13 October 2011

OECDのモデル租税条約5条(PEの定義)

ここからダウンロードできる文書で,25の具体的論点について検討している。

14 September 2011

09 September 2011

米国上院財政委員会で国際課税の公聴会

2011年9月8日の公聴会の様子をここで見ることができる。

03 September 2011

最判平成22・4・13民集64・3・791(再論)

公共支出と租税優遇措置の統合的観察という視点からいったん離れ,判旨の一般論とあてはめ部分との関係を読み解いてみると,次のようになっている。

A(一般論)「具体的に建築物を建築する意思を欠き」
→ (あてはめ)「被上告人らに具体的に建築物を建築する意思がなかった」

B(一般論)「単に本件特例の適用を受けられるようにするため形式的に都計法55条1項の本文の規定による不許可の決定を受けることを企図して建築許可の申請をしたにすぎない場合」
→(あてはめ)「被上告人らは,当初から参加人[名古屋市]に本件各土地を買い取ってもらうことを意図していたものの,本件特例の適用を受けられるようにするため,形式的に建築許可申請等の手続をとったものにすぎない」

C(一般論の直前で措置法33条1項3号の3の趣旨について述べている部分)「土地の所有者が意図していた具体的な建築物の建築が事業予定地内であるがために許可されないことによりその土地の利用に著しい支障を来すこととなる場合に,いわばその代償としてなされる当該土地の買取りについては,強制的な収用等の場合と同様に,これに伴い生じた譲渡所得につき課税の特例を認めるのが相当であると考えられたことによるもの」
→(あてはめ)「被上告人らには,その意図していた具体的な建築物の建築が許可されないことにより当該土地の利用に著しい支障を来すこととなるという実態も存しない」

このように,判旨は,あてはめのところでABCを併記し,そこから,「したがって,本件対価について本件特例の適用はない」という結論を導き出している。ABだけで結論が出せたはずなのに,Cもあわせているのは,なぜなのか。Cにいう「実態」がなかった事案に,射程が限られると読むべきであろうか。

26 August 2011

パタゴニア

なんと過酷な――しかし美しい――レースの風景であることか。

2005年に旅したひとのサイトからも。

01 August 2011

Amazing Grace

William Wilberforce (1759–1833)は英国の政治家,奴隷制廃止に尽力。そのCambridge大学の同級生が,ナポレオン戦争の戦費調達のために所得税を導入した William Pitt(小ピット)である。映画Amazing Graceで出てくる歌は,これ。本田美奈子のversionはこれ。たくさんの伝記がある。

16 July 2011

東京地判平成22・3・5裁判所ホームページ(タイの関連会社が日本親会社に株式有利発行)

訴訟段階における国側の理由の追加を認めなかった事例。杉原コートは,「青色申告の場合における更正処分の取消訴訟においては,原則として,更正通知書に付記されていない理由を主張することは許されない」としたうえで,「例外的に,更正理由書の付記理由と訴訟において被告が主張する理由との間に,基本的な課税要件事実の同一性があり,原告の手続的権利に格別の支障がないと認められる場合には,理由の差し替えを許容することができる」と述べる。本件では,更正通知書ではP2社株とP3社株について有利発行による受贈益がある旨を記載したにすぎず,P4社株の取得にかかる受贈益については記載がない。判決は,この場合に理由の差し替えを認めると,「P4社株の取得にかかる利益という課税要件事実について,不服申立段階において争う機会を失わせる」から,差し替えは許容できないとした。

親会社が引き受けた株式の時価と,払込価額(1株あたり額面の1000バーツ)との差額は,「無償による資産の譲受け」にあたるとしている。

03 July 2011

Repatriation tax holiday in the US, Bloomberg article on Cisco Systems

この記事が,2004年からみて2度目となる,米国版資金環流税制の導入論について,背景を述べる。記者は,GoogleのDouble Irish Dutch Sandwichスキームについて書いたひと。別の反対論として,これがある。

19 June 2011

大阪高判平成22・5・20(相続税で更正の請求を認めなかった例)

夫の死亡により第一次相続→妻の死亡により第二次相続→夫の兄弟グループと妻の甥(姪?)グループの間の相続争いにかかる別件京都訴訟の判決確定→甥グループによる別件大阪訴訟の提起→期限後申告→更正処分→別件大阪訴訟で和解→審査請求の取り下げ→更正の請求,という経緯。

大阪高裁は,一般論として,「相続税法55条,32条1号にいう『当該財産の分割』とは,民法906条の遺産分割を指す」と解した。そして,この一般論を本件にあてはめ,本件大阪訴訟和解は,夫および妻の「各遺産をめぐる一連の法的紛争を最終的に解決することを目的として」,兄弟グループと甥グループとの間の「権利義務関係を個別化しないでその一切を,将来に向かって不可分的かつ全体的に変更し確定させたものであった」とみて,この和解は民法906条にいう遺産分割にあたらず,したがって相続税法55条,32条1号の「当該財産の分割」にあたらない,として,更正の請求を認めなかった。

