こういう養老保険だ。保険期間は3年または5年,死亡保険金の受取人が会社,満期保険金の受取人が役員または親族。
保険料 満期保険金
会社 ――→ 生保会社 ――→ 役員
(契約者) (被保険者)
会社が保険料を支払い,二分の一を役員に対する貸付金と経理し,残額を保険金として経理(「本件保険金経理部分」,これは損金算入)。のちに,役員が満期保険金を受け取る(=一時所得)。この一時所得の計算上,保険料が,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」にあたるかどうかが問題となった。
最高裁は,
「一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう『その収入を得るために支出した金額』に該当するためには,当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならない」
と判示し,本件保険料経理部分の控除を認めなかった。
その後,平成23年6月の改正で,所得税法施行令183条4項に,次の第3号が追加された。
- 三
事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)
平成24年には,所得税基本通達が改正され,次のようになった。
- (生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等)
34-4 令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額(令第183条第4項又は第184条第3項の規定の適用後のもの。)には、以下の保険料又は掛金の額が含まれる。(平11課所4-1、平24課個2-11、課審4-8改正)
(1) その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金
(2) 当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの
(注) 1 使用者が支出した保険料又は掛金で36―32により給与等として課税されなかったものの額は、上記(2)に含まれる。
2 相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額は、上記(2)に含まれない。
高橋祐介・ジュリスト1411号9頁は,本件の背景にフリンジ・ベネフィット課税の問題があることを指摘したうえで,簡易生命表による5年死亡確率のデータをもとに,
「保険料の半額だけ役員が自己資金で負担していれば(あるいは給与所得課税を受けていれば),残りの半額分の現金を役員が将来ほぼ確実に受け取りうるとしても,法人段階での役員給与課税は行われず,役員側でも一時所得課税を受けるだけであり,かつ保険金受領時まで課税が行われない」
と指摘し, 「本件の抱える問題は,解決していない」とする。