24 October 2020

「租税法学習のためのリンク」のトリセツ

大学の授業でご一緒する学生の皆さんのためによかれと思ってリンクを掲げてきたが,不親切にも取扱説明書をつけないままで,もう20年以上になってしまった。遅ればせながら,かんたんに使い方を記しておこう。

租税法学習のためのリンクをクリックすると,授業でよく言及するサイトを並べてある。これが簡略版。そこから詳細版をクリックすると、ほぼ地域別にリンク先を並べてある。日本のものだと,「e-Gov」の「法令検索」から,所得税法や所得税法施行令などをとってくることができる(毎年3月末の税制改正が反映されるまで数か月タイムラグがあることに注意)。裁判例への無料アクセスも充実していて,たとえば「税務訴訟資料」は租税関係行政・民事事件裁判例のうち国税に関する裁判例をほぼ網羅的に収録(それなのにわざわざ事件番号を消してあるのが資料としての価値を損なってしまっていてとても残念)。「SSRN」のサイトは,ワーキングペーパーなどを入手するうえで不可欠。★リンク集を「簡略版」と「詳細版」に分けたことを受けて、記述を修正(2023.12.23)。

税制改正の内容(国税 地方税)は,それぞれ,財務省と総務省のサイトへのリンク。とくに便利なものとして,「国税」→「税制改正の概要」→各年度の「税制改正の解説」と進むと,それぞれの年度改正について立案担当者の執筆した解説が手に入る。解説は現在,平成17年度までさかのぼってみることができる。もっと古いものもアップしてほしいが,いまのところ,紙媒体の「改正税法のすべて」をみるしかなさそう。

租税条約へのアクセスに関しては,先日ポストしたこれをみてほしい。税制史をクリックすると,そこにリンクを張っておいたように,1949年のシャウプ勧告をボランティアの方がアップしてくれている。Literacyは、データベース一覧が便利。★かつてのGACoSがLiteracyに進化したことを受けて、記載を修正(2021.08.13)。

なお,ゼミで租税法の英語文献を読むときに,「この単語の意味がワカラネ」と思って,普通の辞書をみてもまだサッパリわからん,ということがあるかもしれない。そういう困りごとを助けてくれるのが,立教大学浅妻章如教授のこの単語帳

20 October 2020

消費課税と個人情報

今年の租税法学会第49回研究総会は、統一テーマが「消費課税の将来構想」だった。5本の報告・コメントがあり、シンポジウムで質疑応答があった。それぞれに有益で、勉強になった。ここでは、第一報告がその末尾で提出した「個人情報保護」の観点について、メモを残しておきたい。この観点が、当日に議論された種々の論点に共通する横糸として重要であるように私には感じられたからである。

まず出発点として,事業者を納税義務者とする消費型付加価値税は、その執行に要する個人情報がそれほど広範なものにならなくて済む。免税事業者でいられる金額が高い場合には、とりわけそうであろう。これと比較すると、個人所得税の執行には、納税義務者本人の所得稼得状況に加えて、配偶者控除や扶養控除など家族構成員の状況について、かなり広範な属人的情報を必要とする。このような情報提供が原則として不要なのが、付加価値税の重要な特性である。一般論としては、このようにいえる。

もっとも、第二報告に対するコメントで示唆されたことをきいて思ったのだが、電子インボイスとマイナンバー制度を連携させるような「将来構想」までを視野に入れると、必ずしもそうはいえない場合が出てくるかもしれない。取引情報がリアルタイムで官民で共有されていくような未来像である。今後の展開によっては、付加価値税の執行においても個人情報保護について検討すべき点が出てくる可能性がある。
→このような可能性は、第四報告で取り上げられた「経済のデジタル化」にも関係する。政府部門もデジタル化し、社会全体がDXの波に洗われる中で、取引情報の集積から個人の行動をプロファイリングできるような状況も、あながち夢想的なSF物語にとどまらないだろう。
→他方で、課税情報の収集・利用・保管のプロセスがデジタル化によってどれだけ効率化したとしても、第三報告で言及された金地金の密輸入の事案のように、一定のhard-to-tax sectorと課税当局との間の執行面でのせめぎあいは継続するはず。越境取引における国外事業者なども、広い意味でhard-to-taxの部類に入るかもしれない。

