15 June 2012

東京高裁平成22・12・16訟務月報57・4・864(相続税,制限納税義務者,債務控除)

Xさん(米国籍,ブラジル居住者)が,Aさんの死亡に伴い財産を相続。Aは死亡前にB社の代表取締役であった。B社の更生手続における管財人が,Aに対する損害賠償請求権を保全するため,Aが日本国内に所有する不動産を仮差押え。

損害賠償請求権
Aさん←―――B社(管財人)
不動産
↓相続
Xさん

争点は,この損害賠償債務が相続税法13条2項2号の債務に該当し,債務控除が可能か。
 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
 その財産に係る公租公課
 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務
 その財産に関する贈与の義務
 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
東京地裁は,
同項の前記趣旨や,同項が控除される債務を限定列挙していることに照らして,仮差押えがされた場合における被保全債権に係る債務が同項2号に該当すると解することはできない
とした。ここにいう「前記趣旨」とは,
同法が制限納税義務者の課税財産を同法施行地である国内の財産に限定した(同法2条2項)ことに対応して,その差し引くべき債務もまたその財産に関するもので,その者が支払うべきもののみに限定するという点
にある。東京高裁もこの判示部分を維持し,債務控除を認めなかった。上告及び上告受理申立て中。

本格的にはジュリスト掲載予定の浅妻評釈を待ちたいが,とりあえずコメントは3点。
  • 2号を限定列挙であると解する判旨が十分に論証されているかについては,検討の余地がある。仮差押えでなく差押えの場合に射程が及ぶか,という点に関係する。
  • 債務が人に対するものであるのにかかわらず,物だけとの関係で地理的切り分けを行う立法は,いかがなものか。国際的情報交換の充実を前提とすれば,国外財産と国内財産の比率で按分する制度との優劣を検討すべき。もっとも,国内と国外で分ける以上,生前に弁済していれば国内所在の積極財産がそれだけ減ったはずだったという不満は残るだろう。
  • 現在列挙されている担保権でいいのか。そもそも担保権に着目するやり方自体,合理的か。関連して,被担保債権が担保物の時価を超える場合の扱いはどうなるか。