19 June 2017

税調で,7か国の納税者利便の向上策が報告されていた

第10回 税制調査会(2017年6月19日)資料一覧

15 June 2017

冗談ではなかった

BEPS防止措置実施条約に対する各国のポジションの分析が,続々とでている。この一覧表はなかなか便利。まあ,当事国の間でマッチングが成立したら,既存の二国間租税条約がそのまま修正されるのだから,熱心に分析するのもあたりまえか。

11 June 2017

BEPS多国間条約に関する日本国の選択の概要,速報版

定例のSteve Towersの金曜ショーによると,各国のポジションを示すリストの合計頁数は2000頁を超えており,国際課税の専門家にとってはこの週末に読むべきものが多いらしい(もちろん冗談)。残念ながら私には,それらの全部に目を通す気力も(視力も)ない。

とりあえず,日本国の選択の概要(暫定版)をもとに,署名時の日本国の留保と通告のリストを読んでみた。これなら合計23頁。いまのところ,対象租税協定(Covered Tax Agreements)になるのは,日中や日英など,35本のよう。

とくに印象的なのは・・・

  • 7条(条約の濫用)につきPPTを選択
  • PE認定につき,12条(問屋)は選択,13条(準備的補助的活動)は選択肢A,14条(契約の分割)は留保
  • 仲裁(第6部)は選択

といった点である。条約締結ポリシーの機微を反映して,細かいところでいろいろと留保がついている。

  • 3条(課税上存在しない団体 transparent entities)→3条2に留保
  • 4条(双方居住者に該当する団体 dual resident entities)→4条1第2文に留保
  • 5条→特に記載がなく,要するに適用しないということらしい
  • 7条→PPTを選択し,すでに既存条約で入っている規定をリストアップ,たとえば日英や日仏の配当条項など
  • 8条→留保
  • 9条(不動産化体株式)→9条4を選択,9条1に相当する規定をもつ既存条約をリストアップ
  • 10条(第三国PE)→受け入れ,ただしリストアップはまだのよう
  • 11条(セービング条項)→留保
  • 12条(問屋)→受け入れ,既存条約をリストアップ
  • 13条(準備的補助的活動)→選択肢A
  • 14条(契約の分割)→留保
  • 16条(相互協議)→受け入れ
  • 17条(対応的調整)→受け入れ,ただしリストアップはまだのよう
  • 18条(仲裁)→受け入れ
  • 19条12→留保
  • 23条2→留保,いわゆるベースボール方式をとらない
  • 26条→仲裁条項を有する7本の既存条約をリストアップ
  • 28条→仲裁の範囲につき留保と異議
以上,暫定版として公表されたものの,速報版。読み間違えていないといいのだが・・・。
関連記事

08 June 2017

多国間BEPS条約の署名式

これがその様子。
  • 日本国がどれを約束して,どれに留保を付すか,を示すリストがこれである。
  • このリストによると,日本国の締結した35本の二国間租税条約が修正されることになるよう。
  • 留保項目がかなりある。たとえば,8条のdividend transfer transactionsの規定は短いので便利だと思って,今学期の国際租税法の授業で説明メモをつくったのであったが,日本国はその全体を留保するということになっている。さっそく次回の授業で「8条は日本の締結した二国間租税条約については適用がありません」と補足せねばならぬ。
  • 現時点で,他にどういう国や地域が署名するか,それらの国・地域がどういうポジションをとっているかは,この表からわかる。国・地域の名前のところをクリックすると,上の日本国のリストと同様の情報が得られる。
  • 米国が署名しないことや,英国が12条(PE認定の回避)に留保を付すことなどは,すでに報道されていたとおり。
→過去の関連記事

03 June 2017

ルソー対スミス

稲葉振一郎『不平等との闘い ルソーからピケティまで』(文春新書2016年)を読んでみた。
*格差是正と成長路線の対立を「ルソー対スミス」の原型対立から説き起こし,それにマルクスを対比させたうえで,
*おもむろに古典派から新古典派経済学→不平等ルネッサンスと論述をすすめ(労働経済学の関心のシフトやシカゴ学派による「人的資本」への着目など),
*その延長線上でピケティとその論敵たちによる現在の議論を位置付ける
というくみたて。

