【ある昼休み、大学の学生食堂で】
Aさん(質問者):このあいだ、ブックオフに本を売ったんです。
Bさん(租税法研究者):断捨離ですか。
Aさん:研究室の本棚が崩壊しかけていたので。
Bさん:大学人らしい理由ですね。
Aさん:それで、こんなレシートをもらいました。
> 合計 3,245円
> 内税対象額(10%)3,245円
> 内税(10%)295円
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Aさん:ちょっと疑問なんですが。
Bさん:何でしょう。
Aさん:私は本を買ったのではなく、売ったんですよ。
Bさん:そうですね。
Aさん:しかも一般消費者です。
Bさん:そうですね。
Aさん:なのに「内税295円」と書いてある。
Bさん:そうですね。
Aさん:もう少し情報量の多い返事をお願いします。
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Bさん:まず最初にお断りしておきますが、これは税務相談ではありません。
Aさん:租税法の先生らしい予防線ですね。
Bさん:あくまで制度の説明です。さて、このレシートを見て、「一般消費者から買い取ったのに、ブックオフは仕入税額控除できるのか」という疑問ですね。
Aさん:まさにそれです。
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Bさん:消費税法の原則から確認しましょう。仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書、つまりインボイスが必要です。
Aさん:私はインボイスなんて発行していません。
Bさん:もちろんです。一般消費者は通常、適格請求書発行事業者ではありません。
Aさん:すると、ブックオフは控除できないのでは?
Bさん:もし本当にそうなら、古本屋は困ります。
Aさん:なぜですか。
Bさん:考えてみてください。古本屋は誰から本を仕入れますか。
Aさん:ほとんど一般消費者ですね。
Bさん:中古車店は。
Aさん:一般の人ですね。
Bさん:リサイクルショップは。
Aさん:やはり一般の人ですね。
Bさん:もし全員に「インボイスをください」と言わなければならないとしたら。
Aさん:それだと商売になりませんね。
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Bさん:そこで法律は例外を設けています。古物商が、適格請求書発行事業者でない者から古物を買い受ける場合には、一定の要件の下で、帳簿のみの保存によって仕入税額控除が認められます。
Aさん:なるほど。
Bさん:これが、「古物商特例」です。
Aさん:古物商なら何でもよいのですか。
Bさん:いいえ。古物商が、販売するための棚卸資産として古物を仕入れる場合です。自分で読むために本を買ったとか、社内で使うために備品を買ったという話ではありません。
Aさん:ブックオフが、商品として再販売するために本を買い取るから問題になるわけですね。
Bさん:そうです。
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Aさん:ところで、ブックオフは本当に古物商なんですか。
Bさん:実は、ここは確認が必要です。古物商でなければ、この特例は使えません。ブックオフコーポレーション株式会社は、古物営業法上の古物商許可を受けています。同社の表示によれば、
> 古物商許可番号 神奈川県公安委員会 第452760001146号
となっています。
Aさん:ちゃんと許可を取っているんですね。
Bさん:全国展開している古本チェーンですからね。
Aさん:古物商だということはわかりました。古物商の買い取りに例外があることも、さっきうかがいました。じゃあ、この例外の法律上の根拠はどこにあるんですか。
Bさん:いい質問です。消費税法30条7項です。もっと正確には、その委任を受けた 消費税法施行令49条1項1号ハ(1)です。この規定が、古物商による古物の仕入れについて、帳簿保存のみで仕入税額控除を認めています。
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Aさん:すると、このレシートの「内税295円」は何なんですか。
Bさん:あなたが納税した消費税ではありません。
Aさん:うーん、そこが知りたいところです。
Bさん:例えばブックオフは、3,245円で本を仕入れた→後で販売する→その販売に係る消費税を計算する、という流れになります。その際、3,245円の中に含まれる消費税相当額を計算すると295円になります。
Aさん:どう計算するのですか。
Bさん:税率10%なら、税込価格に含まれる消費税相当額は、税込価格 × 10/110 です。したがって、3,245円 × 10/110 = 295円となります。
Aさん:だから「内税295円」なのですね。
Bさん:そうです。ブックオフ側が、古物商特例に基づいて仕入税額控除額を計算するための「消費税相当額」です。
Aさん:つまり、私から見ると単なる買取代金だけれど、ブックオフの会計・税務処理では税込仕入れのように処理されるわけですか。
Bさん:おおむねそう理解してよいでしょう。ただし、レシート表示の細かな法的性質は、会社のシステムや表示仕様にもよります。少なくとも確実にいえるのは、「売主であるあなたが295円の消費税を納税した」という意味ではない、ということです。
Aさん:だんだんわかってきました。要するに、「私は295円の消費税を払った」という意味ではない。
Bさん:ええ。
Aさん:「私は295円を国に納税する」という意味でもない。
Bさん:ええ。
Aさん:しかし、ブックオフはその295円相当を仕入税額控除の計算に用いる。
Bさん:その理解でいいと思います。
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Aさん:でも、なんだか不思議ですね。私から見ると消費税を納めた記憶がないのに、相手方は仕入税額控除を受けちゃいますよ。
Bさん:そこが中古品流通に関する制度設計の特徴です。
Aさん:制度設計?
Bさん:はい。中古品は、新品として最初に消費者に売られた時点で、いったん消費税を含む価格で流通していることが多い。つまり、経済的には、その中古品の価格の中に、過去の消費税負担が残っていると考えられます。
Aさん:でも、私がブックオフに売るときには、私は消費税を納めていないですよ。
Bさん:そのとおりです。法的には、あなたは適格請求書発行事業者ではないし、ブックオフに消費税を請求しているわけでもない。しかしここで大事なのは、経済的にみて、その本が過去に課税済みの物品だということです。
Aさん:なるほど。そこにもう一度、ブックオフの販売時に消費税がかかるということになってしまう。
Bさん:そうです。もしブックオフが一般消費者から仕入れた中古品について仕入税額控除を一切受けられず、再販売時には売上全体に消費税がかかるとすると、中古品流通に重複課税が生じます。
Aさん:なるほど、これが例外の理由ですか。すみません、重複課税の意味ですが、私がもともと本を買ったときには、今よりも消費税率はもっと低かったように思いますが。
Bさん:そうですね、立法政策論としては、経過措置の角度からの検討も必要ですね。また、仕入税額控除の特例として扱う日本法と異なり、中古品販売業者についてマージン課税というしくみを設けるEU法のやり方もあり、比較法的にも突っ込んだ検討が待たれます。
Aさん:へえー。ブックオフのレシート、侮れませんね。
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★まとめ★
ブックオフが一般消費者から古本を買い取る場合、売主は通常、適格請求書発行事業者ではない。そのため売主がインボイスを交付することはない。しかし、ブックオフは古物営業法上の古物商であり、販売用棚卸資産として古本を仕入れているため、消費税法30条7項および消費税法施行令49条1項1号ハ(1)のいわゆる古物商特例により、帳簿保存のみで仕入税額控除を受けることができる。
レシートに表示された「内税10%」「内税295円」は、売主である一般消費者の納税額を意味するものではなく、ブックオフ側の課税仕入れ処理において用いられる税込価格の内訳表示である。これは、インボイス制度の下で中古品流通市場を維持するために認められた例外の一つである。
★参考文献★
佐野恵一郎「適格請求書等保存方式の諸課題に対する一考察-円滑な導入に向けた特例等のあり方について」税務大学校論叢109号277頁、370-381頁(2023)
★修正情報★
中古品流通に関する制度設計に関する最後の会話に大幅加筆し、全体的に修正を施した(2026/06/06)