21 April 2026

財政史におけるユリウス塔

 昨日のゼミで,プロイセンのビスマルク時代,ベルリンのユリウス塔(Juliusturm)に帝国戦争準備金が保管されていた,という話が出てきた.これは,普仏戦争後のフランス賠償金を原資とするドイツ帝国の戦争準備金のこと.

ただし,第一次大戦のような総力戦になると,現実の戦費が巨大すぎて,このような準備では全く足りなかった.すなわち,1914年の開戦後の戦費のわずか二日分にすぎなかった,といわれている(https://api.pageplace.de/preview/DT0400.9780190070656_A38171694/preview-9780190070656_A38171694.pdfのpage 100.).つまり,19世紀型の「金庫に金を積んでおけば開戦に耐えられる」という発想は,20世紀の大規模総力戦にはとうてい対応できなかったのである.

このことを印象的に示す記述として,同上の出典箇所には,Walther Rathenauの1918年時点での回顧が,次のように引用されている.

戦争支出の一か月分があれば、世界中のあらゆる貧困を一掃できただろう。さらに一か月分があれば、人類に長期的な安全を与えることができただろう。三か月目には、都市は楽園へと変わっていただろう。四か月目には、研究はあらゆる物質的制約から解放されていただろう。五か月目には、同様に芸術もまた解放されていただろう。

その後,第二次大戦後の西ドイツ期になると,財務大臣Fritz Schäfferの時代,1950年代に連邦政府が財政黒字・資金余剰を積み上げた際,ユリウス塔(Juliusturm)という言葉が再び用いられた(https://iwp.uni-koeln.de/sites/iwp/Dokumente/04_Publikationen/iwp_Policy_Paper/DP_01_2007.pdfの31頁).こうして,ユリウス塔は歴史上の実例から一歩離れ,国家が目的を定めて余剰資金を囲い込むことの隠喩へと転化した.

【典拠】Günther Schmölders, Fiscal psychology, 12 National Tax Journal 340 (1959) at 344から.

07 April 2026

Open AIの政策提言

2026年4月7日 6:04付け日経の記事で,「OpenAIが政策提言,AIで業務自動化なら課税 週4日勤務も推奨」とあった.もとの文書は,"Industrial Policy for the Intelligence Age: Ideas to Keep People First"と題するもの.

さっそくに,ChatGPTに「整理せよ」と指示したら,いくつかテクストを生成してきた.その中には,次のテクストが含まれていた.

租税法の観点から読むと、核心は三つあります。第一に、AIで税源構成が「労働」から「資本・企業利潤」へずれるという認識。第二に、それに対応して課税ベースを資本側へ組み替える必要があるという提案。第三に、税だけではなく、公的富裕基金によってAI利得の分配参加を制度化しようとする点です。つまり、これは単なる「ロボット税」論ではなく、AI時代の再分配国家をどう再設計するかという問題提起として読むのが正確です。

主張自体はさほど新しいわけではないが,この時期にOpen AI が提示した,というところにインパクトがあるのだろう.

現物にざっと目を通してみると,なかなか興味深い文書で,いろいろ突っ込みどころがある.国際課税の観点からは,文書の5頁に

They also focus on the United States as a starting point, but the conversation—and the solutions—must ultimately be global.

と書いてあるところが気になる.文字通り,米国を出発点としつつ,グローバルな対話と解決を考える,という方向だ.たしかに,AI利用は国境を越えるので,グローバルな議論は不可欠だ.

そうすると,次のような論点が大事だろう.

  • 資本課税に関する現在の国際課税ルール改革論にどう接続していくか.
  • 停滞しているPillar Oneのリブートとも関連するか.
  • 公的富裕基金(Public Wealth Fund)は,AIによって生じる資本利得に対して市民を直接参加させるしくみであるところ,これに対する課税権分配ルールのあり方は現行ルールでいいのか.
いずれも,議論すべき点が多そうだ.かつて,2018年度から3回連続で「AIと税制」というゼミを開講した(これこれこれ).再開すべき時期にきているのかも.

01 April 2026

IFA/APAC 2026 Tokyo Conference,満員御礼

来たる5月11日と12日に東京で開催する国際租税協会2026年アジア太平洋地域会合は,おかげさまで,早期登録締切の3月末をもって,「鳳凰の間」の収容人数に達し,席がすべて埋まりました.お忙しい時期にもかかわらず,ご関心をお寄せくださり,まことにありがとうございます.

これまでの関係各位のご支援に感謝申し上げるとともに,ご参加いただける皆様におかれては,世界各地からの多数のご来客とともに,有意義なセッションにしていただけますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます.

(たまたま本日は4月1日ですが,ここに記したことは,エイプリル・フール・ジョークではありません.念のため.)

ちなみに,国際租税協会とはこれのことで,その日本支部はこんな活動をしています.



15 March 2026

IFA/APAC 2026年東京大会,司会者を公表

 2026年5月に,東京で,国際租税協会(Internatonal Fiscal Association, IFA)の研究集会を開催します.統一論題をNavigating Uncertainty: The Future of Multilateral Cooperationとして,国際課税の重要課題について,各国の識者がパネルを組んで議論するという企画です.このたび,各セッションの司会者が公表されました.詳細はこれで,その骨子を下記に転記しておきます.アジア太平洋・米州・欧州など各国からのパネリストについては,追って公表予定.

★IFA日本支部会員におかれては,参加にあたり,優待の早期割引が利用できます.国際課税に関心があるけれど未だ会員になっていない,という方におかれては,この機会に会員になられることをご検討ください.ちなみに,IFA日本支部とはこんなところです.

Monday, May 11, 2026  

YIN Session “Future perspective for young tax professionals in APAC”

Moderator: Mr. Ignacio Gepp (Chile, Chair of IFA/YIN)


Keynote Speech “International tax policy of Japan”

Mr. Tetsuya Utamura (Director, International Tax Policy, Tax Bureau, Ministry of Finance of Japan)


Session 1 “Fragmented futures: Global taxation and supply chains in transition”

Moderator: Ms. Natalia Quiñones (Colombia, President of IFA)


Keynote Speech “Japan NTA’s leadership in multilateral cooperation”

Mr. Kazuhiko Takeda (Deputy Commissioner (International Affairs), National Tax Agency of Japan)


Session 2 “De-globalisation and the reassertion of tax sovereignty”

Moderator: Prof. Richard Vann (Australia)


Session 3 “The evolving landscape of transfer pricing”

Moderator: Ms. Ana Claudia Akie Utumi (Brazil, Chair of IFA/WIN)


Tuesday, 12 May 2026

Session 4 “Wealth without borders: Tax challenges of High Net-Worth Individuals”

 Moderator: Prof. Masao Yoshimura (Japan)


Session 5 “Tax dispute resolution in a changing world”

 Moderator: Prof. Mitsuhiro Honda (Japan) 


Session 6 “The implications of digitalisation for the VAT system”

 Moderator: Prof. Yumi Nishiyama (Japan) 


Session 7 “Hot topics in Asian taxation: Emerging issues and regional developments”

 Moderator: Mr. Ichwan Sukardi (Indonesia, Chair of IFA/APAC)

21 February 2026

LEARNING RESOURCES, INC., ET AL. v. TRUMP, PRESIDENT OF THE UNITED STATES, ET AL.

トランプ相互関税を違法とする米国連邦最高裁判決がでた

そこでさっそく,「この最高裁判決に関する専門誌の論評を調査せよ」とChatGPTに命じた.

すると,2026年2月20日前後に出た「専門的な論評」(法務・通商実務・判例分析・政策分析寄り)を横断して,次のテクストが生成された.以下,青字がChatGPTの生成したテクスト.

