09 December 2025

IFA日本支部でAvi-Yonah講演

Avi-Yonah教授が訪日し、東京でセミナーを開いてくれた。米国はGILTI/NCTIとCAMTでもってUS MNEに厳格な全世界所得課税をしているから、OECDはside-by-sideを受け入れるべきだ、という彼の主張を展開。米国系多国籍企業がexcess limit(15%限度額との関係で余裕のある状態)であればglobal blending(averaging)であろうが国別限度額管理であろうが違いはない、という数値例は、Should the OECD Accept GILTI as an Income Inclusion Rule?で展開していたことの要領のいい解説。さらに、同日付けのTax Notes International誌で公開されたCan Side by Side Work?の内容なども含まれていたが、記事自体は1か月はpaywallの中とのこと。共存を甘受せよ、という線を超えて、Rest of the Worldは(より優れている)米国型の制度を採用せよ、とまでいうところが刺激的。いわく、

The solution to these problems is for the OECD to follow the United States’ lead by abolishing SBIE and QRTC and require QDMTT countries to adhere to the same transfer pricing and sourcing rules that OECD countries have.

1時間の講演のあと、びっしり1時間、質疑応答ができた。通訳の方の優秀さが印象的。発言者名とともにテープ起こしが租税研究に掲載される予定。ここでは超速報版として、私の手控えでフロアからの質問骨子のみ書いておく。

  • 国別限度額方式は事務負担重いので、やめたら?
  • 国の競争力なのか、企業の競争力なのか?
  • Pillar 2をglobal blendingにしたら?
  • Side-by-sideに対するGlobal Southの反応は?
  • 「米国がUS MNEに厳格な全世界所得課税をしている」ということから、なぜ「OECDはside-by-sideを受け入れるべきだ」といえるのか?
  • Safe harborだけで十分では?
  • 「US MNEのほうが不利だ」というのは、米国内ではどう受け止められているか?
  • 米国以外でexcess credit(限度額超過)の国は?
  • Single Tax Principleとの関係は?
  • インドネシアのIFA会合?
  • Pillar 2のequity loss gain?
  • averagingはやはり大事?

セミナーのご案内は、IFA日本支部のウェブサイトで、以下のとおりだった。

2025年12月開催IFA 日本支部セミナー(対面形式)のご案内

 このたびIFA日本支部セミナーを日本租税研究協会との共催で下記の通り開催いたしますので、ご案内申し上げます。なお、今回は対面方式での開催となります(同時配信はありませんが、後日の録画配信があります)。

 みなさまのご参加をお待ちしております。

【日  時】2025年12月8日(月)13:30-15:30

【場  所】AP東京丸の内(千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー 3F)

【内  容】The United States and Pillar 2

【講  師】ミシガン大学 Reuven S. Avi-Yonah教授

 講演は英語で行われますが、通訳がつきます。

 お申し込みはこちらから可能です。お申込みに必要なID・PWはお送りしたメールに記載されております。 

(2025/10/9)

東京地判令和7年1月16日(令和5年(行ウ)488)相続税更正処分等取消請求事件

いつも租税判例研究会の様子は、浅妻教授の「ブログだったもの」に詳しく掲載される。しかし今回はまだのようだ。私の聞き取り精度が低いため浅妻教授の代わりにはならないが、独断と偏見に基づきここにノートしておく。そのような性質のものなので、評釈者や発言者のお名前はあえて記さない。

【事案】親と子の間で借地権設定→親から子に現金贈与→相続時精算課税の選択→相続開始

【争点】本件借地権相当額を相続税の課税価格に加算すべきか?

【原告らの主張】原告ら(相続人)は、贈与税の除斥期間が過ぎているから加算すべきでないと主張した。

相続税法21条の15第1項にいう相続税の課税価格に加算すべき相続時精算課税適用財産というためには、特定贈与者からの贈与に係る贈与税について課税当局による課税権限の行使が可能であることが必要となる。そうすると、特定贈与者からの贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間が経過したことにより、課税当局による課税権限の行使が不可能となった場合には、相続時精算課税適用財産として相続税の課税価格に加算することは許されない。

【判旨】 請求棄却

ア 原告らは、平成22年3月9日に提出した相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年以後の年である同年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けたことにより、当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる(相続税法9条)。

 そのため、本件借地権相当額は、特定贈与者である亡Fからの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、原告らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する。これに対し、その該当性を否定する規定は相続税法その他関連法令において見当たらない。

 したがって、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算されるべきものである。

【原告の主張に応答する判示部分(下線は増井による)】 

イ(ア)原告らは、上記第2の5(原告らの主張)(1)及び(2)のとおり、本件借地権相当額の贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、同贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であり、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算することができない旨主張する。

 しかし、相続税法21条の15は、相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の範囲について、相続税精算課税制度の適用を受ける財産のうち「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」と規定するにとどまり、これを超えて、納税者の申告や税務署長の更正決定等により贈与税の課税価格に算入されたものとは規定していない。そのほか、同法の規定や本件全証拠によっても、原告らの主張を裏付ける規定や見解は見当たらない。

 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

【フロアからの指摘】

  • もし相続時精算課税を選択していなかったら、贈与税については除斥期間により課税できない。このこととの対比では、結論のスワリがわるい。しかし21条の15の文言は「算入されるもの」となっており、「算入された」となっていないから、文言上、加算するほうが自然。
  • この判決が定着すると、相続時精算課税を選択せずに贈与税を脱税し、7年過ぎることをじっと待つと除斥期間を利用できることになる。これは相続時精算課税を使いやすくするという方向とは逆。
  • みなし贈与を加算するのは、文言上はそうならざるを得ないとはいえ、そもそも相続時精算課税制度の本来の趣旨に合致しているか?
  • 相続時精算課税の選択をしても、贈与税の除斥期間が進行するのか?
  • これはそもそも除斥期間の問題ではない、と判断したからこそ、つれない判決文になっている。相続税の除斥期間だけの問題だ。
  • 相続時精算課税はいったん選択したら一生付きまとう制度だ。「一体化措置」という趣旨を厳格にセットとして理解する。
  • 判決文を読んだ段階では当たり前の判断だと考えたので、いろいろ論点を出してもらってありがたい。別の方向の議論として、贈与税につき課税処分を受けていなくても加算してよいのか。あるいは、仮に贈与税について処分を受けていたらそれと異なる加算は可能か。
  • 相続時精算課税においては、贈与税は仮の課税でしかない。それが誤っていたとして、本来の課税を直さなければならないわけではない。
  • 19条1項(7年加算)にも波及する判断であろう。自分たちの知らないところで贈与が起こっていたら、税理士の先生方が困る。
【増井のコメント】
  • 裁判所は贈与税除斥期間の問題ではないと考えて、21条の15の「算入されるもの」という文言からあっさりと理由を説示するにとどまったのだろう、というフロアの議論が腑に落ちた。
  • ChatGPTが、「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)」という文書を探してきたので、その 10頁の問2-4をみてみた。しかしそれは、「相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について贈与税の除斥期間経過後に評価誤り等が判明した場合の相続税の課税価格に加算される金額」というもので、評価誤りのケースであって本件のようにそもそも加算しなかったケースではなかった。

05 December 2025

OECD (2025) Public trust in tax 2025で、アジア諸国のインタビュー調査

今回のPublic Trust in Tax 2025: Asia and Beyondは、継続してやってきたシリーズの第7版だ。今年は対象国が拡大し、過去最多となる29か国。2024年のラテンアメリカに焦点を当てた分析に続き、本年版ではアジアを深く掘り下げている。