日本の新書,おそるべし。数学註はここ

関連ブログ。現行制度に近いところではこれも。

01 June 2017

Henry Simonsを忘れないために

この論文The Forgotten Henry Simons (2013)が有益。1899年にイリノイの小さな村で生まれた彼は,経済的理由により(姉がそうしたように)東部の大学に行くことはできず,中西部ミシガン大学で経済学を学ぶ。1927年にFrank Knightの影響下でシカゴ大学で教えるようになるが,経済学部ではテニュアをとれないまま,1939年にロースクールに移籍。1938年のPersonal Income Taxationは,書きためていた作品がその直前に公刊されたもの。彼は自由市場を信奉し,制度学派(institutionalist economists)とリーガル・リアリストを批判するが,このころから学内の知的中心として地歩を固めていく。しかし1946年没。

彼のPersonal Income Taxation (1938)になぜ日本語訳がないか。謎だが,もしもっと長く活動して第二次大戦後の時期を彼が生きていたら,状況は違ったかもしれない。

25 May 2017

欧州ECOFINが,紛争処理指令に合意

指令案のテクストはこれ。相互協議が不調の場合,Advisory Committeeによる仲裁に移行する。この記事によると,次のステップは欧州議会の意見表明,そして欧州理事会による指令採択。これまでの経緯はここにまとめてある。

国際課税レジームの形成にとってリトマス紙となるのは,紛争処理機関を整備できるかどうかである(増井良啓「国際課税における手続の整備と改革」日税研論集71号1頁(2017.03),33頁)。EU域内においては,その意味で一歩進むということがいえそう。BEPS行動14の今後のモニタリングとも関連し,全世界的にみたときに紛争処理プロセスの改善がどこまで進むかが課題。

21 May 2017

After Piketty (2017)

ピケティ本の3年後,この本が出ていた。早速買って読まねば。目次を引用しておく。
Introduction: Capital in the Twenty-First Century, Three Years Later [J. Bradford DeLong, Heather Boushey, and Marshall Steinbaum]
I. Reception
1. The Piketty Phenomenon [Arthur Goldhammer]
2. Thomas Piketty Is Right [Robert M. Solow]
3. Why We’re in a New Gilded Age [Paul Krugman]
II. Conceptions of Capital
4. What’s Wrong with Capital in the Twenty-First Century’s Model? [Devesh Raval]
5. A Political Economy Take on W / Y [Suresh Naidu]
6. The Ubiquitous Nature of Slave Capital [Daina Ramey Berry]
7. Human Capital and Wealth before and after Capital in the Twenty-First Century [Eric R. Nielsen]
8. Exploring the Effects of Technology on Income and Wealth Inequality [Laura Tyson and Michael Spence]
9. Income Inequality, Wage Determination, and the Fissured Workplace [David Weil]
III. Dimensions of Inequality
10. Increasing Capital Income Share and Its Effect on Personal Income Inequality [Branko Milanovic]
11. Global Inequality [Christoph Lakner]
12. The Geographies of Capital in the Twenty-First Century: Inequality, Political Economy, and Space [Gareth A. Jones]
13. The Research Agenda after Capital in the Twenty-First Century [Emmanuel Saez]
14. Macro Models of Wealth Inequality [Mariacristina De Nardi, Giulio Fella, and Fang Yang]
15. A Feminist Interpretation of Patrimonial Capitalism [Heather Boushey]
16. What Does Rising Inequality Mean For the Macroeconomy? [Mark Zandi]
17. Rising Inequality and Economic Stability [Salvatore Morelli]
IV. The Political Economy of Capital and Capitalism
18. Inequality and the Rise of Social Democracy: An Ideological History [Marshall I. Steinbaum]
19. The Legal Constitution of Capitalism [David Singh Grewal]
20. The Historical Origins of Global Inequality [Ellora Derenoncourt]
21. Everywhere and Nowhere: Politics in Capital in the Twenty-First Century [Elisabeth Jacobs]
V. Piketty Responds
22. Toward a Reconciliation between Economics and the Social Sciences [Thomas Piketty]
Notes
Acknowledgments
Index。

