- 仕事への影響に関する記事は、機械に置き換わる仕事かどうかを決めるのはルーチン作業か否かによるのであり、肉体労働であるか否かによるわけではないという。つまりコンピュータも自前で、定型の頭脳労働ならできるようになるということ。それはそうだろう。囲碁でAIが人間に勝ったことからすると、ノン・ルーチンの仕事ですら果たしてどうなるか。
- 教育政策に関する特集記事は、個別知識の賞味期限が短くなっていく中で、常に学び続けていけるようにすることを強調。この文脈から、MOOCSのような公開システムが出てきたことの意味がわかってくる。Udacity, Coursera, edXはすべてAIのコミュニティーから出現したわけで、創立者は教育システムのオーバーホールが必要だと信じているという。なるほどね。ただし、最後のあたりでベーシックインカムに触れているところは、この雑誌の最近の主張のくりかえし。
J-TaxNotes は、租税法の展開をその時々に記録する研究ノートです。日本の租税判例、国際課税、税務行政・コンプライアンス、消費税・VAT、AI、租税史などを扱っています。2010年からの継続的定点観測。
2016/07/03
人工知能のインパクト
2022/01/06
Master of Writing
立教大学の大学教育開発・支援センターが、Master of Writing/Master of Presentation レポートの作成・プレゼンテーションの準備というページを公表していた。たまたま浅妻教授のtweetでこれを知り、ためしに見てみたら、とてもわかりやすかった。名古屋大学のacademic skills guideも素晴らしい。東北大学学習支援センターのも、大阪大学全学教育推進機構のも、充実している。これだけサポート情報が供給されているのは、学ぶ側の需要がそれだけ大きいからだろう。高校を出て大学1年生になったばかりの段階で、ぼくもこんなのに接していたらどれだけよかったか。
そんなことを思って、雪がちらつく中、東京大学附属図書館のLiteracyをちらちらみていたら、レポート・論文作成支援というページが見つかった。おそらく以前からあったのだろうが、これまで見たことがなかった。その目次をそのままコピペすると、下記のとおり。
目次
III.論文の発表について
「I.1.参考図書を読む」の参考図書リストには、ぼくのイチオシ本、戸田山先生の論文の教室があがっている。木下先生の理系の作文技術みたいに、なつかしい本もあがっている。さらに、経済史の小野塚先生がご自身のページにアップされているレポートの作成について、文章が熱い。法学界隈にも手を広げて、弥永先生の法律学習マニュアルとか、大村先生たちの民法研究ハンドブックとかも、リストアップしておいてほしかった。
ぼく自身も、論文執筆のお手伝いをしたり、ゼミでプレゼンの準備をしてもらったりするときに、稚拙な資料を当たり前のように自作してきた。自分の意見と他人の意見を明瞭に区別して書くことなど、何度も何度も話しているつもりなので、ゼミ生は耳にタコができているかと思いきや、「そんなの知りませんでした!」という感じの反応も多い。受動的に聴くだけでは身に付かないと言うことだろう。
ちょっと検索するだけで一般的にはこんなに情報が得やすい状況になっているのだから、ヒントを差し上げた上で、「自分で気に入ったのを見つけてごらん」と一旦ボールを投げてみて、メッセージが伝わったかどうか確認する、といったやり方に切り替えるべきかもしれない。工夫してみたい。
2026/01/29
(続き、これでおしまい)文献バイアスのチェック
【これまで】
3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?
【今回】
この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。
4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ
すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。
以下引用++++++++++++++++++++++++++++
以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)と方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。
1. いま法学が面白い理由(総論)
対象が「国家×市場×技術×地球」に拡張した
AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)
気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)
方法が「ドグマ」一辺倒から“混成(ハイブリッド)”へ
実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)
生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)
2. フロンティア①:AI・データ・アルゴリズム統治(Digital/AI Governance)
何が面白いか(争点)
規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)
“法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)
法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)
言語別「入口」文献(例)
日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)
英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)
仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)
独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)
西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)
中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)
3. フロンティア②:プラットフォーム規制・ダークパターン・情報環境
何が面白いか(争点)
表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。
研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)
日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)
4. フロンティア③:気候訴訟・将来世代・サステナビリティ(公法×私法の合流)
何が面白いか(争点)
訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)
グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)
会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)
5. フロンティア④:法秩序の分断と接続(地政学・経済安全保障・越境規制)
何が面白いか(争点)
データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。
