1.新論文のポスト
Omri Marian教授の新論文「Not ‘Super Tax Havens’ After All」がSSRNにポストされていた。2025年1月13日付けのドラフトで、INTERNATIONAL ISSUES IN THE TAXATION OF CRYPTOASSETS (Editora Revista dos Tribunais, 2025)に所収されるという。
Marian教授は、2013年の論文で、暗号資産が「スーパータックスヘイブン」になりうるかという問題提起をした。それから10年を経て、今回の新論文は、そうはならない、と主張する。暗号資産は脱税の手段ではあるが、現金や秘密法域といった従来の手段よりも脱税を助長する点で効果的な手段であるわけではない、というのである。それゆえ、伝統的な税務執行の仕組みでも、暗号通貨を使った脱税に対して、少なくとも他の脱税と同じ程度効果的には対処可能である、とする。本論文は、その理由として、当初の予想に反し、暗号資産市場は非中央集権でも分散型でも匿名でもないし、そのいずれにもなりそうにない、という。
2.論証の核心
論証の核心は、(1)暗号資産市場で金融仲介業者が繁栄すること(ⅢA)、(2)このような仲介業者が分散的でなく少数の個人により支配されていること(ⅢB)、(3)暗号資産市場に透明性があること(ⅢC)である。
このうち(3)は、ブロックチェーン経済が透明であるとするもので、本論文は、その内容を、(i)仲介業者の支配者が特定できることと、(ii)個人顧客の身元が特定できること、に分ける。そして後者(ii)について、当局は最終ユーザーを特定できるとする。最終ユーザーを特定できる理由としては、(あ)公開台帳を使用していること、(い)通貨として主流化していないため現金化が必要なこと、(う)価格変動が激しく洗替売買時に課税繰延を得るために申告が必要であること、を挙げている。匿名取引を提供すると考えられているプライバシーコインについても、税務執行上は大きな問題を生じないとする。
3.結びの部分
こうして、この論文は、OECDのCARFや、EUのDAC8など、既存の税務執行ツールによって対応可能であるとするのである。次のように結んでいる。
For the foreseeable future, crypto asset markets will remain captured by intermediaries, and the people in control of these intermediaries will be known, simply because users are rational.
4.増井の感想
いままさに知りたいことを論じている論文で、とても興味深い。先行研究として、Baer et al. (2023) やNoked(forthcoming2025)も参照しており、そのうえで論を立てている。
ひとつの問題は、暗号資産市場が仲介業者中心に運営される「予見できる将来」がいつまでか、というタイムスパンである。また、「あなたの取引は知っているが、あなたが誰かを知らない」という問題が、どの程度克服可能なのかについて、もっと知りたいと思う。なお、組織犯罪がらみの使用など、一定程度の暗数が存在し続けることが織り込み済みの議論であることに、注意する必要がある。
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