.岡会員のメッセージは明確で
    (あ)15%グローバルミニマム税により全世界どこでも超過利益に対し最低15%の課税となりクロスボーダーで租税回避しにくい状態になる
    →したがって、
    (い)日本のCFC税制を見直して経済活動基準は廃止して差支えない
    というもの。
    この主張の背景には、多国籍展開する日本企業の事務負担がきわめて大きい、という抜き差しならぬ事情がある。すでに経産省「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方に関する研究会」の9月1日報告書は、複数の声を併記していた。

    3.これに対し、今回のセミナーは岡会員個人の単一の声で語られたし、より広く国際課税に関する「新しい展望」が語られた(後述の5)。さらに、岡会員の報告に対するコメントとして、浅妻会員が移転価格との役割分担や未実現所得課税の米欧比較を問い、山川会員がCFC税制の改革の方向(9月1日報告書の13頁以下も参照)やUTPRの合理性を論じた。総じて、GloBEルールの何たるかを皆で共有するためにおおいに有益であったと思う。近い将来に「租税研究」誌上で引用可能になることが待たれる。

    4.上記2(あ)の前提については、今後、Pillar 2を実施していく段階で、全世界どこでも最低税率15%という状態への移行がどこまで進むか。逆に言えば、現実にはどの程度の「漏れ」が出てくるか。このことを注視していきたい。substance based carveoutで抜ける部分は当然あるし、軽課税国がQDMTTで「対応したふり」をする(一般法人税率は依然として15%を下回っていてもかまわない)ことなど、いろんな展開がありうる。また、議論の大前提として、日本が法人税率30%を維持する場合、その半分の水準で割り切ってよいか、という点はあらためて要確認。

    5.岡会員は結びのところで、「IIR、UTPRは、国境を越えた課税のありかたに新しい展望をもたらしたと言えそうだ」と述べた。この感触をきけたのが、ぼくにとっては一番大きな収穫。もはや、個別法人単位の規律をとびこえていることはもちろん、自国にnexusがあるから課税するというわけでもなく、そもそも自国の税収確保のための課税でもない。軽課税国に最低税率15%をやらせるための手段として税を使っているだけ。だから既存の国際課税のロジックはとびこえている。一般国際法が許容する範囲でなんでもあり(経済制裁でも安保理決議でもOK)という世界ではないか。

    2023/03/02

    24-25 February 2023, G20 Finance Ministers meeting in India

    財務省のこのサイトに、

    *G20 議長総括及び成果文書(仮訳)第 1 回 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(2023 年 2 月 24-25 日 於:インド・ベンガルール)

    が出ていた。やや遅くなったが、国際課税に関するパラ14を引用しておく(改行、テクスト色、ボールド体、リンクは引用者による)。

    以下引用*******

     14. 我々は、21 世紀の目的にかなった、グローバルで公正、持続可能かつ現代的な国際課税システムのための協力を継続していく。我々は、OECD/G20 の 2 本の柱の国際課税パッケージの迅速な実施に対して引き続きコミットしている。

    我々は、OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」(「包摂的枠組み」)に対して、2023 年前半に多国間条約を署名できるよう、残された課題を含む第一の柱を最終化するよう求める。我々は、共通アプローチとしての GloBE ルールの実施を促進する GloBE 実施枠組みの公表を歓迎する。我々は、各国が GloBE ルールの実施のために講じた措置を歓迎し、包摂的枠組みに対し、多国間協定の策定を通じたものを含めた、第 2 の柱の租税条約上の最低課税ルール(STTR)の実施を可能とするための STTR の交渉を最終化することを求める。我々は、2 本の柱の国際課税パッケージを効果的に実施するための能力構築に向けた協調した取組の必要性を認識する。我々は、2022 年の「途上国と国際租税に係る G20/OECD ロードマップ」に関するアップデートの報告を受けることに期待する。

    我々は、税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム(「グローバル・フォーラム」)に対し、「共通報告基準(CRS)」に基づく自動的情報交換(AEOI)の枠組みの導入を途上国に奨励する取組を含む、グローバル・フォーラムの「途上国の自動的情報交換の可能性を引き出すための 2021 年戦略」におけるロードマップの実施について、G20 にアップデートすることを求める。

