個人納税者(X)と訴外法人(太陽)が各2分の1ずつ保険料を負担した養老保険契約につき,Xの受け取る満期保険金に係る一時所得の計算に際して,法人負担分も含む保険料総額を控除できるか。福岡高裁は,福岡地判平成21・1・27判タ1304・179を維持し,控除できると判示した。この事案で,Xの一時所得の算定上法人の保険料負担分は損金算入されていたが,Xへの給与所得課税はされていなかった。よって,法人とXとでダブルに控除ができることになる。上告中。
本件では何よりも,法令の書き方が問題。所得税法施行令183条2項2号は,生命保険契約に基づく一時金が一時所得となる場合,保険料又は掛金の「総額」を,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」に算入すると定めている。
この事案ではXが生存していたため,Xが満期保険金を受け取った。仮にXが死亡していたとすれば,太陽が死亡保険金を受け取っていたはずである。この点に着目すると,保険を用いることで,所得の人的帰属に変更が生ずることがわかる。イメージを具体化するために,パートナーシップ課税と簡単に比較してみよう。たとえば,Xと太陽が組合契約を結び,それぞれが1億円を拠出する。組合がこの2億円をもとでにしてリスキーなビジネスをした結果,リターンが5億円生じた。この5億円を,ジャイアンツが勝てば全額Xが受け取り,ジャイアンツが負ければ太陽が全額受け取る,という契約内容だったとしよう。組合課税の世界では,5億円のリターンを,契約どおりにXか太陽かのいずれかに全額配賦することに対しては警戒の念が強く,「経済的合理性」を審査するといった解釈論が有力である。これに対し,本件の養老保険では,この点がほとんど問題とされていないように見受けられる。興味深い現象である。
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(2013.02.02付記)
最判平成24・1・13民集66・1・1は控除を認めなかった。同旨,最判平成24・1・16判時2146・58。
最近の租税事件を含めて,そのおりおりに思ったことの断片をつづります。 Candid and biased, and hopefully stimulating, comments on recent tax developments in Japan (and other matters).
17 July 2010
03 July 2010
大阪高判平成21・10・30(神戸市の充当事件)
原審大阪地判平成20・10・14判例自治318・20のコメントが強烈。いわく,「公売処分手続において恣意的に配当をしてきたY市の租税の徴収方法を否定したものであり,同様の徴収方法を行っている他の地方公共団体に対して警鐘を鳴らす重要な裁判例である。」
Y市側は,公売手続における配当や充当について公定力を理由に不当利得返還請求訴訟ができないと主張した。しかし,この点については,すでに最判平成3・3・22民集45・3・322が,取消訴訟なくして直接に不当利得返還請求ができる旨を判示していた。そうであるのに,Y市側は,どうしてこのような主張をしたのだろうか。自治体法務の改善についてはいろいろな提案がされているが,訴訟に至った場合の先例との整合性チェックなど,工夫ができないものか。
地裁と高裁は,次の論点について異なる判断を下している。裁判所による配当が古い年度の租税債権についてされた場合に,新しい年度の租税債権に充当できるか。法定納期限を基準に担保権者との優先劣後関係を決するから,新しい年度の租税債権に充当すれば本来は劣後したはずの租税債権の満足を得られるし,その分だけ古い年度の租税債権が生き残って私債権者に優先することになる。地裁は,地方税法14条の10,国税徴収法16条等の趣旨からして,どの年度の税に充当するかは課税庁の裁量によるものではないとした。これに対し,高裁は,民法489条3号の法定充当の適用はなく,いずれに充当するかは課税庁の裁量に任されていると判示した。最高裁は上告不受理。
Y市側は,公売手続における配当や充当について公定力を理由に不当利得返還請求訴訟ができないと主張した。しかし,この点については,すでに最判平成3・3・22民集45・3・322が,取消訴訟なくして直接に不当利得返還請求ができる旨を判示していた。そうであるのに,Y市側は,どうしてこのような主張をしたのだろうか。自治体法務の改善についてはいろいろな提案がされているが,訴訟に至った場合の先例との整合性チェックなど,工夫ができないものか。
地裁と高裁は,次の論点について異なる判断を下している。裁判所による配当が古い年度の租税債権についてされた場合に,新しい年度の租税債権に充当できるか。法定納期限を基準に担保権者との優先劣後関係を決するから,新しい年度の租税債権に充当すれば本来は劣後したはずの租税債権の満足を得られるし,その分だけ古い年度の租税債権が生き残って私債権者に優先することになる。地裁は,地方税法14条の10,国税徴収法16条等の趣旨からして,どの年度の税に充当するかは課税庁の裁量によるものではないとした。これに対し,高裁は,民法489条3号の法定充当の適用はなく,いずれに充当するかは課税庁の裁量に任されていると判示した。最高裁は上告不受理。
I teach Tax Law at UTokyo.
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