************

結論から言うと、専門誌・実務家向け論評の主要論点は、(1) 判決理由の精密な読み分け(とくに major questions doctrine の位置づけ)、(2) 還付実務(refunds)の設計と権利保全、(3) 代替法源(Section 122/301/232等)による再構築可能性、(4) 実効面では「不確実性の継続」に収斂しています。(最高裁判所)

まず、最高裁判決そのものの最低限の確認です。連邦最高裁は Learning Resources, Inc. v. Trump で「IEEPAは大統領に関税賦課権限を与えていない」と判示し、V.O.S. Selections 側の判決を是認しました(6-3)。判決文シラバスでもその点が明示されています。(最高裁判所)

そのうえで、他の専門的論評をみると、ポイントがいくつかあります。

  1. 判決理由の「多数意見」と「プルーラリティ」を区別する論評(SCOTUSblog)
    SCOTUSblog の詳細分析は、Roberts意見のうち「IEEPAの文理解釈+憲法的背景による結論」(IEEPAは関税法ではない)が6名の法廷意見である一方、major questions doctrine を前面に出す部分は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、法廷意見(majority holding)ではなくプルーラリティにとどまる、と明確に整理しています。これは実務・学説上かなり重要な読み分けです。(SCOTUSblog)
    同じSCOTUSblogの速報でも、Kavanaugh反対意見が「今後の大統領の関税権限を大きく制約しない可能性(他の制定法がある)」と述べている点が強調されています。(SCOTUSblog)

  2. 実務家向け通商・税務論評は「還付(refund)実務」を中心に据える
    Thomson Reuters Tax & Accounting は、企業税務・通商コンプライアンスの観点から、この判決を「大規模還付機会(最大1750億ドル規模)」として位置づけ、判決理由そのものよりも、どの輸入申告が対象か、どう計算・請求するか、期限管理をどうするかという実務課題を前面に出しています。特に、対象エントリーの特定、金額算定、抗議(protests)や post-summary corrections の検討、時効・期限管理の重要性を整理している点が実務色の強い特徴です。(tax.thomsonreuters.com)

Holland & Knight も同様に、最高裁は還付の要否・手続を具体的に指示していないため、権利保全のために記録整理と行政手続(PSC、protest、liquidation延長等)を早期に進めるべきだと整理しています。加えて、判決理由の内部構造(major questions を使ったのは3名、Kaganらは通常の文理解釈中心)まで比較的丁寧に要約しており、判例解説+実務対応のハイブリッド型です。(ホランド・アンド・ナイト)

Norton Rose Fulbright は、還付論点をさらに細かく扱い、(a) CIT(国際貿易裁判所)の全国的差止めの射程、(b) 不法徴収(illegal exaction)的整理、(c) reliquidation の可能性、(d) Customs の今後のガイダンス、(e) 「輸入者記録上の importer of record」にしか政府還付が直接行かないため、私法上の契約紛争(だれが最終的に返金を受けるか)が増える可能性、まで踏み込んでいます。これは The Economist の「refundsはmessになり得る」という指摘を、実務的に具体化した論評と言えます。(nortonrosefulbright.com)

  1. 代替法源(Section 122/301/232等)に関する評価は、概ね「再構築可能だが、機動性は落ちる」で一致
    Holland & Knight は、Section 122(上限15%、150日)、Section 301、Section 232、Section 201、Section 338 などの代替法源を列挙し、それぞれの法的要件や調査手続の必要性を示したうえで、政権がIEEPAの代替として組み合わせるシナリオを解説しています。特に Section 122 の時間制限と、150日の間に301調査を走らせる構図は、The Economist の分析と整合的です。(ホランド・アンド・ナイト)
    Thomson Reuters も同様に、今後は Section 232/301/122、AD/CVD、立法対応などへ政策手段がシフトすると整理しています。(tax.thomsonreuters.com)

  2. 政策分析・国際関係系の専門論評は「不確実性の持続」と対外交渉への影響を強調
    Chatham House の専門家コメントは、法理そのものよりも、北米(USMCA)や各国との交渉実務に与える影響を重視しています。Heather Hurlburt は、判決が IEEPA 系の包括関税を大きく削ったとしても、232/301ベースの関税は残り、還付も命じていないため、実効面での変化は限定されうると指摘しています。(チャタムハウス)
    また Julián Ventura は、Section 122 による新たな10%関税の示唆と、対象・適用・実施の細目が未確定であることから、「uncertainty will continue to be the name of the game」と評価し、貿易相手国側の対応困難性を強調しています。(チャタムハウス)

  3. データ分析系(Global Trade Alert)は「法理」ではなく「関税水準の量的インパクト」を提示
    Global Trade Alert の分析は、IEEPA関税が剥落すると米国の輸入加重平均関税率が 15.4% から 8.3% に低下し、7.1ポイント下がると定量化しています。また、何が落ちて何が残るか(IEEPAのベース関税・上乗せ・緊急EOは無効、232/301/MFNは残る)を明示しており、政策効果の即時測定として有用です。(globaltradealert.org)
    これは The Economist の「実効関税率が約半分に」という記述と整合的ですが、GTAの方が「どの法源ベースの関税が残存するか」をより構造的に示しています。(globaltradealert.org)

************

(増井のコメントに戻る)

なるほど.上記で引用されたリンクは実在し,確認できた.

そこで次に,ChatGPTのプロンプトをそのままフォローして,上のまとめを租税法・通商法の視点から,①判決法理,②救済実務,③比較法の順に整理させた.①②③の3項目は,ChatGPTのおすすめをそのまま(=無反省に)フォローしただけのもの.

すると,次のテクストが生成された.

************

本件の出発点は明確です。最高裁は Learning Resources v. Trump で、「IEEPA(International Emergency Economic Powers Act)は大統領に関税賦課権限を与えない」と判示しました。シラバス上も、争点はまさに「IEEPAが関税を許容するか」であり、結論は否定です。

  1. Delegation / Major Questions / Nondelegation の論点整理

この判決で最も重要なのは、「何が法廷意見(majority holding)で、何がそうでないか」を切り分けることです。SCOTUSblog の整理が有用で、6名が参加した法廷意見部分(Parts I, II-A-1, II-B)は、IEEPAの文言・構造・憲法的背景を用いて、IEEPAは関税を授権していないと解しています。他方、major questions doctrine を用いた部分(Parts II-A-2, III)は Roberts/Gorsuch/Barrett の3名のみで、プルーラリティにとどまります。つまり、「major questions で勝った事件」ではあるが、同時に「文理解釈で6名が一致した事件」でもある、という二層構造です。

法廷意見(6名)レベルのコアは、かなり古典的かつ租税法的です。最高裁シラバスは、(a) 憲法上、関税は Article I の taxing power(Congress)に属すること、(b) IEEPAの列挙権限には tariffs/duties の明示がないこと、(c) “regulate . . . importation” を「課税権限」まで含むと読むのは不自然であること、(d) 政府も「regulate」が「tax」を意味した他の制定法例を示せなかったこと、を並べています。さらに “regulate exportation” まで課税を含む読みになりかねず、輸出税禁止との緊張も指摘しています。これは、授権立法の解釈として「税・関税は明示的授権を要する」という強いシグナルです。

そのうえで、Roberts/Gorsuch/Barrett の3名は major questions doctrine を前面に出し、「非常に大きな経済・政治的重要性を持つ権限主張には clear congressional authorization が必要」「緊急事態法制だからといって例外はない」「外交・通商文脈だからといって例外はない」と述べます。ここは今後の行政法・通商法訴訟への波及可能性が大きい。ただし、Kaganら3名は結論には賛成しつつ、「通常の法解釈で足りる。major questions の“thumb on the scale”は不要」と距離を置いています。したがって、本判決の将来射程を読む際は、「IEEPAの解釈に関する先例価値」と「major questions 拡張の先例価値」を分けて扱う必要があります。

Kavanaugh反対意見(Thomas, Alito joined)は、別の意味で重要です。Reutersが要約する通り、反対意見は「今回の判決は大統領の関税権限全般を大きく制約するとは限らない。単に IEEPA という“間違った statutory box”を使っただけだ」と見る。これは、判決の制度的意味を「大統領通商政策の全面否定」ではなく「IEEPAの否定」に限定する読みです。実務上は、この反対意見の評価がそのまま次の争点(122/232/301等)に接続します。

  1. 関税還付の法的性質と実務(illegal exaction / reliquidation / protest)

The Economist の「refundはmessになりうる」という指摘は正確ですが、専門実務論評を読むと、その“mess”の中身はかなり具体的です。SCOTUSblog は、最高裁の判断が解決したのは「授権の有無」であり、refund mechanism(還付の仕組み)や restitution(返還命令)、行政上の回収手続には触れていない点を強調しています。しかも返金の明示的議論は主として Kavanaugh の反対意見側に現れる。つまり、救済は「次段階の訴訟・行政実務」に委ねられている、という構造です。

