28 December 2021

European Commission: Unshell, Pillar Two, and EU own resources

2021年12月22日に欧州委員会が出した3つについて、リンク先をまとめておく。

1)貝殻会社の不正使用を抑止する方策、いわゆるUnshell。課税当局がshell companiesをみつけやすくする。3つの入口要件(gateways)でshell companyだと判定されたら、条約の恩典を得られなくなる。情報交換のために行政共助指令(DAC)を改正。

2)デジタル課税の柱2を迅速に実施するための指令案。指令案の法文テクストはこれOECDの柱2と整合的だが、違いとして、EU指令案では純粋国内グループにも適用がある

3)EUの次世代固有財源として、排出権取引(ETC)、国境炭素税、そして、柱1で加盟国に配分される超過利益の15%。



21 December 2021

ゼミ終了

9月末から続けてきた法学部・法科大学院合併のゼミ「税制と分配的正義(8)」が無事に終了した。問題意識を共有することや、資料作成上の倫理の徹底については、主催者としてそれなりに工夫したけれど、進行や内容はすべて学生のみなさんにゆだねた。そもそもどんな本を会読するかも、参加者の意見で決めてもらった。ここまでゼミ担当教員が黙っていると、みなさんがしっかり考えてくれて、結局、この3冊をこの順番で会読することになった。

それぞれに読み応えのある本で、準備のためにかなり時間をかけたけれど、ずっしり重かった。消化不良のところも多々あったと思う。けれども、課外でずいぶんグループごとに相談したり協力したりしてくれていて、ほとんどの人たちが初対面だったのに、急速にお互いのことがわかるようになった。ずっとオンラインだったにもかかわらず、ブレイクアウトセッションをしたり、slackでやりとりをしたり、ずいぶん濃密に議論できた。

個人的にも、everyday libertarianの心根を以前よりも理解できるようになったとか、r>gは本当にくつがえせないのだろうかとか、COSTに対する反感は木庭先生のおっしゃる占有で保障すればいいかなとか、けっこうCalabresiはえらかったとか、いろいろ思うところがあった。熱心な参加者に深く感謝したい。

ゼミが終了した時点でさらにあれこれ議論しながら会読したい本が増えるのは、いいことだ。まず、PikettyのCapital and Ideology (2020)は、これもまた長大な本だけど、有志でそのIntroductionくらいはわいわいと読んでみたい。ほかにも、MilanovicのCapitalism, Alone (2019)とか、PistorのThe Code of Capitalとか、LPE系統の論文群とか。こうしてみると、ぜんぜん時間が足りないなあ。

Pillar Two GloBE Model Rules

2021年12月20日付けで、経済のデジタルに関する柱2(Pillar Two)のGloBEモデルルールがリリースされた。11月末には出てくると思っていたのが12月にずれこみ、クリスマスプレゼントみたいになった。70頁の文書だが、概要は以下の短い文書でもつかめる。

BACKGROUND MATERIAL

 

PRESS RELEASE

12月16-17日には税務長官会議も開催され、デジタル化に関する文書がふたつ公表されている。 

他方で、米国議会でBBBの雲行きが怪しくなっている。EU指令案の動きも要注目

この機会に、OECDリンクをコピペして一覧にしておこう。

12 December 2021

COSTと神殿

大学のゼミで、あるグループがPosner and Weyl, Radical Markets (2018)第1章のCOST (Common-Ownership Self-Assessed Tax)について報告した。いつものように議論の時間になったが、ある参加者がかなり強い反応を示した。正確な引用ではないが、ぼくの言葉でざっくりいうと、「自分の家がいつでもオークションにかけられる世の中なんていやだ!」という趣旨だった。

これに対しては、

  • もし高い選好があるのならそれだけ高い値段を自己申告したら(=その分COSTを納税したら)いいんだから、そんなに簡単に誰かに取られるわけじゃないよ
  • 取られるというのはミスリーディングで、その人だってオークションの対価としてフルの値段の金銭は受け取るわけでしょ
  • もっと高く評価する人の手に渡った方が、世の中全体でみるといいじゃない
などといった趣旨を含む別の人たちの発言もあった(これもぼくの言葉でざっくりと)。でも結局、議論は平行線で終わった(と思う)。ぼくも、自分がはじめて帰属所得の話をきいたときに、持家と借家をフラットに対比して、持家を居住サービスの束とみる見方そのものにショックを受けたことなど、発言したかったのだが、議論の熱さに押されて何もいえなかった。

