07 September 2019

名古屋高判平成29年12月14日 金地金の持込み

Xさんが,以前に購入していた金地金36kg(本件金地金)を,三菱マテリアル(A社)の名古屋店に持ち込んだ。A社の精錬した金地金とスワップ取引をして,A社で保管。四日市税務署長は,「資産の譲渡」ありとして,所得税の更正処分。

名古屋地判平成29年6月29日は,「資産の譲渡」ありとした。いわく,
交換としての法的性質を有する本件スワップ取引により、原告が所有していた本件金地金の所有権がAに移転し、その対価(反対給付)として原告に所有権が移転した同社にて製錬した金地金をもって、原告による本件金地金の保有期間中に抽象的に発生していた増加益が具体化されたものと解するのが相当である。そうすると、本件スワップ取引により、本件金地金について「資産の譲渡」があったものというべきである。
これに対し,名古屋高判平成29年12月14日は,「資産の譲渡」なしとした。すなわち,
本件契約のうち、本件交換・保管取引は、交換と寄託(混蔵寄託)からなる混合契約の形をとっているものの、スワップ取引部分に係る交換は、寄託(混蔵寄託)をするための単なる準備行為にすぎず、本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であると認めるのが相当である。 
としたうえで,次のように述べる。
本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であり、所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当しない。したがって、控訴人が、本件スワップ取引により本件金地金を交換したことは、「資産の譲渡」に該当しない。
この事件はこれで確定。

契約で交換と寄託の両方があるとしている以上,契約解釈として交換の部分を無視するのは,やや苦しい。所得税法33条1項の「譲渡」概念の解釈の側から,譲渡担保について「譲渡」なしとする取り扱いや,所得税法58条の交換特例の起源が実務取り扱いにあったことが,手がかりになりうるか。阿部雪子・新判例解説Watch, Vol.24, 219は,所得が実現しているが課税を繰り延べるという考え方。

インターネット上で,「金 取引」で検索するだけで,ずいぶんたくさんの情報がヒットする。「gold irs」の検索だと,米国の貴金属業者が課税やマネロンのルールをたくさん紹介しているから,ちょっとした比較法もできそう。ゼミ報告の小論文などに,うってつけの素材だろう。

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