X -----> A
先行して,平成17年7月31日に別の株式会社BからAが借入金債務の免除を受けたときには,所轄税務署長が,平成26年6月27日付け課個2-9ほかで削除される前の所得税基本通達36-17の適用ありとしていた(「債務免除益のうち,債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたものについては,各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しない」)。
その後,平成19年12月9日の理事会で,XがAに対し,借入金債務48億3682万1235円を免除した。所轄税務署長は,平成22年7月20日付けで,Xに対し,債務免除益がAに対する賞与に該当するとして,源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分。その取消を求めてXが出訴。
岡山地判平成25年3月27日税務訴訟資料263号順号12184は,この債務免除益には所得税基本通達36-17本文の適用があるとして,Xの請求を認容。国が控訴。
広島高裁岡山支判平成26年1月30日は,控訴棄却。その理由は,所得税法28条1項の給与等にあたらないというものであった。高裁判決の要旨は,最高裁によって次のようにまとめられている。
XのAに対する貸付金は元本の弁済のめどの立たない不良債権であったところ,平成17年債務免除益に本件旧通達の適用があるとの判断が所轄税務署長により示された後にAの資産の増加がなかった状況の下で本件債務免除がされたことからすると,本件債務免除の主たる理由はAの資力の喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであると認めるのが相当であり,AがXの役員であったことが理由であったと認めることはできない。したがって,本件債務免除益は,これを役員の役務の対価とみることは相当ではなく,所得税法28条1項にいう給与等に該当するということはできないから,本件債務免除益についてXに源泉徴収義務はないというべきである。国が上告。最高裁は原審を破棄し,事件を差し戻した。まず,次のように述べて,所得税法28条1項にいう給与に該当するという。
所得税法28条1項にいう給与所得は,自己の計算又は危険において独立して行われる業務等から生ずるものではなく,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいうものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁,最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。そして,同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは,上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される。
前記事実関係によれば,Aは,Xから長年にわたり多額の金員を繰り返し借り入れ,これを有価証券の取引に充てるなどしていたところ,XがAに対してこのように多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは,同人がXの理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であり,XがAの申入れを受けて本件債務免除に応ずるに当たっては,Xに対するAの理事長及び専務理事としての貢献についての評価が考慮されたことがうかがわれる。これらの事情に鑑みると,本件債務免除益は,Aが自己の計算又は危険において独立して行った業務等により生じたものではなく,同人がXに対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として,Xから功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。
したがって,本件債務免除益は,所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当するものというべきである。
そして,次のように述べて,事件を差し戻した。
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなど本件債務免除益を同人の給与所得における収入金額に算入しないものとすべき事情が認められるなど,本件各処分が取り消されるべきものであるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
地裁で争われていた争点が,再度審理されることになる。その後,平成26年度税制改正で,所得税法44条の2が立法化され,債務免除益に関するくだんの所得税基本通達36-17は削除されている。この最高裁判決は債務免除益の収入金額算入については判断を下しておらず,あくまで給与所得該当性を述べているにとどまるが,果たして民集に載るだろうか?
役務の対価にあたるとした最高裁の判示部分は、①繰り返し貸付を受けたことと、②債務免除を受けたこととについて、理事長または専務理事としての地位や貢献が考慮されていた、としている。
ReplyDeleteここで判旨が、「これらの事情」に鑑みて結論を導いていることからすると、①と②の両方の事情をあわせたところで対価性を肯定し、賞与または賞与の性質を有する給与にあたると判断した例と読むのが適切であろう。