Norton Rose Fulbright の論評は、この救済論点を最も実務的に分解しています。そこでは、CIT(Court of International Trade)の全国的差止めと、違法関税の徴収金を政府が保持できないという違法徴収(illegal exaction)的な整理を前提に、還付は原則として視野に入るが、具体的な経路は CIT と Customs(CBP)の運用次第だとされます。さらに、reliquidation(再清算)命令の可能性、CBPガイダンス(Federal Register やCSMS)による実務設計、そして未清算 entry と既清算 entry の手続分岐(PSC / protest)が指摘されています。これは、救済法の問題が、行政手続・税関実務・時間管理の問題へ直ちに変換されることを示しています。

この点は、租税法研究者の目で見ると興味深いです。違法課税の返還という一見単純な命題が、通商実務では「誰に返すのか(法的納税者/importer of record)」「どう請求するのか(PSC / protest / CIT complaint)」「いつまでに請求するのか(liquidation 状態・時効・不服申立期間)」「誰が最終的に経済的利益を受けるのか(価格転嫁・契約条項)」という複数の層に分かれます。Norton Rose Fulbright は、政府還付の名宛人は importer of record に限られ、輸入者に償還した第三者には政府から直接還付されないため、契約解釈・私法紛争が増えると警告しています。

Holland & Knight も同様に、判決は refund の要否・運用を決着しておらず、企業側は権利保全(preservation steps)を先行させるべきだと位置づけます。実務家論評の共通トーンは、「勝訴=即自動還付」ではなく、「勝訴+別途の救済・事務プロセス」が必要、という点にあります。

  1. 日本法・WTO法との比較可能な視点

比較法的に見ると、本判決の第一の含意は、「通商政策でも、課税(関税)である以上、授権の明確性が要求される」という統治構造の再確認です。最高裁は関税を Article I の taxing power に明確に接続し、IEEPAの一般的な “regulate importation” から関税権限を引き出す解釈を拒否しました。これは、行政裁量の広い通商・安全保障領域であっても、課税授権には明示性が必要だというメッセージです。日本法の観点からいえば、租税法律主義・課税要件法定主義の議論と比較可能な構造を持ちます(もちろん米国では憲法構造・delegation doctrine の文脈で語られる点が異なる)。

第二に、WTO法との関係では、本判決は直ちに「関税政策の国際法適合化」を意味しません。Reuters も示すように、政権側は他の法源(Section 232/301 等)への切替を明確に示唆しており、実際に判決直後に別法源による10%関税を公表しています。Holland & Knight や Norton Rose Fulbright の整理でも、Section 122(短期・上限付き)、232、301、201、338 など複数の代替経路が列挙され、IEEPA喪失後も高関税政策の再構築は可能と見られています。したがって、本判決の主効果は「関税水準の恒久的低下」よりも、「法源の付け替え・手続の増加・時間差の発生」にあるとみるのが妥当です。

第三に、比較租税法的に面白いのは、「違法な徴収の返還」が財政・政治・私法・行政手続を横断して問題化している点です。Norton Rose Fulbright は、還付額規模ゆえに議会が timing や制約を立法的に設ける可能性にも触れています。これは、租税法でいう不当利得返還・過誤納還付の問題に似て見えつつ、通商法では制度設計がより多元的(CIT、CBP、契約実務、連邦議会)であることを示します。研究上は、「違法課税の救済」を租税手続法だけでなく通商救済法・行政救済法の交点として捉える素材になります。

***********

(増井のコメントに戻る)

ふーん.3つの整理のうち,①法廷意見の2層構造の指摘や,②反対意見の評価がそのまま今後の還付実務につながってくる,というあたりが参考になる.③比較法のところは,要検討.ChatGPTが「比較租税法的に面白い」というテクストを生成するとき,どんな学習経路でそうなるんだろうか.

以上,後半の3つの整理についてはともかく,前半の論評調査からは,今回の敗訴を受け,政権は別の狭いやり方で相互関税を維持しようと試みるだろう,という見通しが得られる.日本企業の目からすると,投資約束への影響が目下の関心事.

11 February 2026

固定資産税判例,まずはここから

固定資産税は市町村の基幹税であり,最高裁判例が積み重なっている.以下,基本的なものを選りすぐってリストアップしておこう.

  • 固定資産評価を争う上で特に重要なのは,(登録価格が客観的交換価値を上回ると違法)と,11(登録価格が評価基準に従って算定される価格を上回ると違法)が,判断枠組みを示したことだ.
  • この領域で多くの訴訟が提起されている理由として,10が国賠訴訟に途を開いたことも大きい.

1.最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁.固定資産税名義人課税事件.固定資産税は原則として登記簿上の所有者(名義人)に課される.いわゆる台帳課税主義.

2.最判昭和47年1月25日民集26巻1号1頁.名義人が負担した固定資産税と真の所有者への求償.台帳課税により真の所有者でない者が固定資産税を負担した場合,真の所有者に対して原則として不当利得返還請求が認められる.

3.最判昭和49年9月2日民集28巻6号1033頁.財団法人電力研究所事件.「学術の研究を目的とする」法人の意義.

4.最判昭和59年12月7日民集38巻12号1287頁.新築の家屋は,一連の新築工事が完了した時に,固定資産税の課税客体となる.

5.最判平成2年1月18日民集44巻1号253頁.固定資産評価審査委員会の口頭審理手続.

6.最判平成6年12月20日民集48巻8号1676頁.地方税法348条2項但書「有料で借り受けた」の意義.

7.最判平成13年3月28日民集55巻2号611頁.小作地に対する宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額請求をすることはできない.

8.最判平成15年6月26日民集57巻6号723頁.固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回る場合には,上記価格の決定は違法となる.

9.最判平成17年7月11日民集59巻6号1197頁.固定資産評価審査委員会の決定取消訴訟で,裁判所が「適正な時価」を認定した場合の取消範囲.

10.最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(名古屋市冷凍倉庫事件).公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して固定資産の価格を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,審査の申出及び取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得る.

11.最判平成25年7月12日民集67巻6号1255頁(府中市事件).固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録された価格の決定は違法となる.

12.最判平成26年9月25日民集68巻7号722頁.賦課期日に登記簿に登録されていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負う.

13.最判令和2年3月24日民集74巻3号292頁.固定資産税の税額が過大に賦課されたことによる国賠請求の除斥期間の起算点である「不法行為の時」は,賦課決定がされ納税通知書の交付がされた時点である.

14.最判令和7年2月17日裁判所時報1858号1頁,7頁,12頁.三菱UFJ信託銀行事件.複数の構造により建築されている非木造家屋について家屋課税台帳に登録すべき価格を決定するに当たり,固定資産評価基準別表第13の定める経年減点補正率のうち構造別区分を鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造とするものを適用したことが同基準に反しないとされた事例.

15.最判令和8年1月26日.南御堂事件.山門一体型ホテルの参道部分土地も固定資産税の課税対象.

なお,固定資産税判例に関する研究は数多い.固定資産評価に関する本格的な体系書として,碓井光明『固定資産税評価精義』(信山社2023).また,髙橋祐介「市町村,また負けたってよ」税研211号16頁(2020),髙橋祐介「近時の裁判例からみた固定資産税の諸問題」租税研究895号92頁(2024)は,下級審判決の流れを網羅的にカバーする.