その後すこし考えてみると、このお話、なんだか、もうかれこれ50年前から持ち越されているような気がする。Calabresi and Melamed (1972)のいわゆる「神殿(one view of the cathedral)」論文は、property rule, liability rule, inalieabilityという枠組みを提出し、それらの使い分けについて論じた古典だけど、そこで論じてることの一部がゼミの議論で再現されたように思えるからだ。オークションにかけることで、取引コストを小さくする。価格を自己申告させることで、価格評価の難しさを回避する。そうなると収用とか不法行為とか同じliability ruleで大丈夫だよね、というノリの提案。そして、そういうルールをデフォルトにするラディカルさへの反発。うまくいえないけれど、そういう構図になっていたのではないか。

「神殿」論文にもメリット財や分配的正義の話が顔を出していて、その後粘り強く、積み残された課題への取り組みも継続されてきた(吉田邦彦先生のこの訳業)。Posner and Weyl (2017)にも神殿論文への言及はある(58頁)。面白いので、もうすこしたどってみたい。

30 November 2021

IFA 2021 Virtual Event: Asia-Pacific Panel

IFA 2021 Virtual EventのAsia-PacificのPANELは、今日の日本時間19時から。以下に誰が何を論ずるかをかんたんに予習しておこう。まだ登録可能なようだし、見逃し配信もある。スライドもかなり意欲的。

The Global Tax Agreement: the Two-Pillar Solution

Asia Pacific | Tuesday, 30 November 2021 | 11.00 – 13.00 (CET)

Introduction: Miranda Stewart (Vice Chair PSC) 

Chair: Mukesh Butani (India) 

Panel members: Huey Min Chia-Tern (Singapore), Takeshi Fujitani (Japan), Sunita Juma (UAE), Na Li (China PRC), Rasmi Ranjan Das (India), Niv Tadmore (Australia)

Secretary: Seema Kejriwal (India)

【概要】アジア太平洋地域における現在の考え方を概観する。2つの柱に関する現状、2つの柱の実装に関する潜在的な懸念、アジア太平洋地域のデジタルビジネスの見通し。

【進行】

1.現状に関するプレゼン。BEPS包摂的枠組みの2021年7月と10月の声明の間に何が変わったか。合意に参加していない国々の潜在的な影響。スコープ・ネクサス・配分割合、およびそれらのアジア太平洋地域への影響。UTPRからの除外案、UTPRとGloBEからのカーブアウト。 DSTの廃止と選択的な拘束的紛争解決メカニズム。 

2.国別報告。オーストラリア、中国、インド、日本、シンガポール、アラブ首長国連邦から。

3.パネル・ディスカッション。未解決の問題について議論(利益Aの上限、利益B、第1の柱の救済事業体、ベースラインのマーケティング・流通活動の範囲など)。第1の柱と第2の柱に固有の実務的問題や、より広い政策レベルの問題について議論(政治的合意の拘束力、正式な離脱メカニズムの必要性、政治的合意と批准の間のタイムラグ、DTAA・MLI・柱1MLC・柱2MLIに照らした将来の租税条約の解釈など)。 

4.デジタルサービス税(DST)の禁止はどこまで効果的か。DST類似税とか、投資インセンティブとか。

28 November 2021

ビジネス会話表現集

The Economistに、ビジネス会話表現集が出ていた。英国流のユーモアが効いていて、黒バージョンというべきか。思わず笑えるので、一部を紹介しておこう。それにしても、英語はムズカシイ。

"I hear you”
表面的な意味:あなたは正当な主張をしています
実際の意味:静かにして

“Let’s discuss this offline”
表面的な意味:他の人の貴重な時間を無駄にすべきではありません
実際の意味:これについてはもう話さないで

“Do you have five minutes?”
表面的な意味:些細な件でちょっとお話ししたい
実際の意味:あなたはたいへんな問題に直面しています

“It’s a legacy tech stack”
表面的な意味:それは古くさくて互換性のないシステムのネズミの巣です
実際の意味:これは私たちのせいではありません