Hat tip: これ

Cover: After Piketty in HARDCOVER

18 May 2017

ビッグ・データ,スマート・ポータル

Technologies for Better Tax Administration

A Practical Guide for Revenue Bodies

Published on May 13, 2016
book
This report looks at effective e-service provision by tax administrations, summarising eight critical areas, and explores big data management and portals, as well as natural systems, in detail. It highlights key opportunities in these areas, looking at how these emerging technologies can be best used by tax administrations. It also provides practical examples of how tax administrations have begun to utilise these technologies and delivers a maturity matrix for the two areas to assist strategic and operational decision making by tax administrations. Finally, it sets out conclusions, recommendations and next steps.
This report has been prepared by the Forum on Tax Administration’s E-services and Digital Delivery Programme. The work was initiated by the FTA Bureau as part of its 2015/16 work programme and was led by the Federal Tax Service of Russia (FTS).  With tax administrations clear that e-service options can improve taxpayer compliance levels and participation while at the same time lowering their cost of operation; but with available options many and varied, and with the cost of implementation high,  the FTA has over the last five years provided a wide range of guidance in the deployment of effective e-services.
 VIDEO

16 May 2017

Berlioz事件について,CJEU先決裁定が出ていた

Judgment in Case C-682/15, Berlioz Investment Fund SA v Directeur de l'administration des contributions directesであり,待たれていた。概要版がこれで,フルテクストはここから読める。ざっと見てみた限りでは,情報漁り(fishing expedition)に関する判示はそれほど目新しい感じもしないが,個別的情報提供の要請を受けた国の裁判所による審査を認めている点は将来の展開につながるのかもしれない。これからどんどん関係者による評釈類が出てくるだろうから,それらを読んでみたい。

【2017年10月付記】このブログが簡潔にコメント




14 May 2017

G7財務大臣・中央銀行総裁会議声明(バーリ)がでていた

日本語仮訳がこれである。課税については,コミュニケ最後のパラ16から19までが,次のように述べている。

16. 我々は、より公正かつ現代的な税システムのために取り組むこと、及び、経済活動に参加する全ての者にとってグローバルに公平な競争条件を実現することに引き続きコミットする。この目的のため、G20/OECD BEPS(税源浸食と利益移転)パッケージの適時の、一貫した、広範な実施は極めて重要である。我々は、全ての関係・関心のある国・地域がBEPSパッケージの実施及びG20/OECD BEPSに関する包摂的枠組みへの参加にコミットすることを奨励する。我々は、2017年6月7日に行われる「BEPS防止に向けた租税条約に関する措置実施のための多数国間条約」の第1回署名式を期待する。 我々は、経済の電子化に関連した進展を監視・評価すること、及び「OECDの電子経済に関するタスクフォース(TFDE)」の作業の結論に応じて、一貫したアプローチで関連する税の課題に対処するために、必要に応じて政策の選択肢を策定することの重要性を認識する。我々は、OECDのTFDEによる2018年の中間報告に期待する。我々は、税の安定性に関するOECD及びIMFの作業を支持する。 