09 February 2026

EUの行政協力指令(DAC)について,簡単な入口

〇DACとは?(メインページによる)

  • The Directive on Administrative Cooperationのこと
  • 課税分野における相互援助および各国の国税当局間の安全な行政協力について,EU加盟国のニーズに対応する調和された枠組み
  • EU域内における課税目的の情報交換に関する規則・手続および協力の在り方を規律
  • 目的は,税の公正を確保するために,脱税および租税回避と闘うこと

〇その構成と,指令の英語テクストへのリンク

  • DAC1:Council Directive 2011/16/EU(基本指令)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC2:Council Directive 2014/107/EU(金融口座情報=CRSの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC3:Council Directive (EU) 2015/2376(タックスルーリング・APAの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC4:Council Directive (EU) 2016/881(CbCRの自動交換)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC5:Council Directive (EU) 2016/2258(AML情報=実質的支配者情報等への税務当局アクセス)— EUR-Lex(EN)

  • DAC6:Council Directive (EU) 2018/822(クロスボーダーアレンジメントの開示義務=MDR)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC7:Council Directive (EU) 2021/514(デジタル・プラットフォーム報告)— EUR-Lex(EN)

  • DAC8:Council Directive (EU) 2023/2226(暗号資産情報の自動交換=CARF)— EUR-Lex(EN) 

  • DAC9:Council Directive (EU) 2025/872(Pillar 2トップアップ税情報申告の情報交換)— EUR-Lex(EN) 


〇日本語で読める参考文献

06 February 2026

IFAアジア太平洋地域大会を東京で開催、登録サイトがオープン

 2026年5月11日(月)・12日(火)。IFA日本支部主催。同支部のトップページからコピペしておこう。申し込みはここから。

  • IFA/APAC 東京大会の参加登録サイトを公開しました

 2026年5月11日(月)・12日(火)の両日にホテルニューオータニで開催される、IFA/APAC 東京大会の参加登録サイトを公開しました。
 こちらのフライヤー下部にある「For details, please click here」の赤色のボタンからIFA/APAC 東京大会のサイト(https://va.apollon.nta.co.jp/ifa_apac_2026_tokyo/)に移行し、「Conference Registration」欄の「IFA 日本支部会員の登録はこちらから」で登録を行ってください。
 3月31日(火)までのお申込みについては早割料金が適用されます。お早めにお申し込みください。

(2026/2/6)


29 January 2026

(続き、これでおしまい)文献バイアスのチェック

 【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

3) 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

【今回】

この3)の結果をみると、リンク先の文献が存在することは確認できた。しかし、参照している文献に偏りがあるのでは、と気になる。そこで、文献バイアスのチェックをやってみよう。ちょっと迂遠なやり方だが、別のプロンプトで、次のようにきいてみた。

4) いま、法学は何が面白いか?日本語文献に加え、英語・仏語・スペイン語・中国語の文献にも目を配って、公法学・私法学・基礎法学を問わず、解説せよ

すると、ChatGPTは次のテクストを生成してきた。思考時間58秒。


以下引用++++++++++++++++++++++++++++

以下は、2026年初頭の時点で「いま法学が面白い」と言える論点を、公法・私法・基礎法を横断して“研究の争点(research frontier)”として整理したものです。結論から言うと、**対象(社会の変化)方法(研究技法)**が同時に更新されているのが、いまの面白さの源泉です。


1. いま法学が面白い理由(総論)

対象が「国家×市場×技術×地球」に拡張した

  • AI・データ・プラットフォームが、行政・企業・司法・生活を貫く“新しいインフラ”になり、憲法・行政法・民刑法・知財・国際法まで一気に接続されました(例:AIの透明性、説明責任、著作権、差別、国家安全保障)。EU AI Actの施行スケジュールを見ても、規制が「理念」から「執行・実装」段階に入っています。 (Sénat)

  • 気候変動は、環境法だけでなく、行政訴訟・憲法(将来世代)・会社法(取締役の注意義務)・金融規制(サステナブル投資)・国際法(適応・損失と損害)を束ねる巨大テーマになっています。 (ロンドン政治経済学校)

方法が「ドグマ」一辺倒から“混成(ハイブリッド)”へ

  • 実証・計量・計算社会科学が、解釈学と競合するのでなく接合され始めています(判例・立法過程・行政裁量・契約文言・制裁実務のデータ化)。欧州でも Empirical Legal Studies の組織化が進み、学会・会議のインフラが整っています。 (Esels)

  • 生成AIが、研究対象であると同時に研究手段になり、「法学の知の生産」自体が問い直されています(引用の真正性、学説形成の速度、教育の再設計)。 (papers.ssrn.com)


2. フロンティア①:AI・データ・アルゴリズム統治(Digital/AI Governance)

何が面白いか(争点)

  • 規制の型:リスクベース(EU)/推進法型(日本)/行政的統制+産業政策の複合(中国)など、設計思想が分岐し、比較法がそのまま政策論になる。 (Sénat)

  • “法の実装”:条文解釈だけでは終わらず、監督当局・標準化・監査・ガバナンス文書(チャーター)まで含む「制度生態系」を読む必要がある(公法と私法の境界が溶ける)。フランス行政裁判所(Conseil d’État)の司法内部向けAI利用憲章は象徴例。 (Conseil d'État)

  • 法学の教育・実務も巻き込む:AIがリサーチや起案を代替し、法曹・裁判・行政の職能設計が再編される。 (inlibra.com)

言語別「入口」文献(例)

  • 日本語:AI規制論の整理(法科大学院ローレビュー) (sllr.j.u-tokyo.ac.jp)/日本のDXと法(『法律時報』特集) (nippyo.co.jp)/日本のAI法(e-Gov・内閣府まとめ) (e-Gov 法令検索)

  • 英語:生成AIと法学研究の将来(SSRN) (papers.ssrn.com)

  • 仏語:生成AIと法曹職、EU AI規則の射程(仏上院報告) (Sénat)/行政裁判所のAI利用憲章 (Conseil d'État)

  • 独語:法のデジタル化(Max Planck系の論集) (pure.mpg.de)/EU AI規則(KI-VO)運用論点(BeckのRDi) (RSW)

  • 西語:デジタル法・フロンティア技術の特集号(IUS ET SCIENTIA) (revistascientificas.us.es)/民主主義とAI・DSA等(Revista de Derecho Político) (revistas.uned.es)

  • 中国語:デジタル法学の研究動向(人大・月報) (lti.ruc.edu.cn)/ネット法治・AIガバナンスの年次報告(CAICT等) (caict.ac.cn)


3. フロンティア②:プラットフォーム規制・ダークパターン・情報環境

何が面白いか(争点)

  • 表現の自由・消費者保護・競争政策・個人情報保護・刑事法(詐欺・名誉・ハラスメント)が、**同じ現場(UI/UX・推薦アルゴリズム・広告)**に折り重なる。

  • 研究は「価値」だけでなく「設計」へ:ダークパターン研究のように、法学がHCIや実証レビューと接続して“規制の対象定義”そのものを作っていく。 (サイエンスダイレクト)

  • 日本でもプラットフォーム規制を包括設計する科研プロジェクトが走っており、学界側の研究組織化が見える。 (KAKEN)


4. フロンティア③:気候訴訟・将来世代・サステナビリティ(公法×私法の合流)

何が面白いか(争点)

  • 訴訟が政策を動かす(政府枠組み訴訟/企業責任訴訟)。世界の年次スナップショットが整備され、比較研究が急速に進む。 (ロンドン政治経済学校)

  • グローバル・サウスの法形成:北だけが規範を作る構図が揺らぎ、気候訴訟の地図が塗り替わる。 (OUP Academic)

  • 会社法・金融法の中核化:サステナブル投資、取締役の義務、開示とグリーンウォッシュ規制は、私法の“周縁”ではなく中心争点。 (OUP Academic)


5. フロンティア④:法秩序の分断と接続(地政学・経済安全保障・越境規制)

何が面白いか(争点)

  • データ移転・輸出管理・制裁・サプライチェーンなどで、国際法・国内公法・私法(契約・準拠法・仲裁)が同時に動く。

  • “一つのグローバル法”ではなく、複数レジームが並立する 断片化/多元的法秩序(legal pluralism) を、どう統治するかが基礎法学・法理論のど真ん中になっています(AIと多元秩序を結ぶ議論も出ている)。 (ResearchGate)


6. フロンティア⑤:研究手法としての「データ化された法学」

何が面白いか(争点)

  • 判例・立法・行政裁量・監督執行のデータを用いて、**解釈学の前提(何が問題になっているか)**を経験的に描ける。

  • ただし「正しさ」は自動では出ない:生成AIの利用は、引用・判例参照の真正性問題を露呈させ、学術倫理・プロセス設計が研究テーマ化しています(実務でも“ハルシネーション事件”が問題視)。 (Cinco Días)


7. 6言語で読むための、最小限の“棚”の作り方(実務的提案)

  • 共通テーマで束ねる:AI/気候/プラットフォーム/越境規制/手法(実証)で文献を集めると、言語をまたいで比較しやすい。

  • 各言語で「年次報告」「特集号」「官庁白書」を起点にする

    • 日本:特集号(DX×法) (nippyo.co.jp)

    • 仏:上院報告・司法内部ガイドライン (Sénat)

    • 独:専門誌エディトリアル(AI規則の適用局面) (RSW)

    • 西:デジタル法の特集号 (revistascientificas.us.es)

    • 中:ネット法治・デジタル法学の年次/月次動向 (caict.ac.cn)

    • 英:SSRN+大学研究所レポート(気候訴訟など) (papers.ssrn.com)



【とりあえず、これでおしまい】

(さらに続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【これまで】

1)租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

2)以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

【今回】

ちょっと大風呂敷を広げている感じがしたので、ハルシネーションではないかどうか、確認してみた。

Q 上記の「法学全体の研究潮流」は、どんなソースに依拠して、記述しているのか?

