11 August 2026

Musgraveは韓国で何を助言したのか

1.二度の邂逅と最近の発見

Richard A. Musgrave教授(1910–2007)には、二度、お目にかかったことがある。

一度目は1992年、私が米国ハーバード大学のInternational Tax Programにいたときだった。Musgrave教授がゲストとしてクラスにお越しになり、その場には金子宏先生も出席されていた。二度目は1997年、京都で開催された第53回国際財政学会(IIPF)大会だ。たまたまMusgrave教授がお一人で歩いていらっしゃるところに出会い、「ハーバードで先生のお話をうかがいました」とご挨拶したところ、にこやかに応対してくださった。

Musgrave教授といえば、私にとっては何よりもThe Theory of Public Finance: A Study in Public Economy (McGraw-Hill, 1959)の著者だった。ところが最近、1960年代の日韓関係を調べる過程で、Musgrave教授が1965年から1967年にかけて韓国の税制改革に関わっていたことを知った。あのときハーバードや京都でお目にかかった先生が、そのさらに30年ほど前には、朴正熙政権下の韓国で税制について助言していたのである。

2.Musgrave教授と韓国

では、Musgrave教授は韓国で何を助言したのだろうか。

主要な報告書は、1965年のRevenue Policy for Korea’s Economic Developmentだ。私は、Richard M. Bird and Oliver Oldman編のReadings on Taxation in Developing Countries, revised edition, Johns Hopkins Press, 1967に収録されたものを読んだ。これは原報告書の一部を抄録したものだ。さらに1967年には、Suggestions for the 1967 Tax Reformという別の報告も作成されていた。

その基本にあったのは、公平かつ執行できる税制を作ることだった。高い法定税率を設けただけでは、公平な税制にはならない。所得が十分に捕捉されず、脱税や過少申告が広く行われるなら、強度の累進税率は名目上のものにとどまる。それよりも課税ベースを広げ、現実の所得をできるだけ課税標準に反映させる。所得税だけですべてを解決しようとせず、土地その他の資産への課税を組み合わせる。間接税についても、奢侈的消費などを適切に選んで財源として利用する。何よりも、税務行政が実際に租税を執行できることを重視する。

3.シャウプ勧告との共通点

この考え方は、1949年のシャウプ勧告と似たところがある。両者には、公平性、広い課税ベース、過度に高い法定税率への警戒、所得税を補完する資産課税や間接税、そして税務行政と執行可能性の重視という共通点がある。

たしかに、日韓で税制改革の文脈は異なっていた。1949年の日本では、戦後インフレを収束させ、財政を安定させるとともに、恒久的な租税制度を構築することが課題だった。これに対して1960年代半ばの韓国では、急速な経済開発に必要な資金を国内でどう動員するかが重要だった。Musgrave報告書がRevenue Policy for Korea’s Economic Developmentと題されていたことは象徴的だ。しかしこの違いは、方法の違いではなく、文脈の違いとみるべきであろう。

3.政策知の選択的組み換え

では、この類似は偶然なのだろうか。

Stanley Surrey教授は1949年のシャウプ使節団のメンバーであり、その後、Harvard International Tax Programを中心に開発途上国の税制改革に深く関わった。Oliver Oldman教授もその中心人物だった。Musgrave教授もまた、このHarvardの知的環境のなかで開発途上国の税制改革を論じていた。Richard Bird教授もこの系譜につながる。

この点を考えるうえで興味深いのが、Malcolm Gillis ed. Tax Reform in Developing Countries(Duke University Press, 1989)だ。そこには Shoup教授自身による“The Tax Mission to Japan, 1949–50”が収められている。Bird教授は “The Administrative Dimension of Tax Reform in Developing Countries” を執筆した。Gillis教授も戦後の開発途上国における税制改革の経験を総括している。すでに1989年の時点で、1949年の日本での税制改革は、開発途上国における戦後の税制改革の長い経験の一つとして振り返られていた。その後、シャウプ使節団を日本国内だけの出来事ではなく、戦後の国際的な税制改革の流れのなかに置き直して論じる研究として、W. Elliot Brownlee, Eisaku Ide and Yasunori Fukagai eds., The Political Economy of Transnational Tax Reform: The Shoup Mission to Japan in Historical Context(Cambridge University Press, 2013)がある。

以上から、次の見立てが出てくる。シャウプ使節団からSurrey、Oldman、Musgrave、Birdらへと連なる戦後アメリカの租税専門家集団のなかで、公平性、広い課税ベース、過度な最高税率への警戒、行政能力に適合した制度設計、実証的な分析、という税制改革の方法論が共有された。韓国では、この政策知が、韓国官僚の調査・政策形成と、経済開発のための国内資源動員という当時の文脈と結びつき、1966–67年の税制・税務行政改革へと選択的に組み替えられた。このような見立てである。

4.韓国から南米へ

Musgrave教授はその後、南米コロンビアをはじめ多くの国の税制改革にも関わった。最近のMaxime Desmarais-Tremblay, “Richard Musgrave in Colombia: The Art of Tax Reform in a Developing Country,” FinanzArchiv / Public Finance Analysis, Vol. 79, No. 4 (2023), pp. 332–360 は、その活動を跡づけている。これらの例をさらに追っていけば、戦後アメリカの租税専門家たちが、ある国で得た経験をどのように次の国へ持ち込み、そこでどのように作り替えていったのか、がわかるだろう。

1992年にハーバードでMusgrave教授のお話をうかがったときには、もちろん、こんなことは考えていなかった。京都でお目にかかったときにも、韓国について先生に尋ねることなど思いつかなかった。今になってみれば、少し聞いておけばよかったと思う。時すでに遅し。

21 July 2026

International Tax Observatoryが、CFCルールと柱2の相互関係についてペーパーを出していた

 Alice Chiocchetti, Samuel Delpeuch, and Giulia Varaschin, Three Lessons on the Interaction Between CFC Rules and Pillar 2である。これは、6月末の欧州委員会の簡素化パッケージに含まれていたCFC改正提案に対する、明確な対抗提案だ。

この政策ノートは、GlobeルールはCFC税制を不要にするものではなく、両者は補完関係にあると結論づける。表題にいう「3つのレッスン」とは、

  • 適用範囲と対象リスクが異なる
  • CFC税制には租税回避抑制効果がある
  • 柱2の実効的な最低税率は制度上、15%を下回る可能性がある(SBIE, QRTC, Side-by-Side Packageなどによる)
というもの。これを受けて、EUがその租税枠組みの将来的な簡素化を検討するに当たって、政策立案者は、CFC税制を維持・強化し、その制度設計の一層の調和を追求するとともに、グローバル・ミニマム課税の実効性を高めるための取組みを継続すべきだ、とする。

いくつかコメントしておこう。
  • GlobeルールはCFC税制を不要にするものではなく、両者は補完関係にある、という基本線は、新奇な主張ではない
  • International Tax Observatoryは、パリ経済学校に置かれる独立研究機関で、Gabriel Zucmanが率いている
  • 欧州委員会の提案との関係では、「CFC税制の調和」という点では一致するが、「Globeルール対象企業に適用を維持するか」という点において、正面から対立
  • 企業側からは、「租税回避による社会的費用を重視しすぎ、重複規制の費用を過小評価している」との批判がありうる
  • 租税回避防止を重視する点では途上国の問題意識と共通するが、制度設計としてはかなり居住地国中心

18 July 2026

利益Aの次を構想する―IMFのワーキングペーパー

 IMFのスタッフが、越境サービスの課税手段を総ざらえするワーキングペーパーを出していた。Shafik Hebous, Brendan Crowley, Rasmi Das, Tibor Hanappi, Cory Hillier, Adam Jakubik, Eric Robert, and Christophe J Waerzeggers. "Taxing Cross-Border Services", IMF Working Papers 2026, 152 (2026), accessed 2026/7/18, https://doi.org/10.5089/9798229055048.001

この論文は、越境サービス(とりわけデジタル化されたサービス)に対する各種の課税手段を、消費課税、所得課税、租税条約、租税回避防止措置を横断して整理する。利益Aがつまづいた後、越境サービス課税の全体像を整理し直して、次の多国間合意のための設計原理を提示する論文と位置付けることができよう。