17. 税の透明性を世界規模で高めるという我々の目標を再確認した上で、我々は、G20とともに、全ての地域が税務行政執行共助条約に署名し、これを批准するよう求める。また、2017年9月に始まる金融口座情報の自動的交換についての共通報告基準(CRS)を実施することにコミットしていない全ての金融センターを含む全ての関係国・地域が遅滞なくコミットすること、及び、CRSの下で遅くとも2018年9月までに自動的情報交換を開始するために、国内法制の導入を含む必要な行動をすべて取ることを強く求める。我々は、税の透明性に関して合意された国際的基準を未だ満足のいく水準で実施出来ていない地域において十分な進捗があることを期待し、OECDによる、税の透明性に関する非協力的地域のリストの作成に期待する。これは、リストに載った地域に対する防御的措置に関する我々の作業に指針を与える。我々は、FATF及び「税に関する透明性と情報交換に関するグローバルフォーラム」による、実質的所有者情報の入手可能性に関する国際基準の履行改善のための作業を歓迎する。我々は、併せて実質的所有者に関する税分野におけるOECDの補完的な作業を歓迎する。

18. 「租税犯罪及びその他の不正資金の流れに対する闘いについてのバーリ宣言」は、当局間及び国家間の効果的な協力に基づき、租税・金融犯罪に対して包括的なアプローチで闘うという我々の決意を反映している。我々は、CRSの下での報告を回避するために設計された取極めや、実質的所有者に不透明な構造のシェルターを提供することを目的とした取極めに対処するために、義務的開示ルールのモデルの検討を含む可能な方法を議論する取組を支持する。

19. 我々は、途上国の国内資金動員の能力を強化することが、持続可能な成長のためのグローバル2030年アジェンダの達成に極めて重要であることを再確認する。税制及び税務執行能力の改善も、世界的に公平な競争条件にとって極めて重要である。この目的のため、我々は、「アディス税イニシアティブ」の原則に引き続きコミットし、「税に関する協働のためのプラットフォーム」の作業を支持する。我々は、同プラットフォームが、国際機関間の協働を深化させ、また、税務能力構築のための外部からの支援の効果を向上させるに当たり、主要な役割を果たしていることを認識している。我々は、税の能力を構築する上での途上国に対する的を絞った支援を引き続き支持する。我々はまた、OECDによる「アフリカ租税・金融犯罪捜査アカデミー」のケニアでの設立のような、租税・金融犯罪への対処という分野における新たなイニシアティブを歓迎する。

パラ18にいう「バーリ宣言」は,ここにアップされている。金融口座情報に関するbeneficial owner情報とか,CRS潜脱の防止とか,FATFやOECDなどの取り組みを支持し,機関間の連携を推奨する内容。


11 May 2017

経産省の平成28年度委託調査報告書がでていた

2017年3月付けの報告書がここにアップされていたので,読んでみた。BEPS行動4(利子費用控除)と行動8-10(移転価格)に関する分析に力点があり,なかなか手厚い。BEPSプロジェクトの現時点でのまとめとしても便利。

私が面白いと思ったのは次の2点。

  • 本文の第2章第3節。日米英独仏を本拠とする多国籍企業について,その国際税務部門の実情を,ヒアリングなどによりまとめている。
  • 別添のアンケート調査。新興国で課税事案が生じた上位が中国,インドネシア,インドというのは予想どおりだが,どういうことが争点になったかがわかる。また,ミャンマーやカンボジアとの租税条約新規締結を求める声が強い。

03 May 2017

米国で税務行政のペーパーが公開されていた

The 2016 IRS Research Bulletin (Publication 1500) features selected papers from the IRS-Tax Policy Center (TPC) Research Conference held at the Urban Institute in Washington, DC, on June 23, 2016. Conference presenters and attendees included researchers from many areas of the IRS, officials from other government agencies, and academic and private sector experts on tax policy, tax administration, and tax compliance.


1. Interventions: Influencing Taxpayer Compliance
2. Nonfiling: IRS–Census Data Comparisons
3. Panel Discussion
4. Behavioral Research: Why Do People Do What They Do?

Here are PDF copies of the slides from sessions 1, 2, and 4.    