【概要】
  • OECD、ACCA(英国勅許公認会計士)、CA ANZIFAC (国際会計士連盟)の共同調査
  • オンライン・インタビューの対象は、29か国、12,467名
  • 今回はとりわけアジア19か国を中心とし、税に対する認識(perceptions)、経験(experiences)、情報源への信頼(trust)をきいた
【Key Findings】
  • アジアでは「財政契約(fiscal contract)」の認識が比較的強い (The fiscal contract appears to be in better health in much of Asia and the Anglophone Pacific than in Western Europe and Latin America.)
  • アジア内でも国による差が大きい (Views on tax do however vary, sometimes significantly, within Asia.) →東南アジアは肯定的評価が強いのに対し、日韓は欧州型の厳しい評価に近いという結果
  • アジアの約8割の国で「税は能力に応じて公平に徴収されている」と回答した割合が多数派 (In 80% of the countries surveyed in Asia, but only in 20% of those outside Asia, more respondents agreed than disagreed that the tax system collects tax in an equitable way.)
  • ほぼ全ての国で、オンライン申告・情報提供の利便性が最も高い評価 (In all countries, respondents viewed the provision of online/digital tax services as the most positive experience of the tax administration.) →しかし情報の「理解しやすさ」は多くの国で課題→日独伊などでは税務行政全般の経験が相対的にネガティブ
【コメント】
  • 公表に必要な資金は日本政府が提供した、との追記が4頁にある
  • データセットはここ
  • "Accountants are the most trusted source of information on tax in almost all countries surveyed."という調査結果は、専門家への信頼という意味では自然かもしれないが、もしかしたらサンプルなどのバイアスがかかっている可能性も排除できない。ちなみにこの結果は、会計士以外の比較対象は、「税務当局・政治家・SNS・メディア・NGO・ビジネスリーダー」等で、それらとの比較で相対的にヨリ信頼できるか、を質問した結果だ



04 December 2025

最低賃金引き上げに関するthe Economistの記事

2025年11月22日号のEconomists get cold feet about high minimum wagesと題する記事は、興味深い。この記事は、最低賃金に関する経済学の知見が変遷してきたことを、次のように説明。

1)伝統的見解

  • 教科書的には「最低賃金は雇用を減らす」とされ、OECDも1990年代には慎重姿勢

2)1990年代半ば以降の転換

  • Card & Krueger(1994)→最低賃金引上げが必ずしも雇用減につながらない
  • Dube & Zipperer →雇用への悪影響は2010年代後半にはほぼゼロ近くまで縮小した
  • これらが各国政府に共有され、2010年代の最低賃金引上げラッシュ

3)揺り戻し

  • シアトルの大幅賃上げを分析した研究→低賃金労働者で、労働時間が減少(賃金は増加)、新規雇用減少
  • Hurstら(2023)→長期的には低所得層の雇用・所得・厚生を悪化
  • Bergerら(2024)→8ドルがthresholdだ
  • Farkas (2024)、 Liuら(2024)、Cho(2024)
  • MaCurdy (2015)→最低賃金に伴う物価上昇は州売上税よりも逆進的
  • Bilsら(2024) →ブラジルで高賃金者が得をする

以上の文献紹介を踏まえ、この記事は、長年賃上げを続けてきた今こそ、各国の政策担当者は慎重に歩を進める(tread carefully)べきだ、と結ぶ。この結びのところでは、(本来は政治的立場がthe Economist誌と対極にあるはずの)the Resolution Foundationの言葉を引用している。その言葉そのもののリンクは見つけられていないが、関連しそうなのがこれ

ところで、the Economistの記事は、依拠した論文の題名や掲載誌を明記しないスタイルで書かれている。そこで、ChatGPTで調べたら、次のリストを生成してきた。以下これをコピペする。

 Below are formal academic-style citations for every study and report referenced in the article, reconstructed in APA 7th edition format.

Where the article did not provide full bibliographic detail (typical for The Economist), I supply the correct full citation from the underlying academic literature.

These citations correspond to all works referenced in the PDF.


Formal Academic Citations (APA 7th Edition)

1. OECD (1994) minimum-wage position

Organisation for Economic Co-operation and Development. (1994). The OECD jobs study: Facts, analysis, strategies. OECD Publishing.


2. Card & Krueger (1994)

Card, D., & Krueger, A. B. (1994). Minimum wages and employment: A case study of the fast-food industry in New Jersey and Pennsylvania. American Economic Review, 84(4), 772–793.


3. Dube & Zipperer minimum-wage research database

Dube, A., Lester, T. W., & Reich, M. (2010). Minimum wage effects across state borders: Estimates using contiguous counties. Review of Economics and Statistics, 92(4), 945–964.
Zipperer, B., & Dube, A. (2024). Minimum wage research compendium [Database]. Economic Policy Institute / University of Massachusetts Amherst.
(Note: The Economist refers to their long-standing meta-database rather than a specific paper.)


4. Manning (2021) literature summary

Manning, A. (2021). The elusive employment effect of the minimum wage. Journal of Economic Perspectives, 35(1), 3–26.


5. Dube (2019) UK Government Review

Dube, A. (2019). Impacts of minimum wages: Review of the international evidence. Report commissioned by HM Treasury and the UK Low Pay Commission.


6. Seattle Minimum Wage Study (2015–2016; published 2022)

Jardim, E., Long, M. C., Plotnick, R., van Inwegen, E., Vigdor, J., & Wething, H. (2022). Minimum wage increases and low-wage employment: Evidence from Seattle. American Economic Journal: Economic Policy, 14(1), 315–351.


7. Hurst et al. dynamic adjustment paper

Hurst, E., Notowidigdo, M. J., & Şahin, A. (2023). The long-run effects of minimum wage increases on low-wage employment (NBER Working Paper No. 31570). National Bureau of Economic Research.
(The Economist refers to a “working paper by Erik Hurst and three co-authors.”)


8. Berger, Herkenhoff & Mongey (June 2024) threshold paper

Berger, D., Herkenhoff, K., & Mongey, S. (2024). Minimum wages and monopsony: Theory and evidence (NBER Working Paper No. 32412). National Bureau of Economic Research.
(Their finding: U.S. minimum-wage “distortion threshold” below $8/hour.)


9. Farkas (Columbia) working paper on scheduling

Farkas, H. (2024). Minimum wages and work schedule volatility (Working paper). Columbia University, Department of Economics.


10. Qing Liu et al. (2024) minimum wage and workplace injuries

Liu, Q., Lu, R., & Zhang, X. (2024). Minimum wages and workplace injuries: Evidence from China. Journal of Labor Economics, 42(2), 291–330.


11. Cho (University of Sydney) working paper on investment

Cho, D.-K. (2024). Minimum wages and firm investment: Evidence from administrative data (Working paper). University of Sydney.


12. MaCurdy (2015) price incidence of minimum wages

MaCurdy, T. (2015). How effective is the minimum wage at supporting the poor? National Bureau of Economic Research Working Paper No. 20827.
(Also appears in Journal of Political Economy, 2021, in revised form.)


13. Bils et al. working paper (Brazil bargaining spillovers)

Bils, M., González, L., & Mello, R. (2024). The distributional consequences of minimum wages: Evidence from Brazil (NBER Working Paper No. 31804). National Bureau of Economic Research.

