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2017/07/01

昭和財政史の3シリーズが,アップされていた

財務総研のサイトに6月30日付けで次のお知らせがでていて
財政史の3つのシリーズが閲覧できるようになりました。『昭和財政史』(戦前編), 『昭和財政史-終戦から講和まで』, 『昭和財政史-昭和27~48年度』
クリックすると,下のようにリンクが張られていた。 「終戦から講和まで」の第8巻植松論文など,授業で言及する必読文献が多いだけに,これは朗報。

「財政史」は、財務省の行政事績を政策分野別に期間を区切って編纂した史録であり、その編纂・刊行は、財務行政の正確な記録をのこし、財務行政の企画立案及び一般の学術研究の参考の用に供することを目的としています。「財政史」はこれまでに『明治財政史』から『昭和財政史-昭和49~63年度』までが刊行され、現在、7シリーズ目に当たる『平成財政史-平成元~12年度』の編纂を進めています。『平成財政史-平成元~12年度』シリーズについては、平成23年度以降現在までに、第2巻(予算)、第4巻(租税)など7つの巻が刊行されています。
各シリーズの概要については、下記シリーズ名のリンクからご覧になれます。
「財政史」各シリーズ全巻数内容対象期間
『明治財政史』全15巻明治元年~明治35年
『明治大正財政史』全20巻明治36年~大正15年
『昭和財政史』(戦前編)全18巻昭和元年~昭和20年8月
『昭和財政史-終戦から講和まで』全20巻昭和20年8月~昭和27年4月
『昭和財政史-昭和27~48年度』全20巻昭和27年度~昭和48年度
『昭和財政史-昭和49~63年度』全12巻昭和49年度~昭和63年度
『平成財政史-平成元~12年度』全12巻平成元年度~平成12年度

  • 昭和財政史 49~63平成財政史

2022/10/28

学界展望〈財政法〉の3冊

国家学会は隔月に国家学会雑誌を出している。縦書きの雑誌なので、右向きに頁をめくると、通常はまず、「論説」からはじまる。ところが最近発刊された135巻9=10号はそうではなく、いきなり「学界展望」からはじまっている(809頁以下)。あれ?と思ってよく見ると、「論説」はその2本のいずれもが横書きのため、最終頁(914頁)から逆向きに掲載されていた。縦書きと横書きの混在ゆえに起こった現象といえよう。

この学界展望〈財政法〉で紹介されている3冊は次のとおり、おおいに興味をそそるラインアップだ。

書評文化の成立は学問の成熟をあらわす。学問領域としての財政法の豊かさを感じさせる。

2025/12/27

令和8年度税制改正の大綱、閣議決定

2025年12月26日、政府が「令和8年度税制改正の大綱」を閣議決定。冒頭の文章を箇条書きに直して、そのまま引用する。

  • 物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設するほか、就業調整に対応するとともに、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178 万円まで特例的に先取りして引き上げる。
  • 「強い経済」の実現に向けた対応として、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置を創設するほか、租税特別措置等の適正化の観点から、賃上げ促進税制の見直しや研究開発税制の強化等を行う。
  • 税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し等を行う。
  • このほか、自動車関係諸税について、自動車税等の環境性能割の廃止や軽油引取税の当分の間税率の廃止等を行う。
  • また、国際観光旅客税の税率の引上げや防衛特別所得税(仮称)の創設等を行う。
【財務省サイト】
      • 令和8年度税制改正要望 HTML ※令和7年8月29日時点での税制改正要望となります。
      • 税制改正の大綱 PDF
      • 税制改正の大綱の概要 PDF
【総務省サイト】

上記引用の冒頭の文章と対比させる趣旨で、自由民主党と日本維新の会による与党税制改正大綱の「基本的考え方」を引用しておく。

  • まず、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設した。また、長年にわたって据え置かれてきた税制上の基準額について、網羅的な点検を行い、マイカー通勤に係る通勤手当や従業員への食事の支給に関して所得税が非課税となる限度額など、暮らしに関わる分野を中心に見直しを行い、物価高への対応を行った。また、物価高を超える賃上げの実現に向けて、賃上げ促進税制については、措置期間中ではあるが、臨機応変に対応する考えの下、防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形に見直す。
  • 「強い経済」を実現するために、大胆な設備投資促進税制を創設し、高付加価値化型の設備投資を強力に後押しする。他方、設備投資時のキャッシュフローを支援するとともに、設備投資後の収益で財政を支える償却制度を積極的に活用することで複数年の財政均衡に配慮した制度とした。さらに、貯蓄から投資への流れを後押しするNISAについては、つみたてNISAの拡充の一環として、国内市場を対象とした一定の株式指数を新たに追加する。結果として、個人の現預金が国内経済に投資され、経済成長を後押しする流れが加速化されることも期待される。
  • 「強い経済」とともに「世界で輝く日本」の実現に向けて、AI・量子・バイオ等の戦略技術分野の研究開発を促進する観点から、研究開発税制について「戦略技術領域型」を創設するとともに、国内の研究人材や研究開発拠点を強化する観点から必要な見直しを行う。また、国際的な租税回避を防止し、企業間の公平な競争環境を整備する観点から、わが国が主導してきた国際課税のBEPSプロジェクトについても積極的に進めていかなければならない。
  • 租税特別措置等については、的を絞り、メリハリを明確にすることでインセンティブを大胆に強化する。また、賃上げや設備投資に積極的ではない企業については租税特別措置の適用除外とする制度の強化・拡充を断行し、積極的に挑戦する企業を集中的に支援する制度に変えていく。今後更なる適用拡大についても検討を行う。
  • 他方で、累次の法人税率引下げによって、企業の利益が設備投資・研究開発そして賃上げの原資として適切に投資されてきたのか、不断の検証と改革も求められる。
  • 税制の公平性の確保に向けては、現行制度を躊躇なく見直す。まず、国内外での公平性の確保については「国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化」等の見直しを行うほか、外国人旅行者向け免税制度や、国外居住親族に係る扶養控除等の適用についてもあり方を検討していく。また、不当廉売関税に係る迂回防止制度を創設し、不公正な貿易に対する措置の実効性と抑止力を高める体制の構築を行う。財政の再分配機能を高める一環として「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」の見直しを行う。さらに、税制への信頼感を著しく棄損する租税回避への対応として「貸付用不動産の評価方法」「インボイス制度導入に係る経過措置」を利用した租税回避について厳格に対応していくとともに、時代の変化にこれからも対応していく。また、「ふるさと納税」について、健全な運用に向けた見直しを行い、制度導入時の崇高な理念の実現に向けた改正を行う。
  • 住民生活に密着した行政サービスを支える地方公共団体の税収をしっかり確保するとともに、経済社会の構造変化に対応し、都市と地方もお互いに支え合うという基本的考えに立ち、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けた具体的な取組みについて検討を行っていく。
  • また、デジタル化の進展に伴い、納税手続のデジタル化への対応を国税・地方税とも行うとともに「道府県民税利子割の清算制度」を導入する。今後も、デジタル化の進展による社会経済活動への変化に機敏に対応していく。
  • さらに、消費者が支払った消費税相当分が、全て納税されることなく、事業者の手元に一部残る要因となっている「インボイス制度導入に係る経過措置」については、これまでに決定した各種経過措置を含めて最終的に終了することを堅持しつつ、個人・中小事業者の対応状況等も踏まえた更なる配慮を行うために、見直しを行う。
  • 「基幹産業」としてわが国経済を牽引する自動車産業は、技術面や国際環境など、大きな変化を迎えている。こうした中、自動車関係諸税の見直しについて、わが国の技術的優位性を踏まえた「マルチパスウェイ」等の自動車戦略や国・地方の安定的な財源確保、カーボンニュートラル目標等を踏まえ、今後、車体課税・燃料課税を含めた総合的な検討を行う。
  • 恒久政策には安定財源が必要との考えの下、揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保、防衛力強化に係る財源確保について税制上の対応を行う。また、高校生年代の扶養控除の見直しについては、先行して住宅ローン控除や生命保険料控除が拡充されていることも念頭に、今後も真摯な議論を行っていかなければならない。
  • 最後に、財政健全化と積極財政の二項対立ではなく、両者の思想を包含する「責任ある積極財政」の方針の下、「温故知新」の言葉を噛み締めつつ、税制改正に終わりはなく、連綿不断の改革と検証を行っていく決意をもって、以下、令和8年度税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。