Session 1     Session 2     Session 4


29 April 2017

欧州議会,ハイブリッド・ミスマッチ対抗策を拡充していた

4月27日の投票で,租税回避防止指令を拡充。欧州理事会がこれを採択すれば,

  • EU加盟国とEU非加盟国との間の一定のミスマッチ
  • リバース・ハイブリッド・ミスマッチ
  • PEミスマッチ
  • 居住地ミスマッチ
  • “imported” ミスマッチ
をカバーすることになる。EU加盟国の法制化は2019年末までを予定。くわしくはここ。2016年6月段階の話はここ

23 April 2017

Kevin Kelly, The Inevitable (2016)

遅まきながら,日本語訳を読む。ここ10年くらいで,仕事のやり方や,人とのつきあいが,急激に変わってきたと感じていた。どうしてそうなったのかが,ふんふんとわかるような気がする。AIとの共存なんかについても,考えをすすめる手掛かりがいろいろある。この本が多くの読者を獲得していることは,人間が過去よりも未来を語りたい性向をもつ,ということを裏付ける。

自分の職業にひきつけると,法を担う人材に要求される資質や,政府部門のあり方が,今後さらに変化することは確実。もっと近くいまの問題関心にひきつけると,こういう変化の中で,生涯にわたった包摂的な教育機会の提供が課題になると思う。


http://kk.org/

13 April 2017

国連の移転価格マニュアルが第2版になっていた

これである。4月7日の14th Sessionでリリース。BEPS成果物に対応。具体的な改正点は,はしがきのところに出てくる。以下その部分を引用しておくと・・・
The changes in this edition of the Manual include:
  • A revised format and a rearrangement of some parts of the Manual for clarity and ease of understanding, including a reorganization into four parts as follows: 
    • Part A relates to transfer pricing in a global environment;
    • Part B contains guidance on design principles and policy considerations; this Part covers the substantive guidance on the arm’s length principle, with Chapter B.1. providing an overview, while Chapters B.2. to B.7. provide detailed discussion on the key topics. Chapter B.8. then demonstrates how some countries have established a legal framework to apply these principles;
    • Part C addresses practical implementation of a transfer pricing regime in developing countries; and
    • Part D contains country practices, similarly to Chapter 10 of the previous edition of the Manual. A new statement of Mexican country practices is included and other statements are updated;
  • A new chapter on intra-group services;
  • A new chapter on cost contribution arrangements;
  • A new chapter on the treatment of intangibles;
  • Significant updating of other chapters; and
  • An index to make the contents more easily accessible
リンク先もはっておこう。
これに先立つ会議では,4月6日付けで,Extractive industriesに関するguidance note。租税条約との関係では,12条A Fees for Technical Servicesのコメンタリーも。


23 March 2017

訳語だけの問題じゃなかった

先日このポストで,OECD/IMF Report "Tax Certainty"の日本語訳の問題を書いたが,もっと大事な理論的問題を賢者が指摘するのを見た。一言でいうと
Tax uncertaintyの何が悪いのか?
ということである。ぼくなりに問いを咀嚼してみると,不確実であるということは,結果がアップサイドとダウンサイドのいずれかにブレるということ。ならば,リスク中立的な企業にとって特に悪いことであるといえるのか?企業はいつだって,他のリスクも同様に考慮したうえで,事業を行っているのではないか?

うーん,どう答えようか。おそらく,課税当局の(それ自体は正当な)インセンティブ構造からして, アップサイドとダウンサイドが打ち消しあって期待値がゼロになるようなことはまれで,システマティックにダウンサイドが大きく出てくる。少なくとも企業側はそう認知している。その場合,不確実性は企業にとって不要なコストが増えるということしか意味しない。これが悪い,ということではなかろうか。

答え方としては,アダム・スミスのような権威を持ち出したり,現実世界のアネクドートを紹介したりすることも,もちろん考えられるのだけれど,とりあえず上のように応答してみたい。

かなり「理論に走った」問答のようだけれど,さにあらず。不確実性という言葉で語られている問題が,実際には,不正確な課税(とくに法の定める以上の過大な課税)の害悪を意味している場合がある。どっちを意味しているのか,具体的によく見きわめたほうがよさそう。