27 November 2025

日米租税条約13条2(b)にいう「合衆国不動産持分」

法科大学院の「国際租税法」の授業で、日米租税条約13条2(b)にいう「合衆国不動産持分」ってどんな意味ですか、という質問があった。

これは、英文テキストでは"United States real property interest"のことだ。この用語については条約において定義されていない。だから3条2により、米国国内法上の意義による。より厳密にいうと、米国による条約の適用に際して、米国の国内法令において適用時に有する意義を有するものとする。つまり、日米租税条約13条との関係では、米国が源泉地国として課税する場合である。この場合、居住地国としての日本国は、23条1(a)により、条約の規定に従って米国において租税を課されていれば、外国税額控除を行うことになる。

このことを前提として、米国政府の技術的説明は 

Under section 897(c) of the Code, the term "United States real property interest" includes shares in a U.S. corporation that owns sufficient U.S. real property interests to satisfy an asset-ratio test on certain testing dates. The term also includes certain foreign corporations that have elected to be treated as U.S. corporations for this purpose. See section 897(i) of the Code. In addition, any distribution made by a U.S. real estate investment trust or certain U.S. regulated investment companies is taxable under paragraph 1 of Article 13 of the existing Convention (rather than under Article 10 (Dividends) of the existing Convention) to the extent that it is attributable to gains derived from the alienation of U.S. real property interests. See section 897(h) of the Code.

と解説している。米国の内国歳入法典897条はこれ

ちなみに、この質問がでてきた文脈は、次の議論をやっていた副産物だ。

  • 国際租税法第4版の第4章練習2③について、今回担当の吉村浩一郎さんが学生さんと質疑応答をしていた。
  • 2013年議定書の発効により、日米租税条約13条2が修正されて、(b)の「法人」が日本の内国法人だけでなく外国法人も含むようになった。
  • そのため、巻末の「考え方のヒント」がちと古くなっていた。
  • というのも、国際租税法第4版の基準時は2019年4月1日で、同年8月30日に議定書が発効したからだ。
  • 要するに、練習2③は、議定書発効前の状態を前提にしたものなので、改めて留意が必要。→第2刷のときに、いくつかの点を補正している

15 November 2025

第18回税務長官会議

ケープタウンで開かれる第18回税務長官会議(FTA PLENARY 2025)のアジェンダが発表されていました。びっしり2日半にわたって、以下の論題を扱うとのこと。開始前日の11月17日に、Tax Administration 2025が公開されるそうです。→FTAの報告書のこれまでの流れについてはこれ、税務行政3.0についてはこれ、さらに最近、おとといの税調専門家会合資料でもFTAの議論が紹介されています。

DAY 1: 18 November

SESSION I – INTRODUCTION

SESSION II – TAX GAPS AND COMPLIANCE BURDENS

SESSION III – TACKLING TAX DEBT

SESSION IV – TAX MORALE →日本から江島一彦国税庁長官が登壇

DAY 2: 19 November

SESSION V – NEXT STEPS ON TAX ADMINISTRATION 3.0

SESSION VI – ACCELERATING TRANSFORMATION JOURNEYS

SESSION VII – SUPPORTING VOLUNTARY COMPLIANCE

1. Effective taxpayer services (Main Plenary room)

2. Outreach and communication (Breakout room 1)

3. Influencing taxpayer behaviours (Breakout room 2)

SESSION VIII – TAX CRIME THREATS →武田一彦国税庁調査査察部長がChair of the Task Force on Tax Crimeとして司会

DAY 3: 20 November

SESSION IX – INTERNATIONAL TAX POLICY AND TAX CERTAINTY

The International Tax Policy Agenda →OECD CPAのManal Corwin局長とAchim Pross次長

SESSION X – CLOSING SESSION

Agreement of the Statement of Outcomes



05 November 2025

今日の法Ⅱ

10月から駒場の大学1年生のみなさんとご一緒に、「法Ⅱ」という授業で実定法学に入門している。教科書は森田(2020)。この本のChapter 1がすばらしいことはすでに述べた

Chapter 2の合意に関するストーリーも読み応えがあって、物々交換の世界→契約法の導入→貨幣の導入→評判による解決→反復継続による信頼形成ときて、Greif (JEH 1989)で閉じるあたり、まことに憎い構成だ。森田教授のonline appendixも参照。ただし、実定法学入門を標榜するぼくの授業では、貨幣を利用することを「契約法によらない対処法」(33頁)と表現している点については、注釈が必要だった。日本の実定法では、売買は代金の存在を前提としていて(民法555条)、契約法の規律を受けるからだ。

今日はChapter 3を読んで、要件・効果の組み合わせである「ルール」について考えた。

  • 作成主体、適用対象、実施主体の話がわかりやすい
  • ルールの望ましさの判定基準として、目的と手段を考えるというのも、法道具主義の本書らしいすっきりした話だ
  • サッカーのルールの具体例は、サッカーになじみのない読者を念頭に、もうすこし説明が必要(バックパスルールの例で「間接フリーキック」の意味がわからない方もいた)
  • 校則の具体例は、高校生活を送ったことのある若者にとって、とてもわかりやすい例
  • ルールの規律密度が高まっていく現象を、校則の「成長」や、センター試験(2020年度(2021年1月実施)をもって廃止され現在は大学入学共通テスト)の受験ルールなどで例解するのも、わかりやすい
  • ここからrule versus standardの話につなげていくのは容易
全体として、だいぶ前に宮澤俊義を意識して書いたこのコラムと響きあう内容で、「ことばによる統制」の意義を考えさせるChapterだ。

校則の例が出てきたことを受けて、今日の授業の後半では、大阪髪染め訴訟の地裁判決をみんなで読んでみた。多くの問題点があるところ、焦点はふたつにしぼった。①校則の性質と、②地裁判決の構成だ。②については、下級審における争点整理と事実認定の決定的重要性など。授業で触れなかった点について最後にフロアから質問が出て、持ち帰って調べたところ、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の計算は複利計算ではなく単利計算だった(最判令和4年1月16日民集76巻1号1頁)。いやー、勉強になりました。

来週のテーマは「解釈」。ある最高裁判決を読む予定。さらに、同じコマの「法Ⅱ」を別クラスで担当している白石忠志教授に、遠藤聡太「鳥獣保護管理における銃猟行為の刑法的規律」Law&Practice 19号(2026年2月)掲載予定の存在を教えてもらったので、ぼくのクラスでもどこかでとりあげたい。このクラスで読む時期には、いま話題の熊出没がおさまっていればいいのだけど。

30 October 2025

OBBBAの続き、国際面、academic

さらに進めた。


ぼく:

what about academic


ChatGPT:

 Yes — there are academic-style resources you can tap to deepen your understanding of the international tax side of the One Big Beautiful Bill Act (OBBBA). They vary in degree of “peer-reviewed scholarly journal” vs working-paper format, but they’ll give you thoughtful theory, modelling, and critique rather than just practitioner how-to.

Here are some good ones + how I recommend you use them:


✅ Good academic-style pieces on OBBBA & related international tax reform

  • Brookings Institution: “When tax laws defy public opinion: What OBBBA reveals” — looks at how the law passed despite public opposition, discussing political economy and implications for tax legitimacy. (Brookings)

  • Budget Lab at Yale University: “Long-term Impacts of the One Big Beautiful Bill Act” — includes macro-modelling of the law’s effects, useful for international spill-over thinking. (The Budget Lab at Yale)

  • On more general international tax reform (not OBBBA-specific but strongly relevant): Profit Shifting and International Tax Reforms (Ferrari, Laffitte, Parenti & Toubal) — models how multinational profit shifting reacts to tax changes, which is very applicable to how OBBBA modifies regimes like GILTI/FDII. (arXiv)

  • A working academic summary of the OBBBA: Understanding the Tax Provisions of the One Big Beautiful Bill Act (Donaldson) — outlines many of the key provisions including international ones. (SSRN)


🔍 Why these help for international tax workstream

  • They provide theory and modeling (not just “what changed”) — e.g., how profit-shifting might respond, how tax base erosion flows may change.