2024/06/19

Graetz教授の『破壊する権限』

 Graetz教授の新著『破壊する権限―いかにして反税運動がアメリカを乗っ取ったか』(2024年、Princeton University Press、本文265頁、謝辞と注と索引つきで359頁、日本語訳なし)は、啓発的な書物である。この書物において、Graetz教授は、反税運動が米国政治を支配するようになった壮絶な過程を描き出す。反税運動は、1978年カリフォルニア州のProposition 13を起点に、1980年大統領選挙を経て米国政治の中枢へと広がり、停滞期を経て、1997年以降の米国を支配するに至った、と主張する。その筆致は冷徹であり、登場人物の言動は劇的であり、描かれる像は陰鬱である。

「第一部 離陸(1978-1981)」は、反税運動が米国政治の中枢に広がった数年間を描く。1978年のProposition 13は、カリフォルニア州憲法を改正して州の財産税を制限した。この動きは、共和党右派のHaward Jarvisが巻き起こしていた。人種別学を退けたBrown事件最高裁判決の後、内国歳入庁(IRS)は人種差別を理由にBob Jones大学などの免税適格を剥奪したところ、これに反発した猛烈なIRS叩きがはじまり、キリスト教福音派が反税運動に加わった。サプライサイド経済学がケインジアン経済学に取って代わり、1980年大統領選でレーガンらの支持を得た。この動きはレーガン政権第1期に1981年大減税をもたらし、巨大な財政赤字が発生した。

「第二部 乱流(1982-1994)」は、振子が逆に傾き、財政赤字の抑制を試みる時期である。1982年と1983年の増税を経て、1986年税制改正は税収中立的改革であり、民主党の課税ベース拡大と共和党サプライサイダーの税率引き下げとの難しい結婚だった。この中で、Glover Norquist, Newt Gingrich, Rush Limbaughの3人組による反税運動が激化する。1988年大統領選で共和党のGeorge H. W. Bushは「Read my lips: no new taxes」と発言した。しかし、大統領就任後にGramm-Rudman-Hollings法の下で増税を余儀なくされたので、これを公約違反であるとしてGingrichらが攻撃を加えた。1992年大統領選で民主党のBill Clintonは「New Democrats」の「a third way」を標榜したが、就任後はエネルギー税(BTU Tax)の廃案に追い込まれた。1994年にGingrichは「The Contract with America」を発表し、1995年には下院議長に上りつめる。大統領と議会の対立が激化する中、1995年11月には政府閉鎖(shutdown)が生じた。

「第三部 復活 (1997-2023)」は、反税運動が復活し米国政治を乗っ取る過程である。民主党Clinton政権の下で、共和党が反税集会を開き、IRSの権力濫用を言い立てる宣伝を続けた。Graetz教授は、Bill Clintonの「三角測量(triangulation)」政策が長期的目標を見失わせた、としている。2000年大統領選で共和党のGeorge W. Bushが選出され、遺産税の廃止、2001年法人税減税などが行われた結果、1990年代の財政余力が浪費された。世界金融危機を経て、2009年1月から民主党のBarack Obama大統領が政権をとり、Tea Party Movementが起こった。2008年選挙戦でObamaは「年収25万ドル以下には増税しない」と公約しており、この制約の下で2010年の財政の崖(fiscal cliff)を迎えた。2016年大統領選挙で共和党のDonald Trumpが選出され、2017年12月に巨大な大減税法案Tax Cuts and Jobs Actが成立した。2020年大統領選挙で勝利した民主党のJoe Bidenの下で、2020年にコロナ対応でAmerican Rescue Actが成立する。2022年Inflation Reduction Actは富裕層課税を実現しなかった。党派を超えた合意が不可能になる中で、共和党は一切の増税を拒否し、民主党は富裕層課税しか提案しないという状況に至った。

本書の表題は、McCulloch v. Maryland, 17 U.S. 316, 431 (1819)のChief Justice John Marshallの有名な一節からきている。

“The power to tax involves the power to destroy; the power to destroy may defeat and render useless the power to create.”

