政府税調のこのサイトである。丁寧にデータを積み上げて,ルクセンブルグやシンガポールなどのGNPでみた「小国」が直接投資・証券投資の導管として用いられる傾向が強まっていることを,説得的に示している。今後の租税政策を考えるうえで,不可欠の基礎資料となるであろう。
特に注目したいのが,このデータの32頁。日本企業の海外展開ということでいえば,リアルな経済活動のあるところに見合った形で拠点が置かれている。これが私の読み取りである。こういう実需に見合った企業経営の世界と,バーチャルなマネーの流れの世界とは,異なるということである。
また,日本からの投資が多いケイマン諸島の位置づけについても,その規範的評価については丁寧に考える必要がある。少なくとも,BVIと比べて規制がゆるやかであるという評価については,正直にいって違和感を禁じえない。
さらにいえば,中間会社を置くことに事業上のやむにやまれぬ理由がある場合もあることに留意しておくべきであろう。たとえば,日本への利益還流や,事業終了時のEXITなどが難しい国への進出にあたって,いったん安全な国に中間持株会社をおき,その中間持株会社の株を売ることで投下資本の回収をはかる,といった例などである。もちろん,これこそが,インドのVodafone事件や,最近のインドとモーリシャス条約の改定の背景にあるわけであるが。
おそらく,リアルな事業活動の世界と,脱税・資金洗浄まで含めた幽霊会社の跋扈する世界とを,きちんと文節化して議論できるかどうかが,水準を保った租税政策論ができるかどうかの分かれ目といえるのではないか。
最近の租税事件を含めて,そのおりおりに思ったことの断片をつづります。 Candid and biased, and hopefully stimulating, comments on recent tax developments in Japan (and other matters).
27 May 2016
08 May 2016
ロンドン腐敗対策サミットを前に,貝殻会社の透明性に関する記事がでていた
この記事である。
パナマ文書の公開をうけて,2016年5月12日にロンドンで開かれるAnti-Corruption Summitの最重要議題が貝殻会社(shell company)の実質的支配者(beneficial owner)たる個人の特定であることを論じている。この記事は,
Corporate ownership and corruption
How to crack a shell
Ownership registries could help to end the corporate secrecy that fosters corruption. But current plans are not promising
パナマ文書の公開をうけて,2016年5月12日にロンドンで開かれるAnti-Corruption Summitの最重要議題が貝殻会社(shell company)の実質的支配者(beneficial owner)たる個人の特定であることを論じている。この記事は,
- 公開レジストリモデル
- ゲートキーパーモデル
の2つのモデルの対立があるという。英国が前者を推し,英国の海外領土は後者を推す。後者のゲートキーパーモデルでは,法律事務所や信託会社などがゲートキーパーとなって,会社の実質的支配者の本人確認書類を集めて認証する。それには実務上の問題があると指摘したうえで,この記事は,公開レジストリモデルについて,検証なしの自己申告だけではまったく機能しないというJason Sharmanのコメントを引用して結んでいる。
ふたつのモデルが対立しているというのがこの記事の見立てだが,両方を実施せよ,ということにはならないものだろうか。記事自体,EYの調査(リンクがみつからない-このあたりだろうか)を引用して,ビジネス界の支持があると指摘している。
I teach Tax Law at UTokyo.
07 May 2016
米国財務省が,資金洗浄・腐敗・脱税の対策案を発表していた
2016年5月5日付けのこのプレス・リリースである。対策案は次の3つ。
- Customer Due Diligence (CDD)最終規則。会社が口座を開く際に,金融機関が実質的支配者たる自然人の個人情報を収集し検証するようにする。
- Beneficial Ownership立法を議会に提案。会社設立の際に財務省に実質的支配者情報を申告する義務を課すための制定法を立法する。
- Foreign-Owned Single-Member LLC提案規則。現行法の下で情報がとれていないdisregarded entityについて,Employer Identification Number (EIN)を取得し,取引情報などを申告するようにする。
2つめの立法は,議会に対する要請という形をとっている。財務長官のレターはこれ。立法を要請する理由として,金融犯罪と戦うには会社設立時に実質的支配者を開示させることが必要であると述べている。
なお,このレターは,上院が租税条約を承認することや,FATCAを双方向の相互主義的なものにしていくことをも,議会に対して求めている。
I teach Tax Law at UTokyo.
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