  • They help position your planning advice in a broader context (global tax competition, treaty networks, BEPS/anti-avoidance) not just US-only detail.

  • They help with risk-spotting: by showing what kinds of behavioural responses are plausible you can anticipate what models/structures you’ll need to stress-test.

  • They help with commentary and publication if you or your firm want to write a thought-leadership piece.


🧠 How to use them in practice

  • Map theory → practice: Take a model result (e.g., the “elasticity of profit shifting” from the Ferrari et al work) and ask: how does the renamed/rewritten provisions in OBBBA (e.g., GILTI → “Net CFC Tested Income” etc) change that elasticity for US multinationals?

  • Use as supporting references: When you deliver a memo to clients, cite the academic work to back up planning warnings (“the literature suggests home-jurisdiction tax reform triggers profit-shifting increases of X%…”).

  • Identify gaps: The academic literature may not yet fully cover the new OBBBA international provisions (because the law is so recent). So you’ll want to flag “area needing further study” (e.g., how treaty networks will adjust to FDDEI changes) — and your client memo can note “we are working in area of limited empirical precedent”.

  • Stay alert for new working papers: Because OBBBA is very recent, many “academic” papers will be working papers or pre-prints rather than fully peer-reviewed. But that’s fine if you mark them as such.


If you like, I can scan and pull 5–10 recent academic/working-paper articles that address OBBBA’s international tax provisions (GILTI/FDII renaming, FTC limit changes, BEAT/BSMT changes, treaty impacts) and send you an annotated bibliography (with links, abstracts, and key findings) for your reference. Would you like me to pull that together?

OBBBAの続き、国際面

 悪くない。国際課税の側面に特化することもできますよ、とあったので、さらに調べさせた。


ぼく:

intl tax


ChatGPT:

Awesome—here’s a tight, international-tax–only hit list for tracking and using OBBBA changes in practice. Each item is what I’d keep open in a working browser tab.

Primary law, policy, and Hill materials

  • IRS OBBBA page / fact sheet — Canonical summaries and links to official guidance (even if not intl-specific, it’s the ground truth you’ll cite back to). (IRS)

  • House Ways & Means — Section-by-Section (PDF) — Best single map to where the intl provisions live (renaming GILTI→NCTI, §250 changes, QBAI elimination, etc.). (Ways and Means)

  • JCT materials — Revenue estimate tables and methodology notes; use for quant support and footnotes. (jct.gov)

  • U.S. Treasury (G7 “side-by-side” statement) — Sets the policy frame for Pillar Two interactions (IIR/UTPR exclusions for U.S.-parented groups). (U.S. Department of the Treasury)

Independent modeling & think-tank explainers

  • Penn Wharton Budget Model (OBBBA intl update) — Fresh cost/ETR modeling of NCTI/FDDEI and §250 mechanics. (Penn Wharton Budget Model)

  • Tax Foundation (intl changes + Pillar Two “side-by-side”) — Practitioner-friendly technical rundowns and state-spillover notes. (Tax Foundation)

Big-Four / major firm trackers (implementation detail & examples)

  • KPMG TaxNewsFlash (intl provisions PDF) — Dense, section-by-section with planning observations (NCTI, FDDEI, FTC, §250). (KPMG)

  • EY alert on G7 “side-by-side” — Useful to reconcile cross-border policy with U.S. implementation. (EY)

  • RSM — foreign tax credit under OBBBA — Practical FTC limitation implications under NCTI/FDDEI; good for examples. (rsmus.com)

Law-firm client alerts (great for nuance & traps)

  • McDermott Will & Emery — Clear summary of NCTI (ex-GILTI), §250 to 40%, and loss of QBAI; handy ETR impacts. (McDermott)

  • WilmerHale — Crisp outline of NCTI/FDDEI changes and timing—useful for “what’s effective when.” (ウィルマー・ヘイル)

  • Baker McKenzie (InsightPlus PDF) — Deep dive on mechanics (renaming, DTIR removal, permanency of §250 percentages). (insightplus.bakermckenzie.com)

Solid mid-tier practitioner notes (quick checks, cross-border angles)

  • HCVT — Bulletized NCTI/FDDEI/FTC changes (incl. 90% indirect FTC, QBAI elimination) for quick reference. (hcvt.com)

  • BDO (Canada-facing brief) — Good cross-border perspective; helpful when coordinating with foreign advisors. (BDO Canada)

  • IBA feature — Policy-level summary on global repercussions; useful for board memos. (IBA)


If you tell me your specific workstream (e.g., FTC basketing/§904, loss/expense allocation to NCTI, FDDEI documentation, CFC structuring), I’ll stitch these into a focused reading stack with the 2–3 must-print PDFs and a one-page checklist.

OBBBA、さらに続き

 以前の検索からだいぶ時間がたったので、今度は、ChatGPT 5 thinkingで、OBBBAに関するサイトを調査した。


ぼく:

list the most useful professional sites on the US tax reform "OBBBA"


ChatGPT:

Here’s a tight, practitioner-oriented starter list of the most useful places to track and interpret the “OBBBA” (One Big Beautiful Bill Act) tax changes—grouped by type and with a one-liner on why each matters:

Primary law & official guidance (always start here)

  • Public Law text (govinfo) — Authoritative statute (P.L. 119-21). (GovInfo)

  • Congress.gov – H.R.1 bill page & text — Versions, actions, and final text. (Congress.gov)

  • IRS OBBBA landing & FAQs — Overtime/tips reporting, transition relief, ERC compliance changes, Rev. Proc updates. (IRS)

  • Joint Committee on Taxation (JCT) — Revenue estimates (House and revised tables). (jct.gov)

  • Senate Finance Committee — Section-by-section summaries and as-enacted materials. (finance.senate.gov)

  • House Ways & Means — Section-by-section for the House bill (useful for intent/structure). (Ways and Means)

  • White House OBBB page — Administration’s framing and highlights (good for policy intent). (ホワイトハウス)

Independent modeling & fiscal analysis

  • Tax Foundation – OBBBA hub — Dynamic/scoring analyses, complexity write-ups. (Tax Foundation)

  • Penn Wharton Budget Model — Updated international tax cost estimates (GILTI/FDII, §250). (Penn Wharton Budget Model)

  • Tax Policy Center (Urban-Brookings) — Macro/fiscal/equity takeaways. (taxpolicycenter.org)

  • Committee for a Responsible Federal Budget (CRFB) — Side-by-side House/Senate and deficit impacts. (crfb.org)

  • CRS reports (via Congress.gov / EveryCRSReport) — Neutral technical deep dives (METRs, health coverage provisions). (Congress.gov)

Practitioner explainers & trackers (day-to-day application)

  • Bloomberg Tax (guide & federal hub) — Consolidated practitioner guidance and updates (subscription). (pro.bloombergtax.com)

  • EY Tax News — Finance Committee text summaries with practitioner notes. (taxnews.ey.com)

  • KPMG TaxNewsFlash / analysis — Implementation angles (e.g., R&E and transition issues). (KPMG)

  • Capitol Tax Partners – OBBBA document bank — Handy links to enacted text, redlines, and committee summaries. (Capitol Tax Partners)

  • Brownstein (or similar law-firm) client memo — Compact “what’s in the law” summaries with links out to Hill/JCT/CBO. (bhfs.com)

  • AICPA & CIMA — Side-by-side charts for planners/advisers. (Free account) (aicpa-cima.com)

国連の国際租税協力専門家委員会第31回

 国連サイトの奥に引っ込んでしまい、目当ての文書までたどりつくのに時間がかかるので、サイトのリンクを張っておく。その一段奥に配置してあるConference room papers (CRP) へのリンクの内容を、以下にコピペする。Final Reportはまだ出ていない。