Graetz教授は、本書の記述を終えるにあたり、この一節を引用したうえで、次のように結んでいる。

So, it turns out, does the power not to tax.


この書物は、米国税制に関心のある人にとってはもちろんのこと、より広く、どうしてアメリカ社会がかくも分極化してしまったかを知りたい人にとって、参考になるであろう。租税法を専門とする私は、非営利団体の免税適格をめぐる紛争の背景がここまで突っ込んで描かれていることに、軽い衝撃を受けた。また、1986年税制改革の評価について、Graetz教授がかなり突き放した態度をとっていることについても、いささか感ずるところがある。インサイダーならではの記述には、学ぶところが多い。

しかし、ではどうすればよかったのか。Graetz教授は、終章「アメリカ例外主義の終焉?」において、反税運動の問題点を列挙する。いわく、減税が必ず歳入増をもたらすなどの誤った信念に固着していること、自由について一面的な見方をとっていること、人種的反感を煽り立てること、遺産税を「死の税」と呼ぶなどして世論を枠づけること、公害対策のためのバッズ課税のような価値ある政策手段を排除すること、支出の代わりに特別減税を用いること、国債利率上昇の危険を招きアメリカの資金を海外に逃がすこと、増大する不平等を幇助すること、である。その告発は怒りに満ちており、怒りはもっともである。問題は、出口がどこにあるかである。



2017/02/04

第20回固定資産評価研究大会の記録が出ていた

第20回
(平成28年度)
講演  「固定資産税と租税法規の解釈:納税義務者を巡る最高裁判決を題材に」 (5.63MB)
一橋大学大学院法学研究科准教授 神山 弘行
パネルディスカッション  「家屋評価の課題と展望」 (8.36MB)
コーディネーター 佐藤 英明 慶應義塾大学大学院法学研究科教授
他 パネリスト 4名

分科会発表
 「土地評価事務取扱要領の整備状況と関連する判例解説」
概要(646KB) 発表資料(572KB)
  (一財)MIA協議会 弁護士・不動産鑑定士 伊藤 定幸
 固定資産業務管理士 青芳 功二
 「自治体平均負担水準方式・類似土地負担水準方式の具体的な運用方法等について~土地の前年度課税標準額算出における「みなし方式」からの脱却を目指して~」
概要(646KB) 発表資料(1.63MB)
芦屋市総務部課税課 固定資産税係長 吉見 尚典
 「地方税法第381条第7項による地積の修正申出の実効性について」
概要(646KB) 発表資料(358KB)
  上田市財政部税務課 課長補佐 東井 光司
主事 清水 大樹
 「所在が不明確な固定資産の課税について」
概要(644KB) 発表資料(420KB)
  (一財)日本不動産研究所 中四国支社兼公共部 専門役 仲野 亮太
   公共部 参事 大竹 良和
 「「死亡者課税」と相続未登記~自治体アンケートから見える制度の課題~」
概要(645KB) 発表資料(438KB)
  (公財)東京財団 研究員兼政策プロデューサー 吉原 祥子
 「比準評価に関する調査研究~建築設備の総合評点化についての分析~」
概要(644KB) 発表資料(4.44MB)
  名古屋市財政局税務部固定資産税課 家屋係長 山田 直毅
主事 小林 祐介
 「固定資産税GISを活用した次年度向け賦課事務のさらなる効率化に向けた挑戦~基幹系税務システムとの準リアルタイム連携の実現を通して~」
概要(644KB) 発表資料(1.11MB)
   福山市企画財政局税務部資産税課 主事 森原 章文
  主事 岡田 実代
 「法務局電子データの多面的活用による固定資産税事務等の省力化と住民サービス向上の取組について~費用対効果を念頭に置いた試行のあらまし」
概要(664KB) 発表資料(724KB)
 松浦市税務課 課長補佐          宮崎 直人
参事兼固定資産税係長 反田 隆二

2016/10/28

フィナンシャル・レビュー127号が、出ていた

フィナンシャル・レビュー
平成28年(2016年)第2号(通巻第127号)

平成28年10月発行
目次
<特集>税制改革‐エビデンスに基づいた政策提言
田近 栄治 成城大学経済学部特任教授
 責任編集
田近 栄治
(成城大学経済学部特任教授)
 日本の所得税改革-経済,財政と社会保障の現状を踏まえた提言-
  1. はじめに
  2. 財政の課題
  3. 社会保障関係費はなぜ増大を続けるのか
  4. 所得税改革の課題と進め方
  5. おわりに
田近 栄治
(成城大学経済学部特任教授)
八塩 裕之
(京都産業大学経済学部教授)
経済格差と税・社会保障負担に関するマイクロ・シミュレーション
  1. はじめに
  2. データと推計方法
  3. 標準結果
  4. 2015 年度の公的制度による評価
  5. 政策シミュレーション
  6. 再分配効果と政策的含意
  7. まとめ
川出 真清
(日本大学経済学部教授)
 女性の労働と税―データを用いた現状分析―
  1. はじめに
  2. 103 万円・130 万円の壁
  3. 1989 年と2013 年の年収分布比較と要因分解
  4. 2004 年の配偶者特別控除の一部廃止の効果分析
  5. 現在の議論
  6. おわりに
横山 泉
(一橋大学経済学研究科/一橋大学国際・公共政策大学院専任講師)
児玉 直美
(一橋大学経済学研究科/一橋大学国際・公共政策大学院准教授)
家計の資産選択と金融所得課税
  1. はじめに
  2. わが国の金融所得課税改革
  3. わが国家計の資産選択の実態
  4. 家計の資産選択に関する先行研究
  5. 実証分析
  6. おわりに
山田 直夫
(日本証券経済研究所主任研究員)
 中小企業課税の新展開―資本と労働間の所得移転にどう対応すべきか―
  1. はじめに
  2. アメリカ ―パススルー法人を活用した社会保障税の節税問題―
  3. イギリス ―法人税の最低税率設定による法人成り問題―
  4. ノルウェー ―二元的所得税の下での節税問題と2006年税制改革―
  5. 日本 ―近年の制度変化と今後の改革の方向性―
  6. おわりに
田近 栄治
(成城大学経済学部特任教授)
八塩 裕之
(京都産業大学経済学部教授)
法人税の帰着―労働は法人税を負担しているのか?―
  1. はじめに
  2. 法人税の帰着に関する理論
  3. 法人税の労働への帰着に関する実証分析
  4. 分析方法とデータ
  5. VAR モデルの推定結果と動学乗数
  6. おわりに
布袋 正樹
(大東文化大学経済学部准教授)
 国際課税制度が多国籍企業の経済活動に与える影響
  1. はじめに
  2. 日本の国外所得免除方式への移行:税制改正の背景,目的およびその内容
  3. 外国子会社配当益金不算入制度による国外所得への税負担の変化
  4. 実証研究のレビュー
  5. 議論
長谷川 誠
(政策研究大学院大学助教授)
 財政力の地域間格差と税源配分:交付税は格差を是正するのか?
  1. はじめに
  2. 分析方法
  3. 分析結果
  4. 結論
宮崎 毅
(九州大学大学院経済学研究院准教授)
平成27年度の財務省財務総合政策研究所の活動

