26 December 2020

最判平成元年9月14日 租税負担に関する錯誤

最判平成元年9月14日判例時報1336号93頁は、租税負担に関する錯誤の有名な事件だ。法科大学院の「租税法」の授業でも、毎年取り上げてきた(金子宏ほか・ケースブック租税法第5版の§163.01)。授業全体のイントロダクションでこの事件を紹介することで、私的取引の構築にあたっていかに租税法が重要であるかを力説する先生もいらつしやる。

この事件で問題とされたのは、改正前の民法95条だった。では改正後の規定でどうなるか。改正前の判例や学説が現行民法95条の改正にどう反映しているのか。腑におちる説明がほしいなあと思っていたところ、山下純司ほか・法解釈入門第2版でぴったりの説明を見つけた。

同95頁以下の山下教授の説明によると、現行法の下では民法95条1項の2号錯誤(「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」)にあたるか、また、同条2項にいう「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」にあたるか、の問題になる。そして、同様の事件を現行95条の下で解決するためには、改正前の民法95条でどのような議論があって現行95条の条文につながったかを確認する必要がある、という(98頁)。こうして、判例の展開とともに、富井説、我妻説、相手方の認識可能性を統一的な要件と考える一元説、動機が法律行為の内容に含まれているかを重視する法律行為内容化説といつた学説の発展が説明される。

民法95条2項の基礎事情の表示をめぐる今後の展望として、山下教授は、法律行為内容化説の基準が見た目ほど明快なものではなく、契約交渉過程のさまざまな事情を柔軟に考慮しなければならないことを指摘する。そして、上記の事件との関係では、「夫婦間で離婚に向け財産分与契約を締結する際に、税金まで考慮に入れた話し合いが行われている以上は、この点に重大な事実誤認があれば財産分与契約をやり直すことが暗黙の前提になっていたと理解することはできるだろう」(107頁)と述べる。

租税負担に関する錯誤無効(現行民法では取消し)を認めるかどうかについて、裁判例は、事実関係に応じて異なる結論を出してきた(前掲ケースブック租税法第5版125頁、東亜由美・租税判例百選第4版35頁、中里実・租税判例百選第5版35頁)。今後も、事案に立ち入った詳細な検討を要するということだ。

24 December 2020

IFA Japan Branch, Webinar on Digital Taxation

昨日夕刻,IFA日本支部のWebinarがあった。デジタルサービス税の現況,問題点,根拠,向き合い方などをはじめとして,幅広い論点について,活発な意見交換がなされた。時間厳守の報告と,報告を踏まえた的確なコメント,それに対する応答,というやりとりが気持ち良い。フロアからの文字媒体での質問も,時間節約と内容充実に貢献していたと思う。ご高配いただいた関係各位に深謝。

今後のセミナーも今回のように,十分な事前準備のうえ当日のモノローグはできるだけ短く,そのぶん使える貴重な時間をパネリストやフロアとの相互対話にあてる,といった運営を望みたいものだ。

   日時:2020年12月23日 15時~16時30分

 場所:Zoom Webinar

 内容:デジタル課税

 講師:渡辺徹也会員(早稲田大学法学部教授)

 コメンテーター:渡辺智之会員、岡直樹会員、山川博樹会員

 司会:青山慶二会員

21 December 2020

租税法の論文表彰サイトまとめ

日本国内でよく知られたものとして,次のような賞がある。

公益財団法人日本税務研究センターの「日税研究賞」→これは,「日本税理士会連合会との共催で、租税等に関する未公表論文及び既公表論文・著書を公募し、そのうち秀逸と認められたものを表彰することにより、租税等に関する学術的研究の奨励及び研究水準の向上を目的とするものです。応募論文等の審査は、大学教授をはじめ学識経験者等によって構成される選考委員会において行われます。授賞論文等については「入選論文集」として刊行し、広く一般に公表しています。」というもの

公益財団法人租税資料館の「租税資料館賞」→これは,「税法学並びに税法と関連の深い学術の研究を助成するため、税法等に関する優れた著書及び論文に対して、毎年「租税資料館賞」として表彰を行ない、賞金を贈呈しています。 」というもの

公益財団法人納税協会連合会の「税に関する論文」→これは,「公益財団法人納税協会連合会では、租税等に関する研究の奨励及び研究内容の向上並びに学術研究の助成に寄与すること等を目的として、第〇〇回『税に関する論文』を募集します。租税等について研究されている方であれば、どなたでもご応募いただけますので、奮ってご応募ください。」というもの