なお,アダム・スミスに頼らないといったすぐあとに引用するのは気が引けるが,『国富論』が「明確の原則」を語る箇所では,腐敗などを念頭においている。以下引用。

II. The tax which each individual is bound to pay ought to be certain, and not arbitrary. The time of payment, the manner of payment, the quantity to be paid, ought all to be clear and plain to the contributor, and to every other person. Where it is otherwise, every person subject to the tax is put more or less in the power of the tax-gathered, who can either aggravate the tax upon any obnoxious contributor, or extort, by the terror of such aggravation, some present or perquisite to himself. The uncertainty of taxation encourages the insolence and favours the corruption of an order of men who are naturally unpopular, even where they are neither insolent nor corrupt. The certainty of what each individual ought to pay is, in taxation, a matter of so great importance that a very considerable degree of inequality, it appears, I believe, from the experience of all nations, is not near so great an evil as a very small degree of uncertainty.

21 March 2017

OECD/IMF report on tax certainty

これである。BEPS行動の実施期における,時宜にかなった報告書。アンケート調査に基づき,租税政策・立法・執行・紛争処理の各面にわたってpractical toolsを提示(43頁以下)。要約は4頁だけだし,本文は60頁弱で読みやすい(一見して長くみえてしまうのは付録が長いからにすぎない)。

OECD/IMF report on tax certainty


This report explores the nature of tax uncertainty, its main sources and effects on business decisions and outlines a set of concrete and practical approaches to help policymakers and tax administrations shape a more certain tax environment. 

Published on 18 March 2017.


ABOUT
This report responds to the request from the G20 Leaders at their Summit in Hangzhou, China in September 2016 for the OECD and the IMF to work on issues of tax certainty.
The request arises against the backdrop of heightened concern about uncertainty in tax matters and its impact on cross-border trade and investment, especially in the context of international taxation. 
This report was originally published as Annex 1 to the OECD Secretary-General Report to the G20 Finance Ministers, which was issued on 17 March 2017 after the G20 Finance Ministers and Central Bank Governors meeting in Baden-Baden, Germany.
さっそく,バーデン=バーデンの20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明のパラ10で,歓迎されている。すでに仮訳がでているのは,よいことだ。ただし,tax certaintyという今回の鍵概念を「税の安定性」と訳しているのは,いかがなものか。certaintyという言葉はアダム・スミス租税原則の「明確の原則」を思わせるもので,内容からしても,「租税の確実性」とか「課税の明確性」とかいったほうが,ぴったりくるのではないか。

インボイス方式導入をめぐる経緯と課題,がアップされていた

これである。13頁のところで,
今後、インボイスの発行及び管理にかかるコストの削減を進めるためには、電子インボイスや電子帳簿の利用を促進する取組が重要になると考えられる。
と述べている。やはり電子化がキーだ。書誌情報は以下。

タイトルインボイス方式導入をめぐる経緯と課題
著者佐藤良
出版地日本
出版社国立国会図書館
出版年2017-03-23
注記インボイス方式導入をめぐる経緯と課題 第949号 国立国会図書館 インボイス方式導入をめぐる経緯と課題 調査と情報―ISSUE BRIEF― NUMBER 949(2017. 3.23.) 国立国会図書館 調査及び立法考査局財政金融課 (佐さ藤とう 良りょう) ● 我が国の消費税では、事業者の事務負担への配慮等から、仕入税額控除の方式として帳簿方式が採用されてきたが、益税の発生や転嫁の不透明性の問題があることから、長くインボイス方式の導入を...
DOI10.11501/10315727
別タイトルHistory and Issues of the Introduction of the Tax Invoice Credit Method
受理日2017-03-16T20:13:55Z
件名(キーワード)経済/税・金融・経済/国税
件名(キーワード)経済/税・金融・経済/地方税
件名(キーワード)日本
資料の種別政府刊行物
資料の種別国立国会図書館刊行物
資料の種別立法情報
掲載誌情報(ISSN形式)1349-2098
掲載誌情報(ISSNL形式)1349-2098
掲載誌情報(URI形式)http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10315726
掲載誌名調査と情報
掲載巻(949)
記録形式(IMT形式)application/pdf
言語(ISO639-2形式)jpn : 日本語


