オーストラリアの所得課税上個人が居住者に該当するための要件について政府レベルで改革論があることから,カナダへの教訓を示す論文。リンクはここ。
Moving to a More 'Certain' Test for Tax Residence in Australia: Lessons for Canada?
Canadian Tax Journal/Revue fiscale canadienne, 2020, Vol. 68, No. 1, p. 143-168
Michael Dirkis
The University of Sydney Law School
【概要】豪では個別の事実関係をみる(facts and circumstances)基準の適用をめぐって,2009年以降,居住者に該当するかどうかをめぐる訴訟が頻発し(160頁),2016年にAustralian Board of Taxationが検討を始めた(163頁)。2018年に公開協議。確実性を求めるあまり複雑なルールになってしまっているとの評価(165頁)。そのため,加にとっての教訓は限定的で,参考程度にとどまるとしている(168頁)。なお,豪のこの動きは,英が2013年に制定法上,居住者の定義を設けたことがドライバーとなっているとのこと(154頁)。
【コメント】日本の所得税法でも「住所」を有するかどうかについては生活の本拠がどこにあるかの総合的な事実認定を要し,明確な線引きではない。このことは,不動産譲渡対価に係る源泉徴収といった局面で,取引の相手方が「居住者」なのか「非居住者」なのかを判定する負担を取引の当事者に課してしまっている。私もかつて,非居住者の推定規定(所得税法施行令15条)について「より機械的な判断で済むものへの改組を検討すべきである」と指摘した(税研208号178頁)。しかし,この論文の示す英豪の経験によると,居住者の定義について明確な線引きを用意しようとするとだいぶ複雑なルールが必要になってしまう。いたしかゆし。
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