これらに加え,以前から商事法務研究会賞もあるし,新しく租税法学会賞もはじまった。IFAのMitchell B. Carroll Prizeも有名。



19 December 2020

オンライン版我妻栄関係文書

 J-DAC ジャパン デジタル アーカイブズ センターのサイトに,アップされていた。

そのうち第1部の分類一覧は以下のようになっている。このうちとくに,租税徴収制度調査会のところに直接にリンクを張ろうとしたが(下記赤字の部分),どうやら,分類一覧からクリックしないと入れないようだ。

憲法 憲法改正関係 憲法調査会 憲法問題研究会 憲法普及会・民主政治教育連盟他
選挙制度 選挙制度調査会 選挙制度審議会 土地収用法 土地収用法
租税法 租税徴収制度調査会 租税徴収関係
公法 各省設置法 法務庁関係 火薬類取締法 警察官職務執行法
司法試験 法制審議会司法試験制度部会 法制審議会司法試験法改正関係
上訴制度・司法制度 法制審議会上訴制度小委員会 法制審議会司法制度部会
臨時司法制度調査会 臨時司法制度調査会総会 臨時司法制度調査会
その他 法曹一元関係 海外視察・国内調査 意見書 最終実質審議
司法制度研究会 司法制度研究会
司法その他 法曹一元特別委員会 最高裁判所機構改革問題 検察官適格審査会

12 December 2020

租税行政3.0

OECD (2020), Tax Administration 3.0: The Digital Transformation of Tax Administration

これは,2020年12月の税務長官会議(FTA)でリリースされた文書である。経済社会のデジタル化が進む中で,税務執行のDXを構想する。

Tax Administration 3.0という表現は,次の3段階を意識している(7頁)。

  • 租税行政1.0 紙ベース,手作業,タコツボのプロセス
  • 租税行政2.0 デジタルデータ,デジタル分析ツール,政府の他部局・民間部門・外国との協働
  • 租税行政3.0 納税者の用いるシステムの中に課税プロセスを組み込む

→つまり,現在到達しつつある2.0から一歩進んで,3.0にバージョンアップし,次のような段階を構想するのである(12頁)。

  • 納税が人々の生活や事業活動に統合されたシームレスな経験となる
  • デジタル・プラットフォームが租税行政のエージェントとなる
  • 税務執行がリアルタイム化する
  • 透明なプロセスの下で納税者は賦課徴収をチェックする
  • 政府一体のアプローチをとる
  • ハイテクに適応する人材・組織にする
→そして,こういう段階に至るために何が必要であるか,その構成要素を示している。章立ては次のとおり。

  • 第1章「租税行政3.0への旅」は,租税行政の現況をみて,その構造的限界を指摘し,DXにより何が可能になるかを示す(9頁以下)。
  • 第2章「燃えるプラットフォーム」は,いまなぜDXを検討すべきかを述べる(17頁以下)。理由として指摘するのは,仕事の変化,新しいビジネスモデル,グローバル化,技術の変化,社会の期待である。
  • 第3章「租税行政3.0の実際」は,租税行政の未来像を物語タッチで描く(25頁以下)。
  • 第4章「租税行政3.0の構成要素」は,6つの構成要素を提示する(34頁以下)。それらは,1. Digital identity(37頁),2. Taxpayer touchpoints(41頁),3. Data management and standards(44頁),4. Tax rule management and application(48頁),5. New skill sets(52頁),6. Governance frameworks(57頁)である。

この文書自体は特定の方向を打ち出すものではない。ロードマップの作成などはあくまで次のステップとされている。しかし,税務執行が今後どういう方向になっていくのかを,「租税行政3.0」という言葉で大胆に提示している。国税庁の「税務行政の将来像~ スマート化を目指して ~」とも方向が一致し,税務職員にとっては必読の文献が出たといえよう。のみならず,税理士業務や企業税務に携わるプロにとって,今後はどういうスキルセットが重要になるかを示す道標になる。研修の教材にも使える。税務のプロでなくとも,第3章の仮想未来の物語などは,個人納税者のMaryや,法人を設立するKim,多国籍企業のSmart Falconといった設例になっていて,読んでいて楽しい。DXとかリアルタイムとかいうといかにも新規そうな感じがするが,じつは,多国籍企業の移転価格に関する課税庁のモニタリングなどはそのような動きを先取りしているのかもしれない。

個人情報保護をはじめいろいろ検討すべき点があると思う。ここでは1点だけ。この文書にはノルウェーやオーストラリア,シンガポールなどからのインプットが記されている。これに対し,日本の実務の中にも,各国の参考になるものが多々あるはずである。日本の国税庁がそれらを対外発信して国際的な対話を行っていくことも,今後の租税行政3.0にふさわしい仕事ではあるまいか。

