2019 London Congressのための報告書が出ていた。今回のトピックは,負債利子控除と,投資ファンド。
Subject I は,負債利子控除。BEPS行動4の2016年Updateは,各国税制が共通アプローチの収斂に向かうことを期待していた。では実際にどの程度収斂してきていているのか。これを検証。この点,General Reportによると,EU各国ではATADを遵守する結果としてかなりの収斂がみられるところ,EU以外の国々では必ずしもはっきりとした収斂はまだみられないという。2018年10月段階の情報に基づく知見である。
日本のBranch Reportは,緒方健太郎氏が執筆。制限措置のカバーすべきエンティティ―の範囲を広狭どう設定するかが,技術的な問題にとどまらず,コアの考え方の違いによると指摘。そのうえで,行動4報告書のとるtop-down approachと,日本の既存の過大支払利子税制のとるbottom-up approachの違いがあると述べる。なるほど。2019年3月の税制改正をにらむ時期の執筆であるところ,末尾の付録で,過大支払利子税制の改正内容をタイムリーに要約。日本ははっきりとした収斂の例といえよう。
行動4は,法人税の課税ベースをめぐる基本的な問題でもあり,企業の資金調達におけるプランニングをめぐる実際的な問題でもあり,以前から興味を惹かれていた。必読文献がひとつ増えたと思う。ほかにもいろいろと興味深い点。たとえば,米国は2021年まではEBITDAを参照するが,そのあとはEBITを参照することになるので,参照ベースが狭まって制限がきつくなるのだが,にもかかわらず30%という固定比率の数字は変わらないらしい(General Report, at 33)。そもそも一般的に,利子費用控除に関する各国の立法政策の背景に,日本法とかなり異なるやり方をとる例が紹介されている(General Report, at 25)。また,いわゆるupstream loanで,子会社が親会社に融資したときのブラジル・カナダ・デンマークの扱いなどは,日本法の「常識」からみてやや驚き(General Report, at 43)。
Subject II は,投資ファンド。前回これをとりあげたのは1997年のNew Delhi Congressのときだった。その後,市場規模は3倍以上伸びたという。22年という時間が,すぎてみると夢のごとし。
General Reportは三部構成で,投資ファンドの課税,投資ファンドに投資する投資家の課税,投資マネジャーの課税,を検討。論じていることは,各国税制が投資チャネルの選択に対する中立性をどう確保しようとしているか,租税条約へのアクセスをめぐる諸論点(2010年CIV報告書以降の動きや,beneficial ownershipに関するスイス判決を受けたとされる2014年OECDモデル租税条約1条コメンタリーの改訂など),さらに,投資マネジャーの報酬に関するcarried interestなどの問題,など。これだけ範囲が広いので,年金ファンドや,sovereign wealth fund,VAT/GSTは検討対象から除外。
日本のBranch Reportは,伊藤剛志氏が執筆。証券投資信託からはじまって,TKとか投資事業有限責任組合とか,デラウェア州法上のリミテッド・パートナーシップとか,広範なストラクチャーを検討。だいぶ前にこの分野を概観しようと試みたことが私にもあるので感じがわかるのだが,これはとても大変なことであったろうと想像する。このようにして日本法の現状を英語でavailable にされたことは,よろこばしい。
今回のSubject Iは44の支部報告書と1のEU報告書,Subject IIは42の支部報告書をもとにしている。これでも,たとえば中国とかマレーシアからの報告書は出ていない。今後こういった国々からのインプットが増えるならば,さらに包括的な比較法研究プロジェクトになっていく。そうなったとき,比較対象として検討可能な法域はどのくらいが上限だろうか。2019年3月でInclusive Frameworkの参加国は129に達している。100を超える数になってくると,もしかしたら,研究にあたってAIの助力が必要な場面になるだろうか。
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