日本機械輸出組合国際税務研究会の研究論文として、渡辺智之教授の「いわゆるBEPS 2.0をどう捉えるか?」が公表された。2022年2月のpublic consultation documentsまでをカバーしており、渡辺教授らしい冷静な分析。
その大意は以下のとおり。
- 10月合意は歴史的合意なのか。世界中のほとんどの国・地域が合意に至ったことは画期的で、国際課税ルールに関して方向性を示した実質的内容のある文書。ゆえに10月合意の成立を「歴史的」なものとして評価することは「大げさではない」(3頁)。
- Pillar 1 のAmount Aは、「デジタルサービス税の蔓延を防ぐ観点からは大きな役割を果たし得る」(7頁)。他方で、Amount Aのレベニュー・ソーシングは、仕向地課税の導入というよりは、源泉地課税の拡張と捉えたほうが適切(13頁)。従来の国際課税ルールそのものの抜本的変更というよりは、一定の多国籍企業の超過利潤から生じる税収の一部を市場国に配分するための財源調整の仕組みとして、「従来の国際課税ルールの外側に付け加えられたもの」(14頁)。
- Pillar 2 のGloBEルールは、まず、SBIE(Substance-based Income Exclusion)により、最低税率が導入されるのはあくまで超過利潤となり、「低課税国としては、有形資産と支払賃金の一定割合であるSBIE相当分については15%の下限を気にせずより低い税率を設定できる」(12頁、租税競争の存続)。次に、QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)を認めたことにより、低課税国としては「QDMTTを適用して超過利潤に15%の課税をしておけば、親会社所在国による上乗せ税の適用を免れることができる」(9頁、ここでDevereux et al. (2022)のモデルを紹介)。
以上のように論じたうえで、渡辺教授は、令和4年度与党税制大綱がAmount Aについて「100年来続いてきた国際課税原則を見直し、市場国に新たな課税権を配分するもの」と評価していることは「疑問である」とする(17頁)。これに対し、GloBEルールについては、超過利潤に関する国家間の税率引き下げ競争を直接抑制するという意味でこれまでにない強力な仕組みを導入したという意味でAmount Aの導入よりも「さらに大きな変革なのかもしれない」(18頁)と述べる。
この論文は、ジュリスト2022年2月号の特集にも応接しており、注目される。GloBEが果たすであろう機能は、モデルルールの公表などによってだんだん見えてきているところ、その最前線をわかりやすく伝えてくれる。Amount Aの位置づけについては、現時点でのsoberな判断と読める。私自身は、今後の展開につながる可能性をもうすこし高く見積もる可能性もあるかもしれないと思う。まだまだ現実の法形成の動きが読めないところがあるので、議論の継続を期待したい。