第三小法廷は、次のように述べて、本件差押えが適法であるとした(下線・見出し・赤字は引用者による)。
本件差押えについては,本件滞納固定資産税等のうち本件土地以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に基づき,本件賃料債権のうち本件土地の賃料相当額部分を差し押さえることとなる点において旧信託法16条1項との関係で問題があるといわざるを得ないものの,本件滞納固定資産税等のうち本件土地の固定資産税相当額に係る部分に基づき,本件賃料債権を差し押さえることや,本件滞納固定資産税等に基づき,本件賃料債権のうち本件建物の賃料相当額部分を差し押さえることは,同項に何ら反するものではないというべきである。
このように,(あ)本件差押えにつき同項との関係で問題となる部分は上記の限度にとどまり,(い)国税徴収法63条が,徴収職員が債権を差し押さえるときはその全額を差し押さえなければならないと規定していることなどに照らすと,本件差押えの効力を直ちに否定すべき理由はなく,また,本件差押えを全体として違法とするような特段の事情もうかがわれないから,本件差押えは,適法である。(あ)は上記の限度で問題があっても全体として違法にはならないという。結論先取のきらいがある。
(い)は国税徴収法63条を根拠にあげる。特段の明示的な論証なく、徴収法63条を旧信託法16条1項に優先したように読める。ちなみに旧信託法16条1項は次のように定め、信託財産の独立性を確保し、受益者の保護をはかっていた。
信託財産ニ付信託前ノ原因ニ因リテ生シタル権利又ハ信託事務ノ処理ニ付生シタル権利ニ基ク場合ヲ除クノ外信託財産ニ対シ強制執行、仮差押若ハ仮処分ヲ為シ又ハ之ヲ競売スルコトヲ得ス上記引用の判示第二段落にいう「など」が何を意味しているかはわからない。(あ)と「特段の事情」との関係もはっきりしない(問題のある部分の限度が大きな比率を占めれば「特段の事情」ありということになるのか等)。
もっとも、上記引用判示に続く次のくだりからは、差押えはともあれ充当のところで整理すれば受益者の保護は何とかなる、という思考が読み取れる。
もとより,旧信託法16条1項との関係で問題となる部分については,本件賃料債権のうち本件土地の賃料相当額部分をもって本件滞納固定資産税等のうち本件土地以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に充当することはできないから,本件賃料債権が逐次取り立てられて本件滞納固定資産税等に充当された結果,本件滞納固定資産税等のうち本件土地の固定資産税相当額に係る部分が消滅した場合には,上告人は,それ以降に本件差押えに基づき取り立てた本件賃料債権のうち本件土地の賃料相当額を被上告人会社に交付すべきものであり,交付されない場合には,被上告人会社は,上告人に対し,不当利得の返還を求めることができるというべきである。