“We are a platform business”
表面的な意味:わが社は他の人が相互作用できるエコシステムを提供します
実際の意味:わが社がテクノロジー企業であるふりをして、評価がどうなるかを見てみましょう

02 November 2021

G20 ROME LEADERS’ DECLARATION

10月30日と31日にG20ローマ・サミットが開催された。このG20ローマ首脳宣言の日本語仮訳が外務省のこのページにでていた。その中から、国際課税に関するパラグラフ32を引用しておこう。

32 国際課税 10 月 8 日に OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」が公表した「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する二つの柱の解決策に関する声明」及び「詳細な実施計画」に示された最終的な政治的合意は、より安定的で公正な国際課税制度を確立する歴史的な成果である。我々は、OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」に対して、2023 年に新たな課税ルールがグローバルなレベルで発効することを確保するため、「詳細な実施計画」で合意された通りに、モデル規定と多国間協定を迅速に策定することを求める。我々は、途上国が OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」への参加を通じて得られた進捗と、国内資金動員の取組を更に支援する可能性のある分野を明らかにする、途上国と OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」に関する OECD の報告書に留意する。

全体の概要はこれ。OECD事務総長のG20首脳へのtax reportはここで読める。

なお、去る10月7日の国際合意については、OECD東京センターによるこの記事がある。記事の表題に「租税条約を締結」とあるが、これは法的には不正確であり、今回の合意をふまえた租税条約の締結自体は今後の課題である。



31 October 2021

バイデン政権の租税政策に関するリンクをコピペ

米国バイデン政権の経済対策については日本でもよく報じられているが、Paul Caron TaxProfBlogに租税政策に関するかなりの記事のリンクが張ってあったので、コピペする。

23 October 2021

IFA日本支部主催IFA APAC ウェブ・セミナー

プログラムの詳細がここにアップされていたので、コピペしておこう。flyerはこれ。参加申し込みはここから

  • IFA日本支部主催 IFA APAC ウェブ・セミナーのご案内

IFA日本支部主催IFA APAC ウェブ・セミナー のコメンテーターとパネリストが決定しましたので、お知らせします。

【開催日時】2021年11月11日(木)及び12日(金)
      両日ともに15時~17時30分
【場所】Online(Webinar)
【テーマ】

2021年11月11日(木)
       セッション1 基調講演
             パスカル・サンタマンOECD租税センター局長

       セッション2 OECD 第1の柱:新しい課税権
              司会:本田光宏教授(筑波大学)

2021年11月12日(金)
        セッション3 OECD 第2の柱:ミニマム・タックス
             
司会:井上康一弁護士(ジョーンズ・デイ)
                          片平享介弁護士(ジョーンズ・デイ)

       セッション4 アジア太平洋地域における最近の進展
                 司会:西山由美教授(明治学院大学)

 

 【使用言語】英語のみ(日本語の通訳はありません)

本セミナーは、どなたでも無料で参加できます。
コメンテーターとパネリストの詳細につきましてはこちらをクリックしてください。

本セミナーでは、これまでの国際租税の枠組みを大きく変えようとする今日的なトピックを取り上げています。皆さまのご参加をお待ちしております。

(2021/10/22)

14 October 2021

20 か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

10月8日の包摂的枠組みにおける合意を経て、OECD事務総長からG20に報告書が提出され、10月13日の20か国財務大臣・中央銀行総裁会議で支持された。

財務省ページにおける声明の仮訳(過去のものはこれ)から関連する部分を引用する。言及されている文書は、上記の事務総長からの報告書に入っているが、個別にもリンクを張っておこう。