この判決は,すでに分割確定済みの権利義務関係を大阪訴訟和解で全体的に変更したというが,そうだとすれば,甥グループから兄弟グループに支払った解決金4000万円について贈与の問題が生ずるのではないか。逆に,判決の見方と異なり,大阪訴訟和解によっても遺産は未分割のままだったとすれば,これから新しく権利義務関係を個別化して相続人間で分割すれば,そこから起算して4月,更正の請求ができることになる。

14 June 2011

最判平成22・7・6判例時報2091・44(自動車税の減免要件にあたらないとされた事例)

2001年1月,Xは,乙山塾情報宣伝局長の肩書を有するAの自宅に呼ばれた上,X名義で自動車ローンを組んで自動車を購入しこれをAに貸与するよう要求されるとともに,Aから「俺は足がない。どうしてくれるんだ。次はないぞ。」と脅迫されたため,やむなくこれを承諾し,同年2月,Aの指示どおり,その指定した自動車について信販会社との間で自動車ローン契約を締結し,購入した自動車をそのままAに引き渡した。2003年1月,XはAを相手に自動車の引渡を求める訴えを提起し,同年8月に請求が認容されて確定した。だが,Aの住所地が空き家となっていたため,同年10月に執行不能により動産執行は終了した。

2007年1月,Xは,県税事務所長に対し,2005年度と2006年度の自動車税(各3万7500円)の減免を申請した。適用が争われた愛知県税条例72条は,「天災その他特別の事情」により被害を受けた者のうち,必要があると認められるものに対し,自動車税を減免することができると規定している。

最高裁は,この規定の解釈として,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」と解し,本件のXはAに対し自動車を貸与することを承諾していたから,これに該当しないと判断し,減免を認めなかった。

上の解釈を導き出すロジックは,徴収の猶予について定める地方税法15条1項1号の規定とのバランスによっている。猶予の要件ですら意思によらないことが客観的に明らかな事由を挙げているのであるから,ましてや,自動車税の減免について定める地方税法162条そして本件条例72条については「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らか」であることが必要だ,というのである。

これは,体系的解釈の手法を用いたものである。だが,よく見ると,鉄壁ではない。地方税法15条1項には,5号のように範囲を広げる余地のある規定も入っている。また,地方税法162条は地方自治の観点から条例にこまかな要件設定を委ねた,という読み方も不可能ではない。こうして,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」という解釈論を支える論証過程には,疑問の余地がある。しかも,この解釈のように意思をメルクマールにすると,横領,詐欺や錯誤など,限界事例についてかなり恣意的な線引きを強いられることになってしまう。

もっとも,事案の解決という観点からは,最高裁の結論を支える要素が事実関係の中にあるかもしれない。原審の確定した事実の中に,いろいろと不可解な点があるからである。2003年に執行不能となってから,2007年に減免を申請するまでの間,Xは何をしていただろうのか。もっとはやく,自分が自動車の所有者でないことを確定するための何らかの手続をとれなかったものだろうか。

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(以下は2011年11月5日追加)
上の点については,「ナンバープレートを返してもらえなければ廃車にできない」旨の教示を得た。それ自体が変な扱いだし,「私の名義で登録ファイルに登録してありますが実は所有者ではありません」として争えなかったのか。XがAに威迫されつづけており,そのような自助努力を期待しえなかった,といった事情があったのだろうか。いちばん知りたい点が,認定されていない。

なお,判旨は「担税力」をいう用語を2回使っている。ひとつは地方税法162条(減免)の趣旨として,いまひとつは地方税法15条(徴収の猶予)の趣旨として。これは,「所得が担税力の標識だ」というような通例の租税政策論上の用法とは異なる。最高裁は,租税徴収との関係でその人に資力がない,ということをいいたかったのだろう。

07 June 2011

大阪高判平成21・4・22裁判所ホームページ(弁護士会法律相談センターの日当が給与所得でなく事業所得とされた事例)

京都地裁,大阪高裁ともに,給与所得とする納税者の主張を退け,事業所得としている。高裁は,地裁の判示部分を引用しつつ,控訴審としての判断を付加している。その結果,引用部分と付加部分が整合しないとまではいわないまでも,かなりニュアンスの異なる論理が混在してしまった。

高裁の付加部分は,弁護士の法律相談業務の対価は事業所得だ→だから本件のような無料相談業務の日当も特段の事情がなければ事業所得だ,としている。この論理は,無料相談業務が弁護士業に付随する当然のプロボノ活動だと考えれば,自然である。本件の納税者は,事業所得が3000万円を超えており,問題とされた日当が15万円だった。