付加価値税の話として一般的に個人情報を国家が収集しなくてもいいということであったとしても、政府作用を全体的にみた場合はどうか。
→再分配の要求により人々が国家から給付を求める局面では、やはり個人情報が必要になるはずだ。この疑問に対する応答は、その場合は給付を求める人があくまで自発的に情報提供しているというもの。それはそうなのかもしれない。
→再分配機能を個人所得税で分担するために高額所得者に追加的な情報提供を求めると、それはそれで個人情報保護の観点から問題にならないか。これに対する応答は、豊かな人にはnoblesse obligeがあるというものだ。たしかに再分配の理屈からはそうなるだろう。現行法でもHNWIは国外財産調書を提出しなければならない。シンポジウムでこの議論をきいて、議論のつながりに気づかされた。再分配に反対する人には説得的でないかもしれないけれど。

やや意外なところで個人情報とのかかわりに気づいたのが、走行距離に応じた課税によって環境負荷を抑える提案についてのやりとりである。個別消費税の存在意義としては、外部性に対処することがある。この観点からみたとき、既存の車体課税が効果的な政策手段か。むしろ走行距離に応じて課税することでCO2削減に資するのではないか。この疑問に対する応答の過程で、車のメーターから走行情報を一元的に取得する仕組みと個人情報保護の関係が指摘された。いわれてみれば当然のことだが、政策をスマートに実施するには情報が要る。このことが現れるいい例だ。もっとも、自動運転が日常的になれば、常時Googleに走行情報を把握されていてもほとんどの人が気にしないようになるのかもしれない。プライバシーに関する私たちの認識も可変である。

以上は、学会のやりとりをきいて、私が勝手に思ったこと。個々の指摘を正確に再現してはいない。どなたの指摘かも明示していない。オーサーシップを含めきちんとした記録は、来年夏刊行の租税法研究49号。

07 October 2020

Schoen教授の「課税とデモクラシー」

 Wolfgang Schoen, Taxation and Democracy, 72 Tax Law Review 235 (2019)

「代表なくして課税なし」というとき、民主的入力を決定する者、租税負担を負う者、公共支出の便益を享受する者が一致することを前提とする。しかし、参政権の拡大とともにこの一致は崩れたし、国境を越える個人の移住に伴って「納税しないが投票できる」あるいは「投票できないが納税する」場合が生ずる。この中で、博覧強記の文献引用とともに、課税に関する実体的な制約を憲法上明記することの意義をダイナミックに探求するのが、本論文の魅力である。

本論文によると、John Lockeに由来する「合意に基づく保護」の系譜が英米の「議会を通じて執政府のやりすぎに対して納税者の権利を保護する」ことにつながり、Thomas Hobbesに由来する「内容に基づく保護」の系譜が独の「憲法に実体的な規定を置くことで納税者の権利を保護する」やり方につながる。

個人の移住のうち租税目的でないものについては、非居住者である市民が本国に納税しないままに参政権を行使する問題と、居住者である非市民(国籍を有さない個人)が参政権をもたないのに納税する問題が検討される。これに対し、租税目的で行う移住については、各国の租税競争は、可動性のある個人にとっては民主的過程を改善するが、可動性のない個人にとっては負担を押しつけられるおそれがある。

このような見取り図を描くことによって、本論文は、課税に関して実体的な制約を憲法上明記するドイツ流の行き方に固有の意義を主張しようとする。新たな視角からの問題提起であり,米国流の緩やかな違憲審査基準を展開してきた日本法にとってもインパクトがある。ただし、「多数による専制」による再分配に警戒的な本論文それ自身の哲学的基礎がどこにあるか。また、租税競争との関係での本論文の検討結果は、憲法で租税法の内容に制約を設けても効果的でないというものであり、居住者である非市民の保護に関する筆致とかなり段差があるのではないか。こういった点について、さらに対話の必要があろう。

課税と民主主義に関心のある方にとって、今後の必読文献のひとつとなるに違いない。


05 October 2020

IFAマレーシア支部,国連モデル12B条のWebinar

IFA Malaysia will be hosting a webinar this Thursday on 8 October 2020 and would like to extend this invitation to our fellow IFA branches in the region. We would very much appreciate it if you would circulate this among your members.