多国籍企業の利益の再配分と効果的なグローバル・ミニマム課税に関する 2 つの柱の重要な構成項目について、7 月に歴史的な合意を達成したことを経て、我々は、10 月 8 日にOECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」が公表した「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する二つの柱の解決策に関する声明」及び「詳細な実施計画」に示された最終的な政治的合意を支持する。この合意により、より安定的で公正な国際課税制度が確立する。我々は、OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」に対して、2023 年に新たな課税ルールがグローバルなレベルで発効することを確保するため、「詳細な実施計画」に示された通りに、また、同計画で定められた工程に沿って、モデル規定と多国間協定を迅速に策定することを求める。我々は、「新型コロナウイルス危機後における税と財政政策」に関する経済協力開発機構(OECD)の報告書を歓迎する。我々は、途上国が OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」への参加を通じて得られた進捗と、国内資金動員の取組を更に支援する可能性のある分野を明らかにする、途上国とOECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」に関する OECD の報告書に留意する。我々は、この報告書に含まれる提言をフォローアップするために実施されるイニシアティブについて、定期的に更なる議論を行うことに期待する。

日経の記事はこれ
Statement from Secretary of the Treasury Janet L. Yellen on the OECD Inclusive Framework Announcement
Statement by Commissioner Gentiloni on the G20's endorsement of the agreement on international taxation reform


10 October 2021

01 October 2021

租税法学会第50回記念総会、傍聴申込受付

このサイトで、傍聴申込受付が開始した。告知文をコピペしておこう。なお、プログラムはここから見ることができる

※非会員の方々は、傍聴者の資格で参加が可能です。10月1日より参加申込受付を開始しました。傍聴希望の方は、こちらのフォームから、注意事項をご確認のうえ、2021年10月12日(火)までに参加申込をしてください。

23 September 2021

IFA APAC Webinar

 ここの掲示をコピペしておこう。

  • IFA日本支部主催 IFA APAC ウェブ・セミナーのご案内

    IFA日本支部主催IFA APAC ウェブ・セミナー のお知らせです。
    【開催日時】2021年11月11日(木)及び12日(金) 両日ともに15時~17時30分
    【場所】Webinar(Online)
    【テーマ】
    2021年11月11日(木)
           セッション1 基調講演 パスカル・サンタマンOECD租税センター局長

           セッション2 OECD 第1の柱:新しい課税権 司会:本田光宏教授(筑波大学)

    2021年11月12日(金)
           セッション3 OECD 第2の柱:ミニマム・タックス 司会:井上康一弁護士(ジョーンズ・デイ)

           セッション4 アジア太平洋地域における最近の進展 

     

     司会:西山由美教授(明治学院大学)

 【使用言語】英語のみ(日本語の通訳はありません)

本セミナーは、どなたでも無料で参加できます。
セミナーのリーフレットはこちらをクリックしてください。セミナーの詳細につきましては、近日中にご案内いたします。

本セミナーでは、これまでの国際租税の枠組みを大きく変えようとする今日的なトピックを取り上げています。皆さまのご参加をお待ちしております。
                                                                                                  (2021/9/22)

02 September 2021

Essays in Honor of H. David Rosenbloom

Georg Kofler, Ruth Mason, Alexander Rust ed., Thinker, Teacher, Traveler: Reimagining International Tax(2021)が刊行された。Rosenbloom先生80歳のお祝いに献呈するまでは門外不出、秘密のプロジェクトだった。世界中からの参加者が機密保持に全面的に協力。そして、サプライズの献呈会が、ズームで9月1日に執り行われた。こうしていよいよ秘密解除ということになったので、リンクを張っておく次第。

目次はここで、52編の寄稿が並んでいる。まさにFestscrift。Chapter 18のThomas Horst, Then and Nowを読むと、1970年代にSurrey先生の門下が米国財務省に集った時代のことが、あたかも昨日のことのように書かれている。ぼくも日本のHNWI課税について書かせてもらった(Chapter 27)。





25 August 2021

IBFDのBulletin75周年

Bulletin for International Taxation - 75th Jubileeのサイトで、1946年からの軌跡をたどることができる。創刊号は10のカテゴリーの情報を念頭においていた。

▼Hattinghさんの整理によると

  • 第1期 1946年から1950年代 基礎固めの時期
  • 第2期 1960年代 多国間主義の声が強まる、Muiderpoortへ移転
とのこと。1970年代以降の展開は、追ってサイトにアップされるだろう。