Conference room papers (CRP) - 31st Session

Conference room papers (CRP) - 31st Session of the Committee of Experts on International Cooperation in Tax Matters

Tuesday, 21 October 2025

Issues related to the United Nations Model Taxation Convention - CRP. 22 Proposed workstream for the work on the UN Model Tax Convention

Review and possible update of the United Nations Manual for the Negotiation of Bilateral Tax Treaties between Developed and Developing Countries - CRP.23 Proposed workstream for the work on the UN Manual for the Negotiation of Bilateral Tax Treaties

Other areas for Committee consideration and guidance as part of its work Programme - (i) CRP.27 Secretariat Note on Extractive Industries Taxation

Friday, 24 October 2025

Other areas - (vii) not covered by the conference papers - CRP.30 Other areas

24 October 2025

TaxProfBlogが復活

TaxProfBlogが復活した。いったん、2025年 9月に終了。残念なことだった。と思っていたら、それから1か月で、AALSのサイトで、新しいeditorsを迎え、10月23日付けで配信(再)開始。よろこばしい。

元のeditorであるPaul Caron教授は、これをTaxProfBlog2.0として、次のように述べている。

I am delighted that exactly one month later, TaxProf Blog is reborn with new editors on the Association of American Law Schools site. I am grateful to AALS Executive Director & CEO Kellye Testy (and her leadership team) for recognizing the value of TaxProf to the tax and legal education community and to AALS Associate Director of Digital Strategies Amanda Brite (and the tech team) for their incredible work in retrieving and reformatting over 50,000 blog posts. I am thrilled that the TaxProf community will live on for many years at the ideal gathering place on the web for scholars, practitioners, students, and other friends.

17 October 2025

G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2025.10)の議長総括のうち、国際課税に関する部分

 財務省のこのサイトに、第 4 回 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議議長総括(仮訳)(2025 年 10 月 15-16 日 於:米国・ワシントン D.C.) が出ていた。このうち、国際課税に関する部分は、6つのパラグラフから成る。引用者が段落番号と着色を施し、言及されている文書等へのリンクを張りつつ、直下に日本語仮訳を引用しておく。

以下引用*********

国際課税(International Taxation)

①メンバーは、全ての関係者にとって受け入れ可能な、均衡ある、かつ実用的な解決策を可能な限り早期に見出すという共有された目標をもって、「第2の柱」のグローバル・ミニマム課税に関する懸念に対処することへの建設的な関与を継続することにコミットした。解決策の実現は、実質ベースの税制上の優遇措置の公平な取扱いに関する議論を含む、公平な競争環境の観点から特定され得る重大なリスク、及び、税源浸食と利益移転のリスクへの対処へのコミットメントを含む必要があるとともに、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に関する建設的な対話を含む、国際課税システムを安定させるための更なる進展を促す。これらの取組みは、全ての国の課税主権を保持しつつ、OECD/G20「包摂的枠組み」(IF)のメンバー間の緊密な協力によって進められる。

②メンバーは、「国際租税協力に関する G20 リオデジャネイロ閣僚宣言」を想起しつつ、グローバルな移動について研究し、税制、格差、及び成長の相互作用を理解するために、段階的かつ証拠に基づいたアプローチを採用するという IF の決定を引き続き歓迎する。

③メンバーは、国際租税協力に関する国連枠組条約を策定するための進行中の交渉に留意するとともに、参加している G20 メンバーは、不要な努力の重複を避けるよう努めつつ、幅広いコンセンサスを得る、並びに、既存の成果、プロセス、及び他の国際機関において現在進行中の作業を基礎とするという目的を再確認した。

④メンバーは、国際機関からの5つの重要なレポート及びケープタウンで開催された国内資金動員に関する G20 税サイドイベントからの1つのレポートを歓迎した。IFによるレポート「BEPS イニシアティブの 10 年:G20 財務大臣・中央銀行総裁への包摂的枠組みによる実績評価に係るレポート」は、BEPS プロジェクトが達成しようとした、国際課税システムにおける、更なる一貫性、実質性、透明性及び安定性をもたらすことに対する進展と影響を評価する。また、協力することの有益性も示している。これまでの成果に基づいて途上国が十分に参加し恩恵を受けられるようにするためには、包摂的な参加及びニーズに応じた税に関する能力の向上を支援することが必要である。

⑤OECD 及びグローバル・フォーラムによるレポート「透明性と税務目的の情報交換に関する進捗の実績評価」は、G20 主導の国際租税協力が、税務当局の情報共有能力を強化し、結果として税収を増加させる、重要な進展をもたらすことができることを示す。OECD によるレポート「不動産に関する即時利用可能な情報の自動交換の枠組み:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」は、関心を持つ法域間における不動産に関する国際的な税の透明性を強化するための任意の共通アプローチを示す。南アフリカ財務大臣による、各法域にこのイニシアティブへの参加を求めるレターを受け、G20 議長国南アフリカは、これまでに示された法域による関心を歓迎するとともに、他の法域にも参加を奨励する。

⑥メンバーは、国内資金動員(DRM)が共通の重要課題であることに合意した。IMF による「歳入行政の強化を通じた国内資金動員の強化に関する G20 背景ノート」は、歳入管理を税制の重要な柱として強調する。「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」によるレポート「税に関する能力構築枠組みの強化に関する進展」は、能力構築提供者間における協調及び連携の重要性を示すとともに、各国主体で、各国が主導し、納税者との社会契約を果たす改革への構造的なアプローチの価値を認識する。地域機関が果たす重要な役割は、両レポートで強調されている。2025 年2月に開催され幅広い支持を得た DRM に関する税サイドイベントに基づくモデレーターのレポートは、DRM を最も効果的な資金源として優先付けること、現代的で強靭な歳入管理へ投資すること、そして国際協力を深化させることを奨励する。メンバーは、来年東京で開催予定の DRM に焦点を当てた PCT の「税と開発カンファレンス」、及び OECD によるレポート「税の安定性と成長を促進するための簡素化の強化:G20 財務大臣・中央銀行総裁に向けたレポート」を受け取ることを期待する。

15 October 2025

森田果(2020)Chapter 1を使って対面授業開始

 駒場(東大教養学部)の1年生130名とともに、「法Ⅱ」と題する法学入門の対面授業を開始した。先週はオンラインで、ゲストとして元ゼミ生の方におこしいただき、ファイナンスの分野がどういうものであるかや、米国系投資銀行と日本系メガバンクの企業風土の違い、インハウス・ローヤーの仕事の醍醐味など、いろんなお話をうかがうことができて、ホストの私も楽しかった。

今日は、森田果(2020)のChapter 1を読む回。小雨模様の中、朝1限から熱心な学生さんたちが前列に陣取っている。Chapter 1の内容は、法ルールの基本型が「要件と効果」のセットから成ること、法ルールが人々の意思決定や行動に影響する「インセンティブ」を与えること、法ルールは人の行動を変化させるためのツールだという見方、など。明確な方法論的自覚に基づき、法道具主義を前面に押し出す叙述が快い。論旨が一貫している。しかも、そのことについて自覚的であるため、法道具主義以外の法の見方との対比もやりやすい。

さて、森田(2020)Chapter 1のコアは、法ルールがいかに人の行動を変化させるかを、3つの興味深い実証研究をもとに、活き活きと語っている点だ。

①NYでの外交官駐車禁止の事例は、Fisman el al. (JPE, 2007)を素材としている。これは、法執行が効果的に人の行動を変化させた例だ。とりわけ、各国外交官の駐車禁止ルール違反と、それら外交官の出身国の腐敗度指数との相関関係を検討する点は、議論のしがいがある。

