29 September 2019

租税法のキーワード

2019年10月からの消費増税で租税への関心が高まることを予想して,法学教室の10月号でミニ特集「租税法のキーワード」が組まれた。練達の先生方が,わかりやすく解説してくださっている。学生のみなさんには,是非読んでほしい。

◆特集2 租税法のキーワード
1 租税法律主義…渕 圭吾……43
2 課税要件…一高龍司……46
3 消費税の軽減税率…西山由美……49
4 給与所得控除…浅妻章如……52
5 経済のデジタル化と税制…髙橋祐介……55

ちなみに,巻末の「編集デスク」のところで鈴木さんが書かれていることであるが,この10月号の定価表示は
定価1540円(~9月30日 税8%)
定価1569円(10月1日~ 税10%)
本体1426円
となっている。消費税相当分を含めた総額表示で(消費税法63条),移行時期を織り込んだもの。こんな身近なところにも,消費税法が関係している。大学の図書館でオンラインで読める人にとっては,気にならないことかもしれないけれど。

26 September 2019

税制調査会答申(2019)

経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方である。

末尾の27頁にリストアップされている主な報告書は,内閣府の次のリンク先から読むことができる。

平成28年6月24日から

平成25年6月24日から平成28年6月23日まで


21 September 2019

Atul Gawande, Being Mortal (2014)

2016年の日本語訳でようやく読んだ。衰え死すべき生物であることが何を意味するか。ひとつひとつのエピソードが心を打つ。原井宏明氏の訳もいい。たとえば,娘のシェリーが父親をアシステッド・リビングに入れたときのくだりは,こんな感じ。
シェリーがもっとも気になったことは,人生で父親が何を大事にしていたか,入所で何を諦めざるをえなかったのかについて施設の職員がほとんど興味を示さなかったことだった。この点について無知であることを自覚すらしていなかった。職員は自分たちのサービスをアシステッド・リビングと呼んでいるかもしれないが,誰ひとりとして父親をアシストして生活できるようにすること――父親にとってもっとも大事な人との絆や喜びをどうすれば保てるのかを考えること――を自分の仕事だと自覚しているようには見えなかった。職員の態度は残酷さよりも,無理解さの結果のようだったが,トルストイが言ったように,この二つの間に根本的な違いがあるのだろうか?(98頁)
ぼくの知らなかったコンセプトも,いろいろと紹介されている。たとえば,社会情動的選択理論(socioeomotional selectivity)。このところ何となく,割引率という概念が気になってきたけれど,残されたタイムスパンに関する視点という説明ですっきりするところがあるような気がする。

みすず書房の上のリンクから一部をダウンロードして読めるし,2015年のこのビデオも見ることができる。

16 September 2019

OECDのTax Certainty Day

OECD releases latest dispute resolution statistics at its first Tax Certainty Day
である。

Mutual Agreement Procedure Statistics for 2018
によると,約75%の移転価格事案が,条約に適合しない課税を全部または一部解決する合意に達しているという。

MAP Outcomes
(cases closed in 2018)



15 September 2019

上田市名誉市民称号贈呈式の模様

上田市名誉市民称号贈呈式(金子宏氏)
59 views•Published on Sep 11, 2019
である。

上田市役所のページは,ここ

金子宏 氏 (令和元年度贈呈)

金子宏氏写真
 金子宏氏は、昭和5年に殿城村(現在の上田市殿城)で生まれ、上田松尾高等学校(現在の上田高等学校)を卒業し、東京大学法学部に入学。卒業後は、同学部の助教授、教授を歴任し、現在は東京大学名誉教授。
 租税に関する研究を重ね、租税法を独立した法分野に発展させるとともに、地方税法においても公正・適正な課税に多大な影響を与え、地方自治に貢献されました。また、課税要件の理論的解明という課題に初めて取り組み、今日の租税法学の基礎を築かれました。
 既存の租税制度の改善についても、長期にわたり政府税制調査会の審議に参加し、昭和63年の抜本税制改正の基礎となった答申の作成において中心的な役割を果たされました。
 特に、固定資産税については、地方財政審議会特別委員として、総務大臣の諮問に応じて固定資産評価基準の改正に貢献されています。
 このような多年にわたる功績が評価され、平成30年11月に上田市出身では初となる「文化勲章」を受章されました。

14 September 2019

会計検査研究に,租税支出関係の論文

第58号(2018年9月発行)
イギリス及びスウェーデンの予算過程における租税支出と会計検査院-付加価値税の租税支出を意識して-(PDF形式:9,063KB) 関口 智
である。付加価値税についても国民への説明責任を果たそうとしている両国の経験が,興味深い。関口教授は,結びのところで,次のように述べている。
日本が軽減税率を導入するということは,C効率性の低下を招くことになる。つまり,税収調達力の低下と,それによる国民への受益の姿を説明する必要性が高まることになる。
すこしバックナンバーをみてみると,会計検査研究は,2017年3月にも租税支出の特集を組んでいた。