冒頭のAbstractは、以下のとおり。

  • 越境サービス取引に対する現行の課税枠組みには、限界がある。とりわけ、デジタル化の進んだ事業モデルから生じる所得の一部について市場国が課税権を行使できないこと、および、越境サービスへの支払を利用した利益移転の余地がなお大きいこと、である。このような限界に直面して、各国および研究者は、さまざまな課税措置を導入・提案してきた。
  • 本稿は、これらの課税措置を一つの整合的な枠組みのもとに整理し、経済的観点と法的観点の双方から検討する。まず、越境サービス貿易が拡大し、その構成に占めるデジタルサービスの比重が高まるとともに、取引が特定の産業、企業および法域にますます集中していることを、データによって明らかにする。次に、VATのような仕向地ベースの消費課税、デジタルサービス税を代表例とするグロス収入課税、ネクサス・ルールや源泉徴収ルールなどの所得課税上の措置、さらに、損金算入される越境支払を通じた利益移転を抑制する租税回避防止ルールを比較し、総合的な検討を行う。
  • 本稿の主張は、各課税手段の経済的帰着が政策評価の核心であり、各手段を相互に切り離して評価すると制度間の相互作用を見落とすことになる、というものである。本稿の主たる結論は、対象が狭く歪みの大きい代替的措置よりも、仕向地ベースの課税に広く依拠することによって、デジタル化されたサービス貿易がもたらす主要な課税問題の多くに効果的に対処できる、というものである。

17 July 2026

東京高判令和6年4月11日 棚卸資産の判断基準

1.ある特別目的会社が、本件物流施設(6階建ての倉庫)を取得し、譲渡した。納税者が16億円の消費税還付申告、課税庁が消費税の更正処分。事案から推測すると、おそらくプロロジスパーク茨木の案件だろう。浅妻章如「ブログだったもの」が、研究会の記録をアップしている(驚くべきことに研究会終了とほぼ同時だった)。

2.棚卸資産にあたるかは、どういう基準で判断するか。本件では、地裁判決高裁判決のいずれも、結論として、本件物流施設が消費税法36条5項にいう「棚卸資産」に該当する、とした。しかし、判断基準が異なる。

  • 地裁判決 棚卸資産とは、営業活動としての販売をすることを主たる目的として取得・保有するもの
  • 高裁判決 不動産のうち企業が通常の営業過程において販売することを目的として保有するものは棚卸資産にあたり、企業が特別目的会社である場合には、特定資産の流動化に係る業務の過程において販売することを目的として保有するものは棚卸資産にあたる
この他にも、高裁判決は、地裁判示部分から「類型的に」を削る、控訴人主張に応答して「反復継続などの要件は求められていない」と判示する(=1回限りの売却でも棚卸資産になる障害にはならない)など、いくつもの修正を加えている。ただし、
  • かかる目的の有無については、①保有主体の属性、②保有主体の事業目的、③保有に至った経緯、④取得時の当該資産の使用・収益・処分等に係る方針(売却か自己利用か投資か)、⑤(保有後に仕訳を変更した場合には)保有後に変更を合理的とすべき事情の有無・内容等の客観的事実により判断される
という①から⑤の要素については、地裁判決の提示した5つを高裁判決も踏襲した。

3.地裁と高裁の判断基準は、どこが違うか。
  • 地裁の「主たる目的」基準の場合、目的間の比較を行って、販売目的が賃貸目的よりも優越している、だから棚卸資産にあたる、というロジック
  • 高裁の「通常の営業過程における販売目的」基準の場合、販売と事業過程との機能的な結び付きがある、だから棚卸資産にあたる、というロジック(なお、特別目的会社の場合につき、この基準を具体化して、「特定資産の流動化に係る業務の過程」における販売目的、と判示しており、事案との関係ではこちらが結論の導出に効いている)

このように基準が異なることを受けて、高裁判決は、地裁判決を次のように改めた。
  • 地裁判決中の「本件投資法人に対する販売がその主たる目的」を、「本件投資法人への販売がその目的」に改めた。「主たる」の一語の削除が、目的の優越性を不要としたことを示す。
  • 融資関係の事実を詳しく追加して、売却が最初から資産流動化の事業工程に組み込まれていたことを示す根拠とした。
  • テナントへの賃貸につき、本件物流施設を販売する目的を達成するための手段ないし一過程と位置付けた。つまり、「賃貸目的と売却目的のどちらが主たる目的か」を論ずるのではなく、賃貸行為自体を資産流動化過程の内側に取り込んで判断している。同じことを再度言い換えると、賃貸収益を得ていたという事実を、売却目的と競合する事情ではなく、売却目的を実現するための事情として再構成した。
4.高裁判決は「棚卸資産」の範囲を広げたのか?
  • 一般論のレベルでは、必ずしもそうとはいえないだろう。地裁のように「主たる目的」を基準にすれば、企業の通常の営業過程とは無関係な一回的な転売であっても、取得の主目的が転売なら棚卸資産となる可能性がある。高裁の基準は、事業過程への組込みを重視するものであり、単純な広狭関係ではない。
  • もっとも、本件のような特定目的会社については、棚卸資産該当性を認めやすくする方向に働く。売却目的が賃貸目的より「主」である必要がない。一回限りの売却でも足りる。テナントへの賃貸を売却準備の一過程として評価できる。資産流動化計画に沿った売却は特定目的会社の通常の営業過程そのものだ。こういった事情があるからである。

13 July 2026

もりだくさんの令和8年度消費税法改正

令和8年度税制改正の解説が出たので、「消費税法等の改正」を読んでみた。越境EC取引に関する改正を含め、今年の消費税法改正はもりだくさんだ。

1.越境EC取引の扱い

改正の必要性は、はっきりしていた。

  • 同じ商品であっても、国内事業者が販売すれば消費税が課されるのに対し、国外から直送すれば少額貨物については販売時にも輸入時にも消費税が課されなかった
  • 国外事業者が商品を日本国内のプラットフォーム倉庫に保管し、そこから日本の消費者に販売するフルフィルメントサービスを利用する取引は、従来から国内取引として課税対象であったものの、国内に拠点を持たない国外販売者の把握や徴収が難しく、無申告への対応が課題とされていた
そこで、次の改正がされた(はなはだざっくりしたまとめ)。

  • 国外から日本に直送される1万円以下の商品の譲渡(「特定少額資産の譲渡」)について、販売時に国外販売者に消費税を課す
  • 国外販売者がデジタルプラットフォームを介して販売する場合、一定規模以上のプラットフォーム事業者を商品の販売者とみなして、そのプラットフォーム事業者(「第二種プラットフォーム事業者」)に納税義務を転換する
  • 通関負担にかんがみ、少額貨物の輸入時課税は原則として維持するが、個人的な使用に供される貨物について海外小売価格の60%を課税価格とする関税定率法上の特例は廃止
  • これらの施行時期は令和10年4月1日を予定

2.インボイス制度の定着を後押ししつつ、経過措置を段階的にフェイズアウト

  • 売手側:従来の「2割特例」では、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合、売上税額の2割だけを納付すればよかった→これを令和8年9月30日で終了し、その後は、対象を個人事業者に限定したうえで、令和9年分と令和10年分について、売上税額の3割を納付する「3割特例」に移行
  • 買手側:インボイスを発行できない免税事業者から仕入れた場合に一定割合の仕入税額控除を認める措置を、8割→7割→5割→3割と段階的に縮減していき、令和13年10月1日以降は0%にする

3.その他の個別改正として、たとえば・・・
  • 暗号資産の譲渡は引き続き非課税取引だが、その位置づけを「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」に変更→課税売上割合の計算では、暗号資産が決済手段ではなく投資対象として利用されているという実態にかんがみ、譲渡対価の5%を分母に算入
  • 太陽光発電設備からの銅線ケーブル盗難対策として、金属盗対策法を受け、帳簿のみで仕入税額控除を認める古物商・再生資源業者特例の適用範囲を限定→なお、古物商特例については、この間ポストしたこれ
  • 輸出免税の証明書類の厳格化
  • 国内不動産の売買・賃貸の代理、媒介その他の不動産関係サービスを非居住者に提供する場合、輸出免税の対象外に
*******