これに対する応答は、以下の通り。所要時間52秒。


以下引用***********

上記の「法学全体の研究潮流」は、特定の1冊に依拠した叙述ではなく、(少なくとも英語圏を中心とする)法学の“プログラム論文/概念史的整理/方法論宣言”として広く参照される文献群を、いくつかの軸で**総合(triangulation)**して描いたものです。依拠したソースの「類型」と「代表文献」を、私が使った対応関係が分かるように整理します。


1) 「ガバナンス転回(規範中心→統治・実装中心)」の根拠

ここは、行政法・規制研究・公共政策の交点で形成された“regulatory state / governance”系の古典と、法学内部の “New Governance” 論が柱です。

  • **Regulatory state(規制国家)**の概念化:Majone「From the Positive to the Regulatory State」など(規制による統治へのシフトを説明)(Cambridge University Press & Assessment)

  • **Governance(governing without government)**の整理:Rhodes「The New Governance」(SAGE Journals)

  • 法学内部での“New Governance”宣言:Lobel「Setting the Agenda for New Governance Research」(規制領域横断の研究潮流として提示)(scholarship.law.umn.edu)

私の叙述で言う「正当化だけでなく、誰が・どの手続で・どう運用するかへ」という部分は、この系譜(規制国家+新ガバナンス論)に依拠しています。(Cambridge University Press & Assessment)


2) 「トランスナショナル化(国内法の閉域→国際的ルール形成・ソフトロー・相互運用)」の根拠

ここは、国際法/国際関係法の側の“トランスナショナル法過程”と、国際機関・私的主体を含む規制の「行政法化」を論じる潮流が柱です。

  • Transnational Legal Process:Koh「Transnational Legal Process」(国家・非国家アクターが複数フォーラムで規範を“作り・解釈し・執行し・内面化する”という枠組み)(UNL Institutional Repository)

  • Global Administrative Law(グローバル行政法):Kingsbury/Krisch/Stewart「The Emergence of Global Administrative Law」(国際機関等の意思決定に、手続・理由提示・審査など行政法的コントロールが立ち上がるという整理)(Duke Law Scholarship Repository)

私の叙述で「条約だけでなくモデルルール・ソフトローが実質拘束」「法源・正統性が前景化」としたのは、この2つ(TLP+GAL)の議論枠組みを下敷きにしています。(UNL Institutional Repository)


3) 「実証・社会科学化(Empirical/Socio-legal turn)」の根拠

ここは、**Empirical Legal Studies(ELS)**の制度化を示す編集序文・ハンドブック類と、法と社会(socio-legal studies)の系譜です。

  • JELS創刊と方法論宣言(ELSの自己定義・制度化の指標):Eisenbergら「Editor’s Introduction」(Journal of Empirical Legal Studies, 2004)(Wiley Online Library)

  • ELSの概説・位置づけ:Eisenberg「The Origins, Nature, and Promise of Empirical Legal Studies」(2011)や、Oxford Handbookの導入部(ELSの国際的拡がりにも言及)(scholarship.law.cornell.edu)

  • 規制研究と“応答的規制”(法執行のデザインを社会科学と結ぶ代表作):Ayres & Braithwaite『Responsive Regulation』(1992)(John Braithwaite)

私の叙述で「解釈学だけでなく制度効果の検証が標準化」「コンプライアンス研究が方法論的に拡張」とした部分は、ELSの制度化(JELS等)+応答的規制の流れに依拠しています。(Wiley Online Library)


4) 「データ化・AI化(アルゴリズム行政/手続保障の再設計)」の根拠

ここは比較的新しい領域なので、行政法原理(適正手続・説明責任・裁量統制)を、アルゴリズム意思決定にどう移植するかを論じる研究が中心ソースです。

  • 公共部門におけるアルゴリズム意思決定と行政法原理:Oswaldら「Algorithm-assisted decision-making in the public sector…」(2018)(royalsocietypublishing.org)

  • アルゴリズムが「ルール」か「ガイダンス」か(手続法=APA等との接続):Henderson & Krass「Algorithmic Rulemaking vs. Algorithmic Guidance」(2023)(jolt.law.harvard.edu)

  • 「手続的正義」や“voice(聴聞・参加)”の欠落を論じる近時研究:Kinchin「Voiceless: the procedural gap in algorithmic justice」(2024)や、due process by design(2025)(OUP Academic)

私の叙述で「説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点」とした部分は、こうした“algorithmic governance × administrative law/procedural justice”文献群に依拠しています。(royalsocietypublishing.org)


5) 要するに、何に依拠して“潮流”と言っているのか

私が「潮流」と言うときの根拠は、だいたい次の4種類です。

  1. 分野を定義した古典(概念装置の提示):Majone(規制国家)、Rhodes(ガバナンス)、Koh(TLP)、Kingsburyら(GAL)(Cambridge University Press & Assessment)

  2. 法学内部での方法論・運動の制度化:JELS創刊序文、ELS概説・ハンドブック(Wiley Online Library)

  3. 実装・執行設計を軸にした学際の定番:Responsive Regulation(John Braithwaite)

  4. 新領域(AI等)で行政法原理を再定式化する近時研究:Oswald、Henderson & Krass、Kinchin など(royalsocietypublishing.org)


(続く)

(続き)ChatGPT、租税法の研究動向を語る

【ひとつ前】租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

【その続きがこのページ】

続いて、次のプロンプトを打ち込んだ。

以上を、法学全体の研究潮流の中で、位置づけよ

すると即座に、以下のテクストが生成された。


以下引用*********************

法学全体の研究潮流(とくに2000年代後半〜現在)を大きく捉えると、租税法研究の国際化・学際化は、次の「大きな潮流」の交点に位置します。そこで「租税法の流れ(BEPS 2.0/透明化・執行/コンプライアンス/AI)」を、法学一般の地図に落とし込みます。


1. 法学全体の大潮流:規範中心から「統治・実装・データ」へ

近年の法学は、分野横断で次の方向に寄っています。

(1) “規範の正当化”だけでなく、“統治(governance)”の設計論へ

  • 何が正しいか(権利・正義)に加え、誰が・どの手続で・どのデータで・どう運用するかが研究の中心課題に。

  • 行政法・規制法・企業法・国際法で共通するキーワードは、レギュラトリー・ガバナンス/グローバル行政法/多中心的統治(polycentric governance)/実装(implementation)

→ 租税法の「透明化・執行協力・申告インフラ・紛争処理」は、このガバナンス転回のど真ん中です。

(2) 国内法の閉域から「トランスナショナル化」へ

  • 条約だけでなく、**国際機関の基準、モデルルール、ソフトロー、相互運用(interoperability)**が実質的に国内制度を拘束する。

  • 法源論・憲法論・民主的正統性(正当性)論が、再び前景化。

→ OECD主導のBEPS 2.0と、UN枠組条約化の動きは、まさに「法源と正統性」をめぐる法学一般の関心に直結します。

(3) 実証・経験科学との接続(Empirical/Socio-legal turn)

  • 立法論・政策論で、**実証(統計・因果推論)社会科学的説明(行動・規範・信頼)**を組み込むのが標準化。

  • これにより、法学は「解釈学」だけでなく、制度の効果検証を含む学問編成に。

→ コンプライアンス/tax morale/ナッジ/執行の最適化は、この潮流の租税法版です。

(4) デジタル・データ化と法:手続保障の再設計

  • AI・アルゴリズムによる選別、データ連携、リアルタイム規制が進むほど、説明可能性・バイアス・適正手続・救済が中核論点に。

  • 行政法・刑事法・個人情報保護法・競争法などが交差。

→ 税務行政3.0(リスク選別、第三者情報、プラットフォームデータ)は、法学全体の「デジタル行政/データ統治」研究の一部です。


2. 租税法研究動向は、法学的には「規制・行政・国際秩序」の結節点

上の大潮流に照らすと、租税法の国際化・学際化は、分野配置として次のように整理できます。

(A) 国際秩序形成(国際法/国際経済法/グローバル行政法)

