05 April 2015

最判平成26年12月12日延滞税が発生しないとされた事例

簡単な時系列にすると、次の経過をたどった。
  1. 納税者が法定納期限内に相続税を完納
  2. 市川税務署長が減額更正、過納金を還付
  3. 市川税務署長が増額更正、納税者が増差本税額分を納付
争点は、1の法定納期限の翌日から延滞税がかかるか否か。解釈論としては、国税通則法60条1項2号「納付すべき国税があるとき」にあたるか否かが問題。

東京地判平成24年12月8日と、控訴審である東京高判平成25年6月27日は、延滞税がかかるとした。そのロジックは、次のようなものだった。
  • 2の減額更正により、減額された税額に係る部分の具体的な納税義務が遡及的に消滅する
  • その後に3の増額更正がされると、増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定する
  • よって、新たに納税義務が確定した増差本税額について、更正により「納付すべき国税があるとき」に該当する
これに対し、最高裁第2小法廷は、本件の事例判断として、延滞税がかからないとした。いわく、
本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。
下線は引用者による。「当たるものではない」ことの論証として、 第2小法廷は、本件の事実関係につき、
  • 納税者として回避し得なかったこと
  • 税務署長は相続土地の評価につき減額更正をしたにもかかわらず自らその処分の内容を覆して相続土地の評価に誤りがあったことを理由に税額を増加される判断の変更をしたこと
を指摘する。そして、本件の場合において延滞税の発生を認めると「明らかに課税上の衡平に反する」と評価し、「納付の遅延に対する民事罰の性質」を有する延滞税の趣旨・目的に照らし、延滞税の発生は法が想定していないとする。

この点につき、千葉補足意見は、「特殊な事情」あるいは「例外的な事案」であることを補足する。これに対し、小貫意見は多数意見の結論に賛成するが、理由が異なる(国税通則法61条1項1号の特例による控除期間があった事案であったため結果的に多数意見と結論が同じになった)。

学説では、谷口勢津夫『税法基本講義第4版』(弘文堂2014年)110頁が、還付に関する法律関係を論ずる箇所で、納税者から還付請求申告書の提出があったときに成立または確定するという解釈を退ける文脈で、
誤って過大な金額が還付された場合、その後にその誤りが発見され、修正申告または課税処分がされたときは、納税者はその金額のうち納付すべき税額に相当する部分に加えて、延滞税をも納付しなければならなくなる。
から、当該解釈をとるべきでないとしていた。

12月12日の最高裁判決ののち、2015年1月、国税庁は同様の事案に係る延滞税についてアナウンスを出した