これは、かなりの改正だ。1の越境ECについては、だいぶ前から議論してきたことが、このやり方で着地した。

今回の解説には多くのことが含まれており、一読するだけでも「おなかいっぱい」になる。たとえば、販売時の課税と輸入時の課税をコーディネートするための登録制度や、販売者・輸入者・通関業者の情報連携、輸入時にも消費税が課された場合の税額控除など、かなり芸が細かい。これから、しっかり読むとしよう。

12 July 2026

欧州委員会の2026年税制報告書に、納税協力の社会的経済的側面に関する章

欧州委員会租税・関税同盟総局(DG TAXUD)が、Annual Report on Taxation 2026, Directorate-General for Taxation and Customs Union, European Commission, Publications Office of the European Union, Luxembourg, 2026を公表した。

特徴的なのがその第4章で、納税協力の社会的経済的側面を論ずる。

  • 納税者の観点からアプローチ
  • 昨年の2025年版では、タックス・ギャップの測定方法(第4章)と税務行政の役割(第5章)を論じていた
  • 既存研究で明らかにされてきた知見を総合
  • 納税コンプライアンスは、摘発確率と罰則だけでなく、制度の簡素さ、法的安定性、申告支援、源泉徴収・第三者情報、行政能力、公平感、政府への信頼、納税モラルの相互作用による
第4章冒頭の2つの段落(101頁)は、次のように述べている。
課税当局によるコンプライアンス確保の取組みを促進または制約する社会的・行動的要因を理解するためには、納税者の視点を考慮することが有益である。高水準の納税コンプライアンスは、さまざまな制度的・社会的・経済的要因の所産であり、税務行政と納税者との相互作用の結果として生じる。欧州委員会の『Mind the Gap報告書』(2025a)は、各国のコンプライアンス執行の枠組みおよび能力、ならびにその基礎にある決定要因について、包括的かつ詳細な分析を行った。同報告書を補完するものとして、本章は、納税者の視点から納税コンプライアンスを論じる。本章の前提は、納税コンプライアンス確保の取組みが社会構造の中に埋め込まれていること、および、納税コンプライアンスを構成する相互補完的な諸要素を認識することがタックス・ギャップを縮小する取組みに資すること、である。

本章は次のように構成される。4.1で、「租税に対する市民の意識」に関するフラッシュ・ユーロバロメーターのデータから、EUがコンプライアンス執行に取り組むことに対する市民の支持が確認される。また、この節では、租税逋脱と納税コンプライアンスに関する基礎的な合理的選択モデルも紹介する。4.2で、納税コンプライアンスの測定を論じ、租税制度の健全性を示す戦略的指標としてのタックス・ギャップの役割を強調する。4.3で、租税制度のさまざまな側面が、納税者のコンプライアンス行動にどのような影響を及ぼすかを分析的に整理する。4.4で、『Mind the Gap報告書』の国別概要票における分析を参照しつつ、税務行政が有するコンプライアンス執行能力(compliance enforcement capacity)の重要性を強調する。4.5で、自発的納税意欲(tax morale)を論じ、4.6で、本章を通じて取り上げられるフラッシュ・ユーロバロメーターの各変数に対する回答を左右する社会経済的属性を分析する。

この最後の4.6の分析は、次のような結果を示している(114頁以下)。

  • 自営業所得を主たる所得源泉とする者は、租税回避・脱税対策をEUの優先事項と考える確率が10.6ポイント低い。資本所得者では16.1ポイント低い。
  • 自営業者は、申告を容易と考える確率が6.0ポイント低く、専門家を利用する確率が3.6ポイント高い。ところが、税制を公平と評価し、課税当局の支援を十分と考える確率は、むしろ給与所得者より高い。
  • 所得額そのものよりも、所得をどのように稼得しているか、すなわち給与、自営業、年金、社会給付、資本所得という所得源泉の違いの方が、多くの認識を強く説明する。

02 July 2026

ATAD改正案ー欧州委員会はCFCルールをどう改正しようとしているか

[昨日ポストした欧州委員会の提案の続き]

1.現行ATADの構造

現行ATADは、CFC所得の取り込み方法について加盟国に選択肢を与えている(7条2項を参照)。

  • Model A  利子、ロイヤルティ、配当、株式譲渡益、金融リース、保険・銀行・金融所得、低付加価値の請求会社所得など、特定カテゴリーの非分配受動所得を対象にする
  • Model B  税務上の便益を得るために仕組まれた「非真正な取決め」から生じる非分配所得を対象とする(資産・リスク・重要人的機能で識別)。その計算は独立企業原則による(8条2項)
Impact Assessment (5.1.2.1)によれば、17加盟国がModel Aを採用、8加盟国がModel Bを採用、2加盟国が両モデルを組み合わせた変形を採用。このことが、EU域内の断片化、法的不確実性、クロスボーダー企業の追加的コンプライアンス費用を生んでいる、とする。

2.Pillar 2との重複計算

Explanatory Memorandum (13-14頁)は、ATAD上のCFCルールとPillar 2の所得合算ルール(IIR)が低課税所得を親会社側またはグループ側で捕捉するという点で重複する、とする。また、Impact Assessment (5.1.2.2)は、(あ)低課税CFC所在地国のQDMTTと株主所在地国のCFC課税による経済的二重課税という問題と、(い)CFC計算・申告とGloBE計算・報告の重複によるコンプライアンス負担という問題、を指摘する。もっとも、Pillar 2とCFC課税の実際の重複については、Pillar 2施行後の実証データがいまだ乏しいのであって、今回の提案は企業側の意見、ATAD評価及び理論的分析に相当程度依拠している点に注意が必要。

3.改正提案

そこで、主に次の4つの改正を提案している。

  • Model Aの義務化。Model Aは、特定カテゴリーの受動所得を対象とする比較的機械的な方式であり、欧州委員会はこれを、より効果的で、執行しやすく、法的確実性が高い方式と評価している。これに対し、Model Bは、移転価格税制と大きく重なり、各国の移転価格実務に依存するため不統一を生みやすいと評価。
  • Pillar 2対象企業のCFC適用除外。Pillar 2の対象となるMNEグループ又は大規模国内グループに属するEU加盟国の納税者について、原則としてATAD 7条1項から3項のCFCルールを適用しない。なお、改正案7条8項は、5項から7項の定義や適用除外と異なる国内規定を加盟国が維持又は導入することを禁じる(加盟国の上乗せ的な課税を制限)。
  • Side-by-Side制度国に親会社がある場合の特則。Side-by-Side制度国(現時点では米国のみ)にUPEが所在する場合、IIR・UTPRが通常どおり働かないため、単に「Pillar 2対象だからCFC除外」とするとATADの濫用防止水準が低下する。そこで、CFC課税の対象から外すにあたり一定の条件を付す。
  • SME carve-out。小規模・中規模グループおよび国外恒久的施設を有する単体のmicro/small/medium-sized undertaking (これはEU会計指令の用語)について、CFCルールを適用しない。

01 July 2026

欧州委員会が税制簡素化パッケージを提案

1. 提案の概要

欧州委員会は2026年6月24日、EU税制の簡素化パッケージを提案した。

  • 直接税分野の複数指令をまとめて改正する「直接税オムニバス」
  • 税務行政協力指令(DAC)を再編・統合する「DAC Recast」

その目的は、EU税制のコンプライアンス負担を軽減して単一市場の競争力を高めつつ、租税逋脱・租税回避・脱税への防御水準を維持すること。年間約79億ユーロのコンプライアンス・コスト削減を見込む。今後、欧州議会への諮問と理事会での採択手続に付される見込み。

2.直接税オムニバスの骨子

  • EU域内の会社間の配当・利子・ロイヤルティ支払について、源泉税を大幅に除去
  • R&D関連の有形資産について、EU共通の最低限の即時償却・加速償却ルールを導入
  • ATAD関係では、CFC税制とPillar Twoの重複を整理
  • 合併指令、税務紛争解決指令、FASTER指令の改正など
3.DAC Recastの骨子

  • DAC6(MDR)→Pillar Two対象企業について一定のDAC6報告義務から除外
  • DAC7(デジタル・プラットフォーム報告)→オンライン上の商品販売につき小規模・低リスクの売主を報告対象から除外
  • DAC4(国別報告)とDAC9(トップアップ税情報申告)→単一の通知手続を導入
  • TIN(納税者識別番号)についてEUレベルの確認ツールを導入
  • DAC1(基本指令)→生命保険商品を対象除外、残る所得・資本カテゴリーについて交換を義務化
4.各種文書へのリンク