The webinar will focus on the recently proposed Article 12B of the UN Model Double Taxation Convention. If adopted, Article 12B will grant the source country greater taxing rights on payments for automated digital services without the need for a substantial physical presence in the source country, and will have potentially far-reaching implications on the taxation of the digital economy.
 
We are honoured to have Mr. Carlos Protto and Mr. Rajat Bansal, members of the UN Tax Committee and the drafters of Article 12B, to share with us the objectives and policy thinking behind Article 12B in the key presentation, and a distinguished panel of speakers from OECD, EY and Netflix who will share their thoughts and analyses of its potential impact from the perspectives of policy, business and tax practice. 

(10月8日日本時間夜に下記を追記)
視聴したところ,多数向けのwebinarながら報告者2名のプレゼンだけでなく,その後のパネルや司会とのやりとり,聴衆のテクスト送信による質問への応答など,かなりインターアクティブで,いろいろなことがわかった。国連モデル12B条という提案が,現在Inclusive Frameworkで議論しているデジタル課税の話とどうつながるかについては,12B条はあくまで二国間の解決で,その意味では各国が単独でデジタルサービス税を入れているのと似たり寄ったりだ,きちんとするには多国間枠組みが必要だ,という見解があった。またマレーシアはすでに1月からデジタルサービス税を実施しているそうで,その経験に照らして,それが「直接税」なら租税条約の範囲内になるが「間接税」なら外れるとか,そのどちらかで執行部局が違ってくることとか,現地特有の問題関心もうかがえた。

今年のIFA総会は7つのWebinars

 IFA Virtual Programme

IFA is very pleased to present its virtual programme with seven webinars to take place from 16 - 25 November 2020. The Main Subjects of this years’ Cahiers and IFA’s regular sessions will be held virtually on the IFA website and on the IFA App. Also IFA’s Young IFA Network (YIN) and Women IFA Network (WIN) will organise a virtual session, and you can visit the virtual poster programme. Through seven dynamic sessions, our experienced speakers will focus on important developments in the world of international taxation.

Apart from the opening and closing event, the sessions will include:

  • Monday 16 November 2020 15.00-18.30 (CET) Subject 1: Reconstructing the treaty network
    General Reporters: David Duff (Canada) and Daniel Gutmann (France)
    Chair: Liselott Kana (Chile)
  • Tuesday 17 November 2020 15.00-17.00 (CET) Subject 2: Exchange of information: issues, use and collaboration
    General Reporters: Armando Lara Yaffar (Mexico) and Tatiana Falcão (Brazil)
    Chair: Christoph Schelling (Switzerland)
  • Wednesday 18 November 2020 15.00-17.00 (CET) WIN Seminar - Impacts of the actual implementation of measures to tax digital economy
    Moderator: Ana Claudia Utumi (Brazil)
  • Thursday 19 November 2020 15.00-17.00 (CET) YIN Seminar - #tomorrowstaxleaders's view on #covid19, #stfah, #thenewnormal
    Moderators: Claudia Suter (Switzerland), Maikel Evers (Netherlands)
  • Monday 23 November 2020 15.00-17.00 (CET) IFA/EU
    Chair: Luc De Broe (Belgium)
  • Tuesday 24 November 2020 15.00-17.00 (CET) IFA/OECD
    Chair: Stef Van Weeghel (Netherlands)
  • Wednesday 25 November 2020 15.00-17.30 Recent developments in international taxation
    Chair: Chloe Burnett (Australia)

The WIN Seminar will be held in memory of Carol P. Tello, President of IFA USA Branch.

The event will be opened by the IFA President, Murray Clayson and the President of the Cancun Congress, Edgar Anaya, on 16 November 2020, followed by a brief introduction on the scientific programme by the Chair of the PSC, Robert Danon. Also, a General Assembly will be held during the virtual event on Wednesday 25 November from 12.00 - 13.30 hours (CET). The programme will be closed by the Chair of the upcoming 2021 Berlin Congress, Christian Kaeser, on Wednesday 25 November after the session on Recent Developments.

Registration is reserved for IFA members and without charge. The sessions will be live but to ensure these sessions are convenient for all participants across the globe, all sessions will be recorded and made available to participants if they wish to access these at a later stage. Registration is now open. Go to My IFA to register and we hope to meet you online!