“一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)
6. フロンティア⑤:研究手法としての「データ化された法学」
何が面白いか(争点)
判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。
ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)
7. 6言語で読むための、最小限の“棚”の作り方(実務的提案)
共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。
各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする:
日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)
仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)
独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)
西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)
中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)
英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)
【とりあえず、これでおしまい】
2025/01/09
2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想
2024年度ゼミ「人はなぜ納税するか」の感想
1.はじめに
今回のゼミは通年開講で、「人はなぜ納税するか」という問いを、文献会読の形式で追求した。まず、Sセメスターの歴史編・比較編では、日本法現状把握のための準備作業を経て、Keen & Slemrod (2021)の概説からはじめ、米独仏における特定時期の歴史や、途上国税制・米国反税運動・タックスギャップ推計・租税犯罪グローバル十原則を取り上げた。
これに続き、Aセメスターでは、現代的問題に関する文献を会読してきた。文献リストの作成にあたって意識したのは、狭義の法解釈学の論文に視野を限定するのではなく、法学との隣接領域にも可能な範囲で目配りすることだった。なぜなら、「人はなぜ納税するか」という問いに対しては、さまざまな学問分野からのアプローチが試みられているからだ。こうして、素材の面でも方法の面でもかなり広範な読書リストができた。このような文献に対して、法学部・法科大学院で学ぶ参加者のみなさんが「好き嫌い」せずに旺盛な「知的食欲」を示されたことを、うれしく思う。これが最大の感想。
以下、Aセメスターで会読した文献を、簡単に振り返ってみよう。
2.AI
AIについては2本を取り上げた。Chand, Kostić & Reis (2020)は、AI重課論を退けたうえで、人的資本蓄積のための教育目的税を提唱する論文で、構えが大きい。Daly (2024)は、税務行政におけるAI利用が法の支配に役立つ可能性を指摘する点が新鮮だった。AIに関しては論文が量産されており、継続的に追いかける必要があろう。
3.暗号資産
Baer, Mooij, Hebous & Keen (2023)は、暗号資産(仮想通貨)の課税に関する要領のよいレビュー。有益な指摘として、Bitcoin課税の根本に「有価証券と通貨の二元的性質」があることや、実態に関するデータが不十分であること、執行面の課題が大きいことがあった。このブログでも記事を書いた。なお今回は、Blockchain関係の文献は取り上げなかった。
4.米国のLaw Review論文
やや古いものとして、思考実験風の論文と、現実的な政策提言を行う論文を、選んだ。Raskolnikov (2009)は、納税者に選好を顕示させる仕組みを論ずる。抑止レジームと遵守レジームのいずれかを納税者に選ばせるという思考実験が興味深い。もっとも、フロアの議論では、納税者の権利を「切り下げる」面があることへの抵抗感もあった。また、変数をいじるに際して税務職員の動機を無視しているのではないか、という問題もある。
より現実的な論文が、Bankman, Nass & Slemrod (2016)のスマート申告の提案である。申告書文言の改善や、会話型エージェントの利用につき、パイロット研究を行うべきだと提案する。この論文から約10年が経過し、いまや各国税務行政のトレンドとなった感がある。日本型記入済申告書の先駆的指摘とみることもできるかもしれない。
5.レビュー論文
多数の文献をレビューする論文を、2本取り上げた。Hahn & Pérez (2020)は、租税専門家に関する合計46本の文献(2013年から2018年の間に公刊)をレビューする論文。納税者・課税当局・税務仲介者の三角関係を軸に、多様な学問領域のジャーナルを探索した点で資料的価値がある。次の課題としては、専門家責任や倫理に力点を置いて、より長い時間的スパンで、各文献への評価を率直に語る、といったものがありそう。
Hoopes, Robinson & Slemrod (2024)は、法人による租税情報の開示に関するまとまった文献レビュー。強制開示・自発的開示・第三者開示という分類軸に、非公開(=課税当局に対してのみ開示)・公開の区別を加える整理がわかりやすい。CbCRやFATCAなど実例の提示も包括的。日本でもタックスシェルターの義務的開示(MDR)が議論されている。何が機能し何が機能しないかに関するこれだけ多くの実証研究を前にすると、議論の更新が必要と感ずる。
6.脱税・腐敗
「人はなぜ納税するか」は、裏をかえせば、「人はなぜ納税しないか」ということでもある。そこで最後に、納税非協力に着目して、2本の論文を取り上げた。de la Feria (2020)は、付加価値税の逋脱(VAT fraud)を素材にして、EUにおいて、逋脱そのものを禁圧するのではなく、逋脱を管理するやり方に転換してきたことを批判する。やり玉にあがるのが、第三者に加重責任を負わせる犯罪コントロールの民間化(responsibilization)である。税収確保のために制度と執行を最適なレベルに調整する発想(たとえばHemelらのBETR)への対抗言説とも読める。
Ring & Grasso (2023)は、シンポジウムの巻頭論文である。その中心的主張は、賄賂よりも広く汚職・腐敗(corruption)を、脱税よりも広く税制濫用(tax abuse)を、問題にすべきだ、というもの。アイルランド政府がアップル社に与えたsweetheart tax dealを素材にするなど、米英EUにおける旬の話題が学べる。制度的腐敗(institutional corruption)に対する問題意識がよくわかるし、広い定義を採用することで隠れた問題を認識できる。もっとも、間口を広げる分だけ、効果的対処は一層困難になるのではないか。
7.文献選択のバイアスについて
Aセメスターで会読した文献は、やや、英米の素材に偏っていたかもしれない。バイアスを中和するために、班別討議やフロア全体討議では、つとめて、日本の状況との比較を話題にした。Sセメスターから参加した方々は、独仏の歴史や途上国の税務執行についても議論した。
昨年度のゼミでは、Levi(1988)やBraithwaite(2007)など、理論枠組みに関する文献も取り上げていたが、今回はそうしなかった。その結果、理論的コアの押し出しが弱く、多様な各論が並列している、という印象を与えたかもしれない。安易な「体系化」を阻む奥の深い領域だけに、信頼に関するScholtzの議論などをはじめとして、引き続き検討が必要。
