16 July 2013

BEPSに関するオールト講演

1998年「有害な税の競争」報告書の産みの親であるHugh Ault教授が,BEPSに関する講演をSSRNに公表した(Tax Notes Internatonal, July 17, 2013)。1998年報告書に3つの側面(①脱税,②租税回避,③租税補助金)があったと整理したうえで(1195頁),特に②との関係でBEPSプロジェクトについて次のように観察している。

  • BEPSの対象が源泉地国と居住地国の適正な税源分配という根本問題に波及せざるを得ないこと(1199頁)
  • これまでの情報交換に関する取り組みと比較すると,BEPSはより困難な問題に取り組むことになり,その意味でOECDが荒海(much rougher water)に泳ぎだしていること(1200頁)

これはかなり正確な認識と思われる。

なお,③について足並みが揃わない現実は,ドイツのショイブレ財務大臣が英蘭などを念頭においてパテント・ボックスの禁止を呼びかけている例にもあらわれている。

11 July 2013

不動産保有税の美点と現実―The Economistの記事をめぐって

「各国政府は財産税(property taxes)をもっと利用すべきだ」というThe Economistの記事が出た。IMFのペーパーOECDの報告書などをベースにして,人々の行動をゆがめず安定した税収源であるなどの美点を列挙している。にもかかわらず,世界的にみると,必ずしも十分に利用されていないという。




その理由として,この記事は,次の点をあげている。

  • 執行に必要な情報を政府が欠くこと
  • 分配上の公正さについて説が分かれること
  • 有権者にとって顕示性のある(salientな)税であること
最後の点については,一括納税である場合には,毎月のローン支払とあわせて納税する場合よりも,人々がより非寛容になるというアメリカの例をあげている。

では,日本はどうか。市町村が固定資産税を賦課している。国際比較でどのレベルに位置づけられるかが気になった。そこで平成22年度に関する手元の数字で簡単に計算してみると,GDPは146兆6569億円,固定資産税は8兆8650億円だったから,GDP比率は6%になる。償却資産に係る部分を除き,土地・家屋の係る部分に限ると,4.9%になる。これは,上の表のHigh Incomeと記されたところを若干上回っている。英米のレベルではないとしても,結構利用しているといえるのかもしれない。

06 July 2013

東京高判平成22・9・30税資260号順号11523(不動産所得とした事例)

オーダーリースの合意解約に際して,保証金5000万円の返還義務を免除された。これが貸主個人の不動産所得にあたるとされた事例。地裁判決がこれで,高裁判決がこれ

所得分類の争点(不動産所得か一時所得か)が前面に出ているが,納税者としては一挙に課税される点が問題であり,その意味ではポイントは平準化の要否であるともいえる。ところが,平成23年12月改正前の事案であったため,平均課税に当初申告要件が課されており(当時の所得税法90条4項),それを充たしていなかった。

当初申告要件が廃止された現在の視点からみると,不動産所得とされた場合に「臨時所得(所得税法2条1項24号,所得税法施行令8条3号)」にあたるかという争点が,クローズアップされる。裁判所はこの点について判断を下していない。注目されることに,国税不服審判所の裁決は次のように述べて,「臨時所得」にあたらないとしていた。
  • 所得税法施行令第8条第3号にいう3年以上の期間の補償に該当するか否かは、一般的には同号が規定する不動産所得の補償が、業務の休止、転換又は廃止に伴い生じる逸失利益の補償であり、当該不動産貸付業務を継続していれば得られたであろう賃料相当額の補償を意味するものであることから、当該補償に係る契約等において、その算出根拠が3年以上の期間に係るものであることが示され、その内容も相当と認められるような場合を除けば、特段の事情がない限り、当該不動産貸付業務に係る3年分の収入に相当する金額の補償であるか否かをもって判定するのが相当である。すなわち、不動産貸付業務の休止等による補償には、いわゆる収益補償金のほか、経費補償金、固定資産の遊休期間中における減耗補償金や原状回復費用相当額等も含まれると考えられることから、3年以上の期間の補償に該当するか否かは、総収入金額から必要経費を控除した後の金額である不動産所得の金額によるのではなく、当該不動産貸付業務に係る収入金額によって判定するのが相当と解されるのである。
  • 本件返還不要保証金が3年以上の期間の補償に該当するかを判断すると、本件返還不要保証金については、その対象期間等の算出根拠が示されておらず、また、・・・これを一体で臨時所得該当性を判断するのが相当であるところ、本件における事情の下においては、・・・本件賃貸借契約の3年分の収入に相当するか否かをもって、臨時所得該当性を判断するのが相当である。
  • そうすると、本件返還不要保証金50,000,000円を、本件賃貸料月額の1年当たりの収入金額に相当する金額25,200,000円(2,100,000円×12月=25,200,000円)で除し、補償期間を計算すると約2年(50,000,000円÷25,200,000円1.98年2年)となるから、本件返還不要保証金は、3年以上の期間の不動産所得の補償に当たるとは認められない。

02 July 2013

税務行政執行共助条約の発効

財務省の報道発表によると,次の通り。
  • 6月28日(金)、我が国は、「租税に関する相互行政支援に関する条約」(略称「税務行政執行共助条約」)及び「租税に関する相互行政支援に関する条約を改正する議定書」の受諾書を経済協力開発機構(OECD)の事務総長に寄託しました。
  • これにより、本条約は、我が国について、本年10月1日(受諾書を寄託者に寄託した日の後3か月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日)に発効することとなります。