09 March 2017

イノベーション:税務の破壊者たち,を読んでみた

EY Tax insightsのこのサイトで3回連載だった。
「世界市場のスピード」
「税務当局による税のデジタル化」
「スマート税務」
というキーワードでもって,企業の税務部門が直面する大きなうねりを指し示している。

はじめのふたつはすぐにわかる。「スマート税務」は,人工知能などを利用してリアルタイムで将来を見通したもの。連載2回目には
一部の国の税務当局は、データ分析や機械学習テクノロジーにおける最近の急速な進歩を利用して、リスクプロファイルの作成、トレンド分析、潜在的な税務調査上の問題点の把握、より詳細な調査を行うための相対的にリスクの高い問題特定などを行っています。例えば、アイルランド、マレーシア、オランダ、ニュージーランド、シンガポールなどの国の行政機関は、ソーシャルネットワークの分析を行い、ネットワークに接続された個人を集めて簡単に可視化されたネットワークを構築し、彼らのリスクを採点しています。
とあり,連載3回目では
OECDの税務行政フォーラムによれば、各国の税務当局のデジタル技術は進化しているとされています。概括的な監視モデルは、より精緻な監視モデルや、過去のデータから学習してパターンを特定する監視のない機械学習技術に取って代わられつつあります。また、各国の税務行政機関は、不正確な納税申告や納税遅延などの問題を予想するための方法を統合するとともに、納税者の行動様式に影響を与えるための規範的な方法も統合しています。
といっている。税務職員が事後的に臨場調査するというモデルと,だいぶ違う。また,企業用のお話だけに,3月の個人用確定申告の年中行事とは,かなり距離がある。

でも,こういう環境になっていることの認識が,納税者の利便性向上とか,適正公平な課税の実現とかを考えるうえで,大事だろう。

Co-operative Tax Compliance: An Asia-Pacific Perspectiveがでていた

荒木知さんのこの論文である。
Co-operative Tax Compliance: An Asia-Pacific Perspective
Satoru Araki
Issue: Asia-Pacific Tax Bulletin, 2017 (Volume 23), No. 2
Published online: 8 March 2017
This article examines the co-operative compliance approach and enhancing relationships between tax administration bodies and large corporate taxpayers, adopted to increase tax collections and to efficiently monitor tax compliance. The author addresses theories underlying co-operative compliance, how it has been applied in five Asia-Pacific countries and its prospects for broader application in the Asia-Pacific region.

租税研究のこの紹介論文の延長とみることができ,豪日韓NZ星のとりくみを簡潔に比較。2014年のこの本の追加ともいえる。

18 February 2017

2019年IFAロンドン大会のbranch reporterが募集されていた

これである。夏の報告会で意見を聴く機会もあるし,真剣に読んでくれるGeneral Reporterとの対話もあって,ふつうの原稿書きよりもおトク感が強いと思う。応募がたくさん出てくるといいな。
  • 2019年度IFA年次総会ブランチ・レポーターの募集
日本支部では、広くブランチ・レポーターの適材を求める趣旨から、2015年のバーゼル(スイス)大会以後のブランチ・レポーターについて、会員の中から事務局宛に自薦・他薦を求めることとしています。
現在は、2019年9月8日~13日に開催されるロンドン大会のブランチ・レポーターについて、自薦・他薦を求めています。
1)Interest Deductibility: the implementation of BEPS Action 4
2)Investment funds
IFA日本支部事務局宛の応募締切は2017年3月末日です。ご応募をお待ちしております。


欧州議会,公開CbCRの範囲を拡大へ

この記事である。

EU Parliament recommends extensive country-by-country reporting rules for multinationals

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An EU Commission proposal to require public country-by-country reporting by multinationals operating in Europe should be extended to cover many more multinationals and to mandate much more robust public disclosure, a draft EU Parliament committee report has concluded.