  • BEPS 2.0・Pillar Twoは、租税法というより国際的ルール形成と国内実装の研究対象。

  • 典型論点:ソフトローの拘束力、国内立法裁量、正統性、フォーラム競合(OECD↔UN)、紛争処理。

(B) 行政法・規制法(執行、プロセス、裁量統制)

  • 情報収集、リスク選別、調査、制裁、争訟というプロセス法が前景化。

  • 典型論点:適正手続、比例原則、説明責任、司法審査の在り方。

(C) 企業法・金融法・会計(ガバナンス/開示/リスク管理)

  • 税務が企業の内部統制・開示・ESGと結合し、租税法が企業統治インフラの一部になる。

  • 典型論点:税務リスクの取締役責任、開示の標準、ステークホルダーとの関係。

(D) 刑事法・制裁論(抑止+規範)

  • 脱税・不正・制裁の設計は、刑事法理・行政制裁・行動科学が交わる領域へ。


(続く)


ChatGPT、租税法の研究動向を語る

 窮屈な場所での長い待ち時間に、ChatGPTに聞いてみた。

Q 租税法の研究動向を、国際的・学際的視野の下で、説明せよ

すると、以下のテクストが生成された。所要時間25秒。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

以下は、**国際的(制度形成の場・各国実装)学際的(法学×経済学×会計×政治学×心理学×情報科学)**の両軸から見た、近年(とくにBEPS 2.0以後)の租税法研究動向の「見取り図」です。


1. 国際租税秩序の再設計が、研究の“主戦場”になった

(1) グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)を中心に、国内法・条約・会計・執行が一体化

  • GloBE(IIR/UTPR/QDMTT)実装が進むにつれ、研究テーマは「理念」から実務に耐える法技術へシフトしています(立法選択、定義、セーフハーバー、申告・情報報告、二重課税調整、紛争処理)。(OECD)

  • 2026年1月には、“Side-by-Side package”(共存・並立の枠組み)が提示され、特定国制度との整合や、QDMTT・申告(GIR)負担の位置づけが論点化しています。(OECD)
    → 研究としては、①「国際合意の法的性質(ソフトローの拘束力)」、②「国内実装の裁量と限界」、③「企業グループ課税の再構成(連結ベースの租税法理)」が中心課題です。

(2) Pillar Oneは“全面合意”より、部分モジュール(Amount B等)へ:TP研究が再編

  • Amount B(基礎的マーケ・販売活動の簡素化)がTPガイドラインに組み込まれ、2025年以降の適用選択が制度設計論点になっています(適用範囲、比較可能性、紛争予防)。(OECD)

(3) UN税条約化の動き:国際課税の“フォーラム競合”が研究対象に

  • 国連では**国際租税協力の枠組条約(Framework Convention)**をめぐるプロセスが進行し(交渉プロセスは2025–2027を目標とする説明もある)、OECD中心の秩序と並走する形で、正統性・包摂性・配分正義が強く論じられています。(financing.desa.un.org)
    → 「誰がルールを作るのか(ガバナンス)」と「どの価値を優先するのか(配分・開発・税源配分)」が、法解釈論そのものに影響する局面が増えています。


2. “執行・透明化・情報”が、租税法を情報法・刑事法・行政学へ接続した

  • 自動的情報交換、受益者情報、プラットフォーム課税、実質的支配者、ペナルティ設計など、透明化インフラが租税法の中核テーマとして定着。

  • 研究の焦点は、

    1. データ収集権限とプライバシー/適正手続(憲法・人権・行政手続)

    2. 国境を越える執行協力(国際行政法)

    3. 刑事・制裁の最適設計(刑事法・行動経済学)
      へ広がっています。
      → “課税要件論”だけではなく、情報→リスク選別→調査→争訟という「税務行政のプロセス法」が、研究フロンティアになっています。


3. 企業租税法は「会計・ガバナンス・サステナビリティ」と融合

  • 税務は企業の**ガバナンス(取締役の監督、税務リスク管理、開示)**と不可分になり、会計(不確実性、引当、実効税率)と一体で論じられます。

  • ESGの文脈では、**“tax transparency / responsible tax”**が、ソフトロー(開示基準・投資家要請)として企業行動を拘束し、法規範との交錯が研究テーマに。


4. 学際化の中心は「実証」「行動」「計量」:租税法研究の方法論が変わった

(1) 実証(Empirics)の標準化

  • 租税法の議論が、判例・条文解釈に加えて、ミクロデータ分析、自然実験、差の差分析、RCT、フィールド実験などを前提に組み立てられる場面が増加。

  • “租税法学”が、**法政策評価(リーガル・ポリシー・アナリティクス)**へ寄ってきています。

(2) 行動科学(tax compliance / tax morale)

  • 「なぜ人は税を払うのか」を、制裁だけでなく、社会規範・信頼・手続的公正・ナッジで説明し、制度設計(申告簡素化、通知文言、第三者報告)に落とし込む研究が定着。

(3) AI・デジタル化:税務行政3.0と法的統制

  • AIによるリスク選別、電子インボイス、リアルタイム報告、プラットフォームデータ連携が進み、論点は

    • アルゴリズムの透明性・説明可能性

    • 差別・偏り(バイアス)と救済

    • 自動化された不利益処分の適正手続
      へ展開。租税法が情報法・行政法・統計倫理と接続します。


5. 比較法・政治経済学の再評価:税は「制度の産物」として研究される

  • 同じ“所得課税”でも、執行能力、社会保障、財政連邦制、地方税体系、政治文化で機能が変わるため、比較制度論が強まっています。

  • とくに国際課税では、国内政治(産業政策・対外関係)と租税立法が直結するため、**政治経済学(誰が得て誰が負担するか)**が解釈・立法論に入り込む傾向が顕著です。


研究動向を一言でまとめると

  1. 国際協調(OECD/UN)×国内実装が中心軸になり、

  2. 租税法は情報・執行・会計・ガバナンス・行動科学・AIへ接続して、

  3. 「解釈」だけでなく**制度運用と効果(実証)**を含む総合領域へ拡張しています。


(続く)

23 January 2026

閣議決定で、グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置を令和8年度改正で講ずることに

 これであるSbS packageを受けたもの。冒頭のパラグラフを引用しておく。

グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)は、各国の法人税引下げ競争に歯止めをかけ、企業間の公平な競争環境を整備するため、多国籍企業に対して各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みであり、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの一環として、令和3年に約140カ国・地域が参加するOECD/G20「BEPS包摂的枠組み」において合意され、我が国としても法制化した。

その上で、国際課税システムの安定化等の観点から、グローバル・ミニマム課税と、独自のミニマム課税制度を有する米国を含む一定の要件を満たす国の制度との共存等について、令和7年6月以降「BEPS包摂的枠組み」において交渉が行われ、令和8年1月5日に合意が成立したことから、当該合意に則り、令和8年度税制改正において、次のとおり我が国制度の見直しを行うこととする。

06 January 2026

昨夜のOECD SbS packageへの各界反応まとめ

昨夜のリリースから丸1日たたないうちに、世界中でいろんなコメントがとびかっている。ChatGPTに調べさせたら、リンク付きで、下記引用のまとめがでてきた。

  • リンク先をたどってみると、かなり裏が取れている印象
  • ただし6)については「実務家がこういっている」というリンクは付いておらず、OECD文書へのリンク
  • 日本の記事については、「今回(2026年1月5〜6日頃の報道)は、国内ではまず通信社(ロイター/共同)電が流れ、それを地方紙サイトやポータルが掲載する構図が強いように見えます」とな

ーー以下引用ーーーーーーーーーーーーーーー

主要な反応の整理(リンク付き)

1) OECD自身の位置づけ(「安定・確実性」「途上国の一次的課税権」)

OECDは、147の包摂的枠組み参加国・地域が「グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)の協調運用の今後(way forward)」に合意したとし、“side-by-side”(既存ミニマム課税との並立)を通じて国際課税アーキテクチャの安定性・確実性を確保する、という語り口です。また「特に途上国の一次的課税権(first taxing rights)の保護」を強調しています。 (OECD)


2) 米国政府(財務省):明確な「非適用」・主権フレーミング

米国財務省は、今回の合意を「米国本社(U.S.-headquartered)の企業はPillar Twoの適用を免れ、米国のグローバル・ミニマム課税(米国ルール)のみが適用される」という成果として説明し、米国の主権R&Dクレジット等のインセンティブ価値の保護を前面に出しています。 (U.S. Department of the Treasury)


