06 July 2024

CFC税制とIIRの併存、立法趣旨

税制調査会「わが国税制の現状と課題 -令和時代の構造変化と税制のあり方ー」(令和5年6月30日)の国際課税に関する章の末尾には、注目すべき段落がある。授業のために答申を再読していて、重要な基本線を明らかにしていることに改めて気づいた。立法趣旨を検討する上で、有力な資料として利用できる。

1.この段落は、少なくとも次の5点を、はっきりと述べている。

  • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後も、引き続き、全世界所得課税を原則としていること→以下引用の②
  • 外国子会社配当益金不算入制度の下で、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制による対応が必要であること→以下引用の④
  • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後、CFC税制は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったこと→以下引用の⑤
  • CFC税制とIIRの併存→以下引用の⑦
  • IIRが親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであること→以下引用の⑧

2.以上の読み取りを裏付けるため、以下に、この段落を引用する。答申の通し頁だと、236頁から237頁にかけて。引用にあたって、各文に冒頭番号を追加し、ポイントとなる箇所を青字や赤字に修正した。

①また、先述のとおり、平成 21 年度税制改正において、外国子会社の所得に係る二重課税を排除する方式として、従来の間接外国税額控除方式に代えて外国子会社配当益金不算入制度が導入されています。②他方、我が国の制度は、居住者・内国法人について国外所得を免除し国内源泉所得のみに課税する国外所得免除方式に移行したのではなく、引き続き、全世界所得課税を原則としています。③国外所得免除方式をとる場合、国外所得に対しては、源泉地国において課税関係が終了することとなるため、源泉地が軽課税国である場合は、二重非課税が生じるリスクが高いという問題があります。④同様に、外国子会社配当益金不算入制度は、子会社所在地国における課税のみで基本的に課税関係が終了することとなるため、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制等による対応が必要です。⑤CFC税制については、かつて間接外国税額控除方式をとっていた時期においては、配当時まで課税が繰り延べられることを租税回避と捉えて、それに対応するという意義を有しているという理解も可能でしたが、外国子会社配当益金不算入制度の導入後は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったと評価できます。⑥平成 29 年度税制改正においては、BEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、CFC税制の見直しが行われました。⑦CFC税制に加え、「第2の柱」(特にIIR)が導入されると、租税回避か否かにかかわらず、外国子会社の所在地国における課税が極端に軽課税である場合には、親会社居住地国で最低税率15%に至るまでトップアップ課税がなされることとなります。⑧こうした動きは、子会社所在地国のみで課税を終了させるのではなく、親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであると評価できます。

3.上記引用部分の⑦の前提として、これに先立つ答申232頁で、CFC税制とIIRは目的が違うから併存すると整理している。これも引用しておこう。ちなみに、ここにいう「外国子会社合算税制」は「CFC税制」と同義である(答申225頁参照)。

なお、既存の外国子会社合算税制は、経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とするのに対して、「第2の柱」は、各国共通の最低税率の導入により法人税引下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものであり、両者は目的を異にする別個の仕組みです。国際的なルールにおいても、CFC税制は「第2の柱」と併存するものと整理されており、対象となる企業の事務負担には一定の配慮を行いつつ、引き続きそれぞれの制度の目的を果たすことが重要です。