2026/04/21

財政史におけるユリウス塔

 昨日のゼミで,プロイセンのビスマルク時代,ベルリンのユリウス塔(Juliusturm)に帝国戦争準備金が保管されていた,という話が出てきた.これは,普仏戦争後のフランス賠償金を原資とするドイツ帝国の戦争準備金のこと.

ただし,第一次大戦のような総力戦になると,現実の戦費が巨大すぎて,このような準備では全く足りなかった.すなわち,1914年の開戦後の戦費のわずか二日分にすぎなかった,といわれている(https://api.pageplace.de/preview/DT0400.9780190070656_A38171694/preview-9780190070656_A38171694.pdfのpage 100.).つまり,19世紀型の「金庫に金を積んでおけば開戦に耐えられる」という発想は,20世紀の大規模総力戦にはとうてい対応できなかったのである.

このことを印象的に示す記述として,同上の出典箇所には,Walther Rathenauの1918年時点での回顧が,次のように引用されている.

戦争支出の一か月分があれば、世界中のあらゆる貧困を一掃できただろう。さらに一か月分があれば、人類に長期的な安全を与えることができただろう。三か月目には、都市は楽園へと変わっていただろう。四か月目には、研究はあらゆる物質的制約から解放されていただろう。五か月目には、同様に芸術もまた解放されていただろう。

その後,第二次大戦後の西ドイツ期になると,財務大臣Fritz Schäfferの時代,1950年代に連邦政府が財政黒字・資金余剰を積み上げた際,ユリウス塔(Juliusturm)という言葉が再び用いられた(https://iwp.uni-koeln.de/sites/iwp/Dokumente/04_Publikationen/iwp_Policy_Paper/DP_01_2007.pdfの31頁).こうして,ユリウス塔は歴史上の実例から一歩離れ,国家が目的を定めて余剰資金を囲い込むことの隠喩へと転化した.

【典拠】Günther Schmölders, Fiscal psychology, 12 National Tax Journal 340 (1959) at 344から.

2017/01/25

「消費税の研究」が公刊されていた

日税研論集70号(2017)である。
消費税の研究
発刊にあたって 金子宏
序 章 消費税の軌跡-導入から現在まで 佐藤英明
第1章 経済活動と消費税 渡辺智之
第2章 国の財政と消費税の歴史的展開 関口智
第3章 地方の財政と消費税 上村敏之
第4章 課税対象取引-納税義務者の検討も含めて 谷口勢津夫
第5章 非課税取引(1)-金融取引等 辻美枝
第6章 非課税取引(2)-医療・教育等 渕圭吾
第7章 中小事業者と消費税 金井肇
第8章 税率構造-軽減税率の法制化を踏まえて 金井恵美子
第9章 仕入税額控除 西山由美
終 章 日本の消費税はどこへいくか-国際比較からの展望 増井良啓 

2014/08/06

佐藤健太郎『「平等」理念と政治 ―大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』

日本政治史の本格的な研究書。神戸正雄の思想形成過程を河上肇と対比して論じ(第1章)、臨時財政経済調査会の税制改正案を分析し(第2章)、さらに進んで、知事公選・両税委譲・雪害運動・沖縄救済・地租法改正法案という諸問題を地域の「平等」に関する政治過程として捉え検討する(第3章)。

おおいに蒙を啓かれる。神戸正雄のものはこれまで断片的にしか読んだことがなかった。納税道義に関する彼の関心がどこに由来するか、本書によりはじめて理解できる。「道義院」設立論者であった彼の思想的枠組みは、「対外的な危機意識を背景にした国家的視点、非道義的な気風の排除、富豪への嫌悪感から来る社会主義との一定の親和性」にあったのである(22頁)。この考え方と財産税導入論が結合する。しかも神戸の場合、社会政策的税制論とは一線を画し、給付能力原則に適合した租税理論を展開した(65頁)。本書は、このような神戸学説の読み込みを経て、臨時財政経済調査会の議事がどのような対立軸を有していたかをつぶさに検討する(たとえば141頁)。なるほど。

時代を超えて、税制改正に携わるアクターに対して、「あなたはどういう理念をもって行動しているのですか」、と静かに問いかけるような、奥行きと広がりを感じた。日本史年表を片手に読み進むのも楽しい。


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2025/05/31

国税庁保有行政記録情報を利用した統計的研究

国税庁のこのサイトに、ディスカッションペーパーが公表されていた。日本の税務申告データを用いた貴重な研究だ。

たとえば、國枝=米田(2023)は、税務データの学術利用の意義につき、高額所得者の所得分布の分析の例を中心に説明する。すなわち、分析ができるようになった背景として、次のように指摘する(同2頁)。