3) EU/加盟国(例:アイルランド):確実性を歓迎しつつ「2029年レビュー」で歯止め

アイルランド政府は、SbSパッケージ採択により、制度全体としての**certainty / stability(確実性・安定性)**が高まる点を歓迎しています。他方で、**2029年のstocktake(点検)**を明示し、リスクや競争力上の問題が生じた場合に是正する枠組みも強調しています(欧州委員会の影響評価にも言及)。 (gov.ie)


4) 産業界・ビジネス団体:実務負担の低減、二重課税回避、予見可能性

産業界の反応は概ね「理念」よりも、コンプライアンス/二重課税/予見可能性の観点から肯定的です。

  • **NAM(全米製造業者協会)**は、投資・雇用・競争条件の観点から「大きな勝利」と位置づけ、確実性が増す点を強調しています。 (NAM)

  • **NFTC(全米対外貿易評議会)**は、SbS統合に伴う「意図しない影響」を最小化する観点から、今後のOECDガイダンス精査と関与を表明しています。 (National Foreign Trade Council)

  • **ICI(投資会社協会)**は、セーフハーバーが米国ビジネスを「重複する外国ミニマム課税」から守る点で、議会・政権の方針と整合的だと述べています。 (ici.org)


5) 市民社会・タックスジャスティス系:強い「後退」「骨抜き」批判

タックスジャスティス/透明性を掲げる団体は、SbS合意を「実質的な米国多国籍企業の保護(適用除外)であり、Pillar Twoの趣旨を弱める」と批判しています。

  • Tax Justice Networkは、OECDが“side-by-side system”により米国を免除する形になったと批判的に評価しています。 (Tax Justice Network)

  • FACT Coalitionは、米国企業がPillar Twoの主要要素から引き続き免除されることは、法人税回避との戦いにとって「後退」だと述べています。 (The FACT Coalition)


6) 実務家・テクニカル論点:SbS/UPEセーフハーバーの運用効果が焦点

実務面で最も注目されているのは、SbSおよびUPEセーフハーバーの「効き方」です。Side-by-Side Packageでは、例えば以下が明示されています。

  • SbSセーフハーバー:UPEが「Qualified SbS Regime」所在なら、選択により当該年度のIIR/UTPR上のTop-up Taxをゼロ扱いにするメカニズム。 (OECD)

  • UPEセーフハーバー:2026年1月1日以降開始年度から適用、UTPR上、UPE所在国分のTop-up Taxをゼロ扱いにし、適格要件として少なくとも**名目法人税率20%**などを掲げています(QDMTTの運用には影響しない旨も明記)。 (OECD)


参照リンク(一次資料)


報道ベースの概況(参考:リンク集)

05 January 2026

OECDのPillar Two(GloBE)Side-by-Side Package(2026)が出た

年を越して公表。BEPS包摂的枠組み(IF)の合意だ。OECD (2026), Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy – Global Anti-Base Erosion Model Rules (Pillar Two), Side-by-Side Package: Inclusive Framework on BEPS, OECD, https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/topics/policysub-issues/global-minimum-tax/side-by-side-package.pdf.  

グローバル・ミニマム課税の実施に関するAdministrative Guidanceだ。プレスリリースによると、5つの構成要素がある

The package includes five key components:

First, a series of simplification measures will reduce compliance burdens for multinational enterprises (MNEs) and tax authorities in calculating and reporting under the global minimum tax rules.

Second, the package further aligns the treatment of tax incentives globally through the introduction of a new targeted substance-based tax incentive safe harbour.

Third, new safe harbours are available to MNE Groups having an ultimate parent entity located in an eligible jurisdiction which meets minimum taxation requirements.

Fourth, the package includes an evidence-based stocktake process to ensure a level playing field is maintained for all Inclusive Framework Members.

Fifth, the package reinforces the objective that qualified domestic minimum top-up tax regimes remain a primary mechanism in the global minimum tax framework for ensuring the protection of local tax bases, particularly in developing countries. 

とのこと。(例によって)解読に時間のかかる88頁の文書だが、パッケージの骨子はこんな感じ。

1) Material simplifications

  • Simplified ETR Safe Harbour(恒久的)
  • Transitional CbCR Safe Harbourの1年延長

2) Substance-based tax incentives

  • Substance-based Tax Incentive Safe Harbour→QTI(Qualified Tax Incentive)

 3) Side-by-Side (SbS) system

  • SbS Safe Harbour
  • UPE Safe Harbour
  • Central Record

27 December 2025

令和8年度税制改正の大綱、閣議決定

2025年12月26日、政府が「令和8年度税制改正の大綱」を閣議決定。冒頭の文章を箇条書きに直して、そのまま引用する。

  • 物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設するほか、就業調整に対応するとともに、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178 万円まで特例的に先取りして引き上げる。
  • 「強い経済」の実現に向けた対応として、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置を創設するほか、租税特別措置等の適正化の観点から、賃上げ促進税制の見直しや研究開発税制の強化等を行う。
  • 税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し等を行う。
  • このほか、自動車関係諸税について、自動車税等の環境性能割の廃止や軽油引取税の当分の間税率の廃止等を行う。
  • また、国際観光旅客税の税率の引上げや防衛特別所得税(仮称)の創設等を行う。
【財務省サイト】
      • 令和8年度税制改正要望 HTML ※令和7年8月29日時点での税制改正要望となります。
      • 税制改正の大綱 PDF
      • 税制改正の大綱の概要 PDF
【総務省サイト】

上記引用の冒頭の文章と対比させる趣旨で、自由民主党と日本維新の会による与党税制改正大綱の「基本的考え方」を引用しておく。

  • まず、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みを創設した。また、長年にわたって据え置かれてきた税制上の基準額について、網羅的な点検を行い、マイカー通勤に係る通勤手当や従業員への食事の支給に関して所得税が非課税となる限度額など、暮らしに関わる分野を中心に見直しを行い、物価高への対応を行った。また、物価高を超える賃上げの実現に向けて、賃上げ促進税制については、措置期間中ではあるが、臨機応変に対応する考えの下、防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形に見直す。
  • 「強い経済」を実現するために、大胆な設備投資促進税制を創設し、高付加価値化型の設備投資を強力に後押しする。他方、設備投資時のキャッシュフローを支援するとともに、設備投資後の収益で財政を支える償却制度を積極的に活用することで複数年の財政均衡に配慮した制度とした。さらに、貯蓄から投資への流れを後押しするNISAについては、つみたてNISAの拡充の一環として、国内市場を対象とした一定の株式指数を新たに追加する。結果として、個人の現預金が国内経済に投資され、経済成長を後押しする流れが加速化されることも期待される。
  • 「強い経済」とともに「世界で輝く日本」の実現に向けて、AI・量子・バイオ等の戦略技術分野の研究開発を促進する観点から、研究開発税制について「戦略技術領域型」を創設するとともに、国内の研究人材や研究開発拠点を強化する観点から必要な見直しを行う。また、国際的な租税回避を防止し、企業間の公平な競争環境を整備する観点から、わが国が主導してきた国際課税のBEPSプロジェクトについても積極的に進めていかなければならない。
  • 租税特別措置等については、的を絞り、メリハリを明確にすることでインセンティブを大胆に強化する。また、賃上げや設備投資に積極的ではない企業については租税特別措置の適用除外とする制度の強化・拡充を断行し、積極的に挑戦する企業を集中的に支援する制度に変えていく。今後更なる適用拡大についても検討を行う。
  • 他方で、累次の法人税率引下げによって、企業の利益が設備投資・研究開発そして賃上げの原資として適切に投資されてきたのか、不断の検証と改革も求められる。
  • 税制の公平性の確保に向けては、現行制度を躊躇なく見直す。まず、国内外での公平性の確保については「国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化」等の見直しを行うほか、外国人旅行者向け免税制度や、国外居住親族に係る扶養控除等の適用についてもあり方を検討していく。また、不当廉売関税に係る迂回防止制度を創設し、不公正な貿易に対する措置の実効性と抑止力を高める体制の構築を行う。財政の再分配機能を高める一環として「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」の見直しを行う。さらに、税制への信頼感を著しく棄損する租税回避への対応として「貸付用不動産の評価方法」「インボイス制度導入に係る経過措置」を利用した租税回避について厳格に対応していくとともに、時代の変化にこれからも対応していく。また、「ふるさと納税」について、健全な運用に向けた見直しを行い、制度導入時の崇高な理念の実現に向けた改正を行う。
  • 住民生活に密着した行政サービスを支える地方公共団体の税収をしっかり確保するとともに、経済社会の構造変化に対応し、都市と地方もお互いに支え合うという基本的考えに立ち、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けた具体的な取組みについて検討を行っていく。
  • また、デジタル化の進展に伴い、納税手続のデジタル化への対応を国税・地方税とも行うとともに「道府県民税利子割の清算制度」を導入する。今後も、デジタル化の進展による社会経済活動への変化に機敏に対応していく。
  • さらに、消費者が支払った消費税相当分が、全て納税されることなく、事業者の手元に一部残る要因となっている「インボイス制度導入に係る経過措置」については、これまでに決定した各種経過措置を含めて最終的に終了することを堅持しつつ、個人・中小事業者の対応状況等も踏まえた更なる配慮を行うために、見直しを行う。
  • 「基幹産業」としてわが国経済を牽引する自動車産業は、技術面や国際環境など、大きな変化を迎えている。こうした中、自動車関係諸税の見直しについて、わが国の技術的優位性を踏まえた「マルチパスウェイ」等の自動車戦略や国・地方の安定的な財源確保、カーボンニュートラル目標等を踏まえ、今後、車体課税・燃料課税を含めた総合的な検討を行う。
  • 恒久政策には安定財源が必要との考えの下、揮発油税等の当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る財源確保、防衛力強化に係る財源確保について税制上の対応を行う。また、高校生年代の扶養控除の見直しについては、先行して住宅ローン控除や生命保険料控除が拡充されていることも念頭に、今後も真摯な議論を行っていかなければならない。
  • 最後に、財政健全化と積極財政の二項対立ではなく、両者の思想を包含する「責任ある積極財政」の方針の下、「温故知新」の言葉を噛み締めつつ、税制改正に終わりはなく、連綿不断の改革と検証を行っていく決意をもって、以下、令和8年度税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。

