17 July 2024

租税法研究52号が公刊されていた

租税法学会の学会誌「租税法研究」の52号が公刊されていた。昨年同様、市販されているし、会費払込みのあった会員には近く送付される予定。

52号の統一テーマは、

 「資産」課税の諸相と現代的課題

で、2023年10月14日(土)に国士舘大学で開催された総会の成果を収録している。総会の企画趣旨は、租税法学会のウェブサイトにあるように、現代の変容する経済社会において「資産」に課税すること、という横断的な視点から検討するもの。4本の論説とそれらに対するコメント、当日のシンポジウム記録、さらに、研究動向を1年分まとめてレビューする学界展望、から成る。目次は以下の通り。

【論説・コメント】

地方資産課税としての固定資産税の現状と将来像──人と領域の結びつきの流動化も含めて──(手塚貴大)

手塚報告に対するコメント(柴由花)

財産評価に法又は司法ができること(浅妻章如)

浅妻報告に対するコメント(吉村典久)

人の国外移転と税制──人的資本への課税のあり方を中心として──(住永佳奈)

住永報告に対するコメント(青山慶二)

企業価値の源泉としての無形資産と租税法の対応(吉村政穂)

吉村報告に対するコメント(南繁樹)

【シンポジウム】「資産」課税の諸相と現代的課題

【学界展望】租税法学会の動向(堀治彦)

【その他】

租税法学会賞について/学会記事


今回も、報告・執筆者はもとより、企画を練り上げた運営委員の皆さん、円滑かつ快適な総会開催に尽力した総会幹事、原稿依頼から入稿管理に至る大変な作業を完遂した編集担当理事や有斐閣の皆さんをはじめ、多くの方々のお働きがあった。記して感謝したい。

06 July 2024

CFC税制とIIRの併存、立法趣旨

税制調査会「わが国税制の現状と課題 -令和時代の構造変化と税制のあり方ー」(令和5年6月30日)の国際課税に関する章の末尾には、注目すべき段落がある。授業のために答申を再読していて、重要な基本線を明らかにしていることに改めて気づいた。立法趣旨を検討する上で、有力な資料として利用できる。

1.この段落は、少なくとも次の5点を、はっきりと述べている。

  • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後も、引き続き、全世界所得課税を原則としていること→以下引用の②
  • 外国子会社配当益金不算入制度の下で、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制による対応が必要であること→以下引用の④
  • 外国子会社配当益金不算入制度の導入後、CFC税制は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったこと→以下引用の⑤
  • CFC税制とIIRの併存→以下引用の⑦
  • IIRが親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであること→以下引用の⑧

2.以上の読み取りを裏付けるため、以下に、この段落を引用する。答申の通し頁だと、236頁から237頁にかけて。引用にあたって、各文に冒頭番号を追加し、ポイントとなる箇所を青字や赤字に修正した。

①また、先述のとおり、平成 21 年度税制改正において、外国子会社の所得に係る二重課税を排除する方式として、従来の間接外国税額控除方式に代えて外国子会社配当益金不算入制度が導入されています。②他方、我が国の制度は、居住者・内国法人について国外所得を免除し国内源泉所得のみに課税する国外所得免除方式に移行したのではなく、引き続き、全世界所得課税を原則としています。③国外所得免除方式をとる場合、国外所得に対しては、源泉地国において課税関係が終了することとなるため、源泉地が軽課税国である場合は、二重非課税が生じるリスクが高いという問題があります。④同様に、外国子会社配当益金不算入制度は、子会社所在地国における課税のみで基本的に課税関係が終了することとなるため、軽課税国に所在する外国子会社への所得移転による租税回避に対しては、CFC税制等による対応が必要です。⑤CFC税制については、かつて間接外国税額控除方式をとっていた時期においては、配当時まで課税が繰り延べられることを租税回避と捉えて、それに対応するという意義を有しているという理解も可能でしたが、外国子会社配当益金不算入制度の導入後は、軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになったと評価できます。⑥平成 29 年度税制改正においては、BEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、CFC税制の見直しが行われました。⑦CFC税制に加え、「第2の柱」(特にIIR)が導入されると、租税回避か否かにかかわらず、外国子会社の所在地国における課税が極端に軽課税である場合には、親会社居住地国で最低税率15%に至るまでトップアップ課税がなされることとなります。⑧こうした動きは、子会社所在地国のみで課税を終了させるのではなく、親会社居住地国においてグループ全体の所得に対して一定の課税権を及ぼすものであると評価できます。

3.上記引用部分の⑦の前提として、これに先立つ答申232頁で、CFC税制とIIRは目的が違うから併存すると整理している。これも引用しておこう。ちなみに、ここにいう「外国子会社合算税制」は「CFC税制」と同義である(答申225頁参照)。

なお、既存の外国子会社合算税制は、経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とするのに対して、「第2の柱」は、各国共通の最低税率の導入により法人税引下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものであり、両者は目的を異にする別個の仕組みです。国際的なルールにおいても、CFC税制は「第2の柱」と併存するものと整理されており、対象となる企業の事務負担には一定の配慮を行いつつ、引き続きそれぞれの制度の目的を果たすことが重要です。