これまで、我が国においては、国税庁統計年報のような所得階層別の集計データや高額所得者・納税者公示制度が存在したものの、個票を含む税務データの利用がほとんど許されておらず、我が国の財政学者は、国際的に評価される租税政策に関する実証研究を行うことが困難となっていた。・・・しかし、国税庁は、2021 年 6 月に、我が国の税・財政政策の改善・充実等に資する統計的研究を実施する研究者を公募することを公表した。この研究においては、税務大学校職員との共同研究を前提に、国税庁の保有する行政記録情報(税務データ)を利用した分析等を行うことができる。

そして、このような分析の一例として、高額所得者の所得分布のパレート係数の推計を説明し、次のように述べる(同3頁)。

高額所得者のデータを十分含まないサーベイデータでの分析と異なり、税務データを利用することで、我が国においても、超高額所得者への所得集中が進んでいることを明らかにすることができる。高額所得者の所得分布については、さらに分析を進めることとしているが、税務データの学術利用の意義を示す一例と考えられる。

税務データを用いることで、実証研究が進む。実態がわかり、制度改善のヒントになる。引き続き応募がなされ、良い成果が出てくることを期待したい。

法律家の眼からみて興味深いのは、このような研究を可能にしたのが共同研究という枠組みをとるというアイディアだったこと。そうすることで、守秘義務というハードルをクリアしている。

なお、これとは別に、国税庁は、国税庁保有行政記録情報を匿名加工した匿名データを利用して統計的研究を実施する研究に門戸を開いている。

2021/05/14

占領下昭和21年の財産税法・戦時補償特別措置法に至る時期の史料

昭和財政史の第7巻で、法律成立に至る経緯がわかる。司令部と主税局の間のやりとりが、日付を追って、臨場感あふれる記録になっている。

そして、これを補足する資料集がある。『資料・金融緊急措置』である。これも、オンラインで簡単にみることができる。

たとえば、財政再建計画大綱要目(昭和二〇年一一月五日閣議了解)。ここの182頁にある。戦争で膨らんだ巨額な公債、連合軍駐屯関係経費、賠償より生ずる国庫負担、そしてハイパーインフレーションの発生。こういった難題に直面した時期の文書だ。異様な緊迫感をもって迫ってくる。

戦後インフレ諸対策の立案(PDF:3885KB)

なお、ドッジラインに至る時期の日銀の動きについて、伊藤正直教授のこの論文



2021/04/08

20 か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

イタリア議長国G20の2nd Finance Ministers and Central Bank Governors Meetingが4月7日に声明を出した。ここで日本語の仮訳を読める。うしろのほうのパラグラフで(パラグラフ番号が見当たらないので仮訳だと6頁下の部分)、税制についてこう述べている。

我々は、世界規模で公正、持続可能かつ現代的な国際課税システムのための協力を継続していく。我々は、2021 年半ばまでに、第 1 の柱及び第 2 の柱の青写真に関する報告書という強固な土台の上で、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に至ることについて引き続きコミットしている。我々は、今日までの進捗を認識し、G20/OECD「BEPS 包摂的枠組み」に対し、設定された期限までに合意に至ることを目指して、残された未解決の課題に対処するよう求める。我々は、国際的に合意された税の透明性基準の実施における進捗を認識し、OECD による暗号資産に関する自動的情報交換に係る提案の検討についての進行中の作業を支持する。我々は、7 月の税制と気候変動に関するハイレベル税シンポジウムにおける建設的な議論を期待する。我々は、新型コロナウイルス危機対応における税と財政政策に関する OECD の更新された報告書に留意する。我々は、途上国に対する持続可能な税収基盤を築くための能力強化に関する支援への我々の関与を再確認し、OECD に対して、G20/OECD「BEPS 包摂的枠組み」への参加を通じた進捗に関する報告書を用意し、国内資金動員の努力をさらに支援することが可能な分野を特定するよう求める。

くわしい内容はOECD事務総長からの報告書OECD Secretary-General Tax Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governorsで記されており、そこには各種文書へのリンクが脚注の形で付されている。これまでの流れを一覧するのに便利。この報告書は一見すると長く見えるが、じつはCOVID-19関連のAnnex Aが長いだけで、本文は30頁強。

網羅的にではなく選択的に、上の声明に、OECD事務総長からの報告書に出てくる各種文書へのリンクを対応させると・・・

「我々は、2021 年半ばまでに、第 1 の柱及び第 2 の柱の青写真に関する報告書という強固な土台の上で、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に至ることについて引き続きコミットしている。」

「我々は、7 月の税制と気候変動に関するハイレベル税シンポジウムにおける建設的な議論を期待する。」→この報告書

「我々は、新型コロナウイルス危機対応における税と財政政策に関する OECD の更新された報告書に留意する。」→これが上記のAnnex A

2026/08/11

Musgraveは韓国で何を助言したのか

1.二度の邂逅と最近の発見

Richard A. Musgrave教授(1910–2007)には、二度、お目にかかったことがある。

一度目は1992年、私が米国ハーバード大学のInternational Tax Programにいたときだった。Musgrave教授がゲストとしてクラスにお越しになり、その場には金子宏先生も出席されていた。二度目は1997年、京都で開催された第53回国際財政学会(IIPF)大会だ。たまたまMusgrave教授がお一人で歩いていらっしゃるところに出会い、「ハーバードで先生のお話をうかがいました」とご挨拶したところ、にこやかに応対してくださった。

2026/06/04

ミュンヘン会合の成果が公表されていた

2025年12月、ミュンヘンで「Building Blocks of an International Tax Order」という研究会合が開かれた。二日間にわたって、12本の論文がプレゼンされ、それに対するコメントが展開された。ぼくは体調不良で行けなかったのだが、提出していた論文を公刊物に加えてもらった。それが、Bulletin for International Taxation Vol.80, Number 4/5, 2026の特集。

特集の趣旨を一言でいえば、断片化した世界において、新しい税制選択がなされる際においても有効に機能しうる国際課税設計の個別要素を検討してみよう、ということだ。会合の招待状には、こう書いてあった。

If a decade ago we wondered about how to further integrate tax international tax rules, today we wonder whether such cooperation can continue even on a bilateral level. In a spirit of some humility, therefore, this conference seeks not to suggest an alternative multilateral path forward. Rather, as we wait upon events, the intent is to explore discrete pieces of international tax architecture that might prove effective as new tax policy choices are made in a more fragmented world.