教室では、「日本の外交官がサンクションなくしてルールを遵守していたのはなぜ?」という問いをフロアに投げて、議論してもらった。国民性だ、という回答が複数あった。これは、各国比較におけるより普遍的な論点だと思う。すなわち、各国の違いを生む要因として重要なのは、制度(institutions)なのか、文化(culture)なのか。この点、久米郁男(2025)によると、文化論的説明の問題点として、ステレオタイプの誤り、N=K問題(説明されるべき事例の数Nと説明の数Kが等しいためどの国のことも説明できる説明方法になってしまうという問題)、トートロジー、がある。森田(2020)は、評判や習慣による説明を示唆しており、文化論的説明を避けていて、さすがに一貫している。

②福島県立大野病院事件の事例は、Morita (IRLE 2018)に依拠している。検察官の起訴が強すぎる効果をもたらした例だ。この論文の題名Criminal prosecution and physician supplyの通り、のちに無罪になったにもかかわらず福島県内の産科医師供給にインパクトを与えてしまった。自分で手掛けた実証研究で法学入門書の巻頭を飾るなんて、ちょっとうらやましいくらいかっこいい。

教室では、サンクションのさまざまについて補足した。刑事罰以外の、社会的制裁(評判など)や民事損害賠償などである。

③延長保育の社会実験は、これも著名なGneezy & Rustichini (JLS 2000)を素材としている。A Fine is a Price(罰金は代金だ)と題するイスラエルの延長保育の実証研究で、罰金制が逆効果をもたらした例。親が保育園児の引き取りにくるのが10分遅れるごとに、子ども1人につき10NIS(当時のレートで300円くらいだろうか)を「罰金」として保育園に支払う、ということにした。ねらいは、それによって延長保育を減らすことにあった。しかし、かえって延長保育の利用数が増えてしまった。「罰金を支払えば延長保育を依頼してもいいんだ」と親が考え方を変えてしまった。つまり、罰金のつもりで導入したのに、「それを支払えば延長サービスを提供してもらえる」代金として機能してしまった、というのだ。

教室では、延長保育について、次の投票を挙手でやってみた。「お迎えは18時までです。遅れたら、ペナルティーとして1000円支払っていただきます。」A遅れない。B遅れる。の2択。結果は分かれた。急ぎ足で、Metcalf et al. (2020)のビネット調査で、Gneezy & Rustichini (2000)の結果を再現できなかったことや、社会科学における追試の難しさなどを補足。

最後に、このケースで延長保育を減らすにはどうすればよかったかを、教室の皆さんに議論してもらった。お迎え最終時間を一律に20時まで遅くして保育料を引き上げる、3回お迎えが遅れたら翌日には子どもを預からないルールにする(サービス停止)、お迎えが遅れた翌朝のお預け時間を遅くする、など、いろんな意見が出た。提案者たちもそれぞれの長所短所を認識していて、さらに議論ができそうだったが、そろそろ授業時間が終わりになる。

それでも、まとめのところで、いくつか質問が出た。帰結主義と異なる義務論的な構想とか、刑事罰の目的としての抑止と応報とか、法制度のもたらすインセンティブが罰則や行政命令などネガティブなサンクションに偏っている感じがするのはなぜだろうとか(これに対しては給付金とか褒章制度とかポジティブなインセンティブ付けも結構あることを指摘)、人間の精妙な認知能力に働きかけるnudgeとかアーキテクチャによる行動制御とか、あれこれ議論できた。対面1回目にしては悪くないスタートだったように思う。森田(2020)を教科書指定したおかげだろう。そうはいっても、冬の1限に出てくるのは夜の遅い若者たちにとって大変なチャレンジだ。次回に出席者が激減していないことを望みたい。

07 October 2025

Graetz (2016) Follow the Moneyを演習会読風にしてみた

Graetz (2016) Follow the Moneyは、国際課税に関するGraetz教授の論文集だ。歴史、事業所得、ポートフォリオ所得、ヨーロッパ、の4部構成で、20年にわたって公表されてきた9つの著名な論文を収録している。私も、これらの論文が公表されてきたそのおりおりに、おおいに刺激を受けてきた。

この論文集は、全体がopen accessになっていて、学習用教材としても使いやすい。そこで、日本で国際課税をともに学ぶ学生さんたちを念頭に、さらに一歩、身近なものにしてみたい、と考えた。

そのためのひとつのやり方として、この本の序文を演習で会読する、という仮想の設定のもとで、ChatGPTに会話台本を作成させてみた。

私のプロンプト:大学の演習で、この文書を会読して議論する、という設定で、会話台本をつくれ

以下が、ChatGPTの作成した結果をもとに、すこし手を加えたものだ。読んでみて、もし興味を覚えた方がいらっしゃったら、今度は、この本そのものをご覧いただければうれしい。

🎓大学演習会話台本:「Graetz『Follow the Money』序文を読む」

登場人物

  • A教授(女性)…租税法・国際課税論の専門家。指導的かつ穏やかな語り口。

  • Bさん(男性学生)…素朴な疑問を率直に投げかけるタイプ。

  • Cさん(女性学生)…国際政治の視点から制度を考えるタイプ。

  • Dさん(男性学生)…理論分析を重視し、批判的に読むタイプ。


【場面】大学ゼミ室。

テーマは「国際課税の制度構造とその政治経済的意味」。
学生たちはGraetzの『Follow the Money』序文を読み終えたところ。


【導入:金の流れを追う】

A教授
さて、今日はGraetzの『Follow the Money』の序文を読みましたね。まず、この本のタイトル——「金の流れを追う」とは何を意味していると思いますか?

Bさん
単に「税金の流れ」ってことですか?つまり、どの国でどれだけ取ってるか、みたいな?

A教授
それも一部です。でもGraetzはもっと広い意味で使っています。お金の流れを追うとは、「資本や利益が国境を越えてどう動き、それに対して国家がどう課税権を主張するか」という制度の構造を解き明かす、ということなんです。

Cさん
なるほど、税制の技術的な話ではなく、国家と市場の関係全体を見るということですね。

A教授
その通り。彼は国際課税を“国家の政治経済的構造を映す鏡”と捉えています。租税を通じて、国家がどのように富を制度化しているかが見えるんですね。


【第1幕:源泉地と居住地】

Dさん
序文の中盤では、1920年代の国際連盟がつくった「源泉地」と「居住地」の二原理が国際課税の基礎だと説明されていました。でも、もう100年も前の仕組みが、今も続いているのは驚きです。

A教授
ええ。国際課税の骨格は100年前にできた枠組みなんです。つまり、どの国がどの所得を課税できるかを「源泉地」と「居住地」で分ける構造。けれど、Graetzが指摘するように、この枠組みはいまや揺らいでいます。なぜだと思いますか?

Bさん
デジタル企業のせいですよね。どこで利益が生まれてるのか、わかりにくいから。

A教授
そうですね。所得の「源泉地」を地理的に特定するのが難しくなっている。企業の「居住地」も、登記を動すなどして簡単に変えられる。つまり、国家の国境と課税の範囲が一致しなくなっているんです。


【第2幕:国際課税と国家主権】

Cさん
このあたりで、Graetzが「国際課税は国家の主権の問題でもある」と言っていたのが印象的です。税って経済だけの話かと思っていたけれど、主権と深く結びついてるんですね。

A教授
ええ。近代国家は、徴税を通じて国民を統合してきました。租税は国家の正統性の基盤なんです。
ところがグローバル化によって、国境を越える資本や企業が国家の課税権を相対化してしまった。だからこそGraetzは「国家がどのように財政的主権を再構築できるか」を問うているわけです。

Dさん
つまり、税制改革は単なる技術ではなく、「国家の再設計」でもある、と。

A教授
ええ。だから彼は税制を「社会契約」の一部として見るんです。


【第3幕:租税競争と協調】

Bさん
最後の節で、租税競争と協調の話が出てきましたよね。僕は「競争」と「協調」って正反対のことだと思ってたんですが、Graetzは「同じ制度の二つの面」だと書いていました。どういう意味なんですか?

