01 June 2024

樋口範雄教授によるホームズ「法の道」の読み解き

法学協会雑誌141巻5・6号に、樋口範雄「オリバー・ウェンデル・ホームズと『法の道』」と題する論説が掲載された。ここに「法の道(The Path of the Law)」とは、ホームズによる1897年の講演のことであり、「現代に至るまで広く読まれ、かつ引用もされる」作品であるという。

例によって無知な私は、米国留学の機会や時間を得ていながら、これまで実際にこれを読んだことがなかった。今回、樋口教授の全訳とコメントを頼りに読んでみると、まさに読み継ぐべき古典と感じた。樋口教授の読み解きによると、次のような特色がある。

  • 法とは裁判の予測であるにすぎない、という即物的かつ現実的な態度→道具主義
  • Bad manを前提とする→法と倫理の区別
  • 法のとるべき客観主義
  • 「法の生命は論理ではなく、経験であった」
  • 歴史の重視→他方で骨董主義に陥ることへの戒め
1897年にホームズが述べたことには、もちろん時代制約性がある。このことは、樋口教授がホーウィッツ教授の著書を引用しつつ具体的に指摘している。しかし、いま日本の私がこれを読んでみて、なんと新鮮であり、かつ、しっくりくることか。言及している具体例もおもしろいし、リアリズムとか経験主義とかの法思想への入口としても最適だと思う。法学入門の授業を次に担当する機会があったならば、ぜひとも、これを教材としたい。

なお、樋口教授による全訳は、小見出しと太字を付している。そこを拾うだけでも、樋口教授の読み解きの力点が浮かび上がってくる。たとえば、原文の
For the rational study of the law the blackletter man may be the man of the present, but the man of the future is the man of statistics and the master of economics.

というくだりが太字になっている。訳文のあとにわざわざ原文を括弧書きで引用し、コメントでも20世紀初めからの社会工学的法学や20世紀後半の「法と経済学」に触れている。特に印象的だ。