この文章を引用して序文が特集の趣旨を説明している。それに続く本体は4部構成。以下、149-151頁のabstractをもとに、各論文を概観しておこう。

Part 1: General Principles of International Taxation

Nadine Riedel, “National versus International Welfare”

法人税政策は、根本的に国際的な環境の中で作用しており、各国政府がほとんど内部化しないクロスボーダー外部性を生み出す。本稿は、国際法人課税の経済学的基礎を概観し、近年のOECD/G20改革を評価したうえで、実証的不確実性と地政学的制約の下では、広範な構造的再設計を追求するよりも、既存制度を統合・強化することを主張する。

Shafik Hebous and Alexander Klemm, “Can Siri and Alexa Pay Taxes?”

AIが経済を変容させるにつれて、AIに課税すべきだという主張が勢いを増している。しかし、AIそれ自体を標的とする課税は非効率をもたらすおそれがあり、その負担は最終的には人々に帰着する。本稿は、AI固有の税は適切ではないと論じ、むしろ、イノベーションを阻害することなく、デジタル時代のレントを捕捉し、国境を越える課題に対応し、衡平を保護する税制を重視する。

Mathias Risse and Marco Meyer, “International Tax Justice: The Independence Fallacy and the Myth of Freely Disposable National Income”

各国はしばしば、国民所得を自由に処分できるものとして扱う。著者らはこの前提を “Independence Fallacy” と呼ぶ。相互に結びついた経済においては、所得は、国境を越えて財産制度が承認されることに依存しており、そこからグローバルな分配的正義の義務が生じる。これらの義務は、財政主権を制約し、国際租税協調を支持する。

Johanna Hey, “The Single Tax Principle”

Single tax principle(STP)は、国際租税法において最も議論の多い考え方の一つであり続けている。本稿は、その内容、確立した諸原則との関係、および実務上の含意を検討し、STPから導かれる解決策、とりわけグローバル・ミニマム課税が、分断化した国際租税環境の中で存続可能であり続けるかを、EUの経験からの示唆も踏まえて探究する。

Daniel Shaviro, “Once for Good Measure? Comment on Johanna Hey’s ‘The Single Tax Principle’”

本コメントは、Johanna HeyによるSTP批判に応答する。

Philip Baker, “The Missing Building Block: The Promotion of Human Rights and Taxpayers’ Rights”

本稿は、人権および納税者権利の尊重と促進が、正統性ある国際租税秩序にとって不可欠な構成要素であると主張する。本稿は、この二つの権利枠組みを区別し、それらの法的および実際上の重要性を説明し、国際課税設計の中にこれらを組み込むことが、tax morale、適法性および制度的安定性を維持するうえで重要であることを示す。

Part 2: Taxation of Business Income

Yoshihiro Masui, “The Role of Residence-Based Taxation in Business Income Taxation”

本稿は、事業所得課税における居住地ベース課税の役割を評価する。その重要性は、法人居住地の多義性、居住地の選択可能性の増大、および個人株主所得を正確に課税することの困難性により、低下していると論じる。本稿は、居住地ベース課税の役割が縮小した将来について、三つのシナリオを示す。

Afton Titus, “Digital Services in Africa: Rebalancing Business Income Taxation through Inter-Nation Equity”

本稿は、アフリカにおけるOECDのPillar Oneと国内デジタルサービス税(DST)を比較し、公平性、中立性、簡素性および執行可能性の観点から評価する。アフリカのDSTは、国家間衡平その他の政策原則に照らして良好に機能する一方、Pillar Oneの評価は低い。本稿は、開発途上国の生存にかかわる財政不足が解消されるまでは、先進国はDSTを制約することを避けるべきであると結論づける。

Part 3: Other Sources of Public Revenue 

Wolfgang Schön, “Tariffs and the International Tax Order”

関税は、2025年に、現米国政権が多様な目的のために広範な関税を用いたことにより、国際課税の世界において顕著な特徴となった。本稿の主眼は、関税の役割を、間接税と直接税という二つの異なる文脈において定義することにある。消費課税の観点から見ると、関税は輸入品に対する差別的な税であり、無差別という概念そのものとその帰結に根本的な挑戦を突きつける。所得課税の観点から見ると、関税は、国境を越える物品販売から生じる利益に対する源泉徴収税の代替物として概念化できる。この出発点から、原産地国および仕向地国の政策選択肢が説明される。

Yan Xu, “VAT and Indirect Taxes: Rethinking International Taxation”

本稿は、VAT、デジタル取引税および気候関連賦課金を検討し、断片化したルールの下でデジタル化と脱炭素化により形づくられる経済における、それらの相互作用を明らかにする。本稿は、これらの間接税を国際租税論議の中心へもってくるべきであり、UN主導でOECDの知見を取り入れた多国間枠組みの中で、別個の縦割り領域として扱うのではなく、体系的に調整すべきであると論じる。

Andrés Báez Moreno, “Can Failed Taxes Be Revived through Modest Innovation? On the New Proposals for Net Wealth Taxes”

本稿は、純資産税に関する近時の提案が、伝統的な富裕税についてよく知られた失敗を真に克服しているのかを批判的に検討する。経済状況および透明性をめぐる条件の変化を認めつつも、「今回は違う」という楽観的主張に疑問を呈し、多くの制度設計上および執行上の問題は構造的なものであり、新たな実務上および法的な課題を生じさせうると論じる。

Part 4: Modes of Cooperation

Georg Kofler, “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”

“Building Blocks of an International Tax Order” という会議テーマの文脈において、本稿は、直接税における国際的な無差別基準の弱点と、なお残る存続可能性を検討する。租税条約、通商法および投資法を素材として、主として欧州の観点から、体系的な概観と現代的論点の選択的検討を通じて、保護の浸食を跡づける。

Robert J. Danon, “The Rise of Tax Treaty Supremacy: The Case of Non-Discrimination”

本コメントは、Georg Kofler教授の “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”に応答する。

