名古屋市が,X社の有する固定資産が冷凍倉庫であるのに,一般用倉庫として過大に評価していた。平成14年度から17年度については減額更正して還付したが,昭和62年度から平成13年度までについては還付しなかった。そこで,固定資産税の過納金と弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案。最高裁は,職務上の法的義務に違背して価格を過大に決定したときは,審査申出・取消訴訟を経るまでもなく,国賠請求を行い得ると判示した。法的義務に違背しているか,損害額はいくらかなどを審理させるため,事件を原審に差し戻している。
理由付けの中で,固定資産評価委員会に対する審査申出に争訟ルートを限定しているのは,登録された価格自体の修正に関するものであって,職務上の法的義務に違背してされた場合の国賠請求を否定する根拠にならないとしている。しかし,両者の間で損害の範囲に重なる部分があることは確かであり,納税者としては,価格を修正したのと同様の結果を得る可能性がでてきた。職務上の法的義務に違背しることを主張立証できれば,昭和62年度から平成13年度までについても,争えるのである。
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(2012.05.20追加)
上告受理申立理由書によると,多くの市町村では,「過徴収金返還要綱」なる要綱が制定され,5年の時効期間を超える分について過徴収金が返還されているという。では,このやり方で返還した市町村に対して,別途,国家賠償請求訴訟が提起された場合,どうなるのだろうか。本最高裁判決は,国賠請求を行い得るとして訴えの入り口こそ開けているが,法的義務の違背に関する具体的な基準や,損害額認定のやり方については,語っていない。すでに過徴収金が返還済の場合には,国賠訴訟における損害の認定の上で調整がなされるとみるのが穏当であろう。
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(2013.02.02追加)
渕圭吾「本件評釈」法学協会雑誌130・1・267は,行政争訟による救済が予定されている事項に関して不法行為に基づく損害賠償請求が予定されているのは,国家賠償法に対して一般法の関係に立つ民法において請求権競合説が採られているからである,と論ずる。