Direct taxation omnibus proposal

24 June 2026

最判令和8年6月23日、相続後債務免除益事件

1.概要

被上告人らは、Aから金融機関に対する借入金債務を相続したが、同債務は、同相続後に免除の効力が生じたことにより消滅した。この免除により受けた経済的利益が一時所得に当たるとする所得税の更正処分の取消訴訟。最高裁第三小法廷は原判決を破棄し、事件を東京高裁に差し戻した。裁判所ウェブサイトはこれ

法廷意見は比較的簡潔であるところ、ふたつの補足意見と反対意見がある。とりわけ沖野補足意見は詳細で、「債務免除益に係る所得税課税の根拠及び要件については様々な議論がある上、本件におけるような相続が関わる場合の相続債務との関係については、従来、十分な議論がされてきたとはいい難い。」と述べて、多数意見が、「本件における本件規定の適用について判断したもの」であると位置づけている。

2.事実関係

  • 銀行が、Bを借主とし、A(Bの子)を保証人として、16億円を貸付け。後に銀行がB・Aを被告として貸金返還訴訟を提起。
  • B死亡後、その相続人であるAとX1(Aの子かつBの養子)が同訴訟を承継。
  • 平成16年4月、Aが借入金債務を引き受け、合計6億2630万円を分割弁済すれば残額9億7370万円を免除するという条件付きで、訴訟上の和解。
  • Aは、銀行に対し上記6億2630万円の大半を支払った。
  • Aは最後の100万円を残して平成26年10月に死亡し、Aの妻X2とX1らがAを相続
  • 銀行とX1・X2は、X1が9億7470万円の支払債務を免責的に引き受け、X2がこれを重畳的に引き受ける旨の債務引受契約を締結。
  • X1・X2は平成27年・28年に各50万円、合計100万円を支払ったため、9億7370万円の債務免除の効力が生じた
  • X1・X2は、相続税につき、修正申告によって、この債務を債務控除しない扱いとしていた。
  • 平成30年4月25日、所轄税務署長は、X1・X2に対し、債務免除により受けた各自4億8685万円の経済的利益が一時所得に当たるとして、所得税の更正処分など。
  • X1・X2がその取消を求めて出訴。
  • 東京地裁令和5年3月14日判決は、請求一部認容。争点は、本件債務免除益の存否、資力喪失(所得税法44条の2)の有無、二重課税の排除(所得税法9条1項16号)の適用の有無、理由附記の不備の有無、前訴の弁護士費用等を「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)として控除することの可否。

3.原審の判断

東京高裁令和6年1月25日判決は、請求全部認容。その理由は、最高裁によって次のようにまとめられている。なお、以下引用文にいう「本件規定」とは、所得税法(令和3年法律第11号による改正前のもの)9条1項16号の「相続、遺贈又は個人からの贈与(省略)により取得するもの」を非課税所得とする旨の規定のこと。

相続税の課税価格の算定に当たり、相続税法14条1項の「確実と認められるもの」に当たらず、担税力を減殺させるものではないとして控除されなかった債務が相続開始後に免除を受けたからといって、これによって債務者に新たな担税力が生じると解するのは相当でない。被相続人から相続した債務であって、相続税の課税価格の算定に当たり、近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に同項によって課税価格に算入すべき価額から控除されなかったものが、その後に免除された場合は、当該債務免除に係る相続人の利益は、形式的には当該債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能である。また、当該債務免除に係る相続人の利益は、相続により取得した財産のうち控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができる。そうすると、特段の事情のない限り、これに所得税を課すことは本件規定に反するものとして許されないというべきである。本件において上記特段の事情は見当たらないから、本件債務が免除されたことによる利益に所得税を課すことは、本件規定に反し許されない。

4.法廷意見

法廷意見は、次のように判示して、原審の判断が是認できないとした。赤字と下線は引用者による。第1段落が最判平成22年の一般論を踏襲。第2段落が本件に関する判断。以上を受けて、第3段落が結論。

本件規定にいう「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして、当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、本件規定の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(以上につき、最高裁平成20年(行ヒ)第16号同22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁参照)。

本件においては被上告人らがAを相続した後に本件債務の免除の効力が生じたのであるから、被上告人らが、これによる経済的利益を相続等により取得したということはできない。そして、本件相続に関し、本件債務が相続税法14条1項所定の「確実と認められるもの」に当たらず、相続税の課税価格に算入すべき価額からその金額が控除されないとしても、本件相続後に本件債務が消滅することによって生ずる経済的価値に対して相続税が課されるものではないから、上記経済的利益に所得税を課すことは、同一の経済的価値に対し相続税と所得税とを二重に課すものとはいえず、本件規定の上記趣旨に反するものではないというべきである。

したがって、本件債務の免除により被上告人らが受ける経済的利益は、本件規定所定の非課税所得には当たらず、上記経済的利益に所得税を課すことが、本件規定に反するということはできない。

5.平木補足意見

平木正洋裁判官の補足意見は、次の(1)と(2)の均衡を問題にする。すなわち、(1)仮にAが存命中に債務免除を受けていた場合には、Aに債務免除益課税がされ、その後の相続では免除済みの債務は控除されない。これに対し、(2)原判決の考え方によれば、Aの死亡後に免除条件が成就しただけで、誰にも債務免除益課税がされない結果になる。

6.沖野補足意見

沖野眞已裁判官の補足意見は多くのことを精緻に述べており、直接に原文にあたることが特に必要であるが、大きくいうと2点に分かれる。「1」では、本件債務免除益に係る所得について本件規定に該当するとするのは本件規定の文理と趣旨を超える、とする。これは多数意見の理由を補強する部分である。「2」では、もっともそれは、本件債務免除益が当然に所得であるという意味ではない、とする。相続税上債務控除されなかった相続債務の免除益について、そもそも所得が発生したといえるかは別問題であり、多数意見はそこを判断していない、と念押しする部分である。

7.石兼反対意見

石兼公博裁判官の反対意見は、本件債務は、相続税課税時には担税力を減少させる価値がないと評価されたものの、所得税課税時には担税力を減少させる価値があるという異なった評価を受けたため、本件債務という同一の消極的経済的価値に対して、所得税と相続税が二重に課税されたとする。

17 June 2026

最判令和8年6月16日、外貨間取引為替差益事件

最高裁の第三小法廷が、令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件につき、弁論を開いたうえで、上告棄却。ここから判決文を読める。

1.事案と上告理由

日本の居住者が、スイス所在の外国金融機関にある自己名義の預金口座へ合計105億円を送金、この外国金融機関に資産運用を一任した。この外国金融機関は、運用対象資産に属する外国通貨を用いて、他の種類の外国通貨や外国通貨建て有価証券を取得する取引を行った。

上告理由は、外国通貨により他の種類の外国通貨または同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引を行っても、為替変動のリスクが依然として存在し、為替差益は確定しない、それゆえ「収入すべき金額」(所得税法36条1項)があるとはいえない、というもの。

2.判旨の概要

最高裁は、上告を棄却した。判旨をたどると、まず、権利確定基準を確認したうえで、

所得税法は、所得の把握についても本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うことを予定している

と判示する。それを踏まえて、次のように述べる(テクストの色付けは引用者による)。

以上を踏まえると、ある外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引が行われた場合、変動する外国為替の売買相場の下で本邦通貨との関係において変動していたある外国通貨の経済的価値が、上記取引により他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値をもって固定化され、他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値が流入することによって、ある外国通貨の取得時の経済的価値を上回る部分が実現した利得となるとともに、上記取引時に他の種類の外国通貨又は上記有価証券に係る権利が収入の原因となる権利として確定することから、その時点における他の種類の外国通貨の金額又は有価証券の価額の円換算額(所得税法57条の3第1項参照)を同法36条1項にいう「収入すべき金額」とすべきこととなる。

この判示を受けて、次の結論を導いた。

そうすると、居住者が、外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引を行った場合、上記取引を行った日の属する年分の所得の金額の計算上、上記取引時における他の種類の外国通貨の金額又は有価証券の価額の円換算額が「収入すべき金額」となると解するのが相当である。そして、上記円換算額から支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除した金額が、上記取引に係る所得の金額となるというべきである。

