Wolfgang Schoen, Taxation and Democracy, 72 Tax Law Review 235 (2019)
「代表なくして課税なし」というとき、民主的入力を決定する者、租税負担を負う者、公共支出の便益を享受する者が一致することを前提とする。しかし、参政権の拡大とともにこの一致は崩れたし、国境を越える個人の移住に伴って「納税しないが投票できる」あるいは「投票できないが納税する」場合が生ずる。この中で、博覧強記の文献引用とともに、課税に関する実体的な制約を憲法上明記することの意義をダイナミックに探求するのが、本論文の魅力である。
本論文によると、John Lockeに由来する「合意に基づく保護」の系譜が英米の「議会を通じて執政府のやりすぎに対して納税者の権利を保護する」ことにつながり、Thomas Hobbesに由来する「内容に基づく保護」の系譜が独の「憲法に実体的な規定を置くことで納税者の権利を保護する」やり方につながる。
個人の移住のうち租税目的でないものについては、非居住者である市民が本国に納税しないままに参政権を行使する問題と、居住者である非市民(国籍を有さない個人)が参政権をもたないのに納税する問題が検討される。これに対し、租税目的で行う移住については、各国の租税競争は、可動性のある個人にとっては民主的過程を改善するが、可動性のない個人にとっては負担を押しつけられるおそれがある。
このような見取り図を描くことによって、本論文は、課税に関して実体的な制約を憲法上明記するドイツ流の行き方に固有の意義を主張しようとする。新たな視角からの問題提起であり,米国流の緩やかな違憲審査基準を展開してきた日本法にとってもインパクトがある。ただし、「多数による専制」による再分配に警戒的な本論文それ自身の哲学的基礎がどこにあるか。また、租税競争との関係での本論文の検討結果は、憲法で租税法の内容に制約を設けても効果的でないというものであり、居住者である非市民の保護に関する筆致とかなり段差があるのではないか。こういった点について、さらに対話の必要があろう。
課税と民主主義に関心のある方にとって、今後の必読文献のひとつとなるに違いない。