    また、我々は、OECD に対して、暗号資産等報告枠組及び CRS の改訂に係る実施パッケージに関する作業を完了することを求める。

    2025/03/29

    金子宏先生追悼論文集

    日本税務研究センターの日税研論集86号「金子租税法学の回顧と継承―金子宏先生追悼論文集―」が公刊されていた。金子先生は1990年代前半に横浜国立大学で教鞭をとっていらっしゃり、すでに横浜法学32巻1号で追悼特集が組まれている。

    横浜国立大学時代の金子先生は、とりわけ国際課税の研究と交流に力を尽くされた。そこで、日税研論集の企画に際し、私はその時期のことを取り上げることとした。先生の法人税制調和論がその後の国際課税ルールの展開の中でどうなったか、30年強が経過した現時点の視点から顧みることができた。また、先生が頻繁に国際会議を催され、私のような若手に対しても参加の機会を与えてくださっていたことが、改めてよくわかった。税研239号の特集でも国際会議の思い出を記される先生方が多く、大変な求心力をもって活動されていたことがなつかしく感じられる。

    以下、日税研論集86号の目次をコピペする。

    まえがき

    金子宏先生の学問業績の概要 中里 実

    離婚時の財産分与をめぐる夫婦の課税関係 佐藤英明

    横浜国立大学時代の金子宏先生—国際課税を中心として 増井良啓

    財産評価に関する金子説とその展開 渋谷雅弘

    tax mix:一元的担税力と多元的担税力 浅妻章如

    行政機関による情報の取得をめぐる法的理解の変遷 「行政調査」概念を手がかりとして 渕 圭吾

    金子租税法学における信義則 藤谷武史

    権利確定主義はどこへ―─ 法人税法22 条の2創設は何を変えたのか? 吉村政穂

    国際人道税・国際連帯税の構想:地球規模課題と租税法学の空間的拡張 神山弘行

    累進的消費課税の執行とプライバシー――中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する議論の参照 長戸貴之

    景気安定化の手段としての租税制度の可能性とその限界 藤岡祐治

    「租税情報開示禁止原則」について 田中啓之



    2020/07/12

    Doumaさんの人気courseraはこんなシラバスだった

    Rethinking International Tax Lawのオンラインコースは2016年くらいから好意的なレビューがあるし,受講者数も多い(本日現在で37815人登録だった)。そこで,オンライン授業の環境になったのをきっかけに,そのシラバスがどうなっているかを眺めてみた(我流Faculty Developmentのつもり)。

    6週間の計画で,多国籍企業の国際的タックスプランニングを理解しようとする。そしてこの目標に至るために必要な知的道具立てを,いくつかの柱をたてて講じる。次の構成だ。
    • 国際的タックスプランニング―基本設例(base case)の提示
    • 法人税制のデザイン
    • 国際課税と租税条約の原則
    • 移転価格
    • EU法と国家補助
    • タックスプランニングと倫理的側面
    まず第1週ではbase caseとして,多国籍企業がどういうふうに国際的タックスプランニングをしているかを示す。受講者の関心をかきたてるためのいわゆる「つかみ」か。具体的には,2014年の欧州委員会による調査文書をもとに,Amazonがルクセンブルグに知的財産保有会社をおいて欧州各国に進出したときのしくみが紹介される。この例は,米国法とルクセンブルグ法のミスマッチとか,利子費用の控除によって課税所得が減少することとか,ルクセンブルグ課税当局がAmazonに与えたtax rulingとか,それがEU法上の国家補助金の禁止ルールとの関係で問題になることとか,初回にしてはずいぶんいろいろなことが入っている。そこで,これらをひとつひとつ解きほぐしていくだよ,と受講者を安心させて,第2週以下の構成につなげる。

    こうして到達目標をはじめに提示しているので,その後の数週間分の学習の方向性がくっきりと見えることになる。なので,法人税制のデザインとか,源泉地課税と居住地課税の調整とか,移転価格とか,EU法上の国家補助とか,それぞれの学習内容はいたってオーソドックスな教科書的内容であっても,受講者は「やっていこう」という動機が継続できるだろう。山頂への見晴らしがよい登山道を歩いていくようなものだ。第6週には,全体のまとめとして,いろいろなステークホールダー(国際機関・各国政府・多国籍企業・アドバイザー・NGOなど)のキー・パーソンにインタビューしている。多様な立場があることを受講者に実感してもらうことで,タックスプランニングの倫理的側面に注意を向けるというやり方。