3.補足意見

林道晴裁判官の補足意見は、法廷意見に賛同しつつ、補足して次のように述べ、立法による対応を促している。

しかし、それは飽くまでも為替差損益に係る課税について明文の規定がなく、外国通貨によって他の種類の外国通貨や同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引に係る所得の把握についても本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うほかない現行法を前提とする解釈論にとどまる。外国通貨建ての投資や国際取引が日常的に活発に行われている現状において、所得の把握を常に本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うこと自体に問題がないかも含めて、外貨建取引に係る所得税の課税の在り方を改めて検討すべき時期に来ていると考えられる。仮に、所得の把握を常に本邦通貨の額面価格の単位を基準に行う方針を維持するとしても、為替差益に係る所得の実現時期や、外貨建取引に係る「収入すべき金額」、必要経費等について定める規定を設けることなく、これを所得税法36条1項等の一般的な解釈適用に委ね、外貨建取引が行われた場合の円換算額の計算規定にとどまる同法57条の3を設けるにとどめていることは、租税法律主義の観点から望ましい状況とは考えられないし、日本の租税政策に対する国際社会からの信頼を損なう現象が出てくる可能性も否定できない。

08 June 2026

コンビニでチケットを買ったのに、なぜコンビニがインボイスを出さないのか

A:昨日、セブンイレブンでプロ野球のチケットを買ったんだ。

B:へえ。

A:で、レシートに「インボイスの発行はサービス事業者にお問い合わせください」って書いてある。

B:うん。

A:金はセブンイレブンに払ったのに、なぜセブンイレブンがインボイスを出さないんだ?

B:それはね、ふかーい理由があるんだよ。

A:ほんとかいな。

--

B:じゃあ、昨日の巨人対阪神戦を開催したのは誰?

A:巨人か阪神か主催者だろう。

B:セブンイレブンか?

A:違う。

B:店長が四番を打ってたか?

A:打ってない。

B:副店長が九回を抑えたか?

A:抑えてないね。

B:つまり、野球観戦というサービスを提供したのはセブンイレブンじゃない。

A:なるほど。でも金は払ったぞ。

B:銀行振込したら、銀行が野球を開催したことになるかい?

A:ならないね。

B:それと同じだよ。

A:じゃあ誰がインボイスを出すんだ?

B:試合を提供した側だ。球団や主催者だな。

A:チケットぴあは?

B:チケットぴあは窓口だよ。ただし、発券手数料やシステム利用料については、チケットぴあ自身がサービスを提供しているから、その部分のインボイスはチケットぴあが出す。

A:結構ややこしいな。

B:いや、租税法の考え方は単純だよ。「金を受け取った人」ではなく、「商品やサービスを提供した人」がインボイスを発行する、ということ。

A:なるほどね。

--

B:だからレシートの「サービス事業者にお問い合わせください」という一文は、租税法的に翻訳すると、「私たちは野球をしていません。」という意味なんだ。

A:そうだったのか。急に分かりやすくなった。

B:租税法の世界では、ときどき野球の中身よりも誰が売主かの方が重要なんだ。なんてね。

--

★まとめ★

インボイスを発行すべき者は「代金を受け取った者」を基準に判定するのではなく、課税資産の譲渡等を行った者、すなわち「商品・サービスを提供した者」を基準に判定する。

★補足★

以上の例外として、媒介者交付特例がある。これは、一定要件のもとで、受託者・媒介者が自己の名称・登録番号を記載したインボイスを、委託者に代わって買主に交付できる、というもの。この特例については、国税庁のこのQ&A

★最近の類似ポスト★

ブックオフのレシートに「内税10%」と書いてあるのはなぜ?

04 June 2026

ミュンヘン会合の成果が公表されていた(続き)

 4部構成になっているといったが、特集全体の相互関係は、次のように読み取ることができる。

  • Part 1 は「国際課税の一般原理」を問う
  • Part 2 は「どの国が事業所得に課税すべきか」を問う
  • Part 3 は「所得課税以外の代替的財源は何か」を問う
  • Part 4 は「どの形式で協力を実現するか」を問う

すなわち、Part 1 は「国際課税秩序を正当化する原理は何か」を扱う。Riedel は、各国の法人税政策が国境を越える外部性を生むため、国内厚生と国際厚生は一致しないという経済学的出発点を与える。これに対し、Risse and Meyer は、国民所得は各国が自由に処分できる純粋な国内的産物ではなく、国際的な所有権秩序・市場秩序の相互承認に依存するという哲学的基礎を与える。この二つを軸に、Hebous and KlemmがAI課税を論じ、HeyがSTPが国際課税秩序の一般原理になりうるかを批判的に検討し、Bakerが人権・納税者権利という制約条件を加える。

Part 2 は、事業所得課税の課税権配分に関する2論文。Masui 論文が「居住地課税の後退」を論じ、Titus 論文が「市場国・途上国課税権の要求」を論じる。なお、研究会合にはもう一本、生産地課税に関する論文ドラフトが提出されていたが、ここには収録されていない。

Part 3 は、「法人所得課税だけで国際課税秩序を構成できるのか」という問題に進む。Schön の関税論文は、関税を単なる通商政策ではなく、国際課税秩序の一部として再配置する。Xu のVAT・間接税論文は、国際課税論の中心が法人税に偏っていることを批判し、VAT、デジタル取引税、気候関連賦課金を統合的に考えるべきだとする。Báez Moreno の純資産税論文は、富裕税復活論を検討するが、制度設計と執行上の構造的困難を強調する。

Part 4 は「どの形式で国際課税秩序を維持するのか」を扱う。Kofler 論文は、外国企業・外国人・外国産品に対する無差別原則を、租税条約、通商法、投資法、EU法の交錯点で検討する。van Weeghel 論文は、租税条約の役割を正面から再検討する。最後の Philip Baker の多国間協力論文は、OECD、UN、地域的枠組みの将来を見渡し、2025年以後の国際協力の不確実性を総括する。

*****

複数の異なる論者がそれぞれの主張を投げかけているだけに、特集全体から一義的な政策の方向性を読み取ることは困難だ。それでも、全体を通覧して、次のようなメッセージを感じ取ることができた。
  • 効率性と正義の対立あるいは補完
  • 包括的多国間主義と控えめな制度部品論の対立
  • 先進国中心秩序とGlobal South要求の対立
もっと読み込めば、building blocksをどう組み立てるかについては、さらにいろんな読みが可能だろう。

ぼくの継続的問題関心からは、tax mixにおけるVATの役割が大事だと思う。この点については、2つの論文が同じ方向を向いている。Masui論文は「居住地ベース法人課税が弱まるなら、次に何が中心になるか」という問いから、VAT・仕向地ベース消費課税の比重上昇のシナリオを描く。Xu論文は「国際課税論が法人所得税に偏りすぎている」という問いから、VAT・間接税を中心に据えるべきだとする。出発点は違うが、到達点はかなり近い。つまり、両者は「法人所得税中心、居住地vs.源泉地の国際課税」から、「VATを中核とする仕向地ベースのtax mix」への重心移動を示唆する。

これに対し、Riedel論文とTitus論文は、法人所得税またはDSTを通じて、市場国・利用者所在地国にヨリ多くの課税権を配分する方向だ。また、Schön論文とKofler論文は、関税、DBCFT、国境調整、VATとの関係を通じて、仕向地ベース課税の法的・制度的限界を検討する。もし出席できていれば、こういったあたりの相互関係を突っ込んで議論できたかもしれない。

ミュンヘン会合の成果が公表されていた

2025年12月、ミュンヘンで「Building Blocks of an International Tax Order」という研究会合が開かれた。二日間にわたって、12本の論文がプレゼンされ、それに対するコメントが展開された。ぼくは体調不良で行けなかったのだが、提出していた論文を公刊物に加えてもらった。それが、Bulletin for International Taxation Vol.80, Number 4/5, 2026の特集。

特集の趣旨を一言でいえば、断片化した世界において、新しい税制選択がなされる際においても有効に機能しうる国際課税設計の個別要素を検討してみよう、ということだ。会合の招待状には、こう書いてあった。

If a decade ago we wondered about how to further integrate tax international tax rules, today we wonder whether such cooperation can continue even on a bilateral level. In a spirit of some humility, therefore, this conference seeks not to suggest an alternative multilateral path forward. Rather, as we wait upon events, the intent is to explore discrete pieces of international tax architecture that might prove effective as new tax policy choices are made in a more fragmented world.