8.おわりに
時間制約の中で、参加者はよくがんばった。もっとも、今回のゼミで会読したのは、各論題に関する多くの文献のうち氷山の一角である。取り上げなかった論題も多い。
継続は力なり。来年度は駒場の「社会科学ゼミナール」に場所を移して、基本的な文献会読を継続したい。
2020/11/30
首藤重幸教授古稀祝賀退職記念論集がアップされていた
ここと,ここから,ダウンロードできる。目次は,以下のとおり。
江泉芳信教授 加藤哲夫教授 首藤重幸教授 古稀祝賀退職記念論集 早稲田法学第95巻第 3 号(第 2 分冊)2017/01/25
「消費税の研究」が公刊されていた
日税研論集70号(2017)である。
消費税の研究
序 章 消費税の軌跡-導入から現在まで 佐藤英明
第1章 経済活動と消費税 渡辺智之
第2章 国の財政と消費税の歴史的展開 関口智
第3章 地方の財政と消費税 上村敏之
第4章 課税対象取引-納税義務者の検討も含めて 谷口勢津夫
第5章 非課税取引(1)-金融取引等 辻美枝
第6章 非課税取引(2)-医療・教育等 渕圭吾
第7章 中小事業者と消費税 金井肇
第8章 税率構造-軽減税率の法制化を踏まえて 金井恵美子
第9章 仕入税額控除 西山由美
終 章 日本の消費税はどこへいくか-国際比較からの展望 増井良啓
2021/01/08
東大オープンキャンパス2020第2弾,期間限定1/6-1/19
第2弾 2021年1月6日(水)~19日(火)についてから引用しておこう。期間中,動画を見ることができる。
法学部は、次のコンテンツを提供します。オープンキャンパスの期間中、何度でも自由に視聴いただけます。
パンフレット「法学部入学案内2020」と一緒に、ご覧ください。
大澤 裕 法学部長・教授(刑事訴訟法)が、法学部の概要を説明します。
- ●模擬授業「英米法 ―合衆国憲法,大統領,最高裁判所―」 【東大TVでの配信】
- 淺香 吉幹 教授(英米法)が、アメリカ合衆国で、(1)大統領選挙がどのように行われるか、(2)憲法がどのように発展してきたか、(3)最高裁判所がどのように違憲立法審査権を行使しているのか、を概観します。
- ●模擬授業「複合リスクの管理における専門家の役割と限界 -新型コロナウイルス感染症の場合」 【東大TVでの配信】
- 城山 英明 教授(行政学)が、様々なリスクの相互作用を伴う複合リスクの管理における専門家と政治との関係、専門分野間のコミュニケーションの課題について、新型コロナウイルス感染症への対応を事例として検討します。
●座談会「法学部から法科大学院へ『法律家―女性には向かない職業?』」 【法学部Youtubeチャンネルでの配信】
法学部の卒業生であり、法律の研究者または実務家として教育・研究にあたっている、女性教員による座談会です。女性にとって、法学部や法律家にあまり馴染みがないという声も聞きますので、その実際を伺いました。
司 会:神吉 知郁子 准教授(労働法/研究者)
参加者:沖野 眞已 教授(民法・消費者法/研究者)、石田 佳世子 客員教授(民事実務基礎/裁判官)、
新川 麻 客員教授(弁護士)、宮崎 香織 教授(刑事訴訟実務/検察官)、原 悦子 准教授(競争法/弁護士)
※座談会の内容の一部は、パンフレット「法学部入学案内2020」にも、収録されています。
●模擬ゼミ「『女性のいない民主主義』の著者と語る政治学」 【法学部Youtubeチャンネルでの配信】
前田 健太郎 准教授(行政学)が、『女性のいない民主主義』(岩波新書)を題材に、ジェンダーの視点から見た民主主義について、ゼミの学生と報告と討論を行いました。また、ジェンダーについて議論することが難しい理由についても意見交換を行いました。
●法学部教員からのメッセージ 【法学部Youtubeチャンネルでの配信】
10名の法学部教員が、自分の研究テーマや、法学政治学を学ぶ意義などを3~4分でわかりやすく説明します。
ヴァンドゥワラ サイモン 教授(競争法)/沖野 眞已 教授(民法・消費者法)/加藤 淳子 教授(政治学)/
神吉 知郁子 准教授(労働法)/宍戸 常寿 教授(憲法・情報法)/谷口 将紀 教授(現代日本政治)/
成瀬 剛 准教授(刑事訴訟法)/藤原 帰一 教授(国際政治)/松井 智予 教授(商法)/
両角 吉晃 教授(イスラーム法)
●高校生向け模擬授業 【法学部ホームページ】
法学部では、オープンキャンパスにおいて、法学部学生と法科大学院学生が共同して、高校生向けの授業を行っています。2020年度は諸般の事情により行うことができませんでした。2019年度に行った高校生向け授業をご紹介します。
2017/10/12
OECD Digital Economy Outlook 2017がでていた
デジタル経済の可能性はアクセスと利用性の不平等に阻まれる
インターネットの利用しやすさは高まり、平均速度は速まり、価格は下がっています。しかし、モバイルデータの利用度は、モバイルアプリをメッセージの交換、交通手段や地図の確認、動画配信サービスに利用することが増えているため、デジタル経済の重要な要素となっていますが、それが一部の国々、特にフィンランドとラトビアで他の国々よりも遙かに速いペースで伸びています。
インターネット全体の利用度という点で、2016年に人口の97%以上がインターネットを利用していたのはデンマーク、アイスランド、日本、ルクセンブルク、ノルウェーです。それに対して60%以下だったのはメキシコとトルコです。16~24歳でオンラインを利用した人の割合は95%を超えているのに対して、55~74歳では63%を下回っています。
2016年には、OECD諸国企業の95%が高速インターネットを利用しており、2010年の86%から上昇しています。上昇幅が最も大きかったのは、メキシコ、ラトビア、ポーランドです。しかし、特にメキシコ、ギリシャ、ポーランド、トルコでは、大企業と小企業の間に大きな差があります。小企業は、ビッグデータ解析やクラウドコンピューティングといった先端技術の導入においても後れています。
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2020/12/19
オンライン版我妻栄関係文書
J-DAC ジャパン デジタル アーカイブズ センターのサイトに,アップされていた。
そのうち第1部の分類一覧は以下のようになっている。このうちとくに,租税徴収制度調査会のところに直接にリンクを張ろうとしたが(下記赤字の部分),どうやら,分類一覧からクリックしないと入れないようだ。
憲法 憲法改正関係 憲法調査会 憲法問題研究会 憲法普及会・民主政治教育連盟他2025/10/03
租税競争をくいとめる(2024)をインタビュー形式にしてみた
新学期、授業の教材づくりの時期だ。以下では、教材づくりの一環として、増井良啓「租税競争をくいとめる」東京大学法学部「現代と法」委員会編『いま、法学を知りたい君へ』(有斐閣2024年)185-199頁の内容を、AさんがBさんにインタビューする、という形式に展開してみた。2025年10月3日にChatGPTを用いて作成。元の原稿の基準時は2023年12月末であり、その後の展開、とりわけ2025年6月末のG7と米国の共存アプローチ(side-by-side approach)については盛り込んでいない。
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導入
Aさん:いやあ、税金の話って難しいですね。なんか「法人税がどうのこうの」と言われても、正直ピンと来ないんです。今日はBさんに「租税競争をくいとめる」という論文について教えてもらおうと思います。よろしくお願いします!
