15 July 2025

駒場「現代と法」オムニバス講義最終回

白石忠志先生の肝煎りで、本年度も駒場「現代と法」オムニバス講義が開かれた。その最終回に呼んでいただいた。断続的な雨の中、朝から多くの学生さんが出席してくれた。

1.私のプレゼン

昨年に続き、《人はなぜ納税するか》について手短にお話しした。私の主要なメッセージは、納税行動が単純な損得勘定だけでは説明できず、知的に興味深いパズルを提供している、ということだ。公共財提供に関するフリーライド問題からはじめ、租税債権の自力執行権や脱税に対する加算税や罰則などの制度的背景を概観したのち、今回はとくに、Steinmoらの歴史的制度論と実験室実験に焦点を絞って、「ある国で脱税が多く別の国で脱税が少ないのはなぜか」という問いを扱った。しかるのち、より実践的な課題に視点を切り替えて、応答的規制の税務行政への応用としてのValerie Braithwaite (2003)の「執行ピラミッド」を紹介し、tax gap推計の有用性や、Tax Administration 3.0言及しようとしたあたりで、制限時間になった。

2.白石先生の助け舟

私のプレゼンの途中で、いくつか枢要な点について白石先生から「助け舟質問」があった。それらは、私のプレゼンでロジックが飛んでいる点や、比喩的・印象論的な言葉使いをしている点についての的確な指摘だった。ありがとうございます。

  • (指摘)単純なTAG(Taxpayer as Gambler)モデルだと「ばれてもともと」ということになるというが、どういうことか?→(増井応答)事前(ex ante)の見地からみた期待値ベースで、実調率を織り込んで「合理的(これはとても限定的な意味におけるそれ)」に損得計算するとそうだ、という意味。本税に加えて制裁としての加算税を納付する場合であっても、摘発確率との関係でそうなる、というロジックだ。
  • (指摘)「執行ピラミッド」にいう協力的態度と非協力的態度を、課税庁はどうやって見分けるのか?→(増井応答)応答的規制の考え方では、ピラミッドの下から上へと、規制を徐々に強めていくことで判別する。まず全員に対して広報や教育、サービスによって助力する対応をとる。それでうまくいかない場合には記帳指導などかかわりを強めていく。抵抗があればサンクションを伴う税務調査へと、さらには刑事告訴にまで至る。
  • (指摘)リアルタイムでシームレスに情報が共有され、「ガラス張り」になる、というとき、カネの出入りが分かるようになるのは誰か?→(増井応答)国だけでなく、取引相手全体で情報を共有するイメージ。その利点はコンプライアンス費用削減だが、いいことばかりといえるかが考えどころ。国と事業者の間の情報共有に抵抗が少なくなるのは、国への信頼が確立している場合であろう。→(再指摘)事業者間の文脈では、強い業者が弱い業者に事業情報の開示を強要することが問題となる例がある。
3.ゼミ有志の檀上意見開陳

今回の授業では、本セメスターのゼミ有志が檀上意見開陳をしてくれた。その場で応答できなかったので、ここに感想を書いておこう。
  • (意見開陳)Steinmoらは、自己利益・規範・価値がどのように納税コンプライアンスに影響するかを実験室実験で調べている。そこで想定されているのは、制度(institutions)がインセンティブを通じて自己利益に働きかけ、徐々にその集団の暗黙のルールとして固定化されて規範となる、というループ。しかし、規範が先行し、あとから政府が制度を導入する、という例もあるのではないか?→(増井感想)規範から制度へというループもあるかもしれない。Steinmo & D'Attoma (2021)59頁の下の方の段落でも、Bergman (2009, 42)を引用して、the institutionalization of normsを語っている。うまい具体例をおもいつけていないのだが、たとえば、「Aについては皆が納税していない」「それをうけて法律でAを非課税とする」といったような場合だろうか(?)。
  • (意見開陳)Steinmo (2018)は、スウェーデンのルター派教会とイタリアのローマ・カトリック教会の果たした役割を対比する。そこで、宗教は文化か制度か、という問いを提起したい。→(増井感想)この意見開陳において、宗教の内容でなく宗教の組織について話します、と慎重に補足された点が大事だと思う。「教会が制度だ」というときには、教区人口の世帯構成や不動産所有状況などを把握し、その情報を管理する能力に着目している。それは世俗組織の営むmonitoring機能と変わらない。なお、重要な補足として、スウェーデンとイタリアの現況を歴史的制度論でもって説明するこの話を相対化するものとして、Steinmo & D'Attoma (2021)の実験結果は、単純な文化論やステレオタイプを排している。つまり、人々の遵法志向の分布は似通っており、むしろ制度の強弱が実際のtax gapの違いをよりよく説明する、というのである。
4.フロアからの質問もあった。これに対してはその場でごく簡単に応答した。
  • (質問)巨大IT多国籍企業のような場合、Steinmoらの語る自己利益・規範・価値という枠組みは通用するか?→(増井応答)株式会社の場合、株主利益の最大化という意味で自己利益で説明できそうだが、これに対してはESG投資など別の流れもある。日本企業は欧米企業ほどagressive tax planningをしないという話がある。→(指摘)増井応答の後半とかぶるが、日本のJTC(Japanese traditional company)と呼ばれる企業の行動原理は、評判を重視する。
  • (質問)税務調査にかかる人件費などのコストと比べて、税収回復やみせしめ効果などは計量できているのか?→(増井応答)EBPMの課題だ。これの18頁。