10 December 2020

与党の令和3年度税制改正大綱

リンクはここから。自民党のサイトには次の記述がある。

以下引用*****************

来年度の税制改正では新型コロナウイルス感染症の影響で経済が落ち込む中、厳しい経営環境を下支えするため、研究開発投資に対する税額控除の上限を引き上げや繰越欠損金制度を拡充するほか、雇用を守り、賃上げを行う中小企業を対象にした所得拡大促進税制の延長などを盛り込みました。

個人所得課税についても住宅ローン減税を延長。固定資産税もコロナ禍前の地価上昇に対応するため、令和3年度に限って固定資産税の上昇分を令和2年度水準に据え置くなど、厳しい状況にある方々への対応を行っています。

また、政府与党が掲げる「デジタル化」「グリーン化」の方針に沿った攻めの視点からの新たな税制も創設。納税環境のデジタル化を進めるため、税務関係書類における押印義務も大幅に見直すなど、幅広い改正を含んでいます。

***********************引用終わり

05 December 2020

証券税制研究会の書物が電子化

吉村政穂教授のtweetで,6月発行のこの本が電子化されていたことを知る。各章をそれぞれに,PDFでダウンロードできて便利。研究成果の公表は,日本でもこういう形が増えていくのだろう。以下に目次とリンク先をコピーペーストしておく。

目次

はしがき
成城大学経済学部特任教授 田近栄治

第1章 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結—
成城大学経済学部特任教授 田近栄治

第2章 税制が中小法人オーナーの節税行動に与える影響
—法人企業統計個票を用いた分析—

京都産業大学経済学部教授 八塩裕之

第3章 企業貯蓄と税制:予備的考察
中央大学法学部教授 國枝繁樹

第4章 中小企業税制が租税回避行動と企業成長に及ぼす影響
大東文化大学経済学部准教授 布袋正樹
学習院大学経済学部教授 細野薫
一橋大学大学院経営管理研究科准教授 宮川大介

第5章 ACEの税率—産業別財務データによる試算—
日本証券経済研究所主任研究員 山田直夫

第6章 電子化経済と「国際課税原則」
一橋大学大学院経済学研究科教授 渡辺智之

第7章 法人税はどこへ向かうのか?
専修大学経済学部教授 鈴木将覚

第8章 利益移転の実証分析
京都大学大学院経済学研究科准教授 長谷川誠

第9章 2014年税制改正が,個人投資家の投資意識・行動に与えた影響
—マイクロデータによる株式投資に関する実証分析—

東洋大学経済学部教授 大野裕之

第10章 税制と企業統治—企業金融・ファイナンス論の視点—
筑波大学社会工学域助教 折原正訓

第11章 異質な収益率と資本所得課税—正常収益と超過収益—
静岡大学学術院人文社会科学領域准教授・当研究所客員研究員 高松慶裕

 

03 December 2020

IFAインドネシア支部主催のInternational Tax Seminar

日本支部の案内をそのまま,コピーペーストしておこう。登録も簡単だ。

 12月9日および16日にIFAインドネシア支部主催のInternational Tax Seminarがオンラインにて開催されますので、ご案内申し上げます。日本とインドネシアの間には0~2時間の時差がございます。下記の時間は、インドネシア支部がございますジャカルタとの時差(2時間)を考慮した時間となっておりますので、ご注意ください。

【日時】12月9日(基調講演、第1・2セッション)、  15:30-19:00(JST)
    12月16日(第3・パネルディスカッション)、16:00-19:00(JST)
【場所】Online
【内容】基調講演:John Hutagaol (DGT) and Pascal Saint-Amans (OECD)
           第1セッション:Taxation issues in the context of the Digital Economy -  recent international tax developments and lesson learned from Asian Countries
  (Miranda Stewart,  Kuntal Dave, Bruno da Silva, and Arnaldo Purba)
           第2セッション:Current Development in Transfer Pricing - Challenges on the application of Arm's Length principle due to COVID-19
 ( Permana Adi, Balim Boerman, Dwi Astuti, Neha Shah)
           第3セッション:Recent International Tax Updates on impact of Multilateral Instrument Implementation to the Tax Treaty and Tax Treaty dispute resolution.
(Hans Mooij, Sandra Knaepen, P. Putu Oka Kusumawardani)
           パネルディスカッション:recent international tax developments and its implementation in Indonesia
(Ay Tjhing Phan, Cindy Sukiman, Dries Schilderman, Mohamad Hendriana, Andrew Auerbach)
   参加費は無料です。ご興味のある方は、こちらからご登録ください。