Bさん:はい、任せてください。税金の世界は一見とっつきにくいですけど、実は「国際社会の知恵比べ」みたいな部分があって、面白いんですよ。
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Ⅰ 租税競争ってなに?
Aさん:まず「租税競争」って何ですか?なんか国家同士で「うちの税金安いよ~」って言い合ってるイメージですけど。
Bさん:そのイメージ、かなり正解です(笑)。
「租税競争」とは、各国が法人税をどんどん下げて、企業に来てもらおうとする現象のことです。例えば、ある国が「法人税を25%に下げました!」とすると、隣の国も「じゃあうちは20%!」と対抗する。そうやって下げ合戦が始まるんですね。これを「底辺への競争(race to the bottom)」と呼びます。
Aさん:なるほど…。企業にとっては税金が安い方がいいですけど、国としては税収が減って大変そうですね。
Bさん:そうなんです。税収が減ると教育や医療などにお金が回らなくなりますし、結局みんな困ってしまうんです。
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Ⅱ じゃあどうするの?──柱2(Pillar Two)
Aさん:じゃあ各国はどうやって「下げすぎ」を防いでるんですか?
Bさん:そこで出てくるのが「柱2(Pillar Two)」です。2021年に140近い国が合意して、「法人税の最低ラインを15%にしよう!」と決めたんです。
Aさん:へぇ~。つまり「どの国に行っても、法人税は最低でも15%」ってことですか?
Bさん:そうです。これで極端に安い国に企業が逃げるのを防ごうというわけです。ちなみに日本の法人税は国税+地方税で30%弱なので、15%は「最低ライン」としては控えめですが、それでも大きな意味があります。
Aさん:へえ、日本から見れば「うちの方が全然高いよ!」って感じですね(笑)。
Bさん:そうなんですよ。
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Ⅲ どうやって最低税率を実現するの?
Aさん:でも「最低15%」って決めても、守らない国が出てきそうですよね。
Bさん:いい質問です。そこで登場するのが「GloBEルール」です。これは「もしある国が15%に満たない税しか取ってなかったら、他の国で上乗せ課税しちゃいますよ」という仕組みです。
Aさん:えっ、他国が代わりに課税するんですか?なんか強引ですね。
Bさん:すごいでしょう(笑)。「あなたの国が安すぎるから、その分は親会社の国で回収しますね」という感じです。これで「抜け駆け」しにくくなる仕組みなんです。
Aさん:なるほど…。でも、別の国のことを考えて上乗せ課税するなんて、企業のほうは対応大変じゃないですか?
Bさん:そう、そこがまさに課題です。企業にとっては「頭痛が止まらない制度」なんです。日本の企業なんて、既存のCFC税制と合わせてダブル対応になっちゃって大変です。
Aさん:CFC…ってなんですか?
Bさん:簡単に言うと、日本の企業がタックスヘイブンに利益を移転するのを防ぐ仕組みです。柱2のIIRと似てるけど目的が違う。両方あると「二重チェック」みたいで、事務負担が増えるんです。
Aさん:あぁ…それ、会社の経理担当が泣きますね(笑)。
Bさん:ここ、笑うところじゃないですよ。なんて。
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Ⅳ 課題はいろいろある
Aさん:完璧な制度に聞こえるけど、何か問題あるんですか?
Bさん:ええ。大きく3つあります。
1. どの国が採用するか
かなりの国がやらなきゃ意味がありません。主要国は進めてますが、もちろん全てではありません。
2. 軽課税国の抜け道
補助金を活用したり、工場を呼び込むインセンティブを利用したりして、「形を変えた租税競争」が続く可能性があります。
3. ルールが複雑すぎる
企業も国も事務負担が大きい。特に人手や制度が整っていない途上国には重荷です。
Aさん:へえ、いろいろありますね。抜け道って、なんだか、テストで「カンニング禁止!」って決めても、みんな工夫して新しいカンニング法を編み出す…みたいな話ですよね(笑)。
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Ⅴ 将来の展望──法人税はどうなる?
Aさん:でも根本的には「法人税」ってもう時代に合ってないんじゃないですか?
Bさん:そういう議論もあります。現在の法人税は無形資産に依存していて逃げやすい。だから将来的には「市場がある国に課税権を配分する仕組み」や「キャッシュフロー課税」に移行した方が安定的かもしれない、と研究者たちは提案しています。
Aさん:なるほど…。つまり「企業がどこにあるか」じゃなくて「商品がどこで売れてるか」で課税するってことですね。
Bさん:そうです。その方が「租税競争」が生まれにくい仕組みになる可能性が高いんです。
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Ⅵ 民主主義との関係
Aさん:ちょっと話は変わりますけど、国際合意って官僚が集まって決めるんですよね?それって国会の役割が小さくなって、民主主義的に問題ないんですか?