この論理を採用すると,給与所得を得る勤務弁護士(アソシエート)が同じように無料相談業務の日当を受けとった場合,「事業に付随するから事業所得である」とはいいにくくなる。勤務弁護士については給与所得と処理してはどうか。やや便宜的かもしれないが。

なお,この事件では争われなかったが,雑所得にあたる可能性はないか。

25 May 2011

米国下院歳入委員会でterritorial systemをめぐる公聴会

米国下院歳入委員会でterritorial systemをめぐる公聴会が開かれた。JCTによるbackground documentはこれ。当日のwritten testimonyはここから見ることができ,日本法についてGary Thomas弁護士がtestimonyを行っている。なお,別の資料だが,repatriation holiday改正案の歳入見積もりについては,これがある。

以下引用*********
Camp Announces Hearing on How Other Countries Have Used Tax Reform to Help Their Companies Compete in the Global Market and Create Jobs

1100 Longworth at 2:00 PM
May 24, 2011
Focus Of The Hearing:
The hearing will examine international tax rules in various countries with an eye toward identifying best practices that might be applied to international tax reform in the United States. The hearing will explore policy choices that maximize competitiveness and job creation while also appropriately protecting the U.S. tax base.

21 May 2011

最判平成22・6・3民集64巻4号1010頁(城北冷蔵株式会社事件,国賠請求の可否)

名古屋市が,X社の有する固定資産が冷凍倉庫であるのに,一般用倉庫として過大に評価していた。平成14年度から17年度については減額更正して還付したが,昭和62年度から平成13年度までについては還付しなかった。そこで,固定資産税の過納金と弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案。最高裁は,職務上の法的義務に違背して価格を過大に決定したときは,審査申出・取消訴訟を経るまでもなく,国賠請求を行い得ると判示した。法的義務に違背しているか,損害額はいくらかなどを審理させるため,事件を原審に差し戻している。

理由付けの中で,固定資産評価委員会に対する審査申出に争訟ルートを限定しているのは,登録された価格自体の修正に関するものであって,職務上の法的義務に違背してされた場合の国賠請求を否定する根拠にならないとしている。しかし,両者の間で損害の範囲に重なる部分があることは確かであり,納税者としては,価格を修正したのと同様の結果を得る可能性がでてきた。職務上の法的義務に違背しることを主張立証できれば,昭和62年度から平成13年度までについても,争えるのである。

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(2012.05.20追加)
上告受理申立理由書によると,多くの市町村では,「過徴収金返還要綱」なる要綱が制定され,5年の時効期間を超える分について過徴収金が返還されているという。では,このやり方で返還した市町村に対して,別途,国家賠償請求訴訟が提起された場合,どうなるのだろうか。本最高裁判決は,国賠請求を行い得るとして訴えの入り口こそ開けているが,法的義務の違背に関する具体的な基準や,損害額認定のやり方については,語っていない。すでに過徴収金が返還済の場合には,国賠訴訟における損害の認定の上で調整がなされるとみるのが穏当であろう。

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(2013.02.02追加)
渕圭吾「本件評釈」法学協会雑誌130・1・267は,行政争訟による救済が予定されている事項に関して不法行為に基づく損害賠償請求が予定されているのは,国家賠償法に対して一般法の関係に立つ民法において請求権競合説が採られているからである,と論ずる。

15 May 2011

Kazuo Ishiguro, Never Let Me Go

からよむのがいいか,映画からみるのがいいか,それが問題だ。でも,本→映画とすすんだら,もういちど本を読みたくなる。

Kathy:  We all complete. Maybe none of us really understand what we've lived through, or feel we've had enough time.


Ruth役のKeila Knightleyのインタビューは,これ。Judy Bridgewaterのうたは,これ

07 May 2011

ポンディシェリのまちづくり

ポンディシェリは南インド東海岸の元フランス植民地。地図はこれ。2006年のシンポジウムがこれ。新しく載ったエッセイとインタビューがこれ。Tsunamikaのサイトはこれ

27 April 2011

SGI, Case C-311/03 (EC Court of Justice, 21 January 2010)

SGIはベルギー拠点の多国籍企業。ベルギーが移転価格課税をしたところ,これがEU条約の「開業の自由(freedom of establishment)」を定める規定などに違反するかどうかが問題とされた。

ECJは,国際取引のみを適用範囲とする移転価格税制が開業の自由に対する制限(restriction)にあたるとしたうえで,これを凌駕する公益上の正当化事由(overriding reasons in the public interest)があると判示した。課税権のバランスのとれた配分と,租税回避への対処,をあわせてみると,ベルギーの当該立法が比例原則に違反するほどのものではないとしたのである。

移転価格税制の適用範囲を国際取引にとどめるか,国内取引に及ぼすか。原則としてベルギー政府が決めてよいということだ。ただし,すでにスペインのように,適用範囲を国内取引に及ぼす税制改正をした国もある。