14 July 2017

学資金の意義と判定基準,いずこに?

1.平成28年度税制改正で,所得税法9条1項15号が次のようになった。

十五 学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するもの(給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあつては、通常の給与に加算して受けるものであつて、次に掲げる場合に該当するもの以外のものを除く。)を除く。)及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品
 法人である使用者から当該法人の役員(法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員をいう。ロにおいて同じ。)の学資に充てるため給付する場合
 法人である使用者から当該法人の使用人(当該法人の役員を含む。)の配偶者その他の当該使用人と政令で定める特別の関係がある者の学資に充てるため給付する場合
 個人である使用者から当該個人の営む事業に従事する当該個人の配偶者その他の親族(当該個人と生計を一にする者を除く。)の学資に充てるため給付する場合
 個人である使用者から当該個人の使用人(当該個人の営む事業に従事する当該個人の配偶者その他の親族を含む。)の配偶者その他の当該使用人と政令で定める特別の関係がある者(当該個人と生計を一にする当該個人の配偶者その他の親族に該当する者を除く。)の学資に充てるため給付する場合

篠藤敦子税理士のこの解説によると,
 改正の背景には、厚生労働省の平成28年度税制改正要望「地方公共団体が医学生等に貸与した修学等資金に係る債務免除益の非課税措置の創設」がある。
という。税制改正の解説にも,次の説明がある。
⑶ 学資金の非課税の改正  多くの地方公共団体において、地域の医師確保対策として、医学生に奨学金を貸与し、当該 医学生が卒業後一定期間、当該地方公共団体が指定する医療機関で勤務したことを要件として、 当該奨学金の返還債務を免除するという事業が 行われています。  その場合の奨学金の債務免除益に係る課税関係に関しては、債務免除の要件とされる勤務先 が当該地方公共団体の設置・運営する医療機関であるか否かによって、課税・非課税が分かれ ていました。  すなわち、その勤務先が当該地方公共団体の設置・運営する医療機関以外の医療機関である場合には、学資金非課税の規定により当該債務 免除益は非課税とされる一方で、その勤務先が当該地方公共団体の設置・運営する医療機関である場合には、当該債務免除益は、学資金非課税の規定にいう「給与その他対価の性質を有す るもの」に該当し、当該地方公共団体から受け る給与所得として課税されていました。  奨学金の態様が多様化する中で、上記のような取扱いについては、アンバランスであるとの 指摘がなされていたところです。そこで、課税 対象となる学資金の範囲について、課税の潜脱を防止するという趣旨を踏まえつつ、真に課税の適正性・公平性を損なうおそれがあると思わ れるものに限定するために所要の改正を行うこととしました。
これにあわせて国税庁の通達も改正されている。

2.こうして,平成28年度改正の趣旨については簡単に調べられた。しかし,この規定における肝心の「学資に充てるため給付される金品」(以下「学資金」という。)の意義と判定基準については,どこかで公的ガイダンスが出ているのだろうか?

ご存じの方がいたら,ぜひ,教えていただきたい。

たとえば,学校が学生に対して月7万円の奨学金を出したとして,1年間で84万円のこの金品が学資金として非課税所得になるのか,それとも,雑所得の総収入金額に計上しなければならないのか。授業料や教材費に充てることが明らかな場合,「学資に充てるため給付される金品」に該当するように思うのだが,具体的にどういう疎明資料を用意すればよいのだろうか。

3.古い裁判例として,第一合金株式会社に関する東京地判昭和44年12月25日行集20巻12号1757頁が次のように判示するものの,その力点はあくまでも「給与その他の対価の性質を有しない」の内容にあり,上の疑問には答えてくれない。
 おもうに、所得税法は、課税対象としての給与所得につき極めて包括的な定義規定を設け、退職所得を除き、原則として、勤務関係ないし雇用関係に由来するすべての金銭的給付又は経済的価値の給付を包含するものとしている(二八条一項、三六条なお最高裁昭和三七・八・一〇第二小法廷判決、民集一六巻八号一七四九頁参照)のであるから、それから除外されるべき学資に充てるための給付、つまり給与その他の対価の性質を有しない学資に充てるために給付される金品とは、勤務の対価ではなくして、会社が購入した新規機械設備を操作する技術を習得させるための授業料のごとく客観的にみて使用者の事業の遂行に直接必要があるものであり、かつ、その事業遂行の過程において費消されるべき給付を指すものと解するのが相当である。
 いま、本件経費についてこれをみるのに、それが、前記各従業員の学資に充てるために給付された金員であつて、同人らの給与所得を構成することは明らかであるが、前叙のごとき性質を有するものに該当せず、従業員の一般的資質の向上を直接の目的とするにすぎないこと、原告の主張に徴してこれを推認しうるに十分であるから、本件経費は、窮極的には会社事業の生産性と事務能力の向上に寄与することがあるとはいえ、所得税法九条一項一九号所定の非課税所得に該当しないものというべきである。
[20170715追記]
その後,ある方から,給付型奨学金は基本的に非課税,学振特別研究員の奨励金は給与所得,リーディング大学院の奨励金は雑所得とされているようである,とのコメントをいただいた。「学資に充てるため給付される金品」という法律の文言をどうあてはめているのか,不思議な感じがする。

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