この文章を引用して序文が特集の趣旨を説明している。それに続く本体は4部構成。以下、149-151頁のabstractをもとに、各論文を概観しておこう。

Part 1: General Principles of International Taxation

Nadine Riedel, “National versus International Welfare”

法人税政策は、根本的に国際的な環境の中で作用しており、各国政府がほとんど内部化しないクロスボーダー外部性を生み出す。本稿は、国際法人課税の経済学的基礎を概観し、近年のOECD/G20改革を評価したうえで、実証的不確実性と地政学的制約の下では、広範な構造的再設計を追求するよりも、既存制度を統合・強化することを主張する。

Shafik Hebous and Alexander Klemm, “Can Siri and Alexa Pay Taxes?”

AIが経済を変容させるにつれて、AIに課税すべきだという主張が勢いを増している。しかし、AIそれ自体を標的とする課税は非効率をもたらすおそれがあり、その負担は最終的には人々に帰着する。本稿は、AI固有の税は適切ではないと論じ、むしろ、イノベーションを阻害することなく、デジタル時代のレントを捕捉し、国境を越える課題に対応し、衡平を保護する税制を重視する。

Mathias Risse and Marco Meyer, “International Tax Justice: The Independence Fallacy and the Myth of Freely Disposable National Income”

各国はしばしば、国民所得を自由に処分できるものとして扱う。著者らはこの前提を “Independence Fallacy” と呼ぶ。相互に結びついた経済においては、所得は、国境を越えて財産制度が承認されることに依存しており、そこからグローバルな分配的正義の義務が生じる。これらの義務は、財政主権を制約し、国際租税協調を支持する。

Johanna Hey, “The Single Tax Principle”

Single tax principle(STP)は、国際租税法において最も議論の多い考え方の一つであり続けている。本稿は、その内容、確立した諸原則との関係、および実務上の含意を検討し、STPから導かれる解決策、とりわけグローバル・ミニマム課税が、分断化した国際租税環境の中で存続可能であり続けるかを、EUの経験からの示唆も踏まえて探究する。

Daniel Shaviro, “Once for Good Measure? Comment on Johanna Hey’s ‘The Single Tax Principle’”

本コメントは、Johanna HeyによるSTP批判に応答する。

Philip Baker, “The Missing Building Block: The Promotion of Human Rights and Taxpayers’ Rights”

本稿は、人権および納税者権利の尊重と促進が、正統性ある国際租税秩序にとって不可欠な構成要素であると主張する。本稿は、この二つの権利枠組みを区別し、それらの法的および実際上の重要性を説明し、国際課税設計の中にこれらを組み込むことが、tax morale、適法性および制度的安定性を維持するうえで重要であることを示す。

Part 2: Taxation of Business Income

Yoshihiro Masui, “The Role of Residence-Based Taxation in Business Income Taxation”

本稿は、事業所得課税における居住地ベース課税の役割を評価する。その重要性は、法人居住地の多義性、居住地の選択可能性の増大、および個人株主所得を正確に課税することの困難性により、低下していると論じる。本稿は、居住地ベース課税の役割が縮小した将来について、三つのシナリオを示す。

Afton Titus, “Digital Services in Africa: Rebalancing Business Income Taxation through Inter-Nation Equity”

本稿は、アフリカにおけるOECDのPillar Oneと国内デジタルサービス税(DST)を比較し、公平性、中立性、簡素性および執行可能性の観点から評価する。アフリカのDSTは、国家間衡平その他の政策原則に照らして良好に機能する一方、Pillar Oneの評価は低い。本稿は、開発途上国の生存にかかわる財政不足が解消されるまでは、先進国はDSTを制約することを避けるべきであると結論づける。

Part 3: Other Sources of Public Revenue 

Wolfgang Schön, “Tariffs and the International Tax Order”

関税は、2025年に、現米国政権が多様な目的のために広範な関税を用いたことにより、国際課税の世界において顕著な特徴となった。本稿の主眼は、関税の役割を、間接税と直接税という二つの異なる文脈において定義することにある。消費課税の観点から見ると、関税は輸入品に対する差別的な税であり、無差別という概念そのものとその帰結に根本的な挑戦を突きつける。所得課税の観点から見ると、関税は、国境を越える物品販売から生じる利益に対する源泉徴収税の代替物として概念化できる。この出発点から、原産地国および仕向地国の政策選択肢が説明される。

Yan Xu, “VAT and Indirect Taxes: Rethinking International Taxation”

本稿は、VAT、デジタル取引税および気候関連賦課金を検討し、断片化したルールの下でデジタル化と脱炭素化により形づくられる経済における、それらの相互作用を明らかにする。本稿は、これらの間接税を国際租税論議の中心へもってくるべきであり、UN主導でOECDの知見を取り入れた多国間枠組みの中で、別個の縦割り領域として扱うのではなく、体系的に調整すべきであると論じる。

Andrés Báez Moreno, “Can Failed Taxes Be Revived through Modest Innovation? On the New Proposals for Net Wealth Taxes”

本稿は、純資産税に関する近時の提案が、伝統的な富裕税についてよく知られた失敗を真に克服しているのかを批判的に検討する。経済状況および透明性をめぐる条件の変化を認めつつも、「今回は違う」という楽観的主張に疑問を呈し、多くの制度設計上および執行上の問題は構造的なものであり、新たな実務上および法的な課題を生じさせうると論じる。

Part 4: Modes of Cooperation

Georg Kofler, “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”

“Building Blocks of an International Tax Order” という会議テーマの文脈において、本稿は、直接税における国際的な無差別基準の弱点と、なお残る存続可能性を検討する。租税条約、通商法および投資法を素材として、主として欧州の観点から、体系的な概観と現代的論点の選択的検討を通じて、保護の浸食を跡づける。

Robert J. Danon, “The Rise of Tax Treaty Supremacy: The Case of Non-Discrimination”

本コメントは、Georg Kofler教授の “Non-Discrimination of Foreign Firms, Persons and Products”に応答する。

Stef van Weeghel, “The Role of Tax Treaties”

主としてOECDモデルおよびUNモデルによって形づくられてきた二国間および多国間租税条約の拡大は、国際的な制度調整、貿易および投資を促進してきた。しかし、特に開発途上国にとっての公平性をめぐる懸念は残っている。本稿は、租税条約の影響、その批判、および、衡平性と効率性を改善するための、脱政治化され柔軟なモデル条約の可能性を検討する。

Will Morris, “The ‘Modest’ Tax Treaty: A Comment on Stef van Weeghel’s ‘The Role of Tax Treaties’”

本コメントは、租税条約を壮大な制度ではなく契約として位置づけ、その設計における控えめさと現実主義を強調する。

Philip Baker, “Building Blocks of an International Tax Order: Perspectives for Multilateral Cooperation”

本稿は、OECD、UNおよび地域的イニシアティブにおける展開を概観し、改革を主導する見通しを評価する。

29 May 2026

ブックオフのレシートに「内税10%」と書いてあるのはなぜ?

【ある昼休み、大学の学生食堂で】

Aさん(質問者):このあいだ、ブックオフに本を売ったんです。

Bさん(租税法研究者):断捨離ですか。

Aさん:研究室の本棚が崩壊しかけていたので。

Bさん:大学人らしい理由ですね。

Aさん:それで、こんなレシートをもらいました。

> 合計 3,245円

> 内税対象額(10%)3,245円

> 内税(10%)295円

---

Aさん:ちょっと疑問なんですが。

Bさん:何でしょう。

Aさん:私は本を買ったのではなく、売ったんですよ。

Bさん:そうですね。

Aさん:しかも一般消費者です。

Bさん:そうですね。

Aさん:なのに「内税295円」と書いてある。

Bさん:そうですね。

Aさん:もう少し情報量の多い返事をお願いします。

---

Bさん:まず最初にお断りしておきますが、これは税務相談ではありません。

Aさん:租税法の先生らしい予防線ですね。

Bさん:あくまで制度の説明です。さて、このレシートを見て、「一般消費者から買い取ったのに、ブックオフは仕入税額控除できるのか」という疑問ですね。

Aさん:まさにそれです。

---

Bさん:消費税法の原則から確認しましょう。仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書、つまりインボイスが必要です。

Aさん:私はインボイスなんて発行していません。

Bさん:もちろんです。一般消費者は通常、適格請求書発行事業者ではありません。

Aさん:すると、ブックオフは控除できないのでは?