Bさん:そこも重要な論点です。条約や国際合意は官僚や政府が決め、国会は「事後承認」するだけ。つまり、国民の代表が細かい中身を修正する余地はあまりないんです。
Aさん:あ、それって「代表なくして課税なし」という原則に反しません?
Bさん:そう。だから「もっと国会や市民が監視できる仕組みが必要だ」という人もいるんです。透明性を高めることが大切なんですね。
Aさん:でも正直、僕ら普通の人は「税金の細かい国際ルール」って眠くなっちゃうんですよね(笑)。
Bさん:そこを何とか頑張ってほしいんです!少なくとも「こんな大きなルールが裏で決まってるんだ」っていう意識を持つだけでも違いますから。
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まとめ
Aさん:いやあ、今日のお話で「租税競争」って、国家同士の「法人税ディスカウント合戦」みたいなものだってわかりました。それを止めるために「柱2=最低税率15%」が導入されたけど、まだ課題山積みなんですね。
Bさん:そうです。そして「法人税の将来」や「民主主義との関係」も含めて考える必要があります。ちょっと堅いテーマですが、実は私たちの生活とも密接につながっているんですよ。
Aさん:なるほどです。今日はありがとうございました!
2019/12/14
信託課税研究の道標
第1章 信託法理の生成
信託法理の生成(中里 実)
法人格を有する信託としての財団法人(中里 実)
第2章 課税上の利益帰属
所得の「帰属」・再考(序説──東京高判平成23年9月21日訟月58巻6号2513頁を手がかりとして(藤谷武史)
Reich論文の“Super-Matching” Ruleの紹介及び信託等を通じたマッチングの意義と限界(浅妻章如)
無償取引と取引の単位──課税の前提に関する研究ノート(中里 実)
無償取引と対価(中里 実)
第3章 時間を超える利益移転 年齢・主体・課税に関する研究ノート──教育資金贈与信託を出発点に(神山弘行)
民事信託と相続税・贈与税に関する研究ノート(渕 圭吾)
受益者連続型信託に対する資産移転税の課税方式に関する一考察(藤谷武史)
「みなし相続財産」と信託(渕 圭吾)
所得税と相続税の調整:アメリカ生命保険源泉徴収税の外国法控除と債務控除(BFH2R51/14)(浅妻章如)
世代間資産移転のための「公的基金」と信託的ガバナンスに関する研究ノート(神山弘行)(2011年)
第4章 国境を越える信託
英国における法人該当性判断をめぐる動揺──Anson事件最高裁判決(吉村政穂)
4号所得の空洞化(増井良啓)
支店外国税額控除の設計(増井良啓)
UCITS 4[第4次集団投資事業指令]に対応した英国税制の動向(吉村政穂)
2025/07/15
駒場「現代と法」オムニバス講義最終回
白石忠志先生の肝煎りで、本年度も駒場「現代と法」オムニバス講義が開かれた。その最終回に呼んでいただいた。断続的な雨の中、朝から多くの学生さんが出席してくれた。
1.私のプレゼン
昨年に続き、《人はなぜ納税するか》について手短にお話しした。私の主要なメッセージは、納税行動が単純な損得勘定だけでは説明できず、知的に興味深いパズルを提供している、ということだ。公共財提供に関するフリーライド問題からはじめ、租税債権の自力執行権や脱税に対する加算税や罰則などの制度的背景を概観したのち、今回はとくに、Steinmoらの歴史的制度論と実験室実験に焦点を絞って、「ある国で脱税が多く別の国で脱税が少ないのはなぜか」という問いを扱った。しかるのち、より実践的な課題に視点を切り替えて、応答的規制の税務行政への応用としてのValerie Braithwaite (2003)の「執行ピラミッド」を紹介し、tax gap推計の有用性や、Tax Administration 3.0に言及しようとしたあたりで、制限時間になった。
2.白石先生の助け舟
私のプレゼンの途中で、いくつか枢要な点について白石先生から「助け舟質問」があった。それらは、私のプレゼンでロジックが飛んでいる点や、比喩的・印象論的な言葉使いをしている点についての的確な指摘だった。ありがとうございます。
- (指摘)単純なTAG(Taxpayer as Gambler)モデルだと「ばれてもともと」ということになるというが、どういうことか?→(増井応答)事前(ex ante)の見地からみた期待値ベースで、実調率を織り込んで「合理的(これはとても限定的な意味におけるそれ)」に損得計算するとそうだ、という意味。本税に加えて制裁としての加算税を納付する場合であっても、摘発確率との関係でそうなる、というロジックだ。
- (指摘)「執行ピラミッド」にいう協力的態度と非協力的態度を、課税庁はどうやって見分けるのか?→(増井応答)応答的規制の考え方では、ピラミッドの下から上へと、規制を徐々に強めていくことで判別する。まず全員に対して広報や教育、サービスによって助力する対応をとる。それでうまくいかない場合には記帳指導などかかわりを強めていく。抵抗があればサンクションを伴う税務調査へと、さらには刑事告訴にまで至る。
- (指摘)リアルタイムでシームレスに情報が共有され、「ガラス張り」になる、というとき、カネの出入りが分かるようになるのは誰か?→(増井応答)国だけでなく、取引相手全体で情報を共有するイメージ。その利点はコンプライアンス費用削減だが、いいことばかりといえるかが考えどころ。国と事業者の間の情報共有に抵抗が少なくなるのは、国への信頼が確立している場合であろう。→(再指摘)事業者間の文脈では、強い業者が弱い業者に事業情報の開示を強要することが問題となる例がある。
- (意見開陳)Steinmoらは、自己利益・規範・価値がどのように納税コンプライアンスに影響するかを実験室実験で調べている。そこで想定されているのは、制度(institutions)がインセンティブを通じて自己利益に働きかけ、徐々にその集団の暗黙のルールとして固定化されて規範となる、というループ。しかし、規範が先行し、あとから政府が制度を導入する、という例もあるのではないか?→(増井感想)規範から制度へというループもあるかもしれない。Steinmo & D'Attoma (2021)59頁の下の方の段落でも、Bergman (2009, 42)を引用して、the institutionalization of normsを語っている。うまい具体例をおもいつけていないのだが、たとえば、「Aについては皆が納税していない」「それをうけて法律でAを非課税とする」といったような場合だろうか(?)。