A教授
いい質問です。国家は、資本を呼び込むために税率を下げたり優遇措置を作ったりします。これが租税競争。でもその結果、みんなが税収を失う「囚人のジレンマ」に陥る。だから、その弊害を抑えるために協調の仕組みが必要になる。つまり、競争があるから協調が生まれる、というのです。

Cさん
OECDやG20のBEPSプロジェクトもその流れの一部ですね。でも、Graetzは「協調も政治的妥協の産物だ」とも言っていました。先進国が主導している構造は変わらないのでは?

A教授
その通り。制度は常に力関係の上に立っています。だからこそ、租税協調は“政治的プロセス”なんです。単なる経済的効率化ではなく、誰がルールをつくるのか、という問題なんです。


【終幕:租税と社会契約】

Dさん
Graetzは最後に「租税は社会契約の表現である」と締めくくっていますね。これは、租税を単なる財政手段としてでなく、正義や民主主義の制度的基盤と見るという立場なんでしょうか。

A教授
ええ。国際課税を考えることは、「グローバルな正義」をどう制度化するかを考えることでもある。国家と企業、そして市民社会がどんなルールで富を分け合うか——それがこの本の主題です。

Bさん
なるほど。国際課税って、すごく“政治哲学的”なテーマなんですね。

A教授
そうなんです。数字よりも、「制度の背後にある理念」を読むことが、この本を理解する鍵といえるかもしれません。


【ゼミ討論のまとめ】

  • 「金の流れを追う」とは、制度の構造を解き明かすことを通じて資源配分の力学を分析すること。

  • 国際課税の構造(源泉地課税と居住地課税の二分法)は、もはや現実に適合しない。

  • 租税競争と協調は、単純な二項対立ではなく、国際制度の生成過程の両側面。

  • 租税は社会契約の表現だ。

03 October 2025

租税競争をくいとめる(2024)をインタビュー形式にしてみた

新学期、授業の教材づくりの時期だ。以下では、教材づくりの一環として、増井良啓「租税競争をくいとめる」東京大学法学部「現代と法」委員会編『いま、法学を知りたい君へ』(有斐閣2024年)185-199頁の内容を、AさんがBさんにインタビューする、という形式に展開してみた。2025年10月3日にChatGPTを用いて作成。元の原稿の基準時は2023年12月末であり、その後の展開、とりわけ2025年6月末のG7と米国の共存アプローチ(side-by-side approach)については盛り込んでいない。

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導入

Aさん:いやあ、税金の話って難しいですね。なんか「法人税がどうのこうの」と言われても、正直ピンと来ないんです。今日はBさんに「租税競争をくいとめる」という論文について教えてもらおうと思います。よろしくお願いします!

Bさん:はい、任せてください。税金の世界は一見とっつきにくいですけど、実は「国際社会の知恵比べ」みたいな部分があって、面白いんですよ。

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Ⅰ 租税競争ってなに?

Aさん:まず「租税競争」って何ですか?なんか国家同士で「うちの税金安いよ~」って言い合ってるイメージですけど。

Bさん:そのイメージ、かなり正解です(笑)。

「租税競争」とは、各国が法人税をどんどん下げて、企業に来てもらおうとする現象のことです。例えば、ある国が「法人税を25%に下げました!」とすると、隣の国も「じゃあうちは20%!」と対抗する。そうやって下げ合戦が始まるんですね。これを「底辺への競争(race to the bottom)」と呼びます。

Aさん:なるほど…。企業にとっては税金が安い方がいいですけど、国としては税収が減って大変そうですね。

Bさん:そうなんです。税収が減ると教育や医療などにお金が回らなくなりますし、結局みんな困ってしまうんです。

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Ⅱ じゃあどうするの?──柱2(Pillar Two)

Aさん:じゃあ各国はどうやって「下げすぎ」を防いでるんですか?

Bさん:そこで出てくるのが「柱2(Pillar Two)」です。2021年に140近い国が合意して、「法人税の最低ラインを15%にしよう!」と決めたんです。

Aさん:へぇ~。つまり「どの国に行っても、法人税は最低でも15%」ってことですか?

Bさん:そうです。これで極端に安い国に企業が逃げるのを防ごうというわけです。ちなみに日本の法人税は国税+地方税で30%弱なので、15%は「最低ライン」としては控えめですが、それでも大きな意味があります。

Aさん:へえ、日本から見れば「うちの方が全然高いよ!」って感じですね(笑)。

Bさん:そうなんですよ。

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Ⅲ どうやって最低税率を実現するの?

Aさん:でも「最低15%」って決めても、守らない国が出てきそうですよね。

Bさん:いい質問です。そこで登場するのが「GloBEルール」です。これは「もしある国が15%に満たない税しか取ってなかったら、他の国で上乗せ課税しちゃいますよ」という仕組みです。

Aさん:えっ、他国が代わりに課税するんですか?なんか強引ですね。

Bさん:すごいでしょう(笑)。「あなたの国が安すぎるから、その分は親会社の国で回収しますね」という感じです。これで「抜け駆け」しにくくなる仕組みなんです。

Aさん:なるほど…。でも、別の国のことを考えて上乗せ課税するなんて、企業のほうは対応大変じゃないですか?

Bさん:そう、そこがまさに課題です。企業にとっては「頭痛が止まらない制度」なんです。日本の企業なんて、既存のCFC税制と合わせてダブル対応になっちゃって大変です。

Aさん:CFC…ってなんですか?

Bさん:簡単に言うと、日本の企業がタックスヘイブンに利益を移転するのを防ぐ仕組みです。柱2のIIRと似てるけど目的が違う。両方あると「二重チェック」みたいで、事務負担が増えるんです。

Aさん:あぁ…それ、会社の経理担当が泣きますね(笑)。

Bさん:ここ、笑うところじゃないですよ。なんて。

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Ⅳ 課題はいろいろある

Aさん:完璧な制度に聞こえるけど、何か問題あるんですか?

Bさん:ええ。大きく3つあります。

1. どの国が採用するか

 かなりの国がやらなきゃ意味がありません。主要国は進めてますが、もちろん全てではありません。

2. 軽課税国の抜け道

 補助金を活用したり、工場を呼び込むインセンティブを利用したりして、「形を変えた租税競争」が続く可能性があります。

3. ルールが複雑すぎる

 企業も国も事務負担が大きい。特に人手や制度が整っていない途上国には重荷です。

Aさん:へえ、いろいろありますね。抜け道って、なんだか、テストで「カンニング禁止!」って決めても、みんな工夫して新しいカンニング法を編み出す…みたいな話ですよね(笑)。

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Ⅴ 将来の展望──法人税はどうなる?

Aさん:でも根本的には「法人税」ってもう時代に合ってないんじゃないですか?

Bさん:そういう議論もあります。現在の法人税は無形資産に依存していて逃げやすい。だから将来的には「市場がある国に課税権を配分する仕組み」や「キャッシュフロー課税」に移行した方が安定的かもしれない、と研究者たちは提案しています。

Aさん:なるほど…。つまり「企業がどこにあるか」じゃなくて「商品がどこで売れてるか」で課税するってことですね。

Bさん:そうです。その方が「租税競争」が生まれにくい仕組みになる可能性が高いんです。

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Ⅵ 民主主義との関係

Aさん:ちょっと話は変わりますけど、国際合意って官僚が集まって決めるんですよね?それって国会の役割が小さくなって、民主主義的に問題ないんですか?