Bさん:もし本当にそうなら、古本屋は困ります。

Aさん:なぜですか。

Bさん:考えてみてください。古本屋は誰から本を仕入れますか。

Aさん:ほとんど一般消費者ですね。

Bさん:中古車店は。

Aさん:一般の人ですね。

Bさん:リサイクルショップは。

Aさん:やはり一般の人ですね。

Bさん:もし全員に「インボイスをください」と言わなければならないとしたら。

Aさん:それだと商売になりませんね。

---

Bさん:そこで法律は例外を設けています。古物商が、適格請求書発行事業者でない者から古物を買い受ける場合には、一定の要件の下で、帳簿のみの保存によって仕入税額控除が認められます。

Aさん:なるほど。

Bさん:これが、「古物商特例」です。

Aさん:古物商なら何でもよいのですか。

Bさん:いいえ。古物商が、販売するための棚卸資産として古物を仕入れる場合です。自分で読むために本を買ったとか、社内で使うために備品を買ったという話ではありません。

Aさん:ブックオフが、商品として再販売するために本を買い取るから問題になるわけですね。

Bさん:そうです。

---

Aさん:ところで、ブックオフは本当に古物商なんですか。

Bさん:実は、ここは確認が必要です。古物商でなければ、この特例は使えません。ブックオフコーポレーション株式会社は、古物営業法上の古物商許可を受けています。同社の表示によれば、

> 古物商許可番号  神奈川県公安委員会  第452760001146号

となっています。

Aさん:ちゃんと許可を取っているんですね。

Bさん:全国展開している古本チェーンですからね。

Aさん:古物商だということはわかりました。古物商の買い取りに例外があることも、さっきうかがいました。じゃあ、この例外の法律上の根拠はどこにあるんですか。

Bさん:いい質問です。消費税法30条7項です。もっと正確には、その委任を受けた 消費税法施行令49条1項1号ハ(1)です。この規定が、古物商による古物の仕入れについて、帳簿保存のみで仕入税額控除を認めています。

---

Aさん:すると、このレシートの「内税295円」は何なんですか。

Bさん:あなたが納税した消費税ではありません。

Aさん:うーん、そこが知りたいところです。

Bさん:例えばブックオフは、3,245円で本を仕入れた→後で販売する→その販売に係る消費税を計算する、という流れになります。その際、3,245円の中に含まれる消費税相当額を計算すると295円になります。

Aさん:どう計算するのですか。

Bさん:税率10%なら、税込価格に含まれる消費税相当額は、税込価格 × 10/110 です。したがって、3,245円 × 10/110 = 295円となります。

Aさん:だから「内税295円」なのですね。

Bさん:そうです。ブックオフ側が、古物商特例に基づいて仕入税額控除額を計算するための「消費税相当額」です。

Aさん:つまり、私から見ると単なる買取代金だけれど、ブックオフの会計・税務処理では税込仕入れのように処理されるわけですか。

Bさん:おおむねそう理解してよいでしょう。ただし、レシート表示の細かな法的性質は、会社のシステムや表示仕様にもよります。少なくとも確実にいえるのは、「売主であるあなたが295円の消費税を納税した」という意味ではない、ということです。

Aさん:だんだんわかってきました。要するに、「私は295円の消費税を払った」という意味ではない。

Bさん:ええ。

Aさん:「私は295円を国に納税する」という意味でもない。

Bさん:ええ。

Aさん:しかし、ブックオフはその295円相当を仕入税額控除の計算に用いる。

Bさん:その理解でいいと思います。

---

Aさん:でも、なんだか不思議ですね。私から見ると消費税を納めた記憶がないのに、相手方は仕入税額控除を受けちゃいますよ。

Bさん:そこが中古品流通に関する制度設計の特徴です。

Aさん:制度設計?

Bさん:はい。中古品は、新品として最初に消費者に売られた時点で、いったん消費税を含む価格で流通していることが多い。つまり、経済的には、その中古品の価格の中に、過去の消費税負担が残っていると考えられます。

Aさん:でも、私がブックオフに売るときには、私は消費税を納めていないですよ。

Bさん:そのとおりです。法的には、あなたは適格請求書発行事業者ではないし、ブックオフに消費税を請求しているわけでもない。しかしここで大事なのは、経済的にみて、その本が過去に課税済みの物品だということです。

Aさん:なるほど。そこにもう一度、ブックオフの販売時に消費税がかかるということになってしまう。

Bさん:そうです。もしブックオフが一般消費者から仕入れた中古品について仕入税額控除を一切受けられず、再販売時には売上全体に消費税がかかるとすると、中古品流通に重複課税が生じます。

Aさん:なるほど、これが例外の理由ですか。すみません、重複課税の意味ですが、私がもともと本を買ったときには、今よりも消費税率はもっと低かったように思いますが。

Bさん:そうですね、立法政策論としては、経過措置の角度からの検討も必要ですね。また、仕入税額控除の特例として扱う日本法と異なり、中古品販売業者についてマージン課税というしくみを設けるEU法のやり方もあり、比較法的にも突っ込んだ検討が待たれます。

Aさん:へえー。ブックオフのレシート、侮れませんね。

---

★まとめ★

ブックオフが一般消費者から古本を買い取る場合、売主は通常、適格請求書発行事業者ではない。そのため売主がインボイスを交付することはない。しかし、ブックオフは古物営業法上の古物商であり、販売用棚卸資産として古本を仕入れているため、消費税法30条7項および消費税法施行令49条1項1号ハ(1)のいわゆる古物商特例により、帳簿保存のみで仕入税額控除を受けることができる。

レシートに表示された「内税10%」「内税295円」は、売主である一般消費者の納税額を意味するものではなく、ブックオフ側の課税仕入れ処理において用いられる税込価格の内訳表示である。これは、インボイス制度の下で中古品流通市場を維持するために認められた例外の一つである。

★参考文献★

佐野恵一郎「適格請求書等保存方式の諸課題に対する一考察-円滑な導入に向けた特例等のあり方について」税務大学校論叢109号277頁、370-381頁(2023)

★修正情報★

中古品流通に関する制度設計に関する最後の会話に大幅加筆し、全体的に修正を施した(2026/06/06)

20 May 2026

G7財務大臣・中央銀行総裁共同声明のパラ13

2026年5月18-19日に、パリで、G7財務大臣・中央銀行総裁合同会議。共同声明のパラ13が、国際課税について以下のように述べた(財務省のこのサイトの仮訳による)。

以下引用************

金融安定を維持する均衡の取れた強固で幅広い成長の支援

国際課税

13. 我々は、OECD/G20 包摂的枠組み(IF)におけるグローバル・ミニマム課税との共存に係るパッケージを歓迎し、確実性と安定性の確保、成長の促進、公平な競争条件の確保、課税主権の保持、及び税源浸食と利益移転(BEPS)からの課税ベースの保護という我々の共通のコミットメントを強化する観点から、その実施の重要性に留意する。この成功に立脚し、我々はデジタル経済への課税に関する建設的な対話に取り組んでいる。これらの原則を考慮に入れつつ、我々は、この対話が、デジタル経済が既存の国際課税システムにもたらす課題についての共通理解を醸成するとともに、そのような課題にどのように効果的に対処し得るかを検討することを期待する。我々は国際協力を重視し、IF が、これまでの作業から得られた教訓を活用しつつ、デジタル経済への課税に関する深度ある作業を進めることを奨励し、支持する。我々は、デジタル経済が既存の国際課税システムにもたらす課題について、IF メンバーがその有効かつ持続可能な解決策を評価できるよう、2026 年末までに、それらの課題への共通理解を特定する IF の作業の進捗に関し、OECDの報告を期待する。

