13 December 2019

占領下における外国人・外国法人課税再開の過程

加野裕幸「占領下における外国人・外国法人課税再開の過程」関西大学大学院法学ジャーナル97号(2019年)21-47頁は,「昭和25年の外国人・外国法人の課税の再開は,きっかけはGHQの覚書で始まり,その内容はシャウプ使節団の影響を受けていない(46頁)」と主張。

かつて非永住者制度の沿革を調べたおりに,私は,シャウプ勧告の「外国人」という一節に着目し,この勧告をうけて,GHQが非円通貨による外国人所得の非課税措置を廃止する旨の覚書を発したと考えた(ジュリスト1128号109頁)。これに対し,昭和25年の租税特別措置法改正の内容については,基本政策の点からは,外国資本とともに外国人が一緒に日本にこなければならないとしたシャウプ勧告の叙述に照応する,とまでしかいえなかった。

この点につき,加野論文は,一歩進んで,シャウプ使節団は特別措置の内容には距離をとっていたと主張している。その論拠をみてみると,戦後財政史口述資料(1951年)を参照して,外国人・外国法人の利子・配当・給与の軽減措置(当時の租税特別措置法3条から5条)につき,これは司令部の要望によるもので,シャウプ勧告は「そういう問題は全然ごめんだというようにさらりとやられた」という発言を引用している(32頁)。理想の租税政策を追い求めた使節団の一面がうかがえる記録であり,それ自体興味深い。

ほかにも,いかにも直接に史料をあたった研究らしい、興味深い点がある。
  • 忠佐市氏らが1947年に行った外国法人3社への聞き取り調査の記録を発掘。当時の外国法人がいろんな理由をつけて源泉徴収義務をなかなか履行したがらない様子が改めて明らかになる(28頁以下)。
  • 安川七郎氏の1951年の論文をもとに制限納税義務者の課税の範囲を追跡(33頁以下)。この部分は,1954年日米租税条約締結前後の議論に接続し,1962年に国内源泉所得の概念を法令で明確化するところにつながっていくであろう。
この論文がndlの検索でヒットしないのは,惜しい。

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