Stef van Weeghel, “The Role of Tax Treaties”

主としてOECDモデルおよびUNモデルによって形づくられてきた二国間および多国間租税条約の拡大は、国際的な制度調整、貿易および投資を促進してきた。しかし、特に開発途上国にとっての公平性をめぐる懸念は残っている。本稿は、租税条約の影響、その批判、および、衡平性と効率性を改善するための、脱政治化され柔軟なモデル条約の可能性を検討する。

Will Morris, “The ‘Modest’ Tax Treaty: A Comment on Stef van Weeghel’s ‘The Role of Tax Treaties’”

本コメントは、租税条約を壮大な制度ではなく契約として位置づけ、その設計における控えめさと現実主義を強調する。

Philip Baker, “Building Blocks of an International Tax Order: Perspectives for Multilateral Cooperation”

本稿は、OECD、UNおよび地域的イニシアティブにおける展開を概観し、改革を主導する見通しを評価する。

2025/10/07

Graetz (2016) Follow the Moneyを演習会読風にしてみた

Graetz (2016) Follow the Moneyは、国際課税に関するGraetz教授の論文集だ。歴史、事業所得、ポートフォリオ所得、ヨーロッパ、の4部構成で、20年にわたって公表されてきた9つの著名な論文を収録している。私も、これらの論文が公表されてきたそのおりおりに、おおいに刺激を受けてきた。

この論文集は、全体がopen accessになっていて、学習用教材としても使いやすい。そこで、日本で国際課税をともに学ぶ学生さんたちを念頭に、さらに一歩、身近なものにしてみたい、と考えた。

そのためのひとつのやり方として、この本の序文を演習で会読する、という仮想の設定のもとで、ChatGPTに会話台本を作成させてみた。

私のプロンプト:大学の演習で、この文書を会読して議論する、という設定で、会話台本をつくれ

以下が、ChatGPTの作成した結果をもとに、すこし手を加えたものだ。読んでみて、もし興味を覚えた方がいらっしゃったら、今度は、この本そのものをご覧いただければうれしい。

🎓大学演習会話台本:「Graetz『Follow the Money』序文を読む」

登場人物

  • A教授(女性)…租税法・国際課税論の専門家。指導的かつ穏やかな語り口。

  • Bさん(男性学生)…素朴な疑問を率直に投げかけるタイプ。

  • Cさん(女性学生)…国際政治の視点から制度を考えるタイプ。

  • Dさん(男性学生)…理論分析を重視し、批判的に読むタイプ。


【場面】大学ゼミ室。

テーマは「国際課税の制度構造とその政治経済的意味」。
学生たちはGraetzの『Follow the Money』序文を読み終えたところ。


【導入:金の流れを追う】

A教授
さて、今日はGraetzの『Follow the Money』の序文を読みましたね。まず、この本のタイトル——「金の流れを追う」とは何を意味していると思いますか?

Bさん
単に「税金の流れ」ってことですか?つまり、どの国でどれだけ取ってるか、みたいな?

A教授
それも一部です。でもGraetzはもっと広い意味で使っています。お金の流れを追うとは、「資本や利益が国境を越えてどう動き、それに対して国家がどう課税権を主張するか」という制度の構造を解き明かす、ということなんです。

Cさん
なるほど、税制の技術的な話ではなく、国家と市場の関係全体を見るということですね。

A教授
その通り。彼は国際課税を“国家の政治経済的構造を映す鏡”と捉えています。租税を通じて、国家がどのように富を制度化しているかが見えるんですね。


【第1幕:源泉地と居住地】

Dさん
序文の中盤では、1920年代の国際連盟がつくった「源泉地」と「居住地」の二原理が国際課税の基礎だと説明されていました。でも、もう100年も前の仕組みが、今も続いているのは驚きです。

A教授
ええ。国際課税の骨格は100年前にできた枠組みなんです。つまり、どの国がどの所得を課税できるかを「源泉地」と「居住地」で分ける構造。けれど、Graetzが指摘するように、この枠組みはいまや揺らいでいます。なぜだと思いますか?

Bさん
デジタル企業のせいですよね。どこで利益が生まれてるのか、わかりにくいから。

A教授
そうですね。所得の「源泉地」を地理的に特定するのが難しくなっている。企業の「居住地」も、登記を動すなどして簡単に変えられる。つまり、国家の国境と課税の範囲が一致しなくなっているんです。


【第2幕:国際課税と国家主権】

Cさん
このあたりで、Graetzが「国際課税は国家の主権の問題でもある」と言っていたのが印象的です。税って経済だけの話かと思っていたけれど、主権と深く結びついてるんですね。

A教授
ええ。近代国家は、徴税を通じて国民を統合してきました。租税は国家の正統性の基盤なんです。
ところがグローバル化によって、国境を越える資本や企業が国家の課税権を相対化してしまった。だからこそGraetzは「国家がどのように財政的主権を再構築できるか」を問うているわけです。

Dさん
つまり、税制改革は単なる技術ではなく、「国家の再設計」でもある、と。

A教授
ええ。だから彼は税制を「社会契約」の一部として見るんです。


【第3幕:租税競争と協調】

Bさん
最後の節で、租税競争と協調の話が出てきましたよね。僕は「競争」と「協調」って正反対のことだと思ってたんですが、Graetzは「同じ制度の二つの面」だと書いていました。どういう意味なんですか?

A教授
いい質問です。国家は、資本を呼び込むために税率を下げたり優遇措置を作ったりします。これが租税競争。でもその結果、みんなが税収を失う「囚人のジレンマ」に陥る。だから、その弊害を抑えるために協調の仕組みが必要になる。つまり、競争があるから協調が生まれる、というのです。

Cさん
OECDやG20のBEPSプロジェクトもその流れの一部ですね。でも、Graetzは「協調も政治的妥協の産物だ」とも言っていました。先進国が主導している構造は変わらないのでは?

