- Vodafone事件のインド最高裁判決(24頁)は,どういう理由付けで課税を否定したのか?長い判決だから全部読むのはなかなか大変。しかし日本でもいくつか研究があるし,その中でも居波論文などはオンラインで簡単に読める。
- この文書はモデル1(原資産のみなし譲渡課税)とモデル2(外国株主による株式譲渡益に対する課税)の間で優劣をつけていないという(7頁末尾)。でも,途上国の税務執行資源不足を考えると,モデル1のほうがおすすめ,ということではないか?
- モデル1については,二重課税を排除できないとか,現地会社の法人格の独立性を否定しているとかのデメリットがあるという(43頁)。これは資本輸出国や多国籍企業の利害を反映したものではないか?逆に,モデル2は執行面で課題があるということだ(51頁)。となると,モデル1とモデル2のどちらを選ぶかというレベルで,資本輸出国や多国籍企業vs.資本輸入国の潜在的対立があるのではないか?
- 中間に介在する会社の居住地たるLTJ(low tax jurisdiction)は,このような課税を嫌うのではないか(11頁の設例)?原資産所在地国が源泉地課税を拡張するあまり,LTJの経済戦略を損なう形で課税の手を伸ばしてしまっているのではないか?また,そうだからこそ,税務執行上の課題が生ずるのでは?租税条約で規律すべき事項では?MLI9条にケイマン諸島などは文句をいわないのか?
- 原資産所在地国がLSR(location specific rent)をつかまえることに国家間衡平および効率性の観点から理由があるというのがこの文書のスタンス。このスタンスを真剣にとらえる場合には,不当に手を伸ばしているという評価にはならないのではないか?
- 多国籍企業としては,原資産所在地国のキャピタルゲイン課税を回避するために,何層にも株式所有関係を作り出して,上流の株式を譲渡することで,原資産そのものを譲渡したのと同様の経済効果をもたらすことができる。ならば,原資産所在地国が課税の手を伸ばしていくのも自然ではないか?
- 原資産所在地国の居住者が,わざわざLSRのentityを介して,自国の不動産化体株式を所有する場合がある(round tripping)。このいう使われ方には防御策を講じてしかるべきではないか?
- この文書を読んだ途上国の租税政策立案者は,勇気づけられるだろうか?2つのモデルの提示や,対象資産の定義の重要性の指摘は,たしかに役に立つだろう。でも,執行面の課題が大きいというアキレス腱について,改善の見込みはどれほどあるのだろうか?
- この文書は,各国がまちまちの国内法をもっているので,より統一性のとれたアプローチが租税の確実性(tax certainty)を向上させる,と結んでいる(55頁)。本当だろうか?
だいぶいろんな論点を生む力のある文書であることが,議論していて感じられた。ほかにも,脚注4で主要な先行研究をおさえている点,Kaneの議論を踏まえて税収上の含意をタイミングのそれと同定している点(これはモデルの前提条件に依存しているものと思われた),モデル租税条約13条4の採択動向を実証的に示している点(39%だったという)など,研究面で参考になる点が多い。