16 July 2021

柱2に対する中国の反応には、どんな背景が?

TNIにでていたWei Cui, What Does China Want From International Tax Reform?によると、中国政府の利害関係は次のようになっているらしい。

【あらあらの論旨】

まず前提として、

  • 2008年以降、法人所得税が頑健な税収源であり、今後もそうである。
そのうえで、居住地ベース課税についても、源泉地ベース課税についても、おおきな方針の転換が進んできたという。
  • 全世界課税からの退却。2007年の企業所得税が居住地ベース課税を強化したが、その直後の2009年に日英がテリトリアル方式に移行した。この動向に反応して、実際上、中国企業の対外活動に適用される規定は厳格には執行されない方向になった。例として、管理支配地主義、CFCルール、外国税額控除の国別限度額、海南自由貿易港
  • 中国ビジネスを魅力的にする。2008年からの数年間、SATは外国企業の租税回避つぶしのアナウンスを出した(Beneficial Ownershipとか、間接譲渡とか、LSAとか)。しかし2013年以降、これらは外資誘致政策に反するようになる。そこでSATは外資にやさしいアプローチへと転換した。例として、2015年に条約適用申請手続の簡易化、2019年にBeneficial Ownershipルールを緩和、2015年にSATの課税強化アナウンスをドロップ。ただし租税競争に乗り出したのではなく、法人所得税率は25%。
  • ここで、香港の意味が大きい。①中国本土にとって、可動性ある資本への低税率を可能にする。②国際金融ハブとしての香港の地位を利用する。
こういう背景から推論して、次のような見立てを提示している。
  • 柱2のIIRについて、有志連合に率先して入ることはない。なぜなら強力な居住地ベース課税をとらないから。UTPRについても同様。
  • 香港の金融ハブとしての地位を守り、アイルランドやシンガポールより不利にならないようにしたい。
  • DSTをドロップしなければならない立場でもなく、柱1はあまり問題ではない。
  • 全体的には、a good multilateralistとして振る舞う機会になる。
というのである。

【コメント】

雑駁な感想をいくつか。

  • 日本では、2008年以降数年間に出された中国当局のアクションがよく知られている。しかしこの論文によると、環境が大きく変化した。居住地ベース課税からの退却とか、外資誘致路線への切り換えとか。どこまで変化しているか。要検討。
  • 中国にとっての香港の意味。本土で実施できない低税率をグリップのきく香港で享受する。グローバル金融ハブとして利用する。この権益を守る。これが柱2への対応の基本線になるというのは、plausible。
  • 米国の読者に向けて書いてある。中国は米国と似た立場にあるという指摘がはじめにいくつか出てくるが、個人所得税の比重とか、ちょっと事実に合わないような点もあるのでは?また、技術覇権をめぐる米中対立からすると、柱1への中国の対応もそれなりに気になるが、ここはあっさりした扱い。

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