17 July 2010

福岡高判平成21・7・29(太陽の保険料)

個人納税者(X)と訴外法人(太陽)が各2分の1ずつ保険料を負担した養老保険契約につき,Xの受け取る満期保険金に係る一時所得の計算に際して,法人負担分も含む保険料総額を控除できるか。福岡高裁は,福岡地判平成21・1・27判タ1304・179を維持し,控除できると判示した。この事案で,Xの一時所得の算定上法人の保険料負担分は損金算入されていたが,Xへの給与所得課税はされていなかった。よって,法人とXとでダブルに控除ができることになる。上告中。

本件では何よりも,法令の書き方が問題。所得税法施行令183条2項2号は,生命保険契約に基づく一時金が一時所得となる場合,保険料又は掛金の「総額」を,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」に算入すると定めている。

この事案ではXが生存していたため,Xが満期保険金を受け取った。仮にXが死亡していたとすれば,太陽が死亡保険金を受け取っていたはずである。この点に着目すると,保険を用いることで,所得の人的帰属に変更が生ずることがわかる。イメージを具体化するために,パートナーシップ課税と簡単に比較してみよう。たとえば,Xと太陽が組合契約を結び,それぞれが1億円を拠出する。組合がこの2億円をもとでにしてリスキーなビジネスをした結果,リターンが5億円生じた。この5億円を,ジャイアンツが勝てば全額Xが受け取り,ジャイアンツが負ければ太陽が全額受け取る,という契約内容だったとしよう。組合課税の世界では,5億円のリターンを,契約どおりにXか太陽かのいずれかに全額配賦することに対しては警戒の念が強く,「経済的合理性」を審査するといった解釈論が有力である。これに対し,本件の養老保険では,この点がほとんど問題とされていないように見受けられる。興味深い現象である。

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(2013.02.02付記)
最判平成24・1・13民集66・1・1は控除を認めなかった。同旨,最判平成24・1・16判時2146・58。