    オンライン授業の工夫もいろいろ参考になる。
    • courseraらしくビデオを数分単位で細分化してある。
    • ビデオの途中で,「ここはつまづくかな」というポイントで,2択の簡単な質問が出てきて,受講者の知識習得を確認して次に進む,というつくり。
    • 毎週,van Raadさんへのインタビューがある。
    • 応用編のトラックがあって,「一歩先に」行きたい人がみることができる(たとえば移転価格の週には無形資産の応用編)。
    • ビデオを文字に書き起こしたファイルもある。
    • 必読文献と参考文献を区別してリンクをはってある。
    レビューにもあったが,BEPS実施やEU法のその後の動きを反映しておらず,すこし古くなっている感じはある。DoumaさんもLeidenからAmsterdamに移ったから,まったく同じ形でのアップデートが出るのかどうかはわからない。とはいえ,国際課税を速習するコース設計のひとつの到達点としていまでも参照できると思う。

    2022/01/29

    Two Pillars and System Stability

    1.BEPS包摂的枠組みの国際課税に関する合意について、昨年末にふたつの短いものを書いた。それらが年明けに公刊された。

    • 法律時報1月号の時評では、同誌の最近の論説による問題提起を参照して、Pillar Two、Pillar One、より大きな問題、に触れた。Pillar Oneを評する文脈で、「新しい課税権を支える明示的根拠の不在は、今回の合意がはたしてどの程度国際課税ルールに安定性をもたらすものであるかについて、疑念を抱かせる材料である。」と述べた。(なお、より大きな問題に触れた部分は、とくに最後の段落が舌足らずで、AIやロボットが人の労働にとって代わったり、データを囲い込む勝者とそれ以外との格差が増大したりすることなど、大学のゼミでいろいろな本を学生の皆さんと会読したことが前提になっている。ミラノビッチのCapitalism, Aloneとか、ハラリの21 Lessonsとかのお話などは、言及も引用もできておらず、論が飛躍している感じを与えてしまうと思う。展開するのは今後の課題。)
    • ジュリスト2月号特集の一部では、この分野について継続的に取り組んでこられた先生方の前座として、21世紀に入ってからの国際協調の動きを概観し、その中に今回の合意を位置づけた。そのむすびの部分でも、「今回の合意がどの程度の強度で、今後どのくらいの期間、安定的な状態をもたらすかについては、歴史の審判に委ねざるを得ない」と記した。
    2.ふたつの記事で安定性を問題にした理由。かねてより、OECDのプレスリリースなどで、この多国間合意が「国際課税システムに確実性と安定性を加えること」を目的としている、などといわれてきたことが念頭にあった

    ここで、安定性の意味が問題。一国主義的なデジタルサービス税が世界中で施行され、これに対して米国が報復措置を加えるなどの経済戦争的状況が念頭にあるのか。ならば、Pillar Oneの国際合意とともに各国がデジタルサービス税をドロップすれば、それはそれで安定的な状態になる。

    けれども、もうすこし深い意味で安定性をとらえたらどうか。1920年代の合意に代わる堅牢な安定的合意ができたのか。これはだいぶあやしい。むしろ、新たな基準作りに向けた議論のはじまりにすぎないのでは?

    3.Andrus and Collierのこの記事(「2つの柱以後の移転価格と独立企業原則」)は、独立企業原則について積み残しの問題がたくさんあることを縷々述べたあとで、最後のページ(555頁)で、
    sooner or later further changes to the income allocation rules will be necessary(遅かれ早かれ所得配分ルールのさらなる変更が必要になるだろう)

    と、さらっと書いてある。彼らによると、

    The key issue concerning the income allocation rules of the international tax system is the route to reestablishing stability in that system. Ultimately, we do not think any stability is going to be achieved in the absence of an engagement with the fundamental policy and technical questions we have set out and those that concern the viability of the arm’s-length principle. (国際税制の所得配分ルールに関する重要な問題は、税制の安定性を再び確立するための道筋である。究極的には、私たちが提示した問題および独立企業原則の存続可能性に関する根本的政策と技術的論点に取り組まない限り、安定性は達成されないと我々は考える。)

    とのこと。たしかに、彼らのいうとおり、これからはPillar Oneと独立企業原則が併存する世界になる。それだけでも不安定といえそう。