会計検査研究第55号
区分タイトル著者
巻頭言租税支出の政治的要素と政策的含意(PDF形式:881KB)横山 彰
特集号:「租税支出と評価」によせて米国における租税歳出の定義を巡る議論とわが国税制へのインプリケーション(PDF形式:856KB)森信 茂樹
特集号:寄稿論文地方自治体の税負担軽減措置について-アメリカ州政府の租税支出レポートを中心に-(PDF形式:1,781KB)上村 敏之
特集号:寄稿論文法人課税の租税特別措置-実態と経済的帰結-(PDF形式:1,210KB)佐藤 主光
特集号:寄稿論文租特透明化法等の意義と限界-租税特別措置の透明性はどこまで高まったのか-(PDF形式:1,054KB)田中 秀明
特集号:査読付き論文寄附金控除制度と租税支出-公益法人の寄附金収入に与える影響に関する実証分析-(PDF形式:993KB)高橋 隆幸
野間 幹晴
黒木 淳
八幡 修啓

07 September 2019

名古屋高判平成29年12月14日 金地金の持込み

Xさんが,以前に購入していた金地金36kg(本件金地金)を,三菱マテリアル(A社)の名古屋店に持ち込んだ。A社の精錬した金地金とスワップ取引をして,A社で保管。四日市税務署長は,「資産の譲渡」ありとして,所得税の更正処分。

名古屋地判平成29年6月29日は,「資産の譲渡」ありとした。いわく,
交換としての法的性質を有する本件スワップ取引により、原告が所有していた本件金地金の所有権がAに移転し、その対価(反対給付)として原告に所有権が移転した同社にて製錬した金地金をもって、原告による本件金地金の保有期間中に抽象的に発生していた増加益が具体化されたものと解するのが相当である。そうすると、本件スワップ取引により、本件金地金について「資産の譲渡」があったものというべきである。
これに対し,名古屋高判平成29年12月14日は,「資産の譲渡」なしとした。すなわち,
本件契約のうち、本件交換・保管取引は、交換と寄託(混蔵寄託)からなる混合契約の形をとっているものの、スワップ取引部分に係る交換は、寄託(混蔵寄託)をするための単なる準備行為にすぎず、本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であると認めるのが相当である。 
としたうえで,次のように述べる。
本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であり、所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当しない。したがって、控訴人が、本件スワップ取引により本件金地金を交換したことは、「資産の譲渡」に該当しない。
この事件はこれで確定。

契約で交換と寄託の両方があるとしている以上,契約解釈として交換の部分を無視するのは,やや苦しい。所得税法33条1項の「譲渡」概念の解釈の側から,譲渡担保について「譲渡」なしとする取り扱いや,所得税法58条の交換特例の起源が実務取り扱いにあったことが,手がかりになりうるか。阿部雪子・新判例解説Watch, Vol.24, 219は,所得が実現しているが課税を繰り延べるという考え方。

インターネット上で,「金 取引」で検索するだけで,ずいぶんたくさんの情報がヒットする。「gold irs」の検索だと,米国の貴金属業者が課税やマネロンのルールをたくさん紹介しているから,ちょっとした比較法もできそう。ゼミ報告の小論文などに,うってつけの素材だろう。

日比谷図書文化館,ドナルド・キーン追悼企画

たまたま立ち寄ったときに,
追悼企画 関連展示
「ドナルド・キーンが遺したものと日本語教科書」
〇 期間:2019 年 9 月 1 日(日)~10 月 20 日(日)
〇 場所:日比谷図書文化館 3 階 図書フロア エレベータ前ホール
を見た。キーンさんが米国海軍日本語学校で使った『標準日本語讀本』が展示してある。学習者の知的好奇心をかきたてる,すぐれた教科書だった。19歳のキーンさんは,難しい漢字を何度も何度も書いておぼえ,外国語としての日本語を習得した。

日比谷図書文化館がイベントや展示をしていることは,以前から知らないではなかった。でも,これほど面白いものだと,今回はじめて感じた。また行ってみたい。

ドナルド・キーン氏追悼企画チラシ画像.png

01 September 2019

仏デジタルサービス税vs.米ワイン関税引き上げ

The Economistの8月22日付けのこの記事は,フランスが7月25日に導入したデジタルサービス税(DST)について論評する。

まず,フランスのDSTは,GAFA税と通称されており,米国の大きなIT企業を対象にし,しかも課税対象となるサービスも選択的に設計している。つまりフランスのDSTは一国主義的な措置。

ここから先が,今後起こることへの予測になる。米トランプ政権の対応として,大きくふたつの方向。
1)国際協調の方向でのシナリオーー米のWTOへの提訴,さらに,OECDにおける経済のデジタル化をめぐる国際合意策定プロセスの加速(国際合意ができたらDSTをやめると仏はいっている)
2)一国主義の方向でのシナリオーー米国がフランスから輸入するワインなどを標的に関税を引き上げる

視界に飛び込む次の絵から受ける印象は,明らかに2)の方向である。