A教授
その通り。制度は常に力関係の上に立っています。だからこそ、租税協調は“政治的プロセス”なんです。単なる経済的効率化ではなく、誰がルールをつくるのか、という問題なんです。


【終幕:租税と社会契約】

Dさん
Graetzは最後に「租税は社会契約の表現である」と締めくくっていますね。これは、租税を単なる財政手段としてでなく、正義や民主主義の制度的基盤と見るという立場なんでしょうか。

A教授
ええ。国際課税を考えることは、「グローバルな正義」をどう制度化するかを考えることでもある。国家と企業、そして市民社会がどんなルールで富を分け合うか——それがこの本の主題です。

Bさん
なるほど。国際課税って、すごく“政治哲学的”なテーマなんですね。

A教授
そうなんです。数字よりも、「制度の背後にある理念」を読むことが、この本を理解する鍵といえるかもしれません。


【ゼミ討論のまとめ】

  • 「金の流れを追う」とは、制度の構造を解き明かすことを通じて資源配分の力学を分析すること。

  • 国際課税の構造(源泉地課税と居住地課税の二分法)は、もはや現実に適合しない。

  • 租税競争と協調は、単純な二項対立ではなく、国際制度の生成過程の両側面。

  • 租税は社会契約の表現だ。

2020/04/16

tax multilateralismのゆくえ

4月14日付けで,
INSIGHT: OECD Digitalization Project—Tax Multilateralism in the Aftermath of the Pandemic
と題する記事が公表されていた。

この記事は,最近の3つのできごと
  • 米国のCARES Act
  • インド・インドネシアのequalization levyの拡張
  • OECD Digitalization Projectへの延期の声
に触れて,税の分野における多国間主義(tax multilateralism)に逆風が吹いていること,しかしそれは依然としてパンデミック以後の変化した環境においてこそ追求すべきものであることを述べている。

たしかに,各国が巨額の財政出動を行えば,その財源をまかなうための課税が不可避になる。そのことが「外国につけを払わせる」自国第一主義的な措置の増殖を招くという見立ては,十分ありうるところ。これに抗する意味でも,今般のG20声明が,結びのところで
我々は、グローバルな課題、特に経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応や得られる機会の向上に関連する課題に引き続き取り組みつつ、下方リスクから守り、迅速な回復を確保し、強固で持続性があり均衡のとれた包摂的な成長を実現するため、全ての利用可能な政策手段を用いるとの我々のコミットメントを再確認する。
と述べていることには,意義を見いだしたい。

2011/09/09

2015/09/18

最判平成37年2月28日刑集16巻2号212頁(株式会社月ヶ瀬事件)の言葉づかい

源泉徴収制度が合憲であるとした大法廷判決である。憲法29条や18条についても争われたが,憲法14条違反にならないとしたくだりで,次の制度理解を示している。すなわち,所得税法が給与の支払者を源泉徴収義務者としたのは
給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る
という点を考慮したからだ,というのである。そして,そのことには合理的理由があり,憲法14条に違反しないとしている。ここにいう「特に密接な関係」がある者を源泉徴収義務者にする,という制度理解は,最高裁の最近の判決でも参照されている(破産管財人が弁護士報酬や破産会社元従業員に対してする支払に関する最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁)。その意味でも,重要な判決である。

もっとも,改めてこの大法廷判決を読んでみると,「担税者」という言葉をつかっているなど,現在の議論からみてやや違和感をおぼえるところがある。たとえば,憲法84条について
担税者の範囲,担税の対象,担税率等を定めるにつき法律によることを必要とした
と述べている。このような言葉づかいについては,橋本公亘・租税判例百選第2版171頁(1983年)が,
この判決は「担税者」という用語を用いているが,これは財政学上の用語であるから,「納税義務者」とした方がよかったと思われる。
と指摘していた。金子宏・租税法第20版868頁(2015年)も,
ただし,この判決の用語や論理には,問題が少なくない。
とコメントしている。用語の点で,その後の議論は,より法律に即した表現をとってきたように感じられる。論理の点では,最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(大嶋訴訟)の大法廷判決が憲法14条の違憲審査基準を定立している。時代の経過とともに,一方で生き続ける用語やロジックがあるとともに,他方で変化(進化?)していくものがあるということだろうか。

2023/03/03

1936年の論説「税制改革と新聞への特典」

東洋経済新報昭和11年10月24日号13-14頁は、「税制改革と新聞への特典ー文化的使命の再検討ー」と題する論説で、当時の馬場財政における税制改革案について、以下のように論じた(旧字を改めた)。

まず、次の点が問題とされる。

  • 法人の営業収益税を3.4%から4.4%に引き上げるが、従来通り新聞社には課さない
  • 新設する事業税についても、新聞社を除外
  • 郵便料値上げにあたり、第三郵便のうち日刊の新聞紙の発行人又は売りさばき人より差し出す場合に限り、5厘に据え置く、しかも重量限度を拡張
何故に以上の如き特典を新聞に与えるか。政府の説明は、「新聞紙の持つ文化的使命に鑑み」というもの。
これに対し、次のように論じて、「今回の税制改革に当たって・・・従来新聞に与えている特典についてすらも再検討すべき筈であった」と主張。
  • 今や新聞社は立派に企業化されて、その少なからざるものがいかなる会社よりも利潤を得ている。「新聞社に利益をあげえないものがあるのは、他の会社においても同じく経営困難なものがあるのと同じ」。事業そのものとしてはいかなる観点からするも、課税の対象となりうる。
  • もし文化的使命をいうならば、「この相互的依存関係の社会にあって何ものが文化的使命を有さないであろうか。社会は新聞を無代で配達を受けているのではない。それは企業として当然なる利潤を織り込んで価格付けているのである。」
さらに筆を進め、文化的使命をいうなら雑誌のほうが一層文化的というべきだが、特典を雑誌社に及ぼすことを主張しているのではない、と断る。そのうえで、馬場蔵相と頼母木逓相が「新聞という強力なる機関の歓心と人気を買う目的」で新聞への特典を与えたと言ったら、両相はこれに対して果たして何と答えられるであろうか、と痛撃している。

2012/11/22

各国の財政政策が似てきている?

エコノミスト誌のブログが,対GDP比率でみた歳入と歳出の20年トレンドを比較すると,各国の動きが収束の兆しをみせていると述べている。本当か?