Bさん:そこも重要な論点です。条約や国際合意は官僚や政府が決め、国会は「事後承認」するだけ。つまり、国民の代表が細かい中身を修正する余地はあまりないんです。

Aさん:あ、それって「代表なくして課税なし」という原則に反しません?

Bさん:そう。だから「もっと国会や市民が監視できる仕組みが必要だ」という人もいるんです。透明性を高めることが大切なんですね。

Aさん:でも正直、僕ら普通の人は「税金の細かい国際ルール」って眠くなっちゃうんですよね(笑)。

Bさん:そこを何とか頑張ってほしいんです!少なくとも「こんな大きなルールが裏で決まってるんだ」っていう意識を持つだけでも違いますから。

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まとめ

Aさん:いやあ、今日のお話で「租税競争」って、国家同士の「法人税ディスカウント合戦」みたいなものだってわかりました。それを止めるために「柱2=最低税率15%」が導入されたけど、まだ課題山積みなんですね。

Bさん:そうです。そして「法人税の将来」や「民主主義との関係」も含めて考える必要があります。ちょっと堅いテーマですが、実は私たちの生活とも密接につながっているんですよ。

Aさん:なるほどです。今日はありがとうございました!

29 September 2025

井上康一・移転価格税制についての素朴な疑問

井上康一・移転価格税制についての素朴な疑問(税務研究会出版局2025)は、「国際税務」連載時から注目されたが、一書になってさらにインパクトが増した。 

資源制約のある日系多国籍企業にとっての現実的かつ効果的対応策を提示する、という本書のアプローチは、魅力的である。

提案の方向性は理にかなっている。すなわち、日系多国籍企業の移転価格対応策として、「外国子会社との国外関連取引に係る営業利益率に関する固めの適正レンジを設定し、当該国外関連取引の実態に合った親子間契約書を整備し、上記レンジ内に外国子会社の実際の営業利益率が収まるようなメカニズムを盛り込み、それを実行していくこと」(600頁)を提案している。

とりわけ、日本親会社に重要機能等が集中し外国子会社は単純機能等のみというよくある事案でTNMMが適用される場合を念頭において、「事後の正当化に腐心することではなく、異常値の正常化に取り組むこと」(607頁)、「取引の正当化から、取引の適正化へと舵を切ること」(618頁)を推奨する点が、いいと思う。

本書の提案が、移転価格の実務を第一線で担う方々にどう受け止められていくか、これからが楽しみだ。

なお、寄附金課税と移転価格課税の関係の論点のように、すでに対話が始まっている例もある。参照、池田義典・移転価格課税と国外関連者寄附金課税を再考する―独立企業間価格 vs.時価、および租税条約の解釈を中心に―。

28 September 2025

ポスタープログラムの定着をのぞむ

今年の租税法学会は、この学会としてはじめて、ポスタープログラムを試行していた。2階のこぎれいな休憩室で、ペットボトルお茶も配備された快適な環境。居心地がよかったので、私は別の部屋の会議に遅れそうになった(すみません、すこし遅れたかもしれません)。美しいポスターの前で、展示者と話し込む会員の姿が印象的だった。

よい企画だったと思う。会場の確保や、事前の選考、当日の運営など、関係者の労力は多大なものと想像するが、ぜひとも続けていってもらいたい。プログラム参加者の方々のお名前・所属・研究題目が継続してウェブサイトで公表されると、今後は、「ああ、あのときの方だ」と思い出す機会にもなるだろう。

国際学会の例だと、IFAのポスタープログラムをみると、若手で博士論文を書いている人たちに人気の論題がどのへんにあるかが、すぐにわかる。Mitchell B. Carroll Prizeとか、Maurice Lauré Prizeとかの有名どころと比べると、著者と直に話せるのも気軽でいい。

【追記】浅妻教授の当日記録がここにアップされている。

参考までに、2025年リスボン大会の例はをコピペしておく。リンク先から色彩鮮やかなスライドを見ることができる。2月のIBFDでのこの会議でプレゼンしていた人も、何人かいる。この人たちは、論文を書いている最中に、プレゼンとフィードバックのチャンスが何度もあるわけだ。

Poster Programme 2025

At the occasion of the 2025 Congress in Lisbon, the following participants were selected for the Poster Programme:

13 September 2025

TaxProf Blogが21年の歴史を閉じることに

Paul Caron教授のTaxProf Blogが21年の歴史を閉じるとのこと。2025年9月8日付けのこのブログによると、Typepadの終了を機会に、長く続いたBlogをたたむ、という。

米国租税法の動向を知るうえで、大変便利なものだった。税制改正の最新動向や、そのおりおりの重要判決、それらに関する専門家の反応が、一目でフォローできた。SSRNなどに投稿されたWorking Paperをフィーチャーしたり、各種Workshopのお知らせを集約したりするなど、大学教授の知的活動の結節点でもあった。法教育に関するニュースも早かった。

残念ではあるが、これまでの貢献をたたえたい。

とりあえずの対応措置として、直下に配置していたTax Prof Blogからのfeedページは、整理することにした。これからは、ネット上の公開情報をAIが学習する動きが加速するだろう。情報を収集して整理するという重要な知的作業が変質していく中で、どう対応するかが宿題。

24 August 2025

VATと給与所得

1.租税法入門第3版311頁のコラムで、所得税法28条1項の給与所得に当たると、消費税の課税仕入れの定義から外れ、仕入税額控除の対象にならない旨を記した。例によって言葉足らずで、どうしてこんなことをわざわざ書いたのか、読者の方に伝わらなかったかもしれない。補足しておこう。

2.たとえば、株式会社Aが従業員Bに対して給与を支払ったとしよう。

株式会社A ―> 従業員B

支払給与は、事業者の消費税において課税仕入れの対象から除外されている(消費税法2条1項12号)。課税仕入れにならないということは、つまり、A社(事業者)は、支払給与を課税ベースに含めて消費税を納税する、ということである。その反面、従業員Bは給与所得者であって、消費税の事業者ではないから、消費税の申告をする必要がない。こうして、給与に係るVATのしくみとしては、会社が納税を一手に担う。給与所得者は税務署とやりとりをしなくてもすむ。

3.このことを、所得税法の源泉徴収のしくみと照らしあわせると、重要なことがわかる。

A社が従業員Bに給与を支払うと、人件費として損金に算入され、法人税の課税ベースからは外れる。この給与は受け取った側の従業員の給与所得になり、個人所得税がかかるのであるが、現実に納付を行うのは源泉徴収を行うA社である。つまり、従業員の所得税ではあるのだが、会社が従業員に代わって源泉徴収するわけだ。この源泉徴収は精密にできていてほとんど誤差がなく、しかも、誤差がある場合には年末調整によって会社の段階で精算が完了する。いくつか例外はあるものの、多くの場合、所得税との関係でも、給与所得者は税務署とやりとりをしなくてもすむのである。

4.所得税法の現実の執行がこのような状態であることは、消費税法との関係で給与所得者を納税事務にかかわらせないやり方と、平仄がとれている。給与所得者がこのような立場にあることは、日本の税制を理解する上で、重要なポイントである。だから、わざわざコラムにした。

なお、消費税法の課税仕入れの定義において所得税法28条1項を参照する立法政策については、給与所得の定義に多くを依存しすぎである、という評価が可能かもしれない。この点は、消費税法基本通達1-1-1のような基本中のキホンに関係する。BradfordのX-Taxにもつながる。これだけでは(また)言葉足らずであり、さらに長大な補足が必要になってしまうが・・・