ここから登録すれば、誰でも昔の記事を読むことができる(ためしに登録してみたら1日で返事がきてダウンロードできた)。誌名が変わっただけでなく、いろいろとモデルチェンジして、時代に合わせて進化してきたことがわかる。

▼Hammerさんは、インタビューで次のように述べている。

  • Established in 1946, the Bulletin is dedicated to the study and dissemination of knowledge about international and comparative taxation from a multi-disciplinary perspective. It examines global tax policy changes and legal and related developments to provide professional and academic readers with the necessary background and perspective to face the challenges of the contemporary tax landscape.
  • Authors are mainly drawn from the worldwide community of tax academics in law and economics, policymakers and professionals. A special effort is made to enable young authors to publish their work.


18 August 2021

インドの間接譲渡遡及課税立法廃止

1.インドでは、最高裁のVodafone事件に関する判断を覆す形で、2012年の遡及立法で間接譲渡への課税をしていたところ、今回、遡及課税をやめる旨の法律改正。このニュースは、専門雑誌で話題を呼んだだけでなく、すでに多くのオープン・ソースでカバーされている。ちょっと検索するだけでも、たとえば、これとか、これとか、これとか。

2.そして、8月14日号のThe Economist誌に、Bygones are bygones: India consigns its tax time-machine to the pastという記事が載った。そこには、

  • 野党時代のBJPが遡及立法を批判していたこと
  • Cairn Energyが英印投資協定に基づく昨年の仲裁判断を受けて仏裁判所でインド政府の在パリ資産の凍結を勝ち取っていたこと
  • Vodafoneが蘭印投資協定上の仲裁判断を得ていたこと
などの経緯が簡潔に書かれている。それに続く分析が味わい深く、

  • 課税に関する紛争を国際法廷に委ねることに、インド政府が継続して不信感を抱いてきた
と記す。インドとしては、投資家が現地国を訴えることのできるタイプの条約はご免こうむりたい、というのである。こうして、2017年に英印投資協定が廃止、2016年に蘭印投資協定が廃止。そうなると、インドに投資する企業としては、紛争に直面したとき、インド国内の長期にわたる司法手続に訴えるしかなくなる。この記事は最後に、紛争処理に関するインドのアプローチは、インドがTPPやRCEPに加入しなかった主な理由ではないものの、将来のブロック加入への障害になるだろうと警鐘を鳴らす。(なお、Tax Notes Int'l, Vol.102, May 10, 2021, 813によると、日本の三井も、間接譲渡の課税を受けて仲裁を求めると報じられていたから、この話は日本企業にとっても「わがこと」の問題である。)

3.これに対し、8月18日の日経「インドに国際仲裁尊重の兆し Amazonに干天の慈雨」は、インドのスタンスが変わってくる兆しを報ずる。アマゾン・ドット・コムとフューチャー・グループの紛争につき、最高裁が、シンガポール国際仲裁センターが出した判断をインド国内で有効としたからである。

日経のこの記事の最後の段落は、積年の植民地支配によるトラウマに言及している。根が深い問題である。そういえば、Katharina PistorのThe Code of Capitalも、企業が現地国を訴える投資協定に批判的なまなざしだった。

4.従来から、租税条約については、課税当局間の相互協議を促進するためのソフトなつくりの仲裁条項が増えてきていたが、インド政府はこれに消極的であった。だから、日印租税条約にも、仲裁条項は入っていない。これは、現下の国際交渉でも重要なポイントである。というのも、デジタル課税の柱1をめぐっては、7月の声明で、

In-scope MNEs will benefit from dispute prevention and resolution mechanisms, which will avoid double taxation for Amount A, including all issues related to Amount A (e.g. transfer pricing and business profits disputes), in a mandatory and binding manner. 

