28 November 2023

市町村税務データを用いた既婚女性の就労調整の分析

近藤絢子・深井太洋「市町村税務データを用いた既婚女性の就労調整の分析」が、RIETIディスカッション・ペーパー23-J-049として公表されていた。個人住民税の課税データを用いることにより給与収入を把握し、1万円単位でどこに分布の不連続があるかを明らかにしている。

制度的には、100万円、103万円、130万円といったところに壁がある。

  • 個人住民税の均等割がかかり始める年収の閾値は⾃治体によって異なり、ほとんどの⾃治体で96万円から100万円の間
  • 年収が100万円を超えると、個人住民税の所得割がかかり始める
  • 年収が103万円を超えると国の所得税がかかりはじめるが、超えた部分に対して5%の税率が適用されるだけだし、夫の配偶者控除・配偶者特別控除は38万円で変わらない
  • 年収が130万円を超えると、年⾦の第3号被保険者と健康保険の扶養家族の上限に達する

しかし、このペーパーは、データに基づく分析により、103万円で年収調整している人が多い実態を明らかにしている。ノンテクニカルサマリーから引用しよう。

「2018年の配偶者控除・配偶者特別控除の変更後、103万円以下に年収を調整する有配偶女性の割合は減り、130万円以下の範囲で103万を超える割合が増えたが、依然として多くの有配偶女性が103万円以下に調整している」

このことを端的に示す下記のグラフが印象的。どうしてそうなるのか・・・。これまで私の授業でも130万円の壁が大きいと述べてきたが、ちょっと認識を改めないと。


03 November 2023

名大の法律勅令データベース、1886-2017

名古屋大学の佐野智也、増田知子、外山勝彦、駒水孝裕ら(敬称略)の研究グループが、明治19年から平成29年(1886-2017)までに公布された法律と勅令を全文検索できるデータベースをつくってくださった

この公開サイトから検索できる。さっそくに、「所得税」という検索用語を打ち込んで、「法令名のみ」を検索してみると、ただちに289件の検索結果が表示された。明治20年所得税法(勅令第5号)からはじまり、明治32年所得税法(法律第17号)や、明治32年所得税法施行規則(勅令第78号)など、テクストデータがたちどころに閲覧できる。「沿革」の欄に改正経緯が付されており、「リンク」の欄に官報などへのリンクが付されているのも、大変に親切である。外地税制に関する法律や勅令がまとまってヒットするのもありがたい。

私はだいぶ前、1954年日米所得税条約の国内法との相互関係を調べたとき、昭和26年から28年にかけての所得税法のテクストを入手する、というごく単純なはずのミッションに手こずった。そういう話は、もはや過去のものである。このデータベースを利用すれば、この手の調査コストは激減する。

名古屋大学の上記サイトの説明によると、

これまで多くの法学研究において法令や判例情報の調査収集にデータベースを利用する際は、個別の事件処理等を意識した限定的利用が主でした。それを越えて、大規模データを使って政策や法令を俯瞰し、経時的に解析しようという研究は、国内的にも国際的にもほとんど例がありません。

今回の研究成果は、法学・政治学・歴史学における研究の出発点として提供される基礎データの範囲を大きく拡大させ、問題設定方法自体の革新を含め、新しい方法論の確立にも貢献すると予想されます。

とのこと。たしかに、使い手の想像力に応じて、ほぼ無限の可能性が広がっている。感謝したい。