5.Braithwaite再訪

今回の準備過程では、Valerie Braithwaiteの仕事の意味がすこしわかってきた。彼女の「執行ピラミッド」は、オーストラリアでのアンケート調査によって納税者の態度(motivational postures)を析出したもので、心理学の手法で仮説を検証していた。一人の個人が複数の態度を併せ持つことがありうること、態度と行動は必ずしも一致しないこと、抵抗を対話の契機ととらえるオープンな姿勢、などは、執行ピラミッドを「独り歩き」させないための重要な留保だと思う。

私が熱烈に知りたいのは、このピラミッドの形状が現在の日本でどうなっていて、これからどのように変化していくかである。

6.おわりに

昨年度の「現代と法」に出ていた学生の方から、「今年のほうがレジュメがわかりやすかった」とのお言葉があった。1年たつと(すこしは)進化する。すなおに誉め言葉ととっておきたい。

11 July 2025

続き

Max Hata Thursday, July 3, 2025 「Magic」Johnson再び。下院も上院法案を可決。OBBBAは「4th of July」に法制化

に自分でリンクをはりはじめて、「いや待てよ、これはPerplexityにきけばいい」と思った。

[プロンプト]トランプ税制改革に関する記事を、リンク集の形で、整理して示せ。10件。

これに対する応答が以下。

以下は、トランプ税制改革に関する主要な記事10件を、リンク集の形で整理したものです。

  1. 「2025年トランプ税制改革」―連続・非連続・対抗措置 - 東京財団

  2. 米国大型税制改正可決~日本企業への影響 | EY Japan

  3. トランプ氏、「大きくて美しい」減税法案に署名し成立 - BBCニュース

  4. トランプ税制改革の「壊滅的影響」...富裕層への減税で医療保険と地方経済が危機に - Newsweek日本版

  5. 【速報】トランプ大統領 大型減税法案に署名(2025年7月5日) - ANNnewsCH(YouTube)

  6. 国際課税レポート 【第15回】「2025年トランプ税制改革」~加速する「アメリカ回帰」~ - Profession Journal

  7. 米議会「大きくて美しい法案」を可決 トランプ氏公約の大型減税 - BBCニュース

  8. 「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」? | 大和総研

  9. トランプ新政権、税制、2025年 - 企業が今予想できること - EY Japan

  10. One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)法制化の概要 - EY Japan(英語記事の日本語要約含む)

※一部記事は重複する情報を含みますが、企業・政策・国際課税・社会保障など多角的な視点を網羅しています。

なーるほど。じゃあこれもやってもらおう、ということで。

[プロンプト]show several professional website on the contents of OBBBA

これに対する応答が以下。

Here are several professional websites offering in-depth analysis and content on the One Big Beautiful Bill Act (OBBBA):

These sources provide expert-level detail and sector-specific insights into the contents and implications of the OBBBA.

ぼくが思ってたのにはヒットしなかったので、3件のみ追加。

Friday, July 4, 2025 Tax Policy In The Trump Administration By Paul Caron

NYU Tax Law Center, 2025 Tax Legislation

July 10, 2025,  Steptoe, International Tax Changes in the One Big Beautiful Bill Act  By Amanda Pedvin Varma, Lauren Azebu

04 July 2025

米国でOne Big Beautiful Bill Actが成立

略してOBBBA。2017年12月TCJA以来の大きな税制改正(見方によっては改悪)。とりあえず現時点で検索して上位に出てくるものにリンクを張る。これからたくさん論説や分析が出てくる。いまこんなことをしなくても、いつでも対象時点を指定してAIにまとめ作成を依頼すればいいのだが・・・

日経新聞 トランプ減税法案が下院通過、成立へ 企業と富裕層に恩恵・EVに逆風

TaxProfBlog Friday, June 27, 2025 Tax Policy In The Trump Administration

TaxProfBlog Friday, June 20, 2025 Tax Policy In The Trump Administration

TaxProfBlog Friday, June 13, 2025 Tax Policy In The Trump Administration

TaxProfBlog Friday, May 30, 2025 Tax Policy In The Trump Administration

TaxProfBlog Friday, May 23, 2025 Tax Policy In The Trump Administration

山田&パートナーズ池田美保氏のレポート 2025年5月23日税制改正草案“One Big Beautiful Bill Act” (米国)(下院通過後上院審議前)

Congress.gov  H.R.1 - One Big Beautiful Bill Act, 119th Congress (2025-2026)

The White House  The One Big, Beautiful Bill

WSJ House Passes Trump’s Megabill in GOP Triumph

The Washington Post House passes Trump’s bill

Financial Times House of Representatives approves ‘big, beautiful bill’ in victory for Donald Trump

BBC A look at the key items in Trump's sprawling budget bill

The Economist  July 3, 2025  Trumponomics 2.0 will erode the foundations of America’s prosperity: The Big Beautiful Bill is symptomatic of a wider malaise