- (意見開陳)Steinmo (2018)は、スウェーデンのルター派教会とイタリアのローマ・カトリック教会の果たした役割を対比する。そこで、宗教は文化か制度か、という問いを提起したい。→(増井感想)この意見開陳において、宗教の内容でなく宗教の組織について話します、と慎重に補足された点が大事だと思う。「教会が制度だ」というときには、教区人口の世帯構成や不動産所有状況などを把握し、その情報を管理する能力に着目している。それは世俗組織の営むmonitoring機能と変わらない。なお、重要な補足として、スウェーデンとイタリアの現況を歴史的制度論でもって説明するこの話を相対化するものとして、Steinmo & D'Attoma (2021)の実験結果は、単純な文化論やステレオタイプを排している。つまり、人々の遵法志向の分布は似通っており、むしろ制度の強弱が実際のtax gapの違いをよりよく説明する、というのである。
- (質問)巨大IT多国籍企業のような場合、Steinmoらの語る自己利益・規範・価値という枠組みは通用するか?→(増井応答)株式会社の場合、株主利益の最大化という意味で自己利益で説明できそうだが、これに対してはESG投資など別の流れもある。日本企業は欧米企業ほどagressive tax planningをしないという話がある。→(指摘)増井応答の後半とかぶるが、日本のJTC(Japanese traditional company)と呼ばれる企業の行動原理は、評判を重視する。
- (質問)税務調査にかかる人件費などのコストと比べて、税収回復やみせしめ効果などは計量できているのか?→(増井応答)EBPMの課題だ。これの18頁。
5.Braithwaite再訪
今回の準備過程では、Valerie Braithwaiteの仕事の意味がすこしわかってきた。彼女の「執行ピラミッド」は、オーストラリアでのアンケート調査によって納税者の態度(motivational postures)を析出したもので、心理学の手法で仮説を検証していた。一人の個人が複数の態度を併せ持つことがありうること、態度と行動は必ずしも一致しないこと、抵抗を対話の契機ととらえるオープンな姿勢、などは、執行ピラミッドを「独り歩き」させないための重要な留保だと思う。
私が熱烈に知りたいのは、このピラミッドの形状が現在の日本でどうなっていて、これからどのように変化していくかである。
6.おわりに
昨年度の「現代と法」に出ていた学生の方から、「今年のほうがレジュメがわかりやすかった」とのお言葉があった。1年たつと(すこしは)進化する。すなおに誉め言葉ととっておきたい。
2025/09/13
TaxProf Blogが21年の歴史を閉じることに
Paul Caron教授のTaxProf Blogが21年の歴史を閉じるとのこと。2025年9月8日付けのこのブログによると、Typepadの終了を機会に、長く続いたBlogをたたむ、という。
米国租税法の動向を知るうえで、大変便利なものだった。税制改正の最新動向や、そのおりおりの重要判決、それらに関する専門家の反応が、一目でフォローできた。SSRNなどに投稿されたWorking Paperをフィーチャーしたり、各種Workshopのお知らせを集約したりするなど、大学教授の知的活動の結節点でもあった。法教育に関するニュースも早かった。
残念ではあるが、これまでの貢献をたたえたい。
とりあえずの対応措置として、直下に配置していたTax Prof Blogからのfeedページは、整理することにした。これからは、ネット上の公開情報をAIが学習する動きが加速するだろう。情報を収集して整理するという重要な知的作業が変質していく中で、どう対応するかが宿題。
2017/04/23
Kevin Kelly, The Inevitable (2016)
自分の職業にひきつけると,法を担う人材に要求される資質や,政府部門のあり方が,今後さらに変化することは確実。もっと近くいまの問題関心にひきつけると,こういう変化の中で,生涯にわたった包摂的な教育機会の提供が課題になると思う。
2019/10/28
私大授業料の消費税法上の「非課税」
という記事が,毎日新聞2019年10月24日東京夕刊にでていた。この記事は,リンク先の公開版で読める箇所で,
収入となる授業料や入学金は、教育を受ける側の負担を抑える目的などで非課税とされているが、支出となる施設整備や物品購入費は課税されるからだ。と述べている。これは,
- 消費税法の課税事業者たる私立大学は,売上について,授業料や入学金が非課税となる(6条,別表第一11号イ)。
- しかし,その結果として,仕入税額控除との関係では,課税売上割合が95%に満たないときの区分計算の必要(30条2項)などからして,取引の前段階で消費税が課されていても,税額控除ができない。
- このことが,授業料などの値上げが難しい中で,経営を圧迫する。
2021/05/11
トルテ弓は減価償却できる資産か
法科大学院の学生さんがゼミで減価償却について報告するというので、住永佳奈「課税における減価償却についての基礎的考察(1)(2完) 芸術作品である楽器を素材として」法学論叢187巻4号63頁、188巻1号35頁を読んでみた。
米国の租税裁判所の判例を素材にして、くわしい分析がなされている。ニューヨーク・フィルハーモニックのヴァイオリニストSimon夫妻が、トルテ弓を購入し、減価償却したところ、それが認められた。1994年の判決である。租税裁判所は、トルテ弓が値上がりしているという事実は減価償却の可否に影響しないとした。また、課税庁はトルテ弓が芸術作品であるから減価償却を認めないと主張していたが、租税裁判所はこの主張を退けた。
この論文は、日本の通達や裁決との比較も行い、日本法における美術品の減価償却の可否の判断は明らかではないと指摘する。おわりに、のところでは、内在的価値と事業における用益という二つの価値を資産が併せ持つ場合に、減価償却を認めるかという問題が、物のみならず人についても生ずる、と結ぶ。こうして、教育支出に関する別の研究ともつながる。
2024/03/27
ケースブック租税法の座談会
