新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版案は、2022年閣議決定から1年がたち、「人への投資や設備投資の遅れといった課題に更に加速して取り組む必要性」を踏まえて改訂するもの。税制に関する指摘を多く含む。
たとえば、Ⅲ.人への投資・構造的賃上げと「三位一体の労働市場改革の指針」、(6)成長分野への労働移動の円滑化、の中で、所得税法の退職所得控除について次の記述がある(12頁)。
②退職所得課税制度等の見直し
退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。
また、Ⅳ.GX・DX等への投資。そこでは、知的財産の創出に向けた研究開発投資を促すための税制面の検討や、高度外国人材の呼び込み(19頁)に言及するし、暗号資産について次の記載もある(29頁)。
暗号資産に係る税制上の取扱いについて、第三者が短期売買目的以外で暗号資産を継続的に保有する場合を、他の暗号資産の保有と区別して取り扱うことが可能かどうか、法令上・会計上の在り方を踏まえて、速やかに検討する。
さらに、 Ⅴ.企業の参入・退出の円滑化とスタートアップ育成5か年計画の推進、(4)スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築。ここでは、ストックオプションの環境整備についてかなり具体的な記載がある。やや長くなるが、引用しておこう(36-38頁)。
(ⅰ)ストックオプションプールの日本での実現に向けた会社法制上の措置(略)
(ⅱ)税制適格ストックオプションの制度見直し
ディープテック系を中心に、事業化まで時間を要するスタートアップや、事業拡大のために未上場期間を長くとりたいスタートアップが、IPOのタイミングを柔軟に選べるようにすることが重要である。スタートアップの従業員報酬としてグローバルに活用されているストックオプションについて、スタートアップの事業の成長速度に応じて権利行使(上場)のタイミングを柔軟化でき、また簡便な手続で応用できるようにするため、令和5年度税制改正において、創業5年までにストックオプションを付与する場合、権利行使期間を10年から15年に延長した。
また、スタートアップの手続の簡素化の観点から、株券の保管委託義務を不要化することとしたところであるが、そもそも、税制適格ストックオプションの株式保管委託要件がM&A等の場面において制約になっている。これに対し、非公開会社では会社法の制約によって株式に譲渡制限が付されていること、また、発行会社及びストックオプション付与対象者によって税務処理が行われていることに着目し、非公開会社における税制適格ストックオプションの株式保管委託要件の撤廃を検討する。
社外高度人材への税制適格ストックオプション付与のためには、一定の要件を満たすスタートアップに限定され、かつ中小企業等経営強化法による計画認定が必要となるが、この認定制度について調査を行った上で、認定に伴う手続負担なしで税制適格ストックオプションの付与を可能とするよう検討を行う。
スタートアップの人材獲得力向上の観点から、税制適格ストックオプションの上限額の大幅引き上げ又は撤廃を検討する。
これらを含めて、スタートアップフレンドリーな制度となるよう税制適格ストックオプションの手続の簡素化や要件の更なる見直しを含めて利便性向上を図る。
(ⅲ)未上場会社の株価算定ルールの策定
税制適格ストックオプションの権利行使価額は、当該ストックオプションに係る契約の締結時の株価を上回ることが要件となっている。未上場会社であるスタートアップが税制適格ストックオプションを導入する場合の当該株価の算定について、売買実例等により算定した価額に加え、財産評価基本通達の純資産価額方式(会社の総資産の価額から負債等の額を差し引いて評価額を定めるという、小規模会社向けの簡便な算定方法)による算定を認めることとする。また、会社が種類株式を発行している場合には、その内容を勘案しつつ、純資産価額方式によって算定された価額となることを明確化する。この点について、速やかに通達等を整備する。
あわせて、種類株について、どのような場合に種類株主総会の特別決議を要する場合に該当するか明確でないといった指摘がある。そこで、実際のニーズを踏まえながら、要件の明確化を含めて必要な検討を行う。