***********引用終わり

これを要するに、G7からIFに対して、

  • Globalミニマム課税のSide-by-Side packageを歓迎する
  • デジタル経済への課税の作業を支持し、2026年末までの報告を期待する
というメッセージだ。

なお、国内資金動員(DRM)に係るG7開発大臣・財務大臣共同宣言も出されており、そこでは、2026年3月2日と3日に東京で開催されたPCT Tax and Development Conferenceに言及している。

15 May 2026

PTLAC創設の立役者が東京にきていた

コロンビアのNatalia Quiñones 弁護士が、IFAの会長であり、ダイナミックかつ思慮深い方であることは、以前から知っていた。

彼女は、5月11日と12日のIFA APAC東京大会に出席するために、はるばる東京に来てくれた。久しぶりにお会いしてわかったことは、彼女が、PTLAC(Platform for Taxation in Latin America and the Caribbean)の創設に深く関わっていたことである。CIATのこのサイトには、次の紹介がある。

She is a lawyer with more than 20 years of experience in international taxation, with a career spanning government, private practice, and academia. In government, she led Colombia’s Pro-Tempore Presidency and the creation of the Platform for Taxation in Latin America and the Caribbean (PTLAC) during 2022–2024, and served as Head of Colombia’s International Tax Office between 2018 and 2020, during which time she was appointed as a member of the Steering Committee of the OECD Inclusive Framework.

このあたり、書かれたものを見るだけでは、なかなかわからない。じっさい、IFA APAC Tokyo大会の各セッションとの関係で彼女の来日前にぼくが意識していたのは、以下の二本にすぎなかった。

  • 彼女のIntertax論文(Vol.51, Issue.4, 2023, "Beyond the 2-Pillar Solution: A Case for a Global Income Tax and the Creation of the International Tax Organization")が、Pillar 1 と Pillar 2 は既存ルールでは解けない問題への部分的対応にすぎず、これを基礎に nexus rules を置き換える「global income tax」と、それを運営する「international tax organization (ITO)」を構想していたこと.(Session 1 と2に関係)

  • 彼女のWorld Tax Journal論文(Vol.14, No.4, 2022 "An Unfinished Patchwork: An Assessment of the Current International Tax Dispute Resolution System from a Developing Country Perspective")が、Pillar Oneのtax certainty blockを視野に入れつつ、現行の紛争処理制度が安定性を実現したかを検証していたこと→結論はかなり明快で、現行制度は「unfinished patchwork」であり,effectiveness, transparency, coordination, predictability, fairness, simplicity という安定的制度に必要な要件を満たしていない、としていた.(Session 5に関係)
これらの主張から、最近のT20のpolicy briefに彼女が名を連ねているところへのつながりは、はなはだぼんやりとしか見えていなかった。しかし今回、久しぶりに会って話してみると、最近はさらに能動的に、Global Southの声を国際フォーラムに届ける活動を繰り広げていた。

その目線で見直してみると、次の媒体での彼女の主張もきわめて自然な流れだったと感じる。

07 May 2026

IFA/APAC 2026 Tokyo Conference、近づく

5月11日と12日に東京で、国際租税協会(IFA)のアジア太平洋地域会合が開催されます。IFA日本支部が主催します。

開催がいよいよ来週になり、関係各位が全力で準備にあたってくださっています。この週末から、アジア太平洋地域はもとより、世界中からの参加者が東京にいらっしゃいます。

このサイトに、最新情報が出ています。そこにRoom HŌとあるのは、「鳳凰の間」のことです。参加者多数のため、当日は下記の写真と異なり、スクール形式の配席になります。



21 April 2026

財政史におけるユリウス塔

 昨日のゼミで,プロイセンのビスマルク時代,ベルリンのユリウス塔(Juliusturm)に帝国戦争準備金が保管されていた,という話が出てきた.これは,普仏戦争後のフランス賠償金を原資とするドイツ帝国の戦争準備金のこと.

ただし,第一次大戦のような総力戦になると,現実の戦費が巨大すぎて,このような準備では全く足りなかった.すなわち,1914年の開戦後の戦費のわずか二日分にすぎなかった,といわれている(https://api.pageplace.de/preview/DT0400.9780190070656_A38171694/preview-9780190070656_A38171694.pdfのpage 100.).つまり,19世紀型の「金庫に金を積んでおけば開戦に耐えられる」という発想は,20世紀の大規模総力戦にはとうてい対応できなかったのである.

このことを印象的に示す記述として,同上の出典箇所には,Walther Rathenauの1918年時点での回顧が,次のように引用されている.

戦争支出の一か月分があれば、世界中のあらゆる貧困を一掃できただろう。さらに一か月分があれば、人類に長期的な安全を与えることができただろう。三か月目には、都市は楽園へと変わっていただろう。四か月目には、研究はあらゆる物質的制約から解放されていただろう。五か月目には、同様に芸術もまた解放されていただろう。

その後,第二次大戦後の西ドイツ期になると,財務大臣Fritz Schäfferの時代,1950年代に連邦政府が財政黒字・資金余剰を積み上げた際,ユリウス塔(Juliusturm)という言葉が再び用いられた(https://iwp.uni-koeln.de/sites/iwp/Dokumente/04_Publikationen/iwp_Policy_Paper/DP_01_2007.pdfの31頁).こうして,ユリウス塔は歴史上の実例から一歩離れ,国家が目的を定めて余剰資金を囲い込むことの隠喩へと転化した.

【典拠】Günther Schmölders, Fiscal psychology, 12 National Tax Journal 340 (1959) at 344から.

07 April 2026

Open AIの政策提言

2026年4月7日 6:04付け日経の記事で,「OpenAIが政策提言,AIで業務自動化なら課税 週4日勤務も推奨」とあった.もとの文書は,"Industrial Policy for the Intelligence Age: Ideas to Keep People First"と題するもの.

さっそくに,ChatGPTに「整理せよ」と指示したら,いくつかテクストを生成してきた.その中には,次のテクストが含まれていた.

租税法の観点から読むと、核心は三つあります。第一に、AIで税源構成が「労働」から「資本・企業利潤」へずれるという認識。第二に、それに対応して課税ベースを資本側へ組み替える必要があるという提案。第三に、税だけではなく、公的富裕基金によってAI利得の分配参加を制度化しようとする点です。つまり、これは単なる「ロボット税」論ではなく、AI時代の再分配国家をどう再設計するかという問題提起として読むのが正確です。

主張自体はさほど新しいわけではないが,この時期にOpen AI が提示した,というところにインパクトがあるのだろう.

現物にざっと目を通してみると,なかなか興味深い文書で,いろいろ突っ込みどころがある.国際課税の観点からは,文書の5頁に

They also focus on the United States as a starting point, but the conversation—and the solutions—must ultimately be global.

と書いてあるところが気になる.文字通り,米国を出発点としつつ,グローバルな対話と解決を考える,という方向だ.たしかに,AI利用は国境を越えるので,グローバルな議論は不可欠だ.

そうすると,次のような論点が大事だろう.

  • 資本課税に関する現在の国際課税ルール改革論にどう接続していくか.
  • 停滞しているPillar Oneのリブートとも関連するか.
  • 公的富裕基金(Public Wealth Fund)は,AIによって生じる資本利得に対して市民を直接参加させるしくみであるところ,これに対する課税権分配ルールのあり方は現行ルールでいいのか.
いずれも,議論すべき点が多そうだ.かつて,2018年度から3回連続で「AIと税制」というゼミを開講した(これこれこれ).再開すべき時期にきているのかも.

01 April 2026

IFA/APAC 2026 Tokyo Conference,満員御礼

来たる5月11日と12日に東京で開催する国際租税協会2026年アジア太平洋地域会合は,おかげさまで,早期登録締切の3月末をもって,「鳳凰の間」の収容人数に達し,席がすべて埋まりました.お忙しい時期にもかかわらず,ご関心をお寄せくださり,まことにありがとうございます.

これまでの関係各位のご支援に感謝申し上げるとともに,ご参加いただける皆様におかれては,世界各地からの多数のご来客とともに,有意義なセッションにしていただけますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます.

(たまたま本日は4月1日ですが,ここに記したことは,エイプリル・フール・ジョークではありません.念のため.)

ちなみに,国際租税協会とはこれのことで,その日本支部はこんな活動をしています.