弘文堂のこのサイトで、ケースブック租税法の座談会がアップされていた。
ちょうど20年前の今日、初版の刊行をみすえて、編著者の金子宏先生・佐藤英明先生・渋谷雅弘先生・増井が集って収録し、北川陽子さんのお力により原稿にしていたものである。金子宏先生の肉声であり、租税法教育に関するお考えなどを伝える貴重な資料であるため、座談会収録から20年目の節目に公開された。
★目次は以下の通り。
1. 総論
(1) 金子先生がケースブックを構想された経緯
(2) 各編者がこれまでの授業でどのような教材をどのように使ってきたか
(3) このケースブックの構成
(4) ティーチャーズ・マニュアルの意図・狙い
2. 各編について
(1) 第1編について
(2) 第2編、第3編、第5編について
(3) 第4編について
3. まとめ
(1) 法科大学院におけるこれからの教材のイメージ
(2) 本ケースブックの位置づけと今後予定(希望)される作業
★近いうちに、弘文堂スクエアにバナーを貼り、告知を開始するとのこと(HPのトップページでお知らせ、SNSでも発信)。
2024/06/06
世銀が税務行政ハンドブックを公表
世銀がRevenue Administration Handbookを公表していた。税務行政(関税行政を含む)の構造と運営について包括的かつ体系的な叙述を行うもので、税務行政に関するまとまった教科書になっている。全体で214頁。7章構成、6つの付録がある。著者は世銀のRaúl Félix Junquera-VarelaとCristian Óliver Lucas-Masである。
このハンドブックの第5章が、租税制裁(Tax Sanction)の枠組みに関するガイドラインである。中でも111頁以下に、tax penaltiesについて、その設計に関するベストプラクティスのガイドラインがある。ここにtax penaltiesとは、禁止された行為に対して、または、無申告や過少申告など義務の不履行に対して、租税法が科す(課す)制裁措置のことである。日本法に引き付けていえば、罰則や重加算税がこれに相当するであろう。ハンドブックは、tax penaltiesには懲罰機能(punitive function)と抑止目的(deterring aim)があると述べている(111頁)。なお、この章はこれとは別にsurchargeとinterestについて論じており、こちらは日本法上の過少申告加算税や延滞税に相当する。
さて、この意味におけるtax penaltiesに関する望ましい設計ガイドラインを示すための前提として、ハンドブックは、以下の認識を示している。それ自体として興味深いものであるので、中心的な4つの段落を抜き出して、その部分を全訳しておこう(111-112頁)。
- いくつかの研究の知見によると、納税者は、摘発される確率が 4%以下と非常に低い場合には、摘発される確率よりも刑罰の大きさにヨリ敏感である(Jackson and Jones 1985)。他の研究者たち(Schwartz and Orleans 1967)は、刑事制裁の厳しさと高所得自営業者のコンプライアンスとの間に有意な関係があることを観察している。これはまた、制裁に関する類似研究により支持されており、その研究によると、法的制裁は高階層と高学歴層に最も効果的であることを示している。これらの研究はまた、うしろめたい感情という脅威の方が、法的制裁の威嚇やスティグマよりも、脱税に対する抑止力になることを発見している。
- しかしながら、研究(Allingham and Sandmo 1972)は、摘発される確率が閾値に達すれば軽罰も厳罰と同程度に抑止効果があることを示す証拠を提供している。罰則の厳しさは、必ずしも納税コンプライアンスに直線的な効果をもたらすとは限らない。Jackson and Milliron (1986)は、制裁の社会的コストが利益を上回る可能性があるとしている。制裁が厳しすぎると認識されると納税者は集団として疎外され、結果として、一般的な反感や法律軽視を生む可能性がある。他方で、制裁水準の引き上げが納税者のコンプライアンスに及ぼすプラスの効果は、比較的低く現実的な罰則水準が用いられる場合にも維持されることがわかっている(Carnes and Eglebrecht 1995)。
- Keinan (2006)とAlm (2013)を含むほとんどの研究では、未納付税額に対するペナルティー率が上昇しても、コンプライアンスはわずかにしか上昇しないことが分かっている。推定申告所得-ペナルティー率の弾力性は、通常0.1未満である。また、罰則は金銭的なものに限る必要はない。ここでのポイントは、自己のコンプライアンス行動が公開されるという脅威は、自己の情報が他者に見られるかもしれないという懸念からコンプライアンスに影響を与える可能性があり、他者のコンプライアンス遵守(またはその欠如)の観察が自己の申告行動にも影響を与える可能性があるということである。実験的証拠(Alm 2013)は、コンプライアンス違反の公表がコンプライアンスを高めることを示唆している。他の研究(Oladipupo and Obazee 2016)は、税務知識は税務罰則よりも税務コンプライアンスを促進する傾向が高いことを示している。したがって、政府は税務に関する国民の知識を高めるためにあらゆる手段を講じるべきであり、租税教育を高校レベルのカリキュラムに常に含めるべきである。中小企業経営者も、政府と納税者の相互利益のために、税務知識と意識の向上を図るべきである。
- 新しい制裁制度を設計する際には、納税者の動機を考慮することが適切である。納税者が法的インセンティブなしに常に善良に行動するのであれば、不正行為を抑止するための罰則は余計なものである。多くの場合、罰則の設計は、経済的な考慮が行動の唯一の決定要因であるという逆の仮定から出発する。しかし、納税者の行動に影響を与える規範的要因など、他の要因が介在する場合もある。
2025/12/27
令和8年度税制改正の大綱、閣議決定
2025年12月26日、政府が「令和8年度税制改正の大綱」を閣議決定。冒頭の文章を箇条書きに直して、そのまま引用する。
- 物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設するほか、就業調整に対応するとともに、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178 万円まで特例的に先取りして引き上げる。
