国税庁のこのサイトに、ディスカッションペーパーが公表されていた。日本の税務申告データを用いた貴重な研究だ。
たとえば、國枝=米田(2025)は、税務データの学術利用の意義につき、高額所得者の所得分布の分析の例を中心に説明する。すなわち、分析ができるようになった背景として、次のように指摘する(同2頁)。
これまで、我が国においては、国税庁統計年報のような所得階層別の集計データや高額所得者・納税者公示制度が存在したものの、個票を含む税務データの利用がほとんど許されておらず、我が国の財政学者は、国際的に評価される租税政策に関する実証研究を行うことが困難となっていた。・・・しかし、国税庁は、2021 年 6 月に、我が国の税・財政政策の改善・充実等に資する統計的研究を実施する研究者を公募することを公表した。この研究においては、税務大学校職員との共同研究を前提に、国税庁の保有する行政記録情報(税務データ)を利用した分析等を行うことができる。
そして、このような分析の一例として、高額所得者の所得分布のパレート係数の推計を説明し、次のように述べる(同3頁)。
高額所得者のデータを十分含まないサーベイデータでの分析と異なり、税務データを利用することで、我が国においても、超高額所得者への所得集中が進んでいることを明らかにすることができる。高額所得者の所得分布については、さらに分析を進めることとしているが、税務データの学術利用の意義を示す一例と考えられる。
税務データを用いることで、実証研究が進む。実態がわかり、制度改善のヒントになる。引き続き応募がなされ、良い成果が出てくることを期待したい。
法律家の眼からみて興味深いのは、このような研究を可能にしたのが共同研究という枠組みをとるというアイディアだったこと。そうすることで、守秘義務というハードルをクリアしている。
なお、これとは別に、国税庁は、国税庁保有行政記録情報を匿名加工した匿名データを利用して統計的研究を実施する研究に門戸を開いている。