とされており、義務的かつ拘束的な紛争処理メカニズムを志向しているからである。はたしてインドは歩み寄れるか。

13 August 2021

租税法学会第50回記念総会プログラム

くわしくは、ここにアップされている。オブザーバーの参加申込受付は10月1日からここで開始し、詳細は追って掲示するとのこと。プログラム概要をコピペしておこう。

《第1日目》

2021年10月16日(土)午後2時~午後5時

(1)記念講演「弁護士の専門化と最高裁」宮崎裕子(弁護士・前最高裁判事)

(2)記念報告「国際課税の地殻変動」渕圭吾(神戸大学)

(3)第1回租税法学会賞授与式

(4)租税法学会賞受賞記念報告

報告1「課税の契機としての財産移転」住永佳奈(京都大学)

報告2「租税回避と法―GAARの限界と解釈統制」本部勝大(立命館大学)

《第2日目》

10月17日(日)午前9時30分~午後3時30分

(1)議事総会(午前9時30分~10時)※会員のみ

会務報告、会計報告、その他

(2)研究総会(午前10時~12時)

「租税法の過去・現在・未来」① 3つの分科会

(3)議事総会(午後1時15分~20分)※会員のみ

(4)研究総会(午後1時30分~3時30分)

「租税法の過去・現在・未来」② 3つの分科会

06 August 2021

有害税制への対抗、アップデート

BEPS行動5で、有害税制フォーラム(FHTP:Forum on Harmful Tax Practices)によるピアレビューが継続している。その最新アップデートが、2021年8月5日に公表された。各国の具体的な措置が書かれているので、コピペしておこう。赤字や下線は増井による。

  • At its April 2021 meeting, the Forum on Harmful Tax Practices (FHTP) took new conclusions on 25 regimes as part of the implementation of the BEPS Action 5 minimum standard.
  • Based on an earlier government commitment, the Australian Offshore banking regime has now been abolished, with grandfathering provided to existing taxpayers within the FHTP’s timelines.
  • In addition, the Philippines will abolish its Regional operating headquarters regime as of 1 January 2022 (without grandfathering) and is "potentially harmful but not actually harmful" for the time being.
  • The United States has also confirmed its intention to abolish the Foreign derived intangible income (FDII) regime, which has therefore been classified as "in the process of being eliminated".
  • Government commitments were also made for six other regimes that are now "in the process of being amended/eliminated" (Dominican Republic, Gabon, Sint Maarten and Jordan).
  • As Trinidad and Tobago was not able to fulfil its commitment to abolish its Special economic zone regime within the agreed timelines, it is now considered "harmful".
  • Two newly introduced regimes were concluded as "not harmful" (Hong Kong (China) and Georgia).
  • Finally, the FHTP reviewed 12 regimes for the first time and these are now "under review" (Armenia, Eswatini, Honduras, Lithuania and Pakistan).
下線部からわかるように、米国がFDIIを廃止する意思を確認している。最後の行のEswatiniは、南アフリカの王国で、旧国名はスワジランド。より詳しくは、一覧表がここにある。

このピアレビューは、各国が作った税制を名指しして有害と判定する。いきおい、政治的に神経を使うところが多いだろう。公表されたものには結論だけが書かれており、内部における議論の詳細は外部からはよくわからない。

その中で、文脈を含め解説してくれている貴重な記録として、吉村浩一郎弁護士による下記のものがある。
同弁護士は、2015年4月から2017年10月までの間、OECD租税委員会の事務局の一員として有害税制フォーラムの運営に携わっていた。公開情報のみに基づく解説であっても、内部の事情を知っている人の解説なので、とおりいっぺんのサマリーとは質が違う。

上記の記録は、専門家の間でもあまり知られていない媒体である。しかし、こうして記録に残っていることで、あとになって活きることが多いのではないか。現下の文脈に即していえば、まさにpillar 2につながる話である。

04 August 2021

移転価格Country Profilesがアップデート

 8月3日付のこのページ。リンクをコピペしておく。日本のcountry profileは、金融取引とAOAのところが新しい。

COUNTRY PROFILES

Last updated: 3 August 2021

These country profiles focus on countries' domestic legislation regarding key transfer pricing principles, including the arm's length principle, transfer pricing methods, comparability analysis, intangible property, intra-group services, cost contribution agreements, transfer pricing documentation, administrative approaches to avoiding and resolving disputes, safe harbours and other implementation measures. The information contained in these profiles is intended to clearly reflect the current state of countries' legislation and to indicate to what extent their rules follow the OECD Transfer Pricing Guidelines.