17 March 2012

東京地判平成23・3・24(NJ州法上の信託とみなし贈与課税)

2004年8月4日,祖父がその「子孫らのために」信託を設定し,券面500万ドルの米国債を受託者に引渡し。信託契約には,受益者として孫X(米国籍)の氏名が記載されている。2004年9月15日,受託者は,父を被保険者とする生命保険契約を締結,保険料として合計440万ドル支払。60万ドルは宙に浮いている。

名古屋地裁は相続税法4条1項(平成19年度税制改正前)にいう「受益者」を「信託による利益を現に有する地位にある者」と狭く解釈したことに対しては,多くの評釈が否定的である(仲谷=田中,品川,岡本,宮塚)。もしXが「受益者」であったとすると,Xの住所や,信託財産の所在が,さらに問題となる。

なお,平成19年度税制改正により,信託設定時に,Xが「受益者としての権利を現に有する者」にあたる場合にみなし贈与課税がされることになった(相税9条の2Ⅰ)。「受益者等が存しない信託」の効力が生ずる場合,当該信託の受益者等となる者が委託者の親族であるとき,受託者に対してみなし贈与課税がされる(相税9条の4)。

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(2012.03.27追記)
高野・税務事例研究124号は,平成19年度税制改正後の相続税法の下でこの事例のような信託契約が締結された場合にどうなるかを検討している。同論文も,名古屋地裁の上記「受益者」解釈に問題があると指摘。さらに,住所の認定については,幼児の「生活の本拠は父母の生活の本拠と同一であると考えるべきではなかろうか」とする。信託財産の所在地については,国債を基準とし(相税9条の2第6項),国債を発行した当該外国にある(相税10条2項)と解している。

15 March 2012

国連租税条約モデルの2011年アップデート

3月15日の会合で公表する。

 

FairfaxはOdysseyの株を所有していたか

New York Timesの記事"Revisiting a $400 Million Tax Break"が,Fairfax Financial HoldingsがOdyssey Re Holdings Corporationの株を80%所有していたかをめぐる争いをとりあげている。

争点は,米国連結納税申告の適用要件を満たしていたか。Fairfaxは2003年に80%所有要件を満たしていなかったため,Odyssey株を買い増したが,そのやり方が問題となった。Fairfaxは現金を支払う代わりに,2010年満期の借用証書を,Bank of AmericaのCayman関連会社に渡し,Bank of Americaは株を借りてFairfaxに渡したという。

2012-03-14. URL:http://www.nytimes.com/2012/03/11/business/fairfax-financials-400-million-tax-break-revisited.html?_r=2&ref=business&pagewanted=all. Accessed: 2012-03-14. (Archived by WebCite® at http://www.webcitation.org/66AafGrav)

10 March 2012

岡山地判平成18・1・11税務訴訟資料256号順号10261(個人病院長の貸倒損失)

倉敷でA病院を営んでいた個人Xが,有料老人ホームの経営などを目的として平成2年10月1日に会社Cを設立したが,有料老人ホーム開設の認可が得られず,C社は平成10年12月10日に清算結了した。Xは、C社に対する本件貸付金の貸倒れによる損失2億1373万円余を、 平成10年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。所轄税務署長がこの必要経費算入を否定するなどの更正処分。

岡山地裁は,
「そもそも有料老人ホーム事業とA病院の業務との間に直接的な関連があることを認めることはできないし、仮に訴外Cが有料老人ホームを開設することにより、当該有料老人ホームの入居者に治療等の必要性が生じた場合に、A病院に通院又は入院する可能性が高く、A病院の収入増加の可能性が見込めるとしても、A病院が訴外Cの協力医療機関となることによって、A病院において見込まれる収入増加についての計算や、資金回収についての合理的計算が行われたという形跡は見当たらないこと、また、本件貸付金については担保設定もなされていないため、訴外Cの事業が失敗した場合のリスクをXが全面的に負うという高リスクの資金貸付けとなっていたこと等の事情からすると、Xの主観的意図はともかく、客観的に見て、事業として合理的な計画性をもった貸付けということはできないから、高リスクな資金貸付けを行ってまで有料老人ホームの協力医療機関になることがA病院の業務に係る事業所得を得るために客観的に見て通常必要なものであったと認めることはできない。」
として,本件貸付金の貸倒れによる損失は所得税法51条2項に規定する損失に該当せず,当該損失はXの事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないと判断した。

業務関連性の認定に関する一事例といえよう。やや乱暴にいいかえれば,病院の事業と,有料老人ホームの事業は,まったく別個の事業だというのである。そうカテゴリカルにいいきれるものであろうか。認定事実からするとだいぶ無理な事業計画であったようであるし,この争点以外にもいくつかの点が争われているなど,事案の特殊性があるのかもしれないが。

病院事業に関連しないとすると,雑所得との関係を考えることになる。この点につき,岡山地裁は,
「本件貸付金・・・の貸倒れによる損失は、所得税法51条4項に規定する損失に該当すると認められるので、平成10年分の雑所得の金額の計算上、同年分の雑所得の金額(同項の規定を適用しないで計算した雑所得の金額)を限度として必要経費に算入することにな」る

と述べている。

なお,C社が開業費を支出していたとすれば,本来,繰延資産として後の事業年度に法人税の損金算入ができるはずだ。だが,本件では有料老人ホーム開設の認可が得られず,C社は清算結了してしまっている。Xも破産しており,本訴の原告は破産管財人である。