- 「強い経済」の実現に向けた対応として、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置を創設するほか、租税特別措置等の適正化の観点から、賃上げ促進税制の見直しや研究開発税制の強化等を行う。
- 税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し等を行う。
- このほか、自動車関係諸税について、自動車税等の環境性能割の廃止や軽油引取税の当分の間税率の廃止等を行う。
- また、国際観光旅客税の税率の引上げや防衛特別所得税(仮称)の創設等を行う。
- まず、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設した。また、長年にわたって据え置かれてきた税制上の基準額について、網羅的な点検を行い、マイカー通勤に係る通勤手当や従業員への食事の支給に関して所得税が非課税となる限度額など、暮らしに関わる分野を中心に見直しを行い、物価高への対応を行った。また、物価高を超える賃上げの実現に向けて、賃上げ促進税制については、措置期間中ではあるが、臨機応変に対応する考えの下、防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形に見直す。
- 「強い経済」を実現するために、大胆な設備投資促進税制を創設し、高付加価値化型の設備投資を強力に後押しする。他方、設備投資時のキャッシュフローを支援するとともに、設備投資後の収益で財政を支える償却制度を積極的に活用することで複数年の財政均衡に配慮した制度とした。さらに、貯蓄から投資への流れを後押しするNISAについては、つみたてNISAの拡充の一環として、国内市場を対象とした一定の株式指数を新たに追加する。結果として、個人の現預金が国内経済に投資され、経済成長を後押しする流れが加速化されることも期待される。
- 「強い経済」とともに「世界で輝く日本」の実現に向けて、AI・量子・バイオ等の戦略技術分野の研究開発を促進する観点から、研究開発税制について「戦略技術領域型」を創設するとともに、国内の研究人材や研究開発拠点を強化する観点から必要な見直しを行う。また、国際的な租税回避を防止し、企業間の公平な競争環境を整備する観点から、わが国が主導してきた国際課税のBEPSプロジェクトについても積極的に進めていかなければならない。
- 租税特別措置等については、的を絞り、メリハリを明確にすることでインセンティブを大胆に強化する。また、賃上げや設備投資に積極的ではない企業については租税特別措置の適用除外とする制度の強化・拡充を断行し、積極的に挑戦する企業を集中的に支援する制度に変えていく。今後更なる適用拡大についても検討を行う。
- 他方で、累次の法人税率引下げによって、企業の利益が設備投資・研究開発そして賃上げの原資として適切に投資されてきたのか、不断の検証と改革も求められる。
- 税制の公平性の確保に向けては、現行制度を躊躇なく見直す。まず、国内外での公平性の確保については「国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化」等の見直しを行うほか、外国人旅行者向け免税制度や、国外居住親族に係る扶養控除等の適用についてもあり方を検討していく。また、不当廉売関税に係る迂回防止制度を創設し、不公正な貿易に対する措置の実効性と抑止力を高める体制の構築を行う。財政の再分配機能を高める一環として「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」の見直しを行う。さらに、税制への信頼感を著しく棄損する租税回避への対応として「貸付用不動産の評価方法」「インボイス制度導入に係る経過措置」を利用した租税回避について厳格に対応していくとともに、時代の変化にこれからも対応していく。また、「ふるさと納税」について、健全な運用に向けた見直しを行い、制度導入時の崇高な理念の実現に向けた改正を行う。
- 住民生活に密着した行政サービスを支える地方公共団体の税収をしっかり確保するとともに、経済社会の構造変化に対応し、都市と地方もお互いに支え合うという基本的考えに立ち、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けた具体的な取組みについて検討を行っていく。
- また、デジタル化の進展に伴い、納税手続のデジタル化への対応を国税・地方税とも行うとともに「道府県民税利子割の清算制度」を導入する。今後も、デジタル化の進展による社会経済活動への変化に機敏に対応していく。
- さらに、消費者が支払った消費税相当分が、全て納税されることなく、事業者の手元に一部残る要因となっている「インボイス制度導入に係る経過措置」については、これまでに決定した各種経過措置を含めて最終的に終了することを堅持しつつ、個人・中小事業者の対応状況等も踏まえた更なる配慮を行うために、見直しを行う。
- 「基幹産業」としてわが国経済を牽引する自動車産業は、技術面や国際環境など、大きな変化を迎えている。こうした中、自動車関係諸税の見直しについて、わが国の技術的優位性を踏まえた「マルチパスウェイ」等の自動車戦略や国・地方の安定的な財源確保、カーボンニュートラル目標等を踏まえ、今後、車体課税・燃料課税を含めた総合的な検討を行う。
- 恒久政策には安定財源が必要との考えの下、揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保、防衛力強化に係る財源確保について税制上の対応を行う。また、高校生年代の扶養控除の見直しについては、先行して住宅ローン控除や生命保険料控除が拡充されていることも念頭に、今後も真摯な議論を行っていかなければならない。
- 最後に、財政健全化と積極財政の二項対立ではなく、両者の思想を包含する「責任ある積極財政」の方針の下、「温故知新」の言葉を噛み締めつつ、税制改正に終わりはなく、連綿不断の改革と検証を行っていく決意をもって、以下、令和8年度税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。