25 December 2025

大企業の税務コンプライアンスを考える

大企業の税務コンプライアンスを考える」と題する講演を、日本租税研究協会の第77回租研大会記録に掲載していただいた。2025年9月17日に東京の日本工業倶楽部で口頭報告した原稿をもとに、当日にフロアからいただいたコメントを織り込んで活字にしたもの。

この講演では、5 つの問いをたてて、考えてみた。

  •  大企業の税務コンプライアンスがなぜ重要か
  • 協力的コンプライアンス(cooperative compliance)の研究状況はどうなっているか
  • 応答的規制(responsive regulation)の理論的基礎はどこまで強靭か
  • 日本の取組みはどうなっているか
  • 租税の確実性(tax certainty)は神話なのか

結果の一部を記すと、第2の点について、協力的コンプライアンスは、OECDの2013年報告書を基本文書として、内外で意欲的に研究されてきた。第3の点について、 応答的規制の理論的基礎は、協力的納税者と非協力的納税者の分布に依存しており、そのため両者をどう判別するかという課題がある。第4の点について、 日本の取組みとして、2011年から税務コーポレートガバナンスの働きかけがはじまり、対象拡大やインセンティブ付与をめぐって議論が続いている。このように、過去10年の議論状況を整理し、意見を述べることができた。

フロアから最も反応を得たのは、第5のtax certaintyに関する点で、"good enough" complianceを求めるべきだ、というPeter Barnes教授の指摘への共感が明らかに存在した。加算税の「正当な理由」や、企業がPillar Twoに対応するためのコンプライアンス・コストなど、まさに具体的な素材が関心事なのだとわかる。




23 December 2025

二羽のウサギを仕留める井上弁護士

井上康一・租税条約と国内税法―プリザベーション条項の歴史と意義(東京大学出版会2025)は、二兎を追う書物だ。一羽目は、「租税条約は国内租税法上の恩典を制限しない」というプリザベーション条項が確認規定である、という定説を覆すこと。二羽目は、租税条約解釈論を再構築すること。はしがきにそう書いてある。

本書から感銘を受けるのは、疑問に対して正面から向き合い、かつての自説を乗り越えようとする知的誠実さだ。かつて、2011年の共著において、井上弁護士はプリザベーション条項を確認規定ととらえ、租税条約解釈論を展開した。その真骨頂は個別条約規定を素材とする各論の検討にあり、私も高く評価してきた。他方で、プリザベーション条項の位置づけについては、いわば消極要件の不充足を念のためにチェックする、という意味をもつにとどまるというのが、2011年の共著を書評したおりに私が感じたことだった。今回新しく公表された本書は、プリザベーション原則は幻であり、プリザベーション条項が確認規定か創設規定かを議論する実益自体がない、という立場に到達している。井上弁護士はかつての自説を乗り越えたのである。

二羽目のウサギ、すなわち租税条約の再構築についてはどうか。一言で言えば、上書き特定型と違反審査型の二類型の提示によって、新たな境地を切り拓くことに成功している。松田浩道教授の問題提起を真摯に受け止めて、裁判例の悉皆的検討を行うなど、深く検討を重ねた成果だ。私は、松田説の租税条約解釈論上の意義に注目してきた一人であるから、この方向への井上弁護士の知的前進を慶賀したい。

本書カバー写真は、ブールデルの弓をひくヘラクレス。剛腕が二兎を射止める瞬間をとらえる。国立西洋美術館の前庭でみることができる。




09 December 2025

IFA日本支部でAvi-Yonah講演

Avi-Yonah教授が訪日し、東京でセミナーを開いてくれた。米国はGILTI/NCTIとCAMTでもってUS MNEに厳格な全世界所得課税をしているから、OECDはside-by-sideを受け入れるべきだ、という彼の主張を展開。米国系多国籍企業がexcess limit(15%限度額との関係で余裕のある状態)であればglobal blending(averaging)であろうが国別限度額管理であろうが違いはない、という数値例は、Should the OECD Accept GILTI as an Income Inclusion Rule?で展開していたことの要領のいい解説。さらに、同日付けのTax Notes International誌で公開されたCan Side by Side Work?の内容なども含まれていたが、記事自体は1か月はpaywallの中とのこと。共存を甘受せよ、という線を超えて、Rest of the Worldは(より優れている)米国型の制度を採用せよ、とまでいうところが刺激的。いわく、

The solution to these problems is for the OECD to follow the United States’ lead by abolishing SBIE and QRTC and require QDMTT countries to adhere to the same transfer pricing and sourcing rules that OECD countries have.

1時間の講演のあと、びっしり1時間、質疑応答ができた。通訳の方の優秀さが印象的。発言者名とともにテープ起こしが租税研究に掲載される予定。ここでは超速報版として、私の手控えでフロアからの質問骨子のみ書いておく。

  • 国別限度額方式は事務負担重いので、やめたら?
  • 国の競争力なのか、企業の競争力なのか?
  • Pillar 2をglobal blendingにしたら?
  • Side-by-sideに対するGlobal Southの反応は?
  • 「米国がUS MNEに厳格な全世界所得課税をしている」ということから、なぜ「OECDはside-by-sideを受け入れるべきだ」といえるのか?
  • Safe harborだけで十分では?
  • 「US MNEのほうが不利だ」というのは、米国内ではどう受け止められているか?
  • 米国以外でexcess credit(限度額超過)の国は?
  • Single Tax Principleとの関係は?
  • インドネシアのIFA会合?
  • Pillar 2のequity loss gain?
  • averagingはやはり大事?

セミナーのご案内は、IFA日本支部のウェブサイトで、以下のとおりだった。

2025年12月開催IFA 日本支部セミナー(対面形式)のご案内

 このたびIFA日本支部セミナーを日本租税研究協会との共催で下記の通り開催いたしますので、ご案内申し上げます。なお、今回は対面方式での開催となります(同時配信はありませんが、後日の録画配信があります)。

 みなさまのご参加をお待ちしております。

【日  時】2025年12月8日(月)13:30-15:30

【場  所】AP東京丸の内(千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー 3F)

【内  容】The United States and Pillar 2

【講  師】ミシガン大学 Reuven S. Avi-Yonah教授

 講演は英語で行われますが、通訳がつきます。

 お申し込みはこちらから可能です。お申込みに必要なID・